【カオ転三次】DRUG FATE   作:石は転がる

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幕間18

 月の消えた空に鈍い幕が覆う。

 暗い空から降り注ぐ白いモノは、光がなければ埃と何の違いがあろうか。のっぺりと世界を塗り潰す様は、まるで灰から落ちた羽のようだ。

 何もかもを己の都合で覆い隠し、清浄を謳う様などまさにそのものだろう。

 

「――珍しいですね。あなたはいつも遊び終わったらすぐ引っ込むのに。」

 

 ぼうっと窓の外を見ていたら優しく布を掛けられ、髪を梳かれた。撫ぜる指から頭に伝わる血の熱。熱に籠るモノを、こいつは気が付いているのだろうか。

 外と内。

 外の冷めた空気は内には及ばない。科学と言う名の物理法則信仰に支えられた断層は、内に熱を抱え込んでいる。それはまるでこいつのようだがその内実は真逆だ。

 恵みを与える陽光のような外面の内に抱えるのは、峻烈な霊峰の如き凍土。そしてその足元で煮え滾る熱。与えられる魂の欠片が見せる内面。

 ひどく矛盾したような在り方は、しかしだからこそ人間らしい。

 

「何をしようが私の勝手だろう。ほうっておけ。」

 

「その体はマリーのものでもあるのですよ? 風邪をひかれてはたまりません。」

 

 内とて光源はすべて消されている。それでも、邸宅の主は闇から浮かび上がっていた。

 輝く御髪に劣らぬ白磁の体。白皙の肌に残る赤みに、己がなした事への嗜虐心と満足感が胸をよぎる。

 熱に浮かされるままに手を引き腕に中に閉じ込める。

 彼は手を振りほどかない。されるがままに、大人しく力を抜いてこちらの胸にもたれかかってくる姿は無防備で。

 

「――んぐっ?!」

 

「……女の目の前で他の女の話をする悪い子にはお仕置きだ。」

 

「マリーも貴方でしょうに、女。」

 

 うなじに空いた穴から芳醇なにおいが解き放たれる。

 マグネタイト。有象無象どころか彼が直接麾下に収める上玉とすら比べることがおこがましい。

 濃密でいて尽きぬ泉の様な清純さ。蜂蜜より甘く、リンゴより爽やかで、ブドウよりなお赤い。夢中で貪りたくなるそれは、しかし一口口に含んだだけで満たさてしまう。

 熱。感情。抱擁。

 彼の想いは、貪るには暖かすぎる。

 

「女、女。そう、女。――ジル、なんてどうでしょう?」

 

「なんだいきなり。」

 

「貴方には名前を与えられないのですけど、“女”呼びし続けるのもどうかと思っていましてね。俗語らしいですが“ジル”と言うのも“女”として使うらしいですし愛称にはいいかと。」

 

 名残惜しく塞がる穴をほじくり返すように口づけしていると、彼が唐突にくだらないことを言い始めた。彼が一般名詞で私を呼ぶのは名前による定義づけをしないためなのに愛称など与えてどうするつもりなのか。或いは定義のズレによる弱体化が目的なのか。

 

 うなじから口を離し、強引にこちらを向かせた彼を貪る。くだらないことを言った罰だ。すすり上げるマグネタイトに酔いしれながらそんな事を思う。

 上へ下へ、裏側すら嬲りつくすと一度離れる。

 惜しむようにかかる橋。口を開けて荒く息を吐く彼の吐息は、甘く、熱い。覆いかぶさるように下を向いたせいで流れた自分の髪が、青ざめた色を彼に絡ませる姿にうずく。まるで私が彼を縛り付けているようだ。

 

「……好きに呼べ。どうせ私はお前に縛られているのだから。」

 

「では、そうさせてもらいます、ジル。……たまには貴方も昼に顔を見せてください。」

 

「私に眠れと言ったお前が言うか。マリーに取って代わっていいと?」

 

「他ならぬ貴方なら分かっているでしょうに。マリーもあなたと話したがっていますよ。」

 

 苦笑。嫌いな顔だ。私に苦笑しているように見えて、実際は彼自身を嗤っている。

 頭を掴んでいた腕を顔に這わせる。青い瞳。この目を刳り抜けばこいつは私を見るだろうか。彼の眼に映る私の顔は口の端がつり上がっている。

 

「気が変わった。解放してやろうかと思ったが懲りていないようだ。眠れると思うなよ。」

 

「私は愚かですからね。それこそ一生懲りることが出来ないでしょう。」

 

 月の無い夜。白い浜辺に再び彼を押し倒す。

 光輪のように広がる髪。私から離れない指。見つめ返してくる眼差し。

 そして、熱。

 私は尊いものを無茶苦茶にする法悦に顔を歪める。

 

 彼に押し倒される日は何時になるかと楽しみにしながら。

 

 




主人公の現状唯一の覚醒スキル
っ【魂捧げの夜伽】

2023/1/27 追記

【魂捧げの夜伽】:
術者の魂を対象に捧げるスキル。『夜伽』とあるが術者の練度によっては性行為に限らない。
捧げられた対象は『捧げられた魂』の分、霊格を向上させる。

捧げる『魂』は全量とは限らず一部だけを捧げることも可能である。その場合、通常の霊格の負傷と同様自然回復で治る範囲であれば時間経過によって『魂』は回復する。
ただし、捧げた分の霊格は喪失するため、捧げた量によってはレベルダウンや一時的な不調が継続することがある。
勿論自然回復できる範囲を超えてしまえば後遺症が残るのが当然の危険なスキルである。

スキルの特性上『捧げる』行為のため、『対象の霊格が術者の霊格よりも劣っていても汚染などが起きにくい』『対象に最適な成長をもたらす』などの性質がある。
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