【カオ転三次】DRUG FATE   作:石は転がる

31 / 129
四年目
21話


 年が明けるとともに本格的に動き始めた支部の設立であるが、ガイア連合に関連してもう一つ大きな動きがあった。

 ガイアグループの正式な誕生である。

 今まで表のすり合わせに手間取っていたのだが、ガイア連合の支部設立に伴う資金不足に対応するためにその動きを速めたのだ。

 多種多様な会社のグループ化ではあったが表のニュースとしては小さい取り上げとなった。今までの国産回帰の動きの一環としかとらえられていなかったのだ。

 この動きに乗じて企業再編に見せかけて支部設立に多くの金が流れ込ませることが出来たため、支部の設立は順調にかつ急速に進んで行くこととなる。

 

 この流れに、呉支部はというと完全に取り残されていたりする。

 呉支部には既に派出所があるため、ここの機能を拡張して支部へと繰り上げを済ませてしまえば最低限機能したためだ。後日新支部兼シェルター施設の建設をガイア連合土建がおこなえば、そちらに移転することが決まっているがその予定は未定となっている。

 ただガイア連合山梨支部から追加の事務員の移籍がなされたおかげで一先ずは支部としての十全に動くことが出来るようになった。

 

 呉支部も十全に稼働し、私も支部長として余裕が出来たかと言えばそのようなことはなかった。

 支部の稼働までに現地の組織に後任の担当者の顔見せや、麾下入りした組織のこれからの働き方を説明したりする仕事があり、その仕事が終わったかと思えばガイアグループ設立に伴う動きに巻き込まれて表の社交に引っ張り出されていたのだ。

 ガイアグループと私とは直接の関係がないのだが、所有する会社への出資などを見ても強い繋がりがあることは自明の理であったため、麾下入りした会社の支社同士の顔見せなどに手間取られることになる。

 

 それに私の所有会社の転生者共のはっちゃけが加わるのである。

 なんか知らんが出来た、なんていう訳の分からない代物の売り込みに、私のつてを使うために駆り出されるのだ。お前らは大人しく異界でも行っていろとブートキャンプを開催したのは間違いではなかったと思っている。

 

 

 

 そんなこんなで正月が終わったと思ったら、今年もすでに半分を過ぎようかとしていた。

 天気予報通りに重く覆いかぶさる雨雲から降り続く雨音が軒下から伝わってくる。じめっと纏わり付くはずの湿気を感じないのは龍脈整備の恩恵か。ここまでの調整は私にはまだできないので羨ましい。

 

 星霊神社の広間。毎月の検診後の会議は和やかな空気が流れていた。

 

 現在の運営は取り纏めこそあれ、支部設立のごたつきからは一歩引いた立ち位置に居るため余裕がある。勿論、実動は忙しく動き回っているし、現場からの要望なりは引っ切り無しで飛び込んでくるため暇なわけではないが、運営からすれば日常の範囲だ。

 そのため、今回の会議の議題が持ち込まれたのだろう。

 

「うん、いいんじゃないかな。やっぱりみんな、忙しいだけだと大変だろうし息抜きも必要だしね。」

 

 手元の資料には星霊神社の主な参道とそれを取り囲む屋台の予想図。中々絵心があってみているだけで楽しそうな空気が伝わってくる。

 ただ、わざわざ星霊神社でやる必要が見いだせない。どこかほかのところでもいいと思うのだ。

 

「転生者たちからも要望があったんですよ。下手なところに行くとナンパが面倒だったり人前に出せないタイプの式神だったりで。」

 

「ああ、なるほど。壇ノ浦と同じタイプの需要ですか。」

 

 質問の答えに納得する。あそこには獣人や深海棲艦であったりと人外タイプの式神が多く訪れていた。海水浴はしても間引きはしていたから注意はしなかったが、そういった需要があったことに今更気が付いた。

 これは早いこと島の異界を稼働させないと転生者から文句が出そうだ。

 

「それで相談なんですけど、花火の打ち上げって大丈夫ですか?」

 

「うーん、あれって高さどれくらい?」

 

「えーっと、ああ、あった。だいたい100mぐらいは打ち上げますね。」

 

「それぐらいなら大丈夫かな。一応当日は結界を強化しておくね。」

 

「お願いします。あと、当日にイベントを行いたいんですが何かいい案ありますか?」

 

 聞かれたのでぺらぺらと資料を該当ページまでめくると一応候補は出してあった。

 盆踊りやキャンプファイヤーと定番がそろっているが変なものもある。ライブって一体誰がやるんだろうか。

 

「それでしたら転生者がアイドル事務所を立ち上げたんで、そこの所属員たちですね。まだ外で公開できるほどではないそうですが経験を積むために頼まれました。」

 

 相変わらず自由奔放なガイア連合員たちだ。もしかして俺の歌を聞けをやっている奴もいるのだろうか。居たらちょっと聞いてみたい。

 

「あ、これいいんじゃないか? まだ記憶に新しいだろうし、実物見たことない転生者も多いと思うから盛り上がると思うよ?」

 

 神主が企画の束から一枚取り出して掲げる。

 企画立案者の思い入れがあるのか随分としっかりとした計画が出来上がっているものだ。

 スタート地点は鳥居から。参道を駆けあがって途中の広場で一幕。同時進行で本殿前でも一幕打ってその様子を双方向で放映する予定まで書いてある。

 

「これですか? ……これは敵側が弱くありません? 盛り上がりに欠けそうですけど。」

 

「じゃ、ちょっと台本を修正すればいい。参加者の招集は⑨ニキに頼んでもいいね。⑨ニキも祭りの日は予定空けるよね?」

 

「ええ、そのつもりですが。」

 

 神主がにこやかなあたり悪いことにはならないだろう。たまには祭りで休むのも悪くない。出店は転生者たちが出すので、他とは違う一風変わったものが期待できるのも面白そうだ。

 

「それじゃ、『星霊神社大夏祭り』は正式決定で! みんな告知と準備よろしくね!」

 

 にやにや笑う神主の〆の言葉で今日の会議は終わった。

 私はなぜ、この時予定を聞かれたのかもう少しちゃんと考えなかったのかと、後で己を恨むことになるのであった。

 

 

 

 8月某日。

 占術で選ばれた日取りは、占いの通りカラッと晴れた気持ちがいい空が広がる夏日であった。その割には涼しくて過ごしやすいのはこの場所と参加者が皆で打ち水をしたおかげだろうか。

 今日は昼過ぎからイベントが始まり陽が落ちたら花火を打ち上げて終了の予定だ。その割には昼には冷やかしの散歩客はいるし、店の方もだらだらと開いていたりと今日一日入りびたる転生者の姿も見受けられた。

 

 そんな昼から回っている客の一人。

 昼間からビール片手にトウモロコシをかじって、ご機嫌に回っている姿は何を隠そう私の物だ。大名行列よろしくぞろぞろ連れ歩く式神たちも今日は浴衣で目に楽しい。

 屋台を出している知り合いに顔見せがてら回っているが、皆一味違いを出そうと工夫していて面白い。金色に発光する綿あめとか、紐で結ばなくても頭にくっつく狐面とかのオカルト全開の出し物は、裏の世界でもまずない遊びが凝らしてあった。

 というか、普通はオカルトを使って遊ばないのだが。

 世知辛く血生臭い女神転生の世界にあって、別のゆるふわ妖怪世界のような光景は胸に来るものがあった。

 

『……?』

 

「何でもないです、(そう)。」

 

 アリサの胸元から、角にイヤリングを通してご機嫌な悪魔が思念を発してきたので答える。

 彼女は異界創造の時に拾った蛇だ。名前は色々考えたのだが、色から安直に『(そう)』とした。下手に謂れのある名前を付けると名前に引きずられた悪魔になりかねなかったからだ。

 海蛇なのだが海水がなくとも平気で、普段は私でなくアリサにくっついていることが多い仲魔だ。契約も神主に相談してしっかりと結んである。

 

「朱莉、食べ物も良いが雑貨も見て回ったらどうだ?」

 

「それもそうですね。酒臭い姿で行くわけにもいきませんし、これぐらいにしておきますか。」

 

 A2に言われて両手を片付ける。

 今回の祭りはいくつかのブロックに分けられていて、この辺りは出店だが横にいけば市が広がる区画に出れる。私の顔見せ相手はそっちの方が多いのだ。

 

「アリサ。何か気になる物があったら教えてくれ。」

 

「別に……。何かあれば言います。」

 

 後ろでお姉さん風をふかしている2Bが面白い。色々声をかけているのに何かあったときにアリサが声をかけるのが私でしょんぼりしているところなんてちょっと悪いとは思ったが特に可愛かった。

 

「こちらをどうぞ。――以上。」

 

 口寂しく思ったらすかさず横からりんご飴を差し出された。りんご飴なのにスイカ柄なのはどうやって作ったのだろう。オカルト関係ないのであれば祭りの新たな定番になりそうだ。

 りんご飴片手に市に行けば、製造系の転生者が作った品物がごっちゃに並んでいた。この日のために造られた物から製造時に出た規格外品まで、雑多な品ぞろえは彼らの不断の努力を偲ばせるものばかりだ。

 

「こんちゃーっす。」

 

「⑨ニキこんちゃー。態々来てくれるとは思わなかった。」

 

 店番している転生者に声をかけると驚かれてしまった。彼は個人ではなく何人か集まったサークルの一人で、配下に入った魔女たちが所持していた資料を投げつけている相手の一人だ。他にも何ヵ所かに解析のために投げているので時間つぶしを兼ねて駄弁りに来たのだ。

 

「今回も出すって聞いていたのでどんなものか見てみたくて。彼らが自前で作っているのはそこそこにもなりませんからね。」

 

「期待させて悪いけど、こっちもまだ再現の真似っ子ぐらいだよ? ご希望の物はこれかな。」

 

 広げられていた商品とは別にケースに入っていた商品をとり出して手渡された。

 五角形の護符だ。頂点に魔石や宝石があしらわれている。線の金色は溶かされたマッカだろうか。持っていると力を感じる。

 

「これは昇天を防ぐのだから使い捨てのハマ耐性装備ってところかな。試しが少なくて正確なデータはまだ出てないけど破魔を5、6回防いでくれる。」

 

「……悲しいお知らせです。本家の護符は破魔2回防げれば運がいい方です。」

 

「えぇぇー、マジっすか。材料手に入らないから色々代用しているけど同じようにしているはずなんですけど。」

 

「とりあえず後で作り方とその時の映像でもください。あ、NGの材料使ってないですよね?」

 

「そこは大丈夫。問題なく集められるような材料ばかりだから。」

 

 後で比較検証が必要だが技術交流の名目は果たせそうである。搾り取れるだけ搾り取るのも良いが、出来るならWinWinの関係にしておきたい。何かあったときの統制がそちらの方が楽だからだ。

 それに魔女たちの食い扶持が出来るならその方がいい。今でも色々裏用の会社は起こしているが、全ての面倒を見るよりも多少は自助してくれる方がありがたい。

 なにせ今でも現地在住組織の組織再編に財政のテコ入れ、亡命者の生活と日本への定着を支援している。そこに配下組織共通の表社会への適合教育に修行支援、装備の融通に木っ端祭神を定期的に締める仕事もある。

 街に出現した悪魔や異界の仕事はガイア連合に投げれたが、まだまだ仕事は尽きていないのだ。

 

「じゃ、その話はこのあたりでやめて何か面白いのあります?」

 

 仕事はさっさと終えて陳列品を見る。西洋魔術研究会だけあって普段使っている様式とは違う道具が並んでいる。フラスコやビーカーは錬金術の物だろうか。ケースに収められた羊皮紙の本や乾燥させた植物の束、いかにもな鉱物セットなどもあってそれっぽい。

 

「⑨ニキは実用派だからなぁ。これなんてどう? 魔法の焦点具。MAGの放出補正に使えるっぽい杖。」

 

 いくつか立て掛けている杖のうちの一つ、短杖を指さす。

 手に取ってみればつくりは簡単なものだ。杖に流れたMAGが真っすぐ飛ぶように加工されている。特筆すべきは本当に流すことしか考えられていないつくりという事だ。

 

「うーん。残念ですが私は使えないですね。魔界魔法は一つも覚えていないんで。」

 

「うっそぉ! え、全属性って魔界魔法じゃなくて術なの?! どんだけー。」

 

 せっかくのお勧めで名残惜しいが商品を元に戻す。式神なら使える道具ではあるが私の式神たちの戦闘スタイルに合わない。それなら誰か他の者が使うべきだろう。

 杖を戻して、代わりに並べられていた薬草の種をいくつか購入していく。異界産の植物の種は中々お目にかかれないものだ。こちらで増やせるか試させてみるのも面白い。

 

「そう言えば、今日のイベントに私も出るのでよかったら楽しんでください。」

 

「あれ、そうなの? それじゃ、またあとで。」

 

 いくつか見繕ったお土産片手に次の店へと向かう。あんまり宣伝したくないが、これもガイアの為、と割り切って私は今日を楽しむことに全力を尽くすのであった。

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。