【カオ転三次】DRUG FATE   作:石は転がる

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31話

 なぜか家に住人が増えた。

 

「マリーと呼んでください。よろしくお願いします!」

 

 鮮やか金糸の髪に青いサファイアの瞳。特注のオペラグローブとサイハイソックスがフレアのワンピースから顔を覗かせ清楚な印象を抱かせる。豊満な体躯に反した幼げな表情はヒマワリのように明るい。

 その軽快さに比べて彼女の背景は重い。身元の照会に個人情報を聞いたが黙秘されてしまっているので、愛称のマリーだけが彼女の確かなものだった。

 呉の自宅。平日のため住人全員ではないが、わざわざ集まってくれた百仁華にラケル、ホーネットの三人に新居住者を紹介する。

 

「話には聞いていたがまた朱莉が女をひっかけてきたのか。まったく仕方がない奴だ。」

 

「あはは、そうですね。ひっかけられちゃいました!」

 

「ここに居るのは似たような女ばかりだ。気を楽にしてくれ。」

 

「はい!」

 

 連絡を入れていたとはいえ長期出張の延長に新たに居住者の増加と面倒をかけるが、彼女たちは気にした様子もなくすぐに打ち解けているように見えた。その話題が私の事であるのはまあ自業自得か。

 

「部屋はまあ、空いている部屋なら好きなところを使ってください。家具や調度品はまた今度見に行きましょう。今日はこの町の案内と服飾品を揃えるつもりですが誰か一緒に来ます?」

 

「今日は休みをもらっているから一緒出来るな!」

 

「私もご一緒しましょう。背丈があまり変わらないので私の利用しているブティックも良いかと。」

 

「お勧めのショップですか。良ければ私も案内しましょう。なぜか私の勧めるデザインは皆さんに不評なのですが。」

 

「皆さん来てくれるとは助かります。2Bたちに任せるつもりだったのですがどうしても偏りますからね。」

 

 女性陣が一緒に回ってくれるのであれば自分の案内は不要かもしれない。今日は荷物もちに侍らせてもらおう。

 皆で買い物に出かけることになったので家の地下を通って駐車場に向かう。向かうまでの道には戦闘で付いた血糊を落とす外部浴場があるが、専ら普段そこはナインズだけが使っていた。

 地下駐車場は建設当初無駄にしか思えなかったほど広く天井は高い。邸宅とナインズ用の宿舎と共用で使っているとは言え個人の邸宅なのに大型バスが入り込める広さのそこには、業務用の軽トラやバンが数台の他に個人の車やバイクが並び半分近くが埋まってしまっている。

 私たちはそこに並ぶカッコいいSUVやスポーツカーに乗って街に繰り出す――わけではなく乗車するのは大人数が乗れるワゴンだ。

 何せ私一人動くだけでも式神が最大四人+αついてくる。今日はヴィーラもいるのでさらに追加だ。一言言えば式神たちは家で留守番してくれるとは言え、車に乗れないから置いていくとは言えない。そのため大人数が乗れる車でのお出かけである。

 

「皆様、シートベルトの着用をお願いします。――以上。」

 

 普通免許では運転できない車なので運転手は自動的に武蔵となる。武蔵の免許は偽造だが、2BとA2は免許自体は四輪二輪共に自力で取得していたりする。現代において車の運搬力は必須なので、式神たちだけでなくナインズの構成員にも首領命令としてほぼ全員に取らせたのは余談か。

 それはともかく運転する武蔵も今日は戦闘を考慮していないので、いつもの侍女服ではなくレディーススーツ姿だ。武蔵の嗜好もあるが対外的な私の面子に都合が良いからか彼女は普段から好んで着ていた。

 

 

 皆が車に乗り込み駐車場を出れば、すぐにマリーに紹介するべき場所が現れる。

 

「まずは左手に見える施設ですね。これはガイア連合のシェルター群になります。居住施設としては完成したのですが支部機能はまだ建設途中なので、普段は立ち寄らないと思いますが何かあればこちらに避難を。」

 

 家から坂を下ってすぐにあるのがやっと完成した巨大なシェルターだ。他の支部とは違い所属ガイア連合員が多いため、前から見ただけでは全貌が把握できない大きさだ。

 施設上を樹木などで偽装しているのは勿論、ガイア連合員以外に対する隠蔽に認識の阻害・曲解・忘却と可能な限り気が付かれないようにされている。現在の居住者は少ないが内部は式神によって快適になるように維持管理がなされている。これは居住者へのサービスもあるが閉鎖空間となる場所を汚染されないための方が大きい。

 

 これからも増改築がなされる発展性が残ったシェルターを横目に下っていけば何もない山道を通り抜けて普通の住宅街になる。しかしこの辺りも支部から近いため、先に土地を抑えたガイア連合員が多い区画となっている。そのうち一括で買い上げて再開発を計画しているがそれは支部機能を稼働させてからなので何時になるかは不明だ。

 

「土地確保のため山を開いたので、このあたりに公共交通機関がないので基本は車での移動だと思ってください。派出所には一度山降りてからまた登りなおす形になりますが、あちらは一般のバスが通っています。そのうち派出所と支部を繋ぐ道を作るつもりですがまだ予定ですね。」

 

「それなら先月許可が通ったぞ。今年の予算で一気に開通予定だ。」

 

「そうですか。詳しくは明日確認しないといけませんね。」

 

「ほえぇー。」

 

 曲がりくねった道で話していれば百仁華が最新情報をくれた。直通道が出来るなら道の周りの土地も開発をしないといけない。今は山すそへと広がっているガイア連合のショップも、これからは新しく出来る私道沿いに伸びていくだろう。区画整理のたたき台は出来ていただろうか。

 

「朱莉さん、今日はお休みですよ?」

 

「ああ、すいません、そうですね。」

 

 つい地形を利用した結界構築を考えていたらラケルに注意されてしまった。彼女もオンとオフの切り替えがないような人だがその彼女からしても仕事モードに入っていたように見えたのだろう。

 そうこうしているうちに車は再び山を登り始めた。

 

「目当てのお店はこのあたり一帯にあるのですが駐車場がないので一度派出所に車を置いてから徒歩で移動です。」

 

「町中に出店しているショップもあるが覚醒者用の装備はこっちでしか受け付けていないところが多い。適当に使い分けしろ。」

 

「A2みたいにわざわざ町の店舗を使う必要も無いと思う。置いている品はこちらの方が多いから。」

 

「お前たちみたいに普段使いまで霊装で固めたくない。性能を気にするのは仕事の時だけで十分だ。」

 

 A2は戦闘時はスタイリッシュな格好を好むが、普段は体の線を隠すような服を好んできている。本人に言わせればそれこそ性能を気にしないで選んだものなのだろう。

 それに引き換え2Bは普段からタイトで動きやすい服装を好んでいる。仕立ても霊装であったしそのまま戦闘に入れるものばかりだが、戦闘用にはきちんと別に用意してある。あくまで普段は機能性が良い服が好みなので霊装を着ているだけなようだ。

 

「そのあたりは個人の好みなのでどちらでもいいと思うんですけどね。何時も二人の格好はよく似合っていますし。」

 

「朱莉、お前は少しは衣装に気をつけろ。私たちが買ってくるかあいつらが持ってこなければ全て黒の上下にするだろ?」

 

「朱莉はもう少し自分で服を選んだ方がいい。自分で選ばないと相手の服装を判断も出来ないだろう?」

 

「そうだぞ! 一時はマシになったかと思えば相変わらず無頓着じゃないか。これでよく人に合わせて服を変えられるな。武蔵のおかげか?」

 

「Jud.マスターの服飾の選定などは私が担当しております。面談者や場に合わせて常に最適な装束を選択していると自負しております。――以上。」

 

 TPOは守っていたし、服ぐらい好きにすれば良いとやんわり止めに入ったら逆にこちらが責められてしまった。服なんてスーツかディスプレーの一式を自分に合わせる程度でよいと思うのだが、そんなことを言ってしまってはさらに責められそうなので口を噤む。

 

「そんなに気になるんでしたら今日一緒に見繕ってしまえばいいんじゃないですか。どうせメンズも置いてありますよね。」

 

 我関せずホーネットと話していたアリサが興味なさげに言う。彼女たちの趣味は世間一般から見るとズレている。カジュアルかドレッサーかの違いはあるが丈が短かったりシースルーやスリットなどを多用した私服は一般的には露出が強すぎるだろう。

 ただし、ガイア連合的には割と一般的だったりするので苦言も言いづらい。服としての機能もしっかりしているので体を冷やすからという苦言を言えないのはガイア連合趣味人たちを恨むところだ。

 

「ふふふ、それでしたら今日は付き合ってもらいますからね?」

 

 ラケルが嬉しそうに笑うが個人的には一番勘弁してほしい。本人はシックでレトロなドレスを好むのだが、なぜか私に対してはゴシックパンクやV系などの無駄に装飾過多な服を着せてくる。そうするとどこからともなく趣味人たちが寄って集まってきて着せ替え人形にされてしまうので疲れるのだ。

 

「今日は回るところが多いので試着は無しですよ?」

 

「えぇー、いいじゃないですか?」

 

「だめです。」

 

 手を挙げて降参するが条件を加えておく。実際紹介と私服の購入に一通り回りたいのであまり一つの場所に時間を掛けたくはない。

 話している間に車はマンションの一階駐車場に入っていく。築年から月日がたった何の変哲もないマンションだ。

 

「マリーここがガイア連合の派出所です。医療施設も併設しているので検診はここで受けることになります。街の方にも依頼受付はありますが、あちらは外部協力者用なので依頼を受ける時はこちらを利用してください。」

 

「うぇーい。」

 

 めんどくさいなーと顔に出ているマリーに苦笑をして車を降りる。

 

「どこから回る? 近場からか?」

 

「それで良いと思います。今日はこことジュネスに行ければいいので。」

 

「ならRoAから行くか。最低限用意したらしいが着替えは必要だからな。逃げるなよ?」

 

「用があるのでついていきます。居心地悪いんですけどね。」

 

 確かに一番近場だが一番入りづらい店が最初で苦く笑う。

 “星の言い伝え”を冠する店は女性用下着を中心に展開する個人ブランドだ。と言うよりはこのあたりにある店はすべてガイア連合員の店なのでセレクトショップが存在しない。趣味人たちの店なので専業副業が入り混じり、営業時間も店によってまちまちだ。

 その中でRoAは専業でやっていける人気店である。ただでさえ式神には糸目をつけない人間ばかりの“俺たち”相手にデザインだけでなく装備としても一級なそれを最初に供給したという名声は大きい。いや、どうせ“俺たち”の事だから大部分はデザインのおかげだと思うが。

 

「いらっしゃいませー。あれ、武蔵さんじゃない。」

 

「お久しぶりです、キャロ様。」

 

 やる気のない出迎えにぺこりと頭を下げる武蔵。店番をしていたのは幼い少女の式神だ。特徴的なのはその頭とお尻に見える獣の部分だろう。

 

「すいません。真那さんはいらっしゃいますか?」

 

「ちょっと待ってね。――マナー、⑨が来てるー! マナー?」

 

 店主の在席を確認するとバタバタ音を立ててバックヤードに向かい叫ぶ声が聞こえてくる。女性陣は吊るしに興味津々なので先に見ていてもらおう。

 

「あ、マナ! ⑨が来てるわよ!」

 

「こらっ、9Sか藤原さんでしょう?」

 

「えへへ、そうだっけ?」

 

 奥から式神に手を引かれてやってきたのがこの店の主人だ。白い髪に赤い瞳。着物を崩したような洋服に身を包みファーを肩にかけている。頭と背中に見える獣耳と尻尾は主従で種類が違っている。

 

「いらっしゃい。前年度の決算報告に不備でもあったかしら?」

 

「すいません、まだ確認してないです。今日は仕事じゃなくてお休み何でまた別の用件です。」

 

「あら。ならお客様として歓迎しないといけないわね。キャルは他のお客様のお相手をお願い。」

 

「わかったわ!」

 

 ドタバタとうちの女性陣の相手に向かう姿は愛らしい。あんななりと接客態度だが、知識と技術などはしっかり店主に仕込まれていることを知っているので任せておけばいいだろう。

 

「今日はまた大人数で来たわね。新しい式神?」

 

「式神ではなく現地民ですよ。訳アリで私が管理します。」

 

「スタイルも良いし胸も大きいわね。それに笑顔がとても明るいわ。――距離が近いように感じたけど手は出してないと?」

 

「……ノーコメント、としておきます。はい。」

 

「素直でよろしい。その感じだと手を出された方かしらね?」

 

 わざとらしく嫌味な口調から一転、くすくす口に手を当てて笑う彼女に手を上げる。どうにも女性相手には分が悪いのは魂まで童貞臭が染みついているからだろうか。生まれ変わったぐらいで人は早々変われないらしい。

 

「用件も彼女についてです。これから彼女が使用する手袋と靴下はあなたに作っていただきたいとお願いに来ました。」

 

「私もやることは多いのだけども、それを分かってのお願いよね?」

 

「ええ、後で採寸の時に肌を見て貰えれば仕様は分かると思います。」

 

「採寸はキャロにさせるけどそうね……ふふっ、パトロン様のお願いなら聞かないとまずいわね。」

 

「もうとっくに返せるのに返してないだけでしょうに。」

 

「動かせるお金はいくらでも欲しいのはあなたもわかるでしょう? それにあなたの髪飾りを作るのも楽しいからね。」

 

「髪飾りはともかく式神とお揃いのレースの手袋はやめて欲しかったですね。おかげで一式揃いで仕事に行く羽目になりましたから。あなたも見たでしょう?」

 

「いい出来だったでしょう。みなで顔を突き合わせてトータルコーディネートをしました。本当にあのまま襲わなかった理性を褒めてほしいわ。」

 

「やはり全員共犯でしたか。」

 

 利息代わりに物納を許していたが次があれば止めよう。アパレル関係の転生者に貸した金の回収率が悪いと聞いていたが私で遊ぶために借りたままの奴も多そうだ。

 会社相手の出資はしっかり返してくれるのに、個人間になった途端遊びを入れるのは私が関わった転生者たちの共通点のようだ。別に返さないでも良いつもりで貸しているが、契約を逆手に好き勝手物を送り付けてくるのは流石に常識がないんじゃないだろうか。

 

「そう言えばあなたはともかく他の店の客足はどうですか? 近頃忙しくて書類でしか確認できていなかったので気になっていたんですよ。」

 

「あら気づいてなかったの? 少し前から客足が増えたのでどの店も吊るしを増やしているのよ。最初の頃のオーダーのためのサンプルじゃなくて普通に商品として買われていって嬉しい悲鳴を上げているわ。」

 

 思い出してみれば車から見た店は何処も普通のブティックのように商品が並んでいた気がする。前なら製図台の一つも見えていたが今日は一つも見た覚えがない。

 

「赤字にはなっていないのは知っていましたが繁盛しているようで何よりです。何か問題がありましたらいつでも相談に来てください。」

「それでは何かあれば遠慮なく頼らせてもらうわ。それで下着は買っていかないの? 男物も少しは置いてあるわよ。」

 

「そう言ってベビードール紛れ込ませたことが無かったら買ったかもしれませんね。」

 

 家に帰って見つけたのが百仁華と小夜子だったので大変好評だったのが苦々しい思い出だ。二人とも仕方がないとはいえ倒錯したものを抱えているのでガス抜きにはよかったのかもしれないが。

 そう考えて伝えようと思っていたことを思い出した。

 

「それともう一つ伝えることがありました。今月末には式神医療が稼働しますが、必要でしたら補助を出すとコミュニティーに流しておいてください。」

 

「……あぁ、そう。分かったわ。仕様に変更はないのね?」

 

「仕様に変更はありません。山梨支部でも確認を取ってきました。」

 

 先ほどまでとは違う気の抜けたような、どこか心在らずの返事に眼を瞑る。

 酷なことかもしれないが姿だけでも変えたい人間もいるだろう。先ほどは生まれ変わった程度では変われないと思ったが、生まれ変わったことで変えられてしまった人間もいたことを失念していたのは無責任すぎた。

 

「……あなたはどう思うのかしら、今回の手術は。」

 

 ポツリ零れた疑問は凝り固まった苦悩の一欠けらか。

 

「こればかりは個人の問題です。心機一転したいようでしたら新しい戸籍を用意してもいいですし、お好きなようにどうぞ。私個人の対応を聞きたいのでしたら手術をすることによって確かに変わることはある、とだけ。」

 

 迷い、或いは不安そうな表情の店主に返す言葉は杓子定規で自分が嫌になる。

 聖人君主でもあるまいし肉が変われば今までと違う応対をしてしまうだろう。仲間にそれを誤魔化すのは不誠実だと思ったが迷っている人間にかける言葉でもあるまい。

 

 本当に自分が嫌になる。

 

「……そう、分かったわ。ありがとう。確かにコミュニティーにも伝えておくわ。」

 

「ええ、よろしくお願いします。……呼ばれているようなので行きますね。」

 

 穏やかに笑う彼女の内心は分からない。知覚を開けば見えてしまいそうだがそれは不躾にもほどがある。いつもは困る品評をこれ幸いと席を外すことにした。

 その後は男が答えづらい質問ばかりされて遊ばれた後、普通に採寸して次のショップに向かったのであった。

 

 ただ一つ。

 店を出る時に交わした『また今度ゆっくり飲みに行こう』との約束に込められた意思を持て余しながら、だが。

 

 




掲示板が補足になるので意味深なだけの回です。
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