【カオ転三次】DRUG FATE   作:石は転がる

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 今回は神話的貰い事故な話です。
 タイトルが思い浮かばなかったので『その1』だけですが、そのうち変えるかもしれません。


終末後の小ネタ (時系列不明)
小ネタ  その1


 世界は終末を迎えた。

 各地の繋がりは寸断され、文明の利器はガラクタと化した。

 確かなはずだった空間は連続性を失い、先に続くはずの大地は歩む度に道行を変え人を惑わし、霊長類として世界を制した気になっていた人間は『悪魔』という外敵にあっけなくその地位を蹴り落された。

 

 しかし、それでも人間はとてもしぶとく生き抜いていた。

 ある者は壊された街の残骸に身を潜め、またある者は“悪魔”を崇め気まぐれな庇護に身を任せ。

 息を潜め、肩を触れ合う様に縮こまり、そうして外界を跋扈する『悪魔』から隠れ寄り付かない事を祈る日々。

 そこに隆盛を極めた科学文明の彩りは無い。

 昼は日差しに焼かれ、夜は闇に呑まれる原初の世界。

 魔界でも動く設備を備えたシェルターだけが、辛うじて在りし日の残り香の様な“光”で暗黒に抗っている有様だった。

 

 ――ただ一つの例外達を除いて……。

 

 

 

「こんな忙しい時に何の用なんでしょうね?」

 

「さあ?」

 

 窓から差し込む、全てが“白”に沈んだ寒々とした地表の光景。

 朝から深々と降り積もった雪に覆われ全てが清浄な世界は、薄曇りの空も相まって光源が定かでない曖昧な明るさに包まれている。

 そんな地上の様相と同じく、“曖昧”な面談の要請。

 それに対し、正月早々『建国』したせいで三が日もろくに休みを取れなかった私は、支部長室から応接室への移動途中で今日の護衛のアリサと一緒に廊下で首をひねっていた。

 

「まっ、下手に悩むより会って話をした方が早いでしょう? 朱莉の就任祝いという訳でもないようですし。」

 

「そうですね。理由は直接聞けばいいですか。ここで話す事でも無いですし。」

 

 頭を傾げながらも歩みを止めない足が、地上へと向かっていく。

 階を上がり、廊下を歩き、フロアを通り抜け、階を上がり、を繰り返して。

 

 呉支部はその大部分が地下に埋設された拠点である。

 特に支部長室は地下最深層に位置するため、来客との面談には地上階層まで昇る必要がある。

 利便性だけを考えれば直通路でも設置しておけばよかったのであろうが、色々考えがあってそれはない。そのため、地下から地上に上がるには一般事務フロアを抜けていく必要があるのだが、今の“呉支部”の廊下は忙しく走り回るガイア連合員たちの往来で人通りが多かった。

 

 行く先々で道行く事務員たち*1に挨拶をされながら、熱気がこもるフロアを通り抜けていく。

 窓に映る雪景色を融かしそうなほどの熱意。

 新年早々から今まで目の回る忙しさに翻弄されているはずの彼らだが、その顔には普通ならありそうな不平不満の色が欠片も見え無い。

 熱に浮かされた――と言うには真っすぐで、目を逸らしたくなる眩しすぎる眼差し。

 一様に浮かべた輝きは、一体何であろうか。

 それは自分達こそが時代を作るのだという狂騒か。はたまた、過去から未来までを含めた人類の歴史上でも有数の“楽園(浄土)”をつくるのだという希望か。

 

 彼らが抱く思いが何であれ、その仕事ぶりに不足はない。

 であるのであれば、私が不満を述べるのは筋違いであろう。

 この地に急速に形作られる()()()()()()()()()()国家――その新国家の根源に根付く関係者たちの願いを傍観しつつ、どのように“親離れ”させるか今の内から考えておかねば、と頭の片隅にタスクを積み上げる。

 

 

 そう。

 年明けと同時に呉支部の支配地域に対して国家の設立を宣言した私とその協力者は、現在急ピッチで体制の構築に邁進しているところなのだ。

 行政組織の接収と再構築。

 司法機関の解体と、根拠法令が出来るまでの暫定的な治安維持。

 そして、『王』の諮問機関としての議会の設置と、その議会の暫定議員の召致などなど。

 現代日本人をして違和感は在れど納得できる態勢を整えるべく、()()()()()()に備えて勉学させていた“ナインズ”を中心に『近代国家』の血を引き継ぐ『神代国家』は着々と形作られている途上だった。

 

 やっているのは『憲法』から始まる国家の建設だけではない。

 そのような三権の構築とは別に呉標準時の設定や、長さや重さなど全ての基本となる単位の再定義作業も『国家』として進められていた。

 この辺りは“終末”について詳しくない転生者には疑問に思われている作業なのだが、実は各地のシェルターはそのシェルターを守っている結界の精度・強さと連動して物理法則の保持具合に有意に差があるという割と洒落にならない状態であったりする。

 まあ、時空間も質量も、その基本となる世界法則自体が壊れてしまったのでブレが出るのは当たり前と言えば当たり前か。今のところシェルター内で生活する分には問題がない程度のものであるようであるし。

 それは兎も角、基準単位が“基準”たり得ないので、今後の交易などを見据えて最優先で『単位』などを独自定義をしているのだ。

 

 

 そんなこんなで皆が皆――と言うには一般人や転生者は置いてけぼりな部分はあるが――『建国』の熱狂に奔走している中、私は宗像三女神を通して『国王』宛てに来たアポイントに首をひねっていた。

 『宗像三女神』の紹介で会うだけあって相手は日本の神々なのだが、正直面識すらない。

 と言うか、用があるなら二か月ほど前に出雲で行われた『神議り』とその後の宴会の時に、それとなく話をするなり顔見せをするなりすればよかったのに今更改めて面談する意図が見えなかった。

 ――まあ、支配地域的に関りの無い相手なので不都合ならば関りを絶てばいいか。

 そう思う事で内心に決着をつけ、廊下をすれ違う連合員たちの敬意の籠った挨拶に鷹揚に返答しながら地上階の応接室に向かえば、すでにそこには来客が席についていた。

 

「お待たせしました。私がこの呉支部を預かっております、()()朱莉です。」

 

「お初にあらしゃいます。」

 

 それは誰もが思い浮かべる“公家”そのままの人物であった。

 黒光りする冠に手に持つ笏。袍を羽織り、前からは紐しか見えないが上から石帯を巻いている。

 ラフな烏帽子に狩衣ではなく、公的な衣装である束帯(そくたい)姿なのはその程度にはこちらを尊重しているというメッセージだろうか。

 そんな事を考えつつもアリサを障子の外に残し、畳に腰掛けた来客の前に私も腰掛ける。

 

 来客の顔は朗らかに笑っているが、私の挨拶に応じて返礼とばかりに神威を叩き込まれた。

 霊感をくすぐる“嵐を想わせる湿った空気”の臭いに、そこに混じる“燃え残った怨嗟”の臭い。

 そんな気配を『ドドドドドドドドッ』とばかりに漂わせながら、彫は浅いがスッと通った鼻筋に切れ長の目の男性が柔和な笑顔を浮かべているのに眼の色だけが無機質に見てくるのは中々に迫力がある。

 ――まあ、迫力があるだけだ。

 特に脅威も何も感じないせいか、頭の中に思い浮かぶのは『時代劇好きだと公家なのに白粉や眉化粧をしていないのは違和感があるだろうが、()()()()を考えればまだ男性が化粧をする文化になっていなかったはずだ』なんて雑学ばかりだ。

 まあそれを言うなら、束帯も彼の時代だと唐の意匠に近かったはずなのだが……と、それはどうでもいいか。

 

「ええ、初めまして。よくお越しくださいました――

 ――“菅原道真公”。それと“天満大自在天神”様とお呼びした方が?」

 

 そう。

 そこに居るのは、日本人であれば誰もが名を知らぬはずがない存在だ。

 【日本三大怨霊】

 日本において最も強大な……それこそ、各地の神話の主神たちに伍する程、強大な“元人間”だ。ある意味、人間でありながらそこまでの強さを得たというの点に関しては“私たち転生者”の先輩ともいえるかもしれない。

 

「お好きに呼んでよろしあらしゃいます。」

 

「それでは“道真公”と。……ああ、それと、言葉は現代日本語でお願いします。意思疎通に難がありますので。」

 

 ――だからと言って特に敬ったりはしないのだが。

 とは言っても、自分でも初っ端から『お前の古臭い言葉なんて知るか。現代語で話せよ、時代遅れ。』なんて意訳が付きそうなセリフはどうかと思わないでもない。

 でも正直、古語(公家言葉)で話しかけられても、その、なんだ。

 ……困る。

 

「ふっ……ふはははは、そうかそうか! これはまた、物怖じしない奴よな!

 好い好い。久方ぶりに人の世に関わるので“昔”を思い出してやってみたが、私も“神”としての方が長いのでな。こちらの方が楽で助かるわ!」

 

「それは良かった。どうぞ私などに構わず、楽になさってください。」

 

 それに、今の彼は()なので現代語を十分堪能なのが分かっていたからでもある。

 そうで無ければ流石に礼を逸し過ぎているのは理解している。

 ……この辺りの対応も、相手からの“見定め”の一環な気がするのだが。

 

 見定められるのは仕方が無いのでこちらからも見定めているが、言葉と共に知的で玲瓏な“公家”の仮面が剥がれ、豪快な笑いと一緒に“神”としての在り方が噴き出す姿は興味深い。

 “学問の神”としては先程までの柔和で物静かな姿の方が似合っていたが、今にも手に持った笏を投げ出しそうな豪放磊落な雰囲気もよく似合っている。またこれも、『彼』の一面なのだろう。

 ――或いは、この一面が出てくる事実が、今回の要件に関するのか。

 

「それで、本日はどのようなご用件で態々自らお出ましに?

 北野にも太宰府にも殆どご顕在なさらないと聞いておりましたので、“使い”ではなく“本霊*2”が厳島の天神社へ降臨したと告げられ、大層驚いたのですが。」

 

「おお、そうそう忘れておった。後で神社の者に誉めの言葉を贈らねば! 摂社にも関わらず、随分と丁寧に整えられておったからな! おかげで大分楽に降りて来られた。」

 

「それでしたら私が代わりに伝えておきましょう。彼らも私の配下なので。」

 

「相分かった! 褒美の品は後で届けさせよう。」

 

 言いにくい話題なのか別の話で時間稼ぎをしている……というよりは、話の枕として流れを作っている様子に内心で眉を顰める。これはまた、神々からされる話としては珍しくない話になりそうだ。

 

「…………それでのぉ、その“摂社”が本日参ったのにも関係するんだが…。」

 

「お聞きしましょう。」

 

「……ん、いや、そうだな。うじうじと言い訳がましく原因から話すより、はっきり本題から入らせてもらおうか。

 ――この地の民の内に、“学問の神”としての私への信仰をより深く根差してもらいたいと伏して頼みに参った。」

 

 眼前で深々と頭を下げられ、やっぱり面倒事か、と私も内心で深々と息を吐き出した。

 何が面倒って、相手の格の高さもあるがそれ以上に相手が()()()()相手だという事だ。こういう信仰の押し売りを好まないタイプの神格が、終末前ならともかく終末直後のこの忙しい時期に無理を押してやって来たという時点で早々に断れる事態ではないはずだ。

 そう予想するが、私が事前に集めた情報が間違っている可能性もある。事情の説明をさせて探りを入れるべきだろう。

 

「……そうですね、まずは理由をお聞きしましょう。

 道真公は現世にはあまり興味がないご様子と伺っていたのですが、ご心情に何か変化でも?」

 

「そうよな……よしっ! どこまで知っておるかは知らんが、最初から話すとするか。

 私はな、確かに現世に今更関心など無かった。勿論、封印から解放された恩義はあるからな。ガイア連合に頼まれれば助力はするつもりであったが、自分から何かするつもりはほんに無かった。」

 

「私もそのように聞き及んでいました。北野でも太宰府でも仕える神職への啓示なども特になく、縋られる事があれば相応の代価を以てご慈悲を賜われる、と。」

 

「私も嘗ては“人”であったせいかのぉ。人の世は神に言われるが儘ではなく、人の手によって治めるべきだと思っておる。

 なので、最低限土地の守りだけはするが、後は今を生きる人間に任せるつもりだったのだが……」

 

 端正な顔に疲れを滲ませて肩を落とす相手に、そこが一番の厄介処かと身構える。

 

「そうも言ってられなくなっての……。ガイア連合の事だ、知っておるとは思うが、イザナミノミコト様の力が終末前後から急に強まっておる。

 ――それに連動して我が祟り神としての力の大本たる火雷大神(ほのいかづちのおおかみ)様もな。」

 

「黄泉にてイザナミより生じた()()雷神、ですか。」

 

「そう、その御方々よ。生まれが生れであるし、今も眷属をされておられるのでイザナミノミコト様の猛りに同調しておられる。 ……そのせいでな。私の荒魂と和魂のバランスが崩れかけておる。」

 

「各地の天満宮からの信仰では足りませんか。」

 

「確かに今も各地で祭られ畏れられて信仰に不満はないのだがのぉ……。

 末法の世故、仕方がないとはいえ『外敵調伏』の力ばかり求められておるが、それも原因ではあるのだ。

 その力は『祟り神』としてのものだからな。いくら祀り上げようと荒魂の力が増すばかりよ。」

 

「なるほど。それで“学問の神”としてなのですね。

 ……しかし、それでしたら各地の天満宮で学問を推奨すればよろしいと思いますが?」

 

「そのような余裕、一体どこにあろうものか。

 ――そう、この地以外にな。

 ほんに驚いたものよ……数万とはいえ、このご時世に“必死に勉学を励み、その成就を祈る念”が届いた時は!

 毎年この時期になれば何十万もの信仰が集まっておったが、もう二度と味わえぬこと覚悟しておったのに……。」

 

 嘗てを想いなんとも形容しがたい表情の菅原公に、私は掛ける言葉が思いつかない。

 それは苦労だったのか幸福だったのか。笑顔で眉をしかめ、目じりを下げて頬を固くしている顔からは何を思っているのか私では読み取れそうになかった。

 

 なので、会話の内容を考察する方に力を注ぐことにする。

 どうも彼の話を聞くに他のシェルターでは『受験』というものがなくなっているようだ。……いや、ともすれば『未成年者への教育』というもの事態が無くなっている可能性もある。

 去年終末を迎えたばかりなので、まだ日本各地のシェルターなら従来の生活を()()()()()維持しているものと思っていたが、どうやら思っていた以上に世界の動きとは急激で激しいものだったらしい。

 或いは、この地が呑気なだけか。

 どちらにしても、『この地以外の現在の未成年者』とはこれから常識からして話が通じなくなる可能性がある。留意せねば。

 

 それとは関係ない事で言われて気が付いた事だが、そう言えばそろそろ今年の受験シーズンが終わったところだ。

 変な時期に面会を申し込まれたと思っていたが、もしかしたら“祈った者たち”の結果が出るまで律儀に神として見守っていたのかもしれない。

 そうであったのならば“学問の神”として真摯に活動していることになるので、そのことは考慮する必要がある。

 

「なるほど、お話は分かりました。」

 

 大きく頭を上下させ、大仰に頷いて見せる。……まるで、あたかも感じ入ったかのように。

 その動きにきな臭いものを覚えたのか、歪んでいた表情を柔和なものに戻しながらも警戒を滲ませる道真公に、私も柔和な笑顔を張り付けて言ってのけた。

 

「その上で申しますが――『それで?』」

 

 時が止まった。

 そう言っても過言でないほど、道真公は呆気にとられ、パクパクと音も無く口を動かすことしかできない。

 

「……『それで』、とは?」

 

「言葉のままですよ。荒魂と化せば公がお治めのシェルターは乱れるでしょうが、私どもには関わりの無い事ですが?」

 

 やっとの事で絞り出したような掠れた声に、私は朗らかに答える。

 一瞬、相手から憤怒の気配が漏れたが、私が表情を変えるほどのものではない。なので引き続き笑顔のままでじっと見つめる。

 実際、私の立場からすれば『それがどうした』としか思えない話であった。

 なるほど、確かに道真公が荒魂と化したらシェルターは崩壊するだろうし、『怨霊』として活動を始めれば周囲に被害をまき散らすだろう。そうなればガイア連合としても動き出すかもしれないが……少なくとも、今の段階で私が動く理由にはなりはしない。

 それは『国王』としても『一個人』としてもだ。

 シェルター崩壊の危機はその地に住む者が対応する問題であるし、『怨霊』と化すならその時改めて征伐すればよい。

 一瞬の憤怒の隙で確信したが、彼程度ならば覗き見えた“本霊”が出てきても私個人でも対応できる程度の災厄だ。神としての権能による理不尽はあるだろうが、それを含めて“底”は見えた。

 ()()()()()()程の敵ではない。

 

 そう考え、ふと自分の考えに驚きが奔る。

 【日本三大怨霊】とまで言われた相手に、私には怯えも何もない。冷徹に見定めて周囲に被害は出るが『どうとでもなる』と算段をつけている。

 “私”程度の者が、よくもまあ強くなったものだ。

 

「『どうしても』とおっしゃるのでしたら、この様な『一国の王への面談』ではなく、提携しておられる支部へ相談されるか正式にガイア連合へと助勢を求めてください。本部より正式に対処に当たれと命じられれば、その時は『呉支部長』としてお力添えしましょう。」

 

 続けて道理を示す。

 今回の面談は『宗像三女神』が仲介した『建国する国の王』との面談であって『ガイア連合:呉支部長』としての面談ではない。

 『支部長』としての面談なら、『道真公』のシェルターと相互支援範囲内の支部に確認を取った上で、その支部に“学習支援”として教科書や筆記用具を回す程度の事はする。『呉支部長』として職責の範囲だと、シェルターの崩壊を防げるその程度の延命策で十分であるし、それが出来る最大限の助力だ。

 そう――『支部長』には決して“提携している統治機構”に()()()()()()()()()()()()()()()()()()のだから。

 

 役職による権限の違いを、時の朝廷で右大臣まで上り詰めた人間が知らないはずがない。

 知っていた上で、あえて国内を統治する『国王』への面会で、ガイア連合が締結している【相互支援条約】という『支部長』としての責務に話をすり替え、『国王』の権限で国内での布教の優遇を得ようとしてきたのだろう。

 油断も隙もあったものではない。

 

 ……まあ、こういう“同一個人が持つ立場の違い”についてガイア連合では軽く扱われ気味なので、そこをつつくのは正しく交渉の手管だ。これはガイア連合に属する人間の責任なので相手を攻めることは出来ない。

 

「――フフッ、あいや、手強い。いや、これは長らく交渉なんぞ無かったから私が鈍っただけか!」

 

 正直にやらかしを認め、ばつが悪そうに悪戯がバレたのを誤魔化すように笑っている相手だが、おそらくバレるのは織り込み済みで完全に演技だろう。

 彼の現状については調べれば分かるので、そこに嘘を吐くのは考え難い。実際に困っているのは間違いないだろう。

 だとすれば、認めずに下手にこちらの心証を害して協力を渋られるのは望んではいまい。始めから上手くいけば儲けもの、程度の軽いジャブの様なものだったのであろう。

 ――私が思ってた以上に、彼にとって“この地”は“現在の世界”では貴重なものなのだから。

 

「私への信仰を盛り上げて貰いたいと言ったが、もちろんおぬしにも良き点はあるぞ?

 武神や豊穣神としての役割は果たせんが、私の担っている『権能』は多岐にわたる。大体の事は何でも出来るし、協力も惜しまんぞ?

 それに、なに、私は摂籙神(せつろくしん)だからな。永き時を超え蘇った藤原摂関家の守護神としては当たりであろう?」

 

「それはまたカビの生えたような話を……。第一、私の『藤原』にそれほどの意味がありますか? どこにでもいる庶民の出ですよ、私は。」

 

「いやいや、そう卑下する事はあるまい。こうして『国』を建国し、『国王』に上り詰めたおぬしは立派な“藤原”だ。それに自ら『僭王』を名乗るというのがまた良い。本当の上位者がいる事を認めているのに、それを簒奪していると宣言している様なものだからな!

 私の“怨念レーダー”は『藤原本家から婿養子に出た男子が生ませた庶子』程度に反応しているぞ!」

 

「なんですか、その具体的な比喩は。しかも妙に血統が近いですし。」

 

「“藤原”とは血ではなく在り方だからな! 権力を握れば近くなるし、その権勢が強ければ強いほどより色濃くなるものよ。それにそう悪い事でもないぞ? より“藤原”であればあるほど、私の権能による『政権の安定』は強固になるからな。

 ……――もし私が怨霊と化したら民を無視して真っ先に狙うだろうがな(ボソッ。」

 

「おい。

 おい。」

 

「はっはっはっは、まあ待て。話を聴け――その物騒な気配をしまえ! ……まったく、冷や汗が出るわ。

 おぬしにとっても悪い事ではないのだぞ? 万が一、私が『荒神』となっても、民にその矛先が向かわないという事なのだから。」

 

「……それ、貴方の不始末を私に後始末を押し付ける、という事ですよね。」

 

「はっはっはっは、あっはっはっはっは!!」

 

「笑って誤魔化すなッ!」

 

 相手のペースにわざと乗りつつ、相手が()()()()()()()()を見定めていく。

 この交渉において破談して困るのは相手だけである事は、既に両者が暗黙の了解として共有している。ここからはどれだけ相手が譲歩していき、それに私がどれだけ対価を乗せるか、だ。

 

 ――まあ、気楽にいきますか。

 機械的に損得の計算を始めた頭を他所に、ふと私は内心で力を抜いた。

 良くも悪くも、既に終末は過ぎ去った。かつての平和な日常は零れ落ち――それでも、日常は続いている。

 もう、私たちは終末という破綻に怯える必要はない、はずだ。

 

 私が縋った『終末からの生存』というガイア連合の初志は、もう完遂されているのだ。

 

 それでも、今でも私は『支部長』で、今までのように『通常業務』に勤しんでいる。

 ただ一つ、今までと違いがあるとすれば、『終末』という一点に向かってリソースをかき集めるのではなく、『将来』に向けて維持・発展していける社会にリソースを傾ける、という事だけだろう。

 ――そのためにも、協力できそうな相手とは“良い”付き合いをしてもらった方が良い、か。

 共存共栄とまではいかなくても、相手の足元を見てふんだくるのは止める事にする。

 零落はあっても寿命の無い相手だ。つまらない所で恨みを買っても仕方がないし、時が流れればまた盛んに信仰されるかもしれない。

 その時の為に“貸し”にしておくのも悪くはない。

 

 

 そう。

 遥かな未来。

 目の血走った受験生に追い回され必死に逃げる天神様を、“貸し”を理由に捕まえ受験生に引き渡す。

 そんな未来があるかもしれない。

 

 愉快な想像に、こっそり笑う。

 それは何とも平穏で素敵な光景だろうか。

 ――そんな未来が、早く来ればいいなぁ。

 そう思いながら、私は今はまだ荒々しい相手と、丁丁発止を繰り広げていくのであった。

 

*1
現地の金札事務員。

*2
正確には降りて来られる中で一番格式の高い高位分霊




 まずは終末直後しか出せないネタを一つ。
 スレの方でイザナミ様がハッスルしていた話を見た時、作者が一番最初に思い出したのが今回の話の御方(天神様)のことでした(汗
 伝承によっては『火雷大神』の方が天神様の眷属扱いされていたりもしますが、ここでは天神様の方が力を借りている設定にしております。『女神転生』の世界ですからね!

 天神様ですが神格の成り立ち的に『祟り神』としての在り方が本質の方でないかと作者は考えています。
 そこから時代を経る事に『冤罪を晴らす』とか『和歌・漢詩等の教養』など、生前の在り方への信仰が増えていってますが、これは典型的な祭る事による『和魂』化の流れに見えます。
 『和魂』としての信仰される『生前の文化的側面』と、『荒魂』として畏れられる『死後の祟り神』としての在り方。

 ここで問題になるのが、普通の神格なら『一つの権能』の表裏として『荒魂』と『和魂』になっていることが多いのですが*1、『天神様』は全く別の部分がそれを担っている事です。
 終末後に求められる『外敵からの庇護』の力って、本質的には祟り神の方に属していると思うんですよ、作者は。
 その為、終末後は『天神様』は『荒魂』ばかりが強くなっていき問題が出てしまうよ~、と言うのが今回の話の起点になります。
 普通の神なら『権能』の両面に過ぎないので問題は出てこなんでしょうけどねぇ……。

※備考
 現在、私が参考にしたHPによると毎年の大学受験者数は60~70万人ぐらいだそうです。
 これに小中高の受験生とその受験者の親御さんなんかを含めると、毎年100万人以上の方が熱心に祈りを捧げていそうな気がします。

 これが終末後になると、まず前提として1万人程度のシェルターだとそもそもの一学年の学童自体が100~200人程度になります。
 このぐらいの人数だと進学するにしても『受験』という形式じゃなくて、『教員からの推薦』とか『選抜』の形になっていくのが自然かと思います。
 そのため、普段から必死に勉強する人間以外からは『学問の神』への信仰は途絶えるのではないでしょうか?

 例外としてデュエルアカデミーも考えましたが、あそこの受験者数は万に届かないでしょうし、受験者自体も『デュエル』をする資金力が必要なため各シェルターの紐付きになっている気がします。
 そうなると当然、スポンサーの守護神なんかの方に信仰は流れると思います。

 結論としては、『学問』を司る神としての信仰は大分落ち目になってしまいそうです。
 ……ちなみに、こんな話を書いてしまってもいいのか作者も悩みましたが、懐の広い天神様なら許してくれるだろ!(震え声、とガクブルしながらの投稿ですw



 追加の補足ですが、『藤原僭王国』の位置づけについて。
 書いた後に読み返していたら分かり辛いように感じたので捕捉します。

 『藤原僭王国』ですが、この『国』はどちらかと言えば大和神や外様シェルターに近い位置づけになります。
 例として他のシェルターの位置づけを書きますが、
 ※ガイア連合の支部シェルター
 【ガイア連合本部()】――【ガイア連合支部】―【支部長】(≒【シェルターの統治機構】)
 ※大和神などガイア連合以外の組織のシェルター
 【ガイア連合本部()】――【ガイア連合支部】
                  | (提携)
             【相互支援組織の統治者(メシアンや神など)】――【シェルター】
 上記の感じになります。

 つまり、主人公の場合【呉支部:支部長】と【藤原僭王国:国王】の立場がありますが、この二つは『提携・協力している組織』のもので、利益が相反する事のある立場です。
 歴史好きなら【朝廷】と【幕府】の二つの組織からの任官と言えば分かり易いかも?
 一応主人公は【支部長】>【国王】である事を表明して、それをショタオジも認めているので問題になっていないのですが、特殊例なので余り他の支部の参考にならない体制だったりします。
 支部シェルターには珍しく、【ガイア連合での役職】と【統治機構での役職】を明確に分けている構造なので。

*1
例えば、よく雷神は『破壊神』だけではなく『豊穣神』でもあるのですが、これは嵐の齎すのが洪水や家屋の倒壊だけでなく、雨が降る事による『水』+雷による『窒素固定』による豊作があるからだと考えられています。これが『雷』の権能の裏表として『荒魂』と『和魂』ですね。

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