【カオ転三次】DRUG FATE   作:石は転がる

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今回は捏造した設定も多くあります。


45話

 ガイア連合において、弟子というものは明確に規定されたものではない。

 ガイア連合においては連合員個人個人を色で階級分けして管理しているだけで、それ以上の事をおこなってはいないのだ。よって、弟子の仕組みであったり実績による販売制限の解除などは、支部がそれぞれ独自に管理・制定しているものである。

 勿論、運営が定めるカードランクを前提に、だが。

 

 話を呉支部に移すと、呉支部においては弟子は新人教育の一種として運用している。霊能者であるがオカルト業界について無知である人間の教育制度であり、主に一般人からの覚醒者を対象とした仕組みである。

 新規加入者と既に所属している覚醒者を師弟として登録し、管理責任を負わせる代わりに各種補助を行うものだ。師となる人間は色々な手間が増えるばかりだが、その分弟子への支援は充実しているし、弟子が一人前になった時は師にも報奨が支払われる仕組みになっている。

 まあ、報奨と言っても特別高いものではないので、一般人からの新規加入者の場合呉支部から師匠を斡旋することも多いのだが。

 

 そもそもガイア連合員になるには転生者の紹介が必要なので、その紹介者が面倒を見るのが一番早いのだ。

 しかし、純粋に教育に向いていなかったり、やる気が無かったりする転生者もいる。そういった紹介者からの新規加入者を呉支部が紹介する師匠に管轄権を委託・移譲する仕組みとなっている。

 こちらのケースだと支部からの依頼でもあるので報奨の合計が結構な額になる様にしている。そのため、今のところ依頼の受け手に困ることにはなっていない。

 

 師弟登録をすると師への異界・依頼同行であったり業界常識の教育などを義務付けられるが、その代わりに弟子への装備補助や一部施設の立ち入り許可などが出ることになっている。一例をあげると何年か前に開通したガイア連合員専用の商店街も、本来はある程度信頼できると認められるまで立ち入りを認められないのだが、弟子であれば入る事が出来るようになる。

 

「まっ、最初は悪用されること前提で作った制度なのですが、全然悪用されなくて困惑しました。」

 

「えぇっと、それでいいのかい?」

 

「むしろ初期は悪用してもらってガイア連合の名義で地域の霊能組織に資金を回すつもりだったのが、真面目に依頼に向かうんで慌てて他の支援をしましたよ。今では本部からの支援も下りますし、他の支部でも新人教育はしているらしいですけどね。」

 

 私の麾下に加わろうとする地方組織の初期ガイア連合加入者に利用させ、ガイア連合として追々道具を回す予定だったのだ。それが直ぐに一霊能者として真面目に依頼を遂行しようと動かれてしまったので、慌てて装備やアイテムを私から直接支給したりする羽目になったのだ。

 製作班からの購入だけでは集めきれず、簡単な消耗品は不足分を自作する事になったのは笑い話でいいのだろうか。夜なべして作った四属性のストーンなんかは数を作ってばら撒いていたので、もしかしたら今でも誰かが持っているかもしれない。

 

 そんな制度も、初期は私個人の出資だったので悪用を許していたが、今では支部予算になってしまうのでもう悪用を許すことは出来ないだろうな、とは思う。

 

 

 学園の寮から連れ出した新弟子に、軽く弟子という制度の話をしている間にも車は進んで行く。

 時は東京から帰宅した翌日。

 帰って来て早々新弟子には身体検査に時間を取らせたが、その後一晩は部屋に帰して過ごさせたので落ち着いたと判断してこれからどう教えるか決めるため自宅に招待したのだ。その迎えに行った車内で緊張を抜くための世間話がてら今日の話し合いのための前提知識をつらつらと喋っている。

 

「まあ、そんな感じの制度なので、師弟と言っても形は千差万別なんですよね。一人前にさえしてくれればいいので。大人数相手にしてる人は教師役がチームを組んで支部の部屋を借りて講習とかカリキュラム決めてやってますし、逆にワンツーマンで個性を伸ばしてのんびりしてる人もいます。」

 

「藤原君は今までどうやってしていたんだい?」

 

「ナインズは完全に一族経営の組織が基礎なので、一人前まで各組織内で教育って感じですかね。だから師弟登録することもなかったです。後から入ってきた人も基本悪魔業界関係者なので呉支部の常識を教えたりするだけで済みましたし。ノーバディとヒルダはうちでは例外でして。」

 

 苦笑する。彼女たちはナインズとしてみれば例外も例外だ。弟子としているのもナインズの新人だからではなく、あくまで私の家族だからだ。そのあたりは家に着いてから説明するつもりだったので分かりづらいだろうな、と己の不手際を嗤う。

 

「そもそも霊能力者の才能と言うのは血縁による遺伝の要素が大きいものです。なので、基本的には家業として継いでいくので、教育は家ごとで行われるのが普通なものでした。一般出の人間も家に取り込まれることでノウハウを得る感じですね。」

 

「黴の臭いがしそうだ。」

 

「土着の組織は基本的に武家とかの組織構造がそのまま残ってます。いや、むしろ残らなければ悪魔に対応できなかったと言えます。土地神との契約や封印など、継いでいかなければ地域一帯が霊障に見舞われるようなものを確実に受け継ぐこともそうですが、霊能自体を家として受け継がなければ現状維持すらできなくなるので。一門の統制が必要となるために組織構造を変えるわけにはいかなかったのです。」

 

「話しに聞いたガイア連合の説明とは随分違うみたいだね。」

 

「むしろガイア連合が特異な組織と言えます。初期構成員のほとんどが一般出という事もあって表の世界の常識を守ろうとしますし、一般出だろうが何だろうが使えそうなら取り込むことに躊躇しないですし。どちらが良い悪いではなく、そうせざるを得なかった歴史を覚えておいてください。ガイア連合に参加している土着組織の構成員に追従する必要は無いですが、相手を理解するには必要なので。」

 

 嫌悪とまではいかないが説明内容に不愉快そうな二宮さんに諭すように説明を加える。

 血統主義は権威ではなく実利の為なので絶やすことが出来ない。なので折り合いをつけて受け入れてもらわねば付き合いに影響してしまう。

 

「話を戻しますが弟子入りするならうちに入居して欲しいんです。勿論、断るなら断るで寮の方に連絡を入れて外出許可などに便宜を図ってもらえるように出来ますが、私の都合もあって纏まった時間が何時でも取れるわけでないので。」

 

「それはまずいんじゃないかな。そら、ほら、いろいろと。」

 

「学校については安心して下さい。覚醒者の子供が通うことを前提にしているので、今回のような事態への対処は想定内です。住居についても後で見回ってもらえば分かると思いますが、プライベートの確保に問題は出ないと思います。」

 

「そうじゃなくて! 藤原君も、その、一応、同世代と言うか……。」

 

「――……? あぁ! 私が男として問題を起こす可能性がありましたね。それは、まあ、後で説明しますけど安心していただければいいな、と思います。」

 

 その発想はなかったと思わず手を打つ。

 考えてみれば“そういった関係”になりたいと思って迫ったことが今生ではかけらもない。何年も前から身長は伸びなくなったが、年を取るに伴い青少年らしい猿になりそうな衝動がやっと少しは湧いて来たので確かに気を付けた方が良いかもしれない。

 

 そのようなことを考えている私の様子に、プライドが傷ついたのか機嫌を損ねてしまった二宮さんを持ち上げている間に車は玄関前の車回しに差し掛かっていた。

 

「着いたぞ、9S。」

 

「分かりました。A2も態々休みの日にありがとうございます。」

 

「いいからさっさと行け。」

 

 感謝の言葉を言えばシッシッとばかりに手を振られてしまった。ちょっと大げさに肩をすくめてから車を降りる。

 白い車体が陽を跳ね返し眩しい。A2の趣味の落ち着いた雰囲気で綺麗なセダンだが、地味に乗降性が悪い。なので車の後ろを回って二宮さんの側のドアを開けて手を差し出す。

 

「あ、ありがとう。」

 

 礼に軽く相槌を打ちエスコートしたまま玄関に誘う。玄関ではすでにセンサーの反応を見た従僕が待ち構え、ドアを開けてくれるのでそのまま通る。

 

「噂には聞いていたがすごいね。執事にメイドが居るのか。」

 

「執事と言うより護衛兼家の管理人ですかね。最初、人手不足で配下に家事手伝いさせていたらそれが慣習化してしまって。他の仕事もありますし、余裕が出来た時に人手を入れて警備に専念してもらおうとしたら反対されてしまったのでそのまま続いています。」

 

 目を白黒させて屋敷と使用人を見る二宮さんに私は補足を入れる。

 初期村の面子以外だと、首領の身辺警護が任せられるほどの信頼を得たという事で地味にナインズの中では花形部署になっていたりする。共同生活はしていないがトレーニングルームなどは彼らにも解放しているのでそれも人気の原因だ、とノーバディが得意げに語っていた記憶がある。

 

「とりあえずリビングで他の弟子を紹介します。同じ学校なので顔ぐらいは知っているかもしれませんが、これからは一緒に動くことになるので仲よくなってくれたらうれしいです。」

 

「どうだろうね。ボクは大衆に迎合されるような人間ではないから。」

 

 緊張をしたせいか学校で漏れ聞こえていた彼女の節が出てきている。案外こちらの方が良いかもしれないと私も指摘しないでリビングに案内する。

 

 廊下を通り抜けた先の部屋は一面ガラス張りで、庭と街とを見下ろすように地面から突き出た中空に存在している。ここで夜を迎えると、文明の灯りと海の深さに何時も息を飲まされる光景が広がることになる。

 ガラス張りの外壁に対してソファーが並び、横に目を移せば特注のダイニングテーブルが目につく。家族皆で食べると十を超える数が居るし、使用人をしてくれているナインズと一緒に食べることもよくあるのでそのサイズは長大だ。

 別に食堂を作った方がよかった気もするのだが、山梨で使っていたコテージが脳裏にちらついてこのような設計になっていた。ちなみに使わないけどちゃんと暖炉も完備している。

 

「朱莉おそーい!」

 

「お先にいただいています。」

 

 扉をくぐるとお茶請けのクッキー片手の文句とちょっとすました顔に出迎えられた。

 二人は二宮さんと正式に名を交わすのは初めてなので、流石に今日は落ち着いた私服姿だ。最初に衝撃を与えてもよかったのだが、それで弟子入りがご破算になるのもどうかと思たので装備は身につけさせなかった。

 

「紹介しますね。まず食い意地が張っているのがノーバディ。異能としては支援に重きを置いています。」

 

「よろしくね~!」

 

「おませにカッコつけているのがヒルダ。主に呪殺属性攻撃担当です。あとは彼女たちが使う回復薬などの調合も担当しています。」

 

「朱莉、おませはないんじゃないかしら。私ももう大人なのだけれども?」

 

「それは失礼。二人とも一応前衛として動けるようには仕込んでいるので、最初は二宮さんには後ろから援護してもらう形になると思います。」

 

「ふっふふ、まっかせっなさぁーい!」

 

「はぁ、ノーバディはともかく私は本当に最低限だからあまり頼られても困るわ。」

 

「そのあたりは実際に訓練を通して見て貰った方が早いでしょう。」

 

「そうね、これからよろしく。」

 

「あ、はい。よろしくお願いします。」

 

 二宮さんがぺこりと頭を下げる。緊張してきたのかその声が固い。何か小粋な冗談でも飛ばせればいいのだが、私にその才は無いので無難に紹介することにした。

 

「こちらは二宮飛鳥さん。私のクラスメートですね。LVは2、スキルは『ヒートウェイブ』を覚醒しているので、まずは前衛としても鍛える予定です。今日は弟子になるのか、なるとしたらどのように教わるのかを決めてもらうために来てもらっているので、私の説明にダメなところがあればあなたたちも忌憚なく口を出してください。」

 

「ボクはアスカ。二宮飛鳥です。東京で助けてもらって、それで、えっと、いろいろ教えてもらおうと思っています。よろしくお願いします。」

 

 緊張でガチガチな自己紹介に苦笑して席を薦める。

 先にソファーに座れば何も言わずとも給仕がお茶を出してくれる。今日は紅茶らしい。軽く口に含んでから砂糖を半掬いにミルクを少々。味覚が幼いままなのか甘い方が好みだ。

 

「さて、お互いに紹介したところでいきなりなんですが、家族を弟子としているので二宮さんも家族だと他の連合員に勘違いされるかもしれないのでそこは否定しておいてください。」

 

「家族、ですか?」

 

 不思議そうな顔で見返された。何か変なことを言ったのか自分の言葉を振り返るが特に思い浮かばない。説明が下手だっただろか。

 

「将来朱莉のお嫁さんになるんだ!」

 

「私も逃がす気はないですから。」

 

「え、二人お嫁さんっ?!」

 

 驚いた声。それに随分と自分がずれてしまっていたことに気が付いた。

 そうだ、普通は一夫一妻であるし、お付き合いするのも一人相手なのだ。今までそのことに至りもしない不誠実さに虫唾が走る。

 

「ああ、そこから始めた方がいいか。今この家の住人として住んでいるのは私を除いて人間が七人ですが、現在この二人を除いて全員が私の内縁の妻になります。」

 

「2Bとか含めたらもっとでしょう?」

 

 己の悍ましさに胃から逆流したものを気が付かれないように飲み干しながら、なるべく軽く聞こえるように話す。それに乗っかってくれたヒルダが揶揄うように指摘してきたことに対して大げさに肩をすくめてみせる。

 

「式神含めます? それなら肉体関係がある人間も含めて両の手足じゃ足りない数の愛人がいる、っていう方が分かり易いかな?」

 

「よっ、この女の敵~♪」

 

「えっ、なっなっぇ、なんで?」

 

 軽く笑いあう私たちに対し、心底理解出来ない事を見るようにやっとのことで言葉を発する二宮さんに悪く思う。ズレの根本を理解するには一度私の状況を知っておいた方が良いと思ったので、わざと混乱させるように情報を吐き出しているからだ。

 

「事情の説明のために、まずはガイア連合呉支部の成り立ちを話す必要がありますね。」

 

 頭の中で整理しながら昔を思い出す。呉支部の歴史を誰かに説明したことも無い。改めて思い返すと随分と急速に発展したものだ。

 

「まず、ガイア連合は出来て八年目の新興組織だというのが前提です。七年前、世界の終末を信じた元一般人によって組織された、と言うと危ない組織ですが、一種のブレッパーの集まりで避難所作りつつ原因を探ろうとする感じで出来ました。当然、オカルト組織への伝手も何もない状態から始まったので、霊障事件の情報や現地組織との折衝を根願寺――日本の霊能組織のまとめ役――にお願いして、終末に備えた修行を兼ねた依頼の遂行を各地で成しました。」

 

 内部事情が見えないように欺瞞を少し混ぜながら始まりを話す。本当はただマッカ欲しさに突撃していた人の方が多いのだが、物は言いようである。

 

「そうした依頼遂行ですが、足場を持たないガイア連合員の予想以上の損耗を強いました。同時にそれまで対処していた現地組織の疲弊状況を確認した事から、各地にガイア連合の支部が作られることになりました。普通なら縄張りに別組織が出来たら戦争ものとはいえ、我々も現地組織に喧嘩を売りたいわけではなかったのでちゃんと話し合いによって承諾は頂いたのですけどね。」

 

 給仕の式神が持ってきてくれたホワイトボードに『現地組織との同盟や麾下入り』と書いて生徒(三人)の様子を窺うと取り合えず理解は出来ているようだ。

 

「ここで話を呉支部についてに移します。当時この辺り一帯で依頼を受けていた私は、現地の顔役からも信頼されていたので、話が出る前からほとんどの組織が麾下入りしていた感じだったんですよね。地味に私は現地側の心情が今でも理解できているとは言えないので、知りたければ元々地元にいた人に聞いてください。」

 

 『私―現地組織』と上下関係で書いて呉支部と括る。

 ガイア連合からの派遣戦力への信頼ではなく、私個人に対して信頼が向けられてしまったのはガイア連合的には失敗だった。

 一番初めの頃は強弱問わず異界が残っていたので、一人で一月の間に百以上を潰した時もあるのが原因か。それともキャンピングカーで動いていた特徴的な姿が、他の依頼受注者よりも目立ってしまったのが悪かったのだろうか。

 

「ここで問題なのが、信頼されていたのが私個人であってガイア連合じゃなかったこと何ですよね。当時の現地組織からすれば“ガイア連合の麾下に入った”というより、“私の麾下に入ったら私がガイア連合に所属していた”みたいに感じていたようです。この受け止め方は隠れ里のナインズの帰属を私個人にしてしまったあたりが原因だった気もしますが。」

 

 ちょっとジト目で配下二人を見てみるが、堪えた様子は見受けられない。まあ、彼らからすればむしろよくやったと胸を張るべき事だったのだろうから仕方がないが。

 

「質問良いかな?」

 

「はい、どうぞ。」

 

「えっと、何年前か分からないけど十歳ぐらいの藤原君の下につくことに了承したってことなのかな?」

 

「当時は五歳ぐらいですね。まあ、式神連れてとは言え、一人で悪魔が何十匹といる異界を毎日複数個所攻略して回ってたので、一目は置かれていたのは確実です。」

 

「一応言っておくけど、そんなの出来るのは今でも朱莉ぐらいだと思うわ。」

 

「どうでしょう? もう修行もさぼり気味ですし、霊格で私が負けしまった連合員も呉にもいますから、彼らなら十分できると思いますよ?」

 

「その人たちから一緒にしないでって泣き入ってるんだけどなぁー。」

 

 お行儀良く手を挙げて質問してきた二宮さんに答えたら弟子二人に補足説明されてしまった。

 呉支部備え付けの純機械式レベル測定機がLV50まで測れるようになった時に上位の皆で測定したが、何時の間にかに私のLVは支部で一番ではなくなっていたのだ。

 あの時驚愕していた彼らを、これからは盛り立てていきたいのだが中々うまくはいかないものだ。

 

 ……冗談で『もう任せてもいいかなー』なんて言っていたのが悪かっただろうか。今度は静かに次期支部長計画を進めなければ。

 

「え、あれ? 一番早くても八歳ぐらいじゃないのかい?」

 

「ああ、言ってませんでしたね。今の年齢は新しく戸籍を作ったときにサバ読みまして。肉体年齢は今年で十二歳…のはずです。」

 

「私たちと一緒にしたんだよ!」

 

 対外的にあんまり幼過ぎると神輿の役割も出来なかったので、年を嵩上げていたのだ。外見の幼さは雰囲気作りでどうとでも出来た故の偽装だ。

 

「話を戻しますと、現地組織がガイア連合への麾下入りに際し、彼らの常識から私の血縁との継続的な同盟、或いは旗印化を望み、私がそれに答えた事によって婚姻政策としてナインズで一門を作ろうとする動きがあるんですよね。すでに子供もいますし。」

 

 現地組織の説明に『本家・一門 ナインズ、麾下 各霊能組織』と書き込む。私自身は追記の上に位置している。

 

「これが政治的な理由の話で、弟子二人はこちらになります。それとは別に政治と関係なく関係を持っている女性もいるので、まあ私の下半身事情は大分緩いと思っていただければ正解です。」

 

「本当に緩かったら私たちに手を出してくれてもいいのではないかしら?」

 

「そうだよねぇ。私たちだけ一緒にお風呂も入ってくれないし、キス一つしてくれないのは不満です!」

 

「おっと、藪蛇か。」

 

「体も成長してもう十分行けると思うのに、裸で迫っても梨の礫ですし。本当に節操なしだというなら証明してもらわないと。」

 

 雲行きが怪しい。と言うか彼女たち二人には、ホーネットの最初の妊娠の時に好きな人と結婚して良いと言っているはずなのだが、未だに私に嫁ぐと言うし。朴念仁のつもりはないが、私の何がいいのか本気で分からない。

 

「それとも他所で女を作る理由があるというのかしら? 彼女を弟子に取るというなら、朱莉の考えはちゃんと教えておいた方がいいのではないかしら。ねえ?」

 

「えーっと、その。」

 

 出汁にされた二宮さんが、赤い顔でたじたじになっている姿に申し訳なさが募る。人様の家庭問題に巻き込んでしまって済まない。

 

「あー、もう。この際だからぶっちゃけますか。」

 

 余り本気で隠していることでもないので、諦めて自分の口から説明することにした。

 

「麾下の霊能組織は、霊能者と言ってもそのほとんどが才能が低い人ばかりです。私が種をまき散らしているのも、次世代以降の戦力を鑑みてです。」

 

 なので抱いているのは主に麾下組織の霊能者、それも長の血縁者が多い。戦力増強のために内紛の種をまいている気もするが、どうせそんな余裕はなくなるだろう。“契約”による縛りもあるし。

 

「そうでなきゃまだ性欲も沸かない時分から抱いたりしないですよ。抱くからには真摯に愛する努力はしてますが。」

 

 近頃やっと肉体的な性欲が湧いて来たんばかりなんですよーとやけになって笑えば、弟子二人が牙をむいたように笑うのはどうかと思う。

 

「私も才能があると言っても最上級ではないのですが、それでもそこらの霊能者より上ですので底上げには使えますしね。二宮さんも才能狙いでモテモテになるのはまず間違いないので、お相手選びは慎重にしてください。相談には乗りますので。」

 

 非覚醒者の状態で死んだのに、生き返って覚醒者になれるだけの才能があることは証明されている。上限がどこまであるか分からないが、有象無象の霊能者より強く鍛えることが出来るだろう。

 

 そこまで考えて、ふと何でこんな話をしているのかと思ってしまった。

 同年代――本当は相手の方が年上だが――相手に何でこんな説明をしていたのだったか。話題の始まりを思い浮かべ、必要な説明は終わったことを思い出す。

 

「ああ、えっと、そう言う訳で周りから二宮さんも家族と思われてしまったら否定してください。弟子だからってそういった関係ではないので。」

 

「え、はい、あ、はい。」

 

 話題を無理やり切り上げた流れについていけてないのか、紅潮した顔でこくこくと頷く彼女には悪いが一回空気を入れ替えないとまともに話せそうにない。

 

「弟子になってからのカリキュラムですが、基本的に体を鍛えて貰うのが最優先ですね。屋敷にスポーツジム相当の設備と人員はあるので、そこを利用してください。」

 

 真面目な話となれば弟子二人も自重してくれた。

 その後はそのまま説明と屋敷の案内をし、結局彼女は弟子となってこちらに移ってくることに同意してくれたのであった。

 

 密かに私自身の女性関係の行いでご破算になるのかと心配していたのだが、問題にならずにホッとするよりも困惑している私だけを置いてけぼりに、弟子三人は仲良く入居初日から集まってお泊りをするのであった。

 

 

 

 そんなこんなで弟子が増えた夏休みも過ぎ、学校も二学期が始まった。

 私は昨年から土日は山梨のガイアアニメーションに通う生活をしていたが、弟子が出来ても特に変わることがなかった。

 ただ、平日に弟子の面倒を見る時、二宮さんが最低限悪魔相手に切った張ったやれるまでは戦闘関連の仕事は請け負わせないようにさせた。この決定に元からの弟子二人から不満が出るかと思ったが、文句もなく三人仲良く霊草の採取や霊障の解決などに走り回っていて私の心配は杞憂に終わってくれていた。

 それと常に弟子について回れる訳ではないので、ヒルダとノーバディに二宮さんへの基本的な指導を任せていたのだが、何時の間にかに二宮さんも碌に話したことの無かったクラスメイトである私よりも彼女たち二人を頼るようになったのはうれしい誤算だった。

 あまり私が関わっては、後から加入してきた日本の個人霊能者などから根拠の乏しい特権意識で突っかかられる事を懸念していたからだ。

 

 実は近頃、呉支部では二宮さんのような一般出相手に限らず、元からいたガイア連合員と後から入って来た個人霊能者との間に摩擦がじわじわと増えているのが問題になってきている。これは他の支部からの転籍者に旧来の特権意識のまま問題行動を起こす人間が多くいたからだ。

 

 この問題の原因はすでに把握していた。それはガイア連合の加入紹介権限は全て転生者が保持しているが、紹介相手自体には何ら規定がないことが原因であった。

 これは家族であったり身近な人間を所属させるためのにあえて規定していなかったのであり、山梨支部の運営が書類審査で問題ありそうな人間は弾いていたので規定当時は問題ではなかった。

 しかし、支部の設立により書類審査を各支部に任されるようになると各支部の事務方にいた現地霊能者が判断する事態になり、支部により基準がバラバラになる事態になってしまったのだ。

 

 ひどい事例だと、ガイア連合に所属しても霊障の隠蔽の為なら目撃者を殺しても問題なし、と考えている人間が呉支部に移籍してきたとこがあった。

 幸い同じ依頼を受けていた他の連合員に取り押さえられて被害者は出なかったのだが、その人間の加入した支部から回ってきた評価は『人格実力ともに良好』となっていたのだ。流石に呉支部としては虚偽を疑わざるをえなかったので運営経由で文句を言ったのだが、その報告を聞いた運営は慌てて関係支部に監査を送り込み大々的に調査するような事態になったのだ。

 他支部でのごたごたがどうなったかは知らないが、その後全支部に一般社会通念に反する行動は控えるように通達があったことがおおよその経緯を想像させてくれる。

 まあ、通達どまりであったともいえるが。

 

 結局、オカルト組織として霊障に対応しようと思えば、無暗に禁止するわけにもいかないので仕方がないのだが、この事件のように呉支部のルールに従わずに勝手をする他支部からの移籍現地民は増えることはあっても減らないと考えられていて呉支部では頭を悩ませている。

 転籍者全員に“常識”というものを改めて説明するようなものではないし、説明したところで問題になるような人間にまともに受け取ってもらえることはなさそうであるからだ。

 一応の対策として過去事例の判例集を現地民用の受付に置いてみたり、受付に周知を図ってもらったりしているのだが、これが上手くいくかはまだ分からないといった所であった。

 

 

 そう言えば、対応の検討と言えばもう一つ最近始まったことがあった。

 

 エジプト神話組織の受け入れだ。

 

 実際の入植地は鳥取の大異界周辺なのだが、彼らの受け入れは呉支部にも協力を求められていた。

 今までの亡命者受け入れに慣れた人員もそうであるが、一番は中東方面の物産の提供についてだ。

 多少地域が違うがアフリカ・中東諸国諸国からも多くの亡命者を受けている呉支部は、彼らのために向こうの物産の多くを手に入れることが出来るようにしている。例えば商社の設立やガイア連合の商品を輸送するコンテナ船の輸入枠を一部専有させたりだ。

 そのため、エジプトからの亡命者が必要とする故郷の食料品から霊装の素材まで、多くの品物の取引についての協力が求められたのだ。

 

 ここで問題となってしまったのが、求められている地域を商社で担当をしている亡命者の多くが、メシア教と争う前は現地大手組織であったエジプト神話組織とバラバラに関係を持っていた過去だ。個人や家族単位で亡命して来ただけあって関わり方がバラバラで、ある一族は蜜月の付き合いをしていたと思えばある一家にとっては家族の仇であったりするのだ。

 遺恨のある担当者をこの件から外せれば最良ではあるのだが、会社の人員にそれほど余裕があるわけでもなく、担当者も仕事はきちんと成すと言っているので仕方がなく仕事を任せることになっていた。

 どう見ても問題が起きそうな事態である。しかし、どうしようもない事なので、せめてもの折衝と監視のために所属支部の支部長である私が駆り出されたのだ。

 私の時間に余裕があることも理由の一つだが、先住亡命者には上が出てきて仲裁するほど大事にしていると示すことで自制を促す意図もある。

 

 ……それ以上に物資の取り扱いを仕切っているのがナインズであるというのが大きいのだが。

 あれやこれやと世話を焼いているうちに亡命者の多くがガイア連合とナインズの二重所属となり、私の設立した会社や異界で働く現状が出来てしまっている。

 今回関係してくる商社もそういった会社の一つであった。

 

 

「ご要望でした各種作物の苗木・種子については向こうの政府の防疫所の審査が終わり次第、順次輸入する手筈ですので少々お待ちいただくことになります。」

 

「はい、ワカリましタ。」

 

「我が社の在庫にない日用雑貨についても、ご依頼していただいたら取り寄せますので気兼ねなくご連絡ください。」

 

「はい、よろしくオネガイします。」

 

 何の変哲もないプレハブの二階。

 一時凌ぎで建てられた事務所での交渉は恙なく進んでいるようであった。

 ここ数年ですっかり上手くなった部下の日本語と懐かしさを感じるたどたどしい日本語を聞きながら胸をなでおろす。

 商談をしている二人の横の部屋で窓から漏れ聞こえる声を耳をそばだたせて聞いていたが、双方感情を荒立てることもなく社交的に言葉を交わしているようで事前の危惧は無駄であったことを知らせてきている。勿論会社の方から注意も何もなかったし取り越し苦労の可能性が高かった心配ではあった。

 

 ――今回の商談を担当した彼も過去とは折り合いをつけれたのだろうか。

 

「朱莉よく似合ってるよ!」

 

「すごく、色っぽいと思うよ。藤原君。」

 

「やっぱり朱莉には青が似合うわね。」

 

「三人もよく似合っていますよ。……大事な儀式装束で遊ぶものじゃないと思うんですけどね。」

 

「ダイジョウブです。コドモのTraining?…レンシュウの、だから。大事、じゃナイ。」

 

 楽しげな声に飛ばしていた意識を引き戻されて嘆息する。着ていた服を華やかで扇情的な装束に着替え、きゃいきゃいと楽しげな女性陣はエジプト神話の見学に連れて来た弟子と案内役だ。

 商談の間に軽くエジプト神話と文化を聞かせて貰っていたのだが、神殿はまだ建設中であるし秘伝のヒエログリフなどを見せられても彼女たちでは理解できない。そのため、案内役の女性が分かり易く親しみを持ってもらえるものとして避難所から持ち出せた物資の中にあったベリーダンスの体験会を開いたわけだ。

 

 私が着せられているのも男性用の上着とゆったりとしたズボンではなく、コインの吊るされたブラとベルトに腰から何枚か布を垂らしただけのスカートと完全に女性用の物だ。手には私の身長ほどのヴェールを持たされている。

 組織の伝統的に男性は踊らないらしく、男性用の衣装はないそうだ。

 それなのになぜか私まで巻き込まれているのは、まあ何時もの事なので諦めている。

 

「……藤原君は良く堂々としているね。恥ずかしくないのかい?」

 

「この見た目ですからね。昔から女装はよくしてますし慣れてますよ。今までの経験から下手に恥ずかしがると余計にクルんで割り切った方が良いと学びました。」

 

 自慢にもならないが自宅のクローゼットルームに詰め込まれた衣装の七割方は女性ものだ。

 必要にかられて購入したスーツや和服以外だと、ほぼ全てが仲間内から提出された衣服なので私の意志ではないが、出資者として評価するためにちゃんと一度は着て感想を送っている日常を過ごしていれば今更踊り子姿で羞恥に襲われるほど軟ではない。

 私以上に羞恥にかられているのは二宮さんの方だ。下手に誉め言葉を言うと余計に意識してしまって委縮しそうなのであえてスルーして教師役の案内人に向かい合う。

 ちなみにノーバディにヒルダはガイア連合の身内ノリを体験しているので何時もの事だと流している。彼女たちにもプレゼントとして贈られた衣服はいくつもあるし、そのデザインのアレさ加減は今着ている衣装とそう変わらないので慣れてしまったのだろう。

 

 部屋の片隅で美人の案内人が今時見かけないカセットテープレコーダーにカセットを入れている姿はよくあるカルチャーセンターの日常のようだ。練習のための伴奏は自分たちで録音していたのだろう。果たして演奏者は生きているのやら。

 

「それデハ、Let's dancing!」

 

 流れ出す音楽に暗い考えに気が付かれない様にふたをして、案内人の動きに合わせて教わったように踊る。

 ステップと言うよりもしっかりと体を支える為の支柱として足を動かし、習った動きを真似して腰をくねらせる。淡く伸ばした腕に絡んだヴェール。規則的にゆらゆらと揺れる胸当てのコインは本番であれば鈍く光を跳ね返すのだろうか。

 

 横で恥ずかしそうに、でも楽しそうに踊る弟子たちを感じながら振り付けを習っていた時の話を思い出す。

 ベリーダンス自体は俗物的な受けの為ではなく、神への奉納の舞として踊るために女性は幼少の頃から練習するらしい。男性神相手にいかにうまく踊れるかでもらえる加護の強さが違うらしく、女性は必死に学ぶとのことだ。

 

――これから。ワカラナ、けど。

 

 肩の動きや腰の振り方をニコニコ教えてくれていた途中にポツリと漏らされた言葉は暗かった。

 詳しくは知らないが、彼女たちの信仰対象であるエジプト神はすでに地上を見限っているらしい。今も守護しているのは代表である女神転生的転生者が信仰する女神と、魂を冥府に送るための神など数少ないそうだ。

 『今までは与えて貰えていた加護も、これからはいくら踊ろうが授けられることはなくなる。』

 そう寂しそうに続いた声は不安や憤りがごっちゃになったものだった。

 

 教わった通りに回ると共にヴェールを翻し空に布を泳がせる。腰の細かな振り方や嫋やかな腕の動き。どれもが見様見真似でしかなく、手本として見せて貰った動きに劣る。肉体制御には自信があるが、模倣しきれないのは動きの組み立てや積み重ねた修練と歴史のそれだったのだろう。

 せめて気の持ちようだけでも“己を捧げる者”としてのものにする。

 侍る様に伏す様に、首を垂れる様に見上げる様に。

 自分の為ではなく誰かの為に。

 

 自失のままに揺らり揺らりと“伝統”を踊る部屋の窓からは忙しく動き回る人影が見える。代表神となったハトホルの神殿も石が積み上げられている途中で壁画もレリーフもないし、住居すら増築のために慌ただしく働く気配が外からしている。

 エジプトからの難民たちの居住区は歴史なんて欠片もない。戦闘能力のない女子供だけでも、と取る物も取らず逃げ出した先に、かつてを偲ばせるようなものは一体如何ほど残っているのか。それ故に難民たちは残してきたものを再現するか新たに築くかの選択肢を突き付けられている。

 合理的に考えると、ただここで生きるためなら昔は懐かしむだけにして彼らは明日に踏み出すべきだと思う。上がり続けるGPに抗い、生存を勝ち取るためには見捨てられた彼らの信仰は重荷になりはしても助けるものにはならないだろう。

 それでも、受け継いできたものをむやみに捨てることはないのだと私は思うのだ。

 

 何とはなしに目をつぶって踊る。

 くるりくるり回るたびに棚引く髪とヴェールを、絡ませるように寄り添わすために腕を振り上げ振り下ろす。ステップもあったものではない足踏みにスカートがふわふわと舞う。

 我ながら不出来なものだ。そんなことを考えていると部屋の外から商談担当者の気配が近づいてきていた。

 

「……ぁっふぁっ…――すいません、少し席を外しますね。」

 

「いってらっしゃい。」

 

「あとでねー。」

 

「えっと、お仕事頑張ってください。」

 

 自失からの復帰。霧中の意識が火照った息を飲み干す。自分は何をしているのであったか――そんな気持ちが現実を取り戻していく。そうして状況を思い出した。

 籠った熱を吐き出し、閉じた瞳を開き、一声上げれば弟子たちは弁えた返事を返してくれた。ありがたいことだ。

 

 さあ、仕事の時間だ。

 

 端に寄せていたパイプ椅子にヴェールを置いて部屋を出る。部屋の外もプレハブらしいちゃちな廊下だ。

 その廊下を気もそぞろに歩いていく商談担当者に苦笑してこっそり後をつける。ぐちゃぐちゃに乱れたマグネタイトは一体何を考えているのやら。マグネタイトの気配を感じられたとしても読心が出来るわけではないので、その内心はうかがい知れない。只々拭い去れない衝動に焼かれていることだけ理解できた。

 工事中の居住区をふらふらと通り過ぎ、お目当ては出来たばかりの公園のようだ。木と花壇だけの公園のベンチに腰掛け丸めた背中は路頭に迷ったサラリーマンのようだった。

 

「随分と落ち込んでますね。」

 

「……支部長、なんて格好ですか。」

 

「商談中に音楽が聞こえてませんでした? 横で体験講座をしてましたよ。」

 

 隣に腰掛け、公園入口に商魂逞しく既に設置されていた自販機で買った缶を差し出すと、横目でこちらを見た商談担当が何とも言えない顔をした。味わい深い表情だが眉間にしわを寄せて歯を食いしばっているよりはよかろう。

 

 賑やかな工事の音をBGMに公園のベンチにしょぼくれたサラリーマンとベリーダンサーと言うシュールな光景。お互いにちびちびと缶を啜りながらしばらく無言で過ごす。

 ガイア連合建築班の賑やかな建築工事とは裏腹に公園は静止画の様に動きがない。アカシアやヤシの植えられた景色はどことなく異国情緒を感じられる。他の利用者の一人でもいれば良かったのだが日本にやって来たばかりの難民たちにそんな余裕はまだないのだろう。

 

「昔、彼らに召集されたことがありました。力による搾取、という奴ですよ。」

 

 そんな風に日本らしくない植生の公園を眺めて黙っていると、ポツリと商談担当者が口を開いた。

 

「当時エジプトの都市近郊に出現した異界に攻め込むため、梅雨払いに集められた一人でした。私のような弱小一族の人間が寄せ集められた光景は雑多でみすぼらしかったな。出陣式ではすぐ横にあちらの屈強な戦士が煌びやかに飾り立てていて、見送りの声援が華やかで、自分と比べて惨めだったのを覚えています。」

 

 遠くを見ている目に映っているのは砂漠の大地であろうか。彼は手に持った缶を揺らしていることにも気が付かずに視線を飛ばしている。

 

「その時の憎く精強な戦士たちがここには一人もいない。今ここに居るのは戦士を憧れの目で見ていたひ弱な女子供と、かつて戦士だったものの名残ばかりだ。あれだけ感じた恐ろしかった神威も感じない。今の彼らはあれだけ尽くしていた神にすら見捨てられているのだと思うと、哀れと思ってしまったんですよ。親を殺された私が、ですよ。」

 

 笑うような、嗤うような、何とも言えない歪んだ口元とは違い、眼は静かに閉じられ哀悼に祈られて見える。

 

 前々から日本にやってきた亡命者は本当に千差万別だ。

 なんとなく危険そうだからとやって来た者も居れば、いい機会だからと歪んだ欲望を覆い隠して入り込もうとするものなんかもいる。

 彼は住み慣れた土地では先を見通せなくなって泣く泣く移り住んだタイプの人間だった。上から目線の命令で親を亡くし、己も人手に取られ、このままでは子も使い潰されると思い逃げてきたと調書に記されていたのを覚えている。

 彼が感じているのはエジプトで幅を利かせていた組織への憎悪と、目の当たりにしてしまった凋落への寂寥だろうか。碌な人生経験もない一般人上がりには随分と理解しにくい感情が渦巻いているのだろうと私は推測することしかできなかった。

 

 それでも、私は相槌も返事もなしに黙って話を聞き続けた。

 それが私が出来る唯一の事だと、そう信じることしかできないのだから。

 




弟子の制度説明の下りですが、この作品では『距離を離す』『戦闘に参加しない』などの条件を満たせば戦闘をしていた人間だけに普段通りの経験値が入るとしています。
どくいも様のスレでアニメ会社の小ネタで同行者の話しが出てきますが、【同行者のレベルが高すぎると覚醒修行としては適さない】とあるので『覚醒者』であれば問答無用で経験値が奪われる事が無いと考えました。

あと、主人公が首領を務めるナインズですが、建前上はナインズの麾下に他の組織・一族が別々にいる形になっていますが、実際は全部ごちゃまぜに近い運用をしています。
適性であったり希望であったりを考慮し、組織に囚われずに人員配置をしているので半世紀後には完全に一つの組織になっていそうです。
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