【カオ転三次】DRUG FATE   作:石は転がる

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幕間29

「事前準備期間に配られたデモニカの事を、俺たちパイロットは皆『マジックスーツ』って呼んでたよ。」

「パイロットスーツの代わりに着ただけで耐Gが上がったんだ。それまでなら意識を失うような機動でも、あのスーツさえ着れば機体の方が持たない様な軌道が取れた。だからみんな『マジック』だって言ったのさ。」

 

「今じゃ『女神の祝福』って呼んでるけどな。……おっと、これは彼には内緒だぜ?」

 

 空母航空団所属パイロット

  作戦準備期間を思い返して

 

 

「え、デモニカ配備時の事か? あん時の事は思い出したくもないね。」

「デモニカ渡されて、訳も分からずに異界に放り込まれたんだから。」

「その後もひどいもんだ。日本じゃああいうの何って言うんだっけ? 『月月火水木金金』だったか? 二か月間ぐらいろくに休暇があった覚えがないな。」

「ああ、でも、それでよかったかもしれないな。うちの部隊にも家族が行方知らずの奴が大勢いたからな。疲れて頭も動かせないのは落ち着くのに必要だったと思う。」

「俺かい? 俺は親父ぶん殴って軍の門を叩いた人間だからな。嫁さんも日本に付いて来てくれていたし、嫁さんの実家の心配はあったが、まあ、マシな方だろうよ。」

「で、続きだな。異界で今まで空想だった悪魔と殴り合うのに慣れた頃には作戦開始だ。たいして面白い話も無い。」

 

「ただそうだな。俺の知ってる面白い話って言うなら需品科の奴らが弾薬使用量に悲鳴を上げてたってぐらいかな。」

 

 海兵隊で最も初期にデモニカを部隊配備された部隊員

  手加減の無い弾薬消費を指導員の陸自が羨ましそうに見ていたそうだ

 

 

「話には聞いてたし輸送船に駐機しているのも見ていた。だけど、実際に飛ぶのを見たのは作戦が始まってからでさ。」

「俺たちのホーネットを先導するように飛ぶのを見てみんな好き勝手言ってたかな。『ファンタスティック』やら『オーマイガー!』やら『流石日本人だ!』やら。ああ、でも一人だけ面白いこと言ってたやつがいたな。」

「『――神の御名において是を鋳造す。汝ら罪なし。』。

 人が人を救うために鋳造した神なる者だってな。」

「そんぐらい神々しかったよ。なにせあれだけが仲間を救ってくれたんだ。あれを見れただけでもあの作戦に参加した甲斐があったな。」

「そうさ。俺たちだけじゃ救えなかった。」

「敵の…というと今でも違和感があるんだが、相手が繰り出してきた第一波のミサイルを楽々撃ち落として彼は言ったのさ。」

 

「『あなたはそこに居ますか』、そして『お前はそこにいるだろう』って。」

 

「いやぁ、痺れたね。」

「通信機越しじゃない。直接向き合って問いかけられたような声だった。それに俺は、俺たちは答えたのさ。『俺はアメリカ人で、アメリカ人を守る軍人だ!』ってな。」

「その問いは俺たちだけでなく相手にも届いていた。その問いだけで半数以上の戦闘機が編隊から離脱したよ。」

「いや、驚いたよ。元々ブリーフィングで聞いてはいたが本当に正気に返ったんだから。同時にデータリンクにはバンディットとボギーに分けられた情報が流れてきていた。」

「ん? ああ、わからんか。早い話“狂信者”と“洗脳兵”が区別されたんだよ。離脱したの以外にも洗脳兵はいたかな。後で聞いたら突然意志を取り戻したはいいが混乱して直進飛行してたらしい。外から見てもさっぱりなのによく区別できたもんだ。」

 

「俺は今でもあの戦いに参加できたことを誇りに思っているよ。あれは“正義”だった。今の俺たちは力及ばず苦渋の選択をする事もあるが、“正義”は必ずあるんだって信じられるからな。」

 

 空母航空団所属パイロット 作戦第一段階の制空権の奪取時のMk.Seinについて

  日本からの攻略部隊を迎撃するために上がった敵戦闘機のパイロットの多くは、

  『簡易洗脳』か『天使の羽』を埋め込まれた状態で従軍していた

 

 

「実のところ、あの日の事はよく覚えてないんですよ。」

「ああ、私は所謂“洗脳兵”だったので。私は核ミサイル後のごたごた時に洗脳された口です。え、ああ、大丈夫ですよ。ちゃんと検査もカウンセリングも受けて太鼓判を押されてます。」

「我がことですが、ハワイ奪還戦で助け出された洗脳兵は社会復帰に問題ない人間が極めて多いそうです。女神の加護ですね。」

「話を戻しますね。ええ、私は迎撃に出た側でした。あの時の私は愛機のイーグルの中で“天使様”に逆らう愚か者を血祭りにあげることに興奮していたことは覚えています。」

「艦隊を守るべく先行してきた戦闘機部隊。その先頭に彼は、あの機体は居ました。」

「全高が何メートルだっけ? 確か自由の女神と同じ高さだって聞いたな。そんなに大きなものだからレーダーにもくっきり映ってたはずだ。頭の可笑しくなってた俺たちは勇んでミサイルを撃ちまくってたっけ。訓練したことなんて全部吹っ飛んでた。本当に思い出すだけで恥ずかしい。」

「そんなミサイルも全部バカでっかいバルカン砲に撃ち落とされたって聞いたな。ああ、そうだ、それからだ。」

「見えるはずのない遥か先から手を伸ばされたんだ。『あなたはそこに居ますか』って。こんにちは、って握手でもする様な問いかけ。」

「それで、急に怖くなったんだ。私は、俺は、そこにいるのかって。背筋が凍って、操縦桿からも手を放して自分を抱きしめた。天使様、天使様、助けてってな。笑っちまうだろ?」

「そんな情けない俺の横っ面を叩く声がしたんだ。『お前はそこにいるだろう!』って。ああ、そうだ、俺はそこに居たんだ。急に頭がすっきりして、なんでこんなとこ飛んでるんだって疑問が浮かぶ始末さ。」

「それからは艦隊の誘導に従って機体を捨てて投降したって面白みのない話さ。」

「捕まって診察とか受けた後は同僚と一緒に何だったんだろうなって頭捻ってたよ。余裕がないとかで一部屋に詰め込まれてたしな。」

「暇だったんでお互いに頭やられちまってた時の姿を揶揄ったり、何度かあの瞬間の事をみんなで議論していたんだがその時かな。その頃には一応監視に残ってた兵も打ち解けていてさ。そんな歩哨が自慢げに教えてくれたよ。」

 

「ナンシェ・リーが救ったんだって。――ああ、ちゃんと本当の名前は知ってるが、こっちの方が俺たちには通りがいいだろ?」

 

「で、なんだっけ? そうそう、彼は日本のガイア連合?とか言う“正義の味方”の一員で、『洗脳されている相手と分かっていても、正義のために殺さなくてはいけない。』、そんな忸怩たる思いを抱えていた俺たち米兵を救うために手を貸してくれたんだって。」

「普通何言ってんだこいつってなるはずだけど、俺たちみんなストンって納得したんだ。ああ、そうだ、あの時良い様にされていた自分を助けてくれたのは彼だったなって。」

「なんて言うかな。あの時、俺に憑いていた“悪霊”を、俺を助けるために引き受けてくれたような、そんな光景が俺たちの中にはあるんだよ。」

「そうだ。その場にいた捕虜の皆がそんな光景を覚えていたんだ。はは、集団幻覚って言われても否定できないかな。」

「でも“悪霊”を払い、横っ面叩かれたから俺たちは『人間』でいられるだって思うんだ。」

「今、自分の意志で、人間の自由のために戦っていられるって。」

 

「俺たちにとっては、あの機体こそが、彼こそが“自由の女神”なのさ。」

 

 ハワイの空軍基地から迎撃に上がった敵パイロット

  上陸前の制空戦は攻略部隊を一機も落とせずに終了していた

 

 

「あの作戦はそんなにいいもんじゃなかったぞ?」

「なんせ空軍基地に強襲して核保管庫の奪還だ。人員輸送のヘリは落とされるのが前提。実際にあの時はバタバタ落とされたもんだ。」

「え、俺? 俺も陸地にもたどり着けずに落とされた方さ。」

「ハハハ、化けて出たりしてないさ。あの時の海兵隊はデモニカを最優先配備されていてな。作戦までに突貫でレベル上げまでさせられて、休めたのは日本からハワイに向かうまでの船の上って状態だったな。」

「しかも上陸の人員にはマーリンSPとか言ってミッションパックまで配られていた。それが何だったと思う? えっ、銃撃無効? お前、随分と耳が良いな。俺らにもほとんど回ってこないスキルだぞ。」

「ああ、違う違う。マーリンSPってのはな、水上歩行用特殊装備さ。海に落ちたんなら走って陸まで行って戦えってさ。まったく、ひどい話だろ?」

「そんなもんがあったせいで落ちたからって休めずに降下人員もヘリのパイロットも装備担いでひーこら言いながら陸を目指したもんだ。」

「陸は陸ですごかったよ。我らが女神さまにバカスカミサイル打ち込まれるは羽虫が――ああ、天使の事だ。俺らはそう呼んでんだ。で、あいつらが群がってきてるはしっちゃかめっちゃかでな。」

「俺ら海兵隊の仲間ものんびり降下なんてしてられなくて、上空から転がり落ちて必死に建物目指してた。生き残った攻撃ヘリが援護のために天使相手にぶちかましてる中、気合入った輸送ヘリのパイロットなんざ格納庫の天井にヘリを突っ込ませてたな。」

「そんな狂乱だったが楽は楽だったな。相手の上陸阻止人員の半分ぐらいはわたわたしてるだけで使い物になっていなかったし、素直に投降してくれたからな。しかも偽装投降の狂人共は丸ッとお見通しだったのは今思えば楽園のような戦場だった。」

 

「おう、そうだ。女神さまからのデータリンクさ。好き放題攻撃されて黄金の血を流しながらもしっかり仕事をなさっていたってこった。女神様様だぜ。」

 

 ハワイ基地へのヘリボーン部隊の一人

  ヘリの未帰還機が八割を超える大惨事であったが人員の損耗は極めて軽微であった。

  損耗理由も天使との戦闘が主であり、墜落での死亡者は計上されていない。

 

 

「ハワイ奪還作戦はその極めて軽微な損耗から綿密な計算の上で行われたと皆さんは思われています。」

「ですが、実際はそんなことありませんでした。」

「ただでさえ絶望的な世界情勢に、音信不通となったアメリカ各地との通信。」

「そこに加えて太平洋艦隊の司令部との連絡途絶は艦隊の士気をへし折るのに十分な事態でした。そうでなければ大統領府からの要請だったからと言ってあれほど投機的な作戦は承認されなかったでしょう。」

「集めた空母打撃群と遠征打撃群をもって航空優勢を確保し、直接上陸部隊を滑走路に送り込み占拠。そのまま勢いで港を制圧するなど作戦ですらない無理押しです。そう理解しながらも、我々は動けるうちに動くしかなかった。」

「当初のシミュレーションでは上手く行った時でさえ投入戦力の六割が消失。残った戦力は再編しても二割にまで減少とのものでした。これですら敵“天使”の想定を低くしてのものです。実際の戦場では想定兵力以上の“天使”がいましたので、我々はただの無駄死に――いや、それよりもひどいことになっていたでしょうね。」

 

「だからこそ、彼らの、彼の助力が我々にとってどれほどのものだったのか。私は彼に感謝しない日は無いのです。」

 

 臨時編成の攻略部隊司令部の作戦参謀 “救われた”人間

  たとえ艦隊が全滅してもハワイを奪還、もしくは戦力の撃滅を行い『日本―アメリカ』間の

  航路の安全を確保することがアメリカの生存に必要不可欠だと理解していたがため、

  仲間を生贄に捧げる覚悟で作戦を決行した。

 

 

「作戦は順調すぎるほど順調に進んでいた。」

「飛行場の占領以前にパイロットの洗脳が解けて敵航空戦力は壊滅したし、陸だって同じようなもんだ。まともになった人間は逃げ回るかこちらの誘導に従って味方になってくれた。」

「敵の天使は我らが女神に夢中でこそこそ動き回る我々を無視していたんで被害も少なかった。」

「ガイア連合からの義勇兵が敵の中枢に殴り込みをかけ、霊地を占拠したのは夕暮れ時だったな。」

「ずっと女神に纏わり付いていた“天使”の数が、その頃にガクッと減ったのが外から援護してたこちらにはよく分かったよ。」

「綺麗な夕日だった。市街地に被害が出ない様に海沿いの滑走路で戦っていた女神が、まるでもう一つの太陽の様に光り輝いていた。傷つき流された血が夕日を跳ね返すのとは別に、傷を覆っていた結晶がキラキラと瞬いて得も言わぬ美しさを醸し出していた。」

 

「ああ、神って、こういうもんなんだなって、思ったもんだ。」

 

 海兵隊上陸部隊の一人

  正午前後から始まった戦闘はガイア連合有志の霊地占拠により夕方ごろになって終結した。

  これ以後は地脈を断たれた天使たちと狂信者を殲滅すべく“狩り”が行われている。

  陰鬱とした礼拝堂に獣と化した者たちの残骸。血臭すら腐り落ちた冒涜の坩堝。

  その戦闘から『海外遠征ニキ』は『狩人』と呼ばれる様になったのだ。

 

 

「碌に完熟をしていない装備に糞みたいな戦場。敵は仲間に天使ときたもんだ。」

「成功の確率が低い作戦。その先頭で我々海兵隊先遣部隊は捨て駒として利用される。」

「それならば……それならば、せめて一緒に死んでやるかと思ったのだ。」

「いい歳してデモニカ着込んで銃を担いだのはそのためだった。得体のしれないスーツに命を預けさせるのなら、俺も同じように命を掛けようとな。陣頭指揮と言ったらカッコが付くか。」

「もっともデモニカは想像と違って素晴らしい兵器だったし、作戦後も愛すべきバカ者どもは何故かどいつもこいつも得意げな顔で生き延びていた。全くしぶとい奴らだ。」

「だからかな。気まぐれにその立役者になったガキに感謝の一つも告げてやろうかと思ったんだ。」

「血のように赤い夕暮れだった。クソッタレな羽虫共が殺された恨みで空を染め上げたような、そんな紅い世界。『空軍基地一帯の安全は確保したんで休憩ぐらいどうだ』って誘ってみたらホイホイ降りてきて、逆に俺の方がおいおいって思ったよ。自分の安全に無頓着すぎるってな。」

「機体の腰あたりかな? そこから垂らされた紐で降りてたのはジュニアスクールにでも通ってそうなガキに、それに寄り添うハイティーンぐらいの乳臭い女だ。」

「あん? 元々有名人? 知るかっ、そんなこと。で、なんだ。真っ赤に染まった世界であのガキだけが真っ白で驚いたな。」

「髪も白けりゃ肌も白い。胸を押さえてあまりに顔も白いんで大丈夫かって近寄ってみたら案の定よ。滑走路にげーげー吐きやがった。連れの女が背中さすってるし、ちょうど水を持ってたからやろうかってさらに近づいたらさ、見えてしまったんだよ。」

 

「血反吐と一緒に吐き出してる羽虫共の羽がよ。幾つも幾つも何処に入ってたんだってぐらい山盛りな。」

 

「そうだ、あのガキ、ハワイにいる何万って人間すべてにかけられた『天使の呪い』ってのを全部一人で背負っていやがった。俺らが能天気に助かった仲間と笑いあってる横で、一人でな。」

「成功体験ってのか。下の連中に、下手したら上にもあのガキの力を借りたいって言ってる奴がいる。クソッタレな羽虫共に洗脳された仲間を助けてほしいってな。冗談じゃない。」

 

「俺は、俺は誇り高き海兵だ。一生な。だからあんなガキにおんぶ抱っこになるつもりはない。祖国を取り戻すのも、国民を救うのも我々の手で行うべき『明白なる天命』だ。ガキはママのおっぱいでもしゃぶってろってな。」

 

 海兵遠征部隊の指揮官

  ハワイ攻略後、続けて部下の海兵隊と共にパナマの制圧に成功。

  ヒューストンの臨時政府への航路の構築に尽力した功績で勲章を得ている。

  彼は今もアメリカのどこかで部下と共に銃を片手に戦い続けている。

 




この作品では『イタチ』の話に受けた驚愕がそのままデモニカの強さに繋がってます。
決して上位転生者と同じには成れなくても、デモニカを着込んで覚悟を決めた連中はハリウッドの銀幕で戦うヒーローと同じぐらい強いです。

今回の主人公がやっていた洗脳解除は自身を形代とした呪い移しです。
『洗脳された敵と“同化”→呪いを引っ掴んで自分に移す→自力で呪いを解除』
という力業での洗脳解除になります。
戦場で敵対している相手に悠長にカレー喰わせる暇なんて無いから仕方ないですね!
(え、カレー以外使え? アイテムだって使えないから誤差です!)
洗脳の治療は米軍の信頼を稼ぐ事により、出張する転生者を助けてもらうための行動です。
この後、米国には海外遠征に行く転生者がいますからね……。

証言中の『黄金の血』について
原作ではMk.Sienの衝撃吸収剤として重層水銀が使われておりますが、呉謹製のMk.Seinは水銀の代わりに金を含んだ混合物が使われています。
これはMAGの循環路としての役割を兼ねているためです。
機体が巨大な事から使用されている衝撃吸収材の量も多く、金だけでも100億円分ぐらい使用してます。
金鉱を持っていなければ建造できなかった使用量でしょう。
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