【カオ転三次】DRUG FATE 作:石は転がる
呉の支部長室。
そこは、支部の規模に見合った広大なものである。
仮眠室やバスルームと言った休憩設備から支部長専用の書架や各所に繋がるコンソールなどの業務に関わる備品まで、品良く配された空間はその充実さとは裏腹にごちゃついた印象を与えない。落ち着いた色合いの内装に観葉植物など、むしろ気を緩めることが出来るように気を使われていた。
そんなリラックスできる空間で、私は一人執務机に向き合っていた。
式神たちも今はいない。珍しい事ではあるが流石に支部内での襲撃はないと想定しているので、たまによくある程度には私の元に誰も居ない事があるのだ。
なので、貴重な一人の時間、私は机に向かい何時もの作業をする。
“遺書”の改定だ。
遺書を書いているからと言って、死を予感していたりするわけではない。
すでに何度目の作業だろうか。初めて戦闘を行った頃から、資産が増えたり組織体系を変更したりする度にやっているので十や二十ではきかない回数行っている。すでに、慣れ親しんだものだった。
今回は皆に仕事を割り振ったので、私の死後に代理ではなく正式に役職に就ける為に文面を変えているぐらいだ。
百仁華は『支部長代理』を『支部長への推薦』に。
小夜子は『医療班の代表』に加えて『ナインズの外部監査』を。
ホーネットには『ガイア連合とナインズの取次ぎ』から、正式に『ナインズの代表』へ。
ラケルには『研究班の取り纏め』に追加して『⑨グループの監督』もしてもらう。
ヒルダとノーバディには『ホーネットの補佐』だけではなく、『ナインズの戦闘部隊の掌握』もしてもらわなければならないだろう。治安維持と武力を司る部隊は、彼女のたちの“家族”も多いので助けも期待できる。
マリーには引き続き『転生者(女神転生)の保護』に『覚醒者のみの学校の運営』を頑張ってもらわないといけない。半終末が来てから野良覚醒者の増加に比例して『前世』悪魔への覚醒も増えている。どちらも繊細な扱いが必要なので、彼女にはこれ以上は任せられないだろう。
資産は必要分を家族に残す以外は、全て支部へ寄付する事に変わりがないので変更は無し。
自分の子供たちには母親に与えたものを引き継がせればいい。種を与えただけの子供たちには金銭と“形見”だけを与える。
……共に暮らすものだけを特別扱いしないと、後の火種になるので仕方がない。
慣れた執筆。慣れた封印。慣れた作業。
それなのに、最初と比べて書く事が増える内容。築き上げてきた資産。残す者たちの顔。
昔は、何の感慨も無く書けていたのに、今ではたまに書く手が止まることがある。
感傷だ。
なけなしの命を握りしめていた頃に比べ、随分と抱える物が増えた。何もかもを投げ捨て、命だけは残せる体制を作るつもりがどうして後に残せるものが在るのか。
そう思うと、我ながらよく頑張ってきたものだ。
「……ふぅ、行きますか。」
執務机の引き出し一番上。ある意味ベタなぐらいに形式ばった漆塗りの箱の中に、震える手で封書を入れて部屋を出る。
息を吐き、息を吸う。
胸に付けていたバイザーで眼孔を隠す。
それだけで、意識を切り替える。
「お待たせしました、2B。」
「ん。」
部屋のすぐ外で待っていてくれた2Bに、言葉を掛けながらも視線を向けたりはしない。彼女は、当然私に付き従うのだと確信しているからだ。
圧迫感を与えない高い天井の廊下。足元には堅めの絨毯が敷かれ足音を消している。絨毯にしても所々に飾られた装飾品にしても、支部が出来てから何度か交換されているはずだ。
それは傷んだからなどではなく、閉鎖空間でのストレス軽減のための入れ替えだ。設備の準備だけではなく、環境の維持のための模様替え。外国を飛び回るようになってから、そう言った感情の慰撫を強く考えさせられる。
「どうした、9S。緊張しているのか?」
格納庫までの長い長い廊下を歩いていると、2Bが直球で聞いてきた。
これには、私も思わず苦笑する。外から見てわかるぐらい堅くなっていただろうか。
「ふふ、そうですね。今までは日本国内でばかり戦ってきましたから。海外での戦いは中東での一件だけなので緊張してます。」
素直に肯定する。
半終末後の天使の数は怖気を誘うのに十分過ぎた。呼び出された上で放置された個体がそこら中に居るのは勿論、寄り集まって人間を収穫している集団が当たり前にいるのだ。一度死んでしまえば、その死体は誰かに助けられることも無く天使に弄ばれることになるだろう。
その事に恐怖を覚えないとは言えない。
――或いは、神主の手の届かぬ地での戦いに、だろうか。
自分の死体の末路を想像して、もしかしたら、と自分の内心に当たりをつける。
今まで日本国内であれば、死んだところで死体は誰かに回収して貰えただろうし、魂とて奪還に来てくれる可能性が大いにあった。
それは、死体の回収はともかく、魂の奪還は“神主”個人の技能を宛てにした救援だ。
それが、海外では無い。その事に、今更ながら私は怖気づいているのかもしれない。
――神主の手助けをしたいと思っておきながら、今まで神主に甘えていた事すら気が付いていなかっただろうか。ほとほと、自分という人間の蒙昧さと怯懦には見下げ果てる。
「9S、作戦目標の確認は必要か?」
「大丈夫ですよ、2B。ちゃんと覚えています。目標はメキシコ内にある過激派の拠点。いつも通り飛んで行って爆撃をしてから残党処理、そして帰還ってだけの簡単なテストです。」
初めての攻撃性能試験という事で対象の選定は慎重を期している。今回の標的は幾つかの点が安全性を確保するのにうってつけだったのだ。
まず、目標までの道中に危険が無い事。悪魔も上がらぬ上空を高速で移動するため、どこを飛んでも危険性は無いのだが万が一を考えて安全な海上上空に航路が引かれている。
次に、攻撃目標付近に友軍が居る事。多神連合の南米神に米軍のカリフォルニア警戒部隊、少し遠いがヒューストンの防衛本隊もいる。何らかのトラブルて不時着しなくてはならない時には彼らが頼りになると考えられていた。
最後に、目標がメキシコ内部に突出してきている事。おそらく敵の前線基地なのだが、他の拠点からは大分離れているのだ。
戦力としては“狂信者”や“殉教者”が多く
「テストそのものよりも行き返りの方が面倒ですね。配達のついでに出来ればよかったのですが。」
「仕方がない。アメリカにVOBを置いておく拠点は無いのだから。」
ハワイ経由で片道六時間の飛行はMAGの消費以上に余暇の浪費の方が大変なのだ。初めの頃は気を張って地上を監視していたが、地上の悪魔情報も“クエスト”という形で集まり始めた今では成層圏を飛ぶこともあって暇な時間を持て余しているのだ。
近頃は操縦を2Bに任せて支部の式神と同調して仕事をしたり、航行時間を夜間にして機体で飛びながら寝ていたりする。流石に飛行中に寝てもMAGの消費が回復を上回るので、起きた時にはどことなく倦怠感がある。そのためそこまで回数は多くないのだが。
「この時間から寝るのは厳しいので、行きは瞑想でもして帰りで寝ますか。」
「……私を労わろうという気が無いんだな。」
「頼りにしてますよ?」
「――はぁ、まあいい。」
呆れたようで嬉しそうな返答にどう応えればいいのか。色々な経験をしてきたと思ってもこんなこと一つ分かりはしない。
誤魔化すように頭の中で襲撃の予定を確認する。
襲撃は情報をなるべく与えないために深夜に決行することになっている。ちょうど現地だと日付が変わる頃に襲撃を仕掛ける予定を組んだので、出発時刻が朝の九時になった。後三十分後ぐらいで出撃だが、この時刻では二度寝をするには少し目が覚めすぎていた。
地下深くに位置する支部長室から格納庫までの道のりは中々に遠い。
支部長室を出、長い廊下を歩いた先にあるエレベータで上に行き、また廊下を歩いた先にある認証式エレベータを乗った先が目的地であった。
重々しい音を立てて重厚な扉が開いていく。途端に押し寄せる喧噪。エレベーターが着いたのはキャットウォークの上だ。足を踏み出すと、遥か上から落ちてきた光が雑然とした工作機械を照らしている。
山の斜面を削り山の稜線に続くように屋根が伸びる格納庫は全高200mを誇る巨大な空間だ。幅は何mあっただろうか。初期設計では1㎞を超えていなかったはずだが、度重なる増築で今では私も把握できていない。もしかしたら、すでに1㎞を超えてしまっているかもしれない。
この場所は元々はシェルター機能を維持するための植物工場が入る予定だったのだが、効率の問題で異界農場が選択されたため工廠区画として改築されたのだ。
「相変わらずここは煩いな。」
「昼も夜も関係なく誰かが作業してますからね。」
キャットウォークから見下ろした視線の先では本当に色々な工作機が動いている。
鋼材を曲げているプレス機に何かを削り出している旋盤、フライス盤で溝を掘っている横では焼入れ炉が火を噴き油を垂れ流していた。目線をずらせば金属ではなく土を弄っている人間もいる。おそらくセラミック系の材料なのだろう。
そんな個人で扱う機械以外にも複数人で協力して作業する大型の機械も多くある。こちらは扱う材料が巨大なのもあって作業用KMFで加工している人間までいる。防護服姿の覚醒者と式神と人型機械が一緒になって作業をしている光景は、割と意味不明な情景だった。
「あれは戦闘艦の砲塔作成ですね。」
「あれだけ純度の高いフォルマを潤沢に使用していると、ここからでも圧を感じる。」
「あれだけ使っても大気中での減衰を考えると射程はそう長くないんですけどね。まあ、観測機器の限界に合わせた部分もあるんですが。」
「試験艦の就航は再来月の予定だったか?」
「今年いっぱい使っていいとは言ったのにみんな張り切りすぎです。」
「仕事が早くても困らない。結果も早く出る。」
「まあ船台を開けないと二番艦も作れないですし、早くて困ることは無いのはその通りですけど。」
通常輸送船の護衛艦として建造中の船舶は現状の海上悪魔相手にはオーバースペックの塊だ。少なくない量のフォルマ等の資源を割き、それでも建造しているのは過激派の手に落ちた米軍艦艇がたまに襲撃を掛けてくるからだ。
今は簡易処置をした米軍艦艇が護衛につくいているが、終末化が進むことによりその艦艇が使えなくなるのも時間の問題であった。現在建造中のこの艦は、終末後の米軍艦艇の代替時に必要とされるスペックを割り出すための役割を担っていた。
奥の方ではまた別の翼を組み立てていたりするが、見出したらきりがない。視線を外しキャットウォークを進んで行く。
区画を一つ二つと通り過ぎて行くと工廠の音も遠くなり、響く音は重たくになっていく。
金網の床を歩く軋み。騒音に隠れていた耳障りな音が今更ながらに気になる。神経質になっているのかもしれない。
歩く距離に比例して反響する音は重厚に圧されるようなものに変わっていく。
この辺りは後のための余剰スペースなせいで人気が少ない。たまに何かを組み立てたり車を整備したりしている人間がいるぐらいだ。
ホワイトグリントの格納庫。それはその人気のない区画のさらに先、広々とした空間の隅の隅に存在していた。
直立した機体とその周囲に組まれた足場。壁のガンラックには手持ちの銃器が飾られ、着脱を手伝うためのKMFが従僕のように控えている。外れた場所には予備部品がシートを被され保管されている。確か、あれを寄せ集めればあと一機二機は建造できるはずだ。
機体には最後の点検だろうか。大勢の転生者たちが取り付き、真剣な目で各部位をチェックしていた。
「お待ちしていました。⑨ニキ。」
「すいません、待たせました。整備の方はどうです?」
「万全です。いつでも出れますよ。」
キャットウォークで私を待っていた整備責任者に書類を渡される。
手渡された整備レポートを流し読むが問題点は見当たらない。オーバードブーストのブースターもまだ交換が必要ないようだ。
「使用感から言って大丈夫だとは思っていましたけど、オーバードブースターは事前想定より持ちますか。」
「試験稼働時は戦闘使用を前提にしていましたので余裕があったようです。今回の出撃後にもう一度点検して損耗状態を確認したいと思っています。」
「了解。気を付けておきます。――他に何か気にかけておくことはありますか?」
「できれば、ですがフォルマ弾倉を酷使してください。戦闘機動時の高速生成で劣化や弾詰まりが起きないか確認したいので。」
「了解。SALINE05は装弾数は六発のままですね?」
「ええ、やはり概念書き込み機構が場所を取ります。その分、再生成時間はなるべく短くなるように作っていますが。」
「装填する概念が概念だからな。そのぐらいは想定しています。……今回使うつもりなので、帰ってきたら調査はお願いします?」
「任せてください。微細漏らさずチェックしますので。」
チェックを済ませたレポートにサインをして返し、コクピットに向かう。
コクピットハッチは相変わらず狭い。乗降口は多少広く見えるのだが、その広い部分は武器を格納する空間なので、乗り降りの際に収納するとむしろ余計に狭く感じる。
武器を外、足を踏み外さないように慎重に入っていく。細く暗い空間をはしごで降りていくのは、何もないと分かっていても少しばかり怖いぐらいだ。
光も届かない降りた先で、斜めに滑り込むように体を席に捻じ込む。この時、下手に腕を曲げていたりすると戻せなくなるので伸ばしたまま入らないといけない。
やっと操縦席に着いたら、機体との接続端子が体に自動的に装着されていく。接続の基本はMk.Seinの頃から変わっていない。改良されたパイロットスーツはアロンダイトと流用しているいる事と、うなじが操縦席からのリングに覆われているぐらいだ。
カッカッと音を立てて2Bも梯子を下りて操縦席に潜り込む。無造作に垂れた私の髪をそっと触れる感触。2Bの席は私の下、私を胸元に抱きかかえるような位置だ。そのため、私の髪が上から座席に掛かっているので踏まないように気を付けてくれているのだ。
「着座、接続機器のチェック完了。」
「了解。ニーベルングを起動させる。」
自分のMAGを操作し、機体側の機器にMAGを流し込む。
動き出した機器が流し込んだ私のMAGを確認してセキュリティを解除。歯車が噛み合うように次の段階へと向かう。
<“父”たる主 ____check ok>――私という存在を捕捉し、
<“子”たる
<“霊”たる
<トリニティの成立を証明完了>
父たる私と子としての式神の繋げ、その力が器たる機体へと満たす――その準備が終わる。
三つの存在が一つの存在の別側面であると言う三神一体や三相一体ではなく、四文字の教えである三位一体の理を利用した合一。それも、態と“子と霊”は“父”の被創造物であるという異端解釈によるものだ。
【ニーベルングシステム・接続します】
ピキッと鋭い痛みは一瞬。接続された私の霊格に、従属者として2Bの霊格が寄り添う。
温もり、安心感。気を抜けば溺れそうな暖かさを感じながら、肥大化した霊格を機体に収めていく。
【起動マグネタイトの供給を確認・スリープ解除を開始――成功】
ドクンッと世界を揺らす無音の鼓動が刻み始める。主機へのMAG供給により
或いはそれは、“私”であり“私たち”が生み出すMAGである。“私と2Bの結合した霊格”が機体という肉体に収まり一つになることで発生させている
「管制システムとの接続完了。全機器オールグリーン。」
「――五感の接続完了。整備ハンガーの拘束解除信号・発信。」
力強いモーター音。固定と保持のための支柱が取り除かれる感覚。拡張された視界が機体各所の固定が解除されていくのを見届ける。しっかりと自重を支える足腰の感触に異常はない。
ハンガーから自立歩行で二歩移動。身体に走る自己診断システムが次々と『良好』と返事を吐き出していく。
『兵装の取り付けを始めてください。』
『ラジャーっ! おーい、ミサイルコンテナ接続はじめてくれ!』
私が出した肩部ハードポイントの開放指示に、機体が素直に応じる。シャッターで塞がれていた接続口が開く。
そこに、両側面の踏み台に上ったKMFがミサイルのパイロンを差し込むので、機体側からもボルトなどを伸ばして固定する。
「ユニット接続を確認。――接続ユニット名『SALINE05』。……正常に認識されている。」
「了解です。『こちらホワイトグリント、ミサイルコンテナの接続を確認しました。』」
『了解っ。次だ!』
ミサイル接続をしたKMFが次に持ってくるのは機体サイズに合わせたライフルだ。
形は違うがほぼ同サイズのライフルが二丁。同型でないのは76㎜と127㎜の二種類の弾薬を使っているからだ。どちらも予備弾倉を持っていかないが、いざとなれば『スキル』での掃射が可能となっている。
特徴的なのは銃口すぐそばに設置されている照準器だろうか。銃身などよりも巨大な照準器は高機動下での運用に必須の装置であった。
「ライフルの保持と同時に接続を確認。照準器からの計測データ、正常に来ています。」
「フォルマ弾倉との概念的な接続を完了。2B、そちらでも確認頼む。」
「武装からの弾薬情報取得成功。弾道計算の補正完了。9S、書き込み機構のテストはするか?」
「――いや、必要ない。」
「了解。施条属性付与導線のMAG通電停止。全機構に稼働エラーなし。」
格納庫内の情報を取得していたライフルのセンサーが稼働を停止し、情報が静かになる。
『武装チェック完了。出撃に問題なし。』
『よぉーっし! ハッチ開放するぞ!』
『外部隔壁解放開始! 繰り返す、外部隔壁解放開始! 隔壁周辺に立ち入るなよ!』
私の声に応えて整備員たちが隔壁を開けるべく操作盤へ大きくハンドサインを送る。
すると、正面の壁面が外へと倒れ込む。全高200m、幅は50mの障壁が、だ。核の直撃にも耐えられる金属壁は耳を壊しそうな轟音を立てながら、薄暗い工廠内に光を溢れさせていく。
『外部隔壁開放! 内壁の展開を開始します!』
眩い日差しに目を細めている作業員を他所に、続いてマイクに拡声された声と共に半透明な内壁が外へと跳ね上がっていく。
半透明な内壁は呪詛などを防ぐ陣が書かれた結界の一部だ。そのため、差し込んできた陽の光が刻印された魔法陣の影をカタパルトに透写していた。
『ホワイトグリント、発進位置に移動を開始する。』
『了解! おら、お前らっ! 前に出るなよ!』
『ディフレクターの設置急げ!』
『カタパルトの重力制御大丈夫だな?』
『オーライ、オーライ、オーラィッ、……はい、ストップ!』
『進路確認OK! 障害物無し!』
それまで固唾を呑んで見守っていた転生者たちが、ハッチの開放と共に途端に忙しく動き出す。
カタパルトでの発進は何度も行ってきたことなので、初めの頃と比べて随分と手際が良くなっている。
外部の確認に走る者、カタパルトの確認をする者、明るくなった状態で再度機体を確認する者。各々がやるべき作業を迷いなく実行していく姿は、独特の美しさがあった。
『こちら、発進管制。ホワイトグリントを発進準備態勢に移行させるぞ?』
『こちらホワイトグリント、了解した。』
『準備態勢 5秒前、4、3、2、1っ……!』
通信のカウントダウンが終わると同時にホワイトグリントが重力の楔から解き放たれ宙を浮く。地上からは1mぐらいの高さに浮かんだのは射出の前段階だ。
『こちらホワイトグリント、OB形態に移行する。繰り返す、OB形態に移行する。周囲の作業員は注意せよ。』
周囲は機体の目で確認しているが、それでも警告を発しながら機体を駆動させる。
腕を前に突き出したままに固められ、足はつま先を伸ばして反れていく。肩甲骨からは骨を突き破る感覚と共にブースターが展開していく。姿勢制御のために機体各所からは風が吹き出す。
『各部の固定終了。形態移行完了した。』
『こちら管制、了解。カタパルト準備完了している。発進、何時でもどうぞ。』
発信許可が下りたので一応周囲を確認するが、重力の膜で囲まれ歪んだ風景の外では作業員たちは退避壕へと移動しているのが見える。重力障壁の出力も問題なさそうだ。
『ホワイトグリント、了解。出撃する。』
重力の檻を突き破るために機体のブースターに火をつける。巡航モードのブースターが低出力から段々と出力を上げていく毎に、引き留める檻に縛られた機体が軋みを上げる。
それが急にふっと消える。解放。そして、斥力。
機体は弾き飛ばされ、空へと吹っ飛んでいく。
『ホワイトグリント、グッドラック!』
声に釣られ機体の目が後ろを見た。
声と共に立てられた親指。それも、一つ二つではない。皆が皆、退避壕の窓を突き破らんばかりに突き出していた。
返事を、そう思った頃には格納庫は遥か彼方に置き去りになっている。
「…………。」
「進路調整をする。9S、制御をこちらに。」
「…ぁ……っ、了解した。You have.」
「I have.」
音をかき分け進む機体の中で、私は半端に開けいた口と言葉を飲み込んだ。
失笑。2Bに内心の何もかもが筒抜けの状態でのつまらない意地に何の意味があるのか。自分の事ながら見栄っ張りにもほどがある。
「9S、到着までは私が操縦する。自由に時間を潰せ。」
「お言葉に甘えます。それでは何かあれば起こしてください。」
すでに機体は雲を突き抜け、暗いぐらいに青い快晴が上空に広がっている。ここから数時間は何もない時間だ。元の予定通り瞑想でもして過ごすべきだろう。
機体との繋がりから目を閉じ、広がった霊感を開放しながら。
私は、胸の温かさをそっと心に抱えるのであった。
おかしい。襲撃まで書くつもりが、なぜか出撃で終わってしまった……。
ホワイトグリントの操縦席は搭乗者が決まっているのでオーダーメイドでキッチリ作られています。なので本当に最小限の余裕しかないです。
ちなみの主人公の髪がサブパイロットシートまで垂れているのは設計上わざとです。肉体接触による同調精度向上が目的で。
主人公の過激派拠点襲撃は『時間稼ぎ』のために『補充品(人間)の損耗』を目的としています。
過激派天使も『現実で存在の維持』や『戦闘時のMP』としてMAGを必要としているため、それを断つ為ですね。
地脈からのMAGは相手支配地では供給されないため、天使も侵攻にはMAGバッテリーが必須なので拠点には各所からかき集められた“信者”がたんまりとある……という設定です。
『“信者”が一定を超えると儀式が出来るようになって土地の支配権が奪える』とゲームのような陣取り合戦をしていることにしています。
フォルマ弾倉:
弾の一発一発を独立したものとみなさず、『弾倉+弾丸』を一つの情報体として纏めたフォルマからの生成物。
弾丸使用後にMAGを与えることで『弾丸』を再生成する。
原理的には『妖刀』等の刃こぼれが血を吸って治るのと一緒の原理。『一個の情報体』と記録することで、万全の状態に回復させることで『生成』をおこなっている。
原理的に強固な情報体が無いと『一個の情報体』でなくなったり『劣化』したりするので、使用するフォルマの純度が大切になる。情報強度が大切なため、弾倉のサイズ自体は大小どちらでもいいのだが小さい方がコストがかかる。