【カオ転三次】DRUG FATE 作:石は転がる
今回の話で主人公が語るLV30以上の天使のLVは『ガイア連合』のアナライズ基準より低いLVを出しています。
これは主人公は自身との相対評価でLV算出をしているせいで起きているズレです。
一定以上のLVだと『ガイア連合』基準で正確に測れるアナライザーが無いので仕方が無いのです。
なので、今回の話のLV30以上の天使のLVは主人公の算出数値+5~10ぐらいを目安にしてください。
原作ゲームよりもLVが高いのは地脈を自分たちの属性に傾けたのが理由のパワーアップです。
原作カオテンのスレだとアメリカでヴァーチャーLV35となっていますが、こちらはクトゥルフのご近所なので地脈からのMAGが少ないという事にしています。
半終末後だと日本でもLV18のアークエンジェル(穏健派契約済み?)が居ると思ったら、大天使の付き人パワーがLV19だったりするので割と状況によって上下しそうなので。
敵は強い方がいいよね!という作者の趣味が含まれていますがご了承下さい。
冬の寒さがまだ残り、春の訪れが例年よりも遅い今日この頃。
綻んだまま中々咲かない梅の花を横目に、ガイア連合は半終末体制をほぼ整えきる事に成功をしていた。
世間は『海賊艦艇』やら『輸送船の沈没』、『世界各地のテロ・内戦』の情報に初めは恐れ戦いてはいたものの、何度も繰り返される情報に次第に麻痺し、今ではすっかり日常へと戻っていた。
勿論、海外との断絶で経済的には混乱が続いているが、それもガイア連合が半終末体制を整えたので直に収まる物であった。
そんな遅春の日本列島をしり目に、私は幾度も過激派の拠点に襲撃を繰り返していた。
毎回規模や場所、予想戦力や地域での重要度を変更し、少しずつ“過激派”の力を計るためだ。
そうして襲撃のたびに取得した情報を精査し、海外での過激派天使の戦力を測定していたが、その結果は何とも言えないものだった。
まず、良かった点から。
一つ目は過激派天使の大多数の個体戦闘能力は、私が想定していたよりも大分低かったことだ。。
各個体で誤差はあるのだが一般
多少下級天使たちのレベルが高い気もするが、これは半終末ではまだ上位の悪魔が出現しづらいことが影響しているのかもしれない。本来なら想定通りに全ての天使の強さがさらに上がっていたのが、地上への現界のしやすさで制限を受けているのであろう。
二つ目はわざわざ地表まで下りずとも、上空からの爆撃だけでも効果がありそうなことだ。
完全な殲滅は出来ずとも襲撃を掛けただけでその拠点の行動が鈍ることが確認されたのだ。
場合によっては攻撃した拠点を、周囲の反メシア勢力が襲うことによってこちらに奪還した地点もあった。遅延工作としては上々の出来だったのだ。
三つ目はこちらの機動力を上回る敵戦力が居なかったこと。
ホワイトグリントの
以上のように効果があった点もあるのだが、微妙な点もいくつかある。
一つ目は良かった点の二つ目と反するのだが、半終末前から整備された過激派の拠点だと空襲だけでは効果が薄い事だ。
半終末前から整備されていた拠点は、その結界強度や建物自体への祝福などで雑多な拠点と比べ防衛能力が一段上だった。初撃のミサイルが結界に逸らされ、結界の半壊と一部建物が倒壊する程度に抑えられたのだ。
当然、そこに詰める天使の数や質も高く、一度襲撃を掛けた北米西海岸の教会は何百という天使と、それを統率する
結局は結界の破壊と教会の一部の破壊をした所で、周囲の拠点からの増援が来たのもあって逃げ帰るはめになった。機体の破損は無かったとは言え、破壊目標を達成できなかったのは苦い経験であった。
この襲撃の後、過激派天使たちの拠点を襲うと対空迎撃を受けるようになったのは情報の伝達がされてしまったという事なのだろう。
四六時中空中警戒をされてしまっているのだろうが、これ自体は奇襲が出来なくなった欠点と警戒に無駄にMAGを消費させられる利点とで甲乙つけがたい問題だった。個人的には目標である『時間稼ぎ』に有効な『MAGの浪費』をさせることが出来るので『作戦成功』と判断しているが、情報分析官たちは襲撃時の危険性の増大と対策構築の恐れを重視して『失敗』と判断するという見解の相違があるのだが。
二つ目は敵戦力の補充速度だ。
態と敵天使を削減するに止めた拠点を作りそこへ再度襲撃したのだが、一週間程度で前回の襲撃と同じだけの数が用意されていたのだ。
過激派には“天使召喚プログラム”があるとはいえ、召喚にもMAGやマッカは消費される。尋常でない戦力の補充は、プログラムによる召喚だけはなく地脈の汚染による野良天使の出現によって支えられているものだと推定されていた。
分かっていた事ではあったが、敵戦力である天使を倒すだけではなく『教会』という拠点と地脈との接続と、集積された“信者”の破壊をしなくては無駄に終わることが改めて確認されたと言えるだろう。
三つ目は天使とは直接関係ないことだ。
それは、ホワイトグリントでの過激派襲撃を多神連合に嗅ぎ付けられたことだ。
まあ、元々航空輸送に使っていたので移動中に目撃されること自体は想定内であった。それでも、実際に襲撃を掛けている瞬間の目撃者は出さない様に立ち回っていたので“しら”を切れるかと思っていたのだ。
しかし、それが襲撃時刻と目撃情報からの推察などではなく、神々の“権能”での個人特定という想定外によって突き止められては下手にしらを切れなくなってしまったのだ。
この辺りは私が『神』というものを舐めていたと批判されても反論のしようが無い失敗であった。
おかげで多神連合からは襲撃要請が私の元に届くようになり、しかもその雑な動きを見たメシア教穏健派や米軍にも私が襲撃を仕掛けていたことがばれてしまったのは顔を顰めるしかない。
それまでの襲撃場所が穏健派や米軍の周囲が多かったことから、勝手に納得されて私への好感度が上がったのも顔を顰めた原因ではあるが。
そんなこんなで戦力把握の威力偵察は功罪を孕みつつ、一応の終結を見ることになる。
“教会”の規模からの敵の戦力予想の指標も出来たし、地上に出現している“天使”の内訳比率も凡そ割り出せたからだ。
なので、私は威力偵察を終了し、次にすることを考えながら配達業に専念することにして一旦襲撃を止めることにした。
襲撃の再開は考慮しつつも、むやみやたらと襲ったところで意味がなさそうであったからだ。多神連合からの依頼を受けるだけの義理が無いともいうが。
そうして多神連合や穏健派からの襲撃要請は“山梨支部の交渉窓口”に投げ、現地に居る“出張俺たち”からの爆撃要請に応えて航空輸送のついでにミサイルを撒くだけの仕事を日々こなしていたある日。
山梨支部の対外交渉の部署に呼び出された私は、その場で提示された“依頼”に思わず難しい顔をしてしまっていた。
インドの対メシア教戦線への支援攻撃の依頼だったからだ。
インドは半終末前に中央部から南をメシア教に占拠されたのだが、その後もガンジス川周辺を起点に抵抗を続けていた。半終末後もそれは変わらず、押し寄せる天使を相手に呼び出されたインド神話の悪魔たちが現地異能者と戦線を維持していたが、それもメルカバーの参戦でどうやら限界が来ているらしい。
そのため、戦線を整理してヒマラヤ山脈での防衛にかじを切るそうだ。
私にはその戦線の整理をするための時間を稼ぐことを求められているらしい。
見せられた資料は嫌になるような事ばかりだ。
インド半島は北部に多神連合、それ以外がメシア教過激派に支配されていたのだが、その過激派に海から上陸したマザーハーロットがちょっかいを掛けている……というのがつい最近までの情勢だ。
マザーハーロットを止めるのにメルカバーが相手をしていたようだが、その際二体の悪魔は周囲を気にすることなく暴れまわっていたので沿岸部の人口密集地は何処も彼処も被害を受けていた。
そこで、過激派の天使たちは一手を打った。
――沿岸部の人間を全て“穢れ無き信者”へと加工したのだ。
その加工品の集積所がインド半島中部の過激派の教会であり、そこへの襲撃を依頼されたのが今回の呼び出しの用件であった。
「――敵の規模とかは不明、ですか。」
「ええ、警戒が強くてどの拠点も遠方から確認するのが精いっぱいのようです。」
集積所と目されている拠点は複数あるが、どの拠点も警戒線が機能してしまっているらしい。
インド内陸部の生き残りがこなしたクエストでは詳細が把握できないため、わざわざ対メシア戦線の人員が偵察を出したのに遠巻きから見るのが限界なあたり敵の警戒はかなりのもののようだ。
辛うじて拠点の場所と大きさだけは把握できたのは、対メシア戦線の意地だろうか。
「しかし……不味いですね。」
次々と運び込まれる或いは自分の足で歩く物資の写真に、ガランとしたシェルターだったものの写真。目についた人間や被害地域の人間だけでなく、本当に人っ子一人居なくなるまで収穫されている。
それの何が不味いのかというと、過激派の天使が打った手は過激派の強化とマザーハーロットの弱体化の両方を引き起こす手だからだ。
過激派の強化は分かり易くMAG資源の安定供給であるのなら、マザーハーロットの弱体化はMAGの欠乏だ。
恐らくだがマザーハーロットは地脈からのMAG以外にも、“大淫婦”らしく人を惑わし堕落させ、或いは直接的に人を襲う事によってMAGを得ていた。その補給を過激派は断ちに来たのだ。
そのこと自体はガイア連合からすれば問題でない。
問題は、この行為により『メルカバー』に余裕が出来てしまう事だ。
「メルカバーが対メシア戦線に現れたのは2回ですが、その2回とも多大な被害を与えています。後退時にメルカバーが出現してしまえば、秩序立った後退は不可能です。」
メルカバーの出現しているのは防衛線で、結界などの地の利がある状態の時だ。
その時でさえ、現地で“英雄”とされていた異能者たちを纏めて雑に轢き殺している。これが後退時の守りが少ない時であれば、壊滅的になるのは自明の理だろう。
まあ、だからこその今回の依頼だ。
掻き集められた信者を減らしMAG生産量を減らすことも目的だろうが、後方で暴れさせて前線から目を離れさせる思惑もあるだろう。もしかしたらメルカバーとぶつけ合わせようとまで考えているかもしれない。
「現地の体制が整うまでどれほど掛かるかは知りませんが、襲撃自体は問題ありません。」
「そう言ってくれると助かります。こちらも出来る限りの支援をさせていただきますが何ありますか?」
「一応、改めて対メシア戦線の敵天使の情報をいただけますか? 未確認情報も含めてもう一度確認しておきますので。」
「了解しました。すぐに用意します。」
追加された資料に目新しいものは存在しない。
指揮官の種族:大天使の情報をとは言わないが、せめてメルカバーの出撃頻度ぐらいは知っておきたかった。しかし、対メシア戦線は防衛の片手間に魔人と大天使が争った跡を収集する余力も無いようだ。
MAGの問題でそう何度も戦闘をしているとは思えないのだが、あまり楽観視できる状況ではないようだ。
「……機体の都合がありますので明後日から襲撃を開始します。対メシア戦線の方には避難勧告を出しておいてください。」
「お気をつけて。」
「ええ、ありがとうございます。」
渡された資料を鞄に詰めて部屋を出る。
――さて、また忙しくなりそうだ。
インドの過激派教会の襲撃は、事前に想定されていた通り簡単なものではない。
どの拠点も重要拠点として相応に防護を固められているし、その警備状態も“天使”らしい生真面目さで緩みも無い。そして、“信者”が多くあるという事は、同時に多くの天使が養えるという事を意味する。
それは万全の要塞に単機で挑むという難題だ。
それでも、初めは上手く行っていたのだ。
一度目の襲撃は初めから当然に整備されていた対空網を掻い潜り、結界を削り隙を作る。そして、その隙間から破壊を送り込んだ。
二度目は最初から結界に体当たりする勢いでぶつかり、早々にぶち抜きそのまま壊滅させて逃げる。
一度、二度、三度……と手を変え品を変え襲撃を成功させていく。
そうすれば、当然相手も戦力を集め、警戒を厳にし。また、襲われた時の対応も洗練していく。
襲撃を繰り返すたびに苦しくなる戦闘。それは対メシア戦線への圧力の低減と裏返しだ。
あの日は、そう自分に言い聞かせて行う何度目かの襲撃の時だった。
インドの教会はその大抵が広大な敷地面積を誇っていた。
長く延びた塀に覆われた外縁部の内側にはまず麦畑があり、内側に向かうにしたがって家畜小屋や畑などが順に並んでいく。ブドウ畑の近くには醸造所だろうか。頑丈そうな石積みの建物が建っている。
ともすれば貧相なまでに素朴な農園と農村が外縁にあるのなら、その内側にあるのは場違いなまでの豪奢で堅牢な聖堂だ。
外と内とを区切るための塀ではなく、外敵を排除するための城壁。宿舎には洗礼された武具が積まれ、尖塔には鋭く周囲を見張る狂信者の姿。礼拝堂は荘厳な空気を演出し“教え”を広めるはずが、そこにあるのは濁り淀んだ“善意”の妄想だけだ。
カタコンベの様な地下室は、或いはカタコンベそのものかもしれない。棺の代わりの容器に、しゃれこうべの代わりにその内側を詰め込まれている。人としての生を終えたものが眠りを得ることなく、使用しやすいようにそこには整理されていた。
それをうっとりと眺める天使はその献身こそが神の身元へ行くために必要だと嘯き、しかし誰もそれを正す者はいない。
此処こそが楽園に最も近き“聖域”。四文字を崇める者たちの安息地である。
その遥か上空。
人が、その身一つでは生存できない領域。暗い空の果てと、青い大空の境。
痛いほどに降り注ぐ日光に焼かれ、白い塗装をなお白く輝かせながら私はそこに在った。
「9S、予定時刻だ。」
「了解、襲撃を仕掛けます。」
与圧された空間に囁くように響く声。それに自分の体を億劫に感じながらも動かし返答する。
強靭で流麗な体躯は己のもう一つの身体の脆弱さをさらけ出し、機体との接続の度に接続中の自己の血肉を意識することが減っている。逃避から起こる自己の剥離。それを正しく認識しながらも、私は機体が私の体である充実感にあえて酔っていた。
「ライフルには結界破断術式付与。ミサイルはノーマルで。」
「ミサイルは囮か、了解した。破断術式の展開確認。」
「A2が居れば結界破壊概念を入れられるのですが……2Bも覚えたりしません?」
「私の適性ではない。どうしてもと言うのであればスキルカードを使え。……襲撃前の軽口は9Sの悪癖。」
「すいません、気を付けます。――それでは、行きます…っ!」
機首下げ。堕ちるように地表に向かう。
浮遊感。浮き上がる内臓を押し潰すような圧力。慣性制御をしたうえでなお覚醒者でなければ押し潰される加速。
そんな生身の感覚以上に、機体の感触の方が今の私には鮮明に伝わっていた。
衝突する大気の激流。それはプライマルアーマーを削り、機体の背後に伸びる
白い閃光。その名の通り、空の一陣の流れ星となって流れ落ちる。
そうして瞬く間に速度を上げ、高度を下げても機体には何の不具合もない。
鋭く地表をにらみつける複眼が動き始めた天使を捉える。
ロックオン。
ミサイルを吐き出し、
<<……っ…ミサイル全弾発射完了。急速生成を開始。>>
<<9S、
言葉を口に出す――その動作すら置き去りに、繋がる魂が意思を交信させる。
ミサイルの発射に意識を取られていた思考が、初めて“目”に映る敵影を理解する。
部下の天使が少ないのは出撃に手間取っているからか。部下を振り切ってでも上がることを優先したその行動は警戒に値する。
銃口が僅かに動く。照準。ただし撃鉄を引くにはまだ早い。
あと三秒。教会からの迎撃編隊は
あと二秒。視界を覆う魔法の弾幕に隠れた攻撃の気配なし。クイックブーストを使うまでも無く、僅かな進路調整で魔法を置き去りにしていく。
あと一秒。時間が進むのが遅い。
…………っ…発射!
瞬くような炸裂音。連射による弾幕。
しかし、私はそれに気を取られる間もなく、機体を起こし進路を垂直から水平へと向ける。教会敷地の上空をたった一機でフライパス。機動にぶれた弾丸が天使から外れ結界へと衝突する光景をしり目に一度離れる。
<<着弾!>>
テンポのズレたパーカッション。後ろで轟く爆発音は途切れる間もなく四方八方でその音を響かせる。ミサイルの着弾だ。
一発一発の威力は通常弾なのでそう大したものではない。現に、目標へと向かっていたミサイルはそのすべてを結界に阻まれ空に散っている。
しかし、目的は達成だ。何せ突然の襲撃に対応できていなかった上位の天使たちが各々自身の思う最善の行動をはじめ、群体としての統制が乱れた。
大きく弧を書いた旋回で教会で向き直る頃には、警戒に迎撃に避難にと広大な土地を好き勝手散らばっている天使の姿が見えた。
天使の弱点だ。
上位者からの命令は絶対のものとするが、同格の者だとそれが生じない。天使としての“決められた役割”による職権はあっても、製造時に予定にない役職による権限の付与と制限が出来ないのだ。そのせいで爆発があった地点に向かうものや、逆に防衛施設の中に籠るものなどで動きが混乱している。
<<今のうちに結界を破壊する。2B、敵の動きはそちらが注視してくれ。>>
<<了解。>>
OBを解除。着地して遠くに望む聖堂を見上げた。すぐそこに在るのに遠い。結界と城壁に遮られた目的地はその尖塔が顔を覗かせるにとどまっていた。
接敵した天使が勇んで放つ魔法を無視。どうせ機体の表層にすら届かない。
敵からの魔法は
気を取り直し視線を自身の周囲へと戻して睥睨する。
天使が数十。
機械的に銃口を敵に向け発砲する動きとは別に、意識はうじゃうじゃと蠢く天使の気配に隠れた結界の楔または要を探す。
――発見、祠。……っ、発見、住居。……発見、広場。
見つけた基点を生成の終わったミサイルで跡形も無く吹き飛ばす。
結界の一角を壊し、侵入。重層的な結界群ではあるが、その分一つ一つはそう硬くない。畑も、家屋も、人々が生活するための何もかもを蹂躙して中心に向かう。
<<9S、天使が統制を取り戻し始めた。>>
<<もうか? …
<<西から
怖気が走る。慣れ親しんだMAGの消費による吐き気とは比べ物にならない嘔吐感。
無意識下での選択。木製のあばら家を数軒衝突により弾け飛ばしながらも回避。
――……回避っ?
理性が本能を認識する――それに疑問を覚える暇も無く、数瞬前のまでいた空間を貫く魔弾。遅れて膨大な数の魔法が先ほどまで居た一帯を蹂躙した。
熱・雷光・衝撃・暴風。
統制射撃。たった一瞬に、何百という天使がただ一点に向かって放った全体魔法の飽和。アギ・ジオ・ガル・メギド系と投射時は知覚出来た魔法は、一点にて飽和することで混沌とした属性の破壊となっていた。生半可な“耐性”では何一つ防げない崩壊した空間だ。
――完璧な統制。それはそれを成せるだけの“格”の天使が居るという事だ……っ!
『――ケガレを滅ぼしに来たら、思わぬ者を見つけた。』
穏やかなで、流れる川のように清らかな美声。 / 気持ちが悪い。
広げられた四対と貞淑に素肌を覆う四対の翼。 / 腸が縮み蠢く。
嫋やかに伸ばされた指は轟く剣を掴んでいる。 / 手足が震える。
鷲の兜に獅子と牡牛の肩当から私を睨む眼光。 / 震え慄く身体。
新緑に透き通る車輪は四方に侍りて轍を刻む。 / 目が囚われる。
<<9S!!!!>>
恐ろしい、気配がする。
清らかな、気配がする。
鳶色の切れ長な瞳。波打つ黄金の髪。そこからは小ぶりな笹の様な耳が顔を出し、羽根の隙間からは滑らかな肌が香り立つ。
性的な部位だけを隠し、惜しげも無く晒された豊満な女体。そこに邪なものが入る余地がない。
純粋な“美しさ”。
<<―――!! ―――――っ?!>>
――2Bの叫びが、何故か遠い。
『何をしているのですか、そこで?』
心底不思議そうにかんばせに疑問を浮かべる。可憐な表情。
闘争の気配が、無い。
つい先ほど、私目掛けて世界すら破壊した魔法を撃ち込ませたとは思えない。本当に、街中でばったり知り合いに会ったような、そんな顔。
戦場が止まる。
地上から、ケガレに塗れて尚“美しい”天使を見上げる。 / 怖い。動けない。
四方から続々と天使が集結してくるのを感じる。 / 恐い。動けない。
その姿に見覚えはないのに、何故か懐かしさを感じる。 / 怖い。動けない。
――私は、彼女を知っている……? / 恐い。動かな――
『
目が、覚めた。
<<9S! 動け! 【メルカバー】だ!!>>
酸素を求めて喘ぐ。胃を焼く痛み。強張り引き攣った肉。
場を弁えず不調にがなり立てる肉体。
――今だけは、この柔弱な我が身に感謝だ。
<<2B、OB起動! 撤退します!>>
<<OB起動! ミサイル全弾『硫黄と火の雨』装填!>>
命令無しでも独自の判断で私から引き摺り出した概念を書き込む2Bの献身に、しかし私は応える余裕もたない。
――転げ落ちるよりもなお早い前進を! 破滅すら追いつかない速さを!
ブースターというブースターで強制的な
交差。
驚き戸惑い見送る目線を無視し、ミサイル発射から脇目もふらず逃げをうつ。
遠のく意識。 / 無機質に状況を判断する意識。
白く染まる視界。 / 冷静に目標を捉える機械の眼。
城壁、軍勢、聖堂。そして、わずかな混乱でも起こってくれと祈り放った住居。弾着の確認もなしに追撃に怯え逃げる。
偽装も欺瞞も無しに一直線の逃亡。
一秒、二秒、安心できない。
一分、二分、背後に迫る恐怖に震える。
半刻、一刻、やっと後ろを誰も追っていない事を理解した。
「――…ひぃ……っ…ぐっ…ひぐぅ……は、はっはっ!」
乾き細まり締まった咽喉から漏れる荒い息。
まるで悲鳴だ、そう嗤うことすら出来ない。感情を抑える
怖い。
恐い。
怖い恐い怖い恐い怖い恐い怖い恐い――――。
ガチガチ歯がなる。無理やり操縦桿から引き抜いた指が己の体を掻き抱く。身を覆う装備がギチギチ音を立て軋む。首を伝わる冷や汗の冷たさ。軋み上げながら早鐘の如き鼓動。逆流した胃液に溺れる。
無言の操縦席。魂に繋がっている温もりに縋りついても、心が凍える。
忘れる事の出来ない無い恐怖。何時も私の背後から覗き込む畏れ。初めて
「…違うっ、大丈夫、大丈夫、大丈夫、大丈夫。そうだ、大丈夫ッ、大丈夫だ。……あれは、あれは神主よりは弱い、弱いんだ、だから、だから大丈夫。大丈夫。あれは、違う……っ!」
だから、あれは破滅ではない。
言い聞かせる。違うのだ、と。何度も、何度も、自分に言い聞かせる。
――あれは
ならば、どうとでもなる。ならば、どうとでも出来る。ならば、どうにかしなくてはならない。
咽喉が詰る。息を整える。
腕が痛い。指の力を抜く。
荒れた呼吸が少しずつ収まっていく。
肉の痛み。四肢が熱を持つのはあまりの加速度による血管の破裂のせいか。撤退するためとはいえ無理をし過ぎた。
血の臭い。内臓の損傷による嘔吐感。この程度なら帰るまでに治るだろう。
胸の鼓動。痛いほどに高鳴るのはMAGの枯渇のせいに違いない。
――不動心を嵌め直す。
「――…すぅーはぁー……すいません、2B。お待たせしました。帰還しましょう。」
「ああ、帰ろう。」
バイザーのように被りなおした冷静さで、微笑んで帰投を宣言する。
今回の破壊目標は達成できなかったが【メルカバー】と直接相対するという思わぬ成果が得られた。安全を重視して攻撃による属性耐性の確認などはしなかったが、2Bが一緒だったおかげで最低限のアナライズはすることが出来た。
帰還したら、そのデータを元に対策を練らなくてはいけない。
外を見れば陽が落ち始め、空は赤く燃えている。
――この感じでは帰った時には夕飯だろうか。今日のメニューは何だっただろう。
ちょっと頑張りすぎたので、今日は香辛料の強いものでなければいいのだが。
そう言えばそろそろ四月か。小学校の入学式には偽装を被って出席しなくては……――
とめどなく流れる思考。戦場を忘れたかのように日常を思う。
【メルカバー】との初遭遇の思い出は、そんな私の情けない敗走の記録だった。
主人公と初めて会った頃の神主ってどんな精神状態だったでしょう?(ニッコリ
主人公もいろいろ勘違いとかしているのですが、本編でもうちょっと詳しく主人公の内心描写をするのでお待ちください。
Q.なんで主人公は中華戦線で戦う許可が下りるの?
A.日帰りで帰ってくるし何時でも逃げ出せるから。現地で交流もないですしね。
ショタオジ的にはギリギリの妥協点。妥協しなくてはいけないだけ中華戦線がやばいともいう。
ちなみに日帰り自体は道中の地脈支配しているショタオジ・仙人・インド神(ヴリトラ?)が協力すれば可能かと思われます。送ってインド神が『返したくない』ってしたら帰れないのでやることはないだろうが。
今回はメシア教過激派も日本に無意味に核を撃ち込むだけでなく、いろいろと考えて動いているよって言う話でした。
時系列的な補足説明ですが、『中華戦線』はまだインド北部で頑張っている時期としています。
これが時間が経つごとにさらに押し込まれていって今年中にチベットまで後退します。
他の地域でしている『浄化と布教』もここの戦線のための後方支援と補給物資の生産の意味があります。
まあ、指揮している大天使以外はそんなこと考えてないと思いますがw
メルカバーがⅣとは違い人間的な姿なのはメシア教汚染されているからです。
Ⅳの世界だと四文字の力が強いので原型に近いのですが、この世界はメシア教の力が強いので四大天使も人型です。
そのため、メルカバーも人型の従来型四大天使に倣った形をしています。
ちなみにこの話では四大天使が合体して出来たわけではないので熾天使ではなく『種族:大天使 智天使メルカバー』として降臨しています。私の調べた限り『神の戦車』が智天使と座天使のどちらかはっきりしないのですが、この話では半終末の開始に合わせて来てるので智天使と解釈しています。
黙示録の四騎士を呼び出した『生き物』が智天使であるという解釈と関連付けてです。
インド半島沿岸部で生きているのは、隠れ潜んでいるシェルターの住人ぐらいという地獄にしてしまいました…。
中華戦線を維持するための過激派側の補給を考えていたら後ろにちょうど莫大な人口が居たのでそういう事になりました。
ちょうどメルカバーとマザーハーロットの争いに巻き込まれる位置ですし、防衛考えるより収穫してしまってそうだなって思ってしまった作者は頭メシアン化してますね(汗