【カオ転三次】DRUG FATE   作:石は転がる

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53話

 ガイア連合が自衛隊から得た情報による方針の変更。

 それはガイア連合の多くを動かすことになったが、ただ利用しているだけの黒札――転生者――にとってはほとんどの事が関係がない事に過ぎなかった。勿論取得物の売買価格や製造した霊装の価格などに動きはあったが、彼らの活動は何も変わるところが無かったのだ。

 

 ただ一つ。山梨支部が指定した『大型異界』の攻略を除いて。

 

 日本の霊地活性化を解決とはいかなくともマシなものにするため、神主を含む運営が決定したこの方針はガイア連合に所属する黒札たちに広く影響を及ぼすことになる。それは異界攻略の先陣を切る実力上位の黒札たちに限らず、異能者として活動する中下位にも依頼が出され仕事が割り振られることになったからだ。

 この人手を求めた対応は“大型”異界と呼ばれるだけある広い異界を踏破せねばならず、異界で日を跨がざるを得ないため精鋭部隊に随伴し補給を届ける必要があったためだ。しかもメシア教によって施された封印は基本的に数を必要とする封印解除方法のため、そちらに回す人数も必要となっていた。

 そのため山梨支部所属の精鋭を中心に固められた攻略部隊と、攻略部隊の損耗を抑えるための支援部隊に集う各地の黒札たちとで多くの転生者が関わることになる。

 

 

 その大型異界の一つ。

 広島と島根の境に並ぶ幾つかの大異界の攻略に私は担ぎ出されていた。

 

「勝手にやっていて欲しいんですけどねぇ。弟子たちの勉強も見ないといけないですし。」

 

「それだと私一人がクリスマスパーティーに参加できないではないか!」

 

「百仁華も誰かに任せればいいじゃないですか。ほら、家族水入らずでゆっくり休みましょう?」

 

「それが出来れば苦労しない! 日取りの問題でスケジュールがギチギチだからな。」

 

 山間の国道。

 やる気なしの私と義務感で来ている百仁華がバンに揺られ、その後ろを大型バスが続く。人家がまばらどころか人家が無い山道を延々と車が走るに任せて揺られるのは暇なものだ。

 これならバスに乗って他の黒札たちと交流した方が楽しかったかもしれない。一応支部長で上役なので気を使わせないよう配慮したのだが、やる気が出ない代わりに愚痴ばかりが出てきてしまう。

 

 こんなやる気無しなのに態々黒札引き連れて攻略に向かっている理由。

 それは他の支部とは違い呉支部の黒札は社会人の割合が圧倒的に多いため、間抜けな話だが人手が集まらなかったのだ。それで仕方がなしに年末年始休暇を利用して黒札を徴集しての攻略と相成った。

 そして強制するからにはトップも規範を示すべく私も参加せざるを得なくなり、弟子にセンター試験対策を教える時間が無くなってしまったという訳だ。

 

「これで弟子だけ受かって私が落ちたら笑いものですよ、まったく。」

 

「そう不貞腐れるな。模試に何の問題も無いのだろう?」

 

「まあ地方大学の工学部ですからね。偏差値もそれほど高くないですし。」

 

「小夜子は医学部に行かないと嘆いていたが文系でもよかったのではないか?」

 

「法律関係に行くのも考えたのですが……。管轄にある半導体工場関係の知識がまだ弱いのでそちらを優先ですね。」

 

 学科はどこでもよかったのだが、強いて言えば純粋な物理学が通用するうちに出来るだけ知識を入れておくことが勝った。そうするとガイマテが研究している基礎物理学や化学関連の知識は一通り叩き込んだので、ガイマテが直接は関係していない半導体を学ぼうと思ったのだ。

 医学部は純粋に実技などで時間が足らなくなるし、法律は終末後を考えると古典の方が使えそうであることも理由だ。

 

「もっと仕事から離れても良いと思うんだがな。」

 

「楽しいキャンバスライフをするには終末まで時間が無さ過ぎますよ。のんびり学べるのもこれが最後の機会でしょうし。」

 

「それは、まあ、そうだろうな。」

 

「ヨーロッパ方面からの受け入れは他の支部がしているはずですが、知人縁者を頼って近頃呉にもまた亡命者が増えてきました。メシア教の脅威もですが霊地の管理を仕切れなくなった組織が増えているのは危険信号でしょう。」

 

「終末は近い、か。」

 

「今回の攻略が終わればぼちぼち一次産業異界の準備稼働を始めるつもりです。これからは海外から物資が来るか怪しくなると見ますからね。」

 

 呉支部としてすでに整備している異界だけで、本格的に稼働すれば300万人を養える想定である。私や黒札の異界が加わるのでもう少し養える人数が増えるだろう。

 呉支部の管轄する結界群の範囲内人口が200万を越えていないので余裕は大分ある。

 もちろん各種資源も都市機能が滞りなく運営できるように用意してあるので、何事も無く終末が来るようであれば都市圏を維持できるとされている。

 

 まあ、そのための食糧生産や鉱物資源の採掘のための地上異界は兎も角、水産資源やリン鉱石・石油・ガスなどのために『海を渡る財宝の守り神』である宗像三女神の力を借りなくてはいけなかったのは頭が痛い。

 今は私も一緒に歌えや踊れで済んでいるが、調子に乗ると神はどんなことを言い出すか分からない。彼女たちなら酷い事を言わないとは思うが、万が一は想定しなくてはいけない。代替手段の構築や三女神の手を借りない異界の整備を早急にしなくてはならないだろう。

 

「――流石自衛隊、すでに到着しているみたいですね。」

 

 ふっと意識に軍団の気配を感じる。

 車道も通らない山の奥。異界の前の集合場所で準備を始めているらしい。数は五百人ぐらいか。式神とも覚醒者とも違う独特の感触をしているので全員がデモニカ装着者なのだろう。山梨支部造形部のおもちゃの気配もある。今日連れてきている中にロボ系の同好会参加者はいなかったと思うが、次からは面倒が起こらないように気を配らなくてはならなそうだ。

 

「こちらも着いたようだな。あとは山道を登って合流か。」

 

「……はぁ。それじゃ、行きますか。」

 

 誰も来ない車道に堂々と停車した車から降りる。後ろを見ればバス二台からも黒札たちが降りてきていた。

 ワイワイと賑やかに降りてくる彼らの姿は華やかだ。今日はクリスマスイブなので独り身限定で呼び集めたのだが、それがなぜが話が伝わるうちにコスプレパーティー(異界オフ)と化している。

 早速降りてきた新旧ごみ処理係に悪徳の町の二丁拳銃とロック、シティーハンターに蛇にとっつぁんまでいる。何を考えてか自衛隊のコスプレをしている奴もいるが、肝心の自衛隊はデモニカなので見間違いは無くていいのかもしれない。

 

 呉支部では自粛させていた銃器を解禁したのが理由か、ここのところガンアクション系のコスプレが熱いらしい。米軍経由で輸入した銃器以外にも呉支部で新規開発された銃器が出始めたことも関係しているだろう。

 ……でもロボコップとかT1000とかビヨンド・ザ・グレイブとか撃たれまくってるイメージがあるキャラのコスプレはやめて欲しい。見ていて心配になってきてしまう。

 

 もちろん近接戦系のキャラクターもMH勢他きちんといるので戦力としては問題が無い。

 ふざけている様に見えても彼らも一線級の戦闘者だ。装備の耐性はしっかり異界に合わせているし、もしものための別属性もしっかりと用意している。チームとしてもよく組んでいてお互いの手札も知っているのだろう。

 

 物資を下ろしたバスが町へと戻っていくのを尻目に、コスプレイヤーを引き連れて山を進む。

 山歩きは慣れたもので指示せずとも式神たちが道を切り開いてくれるので、私は足元の落ち葉などを念動で動かし道を作っていく。ぞろぞろ付いてくる彼らも似たようなものだ。

 冬の乾いた風を切り、覚醒者の身体能力に任せて進めば異界の入口にはすぐに着いた。

 

 木々から抜けた先は岩場になっており、ポツポツと岩陰から伸びる木が寂しく風に吹かれている。その岩場に陣取るのは自衛隊のデモニカたちだ。

 おおよそ二つに分かれた集団の片方の気配には見覚えがある。歩兵だけで装具の確認をしているのは中部地方のデモニカ隊だ。演習の時よりもLVが多少上がっているように感じられる。

 それならば、気配に覚えが無い集団は東京からやって来た五島部隊のものだろうか。ずらっと並ぶ多脚装甲車に積んだ物資。周りで固定を確認しているデモニカ達。こちらの方が明らかに動きが良い。

 その集団から二人こちらに寄ってくる。

 

「失礼、ガイア連合呉支部からの応援の方でよろしいでしょうか?」

 

「ええ、呉支部からの増援45人です。あなたが自衛隊の責任者でよろしいですか?」

 

「はい、私がポイントC1を担当する羽場三佐です。本日はよろしくお願いします。」

 

「呉支部長、藤原です。よろしく。」

 

 デモニカのせいで違いが全く分からないが部隊の取りまとめ役だろうか。百仁華には連れてきた黒札の取りまとめを頼み、私は挨拶を交わし予定を確認する。実際目にした人員を示しつつ動きなどを確認するが、事前の打ち合わせと変わりがない。

 早々に終了し支部員たちと攻略開始時間を待つことになった。

 

 自衛隊からも連合員からも離れた岩場に腰掛けて周りを俯瞰する。

 暇つぶしに岩場での撮影をしているコスプレイヤーたちをなんとなしに見ているが、本当に多種多様のコスプレだ。しかもコスプレの癖に装備としてはガチだ。普段使いの装備の事も考えると懐には大分余裕があるのだろう。

 式神たちも人間と変わらない喜怒哀楽を見せ、お互いに楽しそうに話しているところを見ると主人に大切にされているらしい。扱いや刺したスキルカードによって人間らしさは増すが、人格形成には主人の扱い方が大きく影響する。彼らの様子を見ると主人が依存も自閉もしていないことがよく分かる。

 

 ――式神は、主人の事を映す鏡のようなものだ。だからこそ、私は自分の式神に何も影響を与えたくはなかったのだ。私を映す式神など出来てしまったら、どれだけ悍ましく醜くなるか分かったものではないのだから……。

 

「9S。」

 

 わき道に逸れていた思考がA2に呼び戻される。

 

「ここに居たか朱莉。どうだ、似合うだろう?」

 

「もう、エリザベス、いきなり何を言っているのですか。」

 

 気が付けば胸を張って金の縁取りで彩った赤いナポレオンコートを棚引かせる女性と、襟のとても高い黒いインバネスを着た女性がこちらに来ていた。二人とも金糸のような髪を長く伸ばしているが、黒いコートの女性は纏めた後ろ髪を襟首からコートの中に隠している。

 瓜二つな顔だが、ちょっとした目つきと話し方で随分と印象が違う二人だ。

 

 よく知っている顔だ。戦闘系コスプレイヤーとしてよく活動しているし、弟子を取る前は誘われて一緒に異界に行くことも良くあった為だ。

 なにせ彼らが利用している服飾は私の着る服と出どころを同じとしているし、私が資金援助している研究系同好会にもよく協力者として呼ばれているので顔を合わせる機会が多かったのだ。エリザベスは強化服――アロンダイトの事だ――の試験にも付き合ってもらったこともある。そのため、それなりに親しいと思っている。

 

「お二人はアンメアですか。よくお似合いですよ。……でもアン役はメアリの方がお似合いでは? ほら、エリザベスだと目つきが鋭いですから。」

 

「ほほぉ、喧嘩を売ってるな?」

 

「ふふふ、エリザベスも怒らないで。エリザベスがやろうかって言ってくれたんですけど、名前も同じですしやっぱり“傷有り”は私ですから。それに、エリザベスよりも私の方が剣は上手ですよ?」

 

 そう言って腰からカトラスと銃剣付きショットガンを引き抜き鮮やかに振るう。銃剣の方は銃身を覆い隠すほどの刃が付いた両刃で横に向かって弾倉が伸びている。間違いなく呉支部産の色物だろう。

 

「そもそも私たちの違いが分かるのがお前ぐらいしかいないぞ、まったく。」

 

 そう言うエリザベスも背中に身長よりも長いマスケット風銃器を背負っている。

 

「お二人も今日は銃器をお使いに?」

 

「この異界は獣と鳥が雑多に出てくるとあったからな。鬱陶しい鳥はさっさと撃ち落とすに限る。」

 

「フフ、取り繕っちゃって。皆さん、銃を思いっきり撃ってみたくて仕方がないんですよ?」

 

「…? ああ、そうか。道具費用の補助ですか。」

 

「ふん、まあな。通常弾ならともかく特殊弾となると普段使いするにはまだ少し高いからな。前からあるモデルガン用の特殊弾が早く銃でも使えるようになってほしいものだ。」

 

「それは仕方がないんですよ。銃身が壊れるので、弾がライフリングで削れる部分には属性とか入れられないですからね。その分弾頭だけにより強力な概念を込めないといけないので、材料費と加工費が上がっちゃいますから。お二人の銃はライフリングが無いと思うので関係なさそうですけどね。」

 

「まあ、そうなんですか。それで私たちの弾は皆さんよりお安いんですね。」

 

「もう少し銃器の開発じゃなく、弾丸自体の開発も進めた方がいいですかね……。」

 

「どうせ流行り廃りだ。しばらくすれば銃を使う奴も減るだろう。あまり気にする事でもあるまい。――それより、どうなんだ、ん?」

 

 腕を組んで偉そうに鼻で笑うエリザベスはアン・ボニーとしてはやっぱりどうかと思う。それでもすらりと背が高く、肉感的な彼女は役を除けば衣装はよく似合っていた。

 

 元ネタそのままではなく、ちゃんと防寒着の形をしたコートは肩章のふさなどからやや軍服的な色を取り入れているのが見える。その肩には彼女の式神のコボルドがちょこんっと座っていた。ぬいぐるみサイズのデフォルメされた犬のような見た目の式神だ。

 それに対してメアリは元ネタに近い。顔を半ばまで隠した襟に、シンプルな白い縁取り。装飾性は排したひざ丈のコートは化繊独特の光沢があった。こちらも肩には式神のデフォルメされたカラスが留まっている。

 

「はいはい、お二人ともよくお似合いですよ。特にフリルのヘアバンドでツインテールが可愛らしいです。」

 

 ふざけて催促されたので、こちらもふざけて褒める。

 

「ツインテールじゃなくてツーサイドアップだ。女を褒めるならもう少し学ばないといけないな。」

 

「あの、朱莉様。私には何もないのですか?」

 

「似合っているのはいるのですが……コートだけで褒めるの、難しくありません?」

 

 二人とも寒いからか、前はしっかりと閉じている。そのうえで褒めろと言われても、派手なアン・ボニーコスのエリザベスは兎も角メアリー・リードコスでは褒めにくい。

 

「――コートの中、見たくありません?」

 

 私の言葉ににっこりと笑うメアリに首をかしげる。何となく罠にかかった時特有の薄ら寒さを感じた。戦闘中でもないのに一体なぜなのか。

 じりじりとコートの前のチャックを開き始めたメアリを止めるのもおかしいが、止めるべきか……?

 

 と、そこで、そう言えば、と思い出す。

 元ネタの衣装ってバニーガールじゃなかったっけ?

 

「あ、いえ、コートを開けたら寒いですし、別にまたの機会に見せていただければ、それで、いいですよ?」

 

「あらあら、大丈夫ですよ? 私、寒さには強いんです。」

 

「姉さんだけ見せるのも不公平だな。どれ、私の服も見せてやろう!」

 

 嫌らしくにやりと笑ったエリザベスもコートのボタンを外し始める。じわじわと留め具を下ろすメアリとは違い、豪快にボタンを外していく動きは結構早い。

 

「いや、本当にいいですから! ほら、風邪ひいてもダメですし、これから戦闘何で体を冷やすのもよくないですし――」

 

「朱莉様にだけ、見せた後はちゃんと着込むから大丈夫です。」

 

「ハハハ、役得だな、朱莉。」

 

 目が泳ぐ。じりじりと追い込まれる焦燥。合わせたコートの左右を掴み、今にも開けようとする二人から逃れられない。せめて目線を隠すべく、胸のバイザーを掛けようかと混乱した頭で考える。

 もういっそ、眼を閉じてしまうか。散々文句を言われそうだがおもちゃにされるよりましではないか、よし、そうすべき――

 

「ほら、似合いますか?」

「くくく、朱莉、どうした、似合うだろう?」

 

 ――目を閉じるより先に、バッと開いたコートに気を取られて中身を見てしまった。

 フリルのついたノースリーブのシャツに大きくスリットの入ったタイトスカート。スリットからは薄っすら肌が透けるタイツが顔を覗かせていた。二人ともお揃いで、違いと言えるのはネクタイの差し色ぐらいのものだ。

 

「残念だったな。流石にバニースーツで戦闘する気はなかったので中はホルターネックシャツだ。」

 

「うさぎさんを見たいのでしたら、また今度三人きりで、ね?」

 

「――……はぁぁぁぁ。」

 

 機嫌よく大爆笑してエリザベスと、そっとこちらの唇に指をあてて悪戯気に微笑むメアリに脱力する。

 我ながらこれから戦闘を起こすって時に何をしているのだろうか。転生者連中は私をからかわないと気が済まないのだろうか。

 脱力している私に感想をねだってくる二人は悪魔かなんかの親戚に違いない。全くひどい人たちだ。

 

「朱莉ー、そろそろ時間だぞー!」

 

 そうやってしばらくからかわれていると連合員の集まりから声がかけられる。大きく手を振って声を上げる百仁華の姿に時計を確認すると、そろそろ山梨からの合流予定時刻だ。

 

「分かりましたー、今そっちに行きます!」

 

 こちらも声を上げ、日常に弛んでいた気を引き締める。あちらにいる式神たちともさっさと合流しておくべきだろう。

 後ろを一通りからかって気が済んだのか、いそいそとコートを着直した二人が付いてくる。

 

 胸に張り付けていたバイザーで顔を覆う。意識化した意識の切り替え。

 自身の調子を確認する。

 指先からつま先まで、意識とのずれはない。駐在術式の稼働準備問題なし。MAGの操作の余裕もいつも通りあるので、生成量を何時でも増加させられる。

 自動化した強化術式は滑らかに動く。両腕の兵装もよく整備されている。推進機構の外部顕現も良好。緩衝術式による周囲への被害低減機構も正常稼働。

 閉じた視界を開くイメージ。未熟な霊視が瞼を開ける。世界の霊的な色が飛び込む。普段は式神からの情報で補完していた色彩が、ぼやけた様に世界を彩っていた。

 平らかに凪いだ心持。戦闘への順応完了。何時でも行ける。

 

 ――すべて、問題なし。

 

 自己に埋没していた意識に、肌を伝う地脈の変動が時を知らせる。

 地脈移動。それも、県を跨ぎ、国を横断する大移動だ。こんなこと、出来るのは一人しかいない。

 

「――来ましたね、山梨支部からの援軍が。」

 

 道しるべに突き刺されていた標に忽然と、呉支部のコスプレイヤーよりも混沌とした集団は音も無く現れた。

 ちぐはぐな装束。バラバラの武装。人目を気にしない被り物。子供の描いた絵のような統一感の無さは人を不安にさせるだろう。

 

「お越しいただきありがとうございます。」

 

 だが、ここにそんな人間は存在しない。してはいけない。

 アナライザーなど無くても30の壁を越えていることがわかる威圧感。人間から逸脱しているようで、どこまでも人でしかない生臭さ。彼らは、山梨支部が抱える戦闘者の一団であった。

 

「――ぁ、……ぇっと、そのぉ、ょろしくぉ願ぃしまぅ。」

 

 ……そして、どこまでもコミュ障の集団だった。

 おい、山梨支部。せめて代表ぐらいもう少し社交的なやつにしろよ。

 

 私が溜息吐いただけで気圧されてしまいそうな相手に頭を痛めつつ、私たちは最初の異界の攻略に入るのであった――。

 

 

 

 この度行われている大型異界の攻略にはいくつかの段取りがある。

 

 まずは攻略前の事前調査。

 異界に出現する悪魔の確認。それと地形の調査である。

 悪魔の出現傾向や属性が分かれば割り当てるべき人員に目星が付くし、地形が分かれば罠や環境適合の条件が分かる。

 

 次は奥への道の確定。

 これは異界故に攻略班が行うことになる。何せ異界によっては内部の変動があるのだ。悠長にマッピングしていては攻略の時にはまた別の順路になっていてしまう。

 ここに付随して道中の封印解除が入る時がある。正しい道が塞がれている時があるからだ。大抵は封印の道具だけが安置してあるのだが、たまに天使が居座っていることもあると情報が回ってきている……呉のメシア教から。詳しい位階まで知らせてきているのは気持ち悪くて仕方がない。

 

 気を取り直して、本命。

 それは神を縛る封印の解除と、解放された神との交渉である。

 山梨支部からの情報だと、今のところ解放された神仏とは平和的に交渉がまとまっているらしい。

 これは封印したのが侵略者のメシア教であり、解放して回っているのが日本人だからだと思われる。或いは神話の大御所から順次解放されていっているので、神々からの紹介があることも大きいか。所により多少腕試しのような戦闘があった場所もあるが、人々を守護する契約は問題なく結ばれていっている。

 

 そうして神々を開放していると、どうしても避けれない問題が出てくる。

 それは天津神・国津神の争いや、メシア教への敵意ではない。そちらは元々予想で来ていた問題なので、大変は大変であれど想定内だから運営に頑張ってもらえばいい話だ。

 

 それはメシア教により封じられるより前から封じられていた所謂『荒神』の問題である。

 古来から日本各地に存在し、戦前の霊能力の全盛期であっても封じられたまま留め置かれた異界。そこはメシア教も上から封印をかぶせるだけで中身には触りもしなかった場所だ。

 

 そんな場所が、今回解放する場所の一つに初めて選ばれた。

 理由としては単純で、人家から遠くどうにか出来そうな戦力もあったからというだけの事だ。

 最初の攻略場所に選ばれたのも、たとえ失敗したとしても山梨から他異界攻略のための戦力が援軍として増やせるし、下手に消耗してからよりも万全の態勢で挑んだ方が良いと判断されたためだ。

 だからこそ、メシア教に渡された地元の組織から接収された資料を頼りに編成を組み、主力を温存して天使を打倒し、警戒しつつも封印の要を抜き放ち――

 

 ――怪獣大戦がはじまってしまったのだ。

 

 

「QuLLaLOooOOooOooon――――!!」

 

「アパーム! 弾! 弾持って来い、アパーム!」

「撃ちましてよ?」

「黒龍サイズ! レイド戦だ! 遠距離から削れー、撃ち落とせ!」

「ハッハー、逃げる奴は糞虫だ。逃げない奴はよく訓練された糞虫だ! ホント、戦争は地獄だぜ!」

「ぶんぶん鬱陶しい! 回復邪魔するな! 積年の恨み思い知れ!」

 

『LAaaaAAaaAAAA、AaAAAAAAAALAAaaaa――AAAA!!』

 

「来た! 地上! 拘束できるか?!」

「まじか?! マヒ罠効いたぞ! 剥ぎ取れ剥ぎ取れ!」

「俺らの出番かっ! 大剣部隊突げぇーきっ!」

「ツタで締め上げてくれている! 今が好機だ!」

「バッカッ、お前ら踏みつぶされるぞー! 部位破壊は後で狙えー!」

 

『――KIIiLiiLiIIIiiiIi?!?!』

 

「採ったどー!」

「くそ、邪魔だ羽虫?!」

「剥ぎ取りタイム邪魔すんじゃねぇ?!」

「後衛ー、銃身が焼けつくまで撃ちまくってくれ!!」

「おっきいのイクゾー! 巻き込まれんなよぉ~。」

 

 ……怪獣大戦というには人間が逞し過ぎるかもしれないが。

 

 

 時間を少し遡る。

 私たちが封印の要を解いた時、現れたのは古い山神が一柱だった。

 

 それは、蜻蛉である。

 爬虫類じみた甲殻と牙を持ち、触覚の代わりに角を得た蜻蛉だ。二対の羽は普通の蜻蛉と違い摩り下ろされそうな装甲で覆われ、長く延びた腹からは鋭い針が顔を覗かせている。

 そんな全体を冷静に把握できていた者が一体どれぐらいいただろうか。感知した体躯を視覚によって補正しながら考えた私は、間違いなく少数派の方であっただろう。

 

 それは、ひどく大きかった。

 全高10m、体長で50mくらいだろうか。多少離れた位置に出現したのに、その息遣いが我々の位置にまで届いていた。生臭い吐息は、あの悪魔の在り様が肉食であることを容易に想像させる。

 もしかした、異界に出現していた鳥や獣はこの悪魔の餌だったのかもしれない。

 

 その威容にビビりながらも、山梨から来た『交渉人」が声を上げる。

 覚醒による獲得スキルがトーク系で統一された彼は、どんな相手とでもとりあえず“話”が出来るというスペシャリストだ。

 彼と『悪魔』の会話は、意外なことに我々にも通じる言葉でなされた。いや、意外でもないのか。仮にも『神』とされていたものだ。人と話せる知能と人と通じる言葉ぐらいは持っていて当然だろう。

 

『――お前らを贄としてやる。光栄に思え!』

 

 ――だからと言って『話が通じる』とは限らないのだが。

 

 害意と共に伸ばされる脚。慌てて下がろうとする交渉人。

 初めは彼を食べたいらしい。

 上げていた銃口を、悪魔に向ける黒札と自衛隊。カバーに入るべく前進する前衛。

 ――そのどれよりも早く、私の念動が悪魔を弾き飛ばした。

 

「交渉決裂と判断します。皆さん、討伐戦ですよ。――自衛隊の皆さんはこちらに集まって援護でお願いします。」

 

 激怒が空から響く。飛び立った蜻蛉がキリキリ鳴き声を発する。

 その声に応じたのは悪魔の配下か。親玉と比べれば小ぶりな蜻蛉が雲霞のように現れ空を覆った。小ぶりとは言っても人間よりも大きいのだからたまらない。

 

 それに私は手持ちの要石を散らして結界の起点となし防護結界を構築、自衛隊を守護する。流石に神との戦闘に自衛隊を巻き込んだら死んでしまう。私の仕事は彼らの護衛だろう。

 

「⑨ニキー! どうすればいいの?」

 

「そうですね。取り合えずは取り巻きを落としながらボスを削りましょう。撃ち落とせたら適当に前衛も攻撃に加わればいいでしょう。」

 

「いや、どうやって落とせと???」

 

「私の代わり、と言う訳ではないですが、っと。――召喚!」

 

「会いたかったわ。私の可愛いマスター。」

 

「ビオランテ、全力出していいよ。蒼もあとはよろしく。」

 

『――――!!』

 

 懐に居た蒼と召喚した式神に悪魔の相手を任せる。召喚した式神は緑の髪を棚引かせ、紅い大輪の薔薇を頭に咲かせた女性型の式神だ。ナインズに任せている薔薇異界の管理者で、偶発的に生えさせてしまった血に濡れた茨とアネモネを与えたら変異した個体だ。その最大の特徴は――

 

「任せなさい! 擬態解除――!」

 

 ――悪魔化能力。それも人型ではない悪魔への、だ。

 

 大地に潜り込み広がる根。ぐんぐん伸びる茎は太く絡み合う。頭の薔薇はその姿をさらに巨大化させ、色鮮やかに咲き誇る。巨大な花には見合った葉が茂り、その身を飾る。その身から伸びた蔦は、先から口を開け虫を喰らう。

 伸びに伸びたその体長、実に五十を超え百に近い。異界の空を覆わんばかりの大樹は、そんなに変異していても高貴なバラの香りを漂わせている。

 

「なんじゃこりゃぁぁああ?!」

「ビオランテ?! なんでビオランテ?! え、ゴジラ居るの???」

「でけぇぇぇっぇえええ!」

 

「蒼も大きくなりましょうね?」

 

「今度はビーストⅡ?!」

「ここは第七特異点だった??」

「むしろ神に挑む第五異聞帯???」

「ラフム沸いてこんだろな?!」

「じいじ連れてこい誰かっ?!」

 

「適当に親玉叩き落として拘束したら勝てますんで、後はよろしくお願いします。討伐クエスト頑張ってください。」

 

「え、ちょ、まままま?!」

「うぉぉおおおおお、なんかわからんがやったるぞぉぉおお!」

「⑨ニキ、説明プリーーーーーーィズ???」

「デカブツ討伐クエストと言われれば引っ込んでられない、我らはモンスターハンター!」

「まず邪魔する糞虫から落とすぞ!!」

「0分針叩き出してやれ!」

 

「それでは、自衛隊の皆さんは取り巻きを落としてください。敵はこちらに近づけないので、落ち着いて狙ってくださいね。」

 

「あ、はい。」

 

 テンション上がりすぎておかしくなった黒札たちを無視して、自衛隊の統括者に話しかけたのだが生返事だ。一連の流れの衝撃が強かったのかもしれないが、もう少し頑張ってほしい。

 なにせでかいのは良いが中身は伸びて薄まっている。張りぼてとまではいかないが、大きな分攻撃に当たりやすいことを考えるとむしろ弱くなっている。

 その道理は敵悪魔も同じだ。それなのに大きな体で悪魔が現れたのは“古い”神だからだろう。

 “古い”が故に、原初の頃に向けられた『大きな物』への畏怖が未だにこびりついているのだ。現代まで交流が有る悪魔程、ただ大きいだけの悪魔が少ない理由でもあると思う。

 

 

 まあ、そんなことを考えながら防壁を張るお仕事をしていたら、結界の外は怪獣大戦&人間戦線とでもいうべき光景になっていたのだ。

 

 取り巻きを落とす銃弾弾幕の帳。空を射抜けと発射される矢。シュィンシュィン音を鳴らしながら、こっそり飛行できるようになっていた黒札によるグミ撃ち。息を合わせた高笑いが羽音を押しのけ空に響く。

 神のくせに状態異常になって叩き落されたのを嬉々として殴りに行く呉の前衛部隊。釣られて一緒に殴りに行ってる山梨部隊は、慣れていないのかたまに吹き飛ばされているが大丈夫だろうか?

 

 ――あ、蒼のフレンドリーファイア喰らって凍った。

 

 式神が必死に抱えて後衛に回復して貰いに行くのを見ながら、やっぱり私の出番はなさそうだとのんびり観察する。

 一日で辿り着いたので余っている補給物資から拝借してきたお茶を飲みながら式神たちとわいわい観戦しているのを、信じられないような目で見る自衛官たち。MPが切れたり弾切れだったりで補給に戻ってきた黒札たちが一緒になって寛ぎながらヤジを飛ばし出したので、まだ戦っている奴らから文句が飛んできたりもする。

 

 結局、ボス悪魔は何もできずにボロボロにされた。そしてその後、いい笑顔で再度交渉を始めた交渉人相手に白旗を上げ、めでたく攻略は成功となったのであった――。

 

 

 




ふざけている様に見えてリソース管理や行動パターンの解析などを冷静にやっていたりします。
観戦しているのも余力を計算しての休憩だったり気が付いた情報の交換などの為です。
何処かの主人公の強制ブートキャンプのせいで呉支部は全体的に修羅場慣れしてます。

主人公側の巨大化悪魔は、敵に巨大悪魔が出た時のため練習してました。ビオランテの方は量産メイド式神からの変異なので巨大化しても実体を持ってたりします。変身後の姿はビオランテの花獣形態で本霊は『アルラウネ』です。
巨大悪魔自体、今までもMH勢がヒャッホーして狩ってたりするのですが、一般霊能者には戦いにくいので依頼の仕分けが別枠になっていました。そのため初見の人間も結構いる感じになっています。

設定:
この小説ではトラポートなどの地脈移動の難易度は高くなっています。
移動難易度は『ショタオジが地脈管理者』なので日本国内限定で低くなっているのですが、一緒に運ぶ荷物など負荷は術者が負担するので限界があります。
例えるなら、日本国内限定で高速道路が整備されていても、原付や軽トラでは大量の荷物を運べないという感じでしょうか。
これが半終末後の海外だと整備されていない獣道を悪魔のちょっかいを掻い潜りながら移動することになるので、転生者でも長距離移動は不可能としています。

お話の都合で小説になるとルーラなんかは制限されるものですからね。ご理解いただきたいと思います。
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