【カオ転三次】DRUG FATE   作:石は転がる

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五年目
25話


 最初に計画立案・実行された支部の建設は順次終わり、新たな支部の設立や拡張に手を付けだしたが近頃はガイア連合としては安定を始めていた。

 各支部ごとに依頼を取りまとめ地域の安全を守り、特色を出すために特産となるものを探す。転生者の数が安全に繋がるためどの支部も過ごしやすいように整備を進め、転生者たちはその恩恵を受ける。

 ある意味平和にガイア連合は過ごしていたのだ。

 ただし、それはガイア連合の話であり、そちらに資金を回していた表のグループは急速に消費される資本に悲鳴を上げてまだまだ奔走をしていた。

 

 そんな奔走する彼らが眼をつけた一つに外国との貿易がある。

 それもただの相手ではない。ガイア連合がオカルト組織であるからこそできる外国のオカルト組織との貿易だ。

 あくまで表の看板で貿易するので危険なものは全くないクリーンなものだが、霊能組織同士でなければ取引が出来ないので今まで手つかずになっていた分野の輸出は新たなブルーオーシャンであった。

 折しも移民魔女という現地組織との橋渡しができる人材が舞い込んだこともあり、この動きは急速にまとまりを見せていた。

 

 そんな魔女たちの取りまとめを行う責任者の私は、当然のように増えた仕事に諦めを持って対応をしていた。

 道具を使えば意思疎通をおこなえるとは言え、契約となれば相手の言語を無視して出来るものではない。そのために最初にガイア連合員の中から翻訳者を探したり諦めて自分で覚えたりと対応に苦慮することになった。

 どうにか話者を増やしても、次は今まで取り扱ったことの無い品なので需要の喚起をしなくてはいけない。すでに完成している霊装などであれば売り込みも簡単だが、今回輸出するのはその前段階の素材などであったため特性の紹介や使い道の説明に少しばかり時間がとられることになる。

 そうしてからやっと商談に入ることができ、どうにか契約が取り交わされたので近頃外国へ輸出が始まったのだ。

 

 私の仕事は大枠の取りまとめと最後の調印だけに抑えることが出来たとはいえ、一つ二つの組織相手ではないしその仕事は多岐にわたっていた。今は取引量が少ないとはいえ、部下から上がってきている報告だとそのうち各国ごとの輸送に自前の船が必要になるのではないかと予測が立てられていた。そのためその準備にも動かざる負えない状況であった。

 その急激な需要に対応するのはガイア連合であるのだが、取り込んだは良いが扱いに困っていた現地組織の人間や転生者の家族などに割り振る仕事に回せばいいので品物の供給は問題がない事が運搬の問題への対処を急がせることになっていた。

 結局最終的には輸出量の拡大に合わせてうちが自前の船を建造することが決まり、その資金繰りに動かなくてはいけなくなったのだが貿易の話はおおよそひと段落が付いたのだった。

 

 

 そうして生産地と輸出地を飛び回る生活が落ち着きを見せた頃、ひどく個人的な朗報が舞い込んでくることになる。

 ホーネットが妊娠したのだ。

 

「――はいっ? え、本当ですか?」

 

「ええ、二か月目だそうです。」

 

 ガイア連合の執務室。

 支部で開催している希望者への定期検診の結果を受け取っていると、何でもない事のようにホーネットが報告をしてきて頭が真っ白になる。

 こういった約束でそういう行為をしていたとはいえ、いざできるとなると初めての事に動揺する己がいることに驚いた。

 

「えっと、おめ、いや違う。」

 

 混乱のままいつも相手に言う言葉を出そうとして自制する。

 『おめでとう』では他人事過ぎる。契約に基づいた関係とは言えそれはどうかと思ったのだ。

 そんな混乱するこちらをホーネットは不思議そうに首をかしげている。初めて会った時ほどの露出も薄さもないとはいえ、春先にもかかわらず背中や脇を大きく開いたワンピースは体を冷やしそうだ。

 これからはもう少し厚着をさせないといけないだろうか、と思っているとやっと言葉が出てきた。

 

「――ありがとうございます。」

 

「……? なぜあなたが感謝するのですか?」

 

 本当に疑問に思っている母親に苦笑する。

 初めての夜はこちらが主導して行ったとは言え、それ以降は暇を見つけては私が貪られてる様な関係だ。契約があるから戯れるよりも直接的な関係を優先していたが、これからはもう少しゆっくりとこちらの気持ちを伝えるべきかもしれない。

 

「ホーネット。私は契約は関係なく、あなたが私の子をはらんでくれたことをうれしく思っているのですよ。」

 

 ずるりと脳髄から湧いてくる幼き日々を踏みにじって、私はなるべく穏やかに諭すように言う。

 契約だから体を許していたのかもしれない、そんな恐怖から被害妄想は私には関係がない。ただ私が相手を愛する努力をし、大切に思っていることは伝えなくてはいけない。

 

 ――愛されないという事は存在していないも同然ではないか?

 

 ぐずぐずに膿んでいた記憶に価値はなくても反面教師には利用できる。行動と言葉は確かに必要なものなのだ。

 

「何故ですか? あなたは契約だから愛してくれたのではないですか?」

 

 相手の言葉に少しだけほっとする。理由は違っても私が愛そうとしていたことは伝わっていたのだ。

 普段とは変わらない眼差しと言葉では相手がどう思ているかは分からないが、それでも安心したのは間違っていないと思う。

 

「私は気持ちとは関係なく抱くことは出来ます。でも、大切に思えない相手を愛する努力が出来るほど人間が出来ていないんですよ。あなたは私が大切に思いたいと思えた人なんですよ?」

 

 散々体を重ねた相手に今更こんな言葉をかけるのがおかしくて笑う。忙しくて時間が取れていなかったとはいえ、もう少しいちゃついておくべきだった。

 表情も変えず胸の前で両手を握り締めるのは何を思ってなのだろうか。ホーネットが無言でこちらを見つめているのをこちらも静かに見つめ返す。

 

 言いたいことを言ったので私にとっては温かな沈黙の中、彼女は必死に言葉を探しているように見える。

 カチ、カチ、と時計の針だけが音を刻む中、やっと言葉を見つけたのか彼女が口を開いた。

 

「朱莉、愛しています。あなたは私のものです。」

 

 なんともひどい告白もあったものだ。同じ家に居れば散々他の女性を抱いていることも知っているだろうに。

 それでも、初めての彼女からの愛の言葉は私には何よりもうれしいものだった。

 

「ええ、私も愛していますよ。でも私はみんなで仲良く分け合ってくださいね?」

 

 くすくす笑って言えば珍しく憮然としたホーネットの顔を見ることができた。

 ひどい告白にひどい返事でお互い様だろうに。

 

「ホーネット。――ありがとうございます。」

 

 もう一度繰り返した言葉。

 それをちゃんと受け取ってくれたのだろう。顔を改めてちょっと困ったように微笑んで彼女は返事を返してくれたのだった。

 

「――どういたしまして。」

 

 

 

 子供が出来てめでたしめでたしで終わるのは物語ぐらいで、現実はむしろその後の方が大変になっていく。

 幸い産婆や子育てなどを皆でしていた一族なので、ナインズに話を通せば大喜びの後にスムーズに面倒を見てくれるようになった。妊娠した時にするおまじないや、妊婦にだけ食べさせる縁起物など今まで聞いていなかった文化があったのでそれの記録も頼むこととなる。

 

 私はそれとは別に、山梨支部の一人に定期検診の結果と共に一報を届けていた。

 主治医の小夜子へ、だ。

 今でも検査を続けていることから分かるように、私の体は今でも一部がMAGで構築されたままになっている。数値としては低いため、呉支部が稼働してからは山梨での検査でなく支部での検査結果を送ることで事足りていたのだが、子供となると以前から注意されていたことがあるので確認をとっていたのだ。

 

「患者は何処ですか。すぐに検診をします。」

 

 で、その結果がこれである。

 

 研究と運営とのすり合わせのために山梨支部に残っていたのだが、今回の事態を受けて早々に呉支部へとやってきたのだ。

 テキパキと医務室を占領した主治医は有無を言わさずにホーネットを連れ去っていった。

 

「いってらっしゃーい。今日は検査が終われば帰っていいですからね。」

 

 なんとなく予想していた私はそれを手を振って見送った。

 そして、都合よく人払いが出来たと近頃増えた種類の報告書に目を通す。

 その内容はあまり歓迎できる種類の物ではない。ガイア連合・ガイアグループの表と裏関係なしにダークサマナーが周囲を調べていることを示す監視記録だ。すでに表の工場に侵入して一部データを盗み他国に送っていることも確認できている。

 

「案外簡単に依頼主は手繰れましたね。」

 

「ああ、こっちは常習犯だ。うちに所属した人間にも依頼を受けたことのある奴がいた。しかも盗んだ情報を大喜びで自分の成果だと広報もしているから関与している奴らも芋蔓式だ。」

 

「やれやれ。メシアンが居なくなって喜んでるのは住人だけでなく盗人も、という事ですか。」

 

 ナインズの警備担当からの言葉に嘆息する。

 元はメシア教が担っていた裏側の抑止力が、メシア教が何年か前にした配置転換の後弱まったのをいいことに大陸からのちょっかいが増えているのだ。しかも依頼人を集めてうまく組織立てて動かしている奴がいる。

 前世でも問題になった産業スパイであるが、普通は内部に協力者を作り実行させていることが多いのだが、今生のスパイは堂々と外から侵入してくるふざけた奴だ。科学による監視網をオカルトを使って突破してくるとか漫画の世界のようだ。

 まあ、それでやっているのが世界を救うための情報戦でなく、コソ泥とかの犯罪であるのがスパイ映画との違いだとすれば世知辛いが。

 

「せっかくダミーを掴んでくれたのですから、依頼主側は継続的に監視して証拠になりそうな映像音声等を握っておいてください。対応はグループでまとめからします。」

 

「了解した。受注者側はどうする? さっさと始末するか?」

 

「実行犯はトカゲの尻尾に近い連中ですよね? ……泳がせておいて斡旋者をあぶりだすことは可能ですか?」

 

 偽物を掴んではしゃいでいる企業への対応は企業連合としてしてもらうことにして、こちらはオカルトへの対応を考える。あえて他の企業より美味しそうな獲物が霊的防御を固めていなかったのは囮になるためだ。出来れば囮であることを気づかれる前に相手の全容を把握しておきたい。

 

「あん? やれと言われればやるが辿れるとは思えんぞ?」

 

「……仕方ありません。付近のダークサマナーの把握と照会。それが終われば一気に狩ります。」

 

「今回の件には関係してない奴もいると思うがそいつらはどうする?」

 

「仲介者に繋がっていない様なら拘束とこれまでの罪状の確認を優先で。拘束に手間取るようでしたら処理してしまっても構いません。」

 

「了解だ。他の支部にも情報を回して照会する。許可を。」

 

「許可します。ただし擁護する声があればその情報も集めておいてください。」

 

 古くからある仲介支援組織であることは聞いていたため、すべてを引きずり出すことはスパッとあきらめる。

 まずは手足となる連中の数から減らすべきだろう。利益を求めてなら依頼を受けたとて被害が大きければ手出ししなくなる。最低限その状態を目指すことから始めるべきだ。

 

「――改めて対人戦を出来る人間を確認しておいてください。無理強いはしないように。」

 

「ふん、心配性だな。俺たちは戦えと言われれば戦うだけだろうに。」

 

「それでも、です。このくらい手間はかかりますが私一人で終わらせてもいい程度の物です。無駄に問題を抱えることもありません。」

 

 元がダークサマナーの人間も多いのでそういった経験がある者もいるが、それと出来るかはまた別の問題だ。配下に無駄なストレスを与える趣味はない。

 

「まあいい。囲いと後の調査に他の組織の連中を使ってもいいんだな?」

 

「それはこちらから要請しておきます。追い込みと封鎖に使用することは許しますが戦闘は我々の手で行ってください。」

 

「当然だ。これは俺たちの戦場だ。」

 

「よろしい。では行動を開始してください。」

 

 獰猛に嗤う猟犬を解き放ち、ふとこれで何人が死ぬのだろうかと思考によぎる。

 脛に瑕持ちの奴らだ。破れかぶれに取り調べから逃げようとするやつも出てくるだろう。

 

 まあ、大丈夫か。私は自棄になってどうにか出来るほど猟犬たちを甘やかしはしなかったのだから。

 

 

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