【カオ転三次】DRUG FATE 作:石は転がる
広島の山奥に存在した組織に名前などなかった。
いや、組織というのもおこがましいのかもしれない。
彼らの始まりは今世紀初めの大戦前夜の事だ。
科学の進歩と神秘の接触が行われ始めた時代。彼らの元になるのは東欧の森の中にある田舎の村ごとに存在した拝み屋でしかなかった。
時代が科学と進もうが田舎の村には関係がない。昔から続く薬師として村の一員として過ごしていたのが彼らであったが、この時代の流れに押し流されていくことになる。科学の発展とともに神秘への失望が起こったがゆえに、眼に見える存在を崇めるメシア教が興盛してきたのだ。
メシア教自体はこの時期はまだ主流ではなかったのだが、その源流をたどっていくと魔女狩りを推進していた一派に思想的にたどり着く。そうであるが故の必然性かメシア教は魔女狩りに熱心であったのだ。
その被害にあったのが村の呪術医としてバラバラに暮らしていた彼らであった。
ある者は嬲られ、傷つけられ、弄ばれる。
そんな状況に彼らも安穏としているわけもなく、村から離れ寄り集まり出来た集団が組織の走りだ。
その集団が出来上がったころ、歴史も大きく動くことになる。
世界大戦の始まりだ。
詳しい経緯は省くが、彼らは大戦から逃れるために東に東にと逃げ、ある森に隠れ潜むことになる。その頃には初めに集まった魔女と呼ばれる霊能者以外にも排斥された霊能者が寄り集まり、そこそこの数になっていたために腰を据える場所を求めていたのだ。
雪深い森の中、彼らはようやく足を止め暮らしを安定させていったがその平穏も破られることになる。
第二次世界大戦。ソ連領に隠れ潜んでいた彼らをメシア教が見つけたのだ。
第二次世界大戦とメシア教の策謀は資料の少なさからはっきりしないが、当時戦争が始まる前から西に向かって工作していた天使たちの一部が足場としていたソ連に異端が居ることを見つけ、天使たちに彼らは再び追われることになる。
東に東に、追われるがままに数を減らし、また他に追われたものを吸収して移動していた彼らが最終的に逃げ延びたのが戦後の日本だったのだ。
国内のどこもかしこもガタガタであり霊能組織をメシア教に壊滅させられている途上の日本だったが、地元の組織ではなく完全に孤立した生活を送っていた彼らはどうにかメシア教の目を免れて山林に潜伏。
時代の流れで隣の霊地が空くのを見計らって廃村に進出。
そして霊地活性化の末に私に見つかることになったのだ。
「えっ、これを私がメシア教と調整しないといけないんですか?」
山村から離れ私の下につけられた部下から聞き取りした内容に思わず言葉が漏れた。
それをキョトンと見ているのは部下になったホーネット――ハチと呼ばれていた女性――だ。彼らの風習で魔女名として己の役割を冠するらしく、彼女は蜂としてミツバチとスズメバチの両方の役割を期待されているらしい。
つまり養蜂と毒殺、そして手籠めだ。
彼女は彼らの集落からの分かり易い人質であり土産だ。将来的にではなく今すぐにでも私とのつながりを求めているのは彼女の補佐に二人ほど女子が付けられていることからもわかる。補佐役の二人は私と同世代なので今の時間は学校に通わせているが。
今は対外的な役割としてスズメバチ改めホーネットを名乗る時期村長に内定していた彼女に、村の受け継いできていた歴史を確認していたのだが思わぬ事情に頭が痛くなる。
すでにこの組織の長は私が勤めている。
そして私は近隣のメシア教と折衝している。
どう考えても話を通しておかないとこじれるのが眼に見えていた。
「あぁー、早めに教会に立ち寄ってすり合わせしておかないといけませんね。武蔵、スケジュールの調整とアポイントお願いします。」
「Jud.年内にお会いできるよう取り計らいます。――以上。」
今日の執務を手伝ってもらっていた武蔵に予定を頼む。
今日は2BとA2は休みで、山梨支部や他の地域からこの地域に引っ越してきたガイア連合員の表の店にショッピングに出かけている。奇抜な商品ばかりで売り上げはよくなさそうだが趣味の店が多いのでなかなか面白いらしい。
武蔵はそういった趣味は無いようだが、茶葉や茶器にこだわっている姿がこの頃見え始めた。まだまだ仕事優先の思考みたいだがこれからどう変わっていくのかが楽しみである。
「さて、あなたたちの術式様式に合わせた装備は届いていると思いますが不具合はないですか?」
そんな思考をつゆとも漏らさずに話を進める。
装備班に発注した装備はガイア連合員のための物と比べると一枚落ちるとはいえ、今まで見てきた限り現地組織の物とは比べ物にならないぐらい高性能であるはずだ。ただ、データを送っただけで直接採寸したわけでもないのでズレがある可能性と製作者が趣味に走りすぎた可能性がある。
届いた装備を彼らに確認させているが報告はまだ来ていない。
「はい、問題ありません。どの装備も装着・機能に不具合はありませんでした。」
「それは良かった。上半身の露呈部分が多いので概念的に装甲を覆わさせましたが、調整が難しいので多少は失敗作が来ると思っていました。製作者には感謝しておかないといけませんね。」
彼らの術式は私の特性と似ているが、外部からのMAG吸収を重視しているために肌を晒す必要があるという違いがある。その露出部分をどうにか守らせようと要望を出したのだが予想以上にうまくいったようだ。同調が上手くいくようにそれぞれ専用の装備にした甲斐があった。
一応配下なのだから装備の馴らし確認と吸収するMAGの無害化の訓練に、私も監督する時間を取らなくてはいけないだろう。
さて、どこに予定を入れるべきか。
悩んでいると、そう言えば、といった感じでホーネットが言葉をつづけた。
「指示書きにあった通り装着後の写真も一式送っておきました。」
「……指示書き?」
「はい、装着方法と一緒に入っておりましたが問題ありましたか?」
「あー、いや、問題ない。問題ないはずです……。」
なんとなく嫌な予感がするがこの時の私は深く気にせずメシア教との会談へと考えを移していた。
ちなみに。
至極真面目な理由で露出マシマシのエロい装備が作れるとあって、新たにこの地に出来る支部にそういった装備を製造する人間が紛れ込むのはそう遠くない未来の話だ。