【カオ転三次】DRUG FATE 作:石は転がる
秋と言うにはひどい気温の中、五月蠅いばかりにセミが鳴く広島の某所。
のぼせそうな日差しに照らされながら、私は表も裏も関係なくガイア所属の会社や団体を仕事がてら残暑見舞いに回っていた。
こうしている事情は単純だ。
これまでも仕事を減らしていたとはいえ、学校に通うとなると今までとは違い日中連絡が取りづらい時間が出来ることになる。連絡の重要度によっては早朝深夜でもない限りいつでも私が直接受けていたが、来年からは緊急時以外は直接応対が出来ないことを関係各所に報告するためだった。
大所帯の会社には梅雨時の株主総会で知らせ終わらせているので、その後は同盟・麾下の関係にある霊能組織と個人的に関係あるガイア連合員の個人商店を回っていたのだ。
「思ったよりも個人経営の連合員も多かったですね。」
「それを支援していた人間が言うか? 防諜の楽なシェルターではなく、利便性がよい街で工房が作れるように隠蔽結界張ったのは自分だろうが。」
呆れた様にA2が手持ちカバンから出したリスト片手に嘆息する。余裕のあるニットのボレロとワンピース姿の彼女は炎天下に付き合わされてご機嫌斜めだ。
霊能組織は会合の時などで周知を済ませれたところも多いのだが、ガイア連合員の個人店の場合開けている日時が不定な店が数多く面会予定もままならないことが多いためだ。A2は電話で済ませればいいと主張していたので特に面倒そうだ。
「まさか九月までかかるとは思いませんでした。」
「ほいほい援助するからだ。金もマッカも余裕があるとはいえ安請け合いし過ぎだ。そのくせ碌に近情も知らないとは。」
「始めるお手伝いはさせて貰いましたけど、開店してからは立ち寄ってない店がほとんどですからね。」
完全にガイア連合に専属している人間はともかく、表で仕事をしながらプライベートな時間で裏の店をしている人間が思ったよりも多かったのが誤算だった。趣味の店とは言え家族にも内緒でやっているような人間もいたのでそうそう押しかけるわけにもいかず、A2に相手の式神と予定を調整させていたので嫌みの一つや二つは甘んじて受け入れるべきだろう。
「もう少し投資の回収にも気にかけてほしいものだがな。個人相手だと碌に利息も取ってないから管理する手間だけが増える。」
「個人相手は転生者相手の互助の範囲ですからね。利益は考えてないってわかっていっているでしょう?」
「それで仕事を増やされる身にもなってみろ。……自分で増やす朱莉には今更かもしれないが。」
「まあ、次はちゃんと利益をくれる相手だからいいじゃないですか。ほら、行きましょう?」
笑ってごまかして歩を進める。
市内の繁華街からは少し離れたマンションや雑居ビルが並ぶ街角。そこに一角立っている真新しいビルが目的地である。
何の変哲もないビルであるが、そのビルは知り合いの立ち上げた会社が新築したものだ。転生者の会社と言ってもガイア連合の会社ではない表の物だが、ビルの主が世界的に有名になったためか警備の人間が居てやや物々しい。
「お疲れ様です。」
「そちらもご苦労様。」
……まあ、その警備員はナインズ等麾下霊能者を所属させている警備会社の人間なので知り合いなのだが。
畏まって礼をするのを鷹揚に受け止める。庇の下とは言え真夏の野外であるが警備員たちに汗は見受けられない。ほのかに香るMAGは配備している熱さましの術具のものだろう。しっかりと利用してくれているようで一安心だ。
相手は仕事中なので言葉少なにナインズが開けてくれたガラスの扉をくぐると、予想外にむわっと熱気が押し寄せる。
実際に暑いわけではない。ただ、カウンターの奥の社員たちの熱が冷房でごまかしきれず音となって身を包んだのだ。
「こんにちは。アメリカから帰国していると聞いたので顔見に来ましたけどお邪魔でしたか?」
「こんにちは。お話は伺っていますのでどうぞ奥に。練習室に居るはずです。」
「ありがとうございます。あ、こちらは事務員の方々でどうぞ。」
「これはご丁寧に。ありがとうございます。」
少し声をかけるか迷ったが、すでに人が入ってきたことに気が付いていたので受付の顔見知りに声をかける。すると顔パスで奥に通された。
流れで手に持ってた菓子折りを持ち上げるようにしてカウンターに乗せて渡し、私たちは事務所の横を通って奥に向かう。
あまり中に入ったことはないのだが幸い階段の位置ぐらいは覚えている。
よく掃除されている通路は普通のオフィスとは違い、事務所の主のポスターや手書きのフレーズが額縁に収まって飾られていた。その中から一つ二つと一緒にいた時に紡がれた言葉を見つける事を楽しみながらエレベータに乗り込む。
道具の搬入なども考えてか三十人ほど乗れそうなエレベーターは二人だけで乗り込むには広すぎて落ち着かない。二階は確か道具置き場等になっているので三階のボタンを押しながらよく最初からこんな設備を用意したものだと改めて呆れる。
無名の歌手一人をデビューさせるのに作られた事務所としては力が入りすぎている。それを可能にした後ろ盾としてはマネージャーの先見の明があったとほめるべきか悩ましいものだ。
無駄な考え事をしていたら三階に着いた。
一階とは違い三階の廊下は変わったところの見受けられないシンプルなものだ。直線状に延びる廊下には観葉植物ぐらいしか見受けられない。
しかし、しっかりと見てみれば廊下から見える扉はどれも金属製で取っ手もドア枠につっかえるように閉めるタイプのものだ。ぱっと見ただけでその厚さが知れる扉は防音扉なのだろう。廊下は人の気配も感じられない静けさに満ちていて、一階の活気が欠片も存在しなかった。
「練習室はあっちですね。」
会社の結成時に覗いたぐらいで間取りなんかは覚えていなかったが、ビルに入る前から感じていたMAGの気配を頼りに一室に向かう。
分厚い扉に入ったスリット窓に部屋に居たお目当ての人物の姿が確認できた。一応ノックしてみるがさすがに部屋の中には聞こえていないみたいだ。
「仕方ないか。――こんにちはー!」
チャイムもないので私は挨拶と共に部屋に入ることにした。
部屋は一面がガラス張りで扉正面にグランドピアノが鎮座している。そのピアノに陣取り、あーでもないこーでもないと楽譜を弄っている後姿がこちらを振り返った。
ウエーブがかったストロベリーブロンドの髪はセットせずにいたのが掻き毟られたせいで少しぼさつき、服もラフな格好でお世辞にも人を出迎える格好ではない。
それでも眉間に寄せていた皺がこちらも認め緩むと、それだけで美しいと思えてしまう。驚き丸く開いた目と口は到底外で見せないものであるが、それが間抜けにはかけらも見えない美貌はいつ見ても人々が熱狂するのが理解できてしまうものだ。
「わぁっ、朱莉! A2も。え、もうそんな時間?! ちょっと、グレイス! 時間が来たら知らせてって言っておいたでしょう!」
「……グレイスさんは一階で事務をしてるみたいですよ?」
手に持ってた鉛筆を投げ捨て席を立ち、文句を言った先に人影はない。グレイスとは彼女の式神の名前であるがこの場には姿はなかった。気配を感じると彼女のMAGに似た存在は一階にいるのが分る。私がそのことを告げると、仕方が無いとばかりに大きくため息をついた彼女はそれで気分を切り替えたのか先ほどまでのいらだった様子を捨てて笑顔でこちらを抱きしめてきた。
「久しぶりね、朱莉。前にあったのは今年の初めだったかしら?」
「そうですね。アメリカへの見送りできなくて申し訳ないです。」
「ああ、いいのよ。山梨に用事があったのでしょう? 私の約束を破って会ったお相手が女の子ってのは妬けるけどね。」
「綺麗な子ですけどコテンパンにされてきましたよ。」
苦笑して案内された隅に置いてあるソファー座る。扉から離れた一角にはトレーニングマシンや雑誌、冷蔵庫なんかもあってごちゃついた感じだ。
おそらく普段はこの部屋で過ごすことが多いのだろう。生活感があふれている。
「あ、これは残暑見舞いです。漸くナインズの異界でバラ栽培が安定したんでローズウォーターや蜂蜜なんかの詰め合わせです。」
「あら、ようやく? 試供品貰ってたけどこれからは買えるの?」
「ローズオイルはさすがに数量限定ですけど他の物ならそこそこ用意できますよ。支部かナインズの店に出すんでよければ御贔屓に。」
これでは営業のようだが前に渡した試供品を彼女が気に入っていたので商品の第一弾を持ってきたのだ。
欧州からの魔女たちはガイア連合に所属しているのだが、そのうちのかなりの数がナインズの方に同時所属として流れ込んでいる。
流石に増えた総数は五桁に届かないとはいえ、今までナインズにやらせていた仕事にも限りがあるし、だからと言って誰もが戦闘に適応できるような人間ばかりではない。そのため、増えに増えたナインズたちの雇用のために薬草園などと並行して作ったのが異界中に何万ものバラが生い茂るバラ畑異界だ。
もともと彼らが所有していた技能を生かし、ドライフラワーやポプリなど表に流しても良いものから魔術的な鎮静などを持たせた裏用の物まで作ってもらっていたのだが、素材として使うには鮮度がいるものがあったために完全自家栽培を試みていたのだ。ついでに私の体質改善のための原料の安定供給も目論んでたりする。
「ええ、利用させてもうわ。そうだ、これアメリカ土産。」
嬉しそうに笑って受け取ると、渡した土産の代わりとばかりに彼女は置いてあった荷物の包装をバリバリと破り捨て、私のA2とお揃いのキャプリーヌを脱がして代わりの帽子をかぶせてきた。鏡に目を向けるとシルバーベリーのフェルトがつばの絶妙な曲線を形作り、特徴的なメタルのハットバンドがくすんだ輝きを照らし返す。
「カウボーイハットですか。ありがとうございます。」
「よく似合っていているわよ。次は帽子に合わせた服でデートしましょう。」
ノースリーブのパンツドレスに淡い水色のストールには合わないのは分かるので、くすくす笑ってくるのを黙って受け入れる。帽子のサイズはちょうどいいし、質も良いものをもらったお礼にはそれぐらいで良いだろう。
「改めてお帰りなさい。半米ツアーはどうでした?」
「もう、大変だったわ! 食事も当たり外れ大きいし、台風にあたってコンサート中に音響落ちた時なんてもう最悪!」
アメリカの夏休み期間に開催した全土の州の半分を回ったツアーの事を聞いてみれば、出るわ出るわの愚痴の数々を私は笑って聞き出していく。
あれがひどかった、これが信じられないとくるくる表情を変えながら話す彼女は、愚痴とは違いひどく軽快でその旅が決して悪いものでなかったと物語っていて我がことのように嬉しくなる。
後ろで頂いた帽子を箱に詰め直したA2が勝手に冷蔵庫からお茶を配膳するのを止めず、当たり前のようにお代わりをしている彼女の体験談は中々尽きそうにない。
これが神秘的だと謳われミリオンヒットを連発している人間の姿だと彼女のファンは想像できるだろうか。……割と海外の取材には地で出演しているそうなので想像できそうな気もする。
益体もないことを考えながらも相槌を打っているが、この分だとまだまだ話は長くなるだろうか。
まあ、たまにはこんな日もいいかと私は笑って彼女のアメリカ横断記を拝聴するのであった。
そんな彼女の帰国からはや一月。
ふとした時に寒さを感じるようになってきた季節だがこの地は特に寒かった。
窓から外を見れば麗しの山が見えるここは富士山の麓、ガイア連合山梨第二支部からは少し離れた場所に位置するガイアアニメーションのスタジオだった。
複数のアニメ制作会社が合併してガイアアニメーションが再編されたのは今年になってからで、吸収先の現地民が使用する事を考慮されたスタジオは新築ほやほやで真新しい。
その真新しいスタジオの会議室にワイワイと集まったのは再来年放送予定のアニメ制作スタッフ一同だ。
今日は新作アニメ制作陣が集まっての立食パーティーが執り行われていた。
新会社最初の企画とあって、余剰人員が総力を挙げて製作されることになっている新作アニメは昔から人気なシリーズの新作だ。前世でもあったロボットアニメシリーズの大作なのだが、この世界では原作者等がいなかったらしく転生者が集まってシリーズを再現していたらしい。
その結果、この場に集まっているのも転生者ばかりで場所もあってか山梨支部内のような緩さが漂っていた。
「それでは、マクロスA(仮)制作開始を祝いまして乾杯!」
「「「「「乾杯!」」」」」
「「プロージット!」」
どこぞで銀英伝好きの声もするが無視してグラスの中を飲み干す。子供だからと渡されたアップルスカッシュは程よい甘みで爽やかだ。
なかなか美味しいと満足しつつ給仕の式神にグラスを渡すと、私がこの場に居ることになった元凶も隣でシャンパンを一気に飲み干してグラスを渡している。
バッチリとあった目。そこに悪戯気な光が灯り、彼女はにんまりと私に祝いの言葉を放った。
「メインヒロイン就任おめでとう、と言った方がいいかしら?」
「考えないで約束はするものでないですね。随分高くついたものです。」
くすくす笑って頭をなでてくる彼女に憮然を装って返す。
見送りの約束をすっぽかした代わりに“一度相応しい場で一緒に歌うこと”を約束したのだがこんなことになるとは思ってはいなかった。
「歌姫の舞台は安くはないわ。」
「ギャラは随分と安いはずですけど?」
「ギャラなんてどうでもいいのよ。大事なのはあなたと一緒に歌えるってことで。」
そう言われてしまえばぐうの音も出ない。実際企画の段階で原作的にとダメもとで出した出演依頼への返事が、未発表曲を十二十と叩きつけての『朱莉と一緒なら出ても良いわ』の啖呵だと監督から聞いているのだ。
その段階で前世作品の再現の予定は明後日に消え、しっちゃかめっちゃかしながらストーリーを構築し直した結果、各種監督にシナリオライターから声優に至るまで全て転生者と言う事態になったそうだが。
しかもそのまま悪乗りをして神主にエキストラ出演を持ちかけてみたら大喜びで出演が決定したという。
今もアニメーターに交じって雑談しているのだが良いのだろうか。近頃は多少忙しさもマシになったと聞いているのでいいのかもしれないが。この場には覚醒者として活動するガイア連合員が少ないせいか何時もよりもヒャッハーしているように見える。
「今日はゆっくり楽しみなさい。これから忙しくなるんだから。」
「シェリルさん、一緒に仕事できるなんて感動です!」
「シェリルさん! サインいただけませんか!」
「サインはまた今度。作品のシングルにするから待ちなさい。」
取り合えず、と言って私に十曲ぐらいレコーディングを捻じ込んできた世界的歌姫は軽やかに他の出演者たちの突撃を躱していく。
すでに私と彼女の歌う曲を十足す十で二十曲を用意し、それから劇中に合うように改変や新作を用意すると張り切っているパワーは何処から湧いて出てくるのやら。彼女目掛けて共演者たちに群がってくるが知り合いが少なくて困る。
しばらく彼女の陰に隠れて話を聞いていたのだが、じれてきたのか彼女に背中を押されて共演者たちに向き合わされる。
こっちは精一杯首を上げなくてはいけないし、相手は相手で首が落ちるのではないかと思うほどに俯かせないと話せない。こういった場では身長の低さは相変わらず面倒なものだ。
「ちょっと朱莉、あなたも話しなさいよ。」
「そうですね。ご紹介に預かります藤原朱莉です。声優や歌手は初めてなのでご迷惑おかけすると思いますがよろしくお願いします。」
そのままいくらか話していくが話が盛り上がらずに無難な内容ばかりになる。
ガイアアニメーションもガイアグループ所属企業であるが呉支部とは関りが無かったので取っ掛かりがない。これが地元なら支部長でも社長の立場でも繋がりがあったりするので楽なのだが、この場ではただのごり押しされた出演者でしかない。共演者も他人行儀だし仕事が出来るのか訝しがっている気配がある。
彼らからすれば門外漢が素知らぬ顔でメインを奪っていたようなものなのだから理解出来ないことはない。覚醒者でないガイア連合員からすれば私など話題にも上がらない相手なのだろうし。
内心でため息つきながら当たり障りなく笑顔で会話を続けるが、予想できていても対応できない問題は面倒で仕方がない。
打ち解けるためにもこれでは仕方が無いと諦めて、呉で面倒見ている研究者たちから託された映像を見せることにする。ホントはあいつらと同類扱いされそうで流したくはないのだがこの場の余興に相応しいから仕方がない。
「そうだ、うちの研究員が面白い映像を持たせてくれまして。ちょっと見ていただけません?」
適当に話を打ち切って前に出て勝手にスクリーンを用意していると、周りもなんだなんだと注目してくる。
「ポッド、稼働実験の記録映像『VF-1』をお願いします。」
「了解。プロジェクター・サウンドユニット起動。映像を再生する。」
スクリーンの前で浮遊したポッドがその特徴的な箱状の筐体を割り、投影装置のアタッチメントが表に現す。元々ミサイルなどを再現して搭載するはずだったスペースを利用したそれは、式神の機械認識テストのために付けた装備だが使い勝手がいいために戦闘時以外は良く接続させているものだ。
そのプロジェクターが室内の光に負けない光量で鮮やかに映像を映し出す。
スクリーンを見ている観客も見覚えのある代物にざわめきが起こる。
映像は飛行機の実寸大模型がエンジン下部で支えられているものだ。映像では普通の向きで駐機しているように見えているが、実はこの映像は直立した戦闘機を持ち上げているものである。
証拠に正面・横・上下と画面が分割されると人間が映り込んで模型の大きさがよく分かるようになる。
『稼働試験パターンG開始!』
画面の中でサイレンが鳴り響き、その音に負けないぐらい重厚なモーター音が鳴り響く。
「おいおい、まじかよ。」
ざわめきが消えた沈黙の中、誰かの上げた声に苦笑する。
映し出されている機体はその姿を変えていた。エンジンセルが機体から剥離し、ノズルが大きく口を開け接地に耐えるようになる。胴体からはパーツがせり出し腕となっている。正面から映していた映像はノーズコーンではなく折りたたまれた尾翼と展開されたサブスラスターを上から見下ろしている。
「え、これ実写?」
「ちゃんと実写映像ですよ。実機稼働システム試験機、通称トイワン。フレームと外殻、稼働モーター以外はダミーウエイトで燃料も外からですが駆動自体は補助されていません。」
映像の中では腕を動かしたり上体を傾けたりしているロボ研のおもちゃが映っている。マニピュレータはないので指を動かしたりはしていないが腕の曲げ伸ばしが滑らかに行われている。
しばらく一通り動かされると変形直後の姿勢に戻る。
少しばかりの静寂。
釣られて会議室の人間も固唾を呑んでスクリーンを見守る。
『稼働試験パターンB開始!』
試験管の掛け声とともに再び模型が動く。
後退した主翼。押し出されコクピットブロックに接続される脚部。
そして、迫り出す頭部。
「「「「「おおおぉぉおおぉおおぉおお!!!」」」」」
言葉なく感嘆の声を上げる会場にちょっと気分がよくなる。好き勝手する奴らの研究成果とは言え、彼らの苦労は嘘ではない。それが一部とはいえ報われ、称賛を浴びている光景は胸がすく。
「残念ながら重力制御の機械化に成功していないため主機は未開発ですが、強化魔法を利用したMAG電力両用式エネルギー転換装甲、地脈だけではなく集合的無意識を利用した無遅延通信機、式神を含めた三位一体による操縦の直観化は成功しています。」
ちなみに式神の重力制御による核融合炉の実験は成功しているので、機械化さえ成功すれば時を置かずに主機も完成する見込みが出来てしまっていたりする。そのため現状だと一度頭を空っぽにして、効率的な発電方式の確立とMAG発生機関への適用に研究員たちは動いている。
「原作に敬意をこめて初代の機体が試作機に選ばれましたが、変身システムに無理があることが確認されましたので本格開発機は今回のアニメ主役機が候補に入っております。」
ポッドが気を利かせて画面に予定機の3Dモデルに切り替えてくれる。
試作機と同様の形状に見える後退翼と垂直尾翼だが全体的に洗練されたスタイルの機体だ。なお強度計算なんかはすでにしているらしいが、航空力学の専門家がいないために空力関係は怪しいところがある航空機とは到底言えないものだったりする。
「⑨ニキ、モデルデータを拝見させてくれないか!」
「データの使用許可は出てるので後で端末に入れさせてもらいます。」
「実写の映像は?!」
「コピーや第三者への漏洩の禁止を承諾してもらえれば個人観賞に限って渡しますよ。」
「ちょっと⑨ニキ! こんな面白い事の報告来てないんだけど!」
「この試験はフレーム強化以外にMAGを使ってない純科学の産物の実験なので連合に報告するものではないですよ、神主。」
CG担当が上げた声を皮切りに次々と声が上がっていく。声が上がるのは製作スタッフばかりで声優陣、特に女性は呆れたように見えるが話の話題作りには上々か。この映像を見て少しでも張り切ってもらえれば再現をしている原作ファンたちも本望だろう。
そんな一団の中でなんだかシェリルが満足しているように見えるが彼女はロボット好きだっただろうか。前にKMFの話をした時はつまらなさそうにしていた気がするのだがマクロスが好きだったのかもしれない。
そんなことを考えながら、私はうまく皆に溶け込むために群がってくるおっさんたちに笑顔で向き直るのであった。
小ネタ前に書いた話なので設定的に矛盾がありそうです。
一応マクロスは吸収された側が製作していた事にしています。
シェリル・ノーム:
容姿なども原作アニメとよく似た転生者。
原作的に将来は歌手だろうと目指し、親の勧めで幼少期から芸能界に入り子役をしていた。
しかし、中学になると所属プロダクションがグラビアアイドル路線で押そうとして意見が対立。
本人も『自分』の歌なのか『シェリル』なのか分からなくなっていた事もあって中学時代に芸能界から身を引いていた。
その後は燻ぶった思いを抱えたまま大学に進学していた。
転機は『星霊神社大夏祭り』。
ライブの歌を聞いて感動。
一発奮起してライブ関係者に突撃したのだが『覚醒者じゃないから』と袖にされる。
なので厳しい方の修行に耐えて覚醒、ジュニアアイドルの事務所に突撃したのだが、今度は歳を理由にお断りされる。(そもそも覚醒者ならOKはライブ関係者の勘違い)
それでもガイア連合の仲間なので助けられないかと主人公にも話が行き、呉でなら事務所開設支援するとなってデビューすることになる。
本人的にはジュニアアイドルより主人公のファンなので満足らしい。
曲は自分で完全オリジナルを作曲作詞している。