【カオ転三次】DRUG FATE   作:石は転がる

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今回は夢の無い会議回です。
半終末で国民生活を維持しようとしたら避けられない話題だと作者は考えている内容になります。
時系列的には『〇【終末】渡航制限解除を見守るスレ その15』前後になります。


十二年目
57話


 深々と雪が降る。

 去年の十一月、世界の終わりが幕を開けたが、それが原因か今年の冬は例年以上に冷え込みが強い。

 お茶の間のテレビでは今頃日本を覆う寒波の話しでもしているのだろうか。お天気コーナーでは今までと変わりなく気象衛星からの画像が流されているだろう。今のところは気象衛星の電波が届いているらしい。

 年が明け、多少は世間も落ち着いてきている。このまま落ち着けばいいな、と思うのは運営の総意だろうが、自分たちのしている仕事からそれが儚い夢だと理解もしているだろう。

 

 ガイア連合山梨第二支部。その中でも一般ガイア連合員が訪れない事務棟の一角の大会議室。

 そこには運営の人間だけでなく、日頃は自社の経営に忙しい“経営者”や各地に鎮座し地方を守る“支部長”、それに加え“幹部”と揶揄される高LV転生者の姿までが雁首揃えていた。

 気の弱い悪魔ならこの場に居合わせただけで昇天しそうな伏魔殿。

 そこで話し合われているのは日本の――いや、世界の命運を分ける議題だ。

 

「先日多神連合からの要望もありましたが、悪魔召喚プログラムを運営としても正式に多神連合やメシア教に販売したいと考えています。それとは別に一般機器へのシステムロック版の配布を計画しています。」

 

 悪魔召喚プログラム。

 メシア教穏健派との協力の代価として渡されたそれは、ガイア連合の首魁である神主の下で解析を進められていたものだ。

 最初に渡された汚染プログラムから最初期のバージョンを復元できたことは少し前から話が流れてきていた。どうやらそれの改良も出来たらしい。

 意見する気も無かったので配布された資料を読み進めていると、基本構造の説明で推定されている『四文字の加護』に眉をしかめる。

 システムへの概念付与。これだけならば干渉の危険性はない。ならば四文字は一体何を目当てで加護を与えているのだろうか? どうにも動きが読めない気持ち悪さがある。

 

 つらつらと四文字の思惑を考えてみるが情報が足りない。四文字の趣味嗜好も目的も分からないでのプロファイリングほど無駄なものは無いか。一度気持ちを切り替えて性能を考えてみる。

 ガイア連合謹製の悪魔召喚プログラムは、メシア教のものと比べてセーフティが充実しているのが特徴だ。

 使用者の安全を考えたレベル制限。プログラムによる契約を骨抜きにさせないための既知悪魔限定契約。悪魔の独断を防ぐための十戒プログラム。マグネタイトの強制徴収も当然防ぐし、プログラムとしての簡素化した故の機器の縛りの薄さ。悪魔との契約もプログラムを通じて行うので悪魔と直接つながることも無い。

 セーフティレベルを最大にしていれば初心者霊能者でも安全に使用できそうな仕上がりだ。

 これは、確実に広く広まることになる。私はその確信を抱いた。

 その上で私がこれをどう扱うか、だ。

 私が使用するしないではない。“ナインズ”、或いは“麾下の霊能者”に使わせるかどうかだ。

 

 

 目に見えている問題の先ず一点はマグネタイトやマッカ消費量の増大だ。

 悪魔の使役に関し、その現界と能力の行使にかかるマグネタイトやマッカは契約者が持つことになる。戦闘に使うマグネタイトを悪魔に分配しなくてはならないのだ。

 勿論、マグネタイトに関してはMAGバッテリーに平素から自分のマグネタイトを溜めておいたり、悪魔を倒して稼いだりすることも出来る。しかし、リソースを必要とすることには変わりが無く、長い目で見れば自身の使用できるリソースが減少することになる。

 また、消耗した時の回復にも時間がかかるようになるのは間違いない。本人の傷を癒せば万全であったのが、悪魔召喚士であるなら手持ちの悪魔の回復に召喚費と維持費の確保と必要になる物が増えるからだ。

 

 問題の二つ目は『悪魔召喚士』としての戦闘スタイルになってしまう事だ。

 契約者が前衛・後衛どちらでもこれは変わらない。

 『悪魔を指示し、戦わせる』。それを行わなければならないため、人を指揮する『指揮官』とは違う『悪魔召喚士』としての能力を磨かなければならないのだ。

 それは霊能者としての正統な成長を歪ませることになりかねない技能だ。下手をすれば、自分を鍛えるのではなく“悪魔を頼る”霊能者を作りかねない。

 

 問題の三つ目。

 それは悪魔に近づき過ぎないかという事だ。

 ただでさえ悪魔との距離が近い霊能者が、“仲魔”として悪魔と四六時中一緒にいるようになっては『悪魔の価値観』に染められかねない。

 これは人としての在り方の問題だ。これは才能の在り無しで解決できる問題ではない。それを証明する様に、悲しいことだが転生者にも染められたような人間は出てきている。

 と言うより、霊能組織自体が何処も彼処も大なり小なり『悪魔の価値観』に引きずられている一面がある。だからこそ、まともな組織は『民衆を守る』という第一義を固守していたのだから。

 それが揺らぐ危険性は看過しえない事であった。

 

 色々と他にも問題はあるだろうが、それでも『悪魔召喚プログラム』を使うことの利点は計り知れない。

 単純に考えて手数が倍に増えるし、戦闘が得意でない人間も戦闘員として使える可能性が増える。いや、戦闘でなくとも良い。契約者の交渉が上手ければ、権能等の使用が今よりも手軽になる。

 結局、プログラム自体は道具に過ぎない。

 それとどう付き合うかは考えなくてはいけないが、一律禁止という訳にはいかないだろう。

 

「反対の方がおられない様でしたら、次は資源供給についてです――」

 

 飛んでいた思考を会議に戻す。

 次の議題は現在の半終末体制での生産活動についてだ。

 資料をめくれば来季の各地での資源産出量が出てくる。数字だけ見れば燦燦たるものだ。食料自給率が100%を超え、『鉄は国家なり』ではないが各種金属資源の採掘量も必要量には劣るとはいえ悪いものではない。

 

 まあ、数字だけのまやかしだ。

 まず食料自給率だが、これは半終末開幕にパニックになった地方転生者を落ち着かせるため、私も構築に関わった新造異界の推定生産量も含めたものだ。現状だと100%には届いてはいないだろう。

 土地の開墾に労力の確保、農業技能の習得や作付けする農作物や飼育する家畜の問題もある。ガイア連合が上手く統制を取らないと、米ばっかりだったり飼料も無いのに家畜ばかりになりかねない。

 

 金属資源はある意味もっとひどい。

 まず、各地の自然異界が採掘現場だが、管理調整された異界でないために鉱物の純度が低い。これは日本という土地からしたら仕方がない事なのでまだいい。

 しかし、それ以上にひどいのが鉱物以外の所に目を向けていない所だ。

 例えば、鉄鉱石から鉄を作るのであれば最低でも石炭と石灰、酸素ガスがいる。現代であれば成分調整のために他の金属を混ぜてるのでそれも必要だ。

 しかも、普通の設備は素材に合わせた操業をしている。鉄鉱石だからと日本の異界で採れた鉄鉱石をぶち込んだら、出来上がるのは鉄くずが関の山だ。

 もしかしたら転生者はたたら製鉄を今更するつもりなのだろうか。製鉄の神などに頼ろうとしていることを考えると笑えない話だ。

 

 何処まで行っても他人事に議論を眺める。

 その余裕があるのは、すでに自分の支配下では供給網が完結しているからだ。

 半終末前からせっせと基盤の整備のために新たに起業したり地元企業を買収をして麾下に入れたり、赤字の他社に資金援助までして生き残らせたりもした。正直必要があるからと手を伸ばし続けていたが、初めて数年で百社を超える企業を纏めてもまだ足りなかった時は、兎にも角にも現代社会というものは緻密に出来ているものだと改めて感心する他無かった。

 それでも苦労しただけあって現状不足した産業も無く呉は日常を取り戻していた。

 

「――……海上でも悪魔が確認されたとありますが、ガイア連合の船は輸入を継続するんですか?」

 

 運営の説明の後の質疑応答時に発された質問に、運営から目配せが来る。

 運営も船を持っているが、ガイア連合の輸送船の大多数は私が所有者として一元管理している。それをガイア連合に傭船契約で貸している形で、運航は私の会社がしている関係上私が受け答えするべきだろう。

 

「運航を担当している藤原商船がお答えします。現在のところ、海外との輸出入は継続する予定です。」

 

「悪魔や過激派の危険性は無いのですか? 異界で賄えるのならそちらで済ませるべきでは?」」

 

「海上輸送の危険性は許容範囲内だと判断しております。

 悪魔出現率が地上に比べて海は少ないこと。

 野良悪魔が護衛で対処できる範囲であること。

 神の加護により悪魔との遭遇が避けられること。

 そして何より、ガイア連合として海外への支援を決定しましたので航路の安全の確保を兼ねて往来を増やしたいこと。

 以上の理由から輸出入を継続します。」

 

 言葉には出さないが、ガイア連合としては一方的な持ち出しを減らしたい思惑もある。商取引としてどうにか支援の負担を減らそうという事だ。

 それに、国内で代替するまでの時間を稼ぎたいのもある。すでに環境が整っている現代のシステムをそっくりそのまま国内で再現する労力は並大抵のものではない。他支部は最適化までに時間を必要とするだろう。

 

「今年の冬は例年以上に寒く、暖房需要により燃料の高騰が起きていますが国内産油状況はどうなっているのでしょうか?」

 

 納得したのか別の人間の質問に変わる。座って次の質問を聞くと、次は燃料関連の質問だった。

 質問者はおそらく自宅所有者だろう。シェルターなら光熱費を考えることはまずない。自分たちの生活に関わることなので気になったのであろう。

 それでも、質問の仕方としては悪い。無知であると言ってもいいか。

 テレビのワイドショーを切って張ったような前置きは、海外の事情を知っているなら出てこないだろうに。昨今の燃料の高騰は資源輸入の混乱からの値上げであるからだ。

 

 どう答えるのかとMOEL石油の親会社のオーナーの方を見ていると、何故か必死に目で訴えてきている。

 もしかして国内開発状況を度忘れしたのだろうか。彼も既にいい歳なのでそういう事もあるかもしれない。さっさと覚醒して『若返り』でもすればいいのに、他の“金持ち”俺たちと同様時間が無い事を言い訳に修行をさぼるのは年の行った彼らの悪癖だった。

 

 仕方が無いので、私が再び立ち上がる。

 異界内石油開発用の子会社は私も出資者なので近状を把握している。私の異界以外で国内油田は新潟に新たに出現したものだけのはずだ。

 

「資源開発会社のMoPEx(株)の現状を説明します。従来の国内産油量は消費量の1%にも満たないものでした。しかし、呉の異界油田の操業を開始した時点で消費量の20%、半終末到来後に行われている予備施設の稼働が終了すれば30%まで生産されます。また、新潟で新たに“発見”された油田のように、従来は無かった油層が出現すればさらに生産量は上がるでしょう。現在、北海道などでも調査をしております。」

 

「新潟の油田は掘らないのですか?」

 

「新潟の油田は、現在油層ガス層の物理調査中になります。調査が終わり次第、生産計画を構築し開発を始めます。急ぎ取り掛かっておりますが、生産開始は最低半年はかかるでしょう。」

 

 方々から残念がるため息が漏れることにこちらがため息をつきたくなる。

 たった半年で生産できるようになるのがどれだけすごい事なのか理解していない。オカルトを使わなければ数年は必要な作業だ。短縮する期間の分、現場には負担を押し付けてしまうのに指示者がこれでは現場も浮かばれんだろう。

 

「MoPExとして以上ですが、新潟から産出した原油は製油所に運ばなければならないので、その辺りの手配も必要です。一日の生産量によっては新潟に製油所を建てることも検討してください。」

 

 仕事を押し付けてきた石油親会社のオーナーにちくりと嫌味を言って座る。

 国内製油所のキャパは必要十分量があるだろうが、こう言っておけば新潟の現地からすれば地元に製油所まで欲しがるだろう。どうせ東京近辺に集中されている産業の分散化は必要なので精々調整に苦労すればいい。

 

 その後もいくつか質疑応答を繰り返しているのを聞き流す。工業については関わっていない所の方が少ないので、大体の内容は既知の範囲だったからだ。

 勿論、幾つかは知らない情報もあった。

 例えば、弾道弾迎撃ミサイルの製造に名古屋の企業は手一杯になっているという話だ。

 迎撃ミサイルはアメリカ製で日本は購入していただけだったのだが、クトゥルフが原因で発生した避難民を受け入れる協定時にライセンス契約を結んだのだ。生産ラインの構築は自衛隊のゴトウ陸将が責任者なのでガイア連合は関係ないが、ミサイル防衛に関することなのでこちらにも話が漏らされているらしい。

 

 他にも気になる話からくだらない話まで報告された後、ついに神主が動きを見せた。

 

「『半終末』への対応はこれでいいかな? 良いなら今回の会議の本題に入らせてもらうけど。」

 

 神主の言葉に集まった転生者たちの反応は二手に分かれる。

 今までとは違い他人事で我関せずを決め込むもの。逆に色めき立つもの。苦々しく眉を顰める者。

 多くの支部長たちは他人事であり、運営陣は眉を顰める。そうであれば、色めき立つのは一体だれなのか。

 

「アメリカ軍のハワイ奪還作戦への派兵についてだけど、まずは準備状況教えて貰おうかな。」

 

 それは海外に家族や友達を残した人間の取りまとめ役に他ならない。

 そう、食料・資源・製造まで含めた半終末体制の構築についての話し合いは前座に過ぎない。

 ガイア連合の首脳部ともいえる人員が雁首揃えて会議をしている理由。それはアメリカから日本政府を経由せずに要請された『ハワイ奪還作戦』への義勇兵のについてであった。

 

「アメリカ軍のオカルト適応を担当している藤原から報告させていただきます。

 まずアメリカ軍が派兵する兵力は二個空母打撃群・二個遠征打撃群ほか艦艇合わせて四十隻ほどになります。艦艇の終末対応は横須賀・佐世保・呉の三か所で進めており、今月中に全艦艇の簡易概念保護が完了します。

 同時進行の航空機への簡易保護も同時期に終了しますが、実験データの不足から異界法則下で十全に稼働させれる保証は出来ておりません。これについては米軍側も了承しています。」

 

 派遣する二隻の空母は一隻が元から日本に配備されていた空母で、もう一隻は協定成立後に追加派遣されて艦だ。彼らの代わりに、日本には中東から退避してきた艦隊が守りを固める。遠征打撃群も似たようなものだ。

 

「続いて覚醒者戦力は参戦メシア教徒、約二百名。平均はLV10を越えません。彼らは主に海兵隊が上陸した後の基地制圧に使う予定ですが、司令部としては期待していないようです。」

 

 メシア教謹製悪魔召喚プログラムを使用している彼らを、米軍上層部は胡散臭く見ている。

 それは『悪魔』を使役しているからではない。彼らが『メシア教徒』であるからだ。

 核ミサイル発射後、憔悴に痩せたせいですっかり鬼気迫る顔が板につき始めた将官たちは、本国からの情報に憎悪すら通り過ぎた感情を彼らに向けている。

 それでもメシア教徒を参戦させるのは、彼らが未だに“合衆国軍人”だからだろう。

 

 政府首脳陣も知らない突然の核攻撃にその報復。そして、悪魔所出現。

 寝耳に水の事態であったが、どうにか首都への攻撃を防いだアメリカ軍は現在首脳部を南部ヒューストンに移動させることに辛うじて成功している。

 それは、核攻撃を()()()()()()()()()()『メシア教穏健派』の助力のおかげであった。

 であるが故に、アメリカ政府はメシア教穏健派と協力路線を継続するようであった。政府から軍へメシア教との協力を要請し、軍はそれを受理しする。

 笑える事に軍内からメシア教への傾倒が強い人間を選抜しての『特殊部隊』設立の動きがあるというのだから、どれだけ危うい均衡の上での協力か見て取れるのだが。

 

「米軍が本命としているのは、呉で錬成を積んでいる海兵隊デモニカ部隊になります。現在の配備数は2500。空母航空隊のパイロットと一個遠征軍への配備が完了し、そのレベルを上げているところになります。呉支部でのデモニカ生産量はおおよそ月3000なので今月中に全員への配備は不可能ですが、ブラックボックス以外の筐体には余裕があるのでブラックボックスを回して頂けるのであればその分上陸部隊に配備できます。」

 

 自衛隊デモニカ部隊の人間とナインズをつけて異界巡りをさせているが、作戦開始までにどこまで上げることが出来るだろうか。

 確か自衛隊で一番LVの高いデモニカで10を超えたぐらいで、成長速度から見ると時間を取ってLVを上げる意義自体は低い。なので私は出来るだけ多くの人間がLV0から卒業することを祈っていた。

 

「米軍の準備は万全ってことでいいんだね?」

 

「はい。米軍がこれ以上準備できることはありません。」

 

 正確に言うならばグアムからの敗残兵の戦力化で兵数は増えるが、それには時間がかかる。

 今、このタイミングで事を起こさないのであれば、次の機会は何時になるか分からない。

 

「みんなが聴いたように、ボクたちが手を出さないでもアメリカ軍はハワイを奪還する気があるんだ。その上で、彼らは天使に対する戦力としてガイア連合に協力を求めている。

 ――無視できない問題をちらつかせてね。」

 

 神主からの視線にプロジェクターを起動する。映し出されたのは日本を中心とした地球儀だ。

 

「問題について説明する前に、ガイア連合独自のミサイル迎撃網について説明させていただきます。現在、ガイア連合は太平洋側は関東を中心に北海道東部まで、日本海側は北海道から九州まで分散して迎撃のための戦力投射設備があります。」

 

 地球儀に浮かぶ光点は式神打ち上げ地点だ。日本海側は等間隔にポツポツとあるのだが、太平洋側は関東に集中している。

 

「これは、西からのミサイルは中露が警戒対象であり、東からのミサイルはアメリカが警戒対象であったからです。」

 

 地球儀に引かれた線が中露からは日本海を好き勝手しているしているのに、アメリカからは北から関東までを降り注ぐ線しかない。大陸間弾道ミサイルの射程の問題から関東以西を狙おうにも関東近辺を通るのだ。

 

「今回問題となったのが二点あります。先ず一点目はアメリカから発射された大陸間弾道ミサイルの早期探知にハワイが必要な点です。先日のミサイル発射時、ハワイはまだ過激派に支配されていなかったため、ミサイル探知情報を自衛隊へと送信していました。それが無くなっている現状、ミサイルに対応する時間が半分以下になっております。」

 

 ハワイが占領されてからすでに何発か様子見の様に撃ち込まれているが、海上自衛隊で迎撃は出来ている。しかし、迎撃のために張り付いている自衛官の消耗が激しいとゴトウから警告が来ているのだ。

 

「問題の二点目はハワイから日本への攻撃です。考えられているのは爆撃機による空爆・停泊していた空母による爆撃・潜水艦によるSLBMの三つです。この内、もっとも厄介であるのが空母と潜水艦による攻撃で、ガイア連合の迎撃準備の整っていない関東以西の太平洋側から攻撃される可能性があります。勿論、自衛隊の迎撃用意はあるため、今すぐ危険という訳ではありません。」

 

 言うか迷ったが、半終末到来当日グアムに寄港していた戦略原潜に“通常の命令系統ではない”場所から日本への核攻撃を命令されたという事実がある。命令された艦長が抗命し、事実確認を行ったので大事に至らなかったが思わぬ被害を受けていた可能性もあったのだ。

 

「以上の二点の解消はガイア連合にとっても利益になると思われます。」

 

「ゴトウ陸将からもこれからの在日米軍との連携を考えるならぜひ協力してほしいと言伝を預かっております。」

 

 私の言葉に続いて『自衛隊ニキ』と呼ばれる転生者が発言する。

 ちょっと鼻にかかった甘い声。どう聞いても可愛い女の子の声は悪魔変身しているからだ。

 彼は平日はほとんど変身できないため、ガイア連合に用がある時は多くの場合変身しているらしい。今日もフリフリのロリータファッションに身を包み、緊張した表情が発言が終わるとやり切った達成感に満足げになる。おそらく人格ごと入れ替わっているのだろう。

 真面目な会議に何やっているんだと思うが、こちらの方が“俺たち”受けがいいので一種の印象操作だろう。理屈よりも情実を重視するガイア連合への広報官としては今の姿の方があっている。

 それを考えたのは誰であるか。

 自衛隊で政治も出来る人間と言えば、それは考える必要もない相手だろう。出来る最善を為そうとする姿勢は相変わらずのようだ。

 

「ガイア連合内からも海外遠征希望者を主に義勇兵の選抜は終了している。この場で許可を貰えればガイア連合からの支援は必要ない。ぜひとも許可が欲しい。」

 

 彫の深く険しい目つきに血を感じさせる荒んだマグネタイトの気配。勇んで言葉を発した海外遠征希望者のリーダーは、最近幹部扱いされ始めた新顔だ。

 

 海外遠征希望者――それは連絡の取れる取れないの違いはあれど、海外に親兄弟他大切な人間を取り残してしまった人間の集まりだ。

 彼らの始まりは小さなことだ。

 渡航制限により海外との行き来を禁止されている今、海外で取り残される人間が出来るのは仕方がない事であった。その事に一般人でしかない多くの転生者は文句はあれど心配を胸に日本で日常を過ごすはずだった。

 

 一人の転生者が現れるまでは。

 

 LV10代で燻ぶっていたある転生者が、海外で行方不明になった友を探すために連日修行に籠ったのだ。

 一日二日と籠り始めた頃は放置されど、三日四日と経つうちに心ある転生者や運営が止めに入り、一週間と経つと運営も諦めて支援を始めた。

 余りに無謀な修行。己の身を鑑みない奇異な姿は、多くの転生者たちの口に上ることになる。その結果、彼がなぜあんな荒行をするのかという話は急速に周囲に広まる事になった。

 『海外に友がいる。』

 ただの一言。その一言が誰かの火をつけたのだ。

 同じ境遇の同類が同じ様に修行を始め、その姿を見たものがまた同じ様に修行をする。志は同じでも戦えない転生者が装備やアイテムの支援をし、放っておけなかった人間もそれを真似る。

 そうして人の輪を繋ぎ、数が増え。

 今では最初の転生者が旗振り役を務めて纏まった集団になったのだ。

 

 地方では名前を知られぬ人間だが、山梨ではすでに『海外遠征ニキ』などと名を知られ始めている。

 その彼も、今回の義勇兵には当然に参加を表明していた。今回の作戦が上手くいけば日本からアメリカへの航路が開けるのだ。彼の探す友達が出張で向かった先がアメリカなので当たり前と言えば当たり前であった。

 

「説明は以上でいいかな? じゃ、質疑応答を始めようか。」

 

 神主の進行にざわめきと共に幾らか手が上がる。その質問に、私と運営、それに自衛隊ニキは一つ一つ答えていく。

 例えばもっと準備するべきではないかと問われれば、これ以上時をかけると航空機を使えなくなる恐れがあるのでこちらの戦力が一方的に減ることを伝え、ガイア連合が人を出すことはないのではないかと問われれば、それでもかまわないがそれで攻略が失敗した時は日本を守る戦力が減ることを伝える。

 その他にも質問を答えていくと会議場の空気は消極的賛成へと傾いていくのが分かる。

 

「じゃ、決を取ろうか。反対の人は挙手~?」

 

 挙手が無い。そのことに内心溜息をつく。

 ああ、また出張だな、と。

 

「それじゃ、ガイア連合としてではなく、ガイア連合員の自主的な参戦を許可ってことで。」

 

 ガッツポーズする海外遠征ニキや一仕事したと息を吐く自衛隊ニキを見ながら、私は帰って来た時に溜まっている決裁を想像して、今度は隠さず溜息を吐いたのだった。

 

 




違和感を持たれるかもしれないので先にQ&Aを。
Q.なんで半終末前に資源を掘ったりしていないの?
A.各種資源合計で何万トンもの物資の出所を誤魔化すのは難しいから。
 半終末後はオカルト全開でごまかしますが、それにも労力が必要です。
 現代社会の資源消費量はすさまじいですね…。

Q.米軍の核を気にしてるけど機械は動かないんじゃないの?
A.半終末開始直後なので止まることがありますが、まだ動いてます。
 これからどんどん動かなくなっていきます。
 船と違って飛行機は一瞬の停止でも危険なので、現在のパイロットは命がけです。

海外遠征ニキは原作の『リアルバットマン』『狩人』と呼ばれている彼です。
今回の話しではまだ海外に出てないので、あだ名も違うものにさせていただいています。
私の話しでは、彼は半終末到来まではLV10代の普通の覚醒者だったのが、友達が海外で行方不明になったのでガンギマリして一月ほどでスカウター破壊者になった設定です。今はまだ友達を探すことだけが目標ですが……。
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