【カオ転三次】DRUG FATE   作:石は転がる

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難産過ぎた幕間です。


幕間33

 

 呉支部・支部長室は、実質私の城である。

 私としてはそろそろ誰か支部長を変わってほしくもあるのだが、今のところ立候補者はいない。一応、勝手に見繕っている人材はいるが、それは兎も角。

 呉支部が完成してからもう五年ほどか。その間、自分の部屋として過ごしていたせいですっかり私の“匂い”とでもいうものが染みついた空間になっていた。

 

 その支部長室の一角。

 ちょっとしたワンルームの様な仮眠室は、嘗てはその中では珍しく私の色が少ない空間だった。

 何せ家まで徒歩数分の距離である。態々ここで寝泊まりする必要性があまりなかったのだ。

 

 しかし、半終末の到来後、私はこの部屋に泊まり込むことが多くなっていた。

 物資輸送のために朝方や夜中に出発又は帰還することも多かったし、海外で活動する黒札の支援のために急遽呼ばれたこともある。

 他にも恒例行事となったアメリカから打ち上げられたICBMへの警戒も必要であった。すでに防衛体制は盤石になっているが、最低限度の備えとして支部内にいた方が対応がしやすいのだ。

 

 

 そんな部屋で、独り私は目を覚ました。

 

 地下深く、陽の光どころか外の音すら届かない仮眠室は、一度明かりが消えれば何も見えない無明の世界だ。

 設備として常夜灯などは完備しているが、個人的な好みで寝るときは明かりをつけていない。

 そのため、起きた時には平衡感覚すら失われる闇に包まれていた。

 

 体に掛かる重力の重さ。かき分けた髪の毛の垂れかかる感触。それによって上と下を認識する。

 ひどく、だるい。

 過日の戦闘に疲れが溜まっている。月に一度二度の死闘は体の疲れ以上に心を酷使していた。

 呆っと目を開けたところで何も見えない。

 

 どれぐらいそうしていただろうか。寝起きの頭が動き出す。

 はだけたシーツ。体を覆う装備のインナー。

 昨日――いや、今日か?――は未明に帰還したこともあって、家に帰らず霊薬をかっ食らってそのまま仮眠をとったのだ。

 今は何時だろうか。起こしに来ないという事は、まだ時間に余裕があるのだろうか。

 鈍い頭が今日の予定を思い出そうとして靄がかる。まだ寝ぼけている。

 取り合えず、シャワーも浴びずに寝たので身支度を整えないといけない。

 

 重い頭。それを無理やり持ち上げる。

 短くなっていたはずの髪は、すっかりいつもの長さがありそうだ。MAGタンクとして消費と貯蓄を繰り返しているが、将来禿げたりしないだろうか。

 つまらない思考が頭に浮かぶ。

 上体を起こした所で、部屋の中は相変わらず何も見えない。それでも霊感はいつも通り働いている。

 ベッドの脇。床に並べたスリッパも、しっかりと把握できていた。

 

 そのスリッパを履き、立ち上がろうとして……体が床に倒れていた。

 ――端的に言えば、こけた。

 

「は?」

 

 一瞬の忘我。

 顔を押し付けられた絨毯と、手が地を這う感触に現状を理解する。受け身の一つも取れずに倒れたことで、頭に受けた衝撃と痛みが今更走る。

 起き上がろうともがき、やっと左腕と右足の感覚が無い事に気が付いた。

 霊体の欠落。腕と足が上手く繋がっていない。再生した霊体と元の霊体との接続が外れている。

 怠慢だ。

 常に肉体全てを十全に把握して動くよう、私がしてきた努力が“衰えて”いる。たった今まで、欠片も自身の状態を理解していなかった。

 それは、痴呆の所業か。間抜けという言葉すら生易しい。己自身すら忘却しては、何も残りはしないのに。

 

 その事に、ふっと、己の内からタガが外れた音を聞いた。

 

「…っはっ、あははっははははっははは、ひぁっ、はっはっはあっはははは」

 

 笑う。

 

「ひぃっはっははっひゃはははあははっはははははははははははは」

 

 笑う。

 

「ひぃー、ひぃーっ、ひあ、ひひはは…ひっひっ…っは…………」

 

 笑いが止まらない。

 ツボにはまって息が続かなくなるまで笑った。

 固く抱きかかえた腕。床で腹を抱えて震える姿のなんて滑稽な事か。

 

 笑って笑って。

 笑いつくした先に流れた涙に、ヒッヒッと掠れた声が漏れる。

 躁鬱。

 肉を捥ぐような力で握られた左腕が痛みを思い出す。足掻くように曲がった右足の感覚が戻る。

 同時に己の修練の無意味さを思い知る。習熟したと思っていた事すら、すぐに出来なくなっている。積み重ねた時間に裏切られ、流した血は無意味になる。足掻きに意味がない。

 

 無様。

 ただ、どうしようもなく無様だ。

 

 暗い室内。背を丸め足を抱えるのは、布団に潜り込む子供の有様か。まるで怪談を聞いた幼子のような姿。恐怖に身を震わし闇を恐れる姿は、幼児から何ら変わらない私の本質だ。

 

「怖いなぁ……。」

 

 唐突のようで、何時もそこにある感情。

 ――終末への、恐怖心。

 それを言葉に出して心臓が縮みあがる。痛いほどに脈打つ鼓動。闇を覗き込まないように必死に瞼を固く閉ざす。

 

「怖い。」

 

 ずっとずっと怯えている。ずっとずっと震えている。

 昔から、ずっと。

 もう、ずっと、この感情から逃れえない。

 

 ――あの日、神主の顔に見つけた諦観に、私はずっと目を背けられない。

 

 思い出す。出会いを思い出す。

 思い出す。共に過ごした日々を思い出す。

 思い出す。――先の展望を語るときに見せた虚無を思い出す。

 

「――ひっぐぅぅうう……っ。」

 

 心臓が痛い。胸が苦しい。頭が熱い。

 あの時、気付かなかったらよかった。

 あの時、勘違いだと忘れてしまえばよかった。

 そうすれば、こんなに苦しむことも無かったのに。

 

 神主の空っぽの笑顔を思い出す。

 神主の世界の滅びを受け入れた姿を思い出す。

 神主の()()()()()()()未来予想図を思い出す。

 ――滅びるのだ。神主でさえ、死に果てるかもしれないのだ。

 

 飢えるより恐ろしい未来に震える。傷つくより恐ろしい明日に怯える。尊厳を奪われるより恐ろしい地獄に竦む。

 嗤い声がする。人を弄ぶことに愉悦する獣の声がする。ゲラゲラと、ゲラゲラと。踏みにじられた頭上から落ちてくる嘲笑う顔を思い出す。醜悪で唾棄すべき“獣”の饗宴。己の愉しみの為ならば、人を“使用”することに躊躇いの無い人でなしの祭事。

 ――それすらも生ぬるい地獄の窯が、もうすぐそこまで来ているのかもしれないのだ。

 

「ひぃっ、ぐすっ、っぐぅ、ひぐっ……。」

 

 固く固く閉ざしたはずの目頭から、止めどなく涙があふれる。

 正体も定かではない不安に脅かされるのは何時もの事だ。

 昨日までの日常が明日には崩れ去る幻視に、目を閉ざすのは何時もの事だ。

 何も見なければ、恐ろしいモノは亡くなるのではないかと期待するのは何時もの事だ。

 

 ――枷を外した感情に振り回されるのは何時もの事だ。

 

 だから、その対処も良く知っている。

 独りで泣いて泣いて泣いて泣いて、それからそっと目を塞げばいい。

 きつくきつく眼帯を、外れない様にしっかりと結んで。

 心に理性(不動心)を嵌めればいい。

 理性を前世で覆いつくせばいい。

 

 ――後ろから迫りくる恐怖は、後ろを振り返らなければ見えないのだから。

 

<<マスター、緊急の依頼です。お目覚めになっておられますか?>>

 

<<――ええ、起きました。依頼の概略を。>>

 

 切迫した武蔵の声に嵌めこんだ理性(不動心)で応対する。

 

<<二分前、山梨支部から緊急の依頼が提示されました。雇い主は『海外支援活動事業本部』。目標はボストンにいる『狩人』の脱出支援です。>>

 

<<また変な場所に……WGはバラしたばかりか。WGⅡを近接強襲で出撃準備を。航空機ユニットも使います。>>

 

<<Jud.WGⅡの積載を開始。航空ユニット、すでに燃料の積み込みを始めております。――以上。>>

 

<<仕事が早い。助かる。武蔵も準備が出来次第航空機の方に。>>

 

<<Jud.>>

 

 すでに涙はない。

 思考は明瞭に働く。

 装備の装着をしながら、意識の別の場所でA2を招集。格納庫に向かわせる。

 

 メルカバーを倒せば、未来はあるのだろうか。

 クトゥルフを潰せば、明日はあるのだろうか。

 四大天使を滅ぼせば、生きられるのだろうか。

 

 ――無駄な思考だ。それは要らない。

 

「2B! 後は任せます。」

 

「了解した。行って来い。」

 

 仮眠室のすぐ外で待っていた2Bに後を任し格納庫に駆ける。

 武蔵から流れてくる情報に目を通しながら、自身の肢体を確認。

 振り出す腕も、蹴り上げる脚もちゃんと操れている。戦闘に支障なし。十全に性能を発揮できる。

 

 ボストンには今まで行ったことが無かったが、ある意味丁度良い依頼だ。

 碌に情報の無い【クトゥルフ】の調査は何時かしておきたかった。今は討伐の話なども無いが、状況が何時変わるか分かりはしない。少しでも先のために、集められるものは集めておかなければいけない。

 

 ――未来を、明日を、この手に掴むために――ザザッ―z_―― ̄_

 

 

― ==  ̄ ̄ザザッ――_―― ̄Z__ ―――ザッ==  ̄ ̄ ̄  ――z_―― ̄__ ――

 

 

 恐怖が、恐怖が、恐怖が、恐怖が、恐怖が、恐怖が、恐怖が、恐怖が、恐怖が、恐怖が、

 恐怖が、恐怖が、恐怖が、恐怖が、恐怖が、恐怖が、恐怖が、恐怖が、

 恐怖が、恐怖が、恐怖が、恐怖が、恐怖が、恐怖が、

 恐怖が、恐怖が、恐怖が、恐怖が、

 

 恐怖だけが私を突き動かす。

 





 読者の皆様。
 初期も初期の頃から霊地活性化で滅びた村を見ても動じない主人公の事、おかしいとは思いませんでしたか?

 実は幼少時のトラウマは『終末への恐怖』と悪魔合体したうえで欠片も治っていないというお話でした。
 主人公が普通に過ごせていたのは、初年度から精神操作系のスキルを学んだおかげです。主人公の取得スキルが『精神無効』ではなく『不動心』なのも、元々必要として学んだのが【常時付与される『状態異常:恐怖(トラウマ)』を抑えるためのスキル】だったのが原因です。
 主人公の睡眠時間が短いのも睡眠中は不動心が弱まるため。あんまり長く寝ていると余計な事を思い出すからです。

 一年目の頃、主人公がショタオジに見た『諦観と虚無』は終末に対してではなく、『家族が居なくなった事』と『どうせ封印の負荷で死ぬことになるよな』という感情からになります。
 この時期は別に『転生者』の事も大事に思っていない時期なので、まだショタオジの心も死んでいた時期になります。この後も傍で見続けていたら勘違いも解けたのでしょうが、主人公は地方への依頼などで山梨からずっと離れる事になるのでこのあたりの変化が分かりませんでした。

簡略化したら↓みたいになります。

前提
ショタオジ【トラウマ酷いけど記憶操作で忘れるとこの世界で生まれた事まで消えちゃう……。
      そうだ! 自分で抑えて貰えばいいじゃん! っ不動心(トラウマ抑圧) ヨシッ!】
一年目~二年目
⑨【あれ、ショタオジなんか虚無ってない? 終末ってそんなやばいの?】
→【依頼で外に出てみたけどアカンわ(汗
  でも、大切なもんなんてないし楽しく過ごせたらいっか!】
→【大切な人出来ちゃった(白目
  せめて彼らだけでも生き永らえれるようにしないと!?(焦燥】
三年目~
⑨【海外の異能者とかどうしろって言うんだよ……。】
 ⇒【本能】終末怖い 霊地活性化恐い 怖い恐い……
  【理性(不動心)】お、良い所に戦力あるじゃん! 取り込んで使い潰したろ
  【前世】え、いやいや、それはダメだろ。あーあ、契約しちゃったよ……。
      なら対価の待遇は良くしような? え、血脈が欲しい? しょうがないかぁ…。
⑨【終末に備えて強くならないと……。】
 ⇒【本能】終末怖い 才能ないのに転生者の中でも上位の強さなの怖い 怖い恐い……
  【理性(不動心)】努力してみたけど戦闘の才能ないな! 訓練続けるけど装備で補おう!
  【前世】キツイ・辛い・痛い、もう辞めたい……。でも、諦めたら終末やばいしなぁ。
      頑張らないと、頑張らないと、頑張らないと、、、
⑨【ハム子ネキに負けたっ!】
 ⇒【本能】終末怖い でも転生者も強いじゃん もしやガイア連合があれば大丈夫なのか…?
  【理性(不動心)】やっぱ負けたかー そりゃそうだよな!
  【前世】才能羨ましいなぁ。新規加入者たちも頑張ってるしちょっと息抜きするかなー。
⑨【自衛隊ニキの事件発生】
 ⇒【本能】終末怖い ガイア連合が消える……? そんな可能性、消さないと(ハイライトオフ
  【理性(不動心)】待て、冷静に話し合おうじゃないか?! 確かに悪い所はあるけど…
      が、ガイア連合は互助組織だから、その範囲内についてはセーフだから(震え声
  【前世】待てー!? いや、本当に待とう? な、な、な!!! 
      喧嘩はともかく仲間殺しはマジヤバイって!?

 以上の事を上手く作品内で表したかったのですが、素人作者には無理でした orz
 なので設定公開です!
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