【カオ転三次】DRUG FATE   作:石は転がる

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33話

 夏本番まではまだ時間があるが管理調整された異界の中では関係がない。

 カラッと晴れた空と海のコントラストが美しい浜辺。そこに集まった人影の中心に私の姿はあった。

 

 持ち出された机に並ぶ大量のモニター。私の周りと正面を直線状に並ぶビデオカメラ。そこに取り付いて配線をひとつづつ指さして確かめていく人々。

 設置されたモニターに立ち並ぶビデオからの映像が正しく映し出され、各種計器からの信号も正常に伝達されていることが確認される。

「チェックオッケー! 異常ありません!」

 

 確認作業の責任者が声を上げ、総責任者が頷く。

 まぶしいほどの日差し。明るく照らされ、それでも総責任者を見つめる研究員を見渡し総責任者は声を張り上げた。

 

「では、強化鎧の第四回試験を開始します!」

 

 ドンドンパフパフとわざわざ持ち込まれた太鼓とラッパの音が響き渡る。

 間抜けな音色。丹精込めて作った装備の試験に似つかわしくないように思えるがこの緩さがガイア連合らしいのかもしれない。

 

「非稼働動作から始めてください。」

 

「了解。まずは軽く動く。」

 

 四回目とあって私も慣れたもので項目の確認もせずに試験を開始する。

 指から腕。腕から胴。胴から脚。肉体を意識して伸縮させて違和感がないかを確認する。

 最初の頃と違い、肌に張り付いた繊維は圧迫感も抵抗感もなくなく滑らかに身を包んでいる。体の縁に巡らせた骨格構造の硬さも感じない。砂浜をまっすぐ歩き、走って戻る動きも砂に足を取られることなく出来ている。

 

「非稼働動作チェックオッケー。違和感もない。」

 

「計器に異常なし!」

 

「よろしい! 続いて装備の稼働を開始してください。」

 

「了解。マグネタイト供給開始。」

 

 開始地点で報告を上げれば次を催促される。一つ頷いて漏れないようにせき止めていたMAGを普段と同じように纏う。

 体に青い線が灯った。

 試験のために分かり易く経路が発光する姿は照り付ける太陽のそれではなく、森の湖畔のように穏やかな光だ。

 

「マグネタイト供給を確認。規定量で安定しています。」

 

「各部励起開始しました。術式正常起動! 追従同調式も異常なし!」

 

「テスターから報告。こちらは問題ない。」

 

「――稼働動作を開始してください。」

 

「了解。」

 

 四肢の表層を踊る肉体強化術式に破綻は見受けられない。それでも慎重を期して先ほどと同じように動作を始める。

 末端から体幹に至るまで神経を通す。

 些細なズレでも強化された状態では大事になるので慎重に。されど委縮はせずに大胆に。

 

 一通り体を動かしたら歩行を開始する。

 最初の一歩二歩は地を踏みしめるように。続く歩みは普段を意識して。だんだんと早歩きをしていく動きの中でも神経をとがらせるが違和感がない。

 そうしているうちに折り返し地点にたどり着く。

 

「走行を開始するので注視してください。」

 

 警告を一言。遠目に大きく腕で丸を書く動きが見えたので『軽く』を意識して走り始める。

 一歩二歩。砂に足を取られるが問題なし。

 少し力を入れて踏み込む。舞い上がる砂粒。意識した通りの強さで力が脈動する。

 さらに本気で走る。足元は爆発したように砂をまき散らし、踏み込みが安定しないためにフォームが崩れるが力加減は思った通りの物だ。

 

 いける。

 そう思った瞬間に脇と腰に取り付けたアタッチメントを作動させる。

 排気音。強化術式とは切り離されていた術式が産声を上げる。瞬きの間だけ点された機関が莫大な推力を吐き出す。浜辺が断ち切られたかのように吹雪いた。

 わずか数歩で開始地点に戻っていた。減速に踏ん張ったために砂が舞うが研究員たちは気にもせずにそれぞれの作業を続けている。

 

「テスターから報告。追従性・強化倍率ともに違和感なし。術式に遅延も見当たらない。」

 

「計器は正常稼働中。強化術式の増減も観測できています!」

 

「スラスター異常信号無し! 推定推力算出中。」

 

「各部のステータスグリーン! 損傷なども見当たりません!」

 

 おぉ!と、どよめきが起こる。今までの試験はここまでに異常が出て中止していたのだ。

 

「観測班! 模擬戦闘の観測の準備を始めろ! 装具班は装備の確認を怠るなよ?」

 

 威勢のいいリーダーの声に研究員たちが持ち場を離れて準備に駆け回る。

 私の周りにも何人か集まってきて一つ一つのパーツを入念にチェックし始めた。特に推進器は固定された実験以外では初めての使用だ。人に万歳させて破損や熱を確認する眼差しは真剣だ。

 

「……じゅる。」

 

 真剣、なはずだ。

 やけに熱心に脇にかぶりつく研究員を押しのけ自分でも目視で確認する。

 肩の装甲はコンデンサの役割も果たすためにやや大振りに。二の腕は黒のボディスーツだけだが腕と手の甲は装甲が覆っている。胸部は鎧をまとっているが、動きやすさを意識して腹部は編み込まれた繊維とした。腰当からは草摺が広がり、腰のアタッチメントもここに繋がっている。足はボディスーツのみだがMAGの走る経路が青く光りツートンカラーになっていた。

 装備に異常は見当たらず、MAGの通りも問題がない。

 

「⑨ニキ、武器もってきました!」

 

 装具班の一人が二振りの鞘を持ってきた。鎧と同じ淡い水色のそれを小手についている中空の箱に通して固定する。軽く腕を振って動かないか確かめる。

 拳の先から大きく後ろに延びる板の扱いはトンファーに近いだろうか。盾のようにも使えるが基本殴り倒すための物だ。マグネタイトを供給すればエンチャントにより攻撃の物理属性に魔力属性を加えることもできる。

 

「リングの用意終わりましたー。」

 

「⑨ニキ準備どうですか?」

 

「準備できてますよ。」

 

「オッケーそれじゃあ模擬戦お願いします。」

 

 軽く体を温めていると場所の用意が終わったようだ。リングと言っても特別なものではない。砂浜に直径50mほどの円をカメラで囲っただけだ。念のために私もドーム状に対物結界を張っているので、すっ飛んでも周りの人間にけがをさせることはないだろう。

 リングの中ではA2がこちらを待ち構えている。私の式神の中で一番動き続けての近接戦闘の経験が多いので今回の試験に連れてきていたのだ。

 

「A2、最初は流していきますよ。」

 

「お気の済むように、お姫様?」

 

 苦笑して踏み込む。砂浜は足が付くたびに砂をまき散らすが、砂に力が逃げるおかげで全力で踏み込めるのがありがたい。

 思考を装備に回しながら折りたたんだ腕を一閃。A2の大剣とぶつかる音を響かせながらステップ。小回りを意識して逆の腕へと続ける。

 

「ほう?」

 

 軽く振るわれた大剣を避けるために正面からの推進でバックステップ。勢いつけ過ぎて上体が泳いだので急遽バクテンへとつなげる。

 バクテン中にA2は緩く追撃してくるのでアタッチメントにMAGを叩き込みさらに推力を得る。倒れ込む姿勢から背中を押されるように空を浮き、空中での二段ジャンプの様な挙動すら起こしながら距離を取る。

 

「相手から間合いを取るのにいいですね。推進力が相手の邪魔もしてくれますし。」

 

「無理やり追うこともできるが動きの緩急は読みづらいな。」

 

 体勢を立て直し手の砂を落とす。肉体強化の制御と違って、推進器は元になる経験がないので出力の調整が難しいが、近接戦闘に有効そうだ。物理的な噴流機と違って魔法的なこれは吸気が必要ないことも使い勝手がいい。

 

「おおよその出力配分が分かったのでそろそろ本格的に行きますね。」

 

「いつでもいいぞ? 踊るのは得意だ。」

 

 下から手を取るように誘うA2に笑って私は上から手を載せるような動きをする。

 今日のA2は珍しく気障な真似をする。どうしてだろうか、と考えながら私は推力半開でパートナーに飛び込むのであった。

 

 

 

 それがつい先週の話。

 自動肉体強化魔法展開機――試作名称アロンダイト――がデータ取りのために研究班から私の下に来た日の話である。

 

 ちなみに自動肉体強化魔法展開機という名前は計画初期の構想で、そこに色々つけ足し整え最後にコスプレ衣装化されたのがアロンダイトである。

 アロンダイトは概念的にステータスを上げるのではなく、術式による強化を自動的に行うことによりステータスを補強することを目指して作られた装備である。今は強化術式だけでなく電位計測機兼用人工筋肉などのサポートを必要としているが、最終的にはハーモナイザーのようにただの人間がプログラム一つで悪魔に対抗できるようにするのが目的である。

 

 尤もプログラム制御のとっかかりが見つかっていない事からアロンダイトは強化の自動制御情報を蓄積するための物でしかない。

 将来的な目標はさておき、現状では成長タイプが魔に偏った転生者の力速体を補うことが目的であり、そのための装備を安価に作るための試供品だ。転生者の悪癖である“プロトタイプのワンオフ装備は強い”という浪漫のために素材から厳選された装備はその為の蛇足でしかない。

 人工筋肉を電装、被覆部位を繊維、金属部位を合金の会社と、散らばったガイア連合員が寄って集まって最高を目指した鎧は確かに性能としては破格であった。何せ魔特化の私がMAG消費が重いとはいえ前衛式神に勝てないまでも負けない戦いが出来たのだ。コストから普及はまだ無理だが一つの到達点と認めて私も継続的な研究予算を約束した。

 

 

 夜の自宅。庭先に訓練のために張った遮光隔離結界の中。

 昼よりは過ごしやすくなったとはいえ暑い熱帯夜に、ここではさらにむせかえる熱気に包まれていた。

 吹きすさぶ奔流。悲鳴を上げるような破裂音。そんな絶え間なく響き渡る騒音が一時的になりを潜めた結界内に残るのは降り積もる土煙と荒れた息遣いだけだ。

 

「精が出ますね。」

 

 ペットボトル片手にひょっこり結界を越えてきたアリサが、結界の中を見て呆れたように声をかけてきた。

 元々訓練のために平らにならしたむき出しの地面だったところが今では立派な荒れ地である。アロンダイトのアタッチメントはMAGの大量消費と引き換えで膨大な推力を生むが、周りにまで影響を与えるのが利点であり欠点であった。

 吹き付ける風に大地がえぐられた跡に過剰使用により焼けたように熱を発するアタッチメント。戦闘時は周囲に被害が及ばないように気を付ける必要がある、と私は体に叩き込んでいた。

 

「少し、戦闘スタイルを、はぁ、はぁ、変えようかと、思いまして。……ん、はぁ、その練習ですよ。」

 

 投げ渡されたボトルをあおる。隔離結界は内部の熱まで逃がさないためにサウナの方がマシの熱さだ。のどが渇いて仕方がない。

 

「大丈夫ですか? 息を切らしていますけど。」

 

「だい、じょうぶ。すぐ、収ま、る。」

 

 渡されたスポドリを飲み干しても息切れはなかなか収まらない。

 息切れは体力ではなくMAG消費に喘ぐ体の不随意反応だ。覚醒してからここまでMAGを急激に消費した覚えがない。情報としては知っていたが、吐き出したMAGを取り戻そうと必死になったのは初めてだ。いくらでもMAGは余っているのに体がいう事を聞かないというのも面倒な話であった。

 

「横にどいていてください。」

 

 息が整うまで待っているのが暇だったのだろうか。端に追いやられた私の前でアリサは神機の盾で地面を整地し始めた。

 

『――! ―――――!?』

 

「うるさいですね。」

 

 トンボ扱いに神機が文句の思念を飛ばしているがアリサは煩いと言ったきり無視して地面を均している。チューブトップにゆったりとしたショートパンツの寝巻からすらりと伸びた足や腕には汗の雫の一つも見られない。

 それをなんとなしに見ている間にやっと息が楽になってきた。

 

「ありがと、ございます。もう大丈夫です。」

 

 荒れた息を飲み込み礼を言う。

 推進器も随分冷えてきている。これなら素手で触ってもやけどするくらいだろう。スーツの耐熱補強に爛々と光り輝いていた強化術式の出力を下げる。

 

「まだ続けるつもりですか?」

 

「ええ、MAGはまだまだありますからね。明日に疲れを遺さない程度にもう少しやります。汚れるので結界から出て先に寝ておいてください。」

 

 掻き上げた髪の毛が汗で重い。一度風呂を浴びているがまた風呂に入らなくてはいけない。その時間ぐらいは見積もっておかなくては。

 時計が無いと時間が分からず不便だと思いながら体をほぐす。強化無しでのシャドーでもパンチにキレが戻っている。この感じだと後数時間は練習できそうだ。

 

「……そんなに負けかけたことが気になりますか?」

 

 顔の横で髪を指に巻き付けて言葉を出しあぐねていたアリサが意を決して言葉を発したのはそんな確認をしていた時だった。向き直り正面から見れば、言ってからも言ってよかったのかとちょっと悩んでいる不安げな姿が目に入る。

 

「随分――」

 

 その姿に『随分と前のことを』と苦笑しようとして失敗する。途中で止まってしまった言葉の続きが出せない。正面からの揺れる視線が私の強がりをはがしていく。

 

「……そうですね。気にしているのでしょう。」

 

 溜息一つ。見栄を張って笑い飛ばしてアリサの不安を無下にするのは自分が許せそうにない。そっと胸に抱いている気持ちは試合を見ていたアリサには教えておいた方がいいのだろう。

 

「私とてまともに修行したのはたかが五年ほどです。それでも、強くなるための妥協をしたつもりはなかった。それが半分ほどの期間で越えられようとしている。」

 

 脳裏に思い返される記憶。中東から拾ってきたマリーの検査に付き添い、山梨支部に逗留していた私を訪ねてきたペルソナ使いの後輩との模擬戦。一対一のそれで危うく打ち取られかけた苦い記憶。

 多彩な手札。全域に対する対応力。転生者であろうとも優劣は世の理の例外ではない。

 

「いや、私に才能がないのは分かっていたつもりです。覚醒してから一つとして魔界魔法に覚醒することもなく、初めに覚えたマグネタイトの吸収とて修行すれば誰でも習得できる程度の物。」

 

 まるで思い出すように次々と魔法に覚醒し、概念に手をかける転生者たち。

 その横でただ地道に一つずつ石でも積むように道理を学び積み上げ、魔法を使用するたびに一から術を組み立て概念に指を触れることすらない私。

 攻勢の術への適正だけ見れば現地民並みの才能を、後生大事に抱え込む私のなんと滑稽な事か。

 

「それならばと霊格を上げ修練を積んだのに、周りが上級魔法を覚えるような格になっても使える術の強度は最初の頃から変わりはしない。」

 

 霊格さえあればマシになるのでは、と繰り返した戦闘は確かに霊格だけは積み上げた。

 芳醇で濃密なマグネタイト。

 初歩の術は注ぎ込まれる燃料のおかげでどうにか中級魔法程度の威力は出せたがこれ以上は破綻すると突き付けてくる。より上位の概念へのアクセスはいくら上手く術を構築しようと頑として門戸を閉ざしている。

 

 才能と言う名のふるい分け。

 私が現地の人間に優しいという風評があるがなんてことではない。ただの共感と私以下の相手への見下し交じりの憐憫でしかない。

 

「いくら戦えども強くなれない。いくら鍛えども何も成せない。そして、その私を後続は軽々と超えていく。」

 

 もう何年もステータスと言う意味での成長は鈍い。

 敵が弱い、確かにそれはあるだろう。しかしそれ以上に私の限界は近いのではないかと言う内心の囁きを、私は無視できない。

 

 ああ、なんと弱い心か。

 

 仕事に打ち込み逃避し、捻りだした時間の鍛錬はただ時間を浪費するだけで。そんなメッキの私を輝かしい者でも見るような視線の苦しさよ。

 あの模擬戦で負けていればよかった。そうすればこんな私を先達として君が尊敬することもなかったのに。

 

「支部はもう、私が居なくとも回るようにした。会社も同様だ。ならば、ならば私ができる終末への対策はもう、強くなることだけなのに。」

 

 もう、もう五年の区切りも過ぎてしまった。

 現地組織との折衝もすでにガイア連合としての看板で十分できる。会社の経営はほとんど最初から人任せで、私がしていたのは己の我儘を通していただけだ。ガイア連合支部設立当初の目的である避難地は完成した。終末の後を生きるための準備も着々と進んでいる。

 そこに、私でなくてはいけない仕事は存在しない。

 ならばあとはただの戦力として強くありたいというのに。

 

「私の歩みは遅く、私のあがきはただ零れ落ちるだけで。でも、それでも、とただ打ち込んでいるだけのつもりなのですけどね。」

 

 もうこれ以上今のスタイルでは強くなれないのであれば、また次の手段を。零れ落ちようともその手に何かが残れば前よりはましだと粋がって。

 まだ私は終わっていないのだから、まだ何かできる。そう進む姿に家族を心配させてしまうのは不本意ではあるのだが、それでも止まってはいけない。

 止まってしまってはきっと終末に飲み込まれてしまうから。

 

「――でも、止まりたいのでしょう?」

 

 黙って聞いていたアリサの問いかけに、己の手を見ていた視線が上がる。

 青い瞳。何の感情も載せずにただ見つめる瞳に映るのは等身大の私か。

 思いつめた顔には覇気がなく萎びた表情に余裕はない。間抜けに震わせる口で一体何を紡ぐつもりなのだろうか。

 

「ぁ……あ…っ…………。」

 

「なんで分かるのかですか? 分かりますよ。MAGに感情が載らずとも。私たちはあなたを見てきたのですから。見くびってもらっては困ります。」

 

 ふん、と鼻を鳴らして胸を張る姿に愕然とする。

 ずっと一緒に戦ってきた。人間味が出てきたことは分かっていた。趣味を見つけ、私以外の人間と交流を持ち、それぞれ自分の時間を過ごすようになった式神に私は安心していた。

 

 でもその姿をちゃんと見ていたのだろうか。

 

 真っすぐ見つめる目に宿る感情は、人間が抱ける愛とはまた違った愛だ。百仁華や小夜子たち、人が抱く愛が共に歩もうとする心なら、彼女が抱くのはただ伴に在るという事実だ。

 

「参ったな。参った。」

 

 参った、その言葉しか出ない。

 分不相応に愛されているとは思っていたが、こんな身近な愛にすら気づけないほど私は周りを見れていなかったのだろうか。苦悩も何もかもがより大きな衝撃に吹き飛ばされてしまた。

 

「とりあえず一年頑張ってみればどうです? 朱莉の五年に二年で並ぶなら一年あれば軽々と追い抜かれますよ。諦めるのはそれからでも遅くないのでは?」

 

 軽く言われた提案の、どうでも良さそうな投げやり感に笑う。

 彼女にしてみれば私の心が晴れるのなら強かろうが弱かろうが関係ないのだ。“強くなりたい”という思いに共感できても“強くなれない”という苦悩を理解できないのは、姿こそ人間でもさすが悪魔と言うべきか。

 それでもその言葉は私の胸に納得をもたらした。

 

「一年、一年ですか。これはのんびりしていられませんね。」

 

 握りしめた拳の強さに焦燥はない。漠然とした不安は短期の目的を見つけて気概へとすり替わった。

 一年でどれほど強くなれるか不明だが、私を愛してくれているものからの提案だ。これからを決めるのはそれからでも良いだろう。

 

「アリサ、ありがとう。もうひと頑張りしたら休むから先に休んでくれ。」

 

「――はぁ、仕方ないですね。風呂に一人で入って誰が髪を乾かすのです? 結界の外で待ってますので手短に終わらせてください。」

 

 意志に呼応して脈打つ鎧を見たアリサが苦笑して神機片手に結界から出ていく。

 確かに乾燥は手間だがその程度自分では出来るのだが。

 頭の中で少なくとも一年は終末が来ない様に霊地活性化を抑える手立てを組みつつ、私は子供のように見られていることに何とも言えない気持ちを吐き出すべく推進器に火を入れるのであった。

 

 




主人公の技能で覚醒したことによって習得した戦闘スキルはありません。
各種魔法攻撃スキルもチャクラウォークのような技能も全て訓練の末に身に付けたものになります。
気配を感じる知覚も『ただ感じる』だけなので『警戒』スキルなどと違って意識して選り分けないと意味のない物です。
主人公が戦闘時に『アギ』『ブフ』などの言葉を使わないのもスキルとして習得できているわけではないためです。術式の補助が無いとマッチ代わりにもならない……。

主人公の才能はあえて言えば『生存』することに才能を歪めた後遺症を現在自然回復している途中です。
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