【カオ転三次】DRUG FATE   作:石は転がる

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今回の話しは半終末開始三か月目ぐらいです。


59話

 

 空を飛ぶ。

 青い、青い空だ。眼下には白く雲が流れ、遮るものの無い日差しが身を焦がす。

 ロシアの大地に生えている針葉樹林の森には白いものが積もり、上空からでは白い大地に見えている。

 雪だ。日本でも今年は積もったが、北の大地では例年と同じ光景として地表を覆っていた。確か北極圏にほど近い眼下の地上では、三月から四月に入るまでは雪が姿を消さないはずだ。

 文明の火が消えかける中、あと一月以上寒さに身を震わせている人間が、この眼下には居るのだ。

 

 風に逆らい、空を飛ぶ。

 感傷。それを抱かせる光景が、延々と先まで続いている。

 寒い世界だ。同じ純白に身に纏いながら思う。

 見渡す限りの大自然に人の痕跡は見えない。それは元々人口密度が低いという事もあるが、すでに人の生きていけない環境になってしまったという事でもある。

 

 私の知覚。それですら曖昧に捉えては見失う存在。

 悪魔のせいだ。

 上空から見下ろす世界にチラリチラリと見える存在はここからでも距離がありすぎて、蜃気楼のように曖昧に世界に溶けこむ。

 飛び込む光景を眺めるだけの受動的探知。知覚を刺激する気配に焦点を合わせたレンズが、無機質に悪魔を覗き込む。

 成層圏から高度を落としたおかげで、初めは見えもしなかった悪魔を観測出来る様にはなった。相手に気が付かれないように観測出来るのは、現状では対流圏からが限界のようだ。

 通り過ぎる風景に映りこむ悪魔を、極短時間の観測で情報を集める。

 現状確認。すでに変わり始めた世界だが、ガイア連合の把握している情報は数少ない。その情報もメシア教徒多神連合に依存している部分が大きいがそのどちらの勢力も完全に信用できる相手ではない。なので、ガイア連合も独自に確証のある情報を集めるようにしているのだ。

 尤も、ガイア連合製の悪魔召喚プログラムが広まり始めているので、そこから情報が集まるようになるまでの辛抱だろうが。

 

 飛ぶ者の居なくなった空を轟音を上げて飛びながら物思いにふける。

 地上から見れば白い飛行機雲を棚引かせ、白い大地の上を通り過ぎる白い機体が見えるだろうか。

 いや、レーザーサイトに引っかからない様に電波は吸収しているし、視覚的にも弱い認識阻害をかけているので非覚醒者には見えないか。まばらに存在する集落の見張りが覚醒者でなければ、地上では吐き出された音だけが雪に溶けていくのだろう。

 見えたところで一体何に見えた事か。巨大な箱の先頭にくっついている人型は巡行のために腕を前に伸ばし脚を背に逸らしているので、見上げた視界ではミサイルの亜種ぐらいにしか見えないだろうか。

 ――或いは、白い閃光だろうか。

 

 

 機体名称『ホワイトグリント』。

 Mk.Seinに変わる戦闘用の機体として開発された新型機は、あるゲーム中に登場する機体の再現機だ。

 コジマ粒子整波装置の代わりに取り付けられたMAG整波装置によるプライマルアーマー、推進術式の多重化によるクイックブースト・オーバードブーストを完備。

 Mk.Seinにあった精神波レーダーは戦闘への適合を考えオミットされたが、パッシブセンサーやステルス能力がMk.Seinよりも充実している。その変更により、無差別強制的な“同化”は不可能になったが搭乗者自身への干渉に強くなっている。

 

 再現された機体ではあるが、その性能は原作と比べても確実に上だ。

 例えば速度であれば質量操作に慣性制御、空気抵抗の削減など機械化された術式が稼働し、停止からの瞬発速度でマッハ3を超え、オーバードブーストであれば低燃費の巡航速度でもマッハ2を叩き出す。

 防御力も素の神主に殴られて“装甲が歪んだ”程度で済むのだ。呉技術部の総力を上げたこの新型は、生半可な機体ではないと断言できる。

 

 今日はその機体の後ろに魔改造VOBを装着している。

 VOBとは呼んでいるが、それはゲームとは別物だ。

 まず全体が二回りほど大きくなっている。ブースターは左右に大型ブースタ二つずつと姿勢制御用サブブースターに削減。コジマ粒子を満載したタンクも飛行に搭乗者のマグネタイトを使用するために削除している。

 そうして空いた空間はコンテナを幾つも積み込める貨物室になっている。VOBの底部には降着装置も設置されていて使用後に放棄することも無い。そのため、外殻は当然の様に装甲で覆われている。

 誰が見ても完全に貨物輸送用のパッケージだ。辛うじて巡行最高速度が無装着時よりも上昇してる事でなんとかVOBの名の面目を保ってるような物体であった。

 

 わざわざそんなオプションをつけてロシアの上空を飛んでいるのは『御届け物』の配達の為だった。

 あえて名乗るなら藤原運輸特別航空便だろうか。飛行機が止まり航空輸送が出来なくなってしまった世界で唯一(?)の航空便だ。

 今回のお届け先はイギリス・コーンウォール。半終末到来後に海外に移住したもの好きなご家庭への御届け物だ。

 送り主はガイア連合からで、内容は支援物資となっている。

 VOBに積んだ12本の20ftコンテナにはデモニカとCOMPに加えガイア連合製の銃器に薬品と、今のイギリス――いや、海外全てか――において必要とされている“戦力”を増強するための物が満載にされている。

 それを少しでも早く届けるための航空便であった。

 

 そのため、採算と効率は少しばかり棚に置いている。

 通常一月は掛かる船便と比べると、日本を出発した当日に到着する代わりに一度にコンテナ船の数百分の一から数千分の一しか運べない。

 しかも片道約四時間、積み降ろしと休憩を挿むと拘束時間は丸一日となるので、私を一日雇うだけの日当も必要だ。燃料費として航続分のマグネタイトの上乗せを考えると、商売としてやるなら一度のフライトで一体何億円動くことになるやら。

 同じ転生者仲間へのサービスでなければ到底実現しない贅沢な配送であった。

 尤も、今回の初配達が平穏に終われば、明日は地中海で明後日は中南米にお届け予定である。有難みもあったものではない扱いだ。

 

 

 空を飛ぶ。

 一機で音より早く飛ぶ空は、遮るものも阻むものもない自由な空だ。流石に悪魔も用も無く雲の上までやって来はしないらしい。

 退屈なまでに順調で快適な旅が続く。

 何事も無く延々と続く白い大地を飛び越え海を越え、再び大地と海を越えればそこが目的地だ。

 大陸と面する海岸線ではなく大西洋側の海岸線。瓦礫の町を通り過ぎり、島の西端に位置する田舎を拠点としているらしい。

 よほどアーサー王伝説に思い入れがあるのか、伝説所縁の地をわざわざ使っているみたいだ。

 他の転生者にも思うのだが、“伝承を利用する者は伝承に利用される”事を理解しての活用なのだろうか。まあ、転生者本人に文句が無いのであれば部外者が口を挿む事はないが。

 

 高度を落としながら減速を掛ける。揚力で飛んでいないのでブースターの絞りは慎重に。

 そうやって自機に意識をやりながらも首を巡らし世界をにらむ。意識を四方に向けるのはこの瞬間が一番危ないからだ。

 触覚に触れる天使の気配。海から這い出て何故か地上を闊歩する生臭い狂気の気配。

 上空を通り過ぎたかつての首都に我が物顔で居座る糞共の気配は、ここが安全な場所でないと嫌でも思い出させるものだ。

 我が物顔と言えば人の事は言えないか。領空を好き勝手飛び回っているのはこちらも同じだ。

 一応誤って人類勢力に攻撃されない様、軽い認知阻害を掛けているが警戒レーダーの波長すら探知できないのはどうなっているのか。完全に剣と魔法の世界に逆行してしまっているのだろうか。

 

「2B、イギリス支部への連絡お願いします。」

 

「了解。『こちらガイア連語呉支部所属、ホワイトグリント。誘導指示願う。繰り返す、こちらガイア連合――』」

 

 向こうから見つけて呼びかけてくれると思っていたが、警戒体制そのものがまだ出来ていないのかもしれない。統制は取れているのか心配になる。

 速度を落とすために下方に吐き出した推力に、通り過ぎた後に地表の緑が揺れる。丘陵地帯に広がる緑は冬麦だろうか。麦であれば、まだここに人間が居ることの証左になるのだが。やけに多い妖精や地霊などの自然系悪魔の気配を横目に着陸地点を探す。

 

「9S、降下地点で合図を上げるそうだ。周囲に目を配ってくれ。」

 

「……――ああ、いや、大丈夫だ。人間を見つけた。誘導が始まったら向かうことにする。」

 

 気配探知の範囲に突然人間の気配が浮かび上がった。警戒は一瞬。それをバレない様に何事も無かったかのように空に漂い誘導を待つ。

 こちらから探知の網を伸ばしていなかったとはいえ並みの隠蔽ではない。おそらくスキルによる気配遮断だ。意識下で相手戦力情報を更新しておく。

 円を描くように上空を飛んで暫く待つと、地上から火球が打ち上げられた。それに従い進路を変えて降下する。

 誘導された先は丘と丘の間に存在した小屋だった。広く開く観音開きの木戸を見るに家畜小屋だったのだろうか。石塀に囲まれた中庭は着地には狭い。仕方が無いので重力制御で塀の外に静かに降りた。

 

「おー、ほんとに来たよ。」

 

 日本語で呟いてから小屋を出てこちらを見ながら大きく手を振る人影が一人。その身を包むデモニカはオーソドックスな自衛隊との共通バージョンだ。特徴的なバケツヘルムの面を上げた先に見えるのはアジア系の彫の浅い顔。おそらくガイア連合所属の転生者だろう。

 小屋の中にも何人か悪魔と人間が隠れてこちらを見ている。不意打ちだけは警戒しておこう。

 

『受取人ですね? ガイアカードの提示をお願いします。』

 

「おう、これでいいか!」

 

 指向性の外部スピーカーで話しかけると、デモニカは太もものポーチから出したカードをこちらに提示してくる。

 下部カメラで拡大しスキャン。山梨からのデータと照合し、受け取りの転生者であることを確認する。

 

『はい、大丈夫です。ありがとうございます。』

 

「荷物を貰いたいが俺たちで取り出した方がいいのか?」

 

『指示いただけたらコンテナの積み降ろしぐらいはしますよ。中身はそちらに任せますが。』

 

「それじゃ、こっちに頼む!」

 

 VOBとの接続を解除。ガコンッと固定具の外れる音ともに機体が自由になる。

 弄り回されたVOBはMAGで稼働するので、原作と違って機体のオーバードブースターと接続する必要が無い。そのため、着脱は容易だ。

 VOBの後部ハッチを開放し、中のコンテナを指示された場所に置いていく。塀の外の平坦な大地に並ぶコンテナには小屋から出てきた人員が群がってくる。そして、中身を鞄やカートに詰めて順次北に向かっていく。本拠地をばれないようにするため、受け取り場所は多少離れた地点だったようだ。

 

「トラックを使ってないんですね。」

 

「トラックがもう動かないのか。それか動かす燃料すら惜しいのかもしれない。」

 

 コンテナを降ろしながらふと思った疑問が口につき、それに2Bが推測で答えた。

 まあトラックがあったとしても、下手に荷台に乗せたらそのまま押し潰してしまいそうだ。隙間なく詰めるだけ詰め込んできたコンテナは規定重量なんて気にもしていないのだから。

 たった十二本しかないので当然と言えば当然だが、そんなことを話しながらでもコンテナはすぐに降ろし終わる。

 嘆息。

 届け終わったのですぐに帰りたいが、今度は英国から山梨への荷物がある。今回持ってきたコンテナに詰めて持ち帰らなくてはいけないので搬入作業の間は待たなくてはならない。

 

「暇ですし風でも浴びてきますが2Bはどうします? ここで待っていてもいですけど。」

 

「……はぁ。9Sを一人にするわけにはいかない。私も付いていく。」

 

「それならイギリス観光と洒落こみます? イギリスで商談が無かったので来たことがなかったんですよ。」

 

「初の遠乗りだからってはしゃぎ過ぎ。大人しくしてろ。――第一、今の世界に見て回る物があると思う?」

 

「ロンドンなんてどうです? 上空からだと対英上陸戦第二次あしか作戦後みたいでしたよ。」

 

「ブラックジョークが過ぎる。」

 

 俯き片膝ついた降着体勢を取らせ、操縦席を開放する。

 人々の活気。入り込む外気の臭い。無明の操縦席に射し込む光。途端に五感に飛び込む刺激に肉体が意図せず反応する。

 思わずむせそうだ。機体と肉体の接続を解除していると、光に眩んだ目がやっと体に慣れてきた。

 

 昼の日差しが射したコクピットはひどく狭い。なにせ、二人分の空間を合わせても学校の掃除道具入れ一つ分ぐらいしか無い。

 身体のサイズに合わせてオーダーメイドされた座席に余裕はなく、寝ころぶ様に座ってしまえば機体に固定される様になっている。操縦のための出入力系が完全に廃された空間はまるで棺桶だ。当然Mk.Seinの頃のような空間投影なんて贅沢な物も無く、一度席に着いて出入り口が閉まってしまえば光も無い密閉空間になる。

 ただ、色々と改良も入っていて機体との接続に痛みが無くなっていたり、ダメージフィードバックの肩代わりがあったりと前よりも機能的には進化している。あくまでも10mにまで小型化し、戦闘用に余分を切り捨てた故の空間の余裕のなさだった。

 機体のうなじにある搭乗口は狭いハッチでしかなくロボットアニメのようにカッコよくは搭乗降機は出来ない。パイロットである私としても乗り降りが面倒である。だが、この方が兵器っぽいという事で開発・製造班からは好評だったので、この構造から変更はされないだろう。

 

 這いずる様に体を座席から押し出し外に出る。

 外は日本と同様の冬らしく冷たい風が吹いているが、どことなく匂いが違う。乾いたような匂い、だろうか。なんとも形容が出来ないが新鮮な体験だ。

 2Bが出てくるのを手伝ってから機体から飛び降りれば、上から見下ろしていた時とは違った風景が飛び込んでくる。

 石造りの塀は平たい石を積み重ねただけの素朴なもので、一部が風に吹かれるままに零れ落ちている。苔むした家畜小屋の外観は如何にもイギリス的で写真を撮りたくなる。

 人気がなくなった小麦畑からはウサギがこちらを覗き込み、これで畑の一つもあればピーターラビットの世界だ。そこそこ色んな国を回って来たが、何処とも違う異国情緒にちょっと楽しくなる。

 

「起伏が多いですけどなだらかな丘が続いてますね。きれいな景色だ。」

 

「周囲は人間よりも悪魔の方が多そうだがな。」

 

「ははは、確かに。居住区に人を集めているのでしょうね。どうしても兵力は悪魔の方が揃え易いですから。」

 

「多神連合との呉越同舟か。」

 

「そうでしょうね。“契約”も結んでいない悪魔とよく仲良く出来ると感心します。」

 

 ぱっと見た感じでは呪術的に縛っていない約束による関係だろう。相手悪魔が信義を重んじる相手なら良いのだが、そこまでの関係を結べているのだろうか。

 

「まあ、ワタリガラスが五月蠅く口を挿む事も無いでしょう。」

 

「そうだな。」

 

 適当な柵に腰掛け、煙草に火をつけて運び出しを続ける人と悪魔を眺める。

 梱包も最小限に大量に積み込まれた荷物は整理するのも大変そうだ。一応コンテナ内部に仕切りなどがあったおかげで、開けただけで雪崩打たない事だけが救いかもしれない。仕切りごと持ち運べる覚醒者がいないのが作業員たちの不幸だろうか。

 

「おーい、⑨ニキー、ちょっと話し良いかー?」

 

 ボケっといつ終わるか考えながら眺めていると小屋の方から来たデモニカに話しかけられる。デモニカで見分けがつかないが気配的に受取人の転生者だ。

 話しかけてきた相手に気が付かれないようにまじまじと見るが、改めてダサカッコいいスーツだと思う。牧歌的な光景にくっきりと浮かび上がる金のヘルメットに赤いバイザーが何とも言えない風情を醸し出している。

 スリングで吊るされているのは日本の89式小銃だ。自衛隊からの購入品かガイア連合でのライセンス生産品のどちらかだろう。これを使っているという事はまだまだ霊能者としては半人前かと思えば気配はそこそこ強い。もしかしたら対人を意識しての選択かもしれない。

 

「ええ、大丈夫ですよ。」

 

「おっ、煙草? すまん、一本くれない? こっち来てから全然吸えてなくて。」

 

「開けちゃってても良ければ箱ごとあげますよ?」

 

「え、ほんと! いやぁー、悪いねぇー。うんうん、セブンスターか、いいね、いいね!」

 

 箱ごと渡すと手慣れた様子で自前のライターで火をつけ盛大に吸い込んでいる。一瞬の停止。それから口から出た呼気には、煙と共に万感の思いが一緒に吐き出されているように見えた。

 

「はぁー……生き返る。また吸えるとは思ってなかった。」

 

「今回の便では甘味は積んでますが、煙草なんかの嗜好品はないので欲しければ次の要望にでも混ぜておいてください。国内製造の銘柄なら用意できますよ。」

 

「ラーク好きなんだがもう無理かなぁ…あれ、アメリカだったはずだし。」

 

 溜息の代わりに煙を吐き出した転生者を横目にのんびりとふかす。

 

「――って、そうじゃない、そうじゃない。⑨ニキに聞きたいんだけど他の国ってどうなってるか分かる? 日本の事なら掲示板ですぐ聞けるけど海外事情ってなかなか流れないじゃん?」

 

「そうですね。大雑把でいいですか?」

 

「オッケオッケ、適当によろしく。」

 

 聞かれたので頭の中で軽く纏める。ガイア連合も最初の混乱から脱した後はそこそこ世界情勢を理解している。しかし、特に機密になるような話はないが情勢が混沌とし過ぎていて説明するのは難しかった。

 

「あー、まずはイギリスに近いヨーロッパから話しますか。

 ヨーロッパは各勢力が入り混じっていてぐちゃぐちゃですね。一応、北欧と地中海の多神連合と全域に点在しているメシア教穏健派が抵抗してますが、人口密集地や霊地に対して核攻撃されたせいで纏まりがありません。基本的には勢力ごとに好き勝手動いてます。

 アフリカは核攻撃が少なかったおかげで核の被害は少なかったのですが、半終末化による悪魔の出現が厳しいみたいです。メシア教の影響が少なかったのが、逆にシェルター整備されていない結果になっているのも原因ですね。しかもここを『終末の四騎士』の高位分霊が根城にしているみたいです。」

 

「うげっ、やっぱり魔人も出てるんだ。」

 

「魔人なら割と広範囲に出ていますよ。ただ、知られていない名前の悪魔だったりどう見ても劣化分霊であったりで、『魔人』と聞いて私たちが想像するえげつなく強い悪魔の出現は少ないですけど。」

 

 ゲームでおなじみの魔人以外にも魔人分類の悪魔の出現は確認されていた。しかし、その強さやスキルが想定と違い弱く、転生者たちの多くが肩透かしをくらっていた。

 ……まあ、弱いと言っても、転生者の中でも中位以上の強さが無ければ倒せはしないのだが。

 

「他の魔人で確認できてるのは中東のトランぺッターとオセアニアのデイビットかな?

 中東はシェルターは多かったそうですが、大天使と魔人とアバドンが暴れまわっているせいで碌に外にも出れない有様だとか。海の方が安全だって話で、石油の海洋プラットホームの周囲で船上生活し始めたらしいです。」

 

 知り合いに悪魔召喚プログラムを配布するついでに近状を聞いたらそんなことを言っていた。地域にもよるが、シェルターは全体的に水不足で籠るのは厳しいらしい。そのため、淡水化プラントの稼働できる場所に人が集まっているようだ。

 水と食料があるおかげか、案外人心も安定していて元気にやっているらしい。そういった情報を教えてもらう代わりに食糧輸出をせっつかれもしたが、彼らは彼らでしぶとく生き残りそうであった。

 

「アメリカは大混乱のままですかね。東海岸のクトゥルフは健在ですし、過激派が自国で核攻撃したみたいで中部にはプルートが出現したらしいですし。なにより悪魔の出現頻度が他の大陸より多いようで被害が増えているみたいです。

 過激派自体は大部分が西海岸に集結しているらしく、西海岸には下手に近づけない状態です。

 インドはすごいですよ。話半分で聞いても無双シリーズみたいに天使が集まってくるのを必死で押しとどめているみたいです。アジア圏はちゃんと霊能者が生き残っていただけあって善戦している様ですし、ここが一番の激戦区ですね。

 逆にオセアニアは天使の出現数も少ないようで国家機能も維持されてました。」

 

 大雑把に纏めるとこんな感じだろうか。

 ロシアとか南米とか話していない所もあるが、周囲への影響力が少ないという意味でイギリスに居る彼には関係あるまい。

 

「ヨーロッパの状況ってもう少し詳しくわかんね?」

 

「ヨーロッパは本当に町ごとに違うので難しいですね。ガイア連合よりも現地に出張ってる多神連合の方が詳しいかもしれません。一応悪魔召喚プログラムさえ広がってくれたら、そちらで情報を集めるそうなのでそれまで辛抱してください。」

 

 亡命異能者の伝手を使っても混乱していることしか伝わってこないのだ。

 ただでさえ悪魔の出現でデマを含め情報が錯綜しているのに、近頃欧州では新興オカルトまで広がり始めているらしい。社会不安からの発生にしては早すぎる新興宗教の出現は、所謂『カオルニキ案件』と呼ばれるものらしいが。

 

「こっちも質問良いですか?」

 

「いいよいいよ?」

 

「では二つほど。まず一つ目ですが在英米軍の事、何か知りません? 米軍将校から現地に行くなら聞いておいて欲しいって頼まれてるんですよね。」

 

「ああっと? え、アメリカ軍居るの? イギリス軍の人ならちょっとは知ってるけど。」

 

「空軍だけですけどね。知らないって事はやっぱり壊滅してるか過激派に取り込まれちゃってるかなぁ。来る時に警戒レーダーの反応も無かったんで絶望的だとは思ってたんでいいですけどね。」

 

 支部に居る軍人にも聞いておけば義理は果たせたと言えるだろう。繋がりのある将官としてもダメもとであるだろうし。

 正直なところ、敢えて通った基地上空で感知した気配だけで、私は()()()()()()()()と判断していた。あそこに居たのは敵だけだろう。

 

「では二つ目。イギリス支部(仮)の行動予定ってあります? 次は何するのか知っておいた方がこちらも支援しやすいのですが。」

 

「それならここから順次制圧していくらしいよ。」

 

 そう言って話してくれた内容は順当なものだった。

 まずは安全地帯の構築という事なのだろう。近隣の町を一つずつ攻略していき食料を生産するらしい。

 ロンドンの奪還と再使用を目指していることには驚いたが、取り合えず敵を倒し領土を獲得していくのは当然の行動だ。

 軽くロンドンで感じた気配を思い返すが、ロンドンに種族:大天使の気配を感じなかった。主天使か座天使ぐらいならイギリスでの旗振り役がどうにか出来るだろうから援軍は要らなさそうだ。

 

「それなら結界の楔が大量に必要そうですね。」

 

「御夫人が自作するらしいけど?」

 

「農地の保護まで考えると支配地域全土を覆うだけを? それ、神主だってすぐには無理ですよ。確認は取りますがこちらでも用意させます。無理するところでもないですしね。」

 

 おそらく覆う結界も悪魔の出現を防ぐのではなく、意図した悪魔の出現を助けるものだろう。それで天使ではなくケルト神話の悪魔を出現させ、結果的に天使の跋扈を防ぐのだと思う。

 私の見立てでは、日本の様に周辺農地まで完全に悪魔の出現を防ぐだけの結界はこの地ではまず無理だからだ。

 

「とりまイングランド制覇したら次は北と西に行くってさ。」

 

「地母神系の悪魔はいくらでもいますし食料供給はどうにかなりそうですね。という事は、必要なのは楔以外は武器ですかね、やはり。」

 

「武器はいくらでも欲しい。でも、それ以上に車が欲しい。バイクでも良いから。」

 

「あれ? 馬型悪魔が居るから要らないって支部長が言ってませんでしたっけ? トラックも動かしてないので気にはなってたんですが。」

 

「ハイソな支部長様と違ってこちとら馬なんか乗った事ないんだよ! おかげで腰ガクガクで戦闘どころじゃなかったぜ。」

 

 聞けば掻き集めたガソリンはあるが車もバイクも半終末の影響で動かないらしい。その代替に馬型悪魔を使う予定を組んでいたらしいが、鐙にしても荷台にしてもサスペンションの効いていない座席は現代人には厳しかったそうだ。

 そのことに忙しく駆け回る英国支部支部長たちは気が付かなかったらしく、物資の要望から漏れることになったようだ。

 

「船便でよければガソリン式でも搭乗者のマグネタイト駆動式でも用意しますよ。マグ式だと黒札専用にしてもらわないと困りますが。」

 

「道悪くなってるからオフロードに強い奴を頼む。燃料はどっちがいいんだろ?」

 

「北海油田が生きてるならガソリンでも良いでしょうが、操業停止してそうですしマグ式の方がよろしいんじゃないですか? ここの御夫人なら車を概念強化出来るでしょうから後からガソリンが必要になりそうですし。」

 

「早くそんな作業が出来るぐらい安定してくれるといいんだけどなー。しばらくは無理っぽいしマグ式のバイクお願いね?」

 

「了解しました。次の船便に潜り込ませておきますよ。」

 

 代金は……と言おうと思ったが止めておく。悪魔退治でマッカやフォルマを稼げるが、この地に留まるのであれば必要になる物はいくらでもある。この程度は援助しても良いだろう。

 

「色々と話ありがとうございます。そろそろ山梨への荷物の積み込み終わったみたいなのでお暇しますね。」

 

「え、あ、ほんとだ。それじゃ、荷物よろしくねー。」

 

 手を上げるデモニカに私も笑って手を上げ、木の柵から飛び降りコンテナに向かう。

 煙草は面倒なので焼却処分。強火で燃やせば臭いも発生しないで灰と化して風に流されていった。

 コンテナで荷詰めの責任者の妖精に終わったことを確認する。中を見てみれば、コンテナの中身は空きが大量にあるのできつめに空間固定をしておかないと荷崩れしそうだ。

 

 溜息をつきたくなる。

 分かり切っていたことだが収支で見れば真っ赤な赤字だろう。フォルマ以外にも何らかの貿易品でも作ってもらえないと段々と支援が厳しくなりそうだ。

 

「2B、危険な反応はないですね?」

 

「大丈夫だ。ちゃんと“見た”。途中で暴れる様なものはなさそうだ。」

 

 イギリスの特産と言えば何だろうか。蒸留酒ぐらいしか思い浮かばないのは酒飲みの偏見だと思うが、碌に思い浮かばない。

 そんなことを考えながらも固定術式を施している横で2Bに積み荷の安全性を鑑定してもらう。

 ずらした眼帯。青い目。

 いつの間にか昔と比べても深い色をするようになった眼が安全を確かめる。

 

「了解です。お腹も空きましたし早く帰ってカレー食べましょう。」

 

「本当に好きだな、ガイアカレー。」

 

「こうも派手にマグネタイト使わないと食べれませんからね。焦らされると食べたくなる奴ですよ。」

 

「はいはい。急いで警戒をおろそかにしてはダメだからな?」

 

「はいはーい。」

 

 機体に駆け上がりながらの会話はすでに帰ってからの楽しみばかりだ。

 行きとは違い一本だけになったコンテナを貨物室に詰め、改めて一体化した機体の目でイギリスを見渡す。

 

 遮る木々の無い丘を通る冷たい風。

 燦燦と降り注ぎながらも肌を焼かない日差し。

 人も悪魔も一緒になって働く活気。

 ――そのどれもが“美しい”ものかもしれないが。

   どうにも私の心に居付かない。

 

「VOB接続完了。微速前進で出発進行ー! 目的地は山梨支部!」

 

「ふふ、ヨーソローだったか? ああ、帰ろうか。」

 

 機体の中で繋がる気持ち。その感情に2Bはクスリと笑みをこぼし私の悪ふざけに付き合てくれる。

 浮き上がる機体。そよ風のように噴き出すスラスター。地上から手を振る見送りの人影。

 そのどれもを認識しながら私は――

 

「ええ、帰りましょう!」

 

 ――ああ、早く帰りたいな、と自分が心底思っているのに今更ながらに気が付いたのであった。

 

 




最初、主人公の名前が思い浮かばず、コジマ粒子にあやかって『小島龍治(こじまりゅうじ)』とか考えてました。
何となく主人公のイメージに合わなかったので没にしましたが。

ホワイトグリントは【仮想敵:地脈接続ショタオジ】として設計されました。
作者想定では神主は『強化魔法と武器』があれば戦艦を膾切りに出来る次元の強さです。ホワイトグリントに試したみたいな『強化魔法無しの素手での攻撃』でもLV50ぐらいならワンパンで沈められるとしてます。
エンシェントデイを相手にして『死因:過労死』なんてふざけたこと出来るだけの強さですから。(エンシェントデイもガイア式アナライズでLV180以上に設定してます)
ついでですが、『魔人』カテゴリはLV20~100ぐらいの広範囲にわたって存在していることにしています。
その魔人ですが『魔人』の悪魔はLV×1.5ぐらいの強さになっております。なのでLVを見て油断するとガメオベラでしょう。

主人公が本拠地についてのアーサー王伝説の話し辺りで苦言を呈してますが、これは伝説などに対する思想が違うためです。
呉支部の思想は『伝承・伝説補正、何それ? それより法則解明して裸にして殴り倒すぜ!』というストロングスタイルになっております。
神話的弱点や加護などを信用していないとも言いますが。

今作では国家機能が生きてるのはアジア圏とオセアニアぐらいの設定です。
アメリカも政府中枢自体は維持しているのですが、統治出来て無いので国家とは言い辛い…。
そのため、各地で『国家>霊能組織』だった力関係が『国家<霊能組織』変動してます。
……つまり、メシア教穏健派が好き勝手出来る訳ですね!(ぉぃ

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