【カオ転三次】DRUG FATE   作:石は転がる

28 / 129
19話

 広島派出所改め呉支部の設立の決定と、完成の遅延が噂されたころ。

 支部設立に先駆け私の自宅が無事に完成をした。

 

 この自宅は支部設立の決の前からこの地域のまとめ役となることが内定していたので、去年から建築が進められていたものだ。

 デザインは何処からか湧いて出た建築デザイナー転生者。施工業者は現地の業者なのでオカルト的要素は後付けのただの邸宅である。

 ただの邸宅ではあるが、もしかしたらガイア連合の外交窓口になるかもしれなかったので大使館的な役割を果たすための応接スペースが広く取られた豪邸であった。支部の設立が決まったので外交窓口には使われないが、目立つ会社のオーナーとして使う予定が出来たのは幸か不幸か分かったものではない。

 

 支部建設予定地からほど近く、今稼働している派出所からはそこそこ距離がある山の上に森を切りい開いて建造された邸宅は、江田島や製鉄所を見下ろせるロケーションで眺めが良い。広い庭園には緑は生い茂っており、無駄にプールまであるのは設計者の趣味だ。

 維持するだけでも人手が必要だが、計画を立てた頃にちょうど面倒を見なくてはいけない無国籍者が大挙として押し寄せたのでこれ幸いと彼らの宿舎も併設している。彼らの中から裏側の業務に使えない人間に持ち回りで警備と整備をさせる予定だ。オカルトは基本関係ないので最悪人を雇えばいいとやや大雑把な見切りで予想を立てている。

 

 私の配下に加わった者たちだが、何時までも名前がないのは分かりづらいので『NeinS』と名付けることになった。というか、ガイア連合や他の霊能組織の人間から『⑨ニキの』とか『9Sの配下』と言われ続けているうちに本人たちがそう名付けた。転生者たちの影がちらつく名前だが、害は無いし本人たちが気に入っているみたいなので放置している。

 ナインズと呼ぶことになる彼らだが、基本的に私は組織内部にそこまでタッチしていなかった。元々一族の中から出稼ぎで外に人員をやっていたらしいので現代社会の常識は熟知していたし、犯罪者として追われる者も現状確認できていなかったからだ。

 正直、いきなりやってきた人間に唯唯諾諾と従っている現状に疑わしく思ってしまっているので距離を取っているところもある。彼らの長が事前に星詠みで“指導者の到来”を予言していたと後で事情を聞いたがそんな事で納得できるのが理解できなかったからだ。

 本人たちもそれを分かっているのか、意見は述べても特に何かを押し付けてくることがないのが助かっていた。

 信頼関係を時間を掛けて築く意志は双方にあるので、そう時間をかけずに私も彼らを信頼することが出来るだろう。

 

 

 今日はその信頼を築く一歩になることを願っての交流の時間だった。

 屋敷の裏側。塀を超えた先に広がる森に私はナインズと共に来ていた。

 実はこの森も敷地の一部で、わざと開発をせずに元のまま置いておいた場所である。人の手が入っていない森は足場が悪く藪なども生い茂っているのだが、そのおかげで街の近くであっても人の感情に染められたマグネタイトは少ない。MAGの方向性としては生命力と水気が一番強いだろうか。冷え込みが厳しくなる近頃は葉が落ち始めて次の季節のMAGも混じっていた。

 

 今日、この場に来たのはナインズの修業のためである。

 彼らは雑多な異能者の寄り合い所帯ではあったが、その技術の流入と散逸の中で柱としたのが外界のMAGを取り込み自分の力に変える技術であった。

 簡単に言えば拠点補正の効率化だろうか。外のMAGで水増ししてより強力な術を使ったり、人体を強化したりするのが彼らの技術体系の基礎なのだが、この技術は危険性が大きいものである。

 外界のMAGは雑多な感情や生命で汚染されたMAGの集合体であり、そのまま取り込んで使えるようなものではない。うまく自分に使えないものを弾いたり、自分に都合が良いように改変を出来ないとMAGに汚染されて自分を失う。或いは最悪、悪魔と化してしまいかねないものである。

 彼らとてそれを理解して修行をするのだが、危険性と隣り合わせなのは変わっていない。なので、そのあたりの技能を習得している私が監督者として、修行をする時は彼らを見る事が過去話し合いの末に決めたのだった。

 

「それじゃ、霊装を見せに来てください。」

 

 森の中で適当に腰掛けた私に、先に集まっていたナインズが一人ずつお揃いの腕輪を見せに来る。

 白銀の紐を巻いて纏めた腕輪は私のお手製だ。

 彼らの技術の危険性から街に連れてくる前に渡したそれは、MAGのフィルターの役目を担っていて吸収技能を安全に使えるようにしたものだ。あと軽い認識阻害で彼らの服装に疑問を持たせないようにする役目もある。独特の戦闘装束はそのままでは騒ぎになること間違いなしだったからだ。

 修行前に劣化などが問題ないかを確認してから一人一人離れた場所に散らせていく。ある程度距離を置かないと修行としても効率が悪いからだ。

 

「ナ~インッエ~スゥ~♪ 大丈夫でしょ? もう外していいよね?」

 

「ノーバディ! 首領にそんな口を聞いちゃダメでしょ!」

 

「ノーバディ、修行の時はちょっと真面目にね。ヒルダも怒らない怒らない。」

 

 確認作業の最後、私の近くで修行をさせる年少組の番が来ればなんともにぎやかな事だった。まあ、私の数才年上の年ごろからすれば静かに待っていただけ偉いぐらいなので目くじらを立てるほどの物ではない。

 ノーバディとヒルダは、ホーネットにつけられた付き人という事になっている少女たちだ。実際は私と同年代の人間をあてがって側近になることや寵愛を受けることが求められた人間なのだろうか。実はちょっと違和感を感じているのでもう少し違う意味かもしれないがわざわざ真意を聞いたりはしていない。

 

 ノーバディは“誰でもない人”あるいは“才能の無い人”を意味する魔女名を与えられた魔女だ。

 十にもならない年で魔女名を与えられたのに“才能の無い人”はおかしいかもしれないが、彼女は稀有な才能とそれに伴う欠陥があったのだ。

 才能は“どのようなMAGであれ吸収できること”。

 そして、それの裏返しの欠陥が“MAGを選別も浄化も出来ないこと”。

 彼女は世界を在るがままに受け入れ、在るがままに染められる巫女――あるいは生贄――としての才能が秀で過ぎていたのだ。

 その為誰も指導をすることも出来ず、仕方なく魔女名を与えられたのが彼女だった。

 

 それに対してヒルダは才気あふれるが年相応の少女だ。

 彼女が選ばれたのは私と同年代であったのとノーバディの友達であったからだろう。親からか長からかは知らないが私を繋ぎとめることを言い含められているのか、ちょくちょく私を見ていることがある普通の子供だった。

 

「ノーバディ、外していいですよ。ヒルダも大事に使ってくれているのか劣化もないですし大丈夫ですよ。」

 

「ふっふふ! 外しまーす!」

 

「ありがとうございます、9S。ほら、ノーバディもちょっと離れて!」

 

 きゃいきゃい騒ぎながら仲良くしている姿はまぶしい。学校に有無を言わさず通わせているがいい経験になっているだろうか。

 伴侶として差し出されたのは分かっているが、どうしても保護者目線になってしまうのは一生変えられない業だろうか。

 

「ふふっ…………さて、皆さんも微笑ましく見るのは構いませんが、その感情をMAGに乗せて出してしまうのは気を抜きすぎです。」

 

 言葉に出すが、離れた全員には届かないので思念波を飛ばす。一人一人の未熟さに合わせて軽く頭を叩いて叱る忘れない。

 普通の霊能者なら必要のない技術かもしれないが自己の調律は彼らには必須の技能だ。

 

「それでは本日の修業を始めていきましょう。そうですね……まずは“楽”の感情に染めますので我を忘れて楽しまないように気を付けてください。」

 

 周囲一帯のMAGを少しづつ均一に染め上げていく。

 さあ、修行の開始だ。今日は何人最後まで残ることが出来るだろうか。

 

 

 

 昨今、ガイア連合は増員を表明して以来続々とガイア連合員は増えていっているし、提携した組織と共同しての地域の管理などを始めているが、私の下にも地味に取り扱いが面倒な人間が連合に加わりたいと集まり始めていた。

 広義のダークサマナーである。

 何を悩むのだ、とお怒りは少し待ってほしい。

 字面だけ聞くと犯罪者に聞こえるかもしれないが、実は日本においてのダークサマナーとは根願寺に認められていない霊能組織や人員全てを含む区別で犯罪をしているかどうかは別なのだ。広義では私の配下のナインズも立派なダークサマナーであるし、出稼ぎ連中の中には同じ業界の相手とは言え殺人をしているものも含まれていたりする。

 

 では、何を悩むかというと彼らは私の配下に加わりたいのであり、しかも彼らは日本に居る先遣隊に過ぎず承諾が得られればさらに海を越えてやってくるというのだ。

 ガイア連合に投げてしまいたいが頼ってきているのは私であり、縁があるのも私であるためにため息をつくしかない。

 

 “彼ら”とはナインズが横の繋がりとして保持していた欧州の魔女組織だ。ナインズと魔女組織は日本に居るフリーのダークサマナーとして交流をしていたらしい。

 意外かもしれないが日本に来ている海外霊能者に魔女は多い。それは本拠地では周囲との歴史的な諍いがあったりするし、何より一神教による圧迫が欧州の方が強いためである。

 その点、日本は霊能者の需要が極めて多いし、一神教とは関係ない別文化圏のアジアの中では一等報酬が高かった。

 そんな日本に来訪していた魔女たちもその内訳は様々である。他神話系統に属する多神教の巫女や一神教由来の悪魔信仰など色々あるが、今回私を頼ってきたのは自然礼拝系統の土着の祖霊信仰者たちだ。

 

 彼らの組織は互助と情報共有程度のガイア連合に近い緩いものであったが、その情報の中に極めて危険な兆候を見出したため彼らは一丸となって欧州からの脱出のため私に接触してきた。

 今まで小競り合い程度であった土着の組織とメシア教が近ごろ急速に関係を緊張させていっているというのだ。すでに一部では小競り合いを超えた騒動が起きているという。

 彼らの魔女組織は有力な庇護者もいないし組織力もないため、早期の逃走を図ろうとしていたところに繋がりのあった組織の現状を知って日本に来ることを選んだという。組織と言っても上下も何もない寄り合い所帯であるため私を庇護者としてナインズに加わりたいと。

 

 流石何世紀も弾圧や差別の中で生き残っていたにふさわしい危機管理能力というべきか。神話系に属する組織とは違い、良くも悪くも場所にもこだわらない精神性が見て取れる。

 ガイア連合としても外国であってもメシアンの情報は欲しいため亡命の受け入れは前向きなのだが、面倒は私に見て貰えというスタンスなので最終決定権は私にゆだねられていた。

 

 

 邸宅の応接室。

 ナインズの見学案内をしていたホーネットが一足先に客人を通したそこに、私は遅れて到着していた。

 

「申し訳ない。お待たせしました。」

 

「いえ、普段の姿を見せていただいたことに感謝しています。」

 

 実は直前の修業も隠密霊装を持たせたホーネットをつけて魔女組織からの客人に見学してもらっていたのだ。ここ数日霊装を使って色々見学させていたのだが、それは受け入れた後で問題になっても面倒なので出来るだけ内情を見せて実情を認識させておきたかったためだ。

 実はちょっとだけパシられているナインズを見て亡命を取りやめてくれないか、と期待していたりもする。期待薄だとは思うが。

 

「それで、いかがでしたか? 新興組織なので落ち着かない様子だったと思いますが。」

 

「大変活気があって驚きました。元々日本で活動していたので昨今の霊地活性化もよく知っておりますが、ここでは皆が希望を持って動いているように見受けられました。」

 

 魔女組織と言っても女性しかいないわけではないはずなのだが、今回の客人は三角帽子にローブと典型的な魔女であった。

 長い藍色の髪の若い女性はおいしそうに武蔵の入れたお茶を飲んでいる。

 つられて私も口に含むと、今日のお茶はナインズが伝統的にいれている霊草のお茶だった。独特の苦みと鼻を抜ける香りが特徴的なこのお茶は気持ちを落ち着けてくれて嫌いではない。本来は蜂蜜を入れるらしく、客人の方はちゃんと蜂蜜を入れているようだった。

 

「希望があるか知りません。我々は生き残るのに必要な行動をするだけです。その一員となれば特別な知識や技術があったとしても特別扱いはする予定はありません。私の配下となったら私が必要と思えば技術の共有や秘宝の接収は覚悟しておいてください。」

 

「ええ、分かっております。分かった上で私たちはナインズに加わることを望んでいるのです。今回、拝見させていただいた光景を見てこの思いはなお強くなりました。」

 

 強い目線が私を貫く。

 欧州事情はあちらの手札なので詳しく聞けていないが、いったいどんな情報を手に入れているのやら。この必死さは、この地に私を繋ぎとめたこの地の霊能組織の長の目を思い出してしまう。やれと言われればどんなことでもやりそうな怖さがある。

 

「我々は、ああ、いや、あえてこの地の支部を預かる私は、と言いましょう。私は表の社会から逸脱したモラルを望んでいません。この点を正しく理解していただかないと亡命者全員の肩身が狭くなることを周知させておいてください。」

 

 脅しても意味はないだろうが普段隠している気配を開放する。

 最近は骨のある異界がなくなる程度には鍛え上げた人間の気配だ。威圧はしていないとはいえ、冷や汗と震えを隠し切れない客人の姿が目に映る。

 しかし、それでも彼女は気丈に震えを押し殺して正しく頷いた。

 

「……それさえ守っていただけるのでしたら、私はあなた方を歓迎しましょう。」

 

「ぁあ……ありがとうございます!」

 

 気配を押し潰して内に収めてから声をかける。

 脅し過ぎたのか涙を浮かべて手を握ってくる姿にちょっと悪いことをしたとバツが悪くなりながら、私は新たな人員が起こす問題を減らすべく頭を悩ませるのであった。

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。