【カオ転三次】DRUG FATE 作:石は転がる
今回の話は主人公が終末前にしてきた行動の結果を一度清算する話です。
色々な思惑での行動だったのですが、終末被害が穏やか(?)だったせいで予定違いも多く発生しているので、それを終末後に対応させるためのあれこれですね。
それと、話には全然関係ない事なのですが、今作は取り合えず『完結』の分類に変えてしまおうかと思います。
と言うのも、少し前、作者が久しぶりに目次を見てみたら今作を投稿したのがちょうど一年前ぐらいだったのに気が付きました。
「もうそんなになるのか」とも思ったのですが、同時に丁度良い区切りかと思ったので一度『完結』にしてちょこちょこ『オリジナル』の小説を書こうかと思い立ちました。
小ネタはまだネタ切れしていないのでちまちま書いていきたいとは思いますが、どうしてもオリジナル設定だったりが主流になるので、それなら全然関係ない『一次創作』でもいいかな、とw
まだ書いていないのですぐには投稿しないのですが、そのうち見かけたら覗いて見ていただけるとありがたいです。
世界が魔界に落ち、しかし呉の地では、空も、海も、大地も、何もかもが
そんな「本当に終末が来たのか?」と出不精の転生者たちだと不思議に思う様な平穏さで、しかしながら内実は終末の訪れによる変化にどこの支部でもまだまだ落ち着きがない頃。
私は今日も今日とて終末前と比べ物にならないほど“少ない”仕事をし、十年以上付き合ってきた“終末への恐怖”がやっと無くなった事を実感し始め、やっと半終末の頃の『メシア教の襲撃を警戒した厳戒態勢』が解けた自宅でぐっすり眠れるようになり始めたある日。
夜も更け、私もすやすや眠りについた時分に事件は起きたっ!
「――っ?! うわあぁあ?!……ぁ? お、ぉおおおぉ??」
驚愕。そして困惑。
そんな私の叫びが真夜中の呉の町に響き渡る――事も無く、防音壁で寝室の内部に押し込まれた。
「御無事ですか!」
それでも異常を検知してドアを破るほどの勢いで寝ずの番のメイド式神が飛び込み、どったんばったん廊下から聞こえる段々と近づいてくる物音は武装待機中のメイドたちの疾走音だろうか。
ちょっと現実逃避した真っ白な思考のまま、とりあえず裸の素肌にシーツを手繰り寄せ肌を隠す。
目の前の光景にメイド式神も唖然としているのが可愛らしいが、さてはて如何したものか。
騒ぎに起き出し集まってくる家族の気配と、寝室に駆け付けた武装メイドたちがやっぱり唖然としている姿。それに『やっぱり意味わからないよね』と共感し、何がどうしてこうなったか頭を捻りつつ――
「よしよしッ! よくやったよ!! それでこそ私の孫だ!!!
――それでひ孫の顔はいつ見られるんだい?」
「お婆様っ!?」
――寝室の枕元に忽然と現れた
その、透き通った
さて。
話は変わるが私は転生者が“現地民”と呼ぶ相手と多数の『契約』を結んでいる。それは表社会の約束としての契約ではなく当然オカルト側の物で、当然の如く契約を破れば『呪う』ものだ。
その大半は『ナインズ』と名付けた麾下霊能組織の所属員とであり*1、『契約』の“強度”は大まかに分けて二つに分けられている。
一つは『ナインズ』と言う組織に直属する霊能者を対象にしたもの。
もう一つは直接『ナインズ』に所属するのではなく、『ナインズの傘下に収まった組織』の霊能者を対象にしたものだ。
紆余曲折があって今ではほとんどの人員が『ナインズ直属契約』になっているのだが、それはさておき。
この『契約』、提示した私すらもちょっとどうかと思うぐらいには過激且つ無慈悲で、私としてはあくまでも叩き台として提案したのがそのまま通ってしまい、しかもその後の『契約』の基礎になってしまう程に相手からは好評で困惑した一品だ。
内容としてはそう複雑なものではない。
――相手は、身も心も……そして魂すらも差し出し。
その代わりに私は相手の血筋が生存出来るように庇護する。
相手が捧げるのは“義務”だが、こちらが授けるのは“努める”だけで良いという不平等にもある『契約』だ。この『契約』に基づき、私は彼らを終末世界で人類の生存権を保つために使い潰す予定だったのだが……。
正直、物語なんかで出てくる“悪魔との契約”なんかの方がまだ慈悲深いんじゃないかと思うのだが、契約は契約。双方の合意で結ばれたこの契約は『相手』と『私』を今でも縛り付けている。
――そう。死して尚、血肉から抜け出した魂を。
「はい、そう言う訳で『契約』の見直しをしていきたいと思いまーす。」
はい拍手ーと率先して私が手を叩くと、釣られて……と言うより付き合って、だろうか。集めた幹部クラスのナインズが戸惑いながらも拍手を返してくれる。
場所は自宅。来客対応用の大広間には机などが運び込まれ、今は臨時の会議室として機能していた。
アラベスクの壁紙を繊細なシャンデリアが照らす広い空間に、ロの字型に並んだ机。机もチープな折り畳み式の長机ではなく、しっかりと彫刻も入った木製の組み立て式のお洒落なものだ。
無駄に金が掛かっているが、この一脚一脚が半終末前に亡命してきた職人へと宛がった仕事の成果なので決して無駄遣いという訳ではないのではないと思いたい。庶民派の私としては掛かった金額にちょっと慄いたものだが。
そんな広間に集まった面子は、“呉”の地においては錚々たる顔ぶれという事になるのだろうか。幹部クラスとあって、下は未覚醒者も居るが上はレベル50を超えているのも複数居る。
なので“呉のオカルト業界”的には所謂ローカルアイドル的な知名度ぐらいはあるはずだ*2。
彼らも今の時期は『王国』の各省庁の立ち上げに忙しくしているのは知っていたが、今回は“首領”権限で強制召集させてもらった。個人的には緊急事態なので。
「『そう言う訳で』とはどういう訳だ? 何も聞いちゃいないんだ、説明しろ。」
筋骨隆々な肉体、その剥き出しの肌に赤い塗料で紋様が描いている幹部の中でも最高レベル、私の護衛部隊の長を務めたこともある男が呆れた様に説明を促してくる。
ぞんざいな口調だが何時もの事だ。
私を敬っていない様に見えて、割とナインズの中でもガチの私のシンパであったりする。この態度で普通に自分の命を私の為に捧げてくるので危なっかしいのだが。
「そう言うと思って今回呼んだ原因を連れてきています。
――ハイっ! こちらに居られるのはつい先日肺炎でぽっくり亡くられた“鶴”のオババです。はくしゅー!」
「やーやー悪いねぇ、私の為に集まってもらってさぁ。」
ドロンっと効果音と煙の演出付きで私の横に人影を出現させる。
わざとらしく半透明の人影は、先日夢枕に立った老婆だ。保護した剥き出しの魂を疑似的に受肉させて未覚醒者にも見える姿にしたのだ。
「なんだ。“死鳥”の婆、死にぞこなっていたのか。
……今回の話は引導を渡せってことか? それならさっさと終わらせるが。」
「“狂犬”の小僧が生意気言うんじゃないよ! また尻叩いてやろうかっ!」
「婆のするそれはセクハラって言うんだがな。耄碌した頭では新しい常識が理解できんか。」
鍛え上げられた体躯の“狂犬”が囀り、それに対して唾を飛ばす勢いで“鶴”のオババが噛みつく。
“鶴”のオババが体を悪くする前は何時も繰り広げられていた光景だけに、少し寂しさを感じる。
「はいは~い♪ そこまでそこまでぇ! 白鳥ばーばもお久しぶりですねぇっ! 去年の夏以来でしょうか? それでそれで亡くなられたのですかぁ? それはお悔やみ申し上げます♡ 今度墓前に鳩の生血を捧げますね☆彡」
「うちは四文字教徒だよ、この糞魔女!
……はぁ、まったく。最近の若いのは年寄りを敬う心が足りんね……。」
“狂犬”と“鶴”のじゃれ合いに、“モアブの娘”が茶々を入れるのをまたいつもの光景であった。
“モアブの娘”は布地の少ない煽情的な――と言うとうちの妻たちにも当てはまってしまうが――ドレスの上から紗のマントで隠す……ようで隠せてはいないが、うん、マントを羽織っているだけマシか。まあ、そんな恰好をした妙齢の女性だ。
あれでなかなか貞淑なのだが……と考えていると、こちらに目配せしてから自身の唇に立てた人差し指の動き。
女性と言うものは信じられないぐらいに視線に敏感なものだ、と背筋に汗を流しながら感心する。
「はいはい話を戻しますねー。“鶴”のオババ、説明をよろしくお願いします。」
そんな騒がしい流れを議長役として一度区切って話を進める。
「“首領”がそう言うんなら仕方がないねぇ、覚えておきなよ、二人とも。」
そこでぐちぐち文句を言わずには居られないから年寄り扱いされるんだよなぁ、とニッコニッコ我関せず笑って見ている“蛸”の爺さんを見て思うがそれは兎も角。
つい先日、真夜中に突然私の寝室に彷徨い出た状況を“彷徨い出た方から”証言してもらう。
と言っても、内容は簡潔な事実だ。
つい先日までシェルター内某所の病院に入院していた事。
そこで風邪を拗らせて亡くなった事。
死んだ後、何処かに導かれる流れがあったので、お迎えが来たのだと導かれるままに流れに憑いていったら、気が付くと私の寝室にいた事。
ちょうど自分の孫と褥を共にしていたので思わずガッツポーズをした事ぉ――
「って、そこはいらないですよ?!」
「いいじゃないかい、減るもんじゃあるまいし。」
けらけら笑って、もうこんな感じでラブラブでなっ!とか全身をくねらせて表現している老婆を一体どうしたものか。このまま昇天させるべく浄化でもぶち込んでやった方が、羞恥による震えを必死に押し殺して部屋の隅で控えている孫のためになるんじゃあるまいかと一瞬悩む。
「まあいいです。ええ、許しましょう。
……余計な事を更に言われても困るのでここからは私が話しますが、“鶴”のオババの出現を受けて原因を探してみたところ、どうも皆さんと結んでいる『契約』が新たに悪さ…と言うか想定外の働き?をしている事が判明しました。」
「今までの加護とは違う感じ~?」
「そうですね。“半終末”頃から出来るようになった各種耐性の付与とは力の方向性が違います。
『各種耐性』はそちらからの存在の奉納に対しての対価として与える形でしたが、今回の働きは逆に『魂』の所有権を持っている私側が所有権を主張するために収奪した……と言うのが正しいでしょうか。
『契約』が無ければそのまま死後の世界――今回だと天界でしょうか――にでも行っていたと思います。」
「白鳥ばーばも強情よねぇ。こんな世の中になってもまだ“神様”の御許に行きたいだなんて。」
「ふんっ、勝手に行ってりゃいいだろうよ。糞婆が利用されて戻ってくるようなら遠慮なく殺してやるが。」
「だまらっしゃい、小童ども! あたしゃあの羽根つき共の行動が神の思し召しとは思っちゃいないんだよ!」
「御三方とも私の話聞いてくださいねー。
――で、『契約』の話に戻りますが、私としても『死後の魂』まで貰ってもちょっと扱いに困るんですよね。流石に使うつもりも無いですし。
なので、ちょっと『契約』の更改をしませんかーというのを話し合うために今日は皆さんをお呼びしました。」
あ、契約文面の投影お願いしまーす、と控えていたメイドに言えば、空間ディスプレイが起動して各人の正面に『現在の共通契約部分』と『更改後の共通契約部分』が投影される。
改めて現在の契約内容を見てみれば“酷い”ものだ。
当時の自分の未熟を契約内容の強固さで無理やり補っていたせいで、無駄に束縛が強い文面が多い。今ならば同じ目的を達成する為でももっと穏やかで当たり障りのない文面で必要な強制力を働かせることが出来る。
それを進歩と言えば良いのか、ようやっとまともになったと言うべきか。
まだまだ自分自身の“力”を掌握出来ていない時点で『マシになった』ぐらいが一番正しいのかもしれない。
「ほっほぉー、ちょいと質問いいかな?」
「どうぞ、何でも聞いてください。」
羞恥心のあまり穴があったら入りたいな、と思いながらミスがあったらいけないと確認していると、“蛸”の翁が手を上げて質問してくる。
“蛸”の翁は出席者の中では唯一の日本人顔だ*3。ツルッと禿げた頭に日本猿的な皺くちゃの顔。齢百を超えて尚闊達……と言えば聞こえが良いが、どことなく妖怪じみた気配を漂わせる。
まあ、それも間違いではない。
私がこの地に来るまではただの引退神主だったのが、私が来てから次々と流入してくる亡命者に『これは負けてられない』と心機一転して修行を受け、何を間違ったのか『妖怪』のデビルシフターになってしまった人間だからだ。
流石に妖怪が神社仏閣代表は好くはないかなぁ、という事で一応別派閥という事になっているが、実質的には神社仏閣を含めた日本人派閥の代表者として幹部会に出席している*4。
“蛸”の字は『蛸の妖怪』の悪魔変身者だからではなく、幹部会での有様が蛸みたく柔軟で飄々としているからつけられた綽名だ。日本人的な事なかれ主義と言うにはあまりに捉えどころがなさ過ぎるので、彼にはぴったりの名だと私は思っている。
「まずはそうじゃのぉー、……『加入契約』の方を弄るのは分かったが『配偶契約*5』の方は弄らないのか?」
「そっちは弄る必要はないかと。子々孫々を縛る呪いですが、あれは最初から血が薄れれば縛りが弱くなるように設定してますからね。孫か曾孫の代には自力で破れる様になってますよ。」
「ふぅむ、一応聞いたが、まあそうじゃろうの。むしろそうなっていなくては困る。」
長く伸びた髭をしごきながらうんうんと頷く彼に、密かに警戒心がもたげる。
これは前置きだ。“蛸”の翁がこんな分かり切った質問だけをしてくるわけがない。次の質問は
「次じゃが…“鶴”の
「――ちゃんと魂食いの邪法ぐらいは想定してましたか……ッ!
はぁ、良かった。そこまで考え無しじゃなかったんですね、皆さん…!」
「おい、首領。それはどういう意味だ……!」
「えぇー、私たち、そんなに考え無しだと思われていたのぉ~?!」
思わず感動すると、お返しに非難囂々に晒された。
座った目で今にも席を立って詰め寄りそうな皆の気持ちは分からないでもない。思慮が足りないって言ったようなものだし。
しかし、こちらにも言い分はある。
「いいですか?
――普通、こんな『契約』、余程切羽詰まっていても自分からサインしませんよ? しかも、生活が落ち着いてからも、誰も変更の相談にも来ないって、私がどんな気持ちだったか分かります?
私、『皆さんからどんだけ畏れられているんだ』とか、『ちょっと不満を述べただけで粛清とかするって思われてるんじゃないか』と大分悩んだんですよ? 本当、だぁーっっっっっっれも、匂わせにすら来なくて逆にこっちが心配していたんですからね???」
『加入契約』の強権性は“日本で悪事をするつもりがない人間”の篩い分けと、亡命したばかりで信用が無いのを分かり易く理解させるつもりで付与していたものだ。
暫くしたら文句が出てくると想定していたが、相手を見極める時間さえ稼げればそれでよかった。
だから、協調性も社会性も無い相手ならそのまま使い潰すつもりではあったが、まともな人間であれば『戦闘への協力義務』とかの限定した強制力に置き換えるつもりであったのだ。
……なのに、誰からも打診も何もなく、今日に至るまでずっと初期契約のまま、しかも後期加入者も同じものを文句なく締結し続けていた。
――え゛っ、お前ら、本当にこれで良いの?って言う私の気持ち、誰か分かってくれないだろうか……。
「普通、余裕を取り戻してきたり私の事を甘く見だしたりしたら、自分達を縛る契約を鬱陶しく思うの当然だと思うんですよ。だから、そう言う申し出があったら“こっちも譲歩してやったよ”みたいな感じで、上手ーい事宥めて求心力を維持しようとか色々考えていたんですよ?
……なんで! 誰も! 文句も言ってこないんです?!
――と言いますか、“蛸”の翁は日本系土着組織との契約はここまで厳しいものではないと知っているはずですよね? もしかして、初めに加入した土着組織からは私って魂食いの化け物って思われていました? 私が強いのって、そういう事だと???」
「……はっはっは、どうじゃったかのぉー。この頃物忘れも激しくてのぉー*6。」
隠す気も無い棒読みの言葉にがっくり気力がなえる。
さすがに人喰らいの化け物扱いされていたとは思いたくない。思いたくはないが……。
――心が折れそうだ……。(某ゲームのYOU DIED音楽を流して)
「“蛸”を庇う訳じゃねぇが、誰もそんなこと思っちゃいねぇよ。俺らは騙されても『宗像三女神』が騙されるとは思えんからな。
……あー、ったく、何で俺が“蛸”を擁護しなくちゃいけねぇんだ。」
「はんっ、だからお前は犬っころなんだよ。」
「うっせぇ、“鶴”の婆が。」
“狂犬”が嫌そうに口を挟み、それを“鶴”が揶揄する。
……外からは戦闘狂やら狂戦士やら見られているが、“狂犬”が一番今ここに居る面子の中では“人を思いやる心”がある人間な気がする。年寄り連中は灰汁のに詰ったような性格をしているし、他だって癖が強いので。
――まあ、人の事を言える立場ではないのだが。
「ほっほぉー、それで、話を戻してもらえるかな?」
「そうねぇ~、“蛸”に言われて私も気になっちゃった! 白鳥ばーばはどういう状態なのぉ?」
……ほら。“蛸”と“モアブの娘”がこちらの様子を全く気にもせず話を進めろと催促してくる。
溜息。
なんかやる気が落ちているが、仕方なしに説明する。
「“鶴”のオババは完全に『肉との接続』が切れている状態ですね。こちらで医者にも見て貰いましたが、診察によると『接続機能自体が加齢による損耗で停止している』と言っていました。
この状態だと普通の復活では肉体への定着に難がありますので、復活するなら私の方で魂に新たな接続器を追加する必要がありますね。
成仏……“鶴”のオババは四文字教徒なので“眠りにつく”と言った方が良いかな? そのつもりなら、適当な天使を
「うぅーん、『普通の復活』って何なのかしらねぇ……。」
「言わんでくれんかのぉ……わしも、まだまだ慣れておらんから。」
質問者たちがちょっと遠い目をして私を見つめる。
彼らに本格的に蘇生アイテムを回しだしたのは悪魔がより蔓延る様になった半終末からなので、まだまだ『肉体的死亡からの復活』と言う事象に慣れないらしい。
まあ、誰だって死にたくはないし、死ぬほどの重傷を負いたくも無いので当然なのだろうが、結成から今までにナインズと言う組織全体で使用した蘇生アイテムの数は片手の指で数える事が出来てしまっている。
それだけ安全に気を使っているという事だが、使用方法を忘れさせないためにまた講習を受けさせないといけないかもしれない。いざという時に使えなければ意味が無いのだから。
「あと言うべきは魂の保護の話でしょうか? 現在は人界との接触による摩耗が起きない様に私の手で術式保護を施しています。なので魂の劣化については心配いらないですね。
……そう言えば、私の手元に来るまでに劣化した様子は見られなかったので、“鶴”のオババは『死亡して肉体から魂が離れた直後、私の手元に来た』のは確定で良いと思います。肉体による抵抗が無くなったから契約の呪縛が機能した、という事かな……?」
昨夜からバタバタしていて、オババの魂に時間経過による自然損耗が無かった意味に気づいてなかった。
電子カルテのデータを開けて目的のデータを探す。
――確かこの辺りに………あった。
目的のデータは麾下の病院から回収した検査時の魂魄状態だ。入院自体が加齢による老衰だったためにそこまで精密な検査はされていないが、それでもうちの奥さん*7が整備したマニュアルに沿って簡易な霊魂検査がされている。
その時の状態と、現在を比較。
全体的に多少衰えているが、それは死に近づく人間の正常な変化で、それ以外に損なわれた形跡は見当たらない
……やはり“鶴”のオババの魂が私の所に来たのは瞬間的な事のようだ。
「ふむ……冥界に行く魂を攫ったというよりも、私の所に来る方が正しい状態になっている…? 契約による横取りではなく、これが正常な状態? 何でこうなってるんだ…?」
改めて“鶴”のオババを
通常、死亡し死出を旅する魂は、己が信仰する宗教の冥界に向かっていくことになる。まあ、大抵は余程神仏にでも気に入られてでもない限りそこも経由地に過ぎず、更に深く世界に沈むように世界に溶け込んでいく事になるのだが……それは兎も角。
“鶴”のオババを視てみると、確かに契約にある枷はあるのだが
つまりなんだ。
契約に寄って無理やり引っ張って来たというよりも、当然のプロセスとして私の下に辿り着きそのまま居ついているような状態なのだ。
それこそ、死出の旅の目的地が私の下であったかのように――
「――いや、そういう事か? 契約による繋がりは案内役として道を作っただけで、魂の移動には関わっていない? となると、私の方に問題が……掌握しきっていない権能の自動作動?」
「なに一人でブツブツ言っているんだい?」
外を見ていた“眼”を、内に向ける。
雑念を消し、内へ内へ。
自分自身と言う
それは、人型だ。
銀の髪を持ち、碧い瞳をし、幼いまま性徴しない体躯。
嘗て私が『私』と目覚めて以来、常に砂が落ちるように零れ落ちていた輪郭――それは、今では焼き固められた末にガラスの様に透き通り、同時に内部では水のように流動している。
魂のメタファー。私の知覚し得る『私』を、私の理解の範囲に押し込めたそれが、この人型だった。
まあそんな話は今は関係ない。
無造作とも言える軽さで、その人型に腕を突っ込み内部を
――冥界、天界、死者の出迎え、永久の眠り、あたりの概念は何処だったかな……?
自分自身なのに碌に把握できていない中身を探す。
足先から頭も天辺まで。これは違うあれも違うと見当違いな概念を一つ一つ確かめていく。
それは、私の惰弱さの表れだった。
情けない事だが、今の私は覚醒者の基礎の基礎ともいえる『自身の把握』すら出来ていない*8。
言い訳をするなら【メルカバー】を倒したことによる急激な霊格の向上*9や、それによってやっと不調を解消したばかりだとかあるが……。
――いや、その程度ではやはり言い訳にもならない、か。
自身の未熟さに頭が痛くなりながらも次の概念を手に取って確かめる。
それは本棚に乱雑に放り込まれた本の中から目的の本を探す様な作業だ。
そう。
私が覚醒した時からの付き合いである“概念”を本に例えると、今までの私は本の重さに耐えきれずに床が抜け落ちた家屋の様なものだった。
それが近頃やっと重さに耐えられるまともな家にリフォームして本棚も備え付けたのだが、今度は適当に本棚に突っ込んだのでどんな本があるのか分からなくなっているのだ。いや、元々は読んだ事も無い本が床に山積みにされていたようなものなので、これでも前よりは楽に探せるようにはなっているのだが。
少しずつでも整理をしていかないとな、と思いつつ働いている権能に辺りをつける。
取り合えず冥府や煉獄など死者に責め苦を負わせるような場所に関する権能は動いていない。
むしろ動いているのはその真逆、楽園や天国、浄土など『死者が安らかに眠りにつく場所』や『死者が報われる場所』を形作る権能……のように見受けられる。
――いや、むしろ、
我ながらなんか変なことになっているな、と思いつつ起動している権能と、それによって引き起こされている自身の性質を読み取って推定する。
なんか体感的には『極楽浄土』と『
「いや、今はどうでも良いか。」
自身の内から外に意識を戻し、意識して言葉を発して思考を切り替える。
何か出来ていた“世界”について、詳しい事は後で調べる事にする。棚上げだ。
それよりも今考えるべきは、今回態々議題にしている『契約』についてだ。
“鶴”のオババが私の下に来た事について、“私がよく分からない事になった”のが原因で『契約』が全く関係がなかと言えばそんな事はない。
今も魂を縛る枷として『契約』が存在しているので、自発的に来なかったら力尽くで回収していたはずだ。魂なんていらないので、『契約』を変える必要性には変わりがない。
なので今の『契約』からを如何にかすることには変わりが無いのだが……。
「……あー、やばい。これだと契約変更しても私の所に来るかも。」
「――一人で唸ってたと思ったら、どうしてそう言う考えになった。言ってみろ。」
私の言葉に反応して集まる視線を代表して“狂犬”が聞いてくるのに、私は今頃気が付いた推測を述べる。
私自身に死後の世界みたいなものが出来ている事。
私を『崇拝』『信仰』まではいかなくても強く想っていると、現世との距離的に他宗教の死後の世界よりも来やすくなっている事。
ついでに従来の『契約』ではなく、新しい『契約』でも道先案内人的な効果を発揮して私の方に来やすくなる事。
ぶっちゃけ、所構わず来られても迷惑な事。
「私たちが迷惑だなんて、“首領”ったら酷いわ! オヨヨヨ。」
「なんですか、その下手な泣き真似は。」
顔を覆って泣き真似をする“モアブの娘”に呆れてしまう。まず最初に言うのがそこなのか。
「そいつは放っておけ。――それより、『契約』変えても解決しないなら『契約』はどうするんだ。」
「……『契約』は変更します。こちらもいい機会なので。
同時に予期せぬ死亡をした時に私の方に彷徨いこんだら、どの様にしてほしいかを事前に選択してもらいましょう。
1.蘇生処置を望む
2.そのまま死を迎える(希望の死後世界があれば、そこへ送る)
で、いいでしょうかね。適当に“私の神域”でも作ったら死後の魂はそちらに向かうでしょうし、手間は掛かりますが後はこちらで処理しますよ。
外界*10で活動時だと肉体の回収が難しいかもしれませんから、式神体による蘇生処置も考えないといけないですね。その場合、式神体制作に時間がかかるので魂の長期保護が出来るようにしておくべきですか。」
それっぽく庭に社でも作って権能をそちらで発揮させれば、私の所に魂が送られてくることも無くなるだろう。後は式神たちに契約の選択に沿って処理させればいい。人手は取られるがそれで解決だ。
「……おい。死んだ時、“首領”の所に必ず行くのはどれぐらい信じているとそうなるんだ?」
「さあ? 『心酔』が必要かもしれませんし、『まあまあ信じてるよ?』ぐらいでもこっちに来ちゃうかもしれませんね。要は“信仰”と“私”を比べてどちらの方を信じているかとかで決まるんですが、それを観測も数値化も出来ませんし。」
「つまり“鶴”のお嬢ちゃんは四文字の教えよりも“首領”の方を信じておったって事じゃのぉー。」
「だまらっしゃい!」
「……それで、他に質問あります?」
ニヨニヨ笑って“鶴”のオババを見る“蛸”の翁に“鶴”のオババが噛みつくのを無視して、他の面子に顔を向ける。
「そうねえ~。私は無いけれど?」
「……もう一つだ。蘇生は望まず、しかしすぐに成仏するつもりもない――そんな、現世を見届けてからってのはいけるか?」
「ん……まあ、いいかな? 魂のままだと基本的に社に縛られることにはなると思いますが、お盆なりハロウィンなりの期間限定で自由に動き回れるように出来ますので。魂だけになった後でも担当の式神に言っていただければ、式神体を利用してそれ以外の時期でも一時的に活動出来るようにしましょうか。」
「なるほどな……なら、それも選択肢に入れてくれ。それなら、うちの派閥は新しい『契約』を了承できる。」
“狂犬”の派閥は戦闘系が多いだけあって、死後というものが気になるのだろうか。珍しく詳しく聞いてくる事から、関心の高さが伺える。実際に稼働させるなら彼らとも意見をすり合わせた方が良いかもしれない。
「それならいいのですが……。
――さて、皆さん。これ以上質問や意見が無いようでしたら新規『契約』の素案を持って解散してもらって結構です。各自派閥内での意見調査をよろしくお願いしますね。」
軽く見渡して発言などが無さそうなので、私は“鶴”と“蛸”の言い争い(?)をBGMに残りのメンバーに会議の閉会を宣言する。
すると、出席していたナインズ達は慣れた様子で“鶴”と“蛸”を無視して散らばっていく。急な呼び出しだったせいで、彼らも業務が溜まっているのだろうが、速足で立ち去られると何となく自分が嫌われている感じがして寂しくなる。
――まあ、まだナインズからの脱退者がいないだけましかもしれませんが。
内心の呟きは表に出さない。
既に終末は過ぎ、次に起こる世界の流れは魔界への適応、そして開墾による自領域の拡張や確保だ。
彼らにとって過ごしやすい場を提供して来たとは思うが、それでも彼らの中には自分たちの支配下にない組織に我慢して居る必要が無くなった人間が居る事だろう*11。そう言った人間は、遠くない未来に自分たちの領域を確保するためナインズを離れていくのだろう*12。
一体何時まで彼らと共に在れるのか。
歩き去っていく後姿を見送りながらそんな事を思う。
“道具”として集めたくせに、離れられるとなれば寂しくなるのは愚かしくも情が沸いたからだろう。
――ただ、その愚かさを捨てずにいられる今を得た、その事だけは誇りたいものだ。
そんな感傷を胸に……まだ言い争いをしている“鶴”のオババため、取り合えずの仮宿になる祠でも作らないといけないな、と少し辟易しながらも騒々しく言い争う年寄り二人を見守るのであった。
なお。
後に厳島異界内・厳島神社の横にドドンッ!と建立された『神社』には、
彼らは自分たちが必要とされる“いつの日か”が来ない事を祈り、だが同時に
そのため、『王国民』になるための契約がまだ成立していないのでナインズとの契約が最多となる。
ただし、会社・企業体である『⑨グループ』は日本人がほとんどなので、そちらが日本人派閥と強固としてある。
主人公の血統を一定以上濃くするインブリードの禁止や、子供に主人公の後継者を目指す事を強制させない誓約などが複合的に盛り込まれている。
そのため、主人公の求める次元での『自身の把握』が出来る人間は求道者系俺たちの中でも稀です。
……と言うか、主人公はステータス的には
(普通は同レベル帯だと【転生者>悪魔】なのだが、主人公の場合は“魔”以外は【主人公<悪魔】になってる。それを身体強化とかの補助や立ち回りにより上手く誤魔化している。)
今回の会議には発言者以外にも多くの幹部格の人間がいたりします。
それなのに発言者が少ないのは、大派閥の長が代表して発言しているからですね。
それと、主人公の口調が軽いのは仕事じゃないからと、終末が終わったので『契約』の必要性が半ば失われているためです。
基本的に主人公は『強権を握っている』が『強権を揮わない』様にしているのですが、現在の情勢だと『契約』の拘束力が強くてもあまり意味が無いのもあります。
あと『契約』関係はあくまで“私事”何でそんなに気を張っていないです(ガイア連合関係の仕事が“公”)。
集まっている幹部も半ば身内と言うか血縁的には親族になりますし。
最後に出てきた『神社』はナインズの為の靖国神社と思っていただければ大体あってます。
死んだナインズたちの『止まり木』として機能していると言えば分かり易いかな?
全員ではないですが大体のナインズは皆ここに来て、満足するまで過ごしていきます。満足したらそのまま成仏したり、それぞれの信仰先に行ったり、或いはどこも通らずにより
死亡後の話に関連してですが、提示板の『小ネタ 終末エンジョイ()ライフ 』を読んでいて不思議だったんですが、ガイア連合の転生者死亡時回収ってどうやっているんでしょうね?
回収されている人の話している感じだと事前に契約したりした風には見えないんですよね。死後の説明も受けていないですし。
その場合、転生者は同意なしで自動的に回収されたりしていると思うんですが、そんなこと出来るのかなぁ、と。
もしかしたらガイア連合員としての規約に「転生者のみのサービス」として後から追加されたのかもしれませんが。
その程度の契約で死後回収できるってどんだけすごいんだよって思いますけどねw