【カオ転三次】DRUG FATE   作:石は転がる

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3話

 星霊神社から富士山頂を挟んだ対角線上にある都市。

 秋晴れした空の下、起伏にとんだ丘陵は視界の通りがよく富士の頂がよく見える。

 神主に言うと怒りそうだが、多くの人間が富士山と言ったら思い浮かべる形をしているのがこちらから眺めた光景だと思う。

 片手に富士を望みながら車に揺られること一時間弱。静岡の茶畑を横目に本日訪れているのはゴルフ場。

 

 その地に私は初の討伐依頼に赴いていた。

 

 

 

「ちょっと待っててくれ。事務所に声をかけてくる。」

 

 バタンと閉じられた扉のガラス越しにルームメイトの小さな背中が坂を上って事務所に向かう。さすがに未就学児が対外的に出てしまっては信用を失ってしまう。私は車でお留守番。顔見世は今回のリーダーの仕事だ。

 

 ため息をでる。

 彼女は、本当に小さな背中だ。

 彼女は神社では神主の補助に回って修行僧に指示を出しなどで修業は最低限しか受けていない。本人もそこまで強くなることに積極的でない。

 そんな彼女が自分と共にいるのは今回の討伐に同行するからである。神主から聞いたのか仕事上で知りえたのか、本人は黙して語らないがどちらにしろ心配をかけているのだろう。

 

「今、考えることではないか。」

 

 すでに決まったことを悔やんでも仕方がない。今からやれることは怪我をさせないように気を付けるだけだ。

 軽く頬を叩いて気持ちを切り替えるため、私は改めて依頼について思い返した。

 

 

 現在星霊神社から転生者に向かって回される依頼には二種類ある。

 

 一つは神主が管理する範囲で出来た異界の対処。

 普段は式神を派遣して早々に潰してしまうそうなのだが、これからは転生者たちのために封印で留めておいて修練の機会として提供されるもの。

 二つ目は一般からの霊障事件の解決依頼。

 依頼経路は様々だが、今回の討伐はゴルフ場から地域の古い不動産屋に回り、不動産屋のコネで地元の神社を通して星霊神社が請負、我々に民間から依頼として仲介された形らしい。

 

 依頼経緯はコース整備員の怪我がきっかけだそうだ。

 普段から慣れた仕事場なのに最近やけに気味が悪く感じられると従業員が騒いでいたところに負傷者が出たことで、人づてに話が伝わって今回の依頼が持ち込まれたらしい。

 依頼を受けてからの星霊神社の調査によると土地としての伝承は特になし。占術による異界化と敵の強さの確認が取れ、ちょうどいいからと個別教導の教材に選ばれた。異界の性質は低位の日本妖怪と判断されているが接触による確認はされていない。

 神主は行けば普通に異界の主を倒せると言っているのだが、整理を手伝っていた転生者一同によりどの様に異界攻略を行うかも含めてノウハウが足りていないからと情報収集が決定。

 できれば実体験を含めたマニュアル化を期待されて同室者とコンビで討伐を任された、ということだと聞いている。

 

 実際、転生者による異界攻略はまだ片手で足りる程度の数で、危険性が判断できないというも間違っていない。

 特に人型式神は思考能力もそうだが、人型での動作の習熟が済んでいない部分がまだ多い。純粋な強さとは別に体が撓むような動きはこちらの予想からずれるのでそういった危惧もある。

 

 バックミラーに映る二体の式神は不審な動きもせずに周囲を眺めている。

 銀の短髪と金の長髪。

 切れ長の碧眼と優しく下がった赤眼。

 顔だちも違うのだが、どことなく似通って見えるのは人が作り出したが故のシンメトリーのせいであろうか。怖いぐらいに美しさを感じる。

 ふと、自分の式神と目が合って見つめあう。

 くすんだ碧眼は何も言わず、ただ見つめてくる。

 

 そうして見つめていると窓がノックされた音で目をそらした。

 車の外。いつの間にかに同行者が戻ってきていた。

 

「待たせたな。話をつけてきた。大体の場所も聞いてきたし行こう。」

 

「わかりました。あなたたちも出てください。」

 

 車から出て外から式紙に命令すると命令を受諾した式神もちゃんとドアから出てくる。

 こんな何気ない行為であればすでに確認が済んでいるとはいえ、注視してチェックは続ける。足をしっかり地につけ姿勢を伸ばした式神に、トランクから出したキャディーバッグ持たせるも受け取る動きはスムーズだ。二体とも自重よりも重い荷物を持っているが重心が揺れた様子も見られない。

 式神を受けとってすぐ調整送りにされた成果は出ているようだ。

 

「通常動作に問題はないようだな。朱莉、シートのマークは頼むぞ。」

 

「了解、船団長補佐。」

 

「うむ、任せた!」

 

 お互いに確認を済ませてふざけて笑いあう。過度の緊張もない。コンディションは良好だ。

 

「それでは録画も開始します。」

 

 首に画板を吊るして表にチェック。左手にハンディーカムを持って脇を締める。

 異界内でも使用できる改造ビデオはしっかりとテープを回し始めた。レンズは覗かずに顔の横で目線に合わせて動かす。

 

「人目がないとはいえ剣は異界の前で装備する。警戒だけは怠らないように。」

 

 黒いナポレオンコートを羽織った相方と式神に連れられて目的地に向かう。

 青い芝は今が生育時期なのか少し人の手が入っていないだけでひょこひょこと伸びてきている。それが普段のゴルフ場とは逆に柔らかな印象を与えている。

 町に近いゴルフ場だけあってコースの周りはそこまで深い林ではなく、目的地にはすぐにたどり着くことになった。

 

 ぱっと見、特に何の変哲もない景色に見える。

 しかし、正しく霊感を持つ人間が見ればそこは異世界への入口であった。座学で習った知識によれば目の前に感じるのは異界から流れ出たMAGにより現実が異界側に寄っただけの空間で、正確には異界ではない。この奥に門があり、その奥こそが正しく異界である。

 

 目的地を確かめた私たちは手早く武器を取り出す。

 私以外は西洋剣を、私は持ち運べるようにぶった切ったポリーカーボネート製の盾を腕に括りつける。

 剣は多少修練を積んだとはいえ刃筋を立てたり出来るほど熟練していない転生者が、雑に叩き潰すためのために作られた新品だ。まだ素材にオカルト素材を加えた時のデータがそろっていないため、今回の剣は普通の鋳造品である。

 

 これも将来的な課題だ。

 

「……よし。装備の緩みなし。異界への侵入を開始する。まずはヴィーラの偵察で中を確認、人が活動できるかを確認する。確認ができたらヴィーラ・私を先頭に朱莉が中央、2Bが後方警戒。」

 

「「了解。」」「わかりましたわ。」

 

「ん、……ではこれより異界攻略を開始する!」

 

 全員の返事にリーダーとして一度大きくうなずいた彼女は一人一人の目を見た後、討伐の開始を秋空に高らかに謳い上げた。

 

 これが私の最初の異界討伐――その始まりを示す輝かしい思い出の一ページである。

 

 

 

 異界は異界ごとに異なる様相を見せるが、昔からの知恵の積み重ねによって人の手によって大まかに分類分けされている。

 

 一つは現実をそのまま写した模写型。

 一つは現実が歪んで狂った迷宮型。

 一つは土地のかつての記憶を呼び起こした想起型。

 一つは異界の主の望む環境を構築した支配領域型。

 大まかに分けられているだけなので複合したものや当てはまらないものもあるが、多くはこの四つに収束している。

 

 今回の異界は二番目のパターンで、現実のゴルフ場がいくつかのエリアごとに複製され、幾重にも張り付けられた広大な土地が広がっていた。塗りつぶされた曇天の空は均一で雲模様のかけらもない。芝生や林からも命を感じないのは、それが作られたオブジェクトにすぎないことを示しているようだ。

 

 そのような異界内で、私は確実に戦闘をこなせていた。

 

「探知。一時方向、200。敵不明。」

 

「確認した。仮称ガキ7、コダマ4を捕捉。マスター。」

 

「了解。炎による掃討を提案。」

 

「許可する。カウント! 3・2・1。」

 

「観測。ガキ・コダマ効力大、残敵ガキ1。」

 

「わかった。ヴィーラ、頼む。」

 

「はい、お姉様。」

 

 私たちから離れていく式神の気配を感じながら次の気配を探す。

 

 幾度の戦闘を経て、現在私たちはおおよそのパターンが出来つつあった。

 まず探知であるが、探知スキルを持つ式神よりも私の方が探知に関しては上回ることがわかってきた。もちろん気が付かないこともあるのだが、発見の八割方は私が最初に見つけている。

 ただ、私は見鬼の才能が乏しいため発見した敵の詳細がわからない。そのため、私が見つけた見つけた敵を他の人員が詳細を補足する。これを行うのはこれからの活動を考えて私の式神が行っている。

 今回の場合、視界の開けたゴルフコースのため発見と目視はほぼ同時に行えている。

 

 次に敵の構成から属性を選んで遠距離攻撃を申請。リーダーの許可を得てから攻撃を行う。

 これまでの戦闘で私が使用できる火氷念の三属性の耐性は確認済みである。

 事前に知識として神主から聞いてはいたのだが、さすがゲームでなく現実だけあって同一種類に見える敵でも耐性の微妙な違いの存在を確認することができた。地域性による伝承の違い、あるいは年月によるブレなど理由はいくつも思い浮かべることができる。苦々しいことに情報の蓄積による単純作業化はできないようである。

 ここまでで多くの場合は敵は壊滅しているので、撃ち漏らしを掃討。フォルマやマッカがあれば回収して戦闘終了である。

 

 異界に入っておおよそ二時間。

 式神の調査もあって強敵の気配が少ない場所から回っていたのだが、すでに戦闘回数は両手両足の指の数を軽く超えていた。それでも何ら問題なく戦闘を進めてこれたのは私の周囲のマグネタイトの吸収を行える継戦能力もあるが、何よりも式神の優秀性のおかげであろう。

 最初の頃は慎重に敵を見定め二、三体を狙っていたのだが、その程度の数では式神を突撃させるだけで片がついてしまっていた。

 それはそれでテストにはよかったのだが、戦闘経験を積めないため数を増やしてみたりといろいろやった挙句に戦闘回数が多すぎるために一番楽で確実な遠距離戦で消耗を抑える事になったのだ。

 テストが終わった後は異界の攻略を狙って見敵必殺を心掛けながら強敵の気配に向っていた。敵数が少なければ偶に訓練のためにリーダーが殴り掛かることもあるが、式神の試用も終えた私たちは余裕を持って歩いていき。

 

 何の山場もなく異界の主であった土蜘蛛を叩きのめしたのであった。

 

 

 

 割れた曇天から青空が顔を出し、生温いマグネタイトの風が冷えてきた秋風に吹き散らされる。

 異界の崩壊は劇的に、あるいは静謐に起こり、僅かな残照も残さず消えていく。異界の外で過ぎた時間は内部と変わらなかったのだろう。天辺に上った日差しが、薄暗い穴から出てきたばかりの目には痛い。

 

「うん、何事もなく終えれたな。朱莉、記録は終了してかまわないぞ。」

 

「了解です。映像記録を終了します。2B、武器を閉まったら鞄をこちらに。」

 

 最初から左手で回していたテープを止める。ほぼ最後まで使い切っていたテープを取り出し、ラベルに日時と二本目であることを表記。

 これは今回の依頼達成の記録として神社の依頼担当に渡すことになる資料だ。これからの依頼すべてに記録が義務付けられるかは分からないが、今回のこれはしっかりと依頼の一部となっている。

 

「うぅーーんっ、いい天気だ。やっと気が抜けるな!」

 

「……そう、ですね。――――すぅーーっ、はぁーーーーーぁ。」

 

 言われて、初めて肩に力が入っていることに気が付いた。

 ビデオカメラもテープもキャリーバックに放り込み、わざとらしいくらい大きく深呼吸をする。

 広げた体に太陽が降り注ぎ、吐き出す息から異界のマグネタイトの臭いが抜けだす。

 

「ぅんんーーーーっ。」

 

「あははは、なんだ。朱莉も緊張していたのか。そうは見えなかったから意外だな。」

 

「緊張、してたんですね。気が付いてなかったんですけど。」

 

 天に伸ばした腕を下ろして目を開ければ、真似をしたのか大きく手を伸ばす私の式神の姿が。力んだのかへの字に曲がる唇が愛らしい。

 隣を見れば黙々と片づけをしながらも私たちを微笑ましそうに見つめる相方の式神が。

 

 何に対してか。分からないままに顔がほころぶ。

 

「さて! 帰るまでが遠足とも言うし、車についたら忘れずに腕時計との差をチェックしておいてくれ。私は事務所に終わったことを知らせておく。」

 

「わかりました。ひとまずお先に座らせてもらいます。」

 

「ヴィーラ、お前も朱莉について休んでいてくれ。」

 

「わかりましたわ。お姉様もお気をつけて。」

 

 昼の日差しを浴び、流れる風にスカートをもてあそばれながら歩く道はどこまでものどかである。歩きながら改めて疲れを感じ、車についた時には落ちるように座席に座り込む。

 後ろでトランクに荷物を詰め込む音を聞きながらしばし呆ける贅沢をしまい込み、ダッシュボードに入れていた時計と腕時計を比べ誤差がほぼない事を確認して記録する。

 時刻は十二時過ぎ。それに気が付くと急にお腹がすいてきた。

 

「お待たせ。事務員には確認の連絡が来るまではあまり近づかないように言っておいた。」

 

「お疲れ様です。これ、どうぞ。」

 

「おぉ、ありがたい。」

 

 幾重にもクッションを重ねられた特等席に入ってきた相方から香る汗の匂いに早くなる鼓動に内心驚きながら、コンソールボックスに入れていたペットボトルを渡す。

 

「では、勝利を祝って乾杯。」「乾杯。」

 

 ふざけあってボトルをぶつけ合い、ミネラルウォーターをのどに流し込む。

 車内で生暖かくなっているが、乾いた咽喉には心地よい。

 

「仕事終わりに飲むならビールが飲みたいな。」

 

「この時代だと飲酒運転も多かったと思いますよ? 飲みます?」

 

「こらこら、悪いことを進めようとしない。」

 

 ちょっとした軽口だろう。しばし名残惜しそうに飲み干したペットボトルを揺らしながらの言葉にこちらも軽口を返す。

 

「ちょうどいい時間ですし食事してから帰りません?」

 

「それはデートのお誘いかな?」

 

「奢られてデートとはかっこが付きませんけどね。」

 

 嬉しそうに笑う明るい笑顔に、勤めて冷静に肩をすくめてみせる。

 

「ふふふ、子供は甘えてくれたらいいんだぞ!」

 

「ははは、今は子供でいさせてもらいますよ。」

 

 戦闘の高揚の名残なのかお互いにテンションが高い。悔し紛れの強がりも今だけは笑える軽さで口からこぼれて笑いあった。

 

 しばらく雑談を交わしてから車は町へと走っていく。

 お姉さんぶって揶揄う彼女と、見栄を放り投げて笑う私と、それを見つめる二体の式神を載せて。

 

 

 私たちの初討伐の思い出の〆は二人で食べたランチの味で終わるのだった。

 

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