【カオ転三次】DRUG FATE   作:石は転がる

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 一応作品の完結したことによる気の緩み
  +
 書こうとしている内容の突拍子の無さ(伏線不足)による説明の難解さ
  +
 季節の変わり目による体調不良

 などなどの理由で投稿が遅れたと言い訳させてください(震え声
 実際、皆様体調はいかがでしょうか? 令和ちゃん、ちょっとキツクないですか???
 作者は寒暖差のせいで頭痛いわ眩暈がするわ吐き気がするわで酷かったですw

 それは兎も角。
 今回の話は【★楽しい世紀末スレ その5】の神主復活報告の前の話になります。
 一応今作的には神主の復活は終末から半年ぐらいは経ってからで、スレに出てきたのも復活してからしばらくたってからと設定します。
 スレで『終末から一年経ってないのに』みたいな話や『ターミナル設置に忙しくしている』との話が出てるので。


小ネタ  終末直後辺り メルカバーの起動

 

 “藤原朱莉”の一日は、意外な事だが“終末後”になって大分暇が作れるようになっていた。

 

 ガイア連合支部長としての仕事。

 これは半終末時期に【メルカバー】との戦いを優先した結果、下の人間に任せる仕組みが出来上がっている。

 何せ戦闘ごとに必ず療養期間を必要とし、しばらくの間後遺症めいた不調まで抱えていたのだ。戦闘によって一歩間違えれば『支部長』の座が開く事まで考えられていたので、空白期間の代理人や次の支部長の選定まで、この時期には既に規定されていた。

 そのため、平時において『支部長』の仕事は重要であれどルーチンワークめいた簡単で時間の掛からない物ばかりになっている。

 

 藤原僭王国の国王としての仕事。

 こちらも、一度仕組みさえ作ってしまえば方針さえ示せば実動は役人が行うし、確認の仕事なんかも終末前から延々と続けてきた『会社社長』の仕事の応用と慣れで難しいものではない。

 東京大破壊初日に避難した地元出身の国会議員や公務員の一部*1回収もしていたおかげで、ある程度は国政のノウハウを取得できたので滑り出しとしては順調なものだ。

 治安の悪化も、支配領域の周囲に強力な悪魔の領域でもあれば話は別だが、幸いなことに“魔界”とは言っても深度が浅かったのかLV100越えの本霊がうじゃうじゃいるような場所ではない。現状は結界を越えて内部に悪魔が入り込んでくることも無く*2、内部でのオカルト犯罪も通常の警察の再戦力化(オカルト対応)などが進んでいるため安定は時間の問題だ。

 何より社会も経済も内部でほぼ完結して動かせているため、『物資・雇用が安定して社会不安が少ない』のが一番大きいか。ネットワークを通じて外部の状況が広がれば広がるほど、“国民”の動揺が減っていっているとの報告もある。

 変な話ではあるが、あまりに周りが悲惨すぎて相対的に政権支持率が上がっているのであろう。

 

 

 まあ、そんなこんなで私は割と自由な時間が多かったりする。

 そんな自由な時間の使い道は色々あるが、今の私が優先的に取り組んでいたことは――【メルカバー】の器となる素体、その制作だった。

 

「これで良し、っと。」

 

 庭の一角に設けられた『人形工房』。

 大量のフレームや素材が不気味に並ぶその場の奥、手術台……或いは祭壇の様な台座の上に横たえられた“人形”に術式を刻み終えた私は、ふぅーっと溜息を吐きながら目をしばたかせる。

 集中し過ぎて乾燥した眼に、涙の湿り気が痛い。不調は無いのに目の奥から鈍痛を感じるのは常人だった頃の名残だろうか。

 そんな事を考えながら、ぱしぱしと瞬きをしながら自分の仕事ぶりを確認し直すべく、台の上を見る。

 

 台座の上に乗っているのは、式神製作を請け負っているチームに頼んで作ってもらった“素体”だ。

 弱くウェーブの掛かった藁のような髪。長く伸びた耳は奇怪で、産毛一つない白磁の肌は寒々しい。

 固定観念とは厄介なもので、一応は記録映像から再現された体躯なのだが“中身”が無いだけでひどく安っぽく感じてしまう。

 ――どうせ外観は後から中身によって変質するから、どうでも良いと言えばどうでも良い、か。

 製造者は丹精込めて作ったかもしれないので、内心に思い浮かぶ無関心を外で出さないように気をつけねば、と思いつつ人形の内側を覗いていく。

 

 『支配』『隷属』『束縛』『封印』『監視』その他諸々。

 人形の内部をくまなく埋め尽くす“666”、或いは“606”の連結術式。

 破綻が無いように一人でせっせせっせと刻んでいったそれにミスがないかを確かめていく。

 

「1,2…10,20,30,40……100…………300………………600……っと、これで全部だな。

 ……ふぅ………――っっくうぅぅぅぅぁぁぁぁぁぁああーーー!!!!」

 

 無駄に複雑に絡み合った術式群を、再び眉をしかめながら確認を終えて思わず声が漏れる。

 ――これで、この無駄な時間も終わりだ。

 吐いた溜息は深々と。せっかく出来た余暇を、何週間も消費した時間がやっと終わったのだ。

 自分で設計しておきながら刻みつつ後悔したイミテーションはやっとやっと完成し、この虚無感に浸りながらした無為な作業はもうお終いなのだ……ッ!

 

 ……そう。この術式群に『意味』なんてない。

 ぶっちゃけ、九割九分九厘は絶対に稼働しないだろうし、残りの一厘とて働く機会があるかは怪しい。

 元々“本霊”事態を従属させるほど縛っている状態で、更に現世の入れ物となる“器”を縛る意味はないのだ。

 それでも、私は手間暇かけて精密にして強固な術式を刻んだ。

 

 ――外から見て誰にでも分かる形で『縛られている』事を示すため。

   そして、その術式による外殻で『内側の状態を隠し通す』ために。

 

「はあぁぁぁ、やっと出来た……。もっと術式を簡略化すればよかったかなぁ……。

 でもなぁー、LV100越えを縛るとなるとこれぐらい大仰にしないと()()()()()()しなぁ……。」

 

 凝りもしない首筋を揉みながら嘆息する。

 【メルカバー】の使役は“仲魔”として使うだけではなく、『メシア教』の中でも『天使崇拝:過激派閥』に対する活餌になることを期待してのものだ。

 その目的を思えば、“人間”程度を騙せる術式ではなく、派閥の主として仰がれている“悪魔(天使)”すらも騙せる精度が必要になってくる。早々出てこないとは思うが、最悪『大天使』クラスが見定めてくる事を考えると、あまり手抜きが出来なかった。

 ……この想定を誰かに言えば、また考えすぎだと呆れられるんだろうが。

 

「……愚痴は後にして、さっさと作業を終わらせよう。」

 

 一人っきりで作業していたせいで増えた独り言。

 誰に届くことも無い空しい言葉を虚空に融かし、代わりとばかりに()()()()()()()()()()()()()

 

 それは、何の前触れも無く、当たり前に私の手の上にあった。

 絶えず流動し、妖しく光を湛える金の壺。

 のっぺりと装飾の一つも無く、私から見ても何の力も感じないのに、目に入ると知らず知らずのうちに手に取ってしまいそうなほど魅力的な球体。

 もし人々がこの球を見たら、己の内に掻き立てられた欲望に抗えず所有をめぐって血で血を洗う闘争が幕を開けかねないのではないか……そう想起してしまいそうなほど艶めかしい重み。

 ――馬鹿馬鹿しい。実際には何の力も持たないただの“幻”だ。

 【メルカバーの壺】。これは私がそう呼んでいるだけで、本質的には現世に落ちてきた影に過ぎないのだから。

 

「……いや、炎とは“熱量”と“光”であり、即ち“実”を持たぬという意味では天使にふさわしいのか……?」

 

 馬鹿げた与太話につらつらと思考を割きつつ、私は何の感慨も無く【メルカバーの壺】を人形へと無造作に押し込む。

 沈み込む様に、解ける様に。

 飲み込む様に、冒す様に。

 ぬるりと埋没する球体はすぐに見えなくなり、代わりに人形の肢体に黄金のラインが根を張る。

 

「んっ…………ぁむ……ん……っ。」

 

 変化はそれだけではない。

 “土くれ”に命が吹き込まれる。

 無機質で色褪せた素体に、血の気が通っていく。

 粘土のような土気色の肌が桜色に色づき、枯れた雑草の様な髪が艶やかにしなる。櫛の様に固まったまつげが柔らかに震え、瞬いた拍子に露わになった瞳はガラス玉から意志の光を持ったものに変じる。

 

「ぅー……むにゃむにゃ……。」

 

 変化は続く。

 分かり易く光り輝いたりする事も無く、ひっそりと“肉体”が()()()に成長する。

 背は短く、腰は細く、顔だちは幼げに。

 豊満な女性らしさは豊満なまま、しかして成熟した丸みはスルスルと若々しいハリが満ちたものへと。

 完成された女性としての美しさが、未成熟なアンバランスなものに変わっていく。

 

「模写した形からの変質? 封印には変化がない…基礎機能の適応変化の一種?

 ……まあ、いいか。」

 

 予定していなかった変容に思考が幾らか取られつつも、使役には特に問題が無さそうなので思考を後回しにする。

 元々、戦場で相対していた時は悪魔らしく人間の何倍も大きなものだったのだ。そんなサイズであったメルカバーが、人間のサイズに合わせて縮小した人形に入った事で、人形が多少変化したところでそう可笑しなものではない。

 疑問の解消は後でいい。

 

「――“起

 「はッ?! え、何?!」

     きろ”。」

 

 窮めて繋がりを意識して、力ある言葉として命じる。

 すると、言葉が終わるよりも先に目の前の台座から人形だったものが跳び起きた。

 契約……ではなく、封印のラインを通じて命令が迸ったからだ。それが音声などよりもよっぽど早く、意志の殴打としてメルカバーの霊体に叩き込まれた結果、声より先に命令が受諾されたのだ。

 

「目覚めたようだな。“素体への接続状況を報告しろ”。」

 

「えっちょッ…

 ――『*自己診断開始・:{封鎖霊格からの虚像を安置}

    *      ;%;|投射霊格の同一性確認|

    *      ^〝 ̄‘〔模写素体との同調を補正〕

    *自己診断完了――本霊と素体との同期良好。一切の遅滞はありません。』

 …ああ、なるほど。そういう事ね。」

 

「ふむ、異常はなさそうですね。」

 

 報告と同時に霊格の蠢動を観測し、言葉に嘘がないことを確かめる。

 【メルカバー】も目を白黒させながらも、()()()()()()勝手に発した言葉を聞いて事態を理解したようだ。

 

「直接顔を合わせるのは初めてね、“人の子”。」

 

「そう言えば何時もは機体越しでしたか、“神の戦車”。初めまして、なんて言ってあげましょうか?」

 

「いらないわよ。そんなの。」

 

 台座の上に座り直し、んーっと頭上に腕を伸ばす【メルカバー】に、私は目を細める。

 顔だちや体躯の幼生化のせいだろうか。()()()()()()()メルカバーに比べて威厳というか神秘性というか、そういったものが無い。

 高位存在としての存在感の抑制と、若返った十五・十六の年恰好も含めて“年相応の小娘”にしか見えなかった。

 

「随分と貫禄が無くなりましたね? 言葉遣いも軽いですし、封印による変質が?」

 

「それは答えろって命令? まっ、大したことじゃないから言うけど、封印されたって言う『不完全さ』が“未成熟”という形で出たみたい。心配しないでも契約による束縛はかかってるわ。

 信じられないなら命令して見なさいよ? よっぽどの事でも逆らえないんだから。」

 

 不機嫌そうに膨れて見せるメルカバーの、その態度以上に距離感の近さに内心首を傾げる。

 敵対していた間柄なのだから、悪魔であっても複雑な心境の一つはあると思っていたのだ。“契約”だって一方的に抵抗すら許さない状態で結んだので、反感はあって当然だと思うのだが。

 それが、戦場での澄ました顔で慈愛を掛けてきた事を踏まえても、何故かと疑問に思うほど馴れ馴れしいぐらいに親し気に接してきている。

 良くも悪くも『私という人間を気に入っていた』という事、なのだろうか……?

 

「そうですね……そうだ! いい機会だから一つ聞きましょうか。」

 

 内心の疑問はこれからの交流で解消することにして、良い話の流れだと急く気持ちを顔に出さない様に気を付けて言葉を作る。

 一つ、どうしても聞いておきたかった事があるのだ。

 【メルカバー】――いや、()()()()()()()()()()()()一神教勢力の【大天使】に。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?」

 

 神経を研ぎ澄ませる。

 工房の結界は普段から神格などの干渉を防ぐべく最高級の結界を敷いているが、今日に限っては貯蓄していたし私財を湯水のごとく使って“この一時限り”で星霊神社本殿にすら並ぶと自負する結界を構築してた。

 それを現在進行形で監視し、“外部”からの干渉がないことを継続して確認する。

 ――空間の変異も因果への接触も、概念干渉もなし。本霊の封印に触れる存在も無し、か。

 冷や汗を流しそうな緊張をメルカバーにバレないように押しとどめ、返事を待つ。

 

 時間が、遅い。

 戦闘時の体感速度にまで跳ね上がった認識が、通常速度の返答の余りの遅さに苛立ちさえ覚える。

 口の動きが、鈍い。

 平常を()()ために思考速度に連動させなかった肉体が、遅延した世界によって無限大に膨れ上がった喉の渇きを訴える。

 心臓が、止まりそうだ。

 

 こんなたった一つの質問に、これだけ緊張するのにも理由がある。

 何せ、こんな機会は今後一切なくても不思議ではない。

 そう……()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()【大天使】から、()()()()()()()が一切ないと確定できる状態で情報を引き出せる機会など、もう一生無くとも可笑しくはないのだから。

 

「なに、そんな事? 私が最後に聴いたのは、うーーーん、半世紀ぐらい前?」

 

「出来るだけ詳しい日時とか分かりますか? 前後で起きた事件などでも良いですが。」

 

()()()()()()()()()()()直ぐ後が最後だけど……んー、日時、ねぇ?」

 

「『日本の首都で地震があった後からアメリカと戦争を始めるまで』の頃であってます?」

 

「あー、そうそう! それぐらいそれぐらい! そのちょっと前から地上に出る天使が増えたからよく覚えてるわ。」

 

「天使の降臨が増えた、ですか。貴女方の主が『アメリカに協力しろ』とでも言いました?」

 

「違うわよ。『もうお前たちは好きにしろー』ってだけ。アメリカに協力したのはミカエルの考えだった……はず? あんまり興味なかったからよく覚えてないけど。」

 

 あっけらかんと開示される“情報”に眩暈がしそうだ。

 普段通りの姿を保てているだろうか。急激に心配になる。

 干渉による記憶の変質を警戒して脳裏にしっかり“刻み”込みながら、()()()()()()()()()情報とのすり合わせに脳が茹りそうなほど稼働する。

 

 

 ――今ここで、これ以上聞きださなくてはいけない情報は何だ?

 自問自答。

 ()()()は済ませる事が出来た事で、『詰問による今後の警戒』と『情報収集』との天秤が揺れ動き、メリットデメリットの計算が目まぐるしく頭をめぐる。

 

 転生者のメタ知識でしかなかった『神の声が聞こえない天使』という定説は【大天使 ヴィクター】の前例も合わせると語弊であったと言っても過言ではないだろう。

 おそらく、今現在も“神”から天使への命令伝達機能は生きている。

 現在の『メシア教の天使』の行動は命令によるものかは不確定だが、【メルカバー】の証言が正しければ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()という私の推論が補強される。

 この辺りの情報をさらに求めるか……とも考えたが、【メルカバー】のスタンスからしてろくに情報を持っていない可能性の方が高い。

 この事についての質問は破棄する。

 

 根本である『“神”から命令』についての尋ねるか?

 これまでに命じられてきた行為を聞き出せれば、“神”の謀略の一端が分かるかもしれないが……。

 ……“神”が()()に対し、内心を推察できるほど言葉を尽くしていただろうか?

 聖書。過去の信徒の記録。そして、人を介した天使たちからの聞き取り調査の内容。

 その全てにおいて四文字の“神”は信徒や天使に対して相対し答弁をする『対話』ではなく、どれだけ上辺を飾ろうと相手に一方的に自身の決定を告げる『通知』しか行っていなかった事実がある。

 それを考えると今更大天使の証言が加わったところで、それは『手足』としての動かされただけで、『頭脳』としての行動を期待したものではないので“神”の思惑が見えてくるとは考えづらい。

 それに“道具”の使い方で“使用者”の思想が見えてくることもあるが、【神の戦車】の使い方など『敵の撃滅』か『謁見のための送迎』ぐらいしかあるまい。

 『何を滅ぼしたのか』『誰に会ったのか』は欲する情報であるが、根掘り葉掘り聞いてメルカバーに余計な疑念の種を植え付けるのは割に合わない。

 この質問も破棄。

 

 それならば【メルカバー】から見た過去のメシア教について聞くか?

 そう考えて、この考えは早々に破棄。

 【四大天使】とかであれば『司る権能』の広範囲さにより、権能に関連付けた劣化分霊を【天使(エンジェル)】や【大天使(アークエンジェル)】として過去地上に派遣して活動していた可能性もあるが、【メルカバー】では“神の王座”としての在り方から劣化分霊を作るのは難しい。

 そうなると、最低でも【智天使(ケルプ)】辺りの霊格での顕在となるが、過去のGPではそんな強大な存在を召喚することは不可能であった。それはすなわち過去にメシア教との関わりが無いという事であり、情報を求めても曖昧な又聞きしか出てこないだろう。

 

 

 回る廻る。

 頭を廻し、思考を巡らす。

 欲しい情報はいくらでもあるが、それはどれもこれも継続的な関係を構築し、その中でお互いの考えを擦り合わせて“思考の差異”や“何気ない他者への心象”から見出さなくてはいけない情報だ。

 たった一つの質問がクリティカルに作用するようなものではない。

 

 考えながら、ちらりとメルカバーの血肉となった素体を確認。

 非稼働状態とは言え封印術式は正常に作動しているし、それとは別に式神として縛るための術式もある。

 外部からの記憶の改ざんを必ず防げるとは確信できないが、外部からの干渉があった事を察知するには不足がある状態ではない。

 ――必要最低限は達成している。今は無理をする時では無い、か。

 

「……気になることを口走られましたが、それは後で聞きしましょうか。

 まずは“私の式神”として活動するのに知っておいて欲しい知識などを知ってもらいます。」

 

「はいはい、命令って事ね。」

 

「そうですね。取り合えずメイドを付けますので、その貫頭衣から着替えて『家』を見て回ってください。」

 

「りょーかーい。」

 

 『工房』の封鎖を解除。

 解れ消え去る結界の先に広がる外に、霊感が解放感を覚える。

 『工房』のすぐ外に待機していたメイド式神が契約のラインを通して私の命令を受諾。静々と扉を開き、メルカバーを連れ出し屋敷へと向かっていく。

 

 それを感じ取りながらも、私は工房の書架から引き出してきたファイルを机に広げていく。

 『呉教会 活動記録』『編纂教会史』『星霊神社の人間が残した記録』『滅びた地方組織の日誌』『亡命国外組織の調書』などオカルトの関係しない表の活動も含めた穏当なものから、『偽典 啓示全集』『天使と人間の交配実験記録』『悪魔と人体の置換実験記録』『人工物を使ったサイボーグ化の拒絶反応実験』などの深淵を覗き込めそう非人道的な実験記録まで。

 古くは数世紀前に書かれた歴史を感じる羊皮紙の装本に、茶色く日に焼けた手書きのノートもあれば、つい最近のパソコンで印字された文章もある。

 他者が見れば纏まりの無いごちゃまぜの紙束。

 真新しいノートに本日の日時と状況などと一緒にメルカバーから得た証言を記載しながら、頭の中でこれまでの『“神”の活動』の全体像を考える。

 

 ――これは、私が調べている事を()()()()()()()()()()()集めた『“神”の行動分析』の為の資料であった。

 

 まず前提として、だ。

 この世界において“四文字の神”は()()()()()()()()()()

 ガイア連合結成から半終末前までは疑惑でしかなかったが、現在となってはこれは確定事項だ。

 『悪魔召喚プログラムへの加護付与』や『クリスマスに起きた人間の魂の()()()()悪魔化』だけでも証拠としては十分なのに、『転生者への天使の派遣』という言い逃れの仕様の無い行動を起こしている。

 

 問題は()()()()()()()()、だ。

 これが『終末を起こし人類文明を滅ぼす』ために動いていたのであれば良い。

 既に終末を過ぎた故に、『洪水』や『メギドアーク』などによる滅びは機能しない。当然別の手段で動いているかもしれない事は警戒しなくてはいけないが、外敵への警戒は通常業務の一環だ。特別なものではない。

 しかし、そうで無かった場合、『何をしているか』を察知出来ないのは非常にまずい。

 何せ“四文字”だ。

 何を仕出かすか分かったものではない。

 

 

 積まれた資料。

 その中から一際古い洋書を選び出し、丁寧に開く。

 表紙を飾る『ダルネス家 家系図』の文字を鼻で嗤い、ゆっくりとページをめくっていく。

 

 この本は大体五世紀ほど前の()()()()()()西欧貴族が残した、家系図とその構成員の詳細記録だ。中には本家筋から分家のものまで、数百の人物が登場し、その生涯が丁寧に記されている。

 何処でもありふれた物に思える一品。

 ……当然、ここにあるのだからそんなわけがない。

 これは私が所有するもので一番古い『天使が主導した天使と人間の交配実験』の記録だ。

 

 ペらり、ぺらり。

 一枚一枚丁重に扱いながらも、目は字面を追うだけで、思考は内に沈む。

 

 内容はある意味現代と変わらないものだ。

 選ばれたことに歓喜する者。攫われ束縛され無念のままに息絶える者。選り良い“子”を生む実験のために混ぜ合わされる者。己が身を捧げる事に感謝と優越感のまま母となった者もいる。

 メシア教が存在しない時代ではあるが、やっていることはそう変わらない。

 何処にでもあるありふれた記録。

 

 そんな雑多な記載の中で、一つだけ目を引く内容がある。

 それは『親に売られた少女』と『交配のために呼び出された天使』の記録だ。

 何の変哲もない少女と、一般的な天使。

 そんな彼らの記録が何故特異なのか。

 それは、彼らが“脱走”し――それにより“何の落ち度もない天使”が()()()()()()()

 

「これは一つの基準を示唆する。

 “神”にとっては『人を弄ぶ』事は()()()()()()()事であるが、『神を疑う』事は()()()()()()()()事であるという事だ。」

 

 考えを纏めるために口に出し、ページをめくる。

 ぺらり。

 目的のページに差し掛かる

 そのページは激情のあまり文字が崩れたのが誰にでも分かる乱れたものだ。

 罵り蔑む記載者の生々しい感情。

 そこに記載されている罵詈雑言の一部、捕まった天使(堕天使)が神を疑った事を口汚く罵る文面を眺めながら考えを進める。

 

「古い記録、伝承、言い伝え。

 そこから見て取れる“神”は『悪魔』と貶められた神々とは違い、人間に対しての共感性という機能が存在しない。

 ならば自分ルールとでも言うべき規範があるかといえば、それすらも無い。自分がした約束ですら、その子孫が気に入らなければ当然に破る。

 本質的に『自分の得になる事・自分にとって気分が良い事』以外の基準が存在せず、矜持や責任感が存在しない。」

 

 一度書を閉じ、違う冊子を引っ張り出す。

 現代の白い紙を纏めたそれは、星霊神社の書庫に埋もれていた事件記録の写本だ。

 時代は昭和初期。

 短時間の内に帝都で何度も起きた各事件について纏めたものだ。

 

「昭和になる前からの海外からの圧力、震災直後からの『天使』の出没報告。

 ――そして、大正二十年とも言える西暦1931年に起きた『アバドン王』事件。」

 

 時系列的に見れば第一次世界大戦後、すぐにアメリカからの圧迫が始まり、同じ時期に被災。

 その後、急に天使の出現が確認され、『アバドン王』事件に繋がっている。

 

「【メルカバー】の証言が正しいのであれば、『アバドン王』他1931年の事件後に“神”からの自由行動の命令。」

 

 ここで注目すべきは『オカルト業界に対して第一次世界大戦後すぐにアメリカが圧迫をしてきていた*3』という点だ。

 一連の流れの最初がそれだとするならば、それは『メシア教による海外侵略の始まり』であり、『その流れに“神”が関わっている可能性がある』という事だ。

 

 浸透した国を使った圧迫。現地へ天使という先兵の派遣。

 被災後の政情不安を利用した『敵国首都への霊的攻撃*4』。

 そのアバドン王(シナド)による終末が失敗すれば、二の矢として『自由行動の名目で暗躍した天使による太平洋戦争』。

 そして、その成功体験を元に繰り返される『異教徒の殲滅』。

 

 この推論が正しいのであれば、『自由行動』とは直前の命令の踏襲する【ミカエル】の性格(習性)を読んだ命令であり、【ガブリエル】が動かさない事も後始末を考えての可能性がある。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()の現在、そしてこれからの勢力拡大を考えれば、『“四文字”への真摯な信仰』は終末前よりも増す可能性が高い。

 それを見越しての計画であったのであれば…………。

 

「メシア教の教義通り、()()()()が現れる、か。」

 

 キシリッ、と自分のものではない感傷に胸が痛む。

 もう()()()()()()()()()()()()()()から引き摺り出し奪った“記憶”に残った最後の残滓。

 “アレ”はただの人間だと、そう訴える親の情がべったりと染みついた思い出が訴えかけてくる。

 

「受け継ぐ、と。そう決めたとはいえ、厄介なものだ。」

 

 溜息を一つ。

 気乗りがしなくなったので、これ以上の四文字分析を切り上げる事にする。

 

 資料を一つ一つ手作業で戻していき、その都度厳重に封印を掛けていくがどこまで効果があるか空しくなる。

 『クリスマス』の()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()事や、たかが信仰に悩んだ程度で()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()事を考えれば、『ガイア連合の情報』は“神”にかなり見透かされている。

 せめて星霊神社並みの結界なら抜かれないと信じたいものだが……。

 

「やれやれ。終末は過ぎ去ったというのに気が滅入る事ばかりだ。」

 

 もっともっと学習できる事は学習し、もっともっと鍛え上げ、もっともっと強くならなければいけない。

 そうでなければ、()()()()()()()()()()()すら弄ばれかねないのだから。

 

「まあ、しばらくは時間が取れるだろうし、ゆっくりやればいいか。」

 

 作業台の上に何もないことを確認。

 ちゃんと全部の資料を閉まった工房から出て、母屋に向かう。

 式神との繋がりの内から【メルカバー】の案内を頼んだ相手を辿りつつ、【メルカバー】の名前を考える。アンジェラかアンジェロか、その辺りから適当に名付けてなるべく早いうちにメシア教にも顔見せをして――。

 

 

 終末前と変わらない『日差し』を浴びながら、綺麗に手入れされた庭をゆっくり歩む。

 あれやこれやと時間がある内に済ませる事を考えながら、時間があるって素晴らしいなぁ~、とこの時の私は考えていたのだ。

 

 ――提示板で“メシア”の受胎が暴露されるまで、あと数か月……。

 

*1
政治家俺たちと違って熱心に人員の勧誘をしていない。事前の終末被害想定の大小の違いはあれ、地元に基盤を持っていないと信用され難いし、終末後だと“国内”が安定し過ぎていて態々スカウトする程の必要性がないため。

*2
外殻地域の一部は念のために強制避難を実施していたりするが。

*3
星霊神社の記録なので表の政治の話ではない。

*4
アバドン王事件




 まず、作者の意見をぶっちゃけます。
 ぶっちゃけ、どくいも様が原作で“鳩”の行動を擁護している部分、まったく共感できませんでしたw

 この感想は『女神転生原作の行動がどうこう』とかではなく、作中での動きを見ていてです。
 だいたいの感想は主人公に代弁させてしまいましたが、作中で生きる一人の人間として見たら“神”の動きは怪しすぎますw

 例えばですが『イタコの長の過去』や『日本メシア教の長』の話だけ見ても、『天使の人体改造などの実験』は()()()()()()()()()()時分からやっていたやっていたように見えるんですよね。
 そうじゃないなら、ライドウが色々やった『大正十二年=西暦1931年』以降から終戦の『西暦1945年』の僅か十年ちょいの間に、天使が急に洗脳やら人体改造とかに目覚めて出来るようになったってことになっちゃうので。
 技術開発にも時間が足りないのがありますが、そもそも『子供にどんな才能があるか』とか『不具合がないか』とか調べるためには成長の為の期間が必要なので十年ちょいでは無理じゃないかな、と思います。

 そう考えると“神”は人を弄ってる天使を別に堕天使とかにする訳でもなく放置していた訳で。
 邪推すると『神の命令で』そういった事をやっていた過去もありそうです。
 そうなると“神”にとっては人間は平等に『資源』でしかなく、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()そりゃ天使が守るわけないよね、って思います。

 そのため、主人公は自身が【大工 ヨセフ】の転生体であることを自覚しているのに、ガッチガチの『四文字抹消主義者』だったりします。
 え、メシア教とか天使?
 あんなの四文字の贄であり道具に過ぎないので、『四文字』自体を滅ぼせたらどうでも良いと思ってますw
 天使については『散々DVされてイエスマンになった子供』みたいな感じに思っていますから。
 仮にも人間相手には、“神”も自分に都合の良い様に『導く』行動をしているかもですが、天使相手にはそれが一切なしで『道具』としてしか扱っていません。
 そんな扱いで、しかも少しでも逆らった天使は煉獄で永遠と責めを負わされたりしてるのを見てたら、そりゃ自由意志も善性も持てないよね、という。


 そんな作者の妄想はともかく、【メルカバー】起動です。
 式神化に辺り一切の弱体化とかないのでLV180のまま味方に参戦!……なのですが、MAGの消費があるので常に全力は主人公のMAGでも無理ですw
 そのため主な役割はメシアンの統率の為の顔になるんじゃないでしょうか……。戦闘はメイド式神とかでも十分だし。
 一応素体モデルは本人そのままだったのですが、降臨に辺り弱年齢化。
 現在は『アンジェラ・バルザック』(楽園追放)になってるイメージです。
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