【カオ転三次】DRUG FATE   作:石は転がる

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六年目
27話


「ふーん、ガイアポイントカードですか。」

 

「ええ、ガイアグループ系列店で共通ポイントカードです。運営からできれば早いうちに使えるようにしてほしいと要望が来ています。」

 

 ガイア連合呉支部の執務室。

 机の上にサンプルカードを並べて確認している私に、百仁華の使いに出されたヴィーラが伝言を伝える。

 広げたカードは店舗ごとに柄を変えてもいい一般カードと連合員用の会員証を兼ねたカードに分かれている。

 試しに手を取って確認すればそもそも素材からして違う。会員用は一体何を使っているのか随分と硬い。磁気体も何やらMAGの気配がするので裏専用の読み込みもあるのかもしれない。

 

「そうですね。ヴィーラ、百仁華に支部で把握しているガイア連合員にカードの受け取り願の通知を出すようお願いしてください。グループ企業には、実店舗が存在する企業に順次設備の設置を命じます。運用開始までに申請があれば専用の柄を考慮すると伝達してください。」

 

「了解しました。お姉様に伝えますわ。朱莉もあとでいいのでカードの認証に来てくださいね?」

 

「……昼前に時間を取りますので、良ければ一緒に昼食が取れないか聞いておいてくれません? 無理でしたらまた帰りに会いましょう、と。」

 

「ええ、ええ! 確かにお伝えします。お姉様も喜びます!」

 

「そうだと嬉しいですね。では、またあとで。」

 

 横で私の命令を書類に纏めていた2Bから指示書を受け取り、サインをしてヴィーラに渡してお願いする。私をつまみ食いしてから去っていくヴィーラの後姿を見送り、手の中でカードをもてあそぶ。

 会員証としてのカードは転生者と非転生者で色分けしてあり、転生者の物は黒色だ。見比べてみれば多少カード自体に違いがあるが、柄などに大きな違いは見受けられない。

 

「ふむ、わざわざガイア連合員用のカードまでポイントカードにする理由があるんですかね? 表への擬装用でしょうか。」

 

「それは運営に問い合わせて。9Sからなら運営も答えてくれるだろう。」

 

 ぞんざいに流された話題に肩をすくめて真面目に2Bに向き合う。渡された書類は機密術式に縛られた報告書だ。重要性はカードなどとは段違いだ。

 

「それよりもナインズからの報告だ。ダークサマナーを支援していた組織の残党ももう確認できていない。壊滅したと言ってよさそうだ。」

 

 無言で目の前の書類に目を通す。こちらのおこなった捜索の詳細が記されたそれに抜けは見られない。これで見つからないのであれば消滅したか、技術がこちらより格段に上かのどちらだけだ。

 少なくとも日本で活動している相手はいないであろう。

 

「――家族の警戒態勢を通常に。ナインズの任務は完了したとみなします。報奨金と休暇の手続きは任せても?」

 

「わかった。すぐに手配する。長期の任務だったんだ。それなりに奮発するぞ?」

 

「ええ、お願いします。」

 

 背もたれに背中を預けて目をつぶる。ナインズはよくやってくれた。漸く少し気を緩めそうだ。

 

「……はあ、案外時間がかかりましたね。もう一年近いですか。子供が生まれるまでに片をつけたかったのですが。」

 

 まったくもってこびり付いた油汚れのようにしつこい連中だった。

 組織としての全容を掴ませないためだろうか。幾重にも断裂していた連絡経路をこちらが把握するのに無駄に手間どられた。

 しかも、構成員が見つかっても現地の組織の人間で太刀打ちできるようなLVではないため、ナインズが相手取るためにあっちこっちに引っ張りだこで調査が遅れる羽目になったのも痛かった。各支部の探査や転生者たちの協力がなければもっと時間がかかっていただろう。

 

「大本は狩りつくしてある。あとは各支部に任せておけばダークサマナーは減るだろう。9Sが別個に出していた報奨は取り下げるか?」

 

「そうですね。一件は終わったとして取り下げます。――ああ、あと他支部に謝礼をします。取りまとめておいてください。」

 

 人的被害がなかったため、ガイア連合としての表立った支援は断っていたので謝礼はこちらが出すべきだろう。今回の一件で随分と散財したのでまた異界巡りをしなければいけない。

 一年も式神を半分使えなかった遅れを取り戻すにもやはり戦闘の頻度を上げるべきだろうか。

 

 後はメシア教に外国からの渡航情報の礼も必要か。日本に限定した組織でなかったため、彼らからの情報も大変役にたった。近いうちに教会まで礼を言いに行かないといけない。

 

――あそこは疲れるから嫌なのだが。

 

 そう考えて、ふとナインズの扱いを思い出す。休息は取らせていたとはいえ、一年中四方八方に派遣したのだ。疲れがたまっているかもしれない。

 

「ナインズに休暇を取らせる前に検診だけ受けさせてください。無茶をしてダメージが残っているかもしれません。」

 

「了解した。彼らなら確かに無茶をしていそうだ。」

 

 手ごわい敵が居ればいつでも呼んで良いと言っておいたのに、結局ナインズが私を呼び出したのは日本での本拠地を襲撃する時だけだった。多少鍛え直したとはいえ実力はそう変わらない相手に死者無しで終わらせるには無茶の一つもしているだろう。

 特に最初の村人以外の後から入った人間は、居場所を獲得するために必死だったとの話もある。差別も区別もするつもりはなかったのだが、本人たちからすれば何か安心材料が欲しかったのだろう。この辺りも気にかけて声をかけた方が良いかもしれない。

 

 

 気の滅入る仕事は一区切りついたし、気分を変えるために他の報告書に目を通す。

 すでに呉支部の仕事は落ち着いたもので平常業務として動けている。新規加入者もじわじわ増えているが初期支援も問題が起きた様子はない。向上心がある人間のスキルアップもLV・鍛錬共に好調だ。

 一方グループの方はというと、こちらは多少問題が出ている。業務の拡大と新規参入を続けているために仕事が増え続けているのだ。業績としては好調なので新たに人を雇っているが、内部統制に少し力を入れなくてはいけないかもしれない。

 

「そう言えばグループからの公表は来月中になりそうでしたね。法務部に準備の方をさせておかないと。」

 

「上は本当にやるつもりなのか? 一企業の範疇ではないと思う。」

 

「本当はやりたくないみたいですよ? ただ、オカルトを当然のものと利用しての行動ですから動かざるを得ないのだとか。」

 

「根願寺も頼りにならないな。9S、リストと罪状は出来ているがもう一度確認させておく。」

 

「お願いします。こちらの報酬も弾まないと。一仕事終われば各企業の法務部を集めての打ち上げもいいですね。」

 

「出費ばかりが増えるな。」

 

 笑って言う2Bだが彼女もこの程度ならどうにかなることを知っているだろうに。裏で行う研究や資材の調達のための企業群があれやこれやで何故かどんどん収益を上げていることは。

 

「貧乏暇なしですね。――ああ、暇なしで思い出しましたけどオタク社長の転籍の話はどうなっています?」

 

「それなら人員の教育と引き継ぎが終わったから事業売却の話がまとまったらしい。新年度からはこちらで新事業だと言っていた。」

 

「数年越しの念願が叶いましたか。それならそれに合わせて各種資材のサンプルと機材の調達の補助をしないといけませんね。麾下企業への紹介は名前さえ貸しておけば勝手にしてくれるでしょうか?」

 

「訪問された方が困りそうだ。麾下に連絡だけはこちらでいれておく。」

 

 彼らの活動は応援しているが一般企業からすればあの灰汁の強さは困惑するか。ガイア連合にどっぷり浸かっているとそのあたりの感覚がおおらかになってしまって困る。何せ出産祝いにホワイトベースの木馬を持ってくるような奴らだ。年齢に合わせてアップグレードしてくれるサービスの前に常識をアップグレードしてほしい。

 

「……取り合えず急ぎの仕事はなさそうですね。それでは書類を各部署に届けてください。私は昼まで修行場に行こうかと。」

 

「分かった。届けてから向かう。ただ、その前に――」

 

 近づいてきた2Bと触れ合い、顔に湿った感触が撫ぜる。椅子に座っていることもあるが伸びない身長のせいで何時も上向きになるのが少し悔しい。二人だけの空間でたっぷりと時間が流れてから離れた2Bが笑みを溢す。

 

「――口紅は落とした方が良いぞ?」

 

 すっぴんの2Bに言われて私は施されていた悪戯に気づき赤面するのであった。

 

 

 

 支部も事業も順風満帆である。だが、だからこそ起こる面倒ごとというものも存在する。

 

 近頃表でもきな臭い中東。

 ガイア連合と貿易をおこなっている現地組織からの依頼で、資源探査に使える異能を持つ連合員の派遣が要請されているのだ。

 

 前々から各地に飛んで鉱脈などを見つけて外貨を獲得していた人間なので派遣要請はおかしくはないのだが、今回に限ってはガイア連合の運営も渋っていた。ここ最近のメシア教との小競り合いがそろそろ本格的な侵略になりそうとの情報があるのである。

 今回の油田探査もそれに対抗するための資金を得るために行われるらしく、日本に対してかなりの譲歩をした契約であるが採掘権は即金で望まれていたりする。

 ガイア連合としては転生者の安全と契約履行の不透明さに二の足を踏んでいる。しかし、表裏どちらにとっても中東での大事な取引相手であり、無下に断ることも難しい相手であった。

 

「だから私に護衛の依頼が来た、と。」

 

「ええ。その代わり個人に対する報酬もそうですが支部に対しても便宜を図っても良いと。」

 

 珍しく医療行為とは関係なしに呉支部に訪れた小夜子の今日の肩書は山梨支部の使いとしてのものだった。うちの母子を診療するときは普段着で来るのだが今日はスーツ姿で新鮮である。今度フォーマル系の服を一緒に見て回っても良いかもしれない。

 

 そんな感想を呑気に抱いていたのは最初だけで、依頼の資料として渡された中東情勢の概略と依頼報酬の内訳に思いっきり眉を寄せる。

 過去の情勢としてはそう悪いものではない。北側にある国とは違い、依頼国の国内でメシア教と現地組織の小競り合いは裏側の了解を守っている。同国人同士の争いとして比較的理性的であった。

 しかし、その争いに外国からメシア教徒が急速に流入していっているらしい。流れ込んでいる教徒の数と、派遣が噂されている天使の位階から言って現地のメシア教は主導権を奪われているかもしれない。そうなると現地での暗黙の了解を足蹴にした行動に出かねない。ただでさえ新大陸の動きが強硬になり始めているのに裏でも混乱が起きれば混乱は必至だ。

 

 いや、あるいは逆なのではないか?

 

 裏の意思と行動の結果が表の強硬に繋がっているとすれば、裏の戦力の集中の方が先であるのも納得がいく。すでに欧州で弾圧をおこなっているが中東でもさらに騒乱を広げるつもりなのだろう。

 そうなってくると貿易量の増加は中東側の前準備であろうか。今度取り扱いする品の増加の求めについて話し合いがあるが、この感じでは中東側も前々から覚悟していそうだ。

 情勢としてはきな臭いを通り越して何時発火するか秒読みだが、少なくとも今はガイア連合を狙って襲おうとする人間はまずいない。護衛は念のためでしかなさそうだ。

 

 その危険性に対して報酬はかなりいい。

 個人への便宜もそうだが、支部長としては呉支部に人体への式神施術のための設備を増築してくれるのは大きい。人体に適合する式神パーツの生産や保存などの問題もあって、現在は山梨支部か山梨支部からの出張でしか行えない手術を呉支部が独自に行えるのは治療までの時間を考えればぜひとも欲しい。当然だが施術に詳しい医者の配置もセットである。

 

「現地でのボディーガードはついでで本命は万が一の時の脱出、といった感じですか。」

 

「運営としても危険は少ないと判断しています。ただ、万が一のことを考えると現地に伝手のある人間がいた方が心強いと。」

 

 騒動が起こった時にちんたら飛行機を待つよりさっさと伝手を使って逃げ出してくれという事だ。同行人の情報もあるが測定機でアナライズできる程度の実力しかないので運営としても過保護なのだろう。

 

「ご丁寧に貿易の日取りにも合わせてくれてますし問題ないですね。分かりました。お受けします。」

 

「よろしいのですか? 移動なども含めて長期の依頼ですので断れるかと思っていました。」

 

「ダークサマナーの問題は片付けましたし、支部も会社も私が居なくても回るようにはしていますから。たまには下に苦労してもらいます。」

 

 肩をすくめて笑う。

 ちょうど爆弾が爆発して忙しくなるがいい経験だろう。割と自分が過保護である自覚があるので目の届かない場所に居た方がお互いにとって最良だと思う。

 

「そんな事より依頼が終われば小夜子もこちらに来てくれるんですね! 部屋は今までの場所でいいとして何か必要なものはありますか?」

 

「……そうですね。少し衣装棚が必要でしょうか。一緒に見ていただけますか?」

 

「喜んで。」

 

 また一人、家族が増えることに私は顔をほころばせてどんな家具が良いかと話をするのであった。

 

 




なお、護衛対象のガイア連合員も海外現地民にとっては最精鋭クラスです。
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