【カオ転三次】DRUG FATE   作:石は転がる

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今回は短いお話です。



幕間30

 

「はあ、映画ですか?」

 

 初春の日差しが最盛期を過ぎた間食の時間帯。

 山梨支部の食堂で遅い昼食を食べていた私は、ちょうど一緒になった転生者の言葉に首をかしげた。

 相手はアニメを撮る時に一緒に働いたガイアアニメーションの社員だ。彼女は私が今日も今日とて航空便を届けに来たことを知って顔を出したらしい。

 

「映画って来年公開予定じゃなかったでしたっけ?」

 

「そぉだったはずなんですがねー。ちょっとぉ各所にせっつかれてぇ今年中に出せないかって話でしてぇ。」

 

 彼女が私を探して話しかけてきたのは、私の出演したマクロスAについて話したいことがあったかららしい。

 大盛りのカレーから目を離し正面を向く。冷める前に話は終わるだろうか。

 

「えーとですねぇ。ほら、半終末ってなっちゃったじゃなぃですか? そのせいでちょぉーっと困った人が居ましてねぇ。うちにもどうにかしてくれって泣きつぃてきちゃってるんですよぉ。」

 

「それと映画を今年公開することに何の繋がりが?」

 

「困ってる人ってぇ、映画館とかの関係者でしてぇ。ほらぁほら? 洋画が仕入れられないじゃないでぇすか、今ぁ? そんでぇ邦画でもぉアニメ映画でもぉ良いから欲しぃって言われてるんですよぉ。」

 

「あー、なるほど。上映作品が無いんですか。」

 

「そぉ何でぇすって! 今ぁは上映期間伸ばしたりぃ再上映で誤魔化したりぃしてるらしいです?」

 

 話が迂遠かつ独特のイントネーションで相変わらず会話をしにくい相手だ。ただ、彼女の仕事は本当に素晴らしかったので、一種の芸術家タイプの人間だと理解した今ではこの話し方も嫌いではないのだが。

 

「脚本とかは出来ているんですか?」

 

「大丈ぉ夫でぇーす! 時間がなぁぃんでぇ、もぅっ作画もぉ始まってまぁーす。」

 

「そうなりますと、もうアフレコしたい感じです?」

 

「ィィイエェェースっ! 他のキャストゥわぁオファー受けてくれたんでぇすけどぉー。朱莉ちゃんだけぇスケジュールいーっぱいって、メイドさんとぉ押し問答ぅ?してるって聞いたんでぇ、直接聞ぃちゃいます!」

 

「――もしかして、監督とかに内緒で会いに来てます?」

 

「オフコォース! あ、私もカレー食べたい!」

 

「あぁ、まったく。……ほら、あーん。」

 

「あぁーん♪」

 

 もしかしたらと思ったが、彼女は上司の了承も取らずに私の所に来たようである。

 まあ、彼女は転生者に稀によく居る生まれ変わった事でネジが外れた人間の中でも珍しく、外面を取り繕うことも出来なくなったタイプの人間だ。行動の判断基準がやや動物的な刹那さを帯びるし、人の好き嫌いなんかも激しくなっている。

 臆病な自尊心と尊大な羞恥心を抱えた私の様な転生者とは、また違った意味での社会不適合者だった。

 

 美味しそうにカレーをほおばる相手に苦笑して予定を思い出してみるが、今年に入ってから空けれそうな予定は確かになかった。なので、予定管理を担当している式神も気を利かせて私に話を通していなかったのだろう。

 これからの予定はどうだっただろうか。頭の中でスケジュール帳をめくってみるが中々に難しい。

 

「んんん……そうですね。纏まった時間を取れるとしたら夏のライブの時期に二三日でしょうか? そこ以外だとちょっと難しいです。」

 

「早ぁーい方がぃーんだけど?」

 

「それならば輸送帰りなら時間取れますけど、どうでしょうね? 今日みたいに三時四時過ぎから数時間程度だけなら週一で捻出出来ると思います。」

 

 半終末到来以来、以前と比べて支部長業や会社役員業を投げ出しているので、追加で多少の業務は任せてしまってもいいだろう。表の会社オーナーの仕事よりも、裏の配下組織の統制を確認したかったのでちょうどいい機会である。

 急速に増えた依頼の忙しさにかまけて“雑”な仕事をしていないかチェックしたかったのだ。他にも数字としてはっきり増えてる一般出の覚醒者をちゃんと教育できているかの確認も必要だし、悪魔召喚プログラムについての所感も直接聞きたい。

 

 それに終末に向けてイキり始めた大悪魔の対処もしなくてはならない。

 人の配下の転生者(女神転生)に手を出す事がどういう事なのか。痛みと共に教え込む作業は片手間ではやり難かったのだ。

 

「ぅぅーん??? いいのかなぁ?」

 

「こちらからプロデューサーに確認取りますよ。ダメならまた代案でも考えます。」

 

「そぉっかあぁ! なぁーら、もういっかぁ!」

 

「ええ、オファーの話はもういいと思います。」

 

 ニコニコしながらまた雛鳥のように口を開ける相手に食べさせてあげ、自分も食べる。

 ピリッと辛い辛口のルーにぷりっぷりの魚介が旨味。わざと硬めに炊きあげられたご飯は、食感を残しながらもルーを吸い柔らかく口で解ける。口休めに箸を伸ばしたコールスローの甘味が口に残った辛さを流し、再びルーを口に含んだ時の感動を色褪せない物にしている。

 今日の気分でシーフードにしたが、やはり美味しい。

 

「朱莉ちゃん朱莉ちゃん! ツーリングぅ行こう?」

 

「ええっと? バイクじゃないですよね。もしかしてホワイトグリントに乗りたいのですか?」

 

 突然の話題の変更に、もしかしてと足りていない言葉を推測するとぶんぶんと頷かれる。

 

「ホワイトグリントはちょっと難しいですね。式神とセットで一組しか乗れませんし、貴女に乗っていただいてもマグネタイト不足で起動も出来ませんし。」

 

 私専用に開発したせいで要求MAG量が桁違いなのだ。

 機体と地脈を繋ぎ、地脈を枯らすつもりで絞り出せば自由に動かせるだろうが当然それは却下なので、彼女が動かすためには超大容量のMAGバッテリーと無線接続でも出来ないと不可能だ。

 

「えぇぇぇー。」

 

「それに速度は出ますが装甲とかあるので風を感じ無いですよ?」

 

「ぁーなぁら、ぃいかなぁ~。」

 

「ホワイトグリントよりもポッドレーサーの方が貴方にはお勧めできますね。最高速度はまだ500㎞/hぐらいですけど機敏に反応するので爽快感がすごいですよ。」

 

「ぇっ? なにそれなにそぉれ?」

 

「呉で有志が作ってるレーサーですよ。二本のエンジンと操縦席だけで滑空するマシンです。あ、ほら。貴方の式神の元ネタに出てくる奴です。」

 

「ぇぇ、なんだぁっけ?」

 

 ピ・ピ・ピューイと横で一緒に体を傾ける彼女の式神。

 それはガイア連合ではたまに見かける形式のロボットだ。無機質な金属の筐体にBeep音しか出せない発声器官。ポッドとはまた違う非人型の式神は、彼女が自分の傍に人型が居ることを許せないが故の選択だった。

 

「純粋な空力や推力じゃなくて空間制御系の推進器ですけど、その分瞬発力がすごいんですよ。じゃじゃ馬みたいな加減速はお気に召すと思いますよ。」

 

「おっもしっろそぅ! 欲しぃ!!」

 

「技術検証用エンジンの試験って名目なので販売はしてませんよ。ただ、趣味人が集まってレースを開催してるのでチームのドライバーはいつでも募集してたと思います。気になったのでしたら遊びに来てください。」

 

 参加者や観客が資金を持ち合い、それを優勝者が総取りするという素朴な大会だ。その時のドライバーも、専属でもなんでもなく毎度適当に決めている緩いものである。

 まだ数回しか開催されてないが、毎度即興でベンハーごっこしてみたりイニシャルDごっこしてみたりと純粋なレースとは言い難いものだが楽し催しであることは保障できた。

 

「ふぅ~ん、ふっふぅーん? 出る!」

 

「次の開催が決まったら連絡入れますね。」

 

 半終末が来ようとも、呉の転生者たちは今まで通り過ごしているのでそろそろまた開催するはずだ。

 

「――そう言えば、山梨は半終末になってから何か変わった事とかありますか?」

 

 次の開催日は何時かを考えていた頭が、忘れていた質問を思い出した。

 山梨支部もCOMPの更なる改良や『天使の羽』の加工に特化した機械化したラインの設営、電脳異界の構築など色々と動いていることは知っているが、それで下の方にはどういった影響が出ているのか聞いておきたかったのだ。

 

「ぅん? 別にぃ?」

 

 キョトンとした表情。聞かれたこと自体を不思議がっているような眼差し。“彼女の視点”からだと、今までと何も変化が無かったことがよくわかる。

 なるほど、と内心頷く。山梨支部は、私などよりも余程うまく立ち回っているらしい。彼女がこう思っているという事は、一般の転生者の“雰囲気”は本当に何の変わりも無いのだろう。

 

「変わりが無いのでしたら何よりです。最近物騒ですからね。」

 

「あぁぁああ、でもでも!! 前にぃ一緒に行った展望台ぃー、封鎖されてぇたんだぁよ! 酷ぃよねぇ?」

 

「ああ、北の高台の。道路工事とかで無いのでしたら悪魔でも出ましたかね? まあ、それならたまには海の方に行ってもいいのではないですか? いつも山ばかりですよね?」

 

「潮でぇー錆ぁーびぃーるぅ……。」

 

「いつもちゃんと整備されてますし、一度ぐらい行っても大丈夫でしょうに。本当に大事に乗ってますね。」

 

 覚醒者として仕事をしていればバイク程度安いものだが、『思い入れ深い品』は人間として大切な物だ。転生者は強くなっても、こういった感性が残っているのが現地霊能者との一番の違いかもしれない。

 

「もう少ししたら海開きですし、ツーリングでなくとも海に行くのも楽しいと思いますよ。」

 

「ビーチ、嫌ぃ。」

 

「あー、なるほど。人混みが嫌いだしプライベートビーチにわざわざ行くほど好きでもないと。それでしたらうちの支部は遠いですし誘っても迷惑ですかね。」

 

「う、うぬぅぅぅぅ~!」

 

 頭どころか背筋まで傾げて悩む姿に苦笑する。

 頭の中では『面倒』や『人ごみ嫌だ』という感情と、『楽しそう』『お誘い!』という感情が争っているのだろうか。右に左にと体を傾けているのは、傍から見ているとメトロノームのようだった。

 

「別に今決めなくてもいいですよ。夏はまだ先なんですから。」

 

 幼子の様に純真な心の動きに癒されているという事実に、思ったよりも自分は疲れていることを自覚した。

 ホワイトグリンでの飛行はまだ輸送と偵察しかしていないが、一度通った市街が廃墟になっていたり、人だったモノが散らばっている様は思ったよりも私の心に響いているようだ。

 “何もしない”という行動は、“何もできない”という諦観以上に感情に負荷を与えていたのだろう。

 

 ――ガイア連合が配布したハンターランク・アプリのおかげで、海外の情報もだいぶん集まってきている。そろそろ、私も戦闘に参加してもいい頃合いかもしれない。

 

 脳裏に瞬く声を無視して、カレーをぱくりと口に運ぶ。ヒリッとした辛みと奥深い旨味。やっぱりおいしい。

 口から沸き起こる幸福で気分を切り替え、もう一口。

 プリっとした魚介の食感を噛み締めるごとにうまみが増す。幸せだ。

 

 やっぱり、戦闘への参加については感情で決めるのは良くない。やるなら相手にとって一番嫌な事をするべきなのだから。

 黙々と満足げに食べる私を、ジトっとした目で見てくる彼女にどうしたものかと考えながら、それでもスプーンは止まらず私はカレーを食べるのであった。

 

 カレーは大変美味しゅうございましたとさ。

 

 




半終末で困った業界の一例です。
今回は映画業界を出しましたが、輸出入関係は勿論の事ながら学会関係とかゲーム開発、外国にサーバーを置いている企業なんかも酷い事になっていそうだと思います。
ガイア連合も対策をしているのでトイレットペーパー不足で阿鼻叫喚とかはないと思いますが…。
フィクション何で細かい事は良いと思うのですが、作者はガイアグループを日本のGDPの八割ほどを支配している企業群だと思っています。それぐらい影響力が無いと日常生活の維持すらできなくなるので。

表の普通の企業もてんてこ舞い、海外はアポカリプスな状態でも一般黒札は普段通り気ままで能天気に過ごしています。
主人公みたいに国内と国外の両方に関わる人間は余りの温度差に風邪ひきそう……。
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