【カオ転三次】DRUG FATE 作:石は転がる
それは何度目かの異界討伐の後の事。
日が沈み闇に飲まれた山々は文明の気配がなければ途端に異界と変わらない脅威となす。
その日は討伐の後資料を漁る必要もあって現場の村で一晩過ごすことにした日だった。
そこは村全体が食い荒らされた現場だった。
村の民家はどこも血に染まり、こじ開けられた家屋は隙間風の吹き込む欠陥住宅となっていた。
その中の一軒、人が出かけていたためか被害にあわずに済んだ民家に私は夜を過ごすために訪れていた。
夜を過ごすと言っても布団を引いて寝るわけではない。異界を討伐したばかりなので野良悪魔が居る可能性を否定できないからだ。そのため装備を着込んだまま適当に座って朝まで過ごすのが私の夜の過ごし方だった。
民家の和室。外の様子が分かるように広くひらけた襖の向こう側に見える光景は暗い。
人が居なければ闇というものは均しく世界を包むものだ。
光も灯さずぼうっと外を眺めていると周囲を確認してきたA2が闇から浮かび上がった。縁側から靴も脱がずに立ち入るのは警戒しているからだが、その光景が一層この村が終わったことを思い至らせて物悲しくなる。
「9S、見回ってきたが特に異常はない。」
「わかりました。A2も休んでいてください。」
傍らの2Bも座って休んでいて、次に警戒に出るのは2Bだ。見回り直後なので、しばらくしてから警戒に出せばいい。
「ん。そうか。」
2Bとは逆の腕側に座ったA2が眼も閉じずにじっとこちらを見てくる。そのことに気が付きながらも気にせず外を見る。
しばらく無言で時間が過ぎていく。
外は何も見えない。真っ暗な景色は、一体何が私の目に入り込んでいるのだろうか。
「ん、そうだな。――ふん!」
「A2?」
そんな私を見て何を思いついたのだろうか。突然独り言をこぼしてから思いっきり引き寄せられた。
スポンと倒れるように収まったのはA2の膝の上。
「少し寝ろ。疲れているだろう。」
「ん?」
髪を掻き毟るように撫でられながら押さえつけられ、言われた言葉に疑問を返す。近頃思考が見え始めたとはいえ、この行動は初めての物だ。
「A2、離してくれ。大丈夫だ。」
「いいから寝ろ。」
「A2。」
「いいから寝ろ。」
「疲れてないから。」
「いいから寝ろ。」
何を言っても同じ言葉を繰り返すのはバグってるんじゃないかと疑う。それでも頭を抑える力は強くはないし、いざとなれば命令をすれば離すだろう。
溜息一つ。
大人しく膝の上からA2を眺めると暗闇の中でも白銀の髪はほんのりと光って見えた。ぼうっとしていると抑える力が弱まる。しばらくすると髪を透かすように指を絡めて撫ぜ始めた。
暗い闇の中。
私を見下ろすA2の顔だけが視界に入ってくる。
そっと撫ぜられる頭と拍子をとるように肩を叩く手の動き。
世界がそれだけになっていき、気が付いた時には私の意識は闇に包まれていた。
紙の枠でしか無いはずの太ももは、なぜか温かくて案外柔らかかったのだった。