【カオ転三次】DRUG FATE 作:石は転がる
山梨第一支部――星霊神社――は一時の盛況さと比べれば随分と人気が少なくなっている。
転生者の全国の支部への分散や山梨第二支部設立による各種施設・機能の移転によって一時の混沌がなくなった星霊神社は、最初の役割であった覚醒修行やガイア連合の中枢施設としての役割を果たす人間たちが現在の主な住人であった。
そのため、酷い頃には爆発音がいつも響き渡っていた敷地内も今では安穏とした空気が漂っている。
その星霊神社の一角。野外に作られた鍛錬場。
碌な整備もされていない切り開かれた台地は雑草が生い茂り、不整地で人の手が入っていないように見えて結界などの機構はしっかりと維持をされている。
鍛錬場の中央に鎮座する岩が一つ。雑草に負けぬ巨岩に腰掛ける人影も一つ。
白銀の髪を風に遊ばせ静かに目を閉じているのは模擬戦を乞われた私の姿だ。
身体の検査も呉支部で出来るようになったため、一時と比べて星霊神社を訪れることも減っていた私が逗留すること既に三日。連れ込んだマリーの検査にまだ時間がかかるとのことで久しぶりに方々に顔を出していたのだが、その噂を聞きつけてきた後輩がひょっこり現れたのだ。
後輩、と言っているが肉体年齢は相手の方が上だ。二年ほど前にガイア連合に加わったペルソナ使いで、加入当時まだ小学生だったことから私と年が近いので気にかけていたら懐かれたのだ。
人懐っこく誰とも賑やかに交流していたので碌に面倒を見ていなかったのだが、私に気が付くと寄ってきて楽しそうに話す姿はまさに犬のような人柄の人物だ。後輩という呼び名も彼女が私を先輩呼びを始めたから自然となったものだった。
寮生活で遠出が中々出来ないと話を聞いて、ちょくちょく都心で買い物に付き合ったり遊んだりたかられたりした思い出が私が彼女に持っている印象を形作る。
そんな彼女もペルソナ使いとしてすでに一角以上の者として名が上がる人物になっていた。
ペルソナ使いでしか認識できない特殊な異界。毎夜広がる悪夢にただ一人立ち向かう彼女は、或いは既にもう私など歯牙に掛けない強さなのかもしれない。
漂う風格。知覚を刺激する独特の匂い。
かつてとは見違えたそれに感じた気持ちは何だったのか。楽しく近情を話し合っていた彼女から出た手合わせの願いを聞き届けてしまっているのは意地からだろうか。
知覚を触れる気配。結界への侵入という開始条件の達成。懐旧を吐き出し気持ちを切り替える。
「火、氷、雷、風。」
ゆっくりと組み上げた術の精度は何時もと変わらない。内心は表層に現れない。
それに満足して始まりの号砲を鳴らすのだ。
「――どう出る?」
私に小手調べなどの贅沢はない。
連続投射。四色の概念に染まったMAGが結界の縁へ吹き出す。
接触。こちらの対応に気が付いて移動を始めているが避けきれていない。
気配から術の効力を測定。火炎氷結耐性、疾風は全て躱された。暫定的に疾風弱点と認識して雷と風を投射する。
異界の空を雷撃が吹き荒れる。一度二度ではない。それこそ機関銃のような再装填間隔は私の数少ない長所だ。弾ける雷音が連続するのを無視して閉じた瞳を遠くへと向ける。
秒の判断で二種類の手段に絞った後に変わる気配。
ペルソナチェンジ。
才能に裏打ちされた格差。投射した雷と風を無視して行われるのは攻撃か。当たった私の攻撃が無に帰すか矛先を変えて向かってくる気配に紛れた暗器。
放射されるMAGから属性を断定。防護術式構築。一つ破られても構わない。反射した属性と物理属性を相手に幾重にも重ねた結界を構築しつつ、攻撃術式を変更。スイッチを切り替えるように属性を入れ替え攻撃を続行する。
駆けだす気配。矛先からするりと逃げ出された。意識の別の部分が相手からの攻撃の撃墜を確認している。矢、だろうか。威力は高いが全力が必要になるほどではない。防護術式の一部を破棄。空いたリソースでさらに攻撃間隔を詰めていく。
空にかかる炎の橋の周りで氷のシャンデリアが瞬く。拡散された光がサーチライトのごとく敵を探し地を照らす。それを何の感慨もなく追っていた私の周囲が一瞬で別の色に染め上がる。
敵からの攻撃。回避ではなく防御を選んだ私の周りに多重結界層が浮かび上がる。すでに何度も攻撃を叩き落としているのだ。今更生半可な攻撃をしてくるほど甘い相手ではないと意識が身構える。
「がっ!? ――ぅが、ごほっ!」
臓腑が焼ける。思いもしない衝撃とむせかえる呼吸器官。多数の対物対魔結界を素通りした一撃。
反応すらできなかった。どうでもいい。
焼け爛れ溶けるような痛み。どうでもいい。
それ以上に咽喉を塞ぐ血を吐き出すのにひと手間取らされた!
加速する意識がそれ以上の速度で近づく後輩の気配を補足する。
速い。ここから500mはある距離を瞬く間に踏破してきた!
戦慄する本能。本能を置き去りに反応する理性が念動でホルスターから抜いたグリップを手に握らせていた。
抜刀。光を灯し伸びたライトセーバーが薙刀の刃に横から突き当たる。
「――――?!」
「――ぐっ!」
踏み込みの速度はひどく常識的だ。私が開いた眼はあらぬ方向をまだ見ている。あの速さは移動時にしか使えないのだろうか。
伸びた刃に押し出されるように私は岩からずり落ちる。力負けしないために肉体強化した手の上から握りしめた念動で指が拉げる。痛みの信号。無視。驚愕を張り付けた後輩の動きを見る方が重要だ。振りぬいたゆえに泳いだ姿勢。それでも私が大地に足をつくより後輩の動きの方が速い。
「――ペルソナッ!」
崩れた態勢でそれでもなおこちらを見つめる眼差し。その後輩を守護するように現れる巨体を幻視する。
獅子頭。雄々しく広がる翼。振りかぶられた腕。発露するMAGは主の命ずるままに斬撃を広げている!
悪寒に浸され喚くしかない感情を薪に、思考を冷静に回転させる。
術、速い、無理、防御、落ちる、回避、不可。単語の連想は意味をなさずにそれでも最適と思う行動を選択する。
迎撃だ。
反応が間に合わない肉体を念動が強引に補佐。ダブルセイバーに火が灯る。横薙ぎの斬撃に吸い上げるような逆手の切り上げ。力負け。当然。反発で地面に叩きつけられるように着地する。二撃目切り落とし。納刀。薄紙のように叩き割られる物理結界。袈裟切りに対して出来た僅かな隙間に倒れ込むように足元に転がる。叩きつけるように振り下ろされる三撃目より早く抜刀。伸びた閃光は寸分違わずペルソナの心臓を貫く。
間隙。
そこに落とされる刃は体勢を立て直した後輩の一撃だ。フィードバックダメージに顔を歪め、それでも乱れのない刃筋が左から首へと伸びる。
しゃがみ込み動きを止めた私にその一撃を交わす手立てはない。
本当に?
レールから外れて、それでもなお加速をやめない思考が体を動かす。左手に持ち替えたグリップ。念動の放射が己の軸足を薙ぐ。そこにあると感じた場所に刃を置き滑らせる。滑るのは刃だけではない。己の体を回し後輩の懐に潜り込む。咄嗟に押しのけようと伸ばされた左腕。そのさらに内側にすっぽりと抱かれるように私は潜り込んでいた。
納刀されたグリップは右脇に挟むように照準を合わせている。ペルソナを相手に狙い打ったのと同じ部位への攻撃は、ただ刃を伸ばすだけで完了する。
「あーあ、負けちゃった。自信あったんだけどなぁー。」
ひどくあっさりと己の負けを認めた後輩に力が抜ける。
眩暈。意地で耐える。胸の鼓動がうるさい。脈打つたびに焼けた臓腑が痛みを発する。
「――勝てましたか。負けたと思いました。」
いつもと同じように笑えているだろうか。身体の力を抜き武器をホルスターに収めようとするが、それより先に後ろから抱きしめられた。
「うわっ! まだ小っちゃくて可愛い! いい匂い!」
「何をしているんですか。汚れるから離しなさい。あぁ、ほら、血がついちゃいますよ?」
話すだけで血が飛びそうになるのに気を付けてやんわり促す。後頭部に顔を埋めて匂いを嗅がないでほしい。後ろから回った左手の力ですら肉に響くが、まあそれはいいか。
「ああ、ごめん! 今回復するから。『ディアラハン』!」
緑のドレスを着た妖精が私に笑いかけながら回復を振りまく。私と後輩にそれぞれかけられた魔法がすぐさま傷を癒していく。じくじく傷んでいた内蔵もへし折れた指もすべてが何も無かったかのように消えていく。残るのは紅を溢した一筋の跡だけだ。
「――ありがとうございます。」
「どういたしまして。でも、ありがたいって思っているならこのままでいいよね!」
「それとこれとは話が別です。もう、そんなに抱きしめないで下さい。」
「ええー? いいでしょー?」
攻撃から回復まで、何でもこなせる力。傷が消えた代わりにちくりと傷んだ何かに気がつかないふりをして、私は後輩を振り払おうと右往左往するのであった。
「……まったく、仕方がない子ですね。」
主人公が途中で『踏み込み速度が常識的』と言ってるのはあくまでLV相応の速度という事です。
まだ相手が物理法則を無視しした移動に習熟していないため、移動の時にしか使えていないので。
後輩のペルソナ使い:
現在中学二年の14歳。
ガイア連合の事は前々から知っていたのだがペルソナ使いに目覚めたことにより正式加入。
毎晩塔のようなダンジョンに潜っているらしい。
ちなみに寮生活で大量の装備品などの保管に困っているそうだ。