+LycorisーNEXUS JUDGEMENTー 作:ワンホットミニット
今回、初めて二次創作小説というものを投稿させていただきます。
基本、週1投稿を目指しております。
拙い文章だとは重々承知しておりますので、どうぞ温かい目で見守っていただき、楽しんでいただければ幸いです。
ある喫茶店のとある1日(前編)
東京、錦糸町─────
「ありがとうございましたー!」
錦糸町駅から少し離れた場所。どちらかといえば繁華街ではなく、住宅街の方に入った中にポツンと立つ喫茶店。名を喫茶リコリコという。
その喫茶リコリコの店員であり、看板娘と自ら自称している錦木 千束の声が店内に元気よく響く。
もうすぐ夏に差し掛かるということで大分日差しも暑くなっている中、この数日は久しぶりにそこまで暑くない日が続いていた。
とはいえ、今日は週末。涼を求めに来る人が多くなったお昼から午後にかけては、店内も多くのお客さんで賑わい、その盛況ぶりに店内のスタッフは慌ただしく動いている。
この店ではよくある日常、になりつつある中でふと、彼女の目に留まる一人のお客さんがいた。
この時間、そしてお店の雰囲気からは珍しい、男性のお客様。もちろん他にも男性はいるが、ほとんどは常連さん。それ以外だとカップルで来ている人がほとんどで、一人というのは珍しい。
年齢もパッと見だが、自分とそこまで変わらないはずであり、おそらく高校生くらいだろう。だから、男性というよりは、男の子、少年という方が言い方としては近い。
人には色々な趣味はあり、喫茶店巡りを趣味とする人も少なからずおり、かつ、昨今ではSNS映えを狙って喫茶店に来る高校生も多い。
けど、正直言って、そんないわゆる、”映え”を狙っている風には見えない。
何しろ、頼んでいるのはアイスコーヒーだけ。おまけに、スマホをいじる様子や本を読む、パソコンを打つ等、何か手を動かしているというわけでもなく、肘を机の上に付け、両手を重ねてただボーッと、物思いにふけている・・・今時の高校生にしては珍しい。
その様子に、何かあったのだろうか?と思い、少しだけ、彼を見つめていた。
「ちょっと千束、何ボーッとしてんの!」
キッチンで忙しなく手を動かしている同じくここで働いている中原 ミズキは千束に声を掛ける。おそらく彼女の目から見て、サボっているように見えたのだろう。
「えっ?あぁごめんごめん。いやね、あのお客さんさ、なーんか不思議だなぁって思って。ほらあそこの男の人。」
そう言って手は動かしつつ、キッチンの方からそのカウンター席に座るお客さんに目を向けてみた。
「どれどれ?・・・まぁ確かに不思議だけど、でも男の子のお客さんなんてよく来るじゃない。特に、あんたたち目当てに、ね!」
そう言ってミズキはスパーンと千束のお尻を勢いよく叩く。意外にも勢いがよかったのか綺麗に音が鳴り響くと同時に、痛烈な痛みが襲いかかってきたため、思わず千束はお尻をさすり、痛みを少しでも飛ばそうとする。
確かにここ最近、自分達が運営しているSNSや食べモグなど、インターネット上で自分たちからの情報発信や、第三者が情報発信を行うサイトでも中々高評価になっており、中でもあそこの店員さんは美人が多いとも噂されており、一部ではファンクラブも出来ている・・・なんて噂も聞いているため、どうせそういったのが目当てだろうとミズキも踏んだのだ。
「痛ったぁ・・・ミズキぃ、ちょっとは手加減してよ・・・まぁ確かにそうなんだけど、ただ、なんて言うんだろうあのお客さん・・・なんか、悩んでる?」
「何してるんですか2人とも!注文入ってますよ!」
その2人の手が止まっていることを注意し、急かすように店員でもあり、同時に千束にとっては様々な意味で”相棒”である井ノ上 たきなが少し荒っぽく声を掛けてきて、2人ともハッとし、それぞれの仕事に戻る。
それから暫くして、ピークは収まった。
店内もほぼお客さんがいなくなったため、働く側もようやく一息つけそうだった・・・が、唯一、まだ残っていたお客さんがいた。
例の、先程から千束が気になっていた、その男の子だ。
「あの客、なんかずーっといるな。」
喫茶リコリコの最も新しい店員であり、年齢的に見ると子供にしか見えないような長い金髪を持つ少女のクルミはカウンターの向こうのキッチン内という、ちょうど客席から見えるか見えないかのぎりぎりの場所で話しかけてくる。
ちょうど手が空いたということもあり、洗い物など、ここでしかやれないことをやるために、ここで働く従業員全員がここに集っている。
「そうですね。それに、注文してから大分時間も経ってますよね。おまけに・・・」
と、チラリとたきながそのお客の方に視線を向ける。
アイスコーヒーを頼んだものの、大分時間が経っているにも関わらず、まだ飲み切っていないどころか、むしろ半分以上残っている。それどころか、グラスの中の氷もすっかり溶けており、それ故かグラスには大量の水滴が付いている。
正直、店員としても、店にとってもあまりいいお客さんとは言えないだろう。
「一体、何がしたいんでしょうか?」
「まぁ人には色々あるんだろう。余計な詮索はしない方がお客さんのためにもなる。」
喫茶リコリコのオーナーでもあるミカはコーヒー豆を挽きながら、そのお客さんに対し少しの興味は持ちつつも、店と客の一定の距離を保とうと宥める。
しかし、そんな中で唯一黙ろうとしない者が一人いた。
「ちょっと声かけてきますねー!」
言わずもがな、千束であった。
「あ、ちょっと千束!」
たきなの静止を無視し、千束はそのお客さんに声をかけてみた。
「お客さん!」
夢の中で"彼"と出会ってから大分時間が経った。
現れるアイツ等を次々倒してはいるが、果たして後何体アイツ等はいるのだろうか・・・?
あれこれ思い詰めてはいるものの、周りからはそうとは見せないようにしていたつもりだった。
だが、何か勘が働いたのか、心配した両親から気分転換してこいと言われて、今日は珍しく何もなくなってしまった。それでちょっと遠出をしてみようと思い、せっかくならばと、見たいなと前々から思っていた延空木まで行こうと思い立ち、千葉の片田舎からこんなところまで来てみた。
実際、確かに延空木は凄かった。おまけに、その近くにある平和の象徴であるアート化された旧電波塔も良く、これを見ているだけで一日が終わってもいいと思った。
ただ、千葉の片田舎から来た人間からしてみれば、どこも人が多く落ち着かず、写真などを撮るだけ撮った後は足早にどこか落ち着けるところに入ろうと思い歩き出してみたものの・・・これがいけなかった。
我ながら、という言い方も変で、全然誇れるものじゃないが、俺はとにかく・・・方向音痴だ。特に、初めて行く場所でこそ、それが大いに発揮されてしまう。今回もその方向音痴が大爆発し、道に迷ってしまい、気付けばよくわからない住宅街に入ってしまっていた。
どうしようか困り果てていた時にたまたま見つけたのが、この喫茶店だった。
歩き回った疲れや暑さを避けるためにも・・・ということで入ってみたものの、ちょうど時間も悪いことと、周りには女性がほぼ大半。男がいたとしてもカップルがほとんど。一人で来た男は俺だけということもあり、その雰囲気に委縮されて結果コーヒーしか頼めなかった。
その環境自体は別に気にもならないし、1人の行動、いわゆるソロ活にも慣れてる。
ただ、延空木も旧電波塔を見ても、こういった喫茶店に来ても、やはり根本的な気分転換は出来なかった。
というより・・・"気分転換など絶対に出来るはずがない。"
何しろ、今の俺のこの悩みは─────"世界中の誰にも理解が出来ない・されない問題だからだ。"
そして、誰であっても、今の俺のこの悩みを言うわけにはいかない。
例え、一生暮らせるだけのお金を提示されても、どれだけの権力を与えられたとしても・・・いや、この世界にあるもの全てを報酬で出されたとしても、俺はこの事を口にするわけにはいかない。
それほどまでに、深刻な問題であり、わかってもらえるはずない問題だ。
だから、1人で考え続け、1人で答えを出さなければならなかった。
頭の中でずっと、未だに考える。
なぜ・・・"この光は、俺のところに来た?"
あの日からずっと、そればかりを考えている。
・・・シンプルに考えれば、罰、なのだろう。この力を使って・・・ボロボロになって死ぬまで戦え、ということか。
ただ、俺がいくら回答を思いついたところで、その答えを彼は教えてくれない。
でも、この体を使ってそうしろと言うなら・・・それでよければいくらでも喜んでしてやろう。それで・・・
「お客さん!」
答えのない自問自答をずっと繰り返し続けていたら、店員の女の子が話しかけてきた。
かなり集中しており、周りの声にも全く気付いていなかったため、つい、はい!?と素っ頓狂な返事をしてしまう。
「どうしたんですか?ずっと考え込んでるみたいでしたけど?」
「えっ?あっ?えっ・・・?」
そう言われて店内の時計を見ると入ってからすでに大分時間が過ぎていた。何十分どころか、よく見たら短針が一回りし、もう少ししたら二回りしてしまうほどだ。
まさかそんなに考え込んでいたのか・・・と一人驚いてしまう。
「す、すいません・・・考え事してたらこんなに過ぎてると思わず・・・コーヒー飲んだらすぐに出ますね。」
「いいっていいってー!ゆっくり過ごしてくださいよー。あっ、どうします?ついでになんか頼みます?」
そのぐいぐい来られる姿勢に若干困っていると千束、お客さん困ってますよ。と、青色の着物のような制服を着た女の子が、自分に話しかけてきた赤い着物のような制服を着ている女の子に話しかける。どうやらこの子は千束というみたいだ。
「ごめーんたきなー。で、お客さん何か頼みます?」
屈託のない笑顔に、いいえ。という言葉は出てこなかった。
慌ててメニューを見て、迷う時間もなく、パッと見でこれだ、というものを決めた。
「じゃ、じゃあ、パンケーキください・・・」
慌ててメニューを見ていた中で知ったことなのだが、なんでもこのお店、しばらくハワイに行っていたとメニューに書いてあり、メニューにもハワイ帰りの我々が作ります!と大きく書かれていたため、海外にも支店があるのは素直に凄いなと思い、ちょっと気になって注文をしてみた。
実際、時計を見たことで時間の感覚を体と脳が感じ、胃腸から何か食べ物をよこせ!という命令が体の内側から聞こえてきたのはもちろん、あんなにグイグイ来られては誰であっても注文を断ることは出来ないだろう。
ただ、それ以上に・・・こんな100人いたら100人が振り向くようなメチャクチャ可愛い女の子が急に話しかけてきて、正直ドキドキしてしまったのだ。
というより、この店の女の人はどの人も可愛いと思う。
この千束という店員さんもそうだし、今彼女に話しかけてきたたきな・・・という店員さんも大和撫子という雰囲気があり、負けず劣らずの美少女だ。千束という店員さんが元気っ子なら、たきなという店員さんはクール、という印象だ。断言するが、絶対モテるだろう。というか、この2人目当てで来る男性客だって絶対に多いはずだ。
他にも、あの金髪の小さい女の子も、おそらく店の奥にいるあの着物の店主さんの娘さん、なのかもしれない。金髪ということでおそらくハーフだと思うけれど、顔も整っているしその年代の子として見たらモテモテだろう。緑色の制服を着ているお姉さんも、バリバリのキャリアウーマンという雰囲気があり、顔も整っている。おそらくモテるはずだだろう。
改めて、そんな空間の中にいる自分が場違いかもしれないと思えてしまうし、入る店、間違えたな・・・と今になって若干の後悔をしてしまうが、それももう今更だろう。
「おまちどうさまでーす!」
そんなことを考えている中で運ばれたパンケーキは、上にフルーツが少し乗った程度の、言ってしまうと、思いのほかシンプルなビジュアルをしていた。
いわゆる、アメリカ等のこういった食べ物というと、行ったことはないが派手派手しいイメージを想像してしまうのだが、これは日本人が思い浮かべる、絵に描いたようなパンケーキに近いものだと思った。
もちろんそういった派手派手しいものもメニューにはあったのだが、慌てていたためじっくりと選ぶことも出来なかったということや、これが目に入った時に、これくらいで丁度いい、と直感で感じたのが最大の理由だ。
作り立てのパンケーキを器用にフォークとナイフで切り、口に運ぶと、これまでの仕事や学業、そしてあのことや、それに伴う考え事で疲れていた体に染み渡ってくる。ふわふわの生地と優しい甘さが、言葉にならないほどうまい。焼き方にも凄くこだわっているのだろうな・・・と思っていたのだが、一点、つい、どうしてもある部分において、無意識のうちにふと口から漏れてしまった。
それは、上にかかっている、金色の蜜。
「・・・やっぱうちのハチミツの方が美味いな。」
別に文句をつけようと思って言ったわけじゃもちろんない。
ウチが養蜂家ということもあり、都度味見もし、家族で納得できるものを作ろうとしているが故、正直かなりの数他の養蜂家さん・他の会社のものも味見と称して食してきているため、普通の人よりはかなりうるさい方とは自負している。
おかげでその食いかけのウチ以外のハチミツの処理が大変だったりするのだが・・・
だから、それ以上に美味しいものを作ろうと環境整備や植樹、花を植える等、めちゃくちゃ躍起になっていたあの日々が昨日のことのように思い出せる。というか、今だって他より美味いものを作ってやろうと父親と2人、というか家族でなのだが、躍起になっているのも事実だ。
もちろん、このお店に別に文句をつけようという気持ちは全くなく、パンケーキ自体は100点満点の美味しさなのには変わりがない。本当に、ついいつものように、ひとり言のように思わず口から出てしまったのだが、お客さんが自分しかいない、ということもあってか、意外にもこのひとり言が店内によく響いてしまった。
あっ・・・と思わず反応したのも束の間、先程話しかけてきた千束という店員がそれに気付き、すごい勢いで駆け寄ってきた。
「えっ!?お客さんハチミツ作ってるの!?」
自分のうっかりもあるが、こんなにキラキラした目で詰め寄ってこられては、正直嘘は言えない。俺はその圧に押されながらも、言葉に詰まりながらではあるが、正直に答えていく。
「あっ、えーっと・・・ま、まぁ。」
「すごーい!どこで売ってるんですか何て名前の商品ですか!どうやって買えますか!」
「千束・・・また困ってますよ・・・あの、お客様すみません。実は・・・私も気になっていて・・・そのような方に会うのは初めてで。本当に作ってらっしゃるんでしょうか?」
「お客様すみません、それは本当でしょうか。私も実は養蜂家の方に直接会うのは初めてで・・・」
「えっちょっと何?ハチミツ作ってるの?本当に?そういうご家庭なんです?」
「なんだなんだー。」
端を切ったように、ぞろぞろと店員の方がやってくる。なんだか凄いことになっちゃった・・・と後悔しても時に既に遅し。もはや逃げ場はない。なので、我が家の事情を話すことを決めた。
「あー・・・えーっと・・・ウ、ウチ、家が千葉の山奥の方にありまして、そちらの方で養蜂とか農家とかやってます。ただ、ハチミツに関してはこの辺りで買うのは正直難しいです・・・」
「なーんだそうなんだー。それはちょっと残念。」
「・・・で、でも!もしよろしければ今度持ってきますよ!」
皆さんが若干落ち込んでしまった空気になったのがたまらず、思わずそう返してしまった。それに対し、千束という店員さんはやったー!と喜びを隠せないようだった。
持ってくるのはそこまで大変ではないけれど、家から結構時間がかかるこのお店にまた来なきゃいけないのか・・・ということだけが大変だった。
なのだが、その気苦労と裏腹に、この人たちに持ってくるのであれば、いいかな。と素直に思えたのが自分のことながら不思議だった。
と、そんな時にカランカラン、と店のドアが開く音がし、店員さんの気もそちらに向いてくれたので助かった。渡りに船とはこういうことか。
「あ、いらっしゃいませー!」
「2人なんだけど、いい?」