【カオ転三次】DRUG FATE   作:石は転がる

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5話

 これまで星霊神社に存在するマッカは神主から提供されたものがほぼすべてである。

 これは純粋にマッカを獲得できる者が神主の他には少なく、一部例外も神社の財布にマッカを入れる余裕がないためである。それが問題であることはもちろん気が付いており、星霊神社からの装備のレンタルやアイテムの販売などで収益を上げようとは計画されていたのだがそのための先立つもの自体がないため絵に描いた餅となっていた。

 準備のためのマッカ集めをさらに神主に依存するしかなかったところ、ポンッとマッカが湧いて出てきたことによる狂騒が起きたのがつい先週。

 今週には出来立てほやほやの式神が一体、私の手元に搬入されてきていた。

 

「まったく、先に相談ぐらいしてくれてもいいだろうに。おかげで私のマッカまで巻き上げられたぞ。」

 

「それは災難でしたね。」

 

「他人事だな、貴公は。まったく、もう。」

 

 話を聞くとさもありなんと納得する。

 

 過去、神社から回す依頼だが受諾者はかなり少なかったらしい。

 それは様々な不安が理由だが、その一つに対霊装備の不足がある。

 神社からの貸し出しはあるのだが、昔から受け継がれてきたような装備をそこらで着るには目立ちすぎるというのもあるが何よりも防具はフリーサイズではないことが原因だ。

 

 鎧兜とは言わないが霊布で仕立てられた着物にしても過去と現在では平均身長からして違うので調整が必要である。その調整にすら今の門下生では自力ではできず、マッカを必要としている。それなら最初からオーダーメイドにしてしまえばと思うが、それも当然マッカが必要である。

 そういった状態なので現状では武器の貸し出しだけであり、私たちの討伐時もいざという時の懐刀以外は霊装を所持していなかった。

 

 ところが、である。

 あるところから種金がもたらされたおかげで装備購入ローンが始動。折しも日本を代表する対霊組織の本願寺からの依頼斡旋が纏まったこともあり、装備を作りたい製造班とローンを拡充したい運営班から彼女は突撃を食らって見事はマッカを吐き出させられることになったそうだ。

 

「まだマッカ相場も出来てないから高値のせいで背任しているみたいで気分が悪い。」

 

「マッカ相場、最初はいくらぐらいになりそうなんですか?」

 

「最初は1マッカ10000円の予定だ。ま、すぐに半分くらいに下落するとは思うが。」

 

「それ、本当ですか?! 1マッカ10円ぐらいのイメージでした!」

 

「エネルギー資源として使っているとはいえ、金も含有しているからな。大体金相場にエネルギー分プラスにした値段にする予定だ。」

 

 机の上の差し入れに持ってきたまんじゅうを食べながら二人で雑談に興じる。現金を手に入れたので訓練がてら神社から下山して買ってきたものだ。

 

 今いる場所は星霊神社でも事務仕事をまとめている一角。

 会社で言えば総務部のような場所のブースで、相談に来たら何故かお茶のご相伴にあずかっている。忙しそうなざわめきが衝立越しに聞こえてくるがこちらの空気はのんびりしたものだ。

 

 スッと無くなっていた湯呑を下げて新しいものを差し出してくれる割烹着姿の女性に黙礼する。

 何を血迷ったかここではマッカ長者として同室者と共におふざけで傅かれている。転生者は割とこういったロールプレイングを悪乗りするので応接室に引っ込んでいるのだ。

 まあ、これが他人だったら自分も大喜びで遊ぶのだが。

 

「根願寺からの依頼が増えれば装備の充実と合わせてマッカも落ち着くと思う。」

 

「根願寺というと日本の対霊組織の元締めでしたっけ。依頼の仲介始まったのですか?」

 

「もう私たちが異界に行った頃には修行僧への斡旋を始めているよ。だからこそ初期装備のためのマッカをかき集めたのだからな。」

 

「それはいい話を聞きました。ローン返済で討伐が人気になる前にマッカを稼ぎたいので何かいい異界はありませんか?」

 

「ああ、そういえばマッカもフォルマも放出してすっからかんだったな。……いかんな、マッカ長者とはやし立てられているせいでまだある気がしていた。私も一稼ぎしてくるか。」

 

「白風さんなら歓迎しますよ。もちろん、一緒でなくても構いませんけどね。」

 

「ちょっと依頼表を持ってくる。」

 

 彼女が立ち上がり事務所の奥に引っ込む前にファイルが差し出される。気が付かないうちに給仕の女性が書類を持ってきてくれたらしい。

 

「いつの間に! まあ、いいか。ありがとう。……さてと、今のところ交通機関が整っているところが人気だな。」

 

 いくつか一覧表を差し出されるが受諾済みはどれもが関東地方の地方都市圏ばかりだ。残っているのは都市周辺の山間部が多く、首都圏の依頼自体は一つもない。付録されている地図帳のコピーでは道すらもわからないところが多い。

 その中からまだ神社に近そうなものを選び内容を確認してみる。

 

「このあたりの依頼は道路地図で探さないと道があるかわからんな。面倒な依頼を押し付けられただけじゃないのか…?」

 

「占術によると異界も広そうっと。なんでこんな山奥の異界が発見できたんでしょう? ……これ、管理してた組織がなくなっているのでは…?」

 

「ああ、昔からの霊場というわけか。いや、組織がなくなっているなら依頼も出せないはずだ。」

 

 頭にクエスチョンを浮かべて二人でいくつかの冊子から依頼詳細のページを探す。

 

「……ああ、あったあった。やはり現地組織からの増援依頼だな。んー、間引きと異界の消滅とどちらだ、これは?」

 

「えぇっと……え、情報少なくありません? 異界外部に出てきてることは分かりますが敵の強さもわからない?」

 

「鬼とあるが妖鬼なのか? 邪鬼・幽鬼・鬼女でだいぶ違うのにまさか鬼神というわけではないな。」

 

「神主メモだとLV5~10となっていますし、妖鬼オニでしょうか?」

 

「いや、それは主の推定だぞ。出てこれた木っ端がそんなに強いわけあるまい。ならガキか?」

 

「情報によると『周辺悪魔の討伐に失敗』とありますし、さすがに外に出て弱ったガキを仕留めれないこともないでしょう……?」

 

「では、この間も出たが奪衣婆か? しかしな、あのLVの悪魔が外に出れるなら主はLV20くらいないか?」

 

「神主所蔵の書物も古いものですし、霊地活性化の影響ですかね?」

 

「そうなのか……? ここにきて学んだことがすでに使えないとは思えないのだがな。」

 

「どちらにしろ、魔法に耐性はなさそうですし私にはちょうどよさそうですね。」

 

「私も魔法が使えないわけではないからな。現地に車道があるか分からないが神社からは近そうだな。よし、これにするか!」

 

「現地組織の人に詳しく話を聞きませんとね。依頼内容も確定しないといけませんし。」

 

 お互い準備が必要ということもないので意気揚々と依頼を受ける。依頼人に連絡を取れば明日の朝から会いたいとのことで討伐日時も決まった。

 

 とんとん拍子で話が進むし、これは幸先がよさそうだ。

 

 

 

「ええぇぃいっ! 依頼人だからと調子にのりおって!! セクハラで訴えてやろうかっ!」

 

「残念ながら世間はまだセクハラに対して寛容的ですよ。」

 

「えぇーい、くそっ! 異界の成果もよくないし本当に踏んだり蹴ったりだなっ!」

 

 夜道を法定速度で駆ける車内に憤懣遣る方無いといった感じで運転手の憤りが響く。

 行きはよいよい、帰りは恐い、ではないが今回の依頼は本当に散々なものだった。

 

 まず情報を得ようにも内容が要領を得ない。無駄に形容と装飾が含まれた話を時間をかけて聞いてみれば、まさか私以下の見鬼で碌に悪魔の形も把握していない。

 諦めて異界に向かってみれば碌な整備もしていない山肌に沸いているのはスライムにお情けで成れたような悪魔だけ。

 この時点で嫌気がさしていたが、依頼なので異界に踏み込んでみれば悪魔もポツポツとしか居ない只々広い山を異界の主に会いに行くのに疲れるだけの徒労感。

 途中から式神に抱かれて運ばれ、どうにか会えた異界の主もせいぜいガキに毛が生えた程度のオニで主と気が付かずに倒してしまっていた程度だ。

 

 それでもやっと帰れると気を持ち直して日も陰り始めた山を下りれば、討伐を信じない依頼人による難癖。幾ら説明してもお前ら程度では自分ですらできない討伐ができると取り合わない。

 納得させるために依頼人を麓まで連れて行って確認させれば、今度は相方を褒めたと思えば長々と自分の家の由緒正しさを話し出して娶ってやると言い出す始末。

 

 本当に、もう、散々だった。

 

「しかしいい気味だったな! 這いつくばったまま完了証にサインさせるのは! よくやってくれた!!」

 

「大したことはしてないですよ。」

 

 本当に大したことはしていない。

 ただ、念動でちょっと押さえただけだ。これだって体をワサワサ触られた怒り心頭な相棒が手を出しかねないので抑えのためにしたことである。

 

「ふふふ、そういう事にしておこう。……今回の様な依頼が結構来ていたな。事務所に戻ったら確認を取って対策をしなといけないな。」

 

 ちょっと落ち着いたらしい。事務員の顔になってこれからのことを考え始めた。

 神主からの依頼と違い根願寺からの依頼では現地霊能組織からのものが多そうだった。そうなると今回の様な依頼者とのトラブルは必然的に増えることになるだろう。

 

「下手に結界が張ってあると占術の効きも悪いからな。やれやれ、注意書きが増えそうだ。」

 

「それはそれは。明日から忙しくなりそうですね。」

 

 新しい仕事に口ではいやそうにしながらも楽しそうに笑う彼女に私も笑う。

 何か手伝えることがあればいいのなと呑気に思っていたのだが、事態はこの夜、急激に変わっていっていた。

 

 私たちの所属が『ガイア連合山梨支部』となっていたことによって。

 

 

 

 私たちがそれを知ったのは、疲れを引きずって帰った次の日。

 

 朝、前日の依頼の報告に訪れた事務所で普段とは違う喧騒に驚いていたところ、先に出社していた彼女に取っ捕まって事情を教えられることになった。

 

 毎朝の仕事初めの朝礼で、まず現在の事業の株式会社化が決定したことを告げられたらしい。それに伴い現在の転生者関連の事案はすべて新たに建てられる建物に移管するので一月内に引っ越しの目途を付ける事、工事に修行僧を動員するのでその監督をする事が新たな仕事として増えたそうだ。

 この時点ですでに集まった人間はデスマーチの予感に震えていたそうなのだが、一人の事務員が聴いた新会社の名称に事務員たちのざわめきは頂点を迎えた。

 

 『ガイア連合山梨支部』が新会社の名前であると。

 

 なんでガイア?!と場が騒然となる。女神転生というものを知ってしまっている転生者にとってその言葉はかなり大きなものなので当然である。私もその場にいたら騒いでいあだろう。

 尤も、騒動になることは上も理解していたらしく神主の言伝ですぐに場は収った。

 

 『曰く、安価は絶対。』

 

 脱力やら呆れやらのため息を皆が吐き、そうして気が抜けた状態から仕事に追われて今の喧騒となるらしい。

 

「何と言いますか、『俺ら』らしいと言いますか。」

 

「らしいか、らしくないかと言えばらしいのだろうが、こちらはてんてこ舞いだよ。しばらくは一緒に異界には行けないと思う。」

 

 事前に上層部で計画は立てられていたらしい。早速、今日の昼から新たな建屋のための整地を開始するので人員配置で悲鳴を上げているそうだ。

 役職的に直接は関係ないが普段の仕事にヘルプの仕事が入るのでそこそこ忙しくなるそうで、その間はあまり付き合ってもらえない。

 

「それは残念です。しばらく建築に修行僧動員するならしわ寄せが出てきそうな班でも覗いてきます。」

 

「そうか。……分かった。何かあったらまた連絡する。」

 

「了解です。」

 

 

 

 報告もすでに済んでいたので足を延ばして式神開発に関わっていたころに籠っていた一角に向かう。

 

 事務所の喧騒を後ろ手に心なしか薄暗くなる廊下を進んで行く。いくつかの部屋の前を通り過ぎるが、この一角は今朝の騒ぎとも隔絶した静けさを保っていた。

 いくつか角を曲がり進むと襖を取り払った大部屋に突き当たる。部屋の上、長押には大きな額が掛けられおり、墨ながら煩いぐらいにこの部屋の用途を主張している。

 額に収められたは文字は『メイドロボ研究所 第一支部』。大きく伸びやかなポップな字体は所属員の一人が書いたものだ。

 

 この部屋こそは総社員200人超、内覚醒50人超のオタク社長が一代で作り上げた狂気の会社――有限会社メイドロボ研究所――の神社支部である。

 

 

 神社に作られた大広間は多くの資材だけが残されがらんとしていた。

 ホワイトボードに描かれた文字は現代科学では想像もつかないような概念についての議論の後であり、積まれた冊子は神社の蔵書の写本である。足元に転がるのはマニピュレーターではなく霊木と和紙から出来た腕の一部だ。

 会社としてはAIと産業用ロボット制御を主体とした会社であるが、この場においては文楽人形こそが主題となりうる。

 表においては科学の知性を研究し、裏においては付喪神の意思を探求する。

 そんな集団が目指すことこそ『メイドロボ』であり、社員総出で式神研究に打ち込む熱意に溢れた有志である。

 

 ちょっと、行き過ぎてしまっているのはご愛敬だろう。

 

 彼らの会社は転生者掲示板こそを出身としている。

 史実よりも早くネットワーク環境が整い始めた今生。その当初から始動している転生者掲示板に集った人間は多くいた。彼らは前世を懐かしみ語り合い、あるいは今生での活動を報告し――格差に気が付いた。

 親から資産を受け継ぎ史実の知識によって投資で大勝ちする者、戦後に生まれ動乱の時代を成りあがった者、前世でありふれるようになった技術・商品を売り出した者、ほかにも様々な成功者。

 同じ知識を持ちながらも大きくずれた現況に妬み嫉み荒れる板。

 

 そこで立ち上がった人物こそ、私が友としてもらっているオタク社長である。

 

 当時大学生だったオタク社長は『未来チートを生かすための資金稼ぎ』として会社を設立。板の転生者仲間を『未来チートの技術開発ですぞ』と煽り立て社員を募った。

 最初こそ馬鹿にした流れであったがオタク社長が立てた目標と会社名に流れが変わる。

 『メイドロボを作る。その為のメイドロボ研究所。』

 あるものは笑い、あるものは鼻で嗤った。

 しかし、その目的に共感し集まった人材と資金によって瞬く間に夢の階段を上っていく――。

 

 

 と、まあ、長々と話したがそんな集団が集まって夜な夜な研究を繰り広げているのがこの部屋である。

 昼間は麓の本社で仕事をしているため夜にしか集まらないのだが、星霊神社は明け方には起きて日が沈めば寝るような生活リズムである。その間に決まったことや出来た成果などを知っておかないと流れに乗り遅れるため、オタク社長はこの部屋に持ち回りで駐在員を置いて対応していた。

 

「こんにちは。今日はどなたが担当ですかー?」

 

 広い部屋に私の声が響く。声を掛けたら慣れ親しんだ部屋を進んで行く。ホワイトボードに机に衝立とこの部屋は雑然としているため奥まで見えないが、今の時刻なら誰かしら二度寝に励んでいるだろう。

 共同研究スペースの奥は彼らが雑魚寝で生活する場が広がっている。さすがに社員全員が常にここで寝泊まりしているわけではないが、一部は交代で利用しているだけあって広さ的には奥と手前のスペースに変わりがない。

 住み込み組と一時利用者組の布団が大量に端に寄せられ囲まれた広間に、ポツンと一つだけ敷いたままの布団がある。

 はだけたわけでもないのに布団から突き出た二本足。この時点で誰が寝ているかがわかった。

 

「おっはよーございまーす。そろそろお昼ですよー。」

 

 声をかけてみるが反応がない。

 

「起きてくださーい。お昼、食いっぱぐれますよー。」

 

「……………。」

 

 もぞもぞ動くが起きてこない。常用されている起床ラッパ代わりのフライパンとお玉を持ってくるべきか悩む。

 

「はっ! やめろ、ショッカー!! ……ん? ――……うぉお?!」

 

 そう考えていると布団が吹っ飛んだ。真上に跳ね上げられた布団は天井にあたり、鈍い音を立ててから落ちてきて下手人の仰向けの腹に直撃する。

 

「何やっているんですか、戸田さん。」

 

「ん? んんん? あれ、⑨ニキ?」

 

 むくりと起き上がってきたのは男性だ。上体を起こしただけで私とほとんど目線が変わらない。起き上がれば私の二倍ほどの長身はしっかりと鍛えこまれている。

 

「はい、おはようございます。食堂があくまでちょっと話そうと思ってきました。」

 

「あ、おはようございます。いいよいいよ、適当に座ってて。」

 

 布団を畳んでやってくるまでの間に研究室の冷蔵庫から適当にジュースを取り出す。式神研究時はここでお世話になっていたので勝手知ったるものだ。

 

「うぅーーっす。今日はどうしたの? 式神に不具合でも出た?」

 

「いえ、何やら社屋を建てると聞いたのでこちらはどうなっているかなと思いまして。立て込んでいるようでしたら手伝いますが。」

 

「あー、『ガイア連合』ね。こっちは通常運転だよ。」

 

 布団を畳んでやってきた戸田さんは相変わらず威圧感がすごい。ツーブロックでさっぱりとした髪型と鋭く彫りの深い顔立ちに悪乗りの産物のスポーツサングラス。霊視ニキと並べば若と舎弟となりそうだ。

 今でこそそんな人物だが、ここに来る前の写真ではただの背が高いだけのひ弱そうなオタクであった。修行僧たちに噂される『星霊神社空気プロテイン説』の立役者であり、ある意味噂よりもやばいことを知っている一人である。

 

 まあ、中身は昔と変わらずオタクで俺たちのままであるのが我々らしいのだが。

 

「やっぱり事前に情報来ていた感じですか?」

 

「うん、相談来てたしね。新しい工場の間取りとか中のラインのマネージメントとかで口出ししてたし。名前も昨日スレ見てたし。」

 

「名前はやっぱりスレだったんですね。安価がどうの神主が言っていたそうですし、さすがの神主でもそこまでヒャッハーじゃなかったか。」

 

「⑨ニキ、スレ見てなかったんだ。情報的には確認する程のこともないかな。」

 

「そう言えばメイド研に相談って式神作成を機械化するんですか? それなら楽になりそうですけど。」

 

「将来的な機械化も見据えてるけどしばらくは手作業かな? 機械化は増築で対応する予定。」

 

「と、なると、人手はまだ必要なんですね。建築に人手が取られて式神製造にも影響が出てくるかと思ったのですがそうでもないのですか?」

 

「材料は事前にため込んだもので対応します。竣工が予定より遅れて材料が足りなくなっても研究してればいいしね。」

 

 なるほど。それならメイド研としては通常運転だろう。むしろ本当は研究しかしたくないような連中の集まりなので竣工が遅れたほうが嬉しいのかもしれない。

 

「研究と言えば進歩はどうです?」

 

「あー、これは言ってもいいか。なんか医療班の義肢式神の方の研究が利用されそう。」

 

 何気なく聞けば思いがけない情報が寄こされた。医療班の研究と言えば式神の研究というより式神を利用した人工臓器等のはずだ。マグネタイトの働きによる肉体の代替と補完を目指していたはずだが思わぬ方向に成果が出たようだ。

 

「散々マグネタイト混成の肉体情報を計測されましたがデータ利用できたのですね。無駄骨だと思ってました。」

 

「僕もだいぶ取られたなぁ。あっちのも出来がいいんだけど、うちとしては解釈違いなんだよねぇ。やっぱ機械の体に宿ってこそメイドロボでしょ。」

 

「すいませんがそのあたりの拘りがないので式神が自然に保護者を装ってくれるのでしたらどちらでもいいんですよね、ユーザーとしては。」

 

「そんなこと言っちゃってー。⑨ニキは和風黒髪ロング割烹着派でしょ、知ってる知ってる。」

 

 言った覚えのない性癖が開示されて目が座る。

 一体どこで言ったか本当に覚えがない。覚えはないが、最近それに関連することがあった。

 

「……事務所でこないだ割烹着の女性に給仕をされたのですが、情報の出どころはここですか。」

 

「あ、やべ。口が滑った。……えっとぉ、怒ってる?」

 

 2m近い男が半分程度の子供に冷や汗流して機嫌を窺う姿はひどく情けない。

 一呼吸おいて考える。考えてみればこの部屋に集まっている人間は常時性癖フルオープンの変態が大多数だ。その乗りでどこかでこぼしてしまったのだろう。

 

「まあ、いいです。式神の肉体は生身系になりそうなんですか?」

 

「そそ、ちょうど転生者に3Dプリンタの会社持ってる人がいるし、それを使って作ることになりそう。」

 

 流してやる、と示せばほっとした様子で戻した話に乗ってくる。

 3Dプリンタの歴史なんかは知らないが肉の印刷など前世でも最新の技術のはずだ。どうも転生者の関わっている技術体系はどれもこれも相当にトンチキなことになっているようだ。

 

「核の術式はどこに描くようになるのでしょう?」

 

「頭蓋骨にでも描くんじゃね? 気になるなら⑨ニキの主治医に聞いてみたら? 義肢研究の方には顔出しているんでしょ。」

 

「顔を出すというか、義肢人工臓器研究のドンですよ、彼女。下手に会うとまた検査漬けにされそうで嫌なんですよね。」

 

「それはご愁傷さま。まあ、こっちもプリンタ制御の関係で話すこと増えてるし聞いておくよ。」

 

「ありがとうございます。」

 

 ふと疑問に思ったことを聞けば、返ってきた返事に思わず苦い表情を浮かべてしまう。顔を見せたらそのまま診療室まで拉致られそうだ。

 話題を変えるためにこの研究所のこれからを聞いてみる。決して見えぬ影におびえているわけでは、ない。

 

「しかし、肉体が生身系に移行するとここではどんな研究をするんです?」

 

「ん? メイドロボだから当然機械式神研究だよ? 今は簡易型の式神だとどうにも機械と相性が良くないんでそれの改良をしてる。」

 

「普通の式神は大丈夫なんですか?」

 

「一応普通に動く。ただ、ショタオジがチートだから出来てるみたいで相性問題はありそう。」

 

 神主にかかれば無理が押し通り道理が引っ込むのは修行僧門下生一同の共通認識だ。

 

「簡易式紙に関わってないので詳細知らないんですよね。どんな感じなんですか?」

 

「ショタオジの式神と違って戦闘力ないからね。ただの悪魔探知機? 式神持ってる⑨ニキはあんまり縁がなさそう。⑨ニキが次買うとしたら俺ら謹製の下級式神じゃね?」

 

「あれ、降霊儀式誰か覚えたんですか? きついからって後回しにしていたんじゃ。」

 

「覚えました、覚えましたよ! いや、本当にしんどいね! 一体降すごとにひーこら言ってるよ。」

 

「戸田さん覚えたんですか?! 一緒に修行受けて泣き入っていたのに!」

 

「社長が覚えてねー。流石に社長に任せっきりはあかんとなって数人くじ引きで選ばれました。華ちゃんも頑張ったよ。」

 

「辻さんも?! うわ、大丈夫だったんですか?」

 

「……ノーコメントで。今度買い物でも付き合ってあげて、いや、まじで。」

 

「あっ、はい。一緒に池袋でも行ってきます。」

 

「頼むよ。『今度は普段着出来る生地をチェックしてますから!』って言ってたし大変だと思うけど。」

 

「おぉぅ、ガンバリマス。」

 

 そう言えば簡易型は身の回りの誰も持っていないので聞いてみたら思わぬことになっていて驚いた。

 神主から直接教えを受けたうえで降霊修業は二人とも挫折していたのだ。

 私の場合、降霊の手順や降ろすことまでは出来ていたのだが降ろす霊が大きすぎてスライムにならないか雑多な要素を取りすぎて悪魔として破綻させてしまっていた。神主からもこちらの才能は余りないと言われたのでスッパリ諦めていたのだ。

 しかし、一緒に修行した人間が出来たとなると思わずもう一度試みたくなってしまう。他の修業をする予定が入らなかったら試してもいいかもしれない。

 少なくとも着せ替え人形にされるよりは有意義だろう。今度はドレスで着飾られることは無さそうなのでまだましかもしれないが。

 

「そういえば⑨ニキは今月暇? 暇なら冬コミ手伝って欲しいけど。」

 

「暇と言えば暇ですけど手伝いませんよ? 当日は辻さんとの約束もあるので強制連行ですけど。」

 

「そうなんだ! それなら今度の買い物は⑨ニキの写真集の為かもね。なんかやりたいって言ってたし。」

 

「うへぇ、勘弁してくださいよ。前世でも行ったことないので噂にビビってますのに。」

 

「確か同人誌の挿絵代わりの写真撮りたいって言ってたし断るなら早めの方がいいよ?」

 

「世話になってますからね。諦めておもちゃになってきます。」

 

 前言撤回であろうか。聞きしに及ぶ同人誌の話からすると今度もドレスを着せられそうだ。

 

「おもちゃと言えば、今やってる案件に面白いのあるんだけど手伝わない?」

 

「どんな案件ですか?」

 

「いや、社長がさ、せっかく2B作ったんならポッドも作ろうって。式神の主流が生身系になるなら暇出来るし概要設計始めてるんだけど一枚噛まない?」

 

「それ、言ってよかったんですか? どう考えてもオタク社長が『こんなこともあろうかと!』するために隠していたと思うんですけど。」

 

「え、うそ。まじでか。やっべ、どうしよう?!」

 

 青い顔してわななく姿は本気で怯えていた。見た目と違って小心者で割とよく口を滑らすのでいい薬かもしれないが、さすがにかわいそうになってフォローすることに決めた。

 

「あぁー……、ここに来た時、計画書見ちゃったことにしましょう。」

 

「マジで! 助かる! 社長怒るとマジ怖いから!」

 

「実際、使うことになるの私になりそうですし要望は入れておきたいですから。」

 

「どんどん意見言って! やっぱり原作そのままは出来そうになかったし取捨選択に優先順位付けたかったからね!」

 

「今度の夜の全体集会にも顔を出させてもらうので、ちょうどいい時間ですし今はランチに行きましょう。あまり遅いと修行僧とかち合いますよ?」

 

「今日はカレーの日か! 早くいかないとお代わり無くなる! ⑨ニキ、行きますぞ!」

 

 慌てて飛び出て鴨居にぶつかっている彼を追っていく。

 良くも悪くもこの一か月暇をせずにすみそうだった。

 

 

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