【カオ転三次】DRUG FATE 作:石は転がる
ついにストックが尽きてしまったのでこれからは更新が遅れる事になります。
凡そ一週間に一話は投稿できるようにしていきたいと思っています。
お待たせすることになりますが、ご容赦ください。
――しかし、なんでこんなに話数が増えているのだろうか……?
今回は他者視点のお話です。
「あー、もうっ! 如何すっかなぁー。……はぁ。」
呉支部が誇る大工廠。その端の端。工廠の隅に陣取っているこの場所は、口がさない転生者からはブルーシート・シーと呼ばれている『支部長占有スペース』だ。
流石に
そんなガレージの一角。何処にでも在りそうなちゃちな長机とパイプ椅子が並べられた会議場で、俺は技術レポート片手に頭を思わず掻いた。
ついでに口について出た独り言は、忙しく整備を続ける音に負けて誰にも届かない。
ちょっと寂しい。
「しっかし、ほんと如何すっかねー。新車が半年もたたずに半壊とは。」
いっち、にー、さんと数えてびっくりする。機体が初めて出撃したのが二月だからまだたった三か月しか経って無かった。お披露目したのはもっと前の事だと思っていた。
……今年は、時間が経つのがホントーに遅い。
「いやだねぇ、ほんと。終末、終末か~……週末ならいいのに。」
――週末でも休みは関係ないか。シフト制だし。
胸から気の抜けた空気が吐き出される。間抜けに大口を開けてボケっとしているとのどが渇く。
コーヒーをズズズズッと啜る。熱い。
ちょいと涙目になりながらコーヒーに息を吹きかけるがしばらく冷めそうにない。ふーふーしながら横目に見上げた光景に、コーヒーの後味の酸っぱさが加わって思わず顔を顰めてしまった。
「ほーんと、派っ手にやられたもんだ。背中の左側に左腕も吹っ飛んでるんだもんなぁ。良く帰ってこれたよな、これで。」
左側のオーバードブースター全損。左腕は上腕から下が消失。他の部位だって無傷なところは全く無い。
むしろ、何度も何度も無理やり再生させられた他の部位の方が機械的には酷い有様かもしれない。綺麗に再生されたところは良いが、応急的に取り繕ったところが時間と共に劣化してきている。なまじ外観は取り繕われているせいで、人の手で全チェックしないと怖くて⑨ニキを乗せることが出来ないもんだ。
今までほとんど傷すらなく帰ってきていただけに、整備班を含めこの機体に関わっていた俺たちにはすごい衝撃だった。冗談抜きで腰を抜かしていた奴もいた阿鼻叫喚はあまり思い出したい記憶ではない。
「これなら新造の方が早いってのもわかるんだがねぇ。」
一体どんな力で壊されたのだろうか。
左腕も背部OBも
他の場所は他の場所で展開されたオーバードブースターや足なんかに、後ろから撃たれた弾痕のようなものがいくつも残っている。おそらく余裕が無かったので再生もせずに放置して帰還したのだろう。前側にも似たような損傷はいくつもあった。頭部なんて半分無くなっていたし。
そんなガラクタの方が痛々しくないだけまだマシな残骸の横では、急遽かき集められた技術者たちが埃を被っていた予備部品を組み立てて新しくもう一機新品を作っている。ガレージの逆側の工作エリアでは足りないフレームなんかを超特急で製造中だ。
おかげで揶揄い交じりの
「こっちは部品取りで解体って言ってもどこまで使えるものがあるのやら。左っ側は検証の為ってガイマテが持っていくって言うし、第一生きてる部品ってコクピット周りぐらいじゃねーかよ。」
コクピット周りの主機なんかも剥がしてしまえば、残るのはもうゴミだろう。いや、装甲からネジの一つまで高純度フォルマ材であるのでリサイクルできるんだろうか。そっちの技術は詳しくないので知らないんだが。
「いやいや、それはどうでもいいか。WGはあっちに任せときゃ良いが、こいつはどう纏めたもんかなぁ……。各部の改良ぶっこむってなるとバランス崩れるしやっぱり設計からやり直しかなぁ……いやだなぁ…また徹夜。」
――ああ、さらば。我が週休四日生活よ。……いや、半終末になってからは週休二日だったけど。
そんなことを思いながらも、まずは設計班に仕事を投げる段取りをつけないといけない。取り合えず使える新技術の選択を研究者どもとしないといけないし、設計班に青写真を描いてもらうために概略でも良いから要求項目を打ち合わせないと。
と、そんなことを考えていると丁度いい所に雇い主様が現れた。
「班長。整備どうなっていますか?」
ガンガンドンバン五月蠅い工廠なのにスルッと耳に届く声。いつも通りの微笑みに相変わらず自己主張の欠片も無い気配。そのくせ出現だけで場を掌握するそれは一体どうなっているのやら。揺れ動いていた俺の心がホッと一息ついたのを感じた。
機体をぶっ壊して帰って来たのが昨日なのに疲れも痛みも見えない。ふわっとした暖かな空気はいつも通りだ。
「⑨ニキ、こんにちは。WGは見ての通り新造中です。」
「どれぐらいで出来ます? パーツとかは予備がありますよね?」
「内装系はパーツあるのでそんなに時間かからないですかね? フレーム造るのに一週間は欲しいけど。」
「一週間ですか……。仕方がないですね。その間は航空便の休航を知らせておかないとな。」
昨日の今日なのに、すぐに仕事の話になるのはホントお疲れさんだ。確か整備スケジュールだと二ヵ所にお届けがあったはずなので、そっちの転生者に謝罪の一報を入れるのだろう。
「いっそのことこれを機に配達業務を縮小するべきですかね。対メシア戦線にかかりっきりですし緊急便以外は止めても良いかもしれませんね。」
「すみませんがそちらの方は詳しくないんで……。」
「ああ、ごめんなさい。独り言です。」
軽く頭を下げるその姿は、本当にいつもと変わらない。帰還時には歩くのもしんどそうだったがもう大丈夫なのだろうか。
「それはともかく、機体の方は二週間後に出撃できるようにしてもらえればいいです。なのであんまり根を詰めないでください。」
「機体は万全にしてして見せますが……お体の方は大丈夫なのですか?」
「大丈夫ですよ。ちょっと完治まで時間はかかりますが。」
思わずチラチラ見てしまってたこちらの目線に、気が付いていた⑨ニキが苦笑して右手を振る。その反対、左手側はその動きに中身の無い袖がブラブラと揺れている。
“フィードバックダメージ”。機体に霊格を詰め込むにあたり、どうしても排除できなかった欠点が⑨ニキに牙をむいたのだ。
普段と違うのは左腕だけではない。
普段アニメキャラみたいにふんわりさらさらと背中に流している長い髪は内側にカールしたミディアムボムになっているし、よく見れば右目が時折ぶれて明後日の方向を向いている。
霊体さえ無事ならガイア連合の技術なら治せるはずなのに、治療の様子が見られないのは霊体自体が傷ついているのだろうか。
「えっと…、式神治療が必要なんじゃないですか?」
「ああ、大丈夫です。霊体が消失してますが自然治癒で治せるので。しばらく不便ですけどね。」
それって一大事やないか!ッと叫びかけた口を慌ててぐっと押える。
前に一度ヘマをして指の霊体を削られた同僚がいたが、それはそれは酷いものだった。
同僚とて
それが腕一本+αになるなんてどんなに痛いのか想像すらしたくない。
「……いったいどんな攻撃を受けたんで? 次の機体の参考に聞きたいんですが。」
「あー、そうですね。簡単に言うと数百の天使のバフを受けたメルカバーに轢かれました。こうOBで一撃離脱戦法をしてたんですが、メルカバーと交差した瞬間に私へのデバフとメルカバーへのバフで速度負けしまして。後ろから全力の『チャリオット』をくらいました。咄嗟にQBする事しかできなかったのは私の油断でしたね。」
右手でひらひらとWGの動きを示しながら『随分と痛い教訓になったものですよ』と笑う⑨ニキに冷たいものが流れる。
確か⑨ニキがWGに乗った初乗りでのLVが推定80かそこらのはずだ。それがLV100over確定の格上の全力+バフマシマシを受けて良く消し飛ばなかったものだ。
そりゃ腕の一本ぐらい持ってかれるよなという納得と、むしろ腕一本で済ませてるの怖くね?という戦慄が俺の背筋に鳥肌を立たせる。
「それよりも改修機の方はどう考えています? 前々から話は進んでいたはずですが。」
なお、怪我を負っているはずの⑨ニキはけろっとしている。
うーん、相変わらず現実を疑いたくなる。本当に大丈夫なのか心配なのだが。
あんまりしつこく怪我の事を聞くのも良くないだろうか。ここは話に乗っておこう。
「黒栗(仮)は基本機能はそのままですが、WGの改良ではなく一から設計し直す事を考えています。」
「設計し直しってことは内燃系以外は作り直しですか?」
「そうですね。ただ、構成要素に変更はないので部品はある程度WGと共有できるかと。」
基本性能を爆上げすることは不可能だが、戦訓を元にした細々とした改良点は大量にある。一番は外部へのMAG放出機構だろうか。まさか今の放出量で足らなくなるとは想像だにしていなかった。
他にもバランスをとって出力を落としてた部品なんかの見直しなんかもしておきたい。WGが出来てたかが数か月だが、すでに性能向上させた部品が出そろっていたはずだ。出来ればWGも後で改修しておきたいが、まずは黒栗(仮)からだろう。
「それなら問題はなさそうですね。――ああ、そうだ。出来れば、ですけど遠近両用の武装を用意してもらえません? WGは機動力と運動性で射撃戦をするはずでしたが、【軍勢】相手となると接近しないのは不可能だったので。」
「あー、ログがありましたね。」
なんかOBで轢き殺していたり足蹴にして移動ついでに天使を殺しているログがあったはずだ。三度目の交戦時のものだったか。あの時は仲間と一緒にどちらが戦車か分かったものじゃないと笑えたんだが……。
ちらりとまた見てしまった怪我に苦いものを感じる。あの時から、
推定LVで120。或いはもっと高いかもしれないと分析しながらも、みんな無責任に⑨ニキなら大丈夫だと笑い飛ばしていた。その結果がこの怪我だとすると、この怪我の責任は油断したと笑う彼自身ではなく俺たちの責任だ。
「取りあえずそっち方面にも声をかけておきます。」
「お願いしますね。――機体も、武装も、全て素晴らしいものでしたから、新しい武器も期待してますよ?」
……恐らく自責の念を気付かれた。
いつも通りの笑顔。支部長として部下を褒めるモノではなく、
他にもいくつか打ち合わせたら⑨ニキは足早に立ち去っていった。なんでも次は米国で行う事業支援の打ち合わせらしい。
前々から忙しそうであったが、今では冗談抜きで分刻みのスケジュールになっているのではないか。疲れも見せずに働く姿は、いつもと変わらず尊敬できる支部長のものだった。
その後ろ姿をボケッと見送っていると、いまさら⑨ニキの左後方に着いた式神に気が付く。左側に立っているのは負傷をかばうためか。相変わらず常在戦場でおっかない限りである。
「あー、やめやめ! 取り合えず仕事だ仕事!」
ガシガシ頭を掻き回し、気合いを入れて頬を打つ。痛い。ちょっとやりすぎてヒリヒリする熱さに苦笑する。
シリアスぶってみたところで俺に出来る事なんて機体を整備する事と、ちょっとプロジェクトを取り纏める事ぐらいしかない。それなら早めに仕事を終わらせて、何時追加の仕事を投げられても良い様にしていた方がよっぽど良い。
「まずは研究者連中と設計者連中を締め上げて全部吐き出させないとな。」
そうと決まれば早速行動だ。
少しでもいい機体を。それを送り出すことが
なので、俺はふんすと力を入れて仲間たちの招集に走り出すのであった――。
名無しの転生者:
⑨グループ電装系企業社員。半終末後は会社所属のままだが、ガイア連合の仕事に掛かりっきりになっている。
WGの整備班長は掛け持ちの仕事で、本職はガイア連合のオカルト工場の整備責任者。
呉支部の趣味人らしくLVは50近い。実は主人公よりも先に修行場の中層解禁されていたので。
途中の週休四日は半終末より前の表の仕事の話。ガイア連合員としての活動を休みの日にしているので実際の休みはもうちょっと短い。
霊体については独自設定を出してます。
この小説では【霊体】は“損傷”なら自然治癒できますが、“喪失”した場合は普通なら回復でき出来ない事にしています。この辺りは肉体と同様に傷なら治るが失ったら生えてきたりしない形ですね。
ただ、何事も例外ありきで【霊体】の“喪失”でも【魂】から設計を引き出して自己修復する能力があるなら“再形成”出来るとしています。
普通は無理なのでガイア連合では式神手術で義肢なんかの【霊体】を入れるのですけどね。
【メルカバー】との五度目の遭遇で大破した機体の話でした。(存在しない記憶)
ちなみに設定的にはほぼ隔週で遭遇しています。
一度目:63話 戦闘せずに逃げ帰る。
二度目:対メシア戦線からの依頼で後方拠点襲撃時に遭遇。
この時は普通に1:1で戦って
損害:軽微。自己修復して帰還。
三度目:対メシア戦線に出張って来たメルカバーを止めるために緊急出動。
天使とインド神とメルカバーとWGでぐっちゃぐちゃの戦場。
お互いに巻き添えを出しながら戦っていたのだが、両陣営消耗が激しく自然に終戦した。
損害:足が消し飛んでいたが自己修復してから帰還。
***
ここで一度お互いが相対せずにすれ違った戦況が出来る。結果、好き勝手に動けたメルカバーとWGで両陣営被害甚大。防衛陣地を維持した対メシア戦線側の方が辛うじて損耗が少なかったので判定勝利?
余りに被害が酷かったので過激派陣営がメルカバーを主人公に対する防衛札として温存を始める。
これ以降は主人公の戦線への参加時にしかメルカバーは姿を見せなくなる。
対メシア戦線的にもメルカバーを好きにさせたくないので出現したらそちらを優先するように頼んでいる。
***
四度目:メルカバーが主人公に対して呼びかけを開始。
ノコノコ出向いたらやっぱり罠で直径1㎞ぐらいの結界にメルカバー+αごと囚われる。
機動力を殺しに来たのだが初使用の
密閉された空間のせいでAAの威力が酷い事になったのがメルカバーの敗因。
足止めがいなくなったので主人公は悠々と過激派拠点を焼き払って帰還しました。
損害:AAの反動でフレームの一部が歪んだ。パーツ交換で修復。
五度目:戦線の少し外れで呼びかけによって相対。
普通に戦っていたのだが、メルカバーの一瞬に賭けた全力で主人公敗北。
機動力も殺されて割と絶体絶命だったのだが、どうにか海まで逃げて宗像三女神の力で惑わし撤退した。