【カオ転三次】DRUG FATE 作:石は転がる
ガイア連合呉支部主催交流会。
主に各地の現地組織から示し合わせたように要望され、それぞれの地で開催されることになった交流会だがその内容は各支部に任せられている。凡そ先発の支部のどれもがお見合い会や合コンのような形態をとって早々に開催していたのだが、呉支部は遅れに遅れて最後発に近い開催であった。
それは表の忙しさやダークサマナーとの抗争が始まったなどの理由もあるが、それ以上に呉支部の独自性の問題であった。
呉支部は全支部中転生者登録者(覚醒者・非覚醒者)ともに2位であり、ガイア連合として活動を行っている非覚醒者数に至っては山梨支部を抜いて1位とされている。これは統計の取り方もあるが、それ以上にガイア系列の新設会社への雇用や会社がそもそもガイア連合の都合で動くからであり、非常に独特の支部となっている。
普通の支部であればガイア連合として活動している転生者のほとんどが霊能者で、交流会も彼らを目的として開催されているのだが非覚醒者の割合が多い呉支部では他の支部の真似をしても上手くいかないことが分かり切っていたのだ。
そのため支部内で検討を重ねた結果、呉支部の交流会は男女の出会いを求めたものでなく字義通り交流を主体としたリラクゼーションとして開催される運びとなった。
そうして開催された幾度目かの交流会。
ガイア連合が管理する異界の浜辺に彼らの姿はあった。
利用者の要望から常夏に設定され直された異界は、冬にもかかわらず燦燦と日が照らし吹き抜ける風は気持ちがいい。
近隣ではなかなか見かけない延々と続く砂浜は黄金に眩く輝いている。海は青く澄み渡り穏やかに見えるが、目線をずらせば一部だけが大きく波打つサーフィンスペースになっているという自然界ではありえないことになっている。
その砂浜で参加者たちは、外では重く着込んだ防寒具を脱ぎ捨てて思い思いの格好で海を楽しんでいた。ある者は浜辺でアシカと並んで日光浴をし、ある者は波打ち際で波と戯れる。またある者は自慢のボードを担いで大波へと突撃していった。
その一団から離れ、私は桟橋にいた。
桟橋の中ほどから砂地に点在する岩礁に糸を垂らす。キラキラと輝く水面で見えないが、針に餌を通したシンプルな仕掛けはふわふわと海の中を泳いでいる。
「あかりー? 全然釣れない!」
同じように糸を垂らしていた子供の一人が、竿をあおるのに飽きて文句を言ってきて苦笑してしまう。あまりにあおりすぎて魚は驚いて逃げているし、餌も早々にまき散らされてしまっている。
周りで釣っていた子供たちはその恩恵を受けて釣れていたのが余計に不満だったのだろう。
「ノーバディは落ち着きがなさすぎるのよ。もっと静かにしないと釣れないわよ?」
「ヒルダちゃんずるい! 私も釣ーるぅーのっ!」
隣でちゃっかりアジを釣り上げながらいうヒルダにノーバディは余計にむくれる。自分で魚を外せない子供がいたりして周りの子供たちもなんとも賑やかな中で一人だけ釣れないのが嫌なのだろう。
「んーそうですねぇ。おっと。」
苦笑しながらどうしようかと思っていたが、ちょうど餌に食いつかれたので合わせて糸を巻く。すいすい巻き上げて釣れたカワハギを武蔵に任せれば、そこに居るのは頬を膨らませたノーバディ。
「ぷんぷん! ぷんぷんぷん!」
可愛いことに自分で言っている。
ガイア連合の交流会も何度か前から未成年の参加を許可していたが釣りは初めてだったはずだ。割と何でもできる方の彼女は釣りに悪戦苦闘するのが不愉快らしい。
「そうですね、ノーバディもこっちの釣りをしてみます? 貴方にはこっちの方があってるかもしれませんよ?」」
「ん! する!」
餌を付けた針をポイントに落として聞いてみればすぐさま返事が返ってきた。
「いいですか。海の中を感じてみてください。餌に魚が寄ってきてるでしょう? あ、それじゃない。」
苦笑して竿と場所を明け渡して釣り方を教える。教えていると狙いではない魚が寄ってきたので竿を引いて餌を逃がす。
「えぇー! せっかく釣れそうだったのに!」
「今のはアジですね。アジを釣ってもいいんですが、一応カワハギ狙いなんで今回はだめです。」
不満たらたらのノーバディーの頭を軽く撫ぜてなだめる。軽く説明しただけなのにもう海の中の動きが分かるらしい。やはり才能は私とは比べ物にならないほど高そうだ。
「さっきのがアジで今周りを窺っているのがカワハギですね。その近くで群れで居るのがメバル。おっ? 珍しいですね。メバルが起きて餌に興味を覚えてますよ。」
「ねぇ~ねぇ~。次は釣ってもいいの?」
なるべく分かり易いように魚ごとの違いを教える。
感じる気配をどこまでわかっているか分からないが、それもまた修行だ。交流会にちょくちょく釣りを入れているのは私の趣味というよりちょうどいい修行方法だからである。MAGの気配が小さい魚を海でかき乱された中から一つ一つ捕捉し差異を見抜き相手に合わせて動かすことはいい修行になる。今回はすぐ近くで分かり易いので初心者にもちょうどいいだろう。
「お好きにどうぞ。でもカワハギは食いついた瞬間にしゃくりあげないと釣れないので最初は一緒にやりましょうね。」
「ふふふ! なら朱莉と一緒で許してあげる!」
どういった理由で許してあげるになるのか分からないが楽しそうなのでまあいいか。ちょっかいをかけてくるカワハギに合わせたくなるのを辛抱強く我慢する。うまく食いついてくれないとバレるだけだ。
「もうちょっと、もうちょっと……ぉ? 今です!」
「うりゃー!! うわ、うわ、うわ!」
グイっとひかれた竿が空に弧をかく。びくびくとしたあたりの反応にノーバディがパニックになっているのが面白い。
「ノーバディ! 糸、糸巻いて!」
横で羨ましそうに見ていたヒルダがノーバディに慌てて指示を出す。ヒルダの竿を持ってあげればノーバディと一緒になって興奮しながら竿も引いて微笑ましい。
くるくるとリールを巻いていけばそう深くないのですぐに魚が上がってくる。
「わぁわぁわぁ! 朱莉! 釣れたよ!」
巻き過ぎて竿先まで引き上げられた魚を掲げて満面の笑みを浮かべるノーバディに笑って魚を外して持たせてあげる。
「わぁ、ヒルダちゃんのより大きい!」
「む、私の方が多く釣りましたし?」
ほんの十分前の光景が主演を逆にしてまた広がっている。それがおかしくて笑いながら、私は大人げなく騒ぎながら投げ釣りしている集団を見てくるためにそっとその場から抜け出して桟橋の先へと移動するのであった。
「あっ、朱莉が逃げたー!」
「藤原さん!?」
こっそり抜け出したので周りの小学生以下の子供らの面倒を見させられた事に文句を言われるのはまたの話。
老若男女問わずはしゃぎまわっている一団から少し離れた一角。
夏の日差しを避けるように広く屋根を伸ばした建物は、この浜に立てられた海の家だ。そこでは遊ぶ家族をほほえましそうに眺めて昼の準備をしている老婆や、親に尻を叩かれて調理を学ぶ子弟もいる。
回収した釣れた魚片手に昼食の用意をしに来たが、特に手伝う必要もなく手持無沙汰で眺めていたら厨房の主たちに座敷に追いやられた。
座敷には親子が一組。どうも気を使われたらしい。
「ホーネット。楽しんでいますか?」
「ええ、楽しんでます、朱莉。」
そっと囁くように尋ねる。彼女の腕の中ではすやすやとお休み中の赤子が一人。毛も生え揃えていない顔はどちら似であろうか。出来れば母親に似てくれた方が嬉しい。
ちらりと腕を見れば我が子のために燃費度外視で作った結界は順調に作用している。チリチリと解け落ちている腕輪さえあれば火や氷の中であろうと快適な気温であろう。
「すいませんね。本当は誰かに預かってもらえればよかったのですが。」
「いえ、構いません。むしろ預けるぐらいなら来ませんでしたよ?」
口をほころばせ囁くように笑う彼女は昔であれば言わないようなことを言うようになった。これが母親になるという事なのだろうか。
「それよりこの子のお父さんが構ってくれない事の方が問題です。」
「それ、は…………すいません。」
「いいのです。朱莉の事なら良くわかりますから。」
横目でこちらを窺う眼差しは優しい。ゆらゆらと寝た子をあやしながら口ずさむのは彼らに伝わる民謡だろうか。聞き過ぎると私も寝てしまいそうだ。
穏やかに海を見るその姿はひどく美しく触れがたい。或いはそれは己の疚しさのせいだろうか。二人から視線を外して私も縁側から続く海を見る。
押し寄せる波の上を滑るように乗りこなす人影を遠くに浜では楽しげな笑いが広がる。浜に帰ってきていた釣り人が戯れにアシカに魚をやってべしべしと催促されて押し倒されている姿も見える。波音に紛れて炊事の音と匂いが遊び疲れた彼らを出迎えるために刻々と支度を整えていた。
そのどれもがきらめいて見えるのは私の錯覚なのだろうか。
「苦しまないでください。未来はあるのですから。」
はっと隣を見るがホーネットはこちらに目を向けていない。
腕の中の弱い生き物。ただここに連れてきただけでも体調を崩しそうなそれを見てあやしている。
私は開いた口をあても無く動かして閉じる。探せども私の吐き出すべき言葉は見つからなかったからだ。
それを仕方ない物でも見るホーネットはただそっと口を開いて一言だけ私に届けるのであった。
「――愛してます。あなた。」