【カオ転三次】DRUG FATE 作:石は転がる
ノーバディにとって世界とは村の事であった。
森に囲まれた村で生まれ育った彼女にとって村人は皆家族であった。
ちょっとひんやりした風の中、誰かが笑えば彼女も笑い誰かが泣けば一緒に悲しむ彼女は村の中でも特別で、でも誰も彼女を区別はせずに愛情を注いでいた。
ノーバディにとって世界とは村の事であった。
年に何度か村から出て買い出しに行く人や、逆に年に何度かしか帰ってこない人から聞く外の話は彼女にとって憧れであった。
いっぱいいっぱい人がいて、村で見たこともないような物が次々と出てくるお話は、まるでお昼寝に出てくる夢のようで彼女の心は弾んだ。自分よりもちょっと年上の子供が親と一緒に外に出た時の話を自慢げにした時なんて、あまりに意地悪だったので喧嘩してしまったほどだった。
ノーバディにとって世界とは村の事であった。
憧れて羨んだ外の光景を、彼女は自分が見ることはないのだと幼心に分かっていた。
何度も何度もせがんで聞いた外の光景を話すときに、押し殺していた家族の辛そうな心。両親と長が話し合っている時の悲しい気持ちとそのあとに襲名した“ノーバディ”の名前。
自分にとっての世界はこの優しい村で閉じたのだと知っていたのだ。
――あの日、私と同じ白い髪の神様が現れるまでは。
「ふんふ~ふん、ふふ~~ん!」
今日は家族のみんなと森の中。ちょっぴり特別な神様と一緒でとっても楽しい修行だ!
「ふふん、ふ、ふふん!」
森に漂う楽しいをいっぱいいっぱい集めたけれど、これは私の楽しいじゃないのでポイっ!
残った力にちょっとだけある彼の優しさだけはこっそり体に取り込んで、ニマニマと私は笑うのだ!
「ノーバディ。ちゃんと“楽”を排除しているのは分かりますが、みんな真面目に修行しているのでちょとだけ我慢してくださいね?」
温かい気持ちに笑っていたらコッソリ気持ちを伝えられて怒られた。
しょんぼり。
「ふふふ。仕方がないですね。ノーバディ、その“楽”をちょっとずつなら出していいですよ。ただし、みんなにちゃんと届くようにですよ?」
優しい優しい気持ちが伝わって、私は楽しくなる。
この気持ちを皆にも渡していいって言われたから、ちゃんと皆に届くように私はガンバル!
楽しくなーれ! 楽しくなーれ!
「ちゃんと外界のMAGを取り込みながらMAGを届けているようで偉いですね。でもちょっと怒らないと。ヒルダにだけ特別多く楽しい気持ちを送っちゃったでしょう?」
ふふふ、バレちゃった。
ヒルダはいっつも仏頂面っていうのをしているから笑わせようと思ったのに。でも、怒られちゃったからちゃんと皆と同じだけに戻す。
「ノーバディは友達思いですね。でもね、笑って欲しいならこんな技術じゃなくて二人で楽しまないとだめですよ?」
神様の力がそっと頭を撫ぜてくれる。家族の誰とも違って、でも大好きなそれにうれしくなる。
だからちゃんと神様の言葉を覚えておくのだ。ノーバディは偉い子なのだから!
でもでも、レディーとのお話の時に他の家族とも話すのはマナー違反だと思うな。あっちこっちで違うお話をするのは私だけを見ていなくて不満です!
「くくっ、そうですね。その気持ちは大事に取っておいてください。きっと、それはノーバディの大切なものなのだから。」
楽しいをちゃんと皆に届けながらの不満を神様は笑う。神様はひどい人だ!
「さて、そろそろ強めていいですよ? ただノーバディーも“楽”を取り込まないように気を付けてください。」
神様からの楽しいが濃くなってちょっと楽しくなっちゃう。私の楽しいじゃないけれど、神様が楽しいと私も楽しくなっちゃう。
「誰かが楽しい時、一緒に喜ぶのも間違ってはいないんですよ。でも今だけはちょっと頑張って自分の“楽”を持ってください。」
神様がそう言うんだったらガンバル!
神様の楽しいをちょっと押しのけて、みんなに届け私の楽しい!
結局みんなで笑って神様に怒られたけど、やっぱり楽しいのはおかしいのかな?
ノーバディちゃんは不思議に思うのです!
注:あくまでノーバディから見れば『神様』に見えているというだけです。
その事を彼女は誰かに話したりもしていません。