【カオ転三次】DRUG FATE 作:石は転がる
忙しいと時間が経つのは本当に早く感じるものだ。あるいは年不相応の記憶が肉体の時間間隔と齟齬を起こしているのかもしれない。
近場の木々の中でも気の早いものが紅葉を始めたのを見ながらそう思う。
山梨支部で花見も済ませ、再び依頼をこなし始めたのもすでに半月近く前であった。
春先、いろいろと依頼について考えを巡らし情報を集めていたが、結局役に立つことはなかった。以前結界から何から弄った霊能組織の歓心を買い過ぎたらしく、指名されての依頼が来るようになってしまったのだ。
ガイア連合としても地方の盟主的な組織との折衝を行う担当者がいてくれた方が助かるらしく直接的に薦められてしまった。
木っ端の組織ならともかく歴史ある組織で、場所も本州四国九州の龍脈の結束点に影響を及ぼせる地点であり、下手な管理をされてしまっては一気に活性化を引き起こしかねない危険な地帯である。それなりに技術のある人間を配したいというのはよくわかる話であった。
折しも西日本の連絡不通の組織の調査もほぼ終えてしまったこともあり、私は悩んだ末に受けることにした。
依頼の自由度が多少減るが、悲しいことに地域一帯の依頼だけでもかなりの数があるので仕事は尽きはしない。マッカ収入も立ち入りが許されるようになる大異界を利用すればそう変わりはしないだろうと予想していた。
問題は地域一帯のガイア連合員の監修も暗黙的に仕事の一部に含まれていることである。
今までガイア連合山梨支部の運営が根願寺からの依頼の中継をおこなっていたが、直接地方からの依頼を持ち込まれるようになると事務管理の一部を地方に移すことも模索し始めたのである。
今はまだ新たに作られた派出所に運営から派遣されてきた管理人が居るだけだが、将来的にガイア連合員のシェルターを兼ねた拠点を作るためのテストの場所でもあった。許可をもらっているとはいえ既存の結界に連結して地域全体を管理を出来るようにしているので、地方組織の乗っ取りともいえる行動である。
拠点の事を考えると半ば根を下ろすことになりそうなので、周囲の組織などとの関係の構築もしなくてはいけなくなったため異界に潜る暇がないという本末転倒を起こしながらも積まれたタスクをこなす日常をおこなっていた。
派出所の立ち上げに雑多に存在する組織への面通し、合間を縫って便宜を図ってくれる表の人間にも顔を合わせ、依頼を受けるガイア連合員のサポートと目の回る忙しさであり、神主ではないが分身したいものだ。
そんな日々の中で、私は無理やり開けた時間で一週間ぶりの異界破壊にやってきていた。
後継者不足で何十年も前に廃村になって無くなった組織が管理していた霊地が異界化したのだ。距離的には日帰りできる近さなのだが、すでに獣道すらなくなっていたので依頼を受けてくれる人間が居ない塩漬け依頼の処理だ。なまじ依頼が増えているからこそ一時の様に山奥だろうがマッカを求めて解決に行くような人間が減ってしまっていたのだ。
久しぶりに引っ張り出してきたキャンピングカーの中で移動中に自主研究開発の稟議書を確認していたが、尻を振り回して山道を進んでいた動きが止まった。研究結果や途中報告のレポートも確認しておきたかったがどうやら時間切れらしい。
ここ最近は許可を出すばかりで結果の確認をする暇がない。最後に実験室を訪れたのはいつだったか。確か花見の後だったと思うが忙しすぎて時間感覚があいまいになっていた。
次の自己メンテナンスの時の予定に研究発表を加えておく。ついでに予算の話し合いも必要だろう。
今はまだ貯蓄と収入で賄えているが、これだけ忙しいと将来的にマッカを賄えきれなくなりそうだ。その時の話は今の内からしておいた方が良いだろう。
新たに積みあがるタスクにため息をつきながら手に持った書類を片付けていく。
すでに装備も着用して待っている式神たちの姿は前と変わりがなく見える。装備自体は変わっているのだが、デザインを気に入っているのか前の物と同じような物を本人たちが希望しているからだ。ただ、たまに下着をガーターベルトに変えてみたり際どい切れ込みを入れてみたりと遊んだ意匠を式神たちが制作者と相談して作っている。その様子を神主も興味深げに見ているらしい。
片づけを終わらせ車を下りれば向かう方向は藪と木々に包まれた森で道の欠片も見当たらない。
分かり切ったことであったのだが地上を進むことは諦める。元々予定していた移動方法で行くしかない。
「ポッド、よろしく頼むよ。」
「了解:本機の念動能力を浮遊に全力使用。確実な保持を推奨する。」
「では、A2、先導を頼みます。2B、武蔵も。」
「「了解。」」「了解しました。――以上。」
各々の返事が響き飛び立つ。
式神の生身化は多種多様な人間らしさの獲得といった利点で隠れているが確実な欠点が一つある。
それは初期であればできた飛行が出来なくなっていることだ。昔であれば抱えて飛ぶことも不可能でなかったが、今では式神は地に足を付けた存在になってしまっている。
人は飛べないという常識的な概念なのだが、実はこれはLVが上がるといろいろと抜け道が出来てくる。純粋な飛行能力の再獲得をする式神もいるであろうが、私の式神たちは重力概念を利用した軽量化と念動を利用した移動及びに足場の作成による疑似的な飛行を身に着けていた。
森の木々の上を矢のように進む式神たちと違って、私の歩みは撥ね跳ぶようなものだ。ポッドに掴まってポンポンと飛ぶ姿に優雅さはかけらもない。正直式神に運ばれた方が速いのだがこれからも同じような移動をしなくてはいけないことを考えると練習しないわけにはいかないのだ。
「ほら、がんばれがんばれ。あと10分ほどだぞ。」
「A2、警戒は怠らない。」
「わかっているさ。2Bはまじめだな。」
楽々とバックステップしながら笑ってくるA2と比べると2Bはやや動きが固い。今までの運用で経験に違いがあるからだろうか。
武蔵はスカートの裾が広がらないように清楚に移動しているので余裕があるのかないのかよく分からない。会話にも加わらずにいるのは性格なのか人間味の不足なのかもわからないものだ。
そうやって森の上をひーこら言いながら進んでいると感知に異常を感じた。
進行方向から結界を感じるのだ。
「A2!」
「わかってる、2B。先行する!」
私の知覚を感じたA2が遊びを消す。ぐっと力を入れて跳ぶと一歩でかなりの距離を離された。
2Bと武蔵はすかさず前後を挟み私を地面へと誘導する。空中で待機も出来るが、無駄に目立ちMPも消費するよりも木々の間に隠れた方が安全だからだ。
枝を切り飛ばし誘導された先は変哲もない山肌だ。周囲を軽く警戒するが危険は感知できない。
「武蔵、確認です。私たちがこれから向かう異界はすでに管理が放棄されて十年以上が経っていますね?」
「Jud.厳島より提供された資料によりますとそうなっております。放棄後の霊地整備は一度として行われた記録がございません。――以上。」
「2Bは視認できました?」
「隠蔽術式は確認できた。大本の結界は見えなかったが隠蔽は日本系列の術式ではなかった。」
情報の更新を行う。
まず最初の質問でかつての組織が残した結界かどうかを確認するが当然遺構ではない。そうであれば老朽化によるほつれがあってしかるべきなのだ。
次の質問でそれがほぼ確定する。2Bの知識量の不足でどこの術式化までは判別できないが、神主が使うから見慣れている仏教や神道系列の術式ではないことは断定できたからだ。
手入れのされていない暗い森の中で思考を進める。
まず相手がどこのだれかは考えない。情報が足りないので考えるだけ無駄だからだ。
この場所からの移動についてはどうだろうか。特に隠れて進むこともなかったのですでに接近したことには気が付かれていると思う。敵ならば守りを固めるか、こちらを狩りに来るかの動きになるはずだ。狩りに来た場合、動かないのは悪手にも見えるが動いたところで移動の痕跡やMAGの残り香を消し切るのは手元の道具では不可能であるのでどちらでも変わりはしないだろう。
それにどちらの動きにしても分かり易く動くA2を無視してくることはまず無いであろう。それならばA2の帰還を待って動くのが正しいか。
「二人とも、A2が帰還するまで待機します。」
「了解。」「Jud.」
時間があるので周りの植生なども把握しておく。結界を張った相手がこの辺りも弄っていたら何らかの不自然さがあるかと思ったが特に見当たらない。見当外れだったようだ。
「よっと。待たせたな。」
それほど時間をかけずにA2が戻ってくる。わざと少し離れた場所で地面に降りてからゆっくり歩いてくるのは、変装などを警戒して決めた動きだ。契約の繋がりも感じるし特に状態異常にかかっているようにも見えない。
「A2、どうでした?」
「家は当時の物をそのまま再利用していそうだ。泡食って出てきたのはクマの毛皮を被った人間だな。見た限り私を楽しませてくれそうな奴はいなかった。」
候補の中からメシア教を外す。奴らなら死んでも祭服を脱いで死んだりしないだろう。いやな信用だが戦闘の可能性がある場に祭服以外で出てくる可能性がないのだ。
そうなると外国系の宗教が考えられるがそれ以上候補が絞れない。力の象徴である熊の皮を被るのはどこでもやっていることなのでそれだけでは判別がつかない。
A2が戻ってきても動きが見えないのは、まごついているのか守りを固めているのか。すぐに行動に移って捕捉してくるほどの組織力はないと見るべきか。
相手の所属・目的・力量を鑑みて意思を決める。
ガイア連合はすでに近辺で活動をしているので、このまま正体不明の相手であるよりもまずは正体を判別すべきだ。この一帯の最高戦力を自負する私が相対するのもお誂え向きであろう。
「……よし。集落に向かいます。各員警戒はしてもよいですが敵意は発しないでください。」
「わかった。武器はしまっておく。」
「了解。せいぜい大人しくしているさ。」
「Jud.足元に気を付けてまいりましょう。――以上。」
「承認:警戒を続行します。」
バラバラの返事に苦笑して道なき道を集落に向かって進んで行く。特に足音などに気を付けたりしないが、警戒をさせないためにMPを使う行動は控えておく。無駄な努力かもしれないが何もしないよりはいいだろう。
さて、鬼が出るか蛇が出るか。
最悪に対する備えだけは考えなくてはいけないのだろうか。
そこはどことなく空気の臭いが違う不思議な空間だった。
結界の中は地脈を弄ってあるのか周囲では見当たらない植物が生い茂っており、何処の国の物かは判断できないが北方の物のような印象を受ける。急に背の高い落葉樹がなくなり針葉樹の森になったからであろうか。
結界内に入っても出迎えはないのでそのまま進む。
歩くたびにおおよその環境改編の方向性を六感で感じる。MAGに乗るのは故郷への郷愁だろうか。
印象の通り内部の環境は寒冷地の物なのだろう。
降り積もる雪に乾いた風。春は短く夏は過ぎ去り秋の訪れは冬の前触れに過ぎない。人も大地もそんな土地で生き抜くために備え、営みを繋げていく日々。
その地をこの場所で再現するために積み重ねたのは何世代か。おそらく四半世紀前に管理者が居なくなったと同時に改編は始まったのだろう。
六感からの情報を分析しながら藪をかき分けたると、先が開け視界が通るようになる。
感知していたが四十ほどの人間が警戒の目でこちらを見ている。
驚くことに集まっている人間は全員覚醒者だ。
A2に聞いていた熊の毛皮を被った人間は戦士であろうか。上半身に皮を羽織っているがその下は裸で弓や槍で武装をしている。
もう一種、戦士に見えるのは同じく上半身が裸であるのだが塗られた紋様が異彩を放つ人間だ。
熊皮と別の戦士だと判断したのはズボンや装束の意匠が全く別なものだからだ。金属を全く身に着けていない熊皮とバングルなどを装着している紋様の戦士が一緒の理念であることはまずないであろう。
そう言った戦士たちの後ろに控えるのは術師であろう。分かり易く杖を持ちマントを羽織っているがこちらの意匠も独特だ。男女が混じっているがその誰もが正中線を晒すか透ける衣装に身を包んでいる。意匠からすると熊皮が近いか。金属を身に着けていないが何らかの石を拵えている人間もいる。
魔術結社としては統一性がない。まるで似ているからと雑多に纏められただけの集団だ。
「こちらはガイア連合所属の者です。当地には管理放棄された霊地が異界化を起こしたとの判断で討滅に参りました。この地は無人の土地であると認識していましたが、あなた方はどのような集団ですか?」
事前に決めていた“警戒されているがいきなり攻撃をされる事もない”時の対応をする。
先制攻撃をされないでよかった。されていたら有無を言わさず殲滅しているところだ。
声を発し代表しての発言をしたからだろうか。弓の照準がスッと無防備な私に集中した。
その瞬間に式神たちが怒気を抱くがすぐに私の意思をMAGで流すと収まる。
どうやらその変化も感じ取れないレベルの覚醒者らしい。最初から測っていた力量から変更なしだ。
「よく来られたガイア連合からのお客人。こうして我らの所に客人が訪れるのは半世紀ぶりかの。」
集団に隠れるように控えていた老女が奥から出てきて日本語で言葉を発する。
力量的に年齢は見た目に足すことの十くらいだろうか。齢八十ほどだと思われる女性は術師としては一番装飾が多い。分かり易く一番上の立場なのであろう。
下手に戦士階級の一番上の人間などではなく統治階級の上が出てきてくれてよかった。状況判断の責任が取れる人間でないと会話が面倒だった。特にこの集団は日本人が居ないようなので言語の心配もしていたが、普通に日本語で会話できるのもありがたい。
「アポも取らずに申し訳ありません。誰も居ないとはしゃいでいたら人がいるようなので慌てて挨拶伺いに来ました。」
朗らかに能天気を装って言葉を発する。
さて、どう反応するか。
十にもなっていない子供の言葉だ。周りが止めない事から一番上の立場とみるか子供の戯言とみるか。或いは式神が人間でないことに気が付くか。
「これはご丁寧に。このような場所で立ち話もなんです。よろしければ茶の一つでもどうじゃ?」
今の言葉でここが完全に隔離されて生活している場所でないことに確信する。日本の文化に触れて普段から使っていなければこのような言葉は出てきまい。
どう反応を返すべきか。
ここでゆっくり相手の事を知ってもいいが予定としては今日しか空きの時間を作れていない。最低限異界の消滅はするが、会談の後に条件を付けてやるよりも相手の事情を鑑みずに先に消した方が手間が少ないだろうか。
おそらくこの集落はすでに異界から出てきた悪魔に襲われている。戦士の肉体に刻まれた傷跡は新しいし、私たちに気が付いてからの動きが警戒をしていなければ早すぎるからだ。客も来ないと言っていたのが本当ならば来たのは悪魔なのだろう。
「お誘いはありがたいのですが、仕事で来ているので先にそちらを片付けてしまいたいかと。後でもう一度立ち寄ってもよろしいですか?」
「気が利かんで悪いの。異界はこちらでも把握しておる。それならばこちらから案内の一人もつけよう。ハチ、お客人にマガツ空を案内せよ。」
ある意味予定調和か。人を付けるのも案内人というより監視だろう。
呼ばれてこちらに頭を下げるのは女性の術師の一人だ。恥ずかしげも無く正中線を晒しているのは他と同じだが、身を隠す生地すら薄く肌が透けている。
こちらの面子が女性が多いからの気遣いか、それともハニートラップだろうか。それならハチは蜂だと変な納得をするが。
「このまま向かうので、急なことですが準備はよろしいので?」
「はい、問題ありません。こちらになります。」
挨拶もそこそこでスタスタと歩きだす姿に困惑する。当たり前のように動き出しているが仮にも初対面の人間を武器を持った集団を突っ切って来させようとするだろうか。
「これ、ハチ! あぁ、仕方ない子だね。ほら、お前たちも早く道を開ける!」
案内を任せた老婆も慌てて道を開けさせている。周りも困惑しながら武器を下ろしてくれるので、私は軽く礼を言って先を進んで行く彼女を追いかけた。
両肩につながる木工細工がマントを止めているが、マントも反対側の光を通すほど薄い。
呪術的な意味があるなら仕方がないが戦闘に赴く格好ではない。まあ、それを言ったらガイア連合員の全員に返ってくる言葉なので口に出したりしないが。
裸眼の霊視なら白黒程度しか分からないが、補助器具を使うと式神から送られた情報で色まで見えるから目に毒だ。見ようと思えば凝視しても気が付かれない状態は、私の常識を削ってくる。
そんな馬鹿げた事を考えながら横目で村の様子をうかがう。当たり前だが電線などは見当たらない。田んぼであったところに伸びているのは麦だろうか。二毛作でもしているのか作物が植わっている。煙は見えないが薪が積まれているのが見える。住居は放棄された村を再利用しているようであるが、それとは別に同じような日本家屋が立てられている。
そのような日本の原風景の中を生活臭のある外国人達がこちらを窺うのに違和感がないのが面白い。服飾は外の世界の物でどこから手に入れたのか農耕機具が倉庫に置いてあるのも見えた。
観察をしている私に気が付いているのかいないのか、一度も振り返らずに進んでいたハチが村から離れて森に入っていく。
道は獣道程度だが整備されている。
私の感じるところ、この近くの霊場は二つだが異界化しているのは村から離れた霊場のようだ。距離的には村から半時ほどで着きそうか。勿論山道で余計な時間を食うが遠い地ではない。
見るべきものが減ったので再び考えを空回りさせ始める。
村の様子は日本の田舎そのもので西洋の息吹を感じなかった。勿論、呪術的に必要な文様や道具が散見されたがあくまで日本の村にそういった道具が置いてある程度の物だ。
このことからメシア教の可能性は早々に消えた。彼らは宗教様式を変えて隠れて存在する必要がない集団だ。堂々と他者を侵食することを尊いと思っている。
外来の呪術結社の拠点とも考えたが、それにしては日本に溶け込み過ぎている。隠れたり誤魔化したりする必要があっても溶け込むことは違和感がある。
つらつらとどうにも答えが出ないことを考えていると異界にたどり着く。入口は何の変哲もない日本の森だが彼らの結界に区切られた奥は見通せない。吹き出るMAGの冷たさから中は冷えていそうだ。
「それではこちらです。」
「ちょっと待ってください!」
当たり前のように異界に入ろうとする案内人を慌てて止める。振り返り不思議そうに首をかしげているがこちらが不思議だ。
「入り口までの案内でいいですよ。異界には私たちだけで十分ですから。」
「いえ、中の案内を命じられておりますので入ります。」
「中の情報をお持ちで?」
「ええ、ここは私たちが管理していた異界ですから。急な活性化で乗っ取られましたが内部はよく知ってます。」
もとは彼らの管理下だと思ってはいたが自分たちの恥を話していいのだろうか。あまりに平然としているのでどう思っているのか判断がつかない。
普通に考えれば管理地の暴走と自分たちでの解決が出来ていない事は外に漏らしたくない事だろうが彼らは違うのだろうか。
なんだか難しく考えすぎていたのだろうか。近頃組織間の折衝などをし過ぎて気を回し過ぎたように思えてしまった。
「あーー、……はい。異界の中では私と離れないでください。無事を保証できませんから。」
「……? わかりました。」
おそらく干支が一回り上ぐらいの年なのだろうに随分と素直で純朴な返事だった。
なんだかどっと疲れたのでさっさと異界を壊して帰ることにする。元々集落で時間を取るつもりでいたので行動自体は決めていた通りだがそれ以上に早く休みたい。
無言で隊列を組んでいた式神たちを連れて異界に入ると、中はひどく煩い異界であった。
赤黒い空からの光が吹雪く雪の白さを塗りつぶして視界を赤く染める。ごうごうと風は吹いて煩いは足元は膝程まで雪が積もっていて歩きにくいはで環境がよくない。しかも雪は染めたMAGのせいか下手に触れ続けると凍結の状態異常にかかるトラップ仕様だ。
その視覚と聴覚を潰した所を悪魔が襲い掛かってくるので強さ以上の厄介さを持った異界だ。
「はぁ、面倒ですね。力押しします。全員余り離れないでください。」
最初は雪除けの結界などで対策をしようかと思ったが早々に諦めた。消耗を嫌えば無駄に時間を浪費するだけだ。
私は雪と寒さを取り除く結界の周りに幾重も炎の輪をえがく。外円で大体直径50mほどだろうか。積もった雪も燃やし道を確保する。
凍結に染まっていたMAGを無秩序に解放される端から整えて自分に流し込み消耗を回復する。MP収支的にはプラスだが多少気を使うのであまりやりたい行動ではない。
息を呑む気配が横からする。
そう言えば、あれほどの薄着で寒くはないのだろうか。念のために結界内の温度を少し上げておく。
道さえ出来ればあとは主の気配に向かって進むだけだ。
露出した地面をどんどん進んで行く。敵が出ても私たちの下にたどり着くまでに燃え尽きる程度の強さしかないのでただのカモだ。
「やれやれ、今日の仕事は落ち穂拾いか。」
普段は真っ先に敵に食らいつくA2が倒れた敵から戦利品を回収するだけの作業に文句を言う。本気で言っているわけではないだろうが暇そうだ。
他の式神にしても警戒はしているがやっていることはただの散歩だ。雪だけを燃やすようにしているので、たまに雪の下で生き残っていた草を見つけては観察している。
「あ、それは薬草ですね。主に儀式に使いますがお茶にしてもおいしいですよ。」
その散歩をしている一団に馴染んで霊草や霊石を集めている案内役は肝が太いというよりマイペースなのだろう。
派手に移動しているので引っ切り無しに悪魔が来ているのにおびえた様子も見せないのはすごいことだと思うが、2Bを護衛にちょくちょく離れて収穫をするのはやめてほしい。警護のために注意が向かう視界に下着も着けていない上や下が透けて顔を覗かせているのが居心地が悪い。その様子に気が付いている武蔵が今夜の予定を聞いてくるのもやめてほしい。
グダグダのまま主を倒して一息をつく。内部の悪魔はそこまで倒していないので早晩再び異界が出来るだろう。一応龍脈を整え結界も繕って応急処置はしておくが早めに対処はしておきたいものだ。
異界での収穫でほくほくしている案内人は戦闘をして命の危険を潜り抜けたわけでもないのに強くなっているような気がする。2Bに聞けば分かるかもしれないが、2Bのアナライズは自分を基準に強いか弱いかで判断するので分からない可能性の方が高いか。
このまま帰ってふて寝したいがまだやることがあるので集落に向かって歩き始める。
2Bと仲良くなったのか集落の情報をぽろぽろこぼしているのを盗み聞ぎしながら歩く道は、異界の中とは違う紅葉した落ち葉の鮮やかさに舗装され次の仕事場までつながっているのであった。