【カオ転三次】DRUG FATE   作:石は転がる

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七年目
37話


 異界巡りに術の修練、時間を作って星霊神社まで戻っての恒例の神主主催の修業。自己鍛錬とは別に装備の調整もこなし最適化を進める。

 私の一年はおおよそそうやって過ぎていった。

 

 勿論支部長としての仕事はしながらだが、すっかり運営機構が出来上がった支部は特殊技能を必要とする部分や立場が必要なもの以外の仕事を任せられるようになっていた。

 分かっていたことだが、昔は任せられなかったLVの異界も今では連合員たちに任せられるようになった事は私の時間を著しく増やした。毎日数時間も時間を作ることが出来るようになったのは彼らのおかげだった。

 

 鍛錬も大事であったが装備の更新も重要な事であった。ステータスもスキルも変わり映えがしないのであれば、一番大きく変えれるのがそれであったからだ。

 以前までの砲台型のスタイルから高機動近接型への置換。

 純粋な戦闘技能を独学で積み上げるのは出来た時間で行えたが、装備自体の改良は仲間の手を借りなくてはいけない。オーナーとして、或いは支部長として権力を笠に着たお願いにもかかわらず、プロジェクトチームは快く改良に付き合ってくれた。

 既に廉価化することにかじを切っていたプロジェクトを再び高性能化に戻し、より高倍率な術式や人工筋肉の開発・MAG経路の見直し・反応速度のさらなる高速化などより先鋭化するためにプロジェクトメンバーをさらに増やしての研究開発。

 巻き込まれた者には悪いが、出来上がった鎧は現時点で私にとっては最高のものであった。

 

 そうして。

 最高のコンディションで、くだらない意地に後輩を付き合わせた模擬戦の日。

 

 ――私は敗北したのであった。

 

 

 

 星霊神社の桜は開花が遅い。

 今年は冬の強い冷え込みから一転、春は例年になく急激に暖かくなっていた。呉ではすでに桜が散っていたが、星霊神社の桜は山の涼しさのおかげで今がちょうど満開であった。

 更待月に白い団子。

 台所から拝借してきた三方の上に乗せたのは、久しぶりに走って買ってきた麓の和菓子屋の団子だ。夜桜で月見をすると店主に言えば、商品になかったのにその場で白い団子を作ってくれたのだ。店主が私が昔よく買いに行っていたのを覚えていてくれたらしい。

 

「元気そうでよかった、か。」

 

 小さい子供が張り詰めた顔をしていたから気にしていた、だそうだ。碌に目も見えずにお釣りを間違えていたような有様だというのによく人を見ていたものだ。継ぐ者も居ずに夫婦二人で切り盛りしていたがあれだけ矍鑠としていれば終末まで生きていそうだ。

 

「それまでに死ねていれば幸せだろうに。」

 

 手酌で注いだ酒を乾かし独り言ちる。

 終末になっても神社から近いから悪魔の心配は少ないかもしれないが、社会の混乱はひどいだろう。そんな不安と恐怖の中で死ぬより今死んだほうがよっぽどましかもしれない。

 そう考える自分の怯懦と傲慢に哂う。見栄の皮を一度はがしてしまえば結局自分はその程度のものだ。善良な人間が善良で在れる様に努力するのでなく、自分が見たくない様を見せる前にさっさと死ねと願う。我が身可愛さに今までいったい何人の人を巻き込んでしまっていたのだ。

 

 風が吹く。ひらりと舞った桜が風に流されて廊下を吹き抜けていく。月だけが照らす夜は星すら塗りつぶす白と黒の世界だ。

 白く輝く花と木に遮られ深く落ちる黒。光を受け跳ね返す肌と光の届かぬ腹の内。

 その世界に色が混じる。

 

「先輩こんなところにいたー!」

 

 廊下の奥から響く明るい声に杯を掲げて応じる。

 ジャケットにオレンジのラインの入ったインナー。風呂上りなのかいつもは上げている髪が肩にかかっているが、明るいブロンドは彼女に良く似合う。元気よく振られた腕の動きは影の中からでもよく分かった。

 

「こんなところで一人で花見とは贅沢な! 私も誘ってよ。」

 

「貴方に来られては団子がなくなってしまいますからね、後輩。」

 

「ひどーい! いいもん、そんなこと言う先輩には遠慮してあげないから! ……あ、おいしぃー!」

 

 三方を挟んで座った後輩が月見団子をひょいと食べて笑顔を溢す。それを見ながら酔い覚ましに持ってきていたほうじ茶を後輩の前においてやる。

 礼を言ってお茶を飲む姿に隔意は見当たらない。模擬戦ではずいぶんひどいことをしたと思うのだが気にしていないらしい。ふざけ合ったじゃれ合いで確かめる自分の弱さに笑う。

 

「そう言えば貴方の事ももう後輩とは呼べませんね。これからは汐見さんとお呼びするべきですか。」

 

「えー、別に今まで通りでいいんじゃないかな?」

 

「負けた側のケジメ、ですかね。どうしてもいやなら今まで通り後輩と呼びますが。」

 

「んー、それならハム子とか呼び捨てでいいよ? 私も朱莉君って呼ぶから!」

 

「それでしたら“公子さん”と呼ばせてもらいますね。」

 

 教え導く後輩ではなく、終末へと向けて努力する同輩への区切りとして名字で呼ぼうと思えば顔をしかめられてしまった。それならばと相手に合わせて名前で呼べば今度は満面の笑顔になる。

 ころころと忙しく表情の変わる彼女は見ていて飽きない。友達も多いと聞くが納得できる。一緒にいて楽しくしてくれる人間だ。

 

「朱莉君は負けたって言うけど私は勝った気がしないんだよね。むしろ私の負けじゃない?」

 

「正しくあなたの勝ちですよ。あの場あの瞬間、私にはもう勝ち目がなかったのですから。それを成したのはあなたの力なのですからあなたの勝ちで決まっているでしょう?」

 

「私ぼこぼこにされていただけなんだけどなぁ……。」

 

「見解の違いですね。」

 

 公子さんから視線を外し、自分でお銚子から注いだ酒を舐めるように飲む。

 へし曲がった口元を見せたくない。逃げた視線は変わらずに白々と輝く満開の桜を目に映した。

 

「あっ、こら! 子供がお酒飲んじゃいけないでしょ。」

 

「大人ですよ。もう社会に出て働いているのですから。」

 

 ゆらゆらと杯の湖面を揺らして笑う。

 どこが大人だ。一丁前にカッコつけてみたとて昔のように気持ちを飲み下すことすら出来ていない。

 

「そういうこと言っているんじゃないんだけどなぁ。学校にも通ってないしもう少し年相応な活動したら? 楽しいよ。」

 

「学校ですか。そう言えば公子さんは来年から高校でしたっけ。やはり高等部にそのまま進学を?」

 

「そうだよー。友達もみんなそのまま上がるしタルタロスを放置も出来ないしね。」

 

 気負いなく軽やかに肯定する言葉は堅固だ。戦力が欲しいとは愚痴るが辞めたいとは決して言わないことに彼女の芯の強さを感じさせる。たった一人で毎夜、誰にも頼れることなく鉄火場に身を置き続けているその身に陰りは見えない。

 

「ペルソナ能力があれば手助けで来たのですがね。どうも私には才能がないようで。」

 

「仕方がないよ。ペルソナ使える転生者は十もいないしね。それにマッカやフォルマを回してくれてるのにこれ以上頼ったら罰が当たっちゃう。」

 

「……そう、ですね。必要なものがあればいつでも言ってください。出来る限り協力します。あっ、でも式神造形部にはちゃんと謝りに行きなさいね? オタ社長もですけど残骸になったテスト用式神に泣き崩れたらしいですから。」

 

「ごめんなさーい! 造形部には明日でも謝りに行きます。」

 

「よろしい。資材は出しましたけど実際に苦労して形にしてくれた人間に感謝を忘れないように。」

 

 いい年した大人がわんわん泣いた話をすれば、流石に悪いと思ったのかばつが悪そうだ。話に聞いた式神も弱いものではないのにそうなってしまうあたり、タルタロスの魔境具合は地上の異界よりもひどそうだ。

 

「それより! 朱莉君も学校通わない? 学校を作ったんでしょ?」

 

「寄付と条件だけ出して経営はノータッチなんですよ。」

 

「そうなんだ? せっかくなら学生生活を楽しんだら? 中学校からでも通った方が表の経歴的にもいいんじゃないかな。」

 

「表はもうどうとでもなりそうですけどね。……今から通うとどの学年でしたかな? 今年で11(?)だから小学5年生ですか。ああ、いや。確か戸籍はサバ読んでヒルダたちに合わせていたんだった。となると来年高校か。」

 

 咄嗟に西暦から計算するのは前世からの名残だろう。秋に前世の誕生日を祝ってもらう時以外に歳なんてすっかり忘れていた。

 

「高校! それなら港区にこない? 一緒に学園通おうよ!」

 

「学校はともかく流石に呉を離れるわけにはいかないですね。誰か支部長を変わってくれたらいけるんですが。」

 

「そっかー。残念だなー。でも同級生じゃなくても他所の学校の同学年の友達ってのもいいね!」

 

「そんなものですかねぇ。」

 

 昔はどうだっただろうか。学校という狭い枠の中で満足していたように思うが記憶は美化しがちだ。もしかしたら他の学校に憧れでも持っていたかもしれない。

 

「しかし学校ですか……それも良いかもしれませんね?」

 

「お? 意外と乗り気?」

 

「支部も落ち着いていますし、少しゆっくりしようかと思いまして。それに学生の彼女たちとは時間が合わずに中々一緒に居ることも出来ませんでしたから。共に過ごす時間を増やすのに一緒の学園に通うのは良いかもしれません。」

 

「リア充、リア充の空気っ!」

 

「ネタにしては反応が過敏ですね。公子さんは素敵な女性ですからそんなに焦る必要はないでしょう?」

 

「やめてッそんな目で見ないでぇッ! わ、私だって仲の良い男の子ぐらいいるもん!」

 

 どんな目をしてただろうか。普通に褒めたつもりだが大分深手を負わせてしまった。

 困ったので餅を食べる。つるりとした舌触りにほんのりと広がる甘さ。口の中で押し返してくる弾力が心地よい。

 月が団子に射し込むが桜の白さとは違い団子はどこか温かみがある。三方の上にはまだまだ団子が並んでいた。なのでもう一つつまむ。

 もちもちと口を動かしているとぶつぶつと何か言っていた公子さんがようやく顔を上げた。

 

「ふぅー。危うく致命傷だった。ひどいやー朱莉君は。」

 

「冗談でもないのですけどね。公子さんは素敵な女性ですよ? あなたはいつも誰かを思って走ることが出来ている。弱音も泣き言も飲み込んで前を向ける強い人だ。逃げたって誰も責めないのに、あなたはあなたと共に笑える誰かのために動いている。今も私の事を気にして様子を見に来てくれたのでしょう?」

 

 酒に湿らせた口は滑らかに動いてくれる。するすると胸から出る言葉に嘘はない。私が彼女に抱いている印象だ。

 

「おっ、ぉぅ、なんという褒め殺し。朱莉君、酔ってる?」

 

「酔っていますよ、あなたの色気に……というのはさすがに冗談が過ぎますか。」

 

「――朱莉君、それやめて。心臓に悪い。」

 

「そうですか。」

 

 くすくす笑う私に、そっぽを向く片手で口元を隠した公子さん。

 気分がいい。心地が良いのは酔いのせいかセクハラのせいか。ダメな大人のだめな遊びはほどほどにしないと怒られそうだ。

 飲み干した盃にお銚子で酒を注ぐ。朱塗りのそれは月明かりの中ではぽっかりと浮かび上がっている。浮かび上がるのは水面の月も同じか。片膝立てて乗せた顔の前で並々と注がれた杯を揺らして月を弄ぶ。

 

 静かな夜だ。

 神社で寝泊まりをしている修行僧たちは今頃夢の中だろうか。ようやく登り切った月を見上げているのは世界で二人だけに思える。

 

「ねぇ、朱莉君。私は君に勝ってよかったのかな?」

 

 静寂に浸る私に彼女が質問を投げかけてきた。お互い顔を見もしない。目線は月と桜に投げかけたままだ。

 

「そうですね。――汐見公子さん、私に勝ってくれてありがとうございます。おかげで私は少し休めそうです。」

 

 重荷、と言うほどではなかったが少しは荷が下せる。

 私ががむしゃらに暴れている間に後進が育っていてくれた。そのなんと嬉しい事か。

 

 前世、転生者、そしてガイア連合。それしか知らない私が、この世界を知るだけの余裕は彼らがくれるのだ。

 

「――そっか。それならよかった。」

 

 言葉短に。けれども万感の意がこもった返事が彼女の口から洩れる。

 静謐が私たち二人を包む。暖かな抱擁のような空気にしばらく私は身をゆだねた。

 

「……ねっ、これからどうするの?」

 

「終末までどれほど時間があるか分かりませんが一度のんびりしてみます。」

 

「そっか。それなら何時でも遊びに来てよ。いつでも歓迎するよ。」

 

「それはいいですね。その時は応対に困るぐらい大勢で押しかけますよ。」

 

「それは困るなぁ。でも私の友達をみんな呼んで一緒に遊ぶのも楽しそうかなぁ。」

 

 途切れ途切れ。ぽつりぽつりと交わす言葉に気まずさはない。思いつくまま感じるままのペースで。

 私たちは月が見守る夜を過ごしていくのであった。

 

 




三次創作で割と破天荒な性格で書かれるP3女主人公枠転生者ですが、作者の中では繊細な一面があるイメージがあります。
恐らくP3主人公のイメージに引きずられているとは思うのですが、この作品では現実的なのにやせ我慢が得意な性格として書かせていただいてます。
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