【カオ転三次】DRUG FATE   作:石は転がる

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九年目
47話


 桜が花開き、はらはらと散り、青々しい緑が力強く葉をつけ、時の流れのままに葉を落とす。

 そうして、繰り返されるように再び蕾が綻ぶ頃には私が学校に通うようになってから一年の時が過ぎていた。

 

 平和な日常に突然やって来た季節外れの転校生、やたらと権力のある生徒会、生徒によってファンクラブが出来るほどの美少女――。

 そんな小説のお約束など無く、或いは無くしている学校の日常は何の変哲も面白みもない“普通”の日々であった。

 学校に通う数多の未成年覚醒者も、ここでは所属組織の柵も横において交流できるように配下の霊能組織に釘を刺していたとは言え、ある意味出来すぎなくらいな普遍的な学校生活は自分が何であるかを忘れなそうなほどに穏やかなものだ。

 

 覚醒者・未覚醒者関係なく、子供に子供として育ってほしいと願った転生者の願いが正しく遂行されているのがよくわかる光景であった。

 

 

 それはそれとして、忙しく日常に励む“一学生”である私ではなく“支部長”である私はのんびりとした勤務へとなっていた。

 各組織や会社との面会を学生であることを理由に断ると、残るのは業務の確認や提出された書類に目を通すことであり、こちらの仕事は近頃自作している式神を通じて行えば学業の片手間に出来る程度の物であった。唯一時間を取るのはお墨付きのためにサインをする作業と手紙を書く事ぐらいである。

 時たま直接顔を出さないといけない会談もあるが、それを含めても昔日と比べれば仕事の時間は一割にも及ばないのではないかと思う。元々時間を取られていたのは人に会う事だったので、それがなくなれば余裕が出来るのは当たり前と言えば当たり前なのだが。

 支部も順次増築を繰り返しその機能を向上させ続けているし、何故かガイア連合加入会社の業績もオカルトに大金を回しているのに順調に黒字を拡大させ続けている。黒字に伴い設備投資が増えたせいで設備の物理法則強化に走り回る連合員をしり目に、私が行う敷地への結界敷設は一日もあれば複数個所が終えれる様になったのでそれほど時間を取られることもない。

 

 隠居と言うにはまだ早いが、定時で帰れる感覚の“仕事”に比べ“私的な用事”はかなり忙しいものであった。

 弟子たちの面倒を見ることにできるだけ時間を掛けるようにしていたが、それ以上に今年の春から放映されるアニメの番組宣伝のためにシェリルに首根っこ掴まれて雑誌やラジオ、テレビにと出演するために東京に向かうことに多くの時間を取られることになってしまっていた。

 尤も取材のお目当てはシェリルであって私は添え物であったし、放映される前が一番忙しい時期であっただけで今年に入る頃からは仕事が減り、四月を過ぎるとまた元の仕事のペースである土日に声の吹き込みをし、平日たまにシェリルの事務所で歌う生活に戻ることになった。アニメの声も夏前には収録が終わる予定であったので、その後は細々としたドラマCDの収録程度で一端声優業は終わることになる。

 歌手としては今年は何度かライブがあることがすでに決まっているので、しばらくは継続していくことになるが来年にはフェードアウトしていけるだろう。

 

 

 

 そうした私事であわただしかった合間。

 落ち着いた予定の代わりに、学校ではアニメ放映が始まったのでちょっとした注目を集めていた頃。久しぶりにまとまった時間が取れた私は弟子三人の指導を屋敷の庭で行っていた。

 

 屋敷の庭にはよく手入れされた庭園とは別に、屋敷の奥には建物で隠されたむき出しの山肌が露出している広場がある。

 ろくに整地も行っていないそこは、武具を振り回したりする時などに使われるナインズと共用の広場だった。この屋敷より上の山も屋敷の敷地内であり、下からは建物が影になって見えないようになっている。当然結界も張っていて周囲には何をしているのかバレないようになっていた。

 

「今日は剣は要らないと言われていたけど、素手での訓練なのかい?」

 

 動きやすいトレーニングウエアに身を包んだ三人のうち、今日の講義の内容を教えていなかった二宮さんが不思議そうに首をかしげていた。普段、二宮さんにはここで装備着用の上でブロードソードを振り回させていたので当然の疑問だ。

 

「二宮さんも真面目に瞑想などのマグネタイト操作の訓練を受けてくれていましたし、うちに来てから半年以上経ちましたからそろそろ術の方も教えていこうかと思いまして。今日は魔法の実習です。」

 

「魔法っ!」

 

 必至に平常を装っているが声と口元が弾んでいる二宮さんを弟子二人と一緒にニヨニヨと見る。

 これまでは肉体のトレーニングを基本に知識を入れることを優先してきたが、つまらなくきつい鍛錬にも彼女は真摯に励んできてくれていた。なので危険性の兼ね合いで後回しにしていた術式関係にそろそろ触れさせても大丈夫と判断したのだ。新年度という区切りも意欲を引き出すのに良いと思ったこともある。

 

「さて、先ずはこれまでも講義しましたが簡単に術についておさらいしておきましょうか。」

 

 右手で四本、左手で二本指を立てて説明に入る。たったそれだけで二宮さんの浮ついた様子が消える。

 

「基本的にガイア連合では攻撃魔法の属性を六つに分類しています。火・氷・電撃・衝撃に呪殺・破魔ですね。細かく言うと他にも属性があるのですが、簡易アナライズで表示される耐性は物理に加えこの六つで大別しています。」

 

 ガイア連合員であれば誰でも買える簡易レベル測定機が表示する区分である。おおよその転生者からしてもこの属性区分が一番なじみが深いようで、カジュアルな戦闘者だとこれ以外の属性を知らない事もあるものだ。

 万能属性なんて一般霊能者からすれば存在自体がオカルトのように思われている節もあった。

 

「今日は二宮さんの属性自体への親和性と術式への適合を見てみるつもりです。」

 

「属性の親和性と言うと得意不得意っていうのは分かるけど、術式への適合って言うと?」

 

「基本的に魔法は魔界から直接力を引き出す魔界魔法以外は、何らかの経路を通じて根本から力を引き出す形になります。覚醒時に使えるようになった魔法なんかは直通の魔界魔法ですね。逆に修行したり儀式や道具を使った魔法は経路を迂回した魔法になります。」

 

 勿論修行しただけで魔界から直接力を引き出せる人間も居る事には居る。具体的には私以外の転生者とか。

 しかし、常識的にはそんな才能豊かな人間は少ないのでその話はしないでおく。普通は各々が信仰する神仏を経由して力を引き出すし、その経路を確保するために信仰が大事なのである。

 

「例えばヒルダでしたら北欧の“冥府”の力を借り受ける形で呪殺をしています。ここで重要なのは“冥府”から力を引き出しているのであって“冥府神”からではない事なのですが、今回は関係ないのでまた次回の機会に。」

 

 脱線させそうになった話を本筋に戻す。関連付けた話を無節操に広げてしまうのは私の悪い癖で反省しなくてはいけない。

 

「まあ、そういった訳でヒルダが使う呪殺は北欧様式の術式で補助に入れています。これはナインズの継承していたケルト・北欧・ギリシャ・魔導の術式の中で、一番北欧が相性が良かったからと長老からは聞いています。」

 

「そうね。魔女として魔導との相性も悪くはないのだけれど、危険性が高いから北欧式を習っていたわ。」

 

「ヒルダと違ってノーバディはケルト式だったのですが、私が教えるようになってから他の術式を併用しています。今は神道と半々ぐらいですね。相性はどちらもよかったので私に馴染みのある術式を教えていたら自然とこうなりました。」

 

「障壁とかは朱莉に教えてもらったやつの方がやりやすいんだよー。」

 

「ノーバディがカジャ・ンダの補助系は今でもケルト式なのは慣れのせいでしょうがね。……あまり強くは言いませんがどちらかにだけにした方が装備の効率は良いですよ?」

 

「考えておきまぁーす。」

 

 それって治す気がないってことだよなぁ、と思いつつ無理強いはしない。戦闘において“やりやすい”というのはバカに出来ないからだ。

 

「――話を戻しまして、二宮さんにも自分にあった術式を選んで見て貰おうと思っています。」

 

「何を、すればいいんだい?」

 

「やってもらう事は簡単ですよ。まず属性は各種属性のストーンを用意していますので、それを的に向かって使ってもらうだけです。最初に言っておきますが、よっぽど特異な適正でもない限り石の効果に差はないでしょう。これで見たいのは『どれかの属性に何となく親しみを感じる』とか『使いやすい』って感じのふわっとした体感があるかないかです。」

 

「よっぽど親和性が高くないとそんな感覚は得られないけどねー。」

 

「得意属性がある場合、なんとなくで感じられるものだそうですよ。ヒルダはこれで氷結と呪殺に反応しました。私とノーバディにはよく分からない感覚なんですけどね。」

 

 何をしても体感を得られなかった側のノーバディの言葉に二宮さんの肩の力が抜けるのが見えた。気負ったところでいい結果が出るものでも無いので適当にやるぐらいがちょうどいい。

 

「大まかな指針が分かればうれしいな、ってぐらいなのでそう大事な物でもないです。一通り試したら一番良さそうな属性を選んで、今度は複数回使える道具に各種補助具を付けて使いやすさの比較です。細かく分けるときりがないので神道・陰陽道・ケルト・北欧・ギリシャ・魔導・一神教の補助具を用意しています。」

 

 祭神の違いや伝承の違いによる術式の差異は今回は気にしない。大体の適性さえ分かればいいからだ。

 

「二宮さんの適性検査をしている間、ヒルダとノーバディは的に向かって攻撃魔法を撃っていてください。気になる点があれば指摘しますが、二人の場合習熟のために数撃つだけですね。特にヒルダはそろそろ氷結が戦闘で使えるぐらいに仕上がってきているので頑張ってください。MPがなくなれば私が補給しますので。」

 

「はい。分かったわ。」

 

「ヒルダちゃんだけ応援されてずるーい!」

 

「ノーバディは障壁を優先していましたから仕方がないですよ。それでも悔しいなら頑張ってください。」

 

「よーし、負っけないぞー!」

 

「怪我しないように気を付けてくださいねー。……さて、それではこちらも始めますか。」

 

 慌ただしく的に向かう二人を見送って二宮さんに各種属性ストーンを渡す。

 渡した石は覚醒者がMAGで起動しないと効果を発揮しないタイプのものだ。最低限でもマグネタイト操作が出来ないと起動できないため安全なのだが、現地霊能者の一部が使えないという困ったトリガータイプでもある。まともな覚醒者なら使えるのでナインズではこのタイプが主流であるが。

 それはそうと、道具の使い方自体はすでに教えてあるので二宮さんが疑問なく石を投げていく。

 

 適性を見るために用意した道具は外部の組織では秘宝となりえる一級の消耗品だ。込められた概念の強さは魔界魔法の等級で言えば~~ダインと呼ばれる上級クラスのものだが、いまだにレベルが一桁代の彼女が使えば引き起こされる現象も相応の規模でしかない。

 二宮さんには手ごたえによって適性を見るとは言っているが、実際はどれほど力を引き出せたかを外から私が見るのも含めての適性試験である。

 私が一息で作り上げた属性魔法用の障壁の中で荒れ狂う力を眺めておおよその適性を測る。

 

 最も適性がありそうなのは破魔でそこに火と雷が続く。逆に呪殺は適性が無いように見える。

 呪殺に適性が無いのは正直助かる。私も適性が無いせいで呪殺は本当に一応使えるレベルでしかないからだ。

 と言うか、私の魔法に対する適正は魔力に特化したステータス成長であるのに反し、呪殺を除いてもすべての属性が一応使える程度でしかない。本質的に戦いに対しての適性が無いにしてもちぐはぐで、神主には生まれ持った霊質が歪んでいるのが原因だと言われている。霊質自体には異常がないので、自然回復するまではお手上げ状態だ。

 ただ、この頃変なスキルを覚え始めたりしたので、そろそろ回復してきているのかもしれない。機会があればまた神主に検査してもらいたいものだ。

 

「さて、一通り試してもらいましたが使いやすい感触はありました?」

 

「破魔の石を使った時が一番手ごたえがあったかな……? いや、どうだろう?」

 

 私が問うと二宮さんが石を投げていた手をにぎにぎしながら頭にクエッションを浮かべて思い返す。問いにすぐに返せるぐらいには体感できたという事は、かなり霊質がそちらに向いているのだろう。

 

「なんとなくでも破魔が良さそうならそれでいきましょうか。では、次は術式の違いを比べてみましょうか。」

 

 単純に杖に宝石を嵌めこむだけでなく、力の導線を確認するところは私がやってあげないといけない。

 色々教えているが流石にまだそこまで二宮さんに仕込めていないので、後ろに控えていた式神から受け取ったアタッシュケースから各種補助術式が刻まれた杖と浄化の込められた宝玉を取り出し適切に接続して二宮さんに渡す。

 

 まずはナインズで一番多いケルト系で。楢の原木から削りだされた杖に、杖頭に破魔の力が詰まった白乳色の結晶を包むように嵌めこんで一体化させる。

 訓練用の道具だけあって、杖にはお節介なまでに緻密な補助式が所狭しと彫り込まれている。ニスで平坦化されているとは言え、持ち手以外の部分は持ちづらいのは実戦で使わせないためにわざとそうしている部分がありそうだ。

 

「えいっ!」

 

 二宮さんがマグネタイトを込めて振り下ろすだけで的に向かって破邪の光が飛んでいく。

 やはり二宮さんは破魔系統が得意そうである。最初の各種ストーンと違い、この道具の杖頭の結晶はあくまで本人の引き出す力を補助するためのものに過ぎない。それなのに一発で魔法を成功させる当たりよほど才能があるのだろう。

 

「いいかんじですね。では、次を試してみましょう?」

 

 ちくりと傷む。慣れた心の痛みを微笑みで隠し、次々と試させていく。

 ケルトから北欧・ギリシャと欧州地域の神話系を持たせた後は、神道・仏教といった日本在来の宗教を試させるがどうにも適性が見つからない。生まれも育ちも日本である彼女の適性はこのどちらかと思っていたので見当が外れてしまった。

 

 まあ、宗教による補助はどれも合わないことも間々あるので、そっちが該当したのかもしれない。

 そう思って、せっかくだからと残りも試させてみる。

 サタニストが使う魔導系を使わせてみるがこれは適性外。これはもともと破魔と相性が悪いので想定内だ。

 

「あー、これも一応試してみますか?」

 

 式神から新たに受け取ったアタッシュケースの封印を解いて杖を出す。シンプルな直線状の杖だが、特徴的なのは先端が円を描き内部に十字架があしらわれていることだ。

 所謂司教杖をモチーフにした補助具だ。制作はメシア教なので普段は封印処理して保管している。

 

 この杖には私も色々と思うことがある。

 私が個人的に一神教由来の術式を学ぶために一式で譲り受けた道具の一つなのだが、この杖自体は呉支部のテンプルナイト見習いが使う道具の豪奢版でしかない。

 仮にも一神教組織で一番上の地位である司教になって初めて赦される杖を、悪魔に対抗するためとはいえ下っ端のテンプルナイトクラスでも平気で使うあたりがとってもメシア教らしくて眉を寄せてしまった一品だ。

 

「まだ使ってないから試してみたいけど、何か謂れであるのかい? 随分と厳重に保管しているみたいだけど。」

 

「道具自体は大したものではないですよ。ただ、メシア教系の道具なので一応封印管理しているだけです。――えぇっと、こぉやっての、こうかな?」

 

 使ってみたいとのことなので杖に結晶を取り付ける。この杖は後付け改良したものなので嵌めこみ式ではなく、頭の円に金具で吊るしてやるだけなので霊的な接続が面倒だったりする。

 ちまちまと弄って繋いでみるが、普段使わないで放置しているのでちょっと補助式の反応の仕方が悪い。

 

「ほいっと。」

 

 ちゃんと使えるか試しに的に向かって放ってみる。

 ガイア連合製の道具と違い、補助効率はあんまりよくない。聖別されているとはいえマグネタイトの通りは悪いし、彫金された増幅術式とかも御察しだ。

 

 ――でも、手に馴染む。

 

 ふっと思い浮かぶ考えに苦々しい気持ちが湧いて出てくる。

 私は神道と陰陽道を普段使いの術式にしているが、実のところ一番馴染むのは一神教の術式だった。

 それを忌々しく思い、決して使わないようにしてしまうのは子供のような反抗心なのか。それとも危機感から来る忌避なのか。自分の事であるのに、私は自分の内心をしっかりと理解できていなかった。

 

「――ちゃんと繋がってるみたいですね。これをどうぞ。ガイア連合規格じゃないので少し違和感があるかもしれませんが気にせず使ってみてください。」

 

「ありがとう、分かったよ。」

 

 調整した杖を渡すが、二宮さんは不審に思う様子もなく受け取ってくれた。どうやらうまく表情に出さずに済んだようだ。

 苛立ちを、深く吐いた息に混ぜ込み胸中から吐き出す。視界の先では杖を何度も持ち直していた二宮さんが、振りづらそうにしながらも力を通して浄化を放った。

 

 光。

 

 一瞬、霊感を刺激した幻視に、思わず睨むように彼女の姿を“見る”。

 真剣に、一心に、的を見据えて胎動するマグネタイト。真面目に取り組んでいることがなんとなしに感じられるが、そこに羽根つきの臭いはしない。

 しかし、杖にはその補助式が十全に機能した名残が見て取れてしまった。

 

 ――天使の転生者、ではない? 一神教への適合から言って悪魔変身者の可能性はあるが、それにしても臭わない?

 

 事前に身辺調査をしているのでメシアンでないことは確定している。であれば、霊質自体が人間から外れている可能性を考えるが、その気配はない。

 推論、考察、検証、破棄。

 頭の中でいくつもの憶測を生みながらも、証拠がないので保留と却下で埋め尽くされていく。

 

「――うん! これが一番しっくりくる!」

 

 喜びの声。それに思考の渦から顔を背ける。

 改めて視線を向けた先には、適性を見つけたことに笑顔を浮かべる弟子の姿が見える。

 弟子、――そう、弟子である。冷たくなっていた感情をまだ向ける相手ではない。

 座った目を、意識して力を抜く。固くなりそうな頬を、それ以上に力を入れて笑顔に塗り固める。

 

「――適性が見つかりましたか。おめでとうございます。」

 

「ありがとう! これからは魔法の練習もするのかな?」

 

 初めての魔法。そのことにテンションを上げた彼女の笑顔は明るく、私の内心とは正反対で苦笑してしまう。

 

「そうですね、これからは剣以外にも魔法の練習もしていきましょう。」

 

「魔法、魔法かぁ! ふふふ、ここが日常の境界線を越えた先の風景だと実感がわいてくるよ。」

 

「魔法を教えていく決定ですが、本当に一神教系の術式を習います? 実は恥ずかしい話ですけど他と比べるとそこまで熟達してる訳でないんですよね。」

 

「でも、一通りできるんでしょう? なら、ある程度習ったら自分で頑張ってみるよ。」

 

 よほどしっくり来たのか彼女の中で一神教術式を習うのが決定しているのが見て取れてしまう。

 いや、それ以上に私に対する信頼か。私ならば得意でないとは言っても出来るだろうと思っているのだろう。実際教える程度は出来るし。

 

 しかし、困った。

 一神教系の術式は一通り習得はしているが、決して熟練しているとは言えない。ナインズにも一神教系の術者はいない事はないのだが、本格的に教え込もうと思えばメシア教に依頼するか自分で学び直すしかない。確か運営の金持ちの中にギリシャ語版の稀覯本を所持している者がいたはずだが、写本を作らせてもらえないか聞いてみる必要がありそうだ。

 

 一神教術式を使うとなるとメシア教についても詳しく教えておく必要が出てきた。今までは同級生にも数多くのメシア教徒がいたために触りだけ教えるにとどめていたが、これからは『天使』と『メシアン』という“生き物”についても教えておかなければならない。

 出来ればクラスメイト相手に疑心を持たせないためにも来年ぐらいまで教えたくはなかったのだが、むしろいい機会かもしれない。そろそろメシア教との共同依頼を受けさせる時期が来たという事なのだろう。

 

「とりあえず今日はマグネタイトが尽きるまで破魔を使ってみてください。すぐに使えたところを見るに練習するだけで実戦でも使えるようになると思いますので。一回使うごとにどれぐらい自分の中からマグネタイトが減ったかを感じることを意識してくださいね。」

 

「分かった。もう少し練習してみるよ。」

 

 テンションが上がってマグネタイト生成速度が上がっているとはいえ、おそらく後三発ぐらいで打ち止めだろう。本人が気が付いていないとは言え、訓練用の弱出力でも十発近く撃てばマグネタイトの消耗がきつくなってきているはずだ。

 その事を伝えないのも訓練の一環なので、安心してマグネタイト欠乏状態を体感して欲しいものだ。

 

 楽しそうに再び的に向き合う弟子の姿を見ながら、私はこれからの育成に必要なものを考えて肩が重くなる。

 なるべくメシア教以外の一神教系の術式をあたりたいが、私の持っている伝手的にメシア教以外からの入手は困難だ。そうなるとメシア教の教義による改変がなされた術式を、過去の遺物から読み取れる原典に即したモノに可能な限り改編する必要がある。出来れば別宗派の解釈の講釈も受けておきたい。

 

「取り合えず、世界で一番売れた本の読み直しからしますか。」

 

 独り言ちて溜息を吐く。

 春の陽気にも隠せない憂鬱は、元気な弟子たちと反対で何故か可笑しくなる。

 

 本当、人を育てるというのは大変なことだ。

 

 




今更ながらこの作品での魔法の説明です。
この作品では万能属性に核熱系属性も含めているのですが、核熱系はちょっと特別の扱いをしています。
メギド系は盛りに盛った威力の方が『核ミサイル』との辻褄合わせに説得力があるかと思うので。

ちなみに主人公が使う『念動』は魔界からの力ではなく、術者の精神力がパワーソースと設定しています。そのため、攻撃時は自分の精神を剥き出しにするようなもので、悪魔相手に使うと危険性があります。
主人公が態々各属性の魔法を使うのもその危険を冒さないためです。

疑問に思われそうなので先に公表しておきますが、主人公は別に【天使の転生体】ではないです。
一神教の術式が一番相性の良い素質をしているだけで。
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