【カオ転三次】DRUG FATE 作:石は転がる
私は基本的に広島中を飛び回る生活をしているが、月に一度は必ず山梨支部に戻っていた。
これは検査のためだが、運営の会議に正式に参加する為に時期を合わせている為でもある。この運営会議は参加者がしっかりと決まっているものではないので、その時その時で面子が入れ替わるのだが今日は珍しくほとんどが勢ぞろいしていた。
「お、⑨ニキ。壇ノ浦攻略おめー。」
「攻略おめでとう。これからもうちの工場ちゃんと守ってね?」
「攻略おめ。鬼ヶ島は来年の予定だっけ? 頑張ってね。」
「ありがとうございます。」
よく会う人から久しぶりの人まで色々いるが、運営会議に出てくる平均年齢の四十五十のおっさんに爺さん共にネットスラング交じりで祝われるのは微妙な気持ちになる。この場に経済担当の記者でも居たら目をむくのではないだろうか。今話題の大再編の旗振り役が勢ぞろいなのにその軽さに。
「あ、雷電ニキ。大異界移築は今月中にしてしまうので造船の研究の準備お願いします。」
「了解した。特殊鋼の扱いは任せておけ。」
ちょうどいいところに重工業担当の雷電ニキが居たので話を通しておく。彼のところでは創れたは良いが取扱いに困った合金関係をまとめて投げている。山梨支部の頃から世話になっていたがガイアマテリアル総合研究所――略してガイマテ――に来たメシアンのせいでこれからは更に面倒をかけてしまうだろう。
「しかし、いいんですか? 新会社を作らなくてもそちらの会社に任せてよかったですよ?」
面倒と言えば今回の事に連動して会社を設立するのもそうだろう。雷電ニキのところの持ち株会社だがその一部をガイマテが所有することになっている。成果物の実用化からの利益は独占してもらっても良かったのに律儀に分け前をくれる体制を作ってくれるのだ。
「⑨ニキ、君も経営者になったのだから覚えておいた方が良い。自分のおこないは善悪問わず責任を持つべきだ。研究所の物はまだまだ発展する。ならばその道行を見守るのも君の役目だ。」
独特のバリトンボイスで諭され、私は黙ってうなずく。
自分の起こした事態の影響から逃れることは出来ない。それは嫌でも知ることになった摂理だ。
なお、集まっている経営者俺たちの一部は視線を泳がせ吹けもしない口笛を吹く真似をしていたりする。割と『責任何それ?』な畜生が混じっているので残当な態度だ。
そうこう話しているうちに神主が姿を見せる。いつもと変わらぬ胡散臭い笑みだが、一緒に入ってきた運営陣は疲れが見える。今回の議題に関連しての問い合わせなどは多かったはずだから苦慮していたのだろう。
「それじゃ、今日の議題は『ガイア連合員の増員と支部設立について』で。」
議事進行役の神主がふわっとした議題を出すが、これについては事前の根回しも終わっているのでほぼ決を採るためだけの議題だ。問題の再確認と決を取って、それからの実務の相談が今回の本題だ。
手元に配られた資料も当たり前のようにどのような組織体系にするか等の話題ばかりだ。
「まずは増員と支部の設立に反対の人ー? …………はい、いない。じゃ、設立ってことで。」
軽い態度でこれからのことが決まる。
これで私個人の友好でしかなかった地元組織と正式に組織間の友好条約や同盟が結べる。目をつけていた鉱山異界にガイア連合員を送り込んで採掘をする準備をしなくては。
取らぬ狸ではないが先の事を考えながら議事についていく。
説明をざっと聞きながらまとめるとこうだろうか。
まず、新たに追加される非転生者だが支部所属であり山梨支部への入場が認められない。また現状でも不足している高級式神は購入できない。それ以外は基本的に同待遇とする。
基本すべての支部は同列に扱われるらしい。所属のガイア連合員も同様だが現在の山梨支部だけが例外で、非転生者ガイア連合員も入れる山梨第二支部を新設してそちらを対外的な山梨支部とする。
組織としては今までと同じようにかなり緩く強制力がない。内部の統制は期待できそうになかった。
一通りの説明が終わり質問を受け付けていたので質問してみる。
「この形態だと規則を破ったりした時の罰則が弱いように思えるがそこの所はどうなんですか?」
「基本は罰金やガイア連合を介した取引や仕事の斡旋などの禁止を考えております。」
「支部所属員が反社の様な行動をしたり犯罪をおこなったときはどうします?」
「その時もガイア連合としては同様の罰則で対応する予定ですが、規則を作る権限は支部長に委任する予定になっています。罰則規定が必要でしたら支部独自の物として作ることを可能とします。」
軽く聞いてみたら回答に眉を寄せてしまう。
支部長の権限が大きすぎる。予算や技術を運営が握っている間はまだいいがそれがなければ反逆待ったなしだ。いや、意味がないし神主が居るからそれはないだろうが組織形態としては放任的過ぎて悩ましい。
まるで封建体制だ。そうなると支部長は封建領主か。同盟や麾下入りした現地組織をうまく統制しなくてはいけないあたりぴったりだ。その代わりにその支部においての権限は絶対的になるのだろうか。
「支部長の選考基準はあります?」
「ある程度の強さを持ったうえで支部設立地と友好的な人間の中からやっていただける方を選ぶ予定です。」
「支部長の規則違反の対応は?」
「他のガイア連合員と変わりません。」
ガイア連合員への規則順守は各支部の努力なのはいい。しかし、支部長への枷が弱すぎないだろうか。
他の質疑を聞き流しながら思考を進める。
支部長の造反が起きればどうなるか。ガイア連合からの物資や依頼はなくなるだろう。それにより普通の転生者たちは離れていく。
ここまではいい。しかし現地の住民たちはどうだ。その地を守ってきた彼らはその地が無防備になることに耐えられるだろうか。耐えられないならどうなるか。
簡単だ。支部長に従うしかない。
支部長についていく転生者が居ればさらにその圧政は強固になるだろう。転生者とて一枚岩ではない。好き勝手したがっている人間は必ずいるだろう。
こうなればその支部一帯は造反者の手に落ちると見ていいだろう。多少の悪魔は転生者が居ればどうにかなる。そうして出来上がるのは敵地か。
いや、さすがに悪いように考えすぎか。
頭を振って考えを追い出す。現地の霊能組織の実態調査をしてきたせいか、裏側の無法さに毒されているのかもしれない。粛清部隊の草案は放棄するべきだろう。
「それじゃあ質問はもういいかなー? 決を採るよ。」
考えを飛躍させている間に質疑が尽きたようで賛否を問われる。
私は賛成を表明して会議は終わるのだった。
私は後に考えることがあるのだ。
この時、私が考えた中央統制型の規律に縛られた組織になっていたら、どうなっていたのかと。