【カオ転三次】DRUG FATE   作:石は転がる

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幕間19

 近頃、蒼は不機嫌だった。

 

 

 蒼は使い魔である。名前は『蒼』。主人が悩み抜いたうえで付けてくれた大切な名前である。

 普段は主人の懐や首を住処にいつも一緒にいる。……たまにポッドの隙間に入り込んだりアリサの胸元に居たりもするが。

 

 ……兎に角、普段は主人の一番近くにいてこれはもう忠臣と言って過言ではないのでは、とひそかに思っている。

 なにせ他の仲間は仕事や休暇だと言って主人の傍を離れることが多いのだ。常に侍り主人を守っているのだから自分こそが一の家臣間違いなしである。百人に聞いたら百人がそう答えるに違いない。

 

 そう思っていた。

 そう思っていたのに――。

 

「来年から学校に通うとなると、蒼もお留守番してもらわないといけませんね。」

 

「護衛はどういたしましょうか。お申し付けいただければ共に机を並べさせていただきますが。――以上。」

 

「私とA2は連合の仕事を処理した方がいいか。連れて行くのは他に任せる。」

 

「私は連合執務室にて応対を担当。推奨:緊急時の連絡手段を確実に確保する事。」

 

「高校生ですからね。本当は学校に式神を連れ込む特例を作りたくはないのですが、相手からの要請もありますし……一番年恰好に違和感がないアリサに任せますか。神機も外殻を外してしまえば持ち込めますし。」

 

「私、ですか? 分かりました。何か準備があれば教えてください。」

 

「道具の準備は私と一緒にしますし私の復習に付き合ってもらいますか。最低限の知識も無いと浮いてしまいそうですしね。」

 

「了解です。朱莉に恥をかかせないぐらいはしますよ。」

 

 和気あいあいと来年の準備を進める主人に愕然とする。

 お留守番? お留守番んん? お留ぅ守番ぁんんんんっんん?!

 

『――!! ----!?!? --!!』

 

「ん? それはだめですよ、蒼。学校は表の人間もいるので可能な限り裏の事情は持ち込まない決まりなのですから。と、言いますか私がそう働きかけたのに私が破ってはいけないでしょう?」

 

 本当は護衛もつけたくないのですが、と苦笑する主人が回りに責められているが蒼はそれどころではない。

 

『――――???? ――! ―――――――!?』

 

「珍しいですね、蒼がそんなに興奮するなんて。でもだめですよ。アリサは人間に見えますけど蒼は悪魔で見えないですし、見せても蛇にしか見えませんからね。学校にペットの持ち込みは禁止です。」

 

 腕に巻き付いた私を撫ぜながら子供でも言い聞かせるように言い含める主人に、どうしてもだめだと諭らされる。

 思わず力が抜けて腕から滑り落ちるが気が付かない。反応した主人が優しく念動で机の上に置いたことにも気が付かない。只々愕然と打ちのめされてノロノロと自分の住処のクッションの洞くつへその身を捻じ込ませる。

 

 そうして蒼は住処に引き籠りを開始したのだ。

 

 

 一日、二日と蒼は引き籠る。

 主人の呼びかけも無視し、引き釣り出されてもすぐに寝床へと引っ込む。

 

「蒼ー、御飯ですよー?」

 

 ……供物には罪がないので、ちゃんといただくが。

 三日四日と経つと主人は声をかけてくるだけになった。日に何度かしか声をかけてこないとは薄情なものだと憤慨する。

 五日六日と過ぎる間に、休みの日なのに主人がつがいと共にどこかへ出かけて行った。今日はちょっとだけ構ってやろうと思っていたのに間の悪い奴だ。帰ってきた主人は何やら大層機嫌が良い。普段から穏やかな雰囲気で笑っているが、帰ってきてからは何時もより明るい気がする。

 

 ……私が居ないのに。

 

 悔しくなって寝床に寄ってきた主人に飛び掛かる。

 主人は驚いた顔をしながらも、しっかり腕を差し出して私が絡まれるようにしてくれる。それもなんだか悔しくなって角でチクチクと刺す。

 

「痛い痛い。どうしました、もう。」

 

 優しく撫ぜる指の感触は暖かい。触れ合う肌からだけ感じる気持ちは心地よい。

 もういいだろうか、そう思う心を引き締めてそっぽを向く。

 

「ふふ、ごめんなさいね。ご機嫌斜めなのはわかっているのですが、今日だけは一緒に祝ってくれませんか?」

 

『……………――?』

 

「ええ、今日だけでいいので。お祝いなんですよ。」

 

 腕に絡んだままリビングに連れていかれると、年のいったつがいたちが中央に座らされて祝福されている。仲間たちはキッチンでせわしなく働いていて、次々と普段以上に美味しそうな料理を机に並べている。

 

『――? ―――。』

 

「ああ、そうですね。蒼にも伝えないと。――実はまた子供が出来たそうです。蒼にも今度は面倒を見て貰いますからね。」

 

 そう言って笑う笑顔は明るい。

 子供、子供が増えるのか。今居る小さいのはそう言えばあまり構ってやった覚えがなかった。主人の懐から顔を覗かせてやれば無遠慮に掴みかかってきたので苦手なのだ。

 ……苦手、だが嫌いではない。子供というものはどんなものであろうとも良いものだ、と零れ落ちたはずのモノで思うのだ。

 

 主人の顔を仰ぎ見る。

 笑っている。笑っているのだ。

 ――なのに肌から伝わる心に痛みが走っている。

 子供が出来たことが嬉しくないのだろうか。いや、そうじゃない。そうじゃない事は分かるのに何で痛いのか分からない。

 

 主人がいつもの定位置に私を置いていく。

 肌から離れてしまえば主人の心が感じれない。外から見た主人は嬉しそうで、それも嘘ではないと分かるけど痛みの理由を知りたくて。

 なんとなしに祝われているつがいたちを見る。

 強めなのと、普通なのと、弱いの。人にしてはヤル奴もいるが仲間と比べたらカスみたいなものだ。

 

『――!』

 

 そうか、そうなのか。

 そこで気が付いた。主人はきっともっと強い雌が欲しいのだ。確か仲間たちは子供を作れないと聞いている。だから我慢しているがきっとつがいが弱くて不満なのだ。そうでなければ主人に噛みついて血を吸うような奴を飼ったりしないはずだ。

 海の向こうからわざわざ連れてきたはしたない雌に納得を得た。度々主人を傷つけてる悪い奴なのに主人が縄張りに置いていたのはあいつは強かったからだ。

 

 そうと分かれば話は早い。

 しょうがないから私が強くなって孕んでやればいい。そうなったら主人はもっと私に構って褒めてくれるはずだ。

 そう一匹の悪魔は明るく楽しいお祝いの中で決意したのだ。

 

 そう。きっと私と子供を作れば。

 主人の心はあんなにも泣きそうにならないに違いない。

 

 

 

 これはちょっと色々削れている、ある悪魔の決意。

 

 




ちなみに
強めなの:白風百仁華
普通なの:鶯小夜子
弱いの :ホーネット  となっております。
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