【カオ転三次】DRUG FATE 作:石は転がる
これは2BとA2が機嫌を直してからしばらく経ったころのお話。
夜の自宅、寝室に消えた人間三人をしり目にバーカウンターに集まっているのは彼らの式神たちであった。
「改めて初めまして。私は随行支援ユニットポッド042。戦闘補助を担当。」
この夜、彼らが集まったのはポッドの提案であった。
ここ数日式神たちだけでの別行動がなく、全体での自己紹介しかなかったので改めて己らの役割を説明する事を提案。他の式神たちも同意してこの場に集っていた。
「2B、9Sの直掩と敵の阻害を担当している。」
「……A2、前線を担当。」
「我々がマスターの術式攻撃・防護の下、指揮されるのが現在の戦闘時の行動である。」
ポッドが今までの戦闘時の陣営をまとめて知らない者たちに伝える。
伝えられたのは二体。
寝室に消えていった百仁華の式神――ヴィーラ――と新たに朱莉の指揮下に加わった式神に対してだ。
「私も挨拶するべきですね。私は百仁華お姉様の式神、ヴィーラです。普段はお姉様とガイア連合の渉外を担っております。長い付き合いになるでしょうし、よろしくお願いします。」
「Jud.理解しました。初めまして。私は武蔵。マスターの生活全般のお世話を任されました。――以上。」
手元のワインを揺らしながら笑いかけるヴィーラの姿はとても自然なものだ。
それに対して黒い髪をポニーテールに纏め、顔以外の肌の露出がほとんどない服に身を包んだ式神は起動してから時間がたっていないためまだ言葉が固い。
「私としてはなぜおまえがここに居るか疑問なんだが、ヴィーラ。これは9Sのモノにしか関係ないだろ?」
「否定:マスターと百仁華の関係はこれからも続くと考えられる。それに伴いヴィーラとも情報交換は必要と判断。A2はヴィーラと意思の疎通を図ることを推奨する。同じ行動を2Bに対しても要請する。」
苛立たしそうにウイスキーを煽るA2にポッドが酌をしながら答える。
「私は、必要ない。私は9Sに従うだけだ。」
流れ弾の跳んできた2Bが手元のカクテルで口元を隠す。平常心を保っているように見えるが僅かに眉間にしわが寄っている。
「あら、私は必要だと思いますけど? 朱莉がお姉様と私に愛されている間、貴方達が守ってくださるのでしょう?」
空気が音を立てて軋む。比喩ではなくMAGの胎動が物理的に空気を凍らせていた。心臓の弱い人間ならお迎えが来ること間違いなしだ。
「――それこそ不要だろ。朱莉は私たちが満足させる。お前は引っ込んでろ。」
「満足させる、ですか? そもそも性交のスキルも取得していませんでしたし、求められていないのではないですか?」
けんか腰のA2に喜んで買って出るヴィータが哂う。お互い備品を壊さないだけの理性がまだあったがそれも何時までもつものか。
「……私たちの在り方は朱莉から私たちに任されている。」
ぽつりと2Bが口を割った。
「その為に朱莉からのMAGも感情は排されている。私たちは私たちが望むように先に進む。それが、私たちが、私が、朱莉に望まれている事だ。」
固く零れ落ちる言葉は苦悩か。それとも困惑か。
望まれることはあれど進むべき先を示されていない、式神としては理解できない命令に迷い苦しみ、それでもなお歩む言葉だった。
その言葉にヴィーラは寝室に目線を向けながら熱い吐息をこぼして嗤った。
「ああ、それで、でしたか。あなたたちが彼を求めるのは。」
寝室からの物音に連動して体を掻き抱くヴィーラの頬は上気している。
「触れ合い抱かれている時だけが彼の心を感じるのですね。――ああ、かわいそう。」
普段から感じる主の心とそこに加わる愛する者からの愛おしむ感情。
MAGを通じて流れ込む愛に優越感を感じて蕩けるヴィーラに、この場に戦いのゴングが鳴り響いた!
それを眺めるのはこっそりソファーに移動していた武蔵とポッド。
「Jud.なるほど。奥の寵愛争いなのですね。――以上。」
「肯定:2BとA2は自己の衝動を理解すべきである。同様に武蔵に対しても以後マスターへの感情の自認を要請する。」
武蔵に日本酒に偽装した天然水を酌しながら二体は目の前の争いを眺めていた。
これはそんな、ある夜の一幕。