【カオ転三次】DRUG FATE   作:石は転がる

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 実は「AC6発売までに話を書いたら気兼ねなく遊べるんじゃね?」と思い書き上げていたのですが、コーラルに浸した脳髄で投稿の為に見直していたら「これでいいのか?」となってしまい、最初から書き直しましたw
 コジマはキマるモノだけど、コーラルは頭に染み渡るモノ。それがはっきりわかんだね!

 尚、作者はボスごとに何十回と再戦していて未だクリアできていない模様 orz
 どうせ、俺は借金のカタの強化人間だよ、、、、、


 閑話休題。
 今回の話は弟子の二宮飛鳥視線での話になります。


幕間40

 ふと、眼が覚めた。

 ――はて、何時の間に寝ていたのだろうか?

 頭の中に浮かんだ疑問。

 最後の記憶は……藤原君の快方祝いと年忘れを一緒にした宴会、その途中か?

 

 暗い室内で手探りでスマホを探し、答えを探す。

 枕元、何時もの置き場にあったスマホを手に取り、待機画面を表示させる。

 23:29

 まだ日も変わっていない。パーティーで入った酒のせいだろうか。変な時間に目が覚めてしまった。

 脳裏に浮かんだのは羽目を外して酒を飲む使用人をしているナインズの皆や、一緒になって面白い酔い方をしていたヒルダとノーバディの姿。酔うと無口になって猫のように身を擦りつけるのと、ひたすら「神様、神様」と融けた目で呼びかけるのとに絡まれた藤原君は大変そうだったのを思い出した。

 

 髪をかき上げ眠気眼で周りを見渡す。

 常に綺麗にベッドメークされているダブルベッドに、落ち着いた寒色で纏められた内装。カーテンが開けたままの窓には遠く街の光が見下ろせる。

 自室だ。

 誰かが運んでくれたのだろう。サイドテーブルには置いた覚えのない未開封のペットボトルが立っていた。

 

「……ん。」

 

 有難く気遣いを頂いて口をつければ、火照った体に水が染み渡る。

 ミネラルウォーター。何の変哲もない水だ。それを美味しく感じるのは呑み過ぎただろうか。

 ……そう言えば、こんなものが外の世界では既に贅沢品になり始めているとか聞く。ここでは信じられない話だ。

 

 意外と喉が渇いていたらしい。一本丸々飲み干してしまった。

 ぼんやりとした頭が、乾きも癒えたしこのまま寝直してしまおうか、と魅力的な提案をしてくる。

 しかし、ダメだ。

 運んでくれた人も流石に着替えまではしてくれていないし、化粧とかも落としていない。寝直すにも一度準備をしないといけない。

 面倒だが、仕方がない。

 はあ、と一つ息を吐いて室内履きに足を通す。

 

 廊下に出るが、廊下は寝静まったかのように静かだ。普段だったらこの時間ならまだ誰かしらの生活音が聞こえてくるのだが、今日は真夜中のような静けさだ。

 皆はまだまだ宴を楽しんでいるのだろう。宴会を開いてるホールは別棟なので声は届いてこないので想像なのだが。

 

 ふわふわした頭のまま、廊下を照らす柔らかい常夜灯の灯りに導かれる様にふらふらと足を進めていると、ふと違和感を覚えた。

 階段から更に進んだ廊下の先、普段はシェードで隠された夜景が見える。

 誰かが閉め忘れたのだろうか。いつもは態と閉じ切っているのだが。

 

「まっ、いっか。」

 

 放っておいても誰か(メイド式神)が閉じると思うが、どうせ大した手間ではない。何となく夜景を見たくなったのもあって、ボクが閉じる事にする。

 階段を通り過ぎ、窓に近づいていく。

 

 夜景。

 窓から見える景色は終末前、平和だったころと何の変りも無い。

 ここからでは光点としか見えない街中でも、今頃はクリスマスに向けて飾られたイルミネーションが華やかに輝いているだろう。街を行く人々も多少の窮屈さはあれ、その生活が急変したという事も無いはずだ。

 それこそ救世主を崇める宗教によって世界は終わったというのに、未だに救世主の生誕を祝う祭りをするぐらいに。

 

 そんな瞬き輝く街の明かりと、それを見下ろし煌々と輝く月。

 二つの調和した光景に、多くの者は感嘆の念を抱くかもしれない。

 

 ――その光景が足元にも及ばない、素晴らしき銀の色がいなければ。

 

「おはようございます、二宮さん。」

 

「――……ぁ…ふ、藤原君?」

 

 息が、止まっていた。

 天の川を紡いで束ねたような長い髪。深く明るい夜空の様な蒼い瞳。白磁などよりも温かい月明かりのような肌は、どんな絹にも負けぬ滑らかさで妖しく光を湛えている。

 圧倒的な“美”。

 美の女神と名高い神々にあった事はあるが、彼女らとて彼には及びはしなかったと思う。

 

 喘ぐ。

 空気を求めてか、それとも彼を求めてか。

 甘い匂い。

 吸い込んだ息に混じったバラの香りに、頭がくらくらする。

 

「ど、どうして、こんなところに?」

 

 努めて冷静さを装う。

 終末を過ぎてからの彼は、気配を殺すことを止めたせいか酷く()()

 ともすれば一端の霊能者(LV30以上)*1になったボクでさえ、その姿がただ目に入っただけで魅了されかねない魔性の美しさを彼は帯びていた。

 ――文字通り『存在の格』が違う。それを、意識せずとも感じ取ってしまうのだ。

 そんな感情の動きを、知ってか知らずか藤原君はその身に纏う気配を抑える。

 それに「あっ」と声を出したくなる寂寥が胸に舞い込む。感じ取れていた温かな気配の喪失に、ボクの心が嘆いてた。

 

 それを客観的に感じながらも、ボクは心と切り離した頭を回して彼がこの場にいる不自然さを考える。

 今夜開かれていた宴。それは今年の半ばに戦果と引き換えに傷を負った彼の回復を祝う場でもあった。

 そんな主役の一人がこんなところに独り抜け出してきているのは、“協調性”と“親交”を尊ぶ彼にしてはおかしなことだった。

 

「少し、場に酔いまして。……こっそり抜けてきたので、内緒ですよ?」

 

 嘘ではないが、本当でもなさそうな韜晦。

 悪戯気に微笑む彼は、軽やかな口調に反して何か胸に重く溜まったものがありそうだった。

 

「そうか、そんな事もあるだろうさ。――それじゃ、隣、失礼するよ。」

 

 だからボクは、返事も聞かずに隣のチェアに腰を掛ける。

 そして、格好つけてフィンガースナップを一つ。パチンッと乾いて響いた音に連動し、グラスが飛んでくる。

 少々演出過多だが、特定動作との意識付けは発動の短縮の基本として教わった事だ。決して格好がいいから使い続けているわけではない、という事にしている。

 

「未成年ですからお酒は…――ああ、そうか…もう二宮さんもお酒を飲める歳になっていましたか……。」

 

 カウンターに並んでいた瓶の一つを手に取って手酌でグラスに注ぐと、藤原君が何とも言えない顔で声を漏らした。

 困った様な、寂し気な様な、それでいて……羨んでいる?

 ボクの前だからか、この場所だからか。

 落ちた目線。陰のある口調。表情を作らない彼の顔は、存在感とは裏腹に線が細く儚く見えた。

 

「それにしても、それを選ぶとはお目が高い。そのバーレイワインは去年イギリスで仕込まれたものですよ。支援の返礼に貰ったものなので、そんなに数が無いのでゆったり味わってください。」

 

 軽く首を振って気を取り直したのか、藤原君がボクが注いだものと同じ酒を自分のグラスに注ぎ、コレクション自慢の様に誇らしげに掲げる。

 グラスの底に鎮座する深い褐色の液体。その上を弾ける様な泡ではなく、ふわふわとメレンゲの様に柔らかな泡が覆い、グラスの中に精彩なコントラストを生んでいた。

 

 藤原君に目線で促され、ボクは手元のグラスに口をつけた。

 柔らかな泡の感触に唇を埋め、口に含んだ酒はとても力強い味わいだ。舌をなぞるトロリとした口当たり。口蓋から鼻に抜ける香りはドライフルーツやカラメルを感じさせる、コクのあるものだ。

 まさに、ワイン。

 喉で楽しむものではなく、味と香りを愉しむお酒である。

 

「――うん、なかなか美味しいよ。」

 

「それは良かった。度数が高めですし、独特の癖もありますからお口に合うか心配でしたので。」

 

 酔って寝てしまっていたくせにまた酒を呑むのはどうなのかと、頭の片隅で理性が言ってくるが無視。

 今は“お師匠様”を一人にするのが、何となく好くない気がするので。

 

「そう言えば、今日はタバコは吸っていなんだね。何となく、ここで呑む時は吸っているイメージがあったのだけど。」

 

「タバコはもう吸わない、ですね。

 ――世界は、『人が死ぬ』のが当たり前のものになってしまいましたから。平和の感傷に浸るのはもう辞めます。」

 

 窓の外から差し込む、眩しい位に明るい月明かり。

 その光に照らしだされて、くっきりと見えたその顔に浮かぶのはただの苦笑で、言葉の内容の重さが嘘みたいだった。

 

「感傷……かい?」

 

「ええ、感傷です。『悪魔』に震え『終末』に怯え、――だからこそ“平和”こそが()()()のだと信じ込みたかった臆病者の足掻き、ですね。」

 

 つぅっとカウンターに置かれたシガレットケースを指で撫ぜる藤原君の自嘲は、信じられない内容ではあるがボクにとって――と言うよりもこの家に住む“家族”にとって――は聞き慣れたものだ。

 

「“平和”は正しいものだろう? それとも何だい? 『世界は滅びるべきだー!』なんて中二病に今更目覚めでもしたかい?」

 

「ふふっ、流石にそれは無いですね。」

 

 冗談めかした口調でお道化てみれば、彼は失笑したように呆れてみせる。

 

「それに……『世界は滅びるべきだ』ではなく、『世界は滅びた』のですよ、もう。

 ――そう、世界は滅びました。

 人の世は終わり、混沌の時代は幕を開け。……そして、私はそれに対して何も成せなかった。」

 

 人の枠を超えたような強さを宿し、ガイア連合の支部長として、又はナインズと言う結社の長として人々を終末から犠牲無く守り切り、今も守り続けているのは彼在っての事なのに、“彼”は驚くべき程自己評価が低い。

 己の成し遂げてきたことを、それこそ『誰でも出来る事』と思っているのとはまた違う卑下の仕方。自己認識を間違えているのではなく、自身に対しての採点が辛口すぎるとでも言うべきか。

 もしかしたら、最善を求めすぎているというのが一番正いのかもしれない。

 

「……キミが何も出来なかったと言うのなら、この窓の外に広がる光は何なんだい? 今、人々が安寧と夜を過ごせているのは、キミが音頭を取って成してきたことの結果だと思うのだけど?」

 

「それこそ、“運が良かった”にすぎませんよ。私にとってはプラズマ障壁*2外は壊滅するのが既定路線でしたので。」

 

「だが、現実は“こう”だ。」

 

 窓の外を指さし、地上の明かりを指し示す。

 地上は“終末”を感じさせない『人工の光』が海に沿って光り瞬いている。

 それこそ、()()()と何も変わらずに。

 

「ボクは、ボクたちは“終末”を生き延びたんだよ、藤原君。守るべき地で、誰も欠けさせずに。“これから”も、生き続けれる様に整えて。

 ――それも、認めないと?」

 

「その言い方はずるいなぁ。」

 

 終末は、呉に生きる人々にとっては酷く穏やかにやって来て、そのまま何事も無かったかのように通り過ぎて行った。

 既に一般人への配給制は終了しているし、『新型感染症』や『海外の戦乱』などで自粛ムードだった社会活動も四苦八苦しながらも急速に“終末後”に適した新たな形に整い始めているらしい。

 組織的には下っ端のボクからすれば、終末直前などよりもむしろ今の方が活発に見える状態ですらあった。

 

 終末の世界に対して走り回るボク達(オカルト側)は、もう一般人(表側)に隠しておく必要も無くなったので普通に仕事を発注しているせいだろう。

 『城壁』の建設資材を積んだ民間トラックが都市の郊外に向かって四方八方動き回り、その資材を受け取るKMFに運転手は唖然としながら荷物を受け渡す。

 買収が済んでいた町工場は、今まで扱ったことも無い機材や資材(オカルト物品)を呉支部から送り付けられ、その習熟に汗を流している。

 お偉い大学教授なんかは一纏めに集められ、オカルトや終末についての講義漬けにされていた。

 

 終末が訪れてからの世間の様相は、まるで今まで隠れ潜んでいた鬱憤を晴らすかのように大胆で急速なものに見える。

 それは社会活動を制限されていた一般人も、社会の裏で血を流してきたオカルト関係者も、どちらも変わらずに、だ。

 ――或いは、こう言った“熱量”こそが社会が『変革』していく証なのかもしれない。

 

「……はぁ…本当に、なんでこんなに生き延びてるんでしょうね。本当ならもっともっと人が死んで、黒札周囲の人間も死んで……それで、その責任を取って支部長を辞めるはずでしたのに。」

 

「ちょっと待って。それは聞いたことないんだけど?」

 

 思わず真顔になって強い口調で問いただしてしまった。

 いけない。愚痴を吐かせる為にここに居るのに、その空気でなくしてしまう。

 頭の中でbe cool、be coolと何度も唱えて気持ちを落ち着ける。

 

「『終末の被害』と言う不確定事由によってその時の行動が変わりましたから、流石に事前に周知はしませんよ。この想定も『私が群体戦闘ユニットとして動かなくてはいけなくなる』という周辺の敵性戦力の想定もセットでしたしね。」

 

 あっけらかんと『式神数百体の主として前線に張り付いて居ないといけない』という絶望的な戦況を話されて頬が引きつる。

 彼の想定は外れる事も多々あるが、後々分析してみるとそれは『相手がそれを考えつかない間抜けであった』とか『機制を制してその行動をさせなかった』とかであって、『その想定は起こり得ない』という訳では無かったりする。

 つまりは、想定されていた状況は『もしかしたら“そうなっていた”』かもしれない訳で……。

 

「ちょっとそれは洒落にもならない状況だと思うんだけど……。えっ、もしかして、まだ他にもそういう『確率が高そうだったけど話していない想定』って、あったりする?」

 

「そりゃ“終末”なんて前代未聞の災害ですから、想定はいくらでもありましたよ。確率が高いというなら『ガイア連合の連絡網が不通になる』とか『現界の縛りが消えた“悪魔()”が結界の要であることに奢ってからの内部抗争』とかですかね?

 『うっかり魔界の深くまで落ちてしまって本霊クラスと常時殴り合い状態』とかは事故みたいなものなので、ちょっと確立を出せませんでしたし。」

 

 怖いもの見たさで聞いてみたら洒落にならない事のオンパレードで思わず白目をむきかけた。

 

「ちょっと想定に幅があり過ぎないかい?!」

 

「仕方が無いですよ、前例が無いのですから。なので、支部での想定も『準備だけはして、後は出たとこ勝負!』みたいな感じでしたよ、実際。」

 

「もうちょっと、こう、なんというか、手心を加えた想定は無いかい?」

 

「そうですね……それなら『終末時には私は破産している予定だった』なんてどうでしょう?」

 

「ちょ?!」

 

「いやー、艦艇にしても戦闘筐体(AC)にしても一体幾ら掛けたのか記憶に残したくないくらい、金額や資材を費やしていますからね。⑨グループ(所有会社)からも色々集めてきてましたし、“終末時”にはめでたくガイア連合に身売りさせる予定でした。」

 

「間違いなく景気の減退では済まない事になっていたよね、それ。どれだけ影響が出ていた事やら……。」

 

「たかが経済的困窮とそれによる餓死者ぐらいですよ。“終末”に比べたら少ない少ない。」

 

 人の死を数字でしか見ていない傍観者気取りなどではなく、死生観自体が()()()()()からの言葉。それは、実際にそうなってしまった時の様子をまじまじと思い浮かべる事が出来る想像力を持ちながらも、断固として実行できる“統治者”としての威に満ちていた。

 

「それに狙いもあったのですよ? 呉の資本をガイア連合に一本化することにより、この地の支配を盤石にしようと言う。

 ちょっと前の公共事業民営化の流れでこの地のライフラインは私が握ってましたし、それを自然な感じでガイア連合に譲渡するのにも“破産”は都合がよかったですし。」

 

「ボク達や配下のナインズからすれば堪ったものではないけどね。」

 

「それはそうですね。まあ、だから言えなかったのですけど。」

 

 現在、順調に“藤原君の配下”として勝ち組の立場を強固にしていっているナインズにしてみれば、そんな事態は想定の中でも願い下げだろう。

 

「……しかし、身代を傾ける覚悟だったんだね。半終末に入ってから随分と派手に動いているとは思っていたけど。」

 

「そりゃそうでしょう? 艦艇なんて要素研究とか抜いても一隻当たり数十か数百億掛かってたはずです。そんな物を作って採算取れるとは思っていませんよ。あれは“終末”に向けてすべて吐き出すつもりで立てた計画だったのです。

 ……まあ、何故か全体で見ると収支が黒のままになってしまったのですが。」

 

 ちょっとヤサグレてヤケ酒でも煽る様にビールを飲み干す姿は、申し訳ないがとても可愛らしいものだ。

 小皿に盛ってあった柿の種をお行儀悪くボリボリ食べるところなんて、本当に不貞腐れた子供にしか見えない。

 思わず笑いそうになってしまい、努めて真顔を保つ。

 横でうんうん相槌を打ちながら乾いたグラスにお酌して、彼には気分よく存分に愚痴を吐き出してもらおう。

 

「黒札たちのズボラさを見誤りました。必ず儲かる資源異界の経営なんて他の誰かがやってくれると思っていたのに……。

 いや、半終末になっても日本経済が冷え込んだ程度だったのが悪いのか? なんであんなに原料分野は好調だったのだろうか……。

 それとも海外支援の採算性を重視したのがいけなかった? でも、採算度外視は実行役であるナインズへの負担が大きすぎたしなぁ。

 あー、覚醒者を使った術具の大量生産もあったなぁ。意外と良い値段で海外に売れてたからこれが一端か?

 それを言うとナインズからの()()もあったな。まあ、あれは初期契約の縛りでもあるし仕方がないかなぁ……。」

 

 ぶつくさぶつくさ愚痴をこぼす姿は飲み屋でクダを巻いているおじさんと同じはずなのに、彼がすると子供が拗ねている様にしか見えない。

 こうなってしまうと、その身から溢れた神々しさも形無しだ。

 

「それに、何で終末が来たって言うのに結界が丸っと残っているんだか。あれだけ生存者が多いとガイア連合による直接統治は無理ですし。

 法律どころか憲法から構築しないといけないなんてどんな罰ゲームですか。」

 

「なら投げ出すかい?」

 

「……生き残らせた責任は、私にありますからね。まあ、定年までの半世紀ぐらいは付き合いますよ。」

 

 精一杯をやり過ぎて更に抱える物が多くなっても、何一つ見捨てない彼に笑みが浮かぶのを止められなかった。

 彼にとっては“価値”のないものだったとしても、それでも彼は助けるのだ。

 ――そうして助けられたボクと同じように、誰かを。

 

「そのための『王国』か。ふふふ、自分から『僭王』を名乗るなんて、格好がいいと思うよ?」

 

「恰好が良いって……『僭王』の名乗りは将来的な中央政府への合流とかも考えての事ですが……まあ、いいでしょう。皮肉じゃない様ですし。」

 

「難しい事を考えすぎなのさ。そこは素直に褒められておきなよ。」

 

 零れた笑みに揶揄いを込めて笑うと、藤原君は眉をしかめて鼻を鳴らす。

 彼は、来年にはただの――と言うには今でも役職がありすぎるが―― 一個人ではなくなる。

 『藤原僭王国』、呉だけでなく呉支部が統括していた地域一帯を領有する王国、その国王になるのだ!

 ……可笑しすぎて、ちょっと噴き出しそうになった。

 

 ボクの腹筋の痙攣は兎も角。

 この『藤原僭王国』は、ガイア連合にも正式に承認された“最初の王国”として年明けと同時に建国されることがすでに決まっている。

 一般人からしたら突然の建国公布に目を白黒させるかもしれないが、こちら(オカルト)側としてはこれ以外に方法が無いとも言えるものであった。

 

 理由としては色々あるが、根本は『人が生き残りすぎた』事だろうか。

 呉支部が管轄していた地域の生き残り、その数約260万人。

 その膨大な数の人間を統治するには『法』がなくてはやってられないが、これ作られていく『体制』を考えると既存の『日本国憲法』の流用・解釈は後々に問題を残す。

 それなら“次に繋ぐためだけ”の国であっても、いっそのこと0から全てを構築した方がまだマシだ、という事で建国が決定したのだ。

 

 藤原君の嘆きではないが、もっと生き残りが少なければ『共通認識』の様なあやふやなものでもどうにかなったので、このような強権的な行動は必要なかったに違いない。

 悲しいかな。

 多くの人が生き残ったが故に、ボクたちは『平和だった終末前の日本』を自分たちの手で否定しなくてはいけないのであった。

 

「『国を作る』なんてしなくてはいけないとなれば色々考えもしますよ。本当は『分権』したかったですが、不安定な時期にそれを実現するのは厳しいって説得されてしまえば反論できませんでした。

 統制を考えたら“万を超える覚醒者を従えた私”が絶対権力を持った王政が一番安定するのは確かでしょうしね。」

 

 大和神に仲間として認められているのもありますし、と不本意そうに言うのは先々月の神議りを思い出してだろうか。

 随分と遠巻きで奇異の目線に晒されていたらしく、帰ってきてからしばらくは不機嫌そうだった。それでも、目的としていたことは達成できたのでまだ良かったらしいが。

 

「『社会契約説(リヴァイアサン)』による契約式絶対王政、か。悪魔の魔の手を考えると『自然権の王への奉上』と『対価としての庇護』は仕方がないと思うけど、藤原君も大変だね?」

 

「悪魔もありますが……そうですね、二宮さんには言っておきますか。

 全国民との“直接契約”は悪魔を相手にすることも当然ですが、それ以上に()()()()()()()()()を想定してのものになります。黒札達が『国民』に()()()()()()()()()()()()をした時、私が庇護者として『責任追及を出来る権利』を保持するためのものであるので、もし問題が起きた場面に遭遇したら遠慮なしに私の名前を出してください。」

 

「ちょっと意外だね。そんな『特権階級としての権利』を制限するようなことをするなんて。

 ボクがこれまで会って来た黒札たちを見ていると、ガイア連合の黒札たちの同胞意識と言うのは極めて強固だと感じていたのだけど。」

 

「私も黒札たちの事を仲間だと思っていますよ?

 ――ただ、会った事も無い相手にそれ以上の信用も信頼もしていないだけで。」

 

 ぞっとするほど冷たい言葉。

 窓の外、夜景の光を見下ろす“君臨者”の瞳から熱が消える。

 自分の事でないのに肝が冷えるその雰囲気に、ボクは彼の真意を悟った。

 

「まあ、今回の想定は今後シェルター間の『常識の乖離』が確実だからですけどね。他のシェルターではやって良い事が、ここでは犯罪になる、なんてのが当たり前に起きる様になると思うので。」

 

 取ってつけた様な補足を、ボクが建前としか信じない事を彼なら分かっているだろう。それに何も言わないという事は、それ以外の考えが正解という訳だ。

 今までひた隠しにしてきた内心をボクに知らせてきたのは、隠す必要が無くなったのか。或いは、ボクが知っておく必要があったのか。

 それを考えさせることを含めての言葉で、相も変わらず“ボクの師匠”の教育はスパルタだった。

 

「ふふふ。二宮さんも、もうお酒も飲める大人ですからね。ちょっと厳しくいきますよ?」

 

 ボクが必死になって考えているのを、そう言ってニマニマ笑って眺めている藤原君はちょびっと意地悪で。

 

「ああ、そっか。私は、大人になれなかったかぁ……。」

 

 だから。

 ふっと気を抜いて漏らしてしまったようなその言葉が、今この瞬間にはとても場違いで。

 

 ――何故だか泣きそうに聞こえたその言葉が、ずっとボクの頭にこびりついていた。

 

 

*1
主人公の配下を基準としてるので平均が狂っています。

*2
SJにおけるプラズマ装甲の様な物。通常の結界とは別に呉支部周囲の居住区を覆っている。事実上の最終防衛ライン。





 先々週「AC6まであと一週間!!」というテンションのまま前話は前書きを書いていましたが、考えてみたらこの話で一区切りすることを忘れていた作者です(汗
 今回の投稿で『13年目』は終了し、次からは『時期不明の小話』となっていきます。
 つまり、一応完結、という事ですね!
 酷く歯切れの悪い最終話だと思いますが、この小説は『ガイア連合員としての活動記』みたいなものでして、「強敵に勝ったぞ、やったー」とかを目的にする話ではなかったのであえてこの中途半端な時期で一区切りとさせていただきました。
 完結とは言いますが、幾つか思いついている終末後の小ネタがあるのでもうしばらくお付き合いしていただけるとありがたいです。


 書く機会が無さそうなのでこの場で開示させていただきますが、この作品では『普通の神域』の広さは『1~2㎢』前後ぐらいではないかと考えています。(現実で言えば明治神宮より広いぐらい)
 1㎢全部を田んぼにしたら現代農法だと()()()()()()()()()で『10000人分』の米が取れます。(肥料とかの不足での収穫減は『神々の加護』と帳消しとします)

 つまり、『神々のシェルターの収容限界は10000人前後』と考えています。
 昔だと現代人の三倍ぐらい多く食べていたそうなのでその分収容人数は減るかもしれませんが、『一柱の祭神』を祀った共同体だと管理できるのがそのぐらいの人数が限界ではないかと作者は思いました。
 そのため、この作品では『神々のシェルター』は何十どころか何百、下手をしたら千を超える数存在しています。
 もしかしたら『大和神』のシェルターは信仰されていた分もう少し広い可能性がありますが、こっちは前々から『ガイア連合』とがっつりくっついているので管理はまだ楽な方かもしれません。

 これとは別に『メシア教系シェルター』もあるのでシェルター総数は万を超える可能性があります。
 原作での生き残りの人間が少なければ少ない分、シェルター数も減るんですけどね(汗


 なぜこのような設定を書いているかと言うと、この作品では今後『シェルターごとの常識』というものが酷く乖離していきます。
 シェルターAだと『覚醒者は非覚醒者に何をしても良いんだぜ、ヒャッハー!』なのに、シェルターBだと『覚醒者は非覚醒者の為に身を削るべき』とかが当たり前に起きてきます。
 これは移動が難しくなったことによる弊害で、『提示版』や希少な『ターミナル移動』では常識の共通化は出来ずに必ず起こる事だと考えております。

 呉支部が『藤原僭王国』なんて頓珍漢なものを打ち立てているのも、こういった乱立する『ローカルルール』から呉支部内の一般人を守るためだったりします。
 つまり『オラオラ! うちのシマじゃ○○って掟(明文法)だからな? 破ったらどうなるか分かってんだろうなぁ~?!』って明示するためですねw

2023/9/5 あとがき訂正 0が一つ消えてました(汗
×『神々のシェルターの収容限界は1000人前後』
〇『神々のシェルターの収容限界は10000人前後』
合わせて1㎢辺りの収穫量の部分も訂正してます。
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