【カオ転三次】DRUG FATE   作:石は転がる

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この話から出てくるあるキャラクターは、どくいも様のスレに『とあるキャラクターのTS姿』として登場しますが、この話では別人として出演しています。
ご理解の程よろしくお願いします。


三年目
15話


 前世でもそうであったが日本の一神教徒のほとんどは首都圏に居る。

 これは横浜などの開港地が主な布教の場となっていたことに関係するのだが、実は人口比で見ると九州や瀬戸内海沿いなども歴史的な影響で多い地帯となっている。

 

「よくお越しくださいました、天使様。」

 

「せめて名前を呼べ、メシアン。」

 

 広島に腰を据えて周囲の対霊組織と協調していくにあたって交流は不可避のことであり、ガイア連合の運営とも相談したうえで私はここと交流を保っていた。

 ガイア連合の派出所がある街の対岸。

 米軍の基地もある一帯を霊的に収めているメシア教の教会は、米国との親密さを物語る様に入るにも許可が必要な住宅街の一角にあった。

 この区画は米軍かメシア教関係者しか居ない。気持ち的には敵地も敵地だが私はここで酷く敬われていた。

 

 くそったれなことだ。

 

 胸中の悪態はさすがに出せない。が、外面を取り繕うのも難しいしするわけにはいかない。下手に穏やかに対応すればすぐさま引き抜かれて頭メシアンにされかねない熱が彼らにはあった。

 最低限の礼儀を守りつつ話を進める、進めなくてはならない。

 ここではため息の一つ吐くことすら憚られる。拒絶の態度は出しても自身の気持ちは出してはいけない。

 

「本日はお呼びして申し訳ありません。」

 

 天使呼びへの苦情がスルーされるのは毎度のことだ。

 五十程の女性は何年か前にこの地に赴任してきた女司祭だ。他の一神教宗派ではまずない女性の司祭が認められているのはメシア教らしいというべきか。経典の解釈よりも天使の言葉が優先されるが故の柔軟性だ。

 聞くところによるとアメリカから日本に赴任するにあたって日本語を覚えたらしい。分かり易い信仰の人なのであろうが、そんな人間が率先して人の事を天使扱いするのでこの教会では半ば私が人間扱いされていないように思える。案内やら世話やらはすべて修道女で、ちやほやされるが鼻を伸ばすより先に背中に冷たい汗が流れるのが正直なところだ。

 やたら国籍豊かな彼女たちはその誰もが美人であったのがそれに拍車をかける。用意したのか、それとも通常の行いとしていつもしているのか怖くて聞けたものではない。

 

「こちらから伺わせて戴こうかと思いましたが、周囲が五月蠅くなるのを嫌っていらっしゃったのでご足労願いました。」

 

「前置きは結構です。本日はどのような用件で?」

 

 横からお茶を配膳されるが口をつける気もない。格好とて最初の訪問時は礼服だったが今では防具に武器まで所持している。それを何の問題なしと受け入れられている現状は薄気味悪さしかないものだ。

 

「ではお言葉に甘えまして。まずは新会社の相談役への就任おめでとうございます。」

 

 顔をほころばせて笑う婦人に苦いものを感じる。

 一体どこから情報を得たのか。会社が出来ることは隠してはいないが私の就任は大々的に報じられているようなものではない。伊達に日本の圧迫をしてきたわけではないのだろう。

 聞きたくないと思う気持ちを押さえつけて無言で先を促す。

 

「物理の研究所と聞きしましたが私共もお力になれるかと。一人紹介したい者がいるのですがどうでしょうか?」

 

 横に控えていた修道女が用意してあった資料を机に置いて下がる。去年来たときは普通の野暮ったい修道服だったはずだが、今横目で見ればボディーラインを際立てて大きくスリットも入ったものに変わっている。

 

 嫌な事に気が付いた。気分を変えるためにも渡された資料を確認する。

 資料は履歴書だ。ご丁寧に日本式に合わせてある。

 張られた写真は金髪に青い瞳の女性。ざっと経歴を見るがフィクションのような天才的なエリートだ。持ってる博士号だけで学歴欄が埋まり職歴と資格を書くために文字がだいぶ小さくなっている。

 軽く見ただけでわかる破格の人材だ。というか、二十代なのにアメリカですでに研究所の所長に就任している。

 こんな人間がわざわざ極東の出来たばかりの研究所に来るわけがない。そう否定したくなるがそんな道理はメシアンには通じないのだろう。

 さすがに彼らにとっても大駒であってほしいが、世界中の信者のネットワークを辿ればこういった人材はそこそこいるのだろう。そうでなければ流石にポンっとくれはしないと思う。

 

 贈り物にしてもスパイにしてもこれを断れるかどうか。

 産業スパイだなんだと理由をつけることは出来るかもしれないが、今のガイア連合的にはメシア教を刺激したくない。研究所も表の物で機密性の高いオカルトを研究するわけでもない。危機管理としても許容の範囲ではある。

 

「使えそうな人材ですが急に割り込まれても所長などはすでに決まっていますよ? まあ、室長ぐらいなら用意させていただきますが。これほどの人には不満では?」

 

「まあ、それはよかった! 役職などは私も分からないので、ちょうど本人もここに居ますので聞いてみましょう。」

 

 現在新会社の新入社員の募集をすでに始めている。すでにここに居るという事は断られたら正規の求職で入り込む気であったのだろう。いくらスポンサー兼相談役とは言え、これほどの人間を適当な理由で落としては会社の経営陣に不信感を抱かれるだろう。最初から断る選択肢がないという事だ。

 

 部屋で控えていた修道女が呼びに出たが待たされた時間は短い。すぐそばで待機していたのだろう。

 廊下からのノックに司祭が許可を出すと金属の擦れる音とともに女性が入ってくる。

 

「っ!」

 

 写真でも見た通りの顔をベールで覆い、落ち着いた色のワンピースを身に包んでいる。線の細い体に沿って腰まで伸びた金髪が流れている。顔を隠しているせいか、やや暗くも感じるが一見普通の女性だ。

 そんな女性を見るよりも先に思わず警戒で力んでしまったのは、感知していた気配と彼女が車いすに乗ってやってきたからだ。車いすはこの世界の知識を得てから悪い意味で注目してしまうようになった。なるべく内心を出したくないのに警戒をしてしまったのは失態だ。

 

「初めまして。これからよろしくお願いします。」

 

 穏やかに会釈する姿はおかしなところはない。会釈も返さず黙ってみるが気にした様子もなく静かにこちらを見ている。

 テーブルの上に彼女の分の紅茶が注がれたのを見て、意を決して口を開く。どう言ってみたところでここから断ることは出来そうにないし、なるべく情報を得ておくためだ。

 

「履歴書は拝見しましたが今からでは室長ぐらいしか席がありませんよ。本当に我が研究所に来ていただけるので?」

 

「はい。この地で働くことこそ神の御心にかなう事でしょう。藤原様の手助けを出来るのならばそれ以上のことはありません。」

 

 当たり前のように日本語で会話をしているが、いったいどれだけの時間をかけて学んだのか。研究所の創設の話が内部で出てから一年もたっていないのだが。

 

「あなたの様に優秀な人は、それこそ教会で成人まで働かないと紹介にもあずかれないように思いますが。」

 

「それでしたらもう一人紹介をしなくてはなりませんね。」

 

 分かり易いネタ振りとは言え、すぐさま返せる教養はそう易々とはつかないものだ。無いとは思っていたが経歴が偽物なわけがなかった。

 胸にわだかまる苦い思いを飲み込んで笑う。これは仕方がない。

 

「それではこれからよろしくお願いします。なるべく働いてよかったと思える環境を作らせていただきますよ、Dr。」

 

「はい、私も微力ながらお役に立ちたいと思います。」

 

 なるべくにこやかに笑い手を伸ばす。握手のために伸ばした手を掴まれると、ぞわっとこちらに反応する圧力。私は研究所の結界の拡張が必要だと判断して仕事の増加に頭を痛めるのであった。

 

 

 

 メシアンと会おうが会うまいが時間は止まったりしない。

 

 目の前の仕事に忙殺をされていると、掲示板に恐山攻略完了の報告がいつの間にかに流れていた。ドッカンドッカン呪殺が飛び交う中を、ガイア連合の中でも上位の者が突っ込んで一度倒して鎮静化させたらしい。参加人数も大事をとって大目にするつもりだったのが祭りの気配に誘われた奴らが方々から集ってオーバーキルになったらしい。

 まあ、安全に終わったからいいが一時的に他の地域の戦力が減って地域密着型のガイア連合員は怨嗟の声を上げていた。私も減った人数をカバーするのに馬車馬になっていたら攻略が終わっていて盛り上がりに乗り損ねた一人だ。

 だから、というわけでもないが次の攻略大異界に選ばれたのは、ここ少しばかり離れるが世間一般でも有名な平氏滅亡の地にて厳重に封じられている大異界――『壇ノ浦』――に決まったのだ。

 

 私が間引きをしている『壇ノ浦』と『鬼ヶ島』はどちらも早期の攻略が望まれている大異界である。

 理由は異界からの怪異による人的被害……などではなくこの異界の影響を受ける航路――日本の大動脈である海運のうち瀬戸内海航路――が壊滅しかねないためである。

 『鬼ヶ島』は今はまだ陸地に存在しているし発生する怪異も陸上のものであるが、『壇ノ浦』は確認されている大異界の中ではただ一つの海上異界であり中に蔓延る悪魔も海生悪魔である。その為、ただでさえ難所である関門海峡に這い出た悪魔による被害を受けるのは船であり、沈没でも起こされたら被害はどれほどになるかも想像できない。また異界が解放されようものなら瀬戸内海の使用が不可能になり日本の物流は崩壊すると言っても過言ではない。

 そのように大事な場所であったが攻略が最優先されなかったのはたった一つの理由である。異界攻略難易度が他の異界とは比べ物にならなかったからだ。

 

 この異界は海上に存在する異界である。そして、その主は海の下――推定水深250mの光も射さない深海で私たちを待ち構えているのだ。

 

 

 初夏の日差しは海上に出ると照り返しもあり眩いばかりである。

 流れの速い海峡を普段は引っ切り無しに通る貨客船は事前の根回しによって一時的に消えており、雄大な海原を進むのは二隻のクルーザーだけである。

 七月某日、この日関門海峡を進むクルーザーに集まったのは人類の生存を拒む深海で主と戦うための特殊装備部隊であった。

 

「総員、現況を報告せよ。」

 

 クルーザーの上でインカムの向こうに向かって私は命を発する。

 

『GENERATION-4部隊、総員40名、装備の装着完了しております。』

 

『深海提督12名。いつでもいけます。』

 

『こちら護衛提督隊総員43名、配置完了しております。』

 

『こちら陽動部隊。すでに海からぞろぞろお客さんが来てるぜ!』

 

「よろしい。皆、手を止めずに聞いてくれ。」

 

 返ってきた言葉は意気揚々と力強い。

 クルーザーの上階からの眺めはいい。この船に寄り添うように進む船の上で登舷礼をしている男たちの姿もここからなら良く見える。目線を戻し階下を見れば、僚船の上とは違い肘を広げた敬礼をしている人型が鈍く黒光りしている。

 両者に答礼を返しちらりと手首を見れば予定された時間が来ている。

 

 私は誰にも見えていない瞳を一度閉じ、声を上げた。

 

「諸君、親愛なるガイア連合員の諸君。ついにこの日が来た。」

 

 波しぶきだけが響く海原に私の声が響く。物音一つ立てずにこちらを凝視する青い瞳を意識しながら言葉を続けていく。

 

「大異界『壇ノ浦』。深い海底に潜む悪意。我々は脅威に挑むことすら出来ず、指をくわえ只々封印と間引きをするしかなかった。」

 

 事実を羅列する。

 物流の要所。最優先での攻略を望まれながらも放置するしかなかった難題。現状維持すらも時を置かず不可能になる終末の一端。

 

「そう、我々は主の下にたどり着くことすら出来ずにくすぶっている敗残兵だ。戦うことも出来ずに怯える敗北主義者だ! ここを解決してくれる誰かを望みながら、その誰かが訪れなかった事に絶望する負け犬だ!」

 

 伸ばした手を握りしめる。

 間引きをするたびに異界の底から届くあざ笑う声。その声に歯を食いしばったのは一度や二度ではない。

 その時の憤怒を思い起こし吐き出す。

 

「だが、我々が広がる異界になすすべもなく、只々手をこまねいていた日々は終わる! 私が、我々が終わらせるのだ!」

 

 振り被った腕が音を立てて伸びる。牙向くように眼下の精鋭に笑いかける。短い時間で装備を習熟しこの場に集った戦士だ。

 

「耐える日々は終わった。我々は、今日、この時をもって主を踏みにじり喰らいつくすのだ! 総員、状況を進めよ! 雑魚の一匹たりとも残しておくな!」

 

「「「はっ!」」」

 

 ざっと音を揃えて行われる敬礼に頷きと答礼を返し背を向ける。騒がしく動き始めた眼下を尻目に式神からヘルメットを受け取り被る。

 赤い眼鏡の強化服は下の物とは違いただの霊装であるが、水圧耐性と呼吸を保証する程度の能力はある。今回だけのあり合わせだが不足する事態にはならないだろう。

 気密の確認を外部から式神に行わせていると船が異界に向かって増速し始めた。

 予定通り波打ち際に存在する入り口の封印を緩めて海上まで伸ばし船を現実から越えさせると、快晴の海上から曇天の荒海にいきなり変わり、鬨の声が轟いた。

 海の上では難破船相手に艦娘が滑りサーファーが空を舞い、陸からは糸が張られ魚竜が釣りあげられる。

 

 笑い出したくなるような俺たちらしさに私は柄にもなく声を張り上げた!

 

「さあ、気合い入れていくぞ!」

 

「「「おう!」」」

 

 下から突き上がる蛮声と共に、船から私たちは海へと飛び込んだのだった。

 

 




異界攻略に参加している転生者の平均LVは10~20ぐらいだと思います。

12/26追記:岩国のメシア教は広島都市部を半ば縄張りにしています。
      ガイア連合が派出所を呉に置いたのもそのためです。
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