【カオ転三次】DRUG FATE   作:石は転がる

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今回の話の時期は自衛隊にデモニカを提供した後になります。


49話

 ガイア連合の山梨支部では、現在一定期間ごとに定例の会議が行われている。

 

 昔は一月ごとに適当に日取りを決めて運営会議をおこなっていたのだが、支部が増え人が散らばった今では四半期ごとに全体会議として会議が執り行われている。

 まあ、全体会議と言っても参加資格は運営と支部長に何かしらを担当している幹部だけで、資格者も自由参加なので皆が面倒くさがって出席率は低いものとなっている。そのため、結局は運営に加えて近場の支部長が気まぐれで参加するぐらいのこじんまりとした会議である。

 そんな会議に、私は久しぶりに議題を抱えて参加していた。

 

 

 山梨第一支部たる星霊神社の空気は何時もと変わらず清浄で、外界の蒸し暑さを知らないかのように軽やかな風が通り、相も変わらず居心地のいい空間だった。

 そんな神社の一室。広間に適当に机を並べただけの部屋に集まった財界の有力者や産業界の雄は、思い思いの格好で書類に目を通していた。

 

「今期の決算は予定通りに黒字でしたが、部門別でみると地価の上昇による土地取得の高騰が問題になっております。幸い、地方組織の影響下においては依然として安定した価格を維持しておりますので新規開拓の見直しは無いですが、これからの値動きに注視していく必要があるでしょう。」

 

「都内の支部拡張は今のところ必須だ。首都を拠点に活動している“俺たち”の数自体は少ないが、ガイアグループ企業の多くは本社を東京に置いている。いざという時の避難設備は用意しておきたい。」

 

「正式に国に認められたおかげで根願寺への配慮で自粛する必要が減ったからな。」

 

「それでも東京は根願寺のテリトリーだ。あんまり大規模な支部は置けないだろうがな。」

 

 真面目な表情で顔を突き合わせて方針を決めている運営陣だが、話しているのはTシャツ短パンの爺に甚平を着て寝ぐせのまま出席している壮年の男性と、とても真面目な会議に見えない。表の仕事で会う時はきっちりスーツを着こなすナイスミドルなのに、身内の場ではズボラなところは平均的なガイア連合員と言えてしまうのが悲しくなる。

 

 そんな私の感想は兎も角、その後も相次ぐ霊能組織単位での亡命希望者の割り振りや新しく出来た大使館との繋がりからの情報と重要な話し合いが続き、その後になってようやく私が提出した議題が上がることになった。

 

「この議題は提出者の⑨ニキから報告していただきましょう。」

 

「呉支部、支部長の藤原です。今回の議題は自衛隊への情報提供について、です。」

 

 立ち上がり、踏み台を登り議題の説明をする。踏み台は会議出席者の細やかな気遣いと言えるかもしれないが、凡そ悪乗りの産物と分かるのでどうにも困るものだ。

 自分の出した議題に沈む気分が増々沈んだ。

 今回私が議題に挙げたのは、春先に運営が決めた自衛隊への支援に関係した話だった。

 

「自衛隊からの試料・資料の問い合わせが私の麾下企業に多く寄せられております。元々表の世界基準のパワードスーツの開発については情報の提供を行っていたのですが、同じルートからデモニカに使用可能な資材の資料等の請求がありました。今回、議題に上げさせていただいたのは一体どこまで情報を提供するのか、そのガイドラインを制定していただきたいのです。」

 

 詳しくは資料を確認してくれと促す。

 呉支部にはパワードスーツタイプの式神の愛好家が数多くいるため、そちらの関連技術は進んでいる。実際、デモニカに使われている繊維も省エネ系の失敗作の一つであるし、他の構成にもチラチラと見覚えのある素材が使われている。

 そのため、出そうと思えばいくらでもデータはあるのだが、ガイア連合が自衛隊への提供物に制限を設けている現在、下手な情報は漏らせないので基準が欲しかったのだ。

 

 取りあえずの例として資料に挙げただけでも、素材自体が『純化学製』と『フォルマ添加物』の区分け以外にも、MAGに対する反応のデータや素材成型の形による振る舞いの変化、式神搭載時のLVUP時の挙動など膨大な情報がある。

 これが金属・人造繊維だけでなく半導体や樹脂などのデータもあるので、提供範囲を決めて貰わないと面倒なのだ

 

 こちらとして一番良いのは全情報は山梨にも送っているので、山梨支部で仕分けして情報提供してくれることなのだが、情報化できてないノウハウなんかもあるのでそれは難しいだろう。山梨支部としても仕事を増やされても困るだろうし。

 

「普通に表に出している奴だけじゃダメなのか?」

 

「いや、五島もガイアグループ資本から辿っての請求だろう。下手に隠し立てしない方がいいのではないか?」

 

「オカルト側の資料の提出は仕方が無いとは思うが、確かにどこまで出すかは問題だ。五島側での改良如何によっては実用的なオカルト兵装になることもあるのでは?」

 

「んー、メインパーツの式神の仕様上、そんなに強くは成れないよ? メインパーツの出力もLVが上がってもそこそこでしかないし。」

 

「……神主、後でいいので呉支部にもデモニカの詳細を教えてください。暇してる技術者に解析させますので。」

 

 そういう事は早く聞きたかった。そう思うがぐっと我慢して設計の共有を願う。山梨の式神造形部と呉の技術者は方向性の違いで掛け持ちが居ない。そのためデモニカの詳細が呉には届いていないのだ。

 

「――自衛隊への情報提供についてはこちらも質問したい。」

 

 重々しいバリトンボイス。私にも関わりが深い雷電ニキは、カジュアルな面子の中で珍しくスーツを着こなし堂々と手を上げていた。

 

「有澤電機にも電装についての質問があった。初めは表で現在技術開発中の全個体電池について話せばいいかと思っていたが、フォルマ利用を知られているなら呉で研究中の電装も求められていると考えるべきか?」

 

「そいや、うちの素子にもなんや聞かれとったな。」

 

「え、こっちには何も問い合わせないんだけど?」

 

 ガヤガヤと会社関係者が騒がしくなる。

 会社の通常業務で対応したことが実は今回の件に関係していることに気が付いた不安、だろうか。

 良くも悪くもお上に注目される事への感情か、あるいは“ゴトウ”という地雷案件に関わることに対してのものか。内実はどちらかだと推測するが、答え合わせは出来そうにない。

 

「はいは、静粛にー、静粛に。」

 

 手を叩いて注目を集める神主に従い議場が静まる。

 

「僕としては禁止している材料を使ってないなら好きにすれば良いと思ってるけど、⑨ニキには腹案があるんだよね?」

 

 こちらを信用しての言葉だとは思うが、前半の言葉に神主の本音が見えて眉を顰める。

 今回の騒動の立ち回りについて、どうも神主はゴトウへの協力を悪いものでないと思っている節が見える。概要として伝えられたデモニカや装甲車の性能は、オカルト装備としては頼りないものだが現代兵器と比べれば革新的なものだ。

 0から1という進化はとても大きなものだが、神主はそのことを軽く見ている気がする。

 

 もちろん、今回ガイア連合が自衛隊と纏めた協定は悪いものではない。

 呉支部にとっても実包の正規ルートでの仕入れや製造、銃器開発許可の取得による自粛していた実銃開発の開始など利益がある。銃器の対人性能の高さは、万が一のことを考えれば所持しておくに限る。

 それに銃器使用者が増えれば、黒札にも撃たれることに対する慣れが出来る可能性もある。

 銃というのは異能者にとっても怖いものだが、逆に言えば異能者にとっては恐いだけに過ぎないともいえる。そのことを実感してもらう機会が増えるのは転生者にとっても良いことだと思うのだ。

 

「自衛隊への資料は我々が大量生産できるもので、かつ異界産の資源を原料としているものまでに限って許可すればいいと思います。悪魔のフォルマを使用したものは大量生産に差支えがありますし、性能の均一化が難しいので自衛隊向きではないでしょうし。解放するデータは売り込みに必要な程度で十分でしょうが、そのあたりは各社の判断を尊重すればいいかと。」

 

 取りあえず内心を置いておいて、事前に考えていた基準を説明する。

 異界資源と言えば、すでに一般市場に卸しているものもあるので実質現在の販売基準の準用だ。

 協力関係になったのに出し惜しみしているともとれるが、言葉の通り大量生産と均一化のされていない装備なんて軍事組織では邪魔であろう。

 デモニカの必要量をどう考えているかにもよるが、霊地活性化を知っているなら陸上自衛隊全員に配備することを考えている可能性もある。そう考えれば、やはり生産性は必須だろう。

 

「妥当じゃね?」

 

「あんまりゴトウに力持たせても怖いしな。」

 

「防衛産業はもうからんからなぁ。」

 

 会議場の空気はぼちぼち賛成といったところか。

 突飛な事を言っているわけでもないし反対はいないと思っていたが、それでも無事に決まりそうでほっとする。

 

「うんうん、こちらとしてはそれでいいんだね。じゃ、自衛隊側の意見も聞いてみようか。」

 

 賛成で決まりそうな流れが神主に断ち切られる。

 神主に促されて立ったのは三十前後のどこにでも居そうな男だ。鍛えられて体躯にツーブロックの髪は頭頂の髪も短く刈られている。ラフな格好は他の“俺たち”と同じだが、雰囲気が事務方のものではない。

 警戒などではなく、気配を感じれば自然としてしまう霊能者としての実力探知では強く見積もってもLV20以下と判断していた。アナライズを持っている2Bをこの部屋に連れてきていれば多少は正確に分かったのだろうが、この部屋は“俺たち”だけの会議室なので仕方がない。

 

「あ、はい。五島部隊としましては手探りの状態なので、なるべく多くのデータを必要としています。出来ればフォルマ加工品も試料としていただけると助かります。」

 

「自衛隊ニキもこう言ってるし、自衛隊も属性弾とか開発してくれるって言うし、やっぱりフォルマ関係も少しは――」

「――――。」「――? ――。」「――――――?」

 

 ―――――――――。

 

 言葉が、うまく理解できなくなる。

 見知らぬ姿。女体は悪魔変身で。罰。漏洩。危険な。ガイア連合。“俺たち”は。

 次々とハレーションする言語野に意味はない。

 自衛隊ニキ、自衛隊ニキ、……じゃあ、こいつが――

 

 ――感情が、純粋な怒りに染まる。

 あ、やばい。そう思った時には楔が弾け飛んだ幻聴が耳についた。

 

 “不動心”が破裂する。

 

 自己生成マグネタイト量すら犠牲に制御していた感情が怒りに染まる。

 怒りは、感情だ。そして感情はマグネタイトを生む。

 当然の理屈により怒りの感情が己のマグネタイトを染め上げ、染まったマグネタイトが感情を怒りに傾ける。そして怒りによって無尽蔵に沸き上がるマグネタイトが怒りをさらに増幅し――。

 

「はい、そこまで。」

 

 ペチッと音を立てたショボい張り手を額に受け、我を取り戻す。

 冷たい指の感触。そこに込められた力が私を平静にし、それに気が付いた私は改めて“不動心”となるべく感情を平らかにする。

 

 怒りにピントが外れていた目を周囲に向けると、室内の備品に被害はない。怒りに飲まれてもマグネタイト制御を完璧にこなしていた――という訳ではなく、おそらく神主が守ってくれていたのだろう。その証拠に会議に参加していた転生者の約半数が白目をむいて倒れ伏している。

 

「未熟を晒しました。」

 

「うん、いいよ。」

 

 謝罪の言葉はとっさには出てこなかった。悪いことをしたと思っていないわけではなく、気絶した参加者が白目でダブルピースしているのを見てしまったからだと思いたいのは臆病さゆえの自己欺瞞か。

 神主の呼び寄せた式神やイヌガミが慌てて手当てをしていく中、居心地悪く席に座る。

 

 手持ち無沙汰に座っていると、怒りに巻き込んでしまったことへの申し訳なさと感知圏に入る自衛隊ニキへの高鳴りに、どうにも心が定まらない。

 いつもなら精神統一するまでもなく自然と成るのに、今は波打つようにうまく出来ない。初心者のように眼を瞑ってみるし、最初の頃の様に坐禅を組んでもみるがやはりうまくいかない。

 

「――少し風にあたってきたまえ。」

 

 死屍累々の会議室の中で悠然と腕組みをし、やらかした私をそう促したのは雷電ニキだった。

 流石は金持ち“俺たち”の中では数少ない覚醒者と言うべきか。時間が取れないと文句を言うだけの“俺たち”とは違いレベル上げにも積極的で、彼の公言してきた質実剛健を己が身で体現する貫禄だ。

 

 そうつまらなく場違いな思いが浮かび上がってくるあたり、本当に心が落ち着いていない。ちらりと周りを確認してみても気絶した“俺たち”を叩き起こすのに手間取っているようであるし、少しこの場を離れても良いかもしれない。

 

「……お言葉に甘えせてもらいます。」

 

 ここに居てもやれることはない。必要とされない場所にいるよりも、自分を取り戻す方が建設的だ。

 そう思い、席を立ち会議室を離れる。

 

 

 

 星霊神社は夏の日差しの緑が映える。古い建物だろうに丁寧に手入れをされた装いは、冬の重厚感よりも初夏の溌溂さがよく似合っていた。

 駆け回り、文字通り飛び回る式神たちの活気に、修行僧のざわめき。始めて来た頃の騒々しさは無くなったが、活気の熱量は今でも変わらず神社を包み込んでいる。

 それにつられて感情がふわつく。

 

 廊下を宛てもなく歩き、気の向いたままに踏み石においてあった草履を拝借して庭に降りる。

 草鞋のチクチクと指を刺しながらも柔らかい感触。脱いだ靴下をポッケに詰めて、代わりに履いたのは赤い靴か。楽しくなって踊るように足が進む。

 

 縁石に従ってホップ、ステップ、ジャンプ!と飛び跳ねれば道沿いのアジサイやシャクヤクに迎え入れられた。繁茂した枝の見事な紫の集まりに、色を添える一重の白は、ほんのりと赤みがかり見事な立ち姿!

 

 いったい誰が世話をしているのだろうか。

 ぱっと見は野の力強さに見えるが、気が付かれないように整えられた手入れの跡は、手入れした人間の几帳面さと繊細さを思い起こされる。式神やイヌガミではこうも人間的な有様を見せることもないだろうし、もしかしたら神主が手づから世話をしているのかもしれない。

 ――だったら私もペンキを塗るべきか?

 

「そこのところ、どうなんですか?」

 

「……いきなり問われても、何を聞きたいのか分からないよ?」

 

 クスクスクスと笑って問いかければ、独りきりのはずの庭に魔法のように人影が現れた。

 素敵なドレスにガラスの靴を私に履かせてくれた魔法使い! きっと鐘の音と共にそれはなくなり、残される私はまた灰被り。ご都合主義の王子さまは居ないけど、素敵な素敵な魔法の時間はまだ残ってる!

 

「だから、どうか、どうか、魔法よ褪めないで。そう願う事は間違いなのか。」

 

「……大丈夫、⑨ニキ? おかしくなってる自覚あるかい?」

 

 御菓子な可笑しな帽子屋になってる自覚はある。

 もう何年になるのか。心を不動となしていたのに、感情のままに吹き飛ばしたせいでネジが外れている。

 

 ――だから、おかしくて当然なのだ。

 

「鏡よ鏡よ鏡さん、あなたが答えるなら、私も応えましょう! 私たちは三匹の子豚♪ 藁のお家の子豚ちゃん、自分から尻を叩いたオオカミに、藁の家を吹き飛ばされ☆ ブウブウ泣いてレンガのお家に逃げ込んだ! オオカミ呼んだ子豚ちゃん、のーてんきにレンガのお家で居眠りさ。」

 

「……。」

 

 楽しい気持ちのままに、小さな石のステージの上でクルクル回って、はい、ジャンプ!

 おっと、今日はスカート! 翻った丈を抑えて次の舞台に座り込む。

 

「さて、困ったのはレンガの家の子豚ちゃん。オオカミさんが戸を叩く! どうするどうする子豚ちゃん♪ グルグル回って知恵絞る! レンガのお家の子豚ちゃん、あなたはちゃんと、狼を食べられる? 木の家の子豚は問いかけよう。」

 

 口ずさむ音につられて、私の周りはお花畑。にょきにょき生えたお花に、雑草なんてありはしない!

 喜ぶ私に何処から湧いた野薔薇の茨、スルスル縛られ、私は眠るお人形? 錘に刺された覚えはないよ?

 

「――君が、今回の事に怒るのは目に見えていた。君は本当にガイア連合を大事にしているから。」

 

 そんな私を眺めて宥める神主さんのお言葉に、私は静々目を向ける。

 

「でも、だから分からない。自衛隊ニキがゴトウに情報を漏らしたことに怒っている。それだけじゃないのかい?」

 

 いつものふざけた感じとは違う。

 何処か戸惑ったような、慣れない事をしている不確かさ。言葉を探して幾千里、頭の中で駆け回る?

 

「僕たち俺たち私たち! 一つ目の国への移住者さ、二つ目僕たち仲間はずれ、寄って集まり助け合う。そんな僕たち、一つ目に、友達出来る子供たち。助け合うのは一つ目で、二つ目仲間はもういらない? 欲しいものを持ち出して、なんで二つ目仲間は助けない?」

 

 二つ目(まなこ)、ぽろぽろ零れる雨粒が、真っ赤な薔薇のペンキ落として、白い白い花が咲く。

 流れたペンキの反抗さ、地に落ち嘆き悲しめば、真っ赤な風の花が咲く。

 

「自衛隊との協力はガイア連合にも得があると思うよ? それは説明したよね。」

 

「ははは、あははは、おかしいの♪ 僕たち俺たち私たち、答えて応えて鏡さん。映る影は私で君で、クルクルクルクル手を取り合う。片手離して鏡の外へ、それでも僕らは手を取り合う! 両手離してクルクルと、そこに僕らはどこにいる? 答えて答えて鏡さん、彼は鏡に応えない。使い終わればお片付け!」

 

 茨の鎖もなんのその、地団駄踏んで荒れ狂う。刺さり滴る赤色の、花も綻ぶ満開さ!

 

「――ああ、そうか。君は自衛隊ニキが僕たち転生者と助け合わないで、彼の仲間だけを助けようとしていると思ったのか。それも、ガイア連合を利用するだけ利用して、最後には捨ててしまうと。」

 

 血に濡れ励起する強化術式の発光。赤く赤く脈動する素肌に描かれたタトゥーは使い捨ての補助術式。

 つよつよドラゴンの紋様だ!

 

「本当に、本当に君はガイア連合が大切なんだね。」

 

 喜怒哀楽に振り切らせ、感情の手綱を握ろうとしたけど、ああ、もう無理だ。

 対話をし、なまじお互いの考えを理解したからこそ、この怒りが止まらない。

 

 自衛隊との会談から超速で行われた自衛隊ニキへの罰。なるほど、きっと私のような怒りを覚えたものの激発を防ぐためのものだろう。

 ゴトウと言う危険人物に情報を漏らし、ガイア連合に面倒を持ち込んだ――その程度の“罪”なら、あの程度で十分“罰”は与えられたと言える。

 

 しかし、本当に?

 

 自衛隊ニキの“罪”は何だ。

 それは、“互助”組織であるはずのガイア連合に属しながら“お互いに助ける”つもりがなくなっていることではないのか? 彼にとって、仲間とは『自衛隊の同僚』であり、ガイア連合は『ただの道具』にすぎないのではないか――

 

「罰はホントに与えられ、罪は本当に雪がれた?」

 

「さぁ、どうだろう?」

 

 惚けた様な韜晦した様な言葉は、質問の意図を理解したものだ。

 いつもと同じ自然体で、その心持だけ変わった神主の返答はこの後のことをすでに予期していた。

 

「――――ぁ!!!!」

 

 感情が、飽和する。

 激情ですらない。所詮感情の生き物に過ぎない人間が身の丈に合わない感情を持つと、思考すらなくなると初めて知った。

 抑えず吐き出したマグネタイトが世界を歪める。

 

「ここは場が悪い。場所を移そう。」

 

 言葉と共に、当然のように地脈に引きずり込まれた。

 それだけでも驚愕だ。地脈からの干渉を断つ術式はおかしくなっている今でも常駐している。しかも、トラポート使いの転生者に言わせれば私はでぶっちょで消費が激しく移動が難しいとも聞いている。

 まあ、だが、相手は神主だ。その程度はやれるだろう。

 

 久しぶりに自分を腑分けするような感情制御を手放した私に、やっと思考が戻ってきた。一体どこだろうか、そう考えるまでもなく支配者としておおよそのことが分かる。

 ここは地脈渡りの終点でなく、その途中で無理やり拓けた異界だ。マグネタイトの開放に、現実では耐えきれなくなって魔界側に少し落ちたようだ。放っておけばちょうどいい足掛かりだと悪魔も沸いてきそうであるが、今はまだ私を司る要素の世界である。

 

「――驚いた。ただの“自然体”で異界を作り出すか。それにすごいね、地面一面の茨だ。もしかしてまだ体質改善はしているのかい?」

 

「ははは、偽物真似っ子人魚姫! 泡に生まれず、泡と共に死んでいく。流れ流され泡が落ちるは下水溝。詰った繋がりそれ見た事か! あははははは!!」

 

 軽快に笑う。本当におかしい。有りもしない才能を求めてアルカニストを目指した末は、集合的無意識とのつながりの目詰まりだ。

 

「あまり努力を卑下するものじゃないよ。――さて、ここなら多少は派手にやっても良さそうだ。」

 

 ふわふわ茨の上に浮かんだ私たちは向き合う。

 神主は生身で相手をしてくれるらしい。式神も悪魔も姿を見せず泰然としてる。

 こちらはどうだと考える。装備はしていなかったので、使えるのはタトゥーシールの強化術式ぐらいか。アロンダイトの二割が良い所の出力じゃ有っても無くても手札にならない。万全の状態でも負けは決まっているのに、今の装備では戦えるかも怪しい。

 

 ――ああ、それなのに力を吐き出せることに喜び怒る己の恥知らずよ。

 

「喧嘩だケンカ! 張って張られて大乱闘! 僕は怒った怒りんぼ! 気にくわなけりゃ、地団駄踏んで駄々こねる!」

 

 ああ、また自己欺瞞。喧嘩、なんて大層な物じゃない。これはただの八つ当たりだ。

 理解できないからって癇癪起こして暴れているだけだ。

 

 そうだ、本当に分からない。

 戦力が欲しいなら地方にデモニカを使わせるだけでも十分だ。今だと数合わせにもならない無能力者は掃いて捨てるほどいるのだから。

 改良したいなら内部でいくらでもやれる。自衛隊の改良だって、ほとんどが企業との協力してのものなのだから。

 いまさら何で、ガイア連合に従わない戦力を作ろうとするのだ。自衛隊は国家権力の支配下なのに。

 分からない、分からない、分からない、分からない、分からない。

 国に力を見せて、“俺たち”がどうなるのか分からない?

 いったい自衛隊との協力は誰の為――?

 

 神主が私たち“転生者”に甘いことはよく分かってるのだ。だから、今回の自衛隊との協力も私には分かっていない意図もあるのだろう。

 それを信じられなくて逆上する自分が、泣きたくなるほど腹立たしい。

 

「…ぇ……ぁ、ああ、そうか。これは“喧嘩”か。フフフ、それなら思いっきりやらないとね!」

 

 それなのに。

 神主は何かに気づいて楽しそうに笑った。

 薄っぺらい何時もの笑顔じゃなくて、もっと輝くような獰猛な笑み。

 

 楽しそうで、嬉しそうで、面白そうで。

 また一つ、分からない事が増えたけれど、考え事はやることやってから考えればいいか。

 思考放棄。衝動の正当化。ならば、まずやることは決まっている。

 

「はは、あははははは! 吹っ飛べショタオジ空の果て!」

 

 有りっ丈の念動をぶつけて距離を取る。逆に精神に浸食される感触はない。手加減はしてくれるようだ。

 手応えがあやふやで対応されたことは分かるが、そんなの知るか。

 

「楽園の剣、エジプトの雹、レバノンの杉、湖の嵐! 打ち砕け、ジェリコの壁のごとく!」

 

 火氷雷風。十字教の補助術式を走る四属性の魔法は、虚空から湧くように神主を包み込む!

 

「へえ、前より力引き出せてるじゃん。しかも、貫通術式付与してるし。」

 

 掌握していた神主の周囲のマグネタイトがばらされる。

 悠然と現れた神主は無傷。ほこりを払うようにMAGの残滓を払った。

 やはり外界の支配下マグネタイト程度では精度も頻度も甘いか。それでも、今の耐性を確認できた!

 

「雷霆・風塵、雷太鼓だ、サンダークラップ! 柏手、喝采、打ち鳴らせ!」

 

 口語の連想に術式を乗せる。

 発射台の多重展開、増強術式過剰付与、摩滅術式塵芥研磨。

 破綻も気にせずぶち込むアンサンブル。壊れた術式打ち捨てて、終わりはないぞ、さあどうする?

 

「――やれやれ、この程度でどうにかなると思っているのかい。」

 

 知ってた。

 対属性結界すら張らず、私の駄々を受け止めたのは炬火だ。神主が掲げる様に持ち上げた灯火が私の魔法を焼いていく。

 土壇場でどうにか引き摺り出した初級魔法クラスの概念的に、追加燃料と貫通を追加して雨あられと撃ち放ったのにまさかすべて焼き払われるとは。ダメージはなくとも対処の一手間ぐらいは欲しかったのだが期待以下の成果だ。

 

「もう手が無いのなら終わらせるよ?」

 

 にっこり笑う勝利宣言と共に火が迸る。

 火だ。火だ。火だ。火だ。火だ。火だ。火だ。火だ。火だ。火だ。

 火だ。火だ。火だ。火だ。火だ。火だ。火だ。火だ。火だ。

 火だ。火だ。火だ。火だ。火だ。火だ。火だ。火だ。

 大量の“火”が所狭しと押し寄せてくる。

 

「対火術式多重展開! 氷雨、雷霆、風塵! 削げ落とせ!」

 

 防壁が燃やされる。氷も、雷も、風も、飲み込まれて消えていく。

 ジワリ、ジワリと生存圏が燃え尽きていく。

 蟷螂之斧にもならぬ悪あがき。

 

 それでも、下らぬ意地で食い下がることを選んだ。

 

「――破棄! 強化術式緊急稼働! 推進機構顕現展開――」

 

 燃えることを覚悟して術式戦の放棄。思考リソースを強化術式と飛翔機構の構築に回す。

 火が、迫る。

 咄嗟に保有マグネタイトを全開放出。防壁すら構築できない。が、纏う程度は出来る。

 

「――――っっっっっぁぁっぁぁぁぁああっあああああああああああ!!!!」

 

 焼ける。灼ける。やけ、て。

 熱さよりも、むしろ凍えそうな寒気に怖気が走る。

 死の近さに怯えすくむ。散々異界を散策してきたが、未だに死んだことの無いチェリーボーイに死が楽し気に肩を組んで色町にでも行くように冥府に誘ってくる。

 

 ……自分の想像に、ちょっと呆れた。

 

 呆れてみると、案外痛みは大したことがない。たかが表層の炭化程度だし、霊質への熱傷はこんがり油で揚げられているくらいだ。

 この程度なら、どうにかなる。

 手を伸ばせ。指なんてなくても拳は握れる。

 足を踏み出せ。どうせ飛んでいるのだから脚など無くても前に進める。

 魂を輝かせろ。魂が傷つくことなんて毎晩経験していることだ。慣れているだろう?

 

「―――――点火――」

 

 推力の翼を羽ばたかせる。

 燃え尽きる寸前を、刹那の間で抜け出す。

 

「え、嘘?」

 

 前進・直進・ど真ん中。

 駆け引きできるほどの余裕はなかったので真っすぐ突っ込んでいくと、神主の余裕のない声を初めて聴けた。

 

「…………………――――ぉぉぉぉぉぉおおおおおおぉおおお!」

 

 焼け爛れた咽喉が途中で再生し、どうにか音が出る。

 雄叫びを上げろ! 活を入れた体躯にマグネタイトを注ぎ込んで形だけでも取り繕う。

 手足、OK! 握る拳も蹴り上げる脚もある。

 呼吸器、OK! 雄叫びと共に血煙は吐き出したので呼吸できる。

 感覚器、NG! どうせ肉体では追い切れないので霊感で代用。

 

 ――ヨシ、オールオッケー!

 

 神主にたどり着くまでの短い道行きで体調を確認。十全に戦闘可能! 後のことは考えずに強化術式を走らせる。

 

「え、ちょ、ま?!」

 

「――ちぃっ!」

 

 取り合えず殴る。

 が、流石に素直に受けてはくれない。軽い動きで避けられた。

 

「――死ねぇぇぇぇえええい!」

 

「え、なんで、こんな殺意高いの?!」

 

 振り抜いた勢いままの後ろ回し蹴りは防がれた。

 ――よっしゃ!

 内心の歓喜。ぶち当てた足で服を掴み、そのまま足場にして逆足で蹴りつける。

 防御。なら逆立ちのままに脛に推力込みで拳をぶち込む。

 当たった! が、堅い。拳が砕けた。並みの強度をしていない。

 

「うわ、痛そっ。」

 

 雑に腕を振り払われ吹き飛ばされそうになるが、逆さのまま張り付くように背後に回る。

 

「気持ち悪い動きだねっ!」

 

「空中で三次元機動は当然では?」

 

 わざわざ地上を下にする意味が分からない。高度に注意は必要だが空には壁はないのだから。

 そんな軽口を言いながら、アロンダイトが無いので仕方なしに脚に直接種火を装填する。

 ――増幅術式飽和、圧縮術式稼働、放出口設定。

 

「また無茶するなぁ。脚吹っ飛んじゃうよ。」

 

「これぐらいしないと一発も殴れないで終わりそうですしね。それに、この程度なら明日には全快しますよ。」

 

 装填した魔剣を構築しながらも神主と殴り合う。目が良い。肉体内なのにもう何をしているか見破られた。

 それでも、手を止めない。殴り合うとは言うが神主には全部防がれるか避けられて、こちらが一方的に殴る蹴るの暴行を受けているのだが。

 

 ――よし、装填完了。

 時間稼ぎの肉弾戦から隙を窺う心理戦に。その動きを悟ったのか神主も動きに余裕を持たせて脚に警戒を向けている。

 

「あんまりやると会議が中止しそうだし次で終わりにしない?」

 

「んー、まあ、仕方がないですね。強制終了されないだけマシですか。やろうと思えば何時間でもやれてしまうので。」

 

 示し合わせた様に空を蹴ってお互い距離を取って正対した。

 久しぶりの感情の開放にあっぱらぱーになっていた思考も正常になっているし、何時でも辞めても良いと言えばいいのだがやはり喧嘩は白黒つけた方がすっきりする。

 と言うか、冷静になると解放時のあまりの乙女チックさに暴れたくなるので今のうちに暴れ溜めをしておきたい。

 

「それではいきますか。」

 

「どんとこい!」

 

 軽い言葉で踏み出す――フリをしてフェイント。一拍の拍子をずらしてみるがきっちり捕捉されている。

 

 ここまで来たら後は出たとこ勝負か。

 駆けるふりしての飛翔での軸ぶらしもやっぱり効いてない。

 小細工なしに行くしかない。そう覚悟を決めれば一直線に蹴りを放つだけだ。

 

「えぇぇい、儘よ。――魔剣抜刀! 迅雷に焼かれろ!」

 

「そこはライダーキックじゃない?」

 

 一本の矢のような蹴りが神主の炎の壁とせめぎ合う。

 迸る雷火を灼熱の渦が食い漁る。

 無茶した脚が弾け飛び、膝のあたりから一本の剣が伸びているようになった。

 

 それでも炎が破れない。

 

「有りっ丈をもっていけぇぇえええ!」

 

「そこまでにしないと本当に危なく――」

 

 弾けた肉体と溢れているマグネタイトを燃料にぶち込み火力を増す。すると神主もさすがにストップをかけようとし――隙が出来た。

 

「――招来。」

 

「……へ?」

 

 叫ぶ余裕すらない。

 本当に僅かな隙に無駄を挟む余地はない。

 感情に歪めた表情すら消し飛ばし発動するのは召喚の術だ。

 

「――――ふっ!」

 

 虚空を踏みしめ神主の背後に2Bが現れた。

 戦闘が始まってから必死に契約のラインを手繰り寄せて手札に加えたエースだ。

 

 間抜けずらの神主の顔の後ろに2Bの拳。すでに振りかぶるどころか拳を振り下ろしている。しかも召喚前に強化術式を限界まで重ね掛けしてあるし、当然のように拳には貫通の概念が走っている。

 

「――ふべっ?!」

 

 思わず振り返ろうとした神主の頬に2Bの拳がジャストミート!

 コマ落としの霊感に頬が撓みそれから波打つ姿が芸術的なまでのベストアングルで知覚させる。

 たかがパンチ一つに、神主の体がギャグマンガのように吹っ飛んでいく!

 

 静寂。

 鍔迫り合いをしていた炎の壁は消えたので、私の足の魔剣も解除。すっ飛んでいった先を見つめるが、大地に叩きつけられた後に動きが無い。

 神主に一撃叩き込んだ。そのことを頭が理解し始める。

 じわじわと、じわじわと――

 

「ぅ、ぅぉ。ぉぉうぅぉおおおぉぉおぉぉぉぉっっしゃぁーーー!!!!」

 

 コロンビア! やった、やった、やってやったぞ!

 気がつけば両手を振り上げ歓声を上げていた自分がいた。

 やり遂げてくれた2Bに感謝を告げようと思うのに、雄叫びと笑い声で意味のある言葉を発せない。

 フフハハハと意味のない笑いを上げながらバシバシ背中を叩く私に、2Bは迷惑そうな顔をしながらも諦めた表情で叩かせるに任せていた。

 

「――いったいなぁ。久しぶりに傷を負ったよ。」

 

 笑い過ぎて苦しくなって2Bに抱き着いている私に声がかけられた。

 神主だ。

 声の方を見れば片頬を赤く腫らした姿が見え、達成感にまた笑いだしそうになる。

 

「やってくれたなぁ。一対一での喧嘩じゃなかったのかい。」

 

「いやぁ、そんな話は知らないですねぇ。それに式神は道具ですよ? 装備を整えるのは基本じゃないですか。」

 

 いけしゃあしゃあと言ってのける。

 戦闘中にやっと回り始めた思考は、最初から私の敗北を告げていた。それを覆すためには外からの一手が必要だったのだ。

 

「……覚えていろよ?」

 

 あ、ちょっと怒ってる。

 そう理解したがこの達成感には代えられない。何せ初めてまともに一撃を入れられたのだ。この瞬間のために何連敗したと思ってる。

 

「しかしよく召喚出来たね。異界のすぐそばで待機させていたの?」

 

「いえ、ちゃんと呉でフルバフさせたのを呼びましたよ。そうでなければ最後の一撃も躱せていたでしょう?」

 

 そもそもこの異界の位置座標が現実のどのあたりか分かっていない。山梨支部の近くだと思うが、どのあたりで出来たのか分からないので現実側からの援軍は絶望的だった。

 まあ、そもそも召喚で呼び出さないと不意を付けないので最初から召喚するつもりだったのだが。

 

「――え? いや、え? さっきの召喚って地脈転送じゃなかったよね?」

 

「……? 契約ラインで引っ張ってきましたよ?」

 

 地脈操作は得意だが地脈転移は専門外だ。例えるなら同じ風を扱うにしても飛行機は乗れるがヨットは無理と言う感じだ。

 

「普通の悪魔ならマグネタイトだからまだいけるかもだけど、式神は肉体持たせてるから持ってこれないよね?」

 

「だったら肉体を一回分解してこちらで再構築させればいいじゃないですか。確かターミナルってそういう理論ですよね。」

 

「ぇぇー、たかが契約ラインがどんだけ太くなってるの。しかもそれ、再構築の演算自前じゃん。」

 

「攻撃魔法一発分ぐらいの演算リソースで出来ますよ?」

 

 私が増幅と貫通にどれだけ力をかけていると思っているんだ。アギやブフにも満たない弱小概念で中級魔法の威力に指をとどかせていたのだ。構築式の量は半端なものではない。

 

「ああ、まあ、いいや。それよりそろそろ異界を閉じてくれない? 会議待たせちゃうよ。」

 

「あ、ちょっと待ってください。今式神に着替え持ってこさせてるので。素っ裸で外に出たくもないですし。」

 

「えー、早くして欲しいな。もうそこらの茨でも体に巻いたら? アルラウネのコスプレって言ったら納得してくれるでしょ。」

 

 実際、コスプレと言ったら納得されてしまいそうで嫌になる。仮にも運営上層部の奴らが集まってそれでいいのかガイア連合。

 

「あ、茨で思い出しましたけど爆心地の定点観測情報、また送りますね。」

 

「え、それ、今いう事?」

 

「なんか思い出したんだからしょうがないじゃないですか。」

 

「別にいいけどさぁ。それより、早く帰らない? ほら、はーやーくー。」

 

「燃やしたの神主なんだからちょっとぐらい待ってくださいよ。」

 

「知らないなぁ。そんなことあったっけ?」

 

「仕返しですか、大人げないですよ。」

 

「人の事言える?! あの場面は引き分けた後にお互いに健闘をたたえて笑顔で仲直りする場面でしょ!?」

 

「そう言うのは殴り合ってお互いにボロボロになってるからであって、片方無傷でやるもんじゃないですよ? いいじゃないですか、男前が上がりましたよ?」

 

 式神が来るまで時間がかかるのでグダグダ駄弁る。

 基本、神主との会話は呉支部長としてか修行僧の一員として術式を習う時ばかりなので、こういった無駄話は久しぶりだ。本当に最初の頃はこういう話ももっとやっていたが、お互い忙しくなってからは随分としていなかった。

 

「へぇー、へぇー、そういうこと言うんだ。これだけ強くなったなら修行場の中層以降解禁しようと思ったのにやめようかなぁー?」

 

「……修行場って怪しいとは思ってましたがまだ奥がありましたか。」

 

 そうして駄弁っていると聞き捨てならない事が出てきた。

 山梨支部の修行場異界は各地の支部設立前後に整備されたもので、近ごろアフレコ帰りに何度か寄っているが最奥でもせいぜい30ぐらいの異界だと思っていた。

 しかし、神主の発言的に今より深い場所もあるらしい。最初の蟲毒化した異界以降、外では敵のレベルが低い異界しか出現しないため足踏みしている私からすれば聞き逃せない発言だ。

 

「もっと早く解禁してくれてもよかったんじゃないですか? こっち来るごとに最深部で乱獲してたの知ってるでしょう!」

 

「いや、割と冗談抜きで危ないからね? 本当に中層以降は限られた人にしか教えてないから。」

 

「それなら仕方がない――というと思いました? 正直に教えてください。何時頃から許可しようと思って忘れてました?」

 

「……LV40を超えたぐらいだったから五年ぐらい前かな? 最初に修行場整備した時に教えたと勘違いしてたんだよね。」

 

 わざとらしくヘケッと笑う神主。

 

「え、LV上がらないって相談いくらでもしたでしょ?! なんで忘れてるんですか!」

 

「ごめんごめん、あ、ほら、夏祭りあったじゃん? ちょうど時期重ねってて忙しかったから!」

 

「謝って済む問題ですかぁ! もしかしなくても呉支部所属の連合員にも何人か紹介してますよね?! うわ、LV負けてショックだったのにそんな理由だったのかよ。」

 

「いやー、ごめんって。ほら、今度軽く案内してあげるから機嫌治して、ね?」

 

「……っ、……はぁ、いいでしょう。ガイアカレー奢ってください。あれ、マグネタイト生成量上がるんで何年も食べれてないんですよ。」

 

「分かった、分かった。その間ぐらいはMAG回収してあげるからそれで決着で!」

 

 ため息ついて示談を成立させる。

 割と好物なのに体質の関係で長らく食べられなかったのだ。これぐらいで許してやるとしよう。元々神主はホウレンソウが出来ない人間だと知っていたのだ。今回の事もその延長線だと思えば納得でき、出来……やっぱり納得は出来ないな。

 

 話しをしていると、異界の近くに武蔵が来た気配を何となく感じる。上下左右のどことは言えない気配の不安定さは、そのままこの異界の不安定さの象徴だ。

 ちょいちょいと手招きする感覚で武蔵に合図を送ると、焼け野原の茨の一角に滲み出る様に武蔵が現れた。

 

「あぁ、武蔵が来た。やっほ、服ありがとうね。」

 

「お待たせしました。取り急ぎ用意したものなので多少サイズが大きいと思われます。調整はこちらでしますので大人しくしいてください。――以上。」

 

「おお、早いね。しかもこっちの子とも契約がしっかりしているっぽいし。って、そうじゃなく、着たら外出るよ? 会議待たせてると思うし。」

 

「了解でーす。」

 

 下着のサイズすら合わずに調整しないといけないので少し手間がかかりそうだ。でも、戻って会議してたら昼がちょうどいい時間になるのでまあいいか。

 

「――話はまとまったな? ではお説教の時間だ。安心しろ。服を合わせる間で済む。」

 

 そこでやっと。

 私は初めに呼んだ時から激怒している2Bから逃げられないと諦めたのだ。

 

「まったく、急に怪我した時は心配したぞ。しかも同調の許可を下ろさないので事情が分からなかったしな。やっと同調してきたと思えば気楽に完全武装を求めてくるのもどうかと思う。A2なんて時短に異界を破裂させようとするし、アリサも使い先で全力出して相手が泡吹いて倒れることになったし――――」

 

 主であるはずの私の首を猫の様に掴んで視線を合わせて懇々と説教を始める2Bに、我知らずのふりして怒っているのかわざとらしくたまに針で刺してくる武蔵。そして、それを横で見てにやにや笑う趣味の悪い神主。

 念願の……というほどではないが、難関を乗り越えた勝利の光景としては余りに締まりのない風景。

 

 

 これもまあ感情を振り回して暴れた代償だと思って、私は目をそらさずに説教を受けるのであった。

 




主人公、ガイア連合ガチ勢なので自衛隊ニキには殺意しかありません、という話でした。
多くの人間には人の好い主人公ですが、主人公から嫌う相手も相応にいます。
あと、やたらと乙女チックな発言は子供たちに読んであげてる絵本に影響されていました。

主人公は修行場の中層以降を知らなかったためにレベルキャップが掛かっていました。
五年目あたりからLV50前後でずっと止まっています。
区切りとして良いので現在の主人公の戦闘スキルを習得順に公開です。もしかしたら記載忘れもあるかもしれませんがこんな感じです。
*覚醒したスキル
 魂捧の夜伽(捧魂の法)・Unlock!【■光の■印】・New!【火炎耐性】
*修練で覚えたスキル
 チャクラウォーク(環境中のMAG量によって回復量は変動)・念動・マカトラ・LVUP!【火氷雷風単体初級魔法】・各相性の防壁(ブロック系魔法)・瞬間回復・不動心(精神系状態異常無効)・コンセントレイト・貫く闘気(不完全)・召喚
*変質した体質
 大治癒促進・大気功・魔導の奔流・食いしばり(使用回数0)・Unlock!【エ■■ェ■・ハ■】

基本戦闘スタイルは感知距離を最大限利用した遠距離戦での格下殺しです。
①敵を探知→②敵周辺MAGを掌握して初級魔法→③把握した耐性に従って掌握MAGで攻撃→④敵が主人公の居場所に気がついたら自分のMAGで攻撃→⑤接近してきたら式神の時間稼ぎ→⑥式神を抜けてきたら強化魔法を使って普通に戦う
 ①でアナライズしないのはジャミングor偽装を警戒してです。
 (それぐらいしない?と主人公は頭をひねっています)
 ②で反射されても魔特化の主人公は魔法による攻撃が痛くありません。
 距離を取って只管魔法を撃ち込むため、⑤まで移行することがまずありません。
 あるとすればよほど格上に喧嘩売った時だけでしょう。その時は普通に式神で囲んで戦います。

主人公のスキルだけを考えると本職はディフェンダーだったりします。
敵からの攻撃は味方への攻撃を含めすべてブロック系魔法で防ぎますし、後衛の自分にくる魔法攻撃は余程の威力じゃないと『魔』ステータスで軽減してダメージ無しになります。物理攻撃も装備による耐性+強化魔法で下手な前衛より硬かったり。
弱点と言えるのは素の『体』が低い故のHPの低さですが、格上相手でないとそもそもダメージを受けなくなり始めています。
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