【カオ転三次】DRUG FATE   作:石は転がる

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幕間20

『こんにちは、二度目の祈りは終わっていますか?』

 

『やあこんにちは。祈りなら済ませたところだ。早速神は見守ってくれているらしいな。』

 

 軽快な笑い声が電話先から聞こえてくる。

 人々の雑踏に会計の音がするので昼飯を調達しているところであろうか。もう冬になった広島はすでに夕暮れを通り越して暗く帳を下ろしているが、電話先はちょうど正午過ぎのはずだ。

 邪魔をしたかと考えるが相手の声色は明るく険悪な様子が欠片もない。特に迷惑ではなさそうだ。

 

『ちょっとした連絡にかけたのですが今お時間はよろしいのですか?』

 

『一人寂しく腹に掻きこむよりもマシならなんだっていいさ。』

 

 多少のラグが現地との距離を感じさせるが、昨年初頭に出来た縁は案外途切れることなくお互いに何かあれば連絡を取り合っていた。勿論仕事としてコネを繋いでいるのは百も承知だが、彼との会話はどことなく息が合うので個人的には友達のように思ってもいた。

 

『それでは先に連絡事項だけ済ませておきますね。この番号への電話ですが来年から平日の昼間は繋がらないと思ってください。そちらの時間だと夜中の二時から朝九時ぐらいまでですか。』

 

『おいおい、それはどうしたんだ? 修行にどこかにこもりでもするのか?』

 

『修行じゃなくて就学ですね。義務教育はすっぽかしていたのですが高校から通うことにしまして。その時間は学校で遊んできます。』

 

『はっ、はははは、そりゃいい! 実に平和なことだ! ぜひともまた写真を送ってくれ。同僚に見せびらかして揶揄ってくる!』

 

『今度こそひどい喧嘩になっても知りませんよ? まあ、そういうわけなので急ぎの連絡はガイア連合に一度回してからにしてください。折り返しこちらからかけ直しますので。』

 

『ああ、分かった。あー、いや、連合の電話は英語じゃないとだめだったか? 誰かにかけさせないとな。』

 

『同僚さんに泣きつくことになるんでしょうから揶揄うのはほどほどにしておいた方がいいですよ。』

 

『揶揄ってもきっちり仕事はさせるさ。そう言えばこないだ送ってくれた新しい布は前の物よりも好評だったよ。』

 

『冬向けに保温と保湿に気を使った布でしたけどそちらの気候だと使わないのでは? 内陸部にでも行きました?』

 

『あ、ああいや。そちらの布も首都に行くのにちょうどよかったがそっちの布じゃなくて霊布の方さ。あれのおかげで同僚が助かった。感謝している。』

 

『試供品の方だと火炎耐性の布でしたっけ? 強力な悪魔でも出現しました?』

 

『いや、ちょっと北の方でもめ事がな。幸い延焼する前に鎮火出来たがひやひやしたぜ。』

 

『それは災難でしたね。近頃そっちはどうです?』

 

『非常に悪い、かな。監視の情報でも西への武器の増強は止まっていないし、何よりメシアンのエクソシストが大挙して押し寄せている。知ってるか? あいつら下っ端のくせに俺たちの土地で天使を名乗る悪魔を呼びやがった。どんなインチキしてやがる。』

 

『それはまた。』

 

 思わず絶句する。

 他所の縄張りに踏み込んだうえで召喚など、よほどの実力差がなければ失敗するし成功しても弱体化は免れまい。彼の同僚とて前にあった空気からするとLV10前後の集団のはずだ。それなのに装備に助けられたという事は下手をすればLV20近い天使を一山いくらの下っ端が呼び出し使役していたことになる。

 

『何か特別な道具を持っていたとかそういったわけでもなく?』

 

『ああ、囲んで縛り上げたが持ってたのは聖書とロザリオぐらいなものだ。種を吐かせるのはさすがに危険だからそのまま返したがな。』

 

『そういった連中が一気にアフリカ大陸に流れ込むと。』

 

『あっちとはこっちも繋がりがあったからな。情報はそれとなく流しているがどうなることやら。ただでさえ霊地がざわめいてやがるのに余計な事ばかりだ。』

 

『そちらも霊地は荒れてますか。こちらも異界が出来たら封印するか討滅するかしてますがやはり鼬ごっこで?』

 

『討滅とは羨ましい。まあ場所がやばければ死亡覚悟で突っ込んでいるがほとんどは封じているさ。異界だけではなく霊障もどこからか街に入り込んでいたりするから頭が痛いよ。』

 

『そちらの様式で使えそうな封印や結界道具の素材をこちらでも見繕ってみます。他にも不足しているものがあれば問い合わせしてくれれば対応させますので。』

 

『すまない。うちの宗派でなく異教徒の道具でもいいからなるべく頼みたい。』

 

『……そこまで厳しいですか。了解です。いくらか親和性がありそうなものをあたります。』

 

『頼む。――ああ、すまない。次の祈りまでに仕事場に戻らないと。そろそろ電話を切らせてもらう。』

 

『いえ、時間を取らせました。ではまた。』

 

『ああ、また。』

 

 ツーッツーッとなる音が途切れる頃になってから深くため息をつく。

 正式な商談ではなく雑談からの要望という事は、そこまで状況は切迫していないようだが現場は不安が広がっているのだろう。そうでなくては現場が異教の道具を受け入れるわけがない。良くも悪くも柔軟になる余地が出来てしまっていることを暗に知らせてきている。

 

「武蔵。明日からナインズにあちらで受け入れやすそうな道具の選定を頼みます。絞り込めたら素材を含めて運営の方にも話を通して貿易品の追加を提案させます。」

 

「Jud.あちらに詳しい部下の明日の業務に追加します。――以上。」

 

「ええ、頼みます。こちらも天使について報告を書かないと。」

 

 言葉にする間にも思念の糸がペンを握り報告書を仕上げていく。既に難民から聞き及んでいる情報と大差ないが、そうであるからこそ情報の確度が上がるので報告しないわけにもいかない。

 意識の一部に面倒ごとは押し付けて気持ちを切り替える。あまり難しい顔をしていれば家族に心配をかける。この程度の事で心労を募らせてしまっては申し訳がない。

 

「さて、そろそろご飯ですね。今日の夕飯は何でしょうか?」

 

 出来上がった報告書を適当に仕分け箱に入れて席を立つ。

 横目に見える書架に並ぶハードカバーは前は古臭い羊皮紙などであったが、近ごろ技術書や論文に入れ替えたばかりでいささかなじみが薄い。

 夕食を終えた後にまた何冊か読み進めてラケルに講義してもらうのも良いかもしれない。

 あるいは百仁華や小夜子に私に割り振られた歌を聴いてもらおうか。

 はたまた来年からガイア連合で働くヒルダとノーバディに事前にいろいろと教え含めておくべきか。

 それとも農業異界に忙しく蜂を連れて出かけるホーネットとマリーの話でも聞いてみるか。

 

 夕食後を思い描きながら今日は楽しかったとほほ笑む。

 きっとまた明日も今日の様にいい日になるに違いない。

 

 

 いくら厳しい世界だろうが逃避による微睡もまた良い選択だと、そう私は思うのだ。

 

 




時期的にはエジプト壊滅前で、電話相手は中東のペルシャ湾側の組織の人間になります。
29話の最初の方でダイビングとか遊んでいた場所の組織ですね。
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