+LycorisーNEXUS JUDGEMENTー 作:ワンホットミニット
サンケイスポーツウルトラマンFUN投票ネクサス7位おめでとうございます!めでたいね!
この小説で書いてる2つのコンテンツにこんな嬉しい嬉しいことが起こるなんて・・・リコリコ新作で嬉しくなった約10日後にネクサスにもこんな棚牡丹が起こるとは思わないって・・・
というわけで少しだけお久しぶりです。
(閑話?あれは本編ではないしもう8話あげる前に書き上げてたからね。)
ではまず閑話のプチ解説から。
ついに出しました。アブソリュートタルタルソ・・・タルタロス。
このタルタロスは、なんとなく察しがつくかと思いますが・・・あの世界でひと悶着起こした後、という設定で書いてます。
カスケード光線の設定ですが、これはウルトラ銀河伝説にて、ZAPクルーがここまでしか入れないと言われた設定を基に、頭の中で応用しました。
なので、あれを代わりに・・・ということです。
またこの辺りも、裏話まとめのようにゆっくり書ければと思います。
ちなみに閑話の投稿時間ですが、ギャラファイがYouTubeで公開されていた時間に合わせて朝の10時にしました。
まさか3万字越えるなんて思わなかったよパトラッシュ、いやリキ。
現状史上最長です。
なので今回、話の展開を考えて、初めての試みとして2分割にしていますが、この方式は多分この1話だけにするかと思っています。
今回は、後書きは特に書かず、この前書きで個人的な語りは終わりにしますので、後は本編をお楽しみください。
の前に、一つだけ、余談にお付き合いください。
8話のタイトルの元ネタですが、実は私は原曲から知ったわけではなく、とあるバンドのカバーから知りました。
・・・で、書いているこの最中、その知ったキッカケとなったバンドの、ドラムの人が亡くなりました。
あまりにも突然の訃報に、言葉が出なくなり、泣きました。
実は再結成後にライブも行ったことがあったため、尚のこと悲しみでその日一日何も出来なくなりました。
こんなところで言うことではないですが、それでも、ご冥福をお祈りいたします。
そして、ツネさん、ありがとうございました。
それでは改めて、本編をどうぞ。
錦糸町─────喫茶リコリコ
光輝が、喫茶リコリコと関わりを持ち、そして千束とたきなと連絡先を交換してから1週間と少しが経った頃。
そんなことがあった、なんてことを店員以外は知らない喫茶リコリコは、週末ということもあってかこの日は一段と盛況であり、店内はまさに戦場、とも言えるような状況であった。
「ありがとうございましたー!あ、はい、ご注文ですね!少々お待ちくださいませー!」
リコリコのスタッフが店内を忙しなく動いているそんな中で、"黒の作務衣姿で働く若い男性店員がいた。"
普段店主のミカしか男性店員はいないはずなのに、と入った時に疑問に思ったお客さんや常連も多くいたが、その店員の丁寧かつ、柔和な対応を受けたことであっという間にその店員を気に入り、もうそんなことはすっかり忘れて気持ちよく喫茶リコリコでの時間を過ごしていた。
「えっ?君SNSにいなかったよね?新しく入ったバイトさんですかー?」
「いえいえ、"今日だけのヘルプです。"なので、おそらくこれが最初で最後だと思います。」
「えーっ、もったいない!」
「そうそう!凄いいいと思いますよ!」
「すみません。こことは別の仕事もしておりますので・・・」
SNSでこの店のことを知って来た団体の女性客はその男性店員が今日だけ、ということに少し残念がるが、やんわりとその意見をかわし、ごゆっくりお楽しみください。とだけ言うと、カウンターの裏側のキッチンへいそいそと入っていく。
「いやー、ホント助かるよ。さすがは千束とたきなが連れてきた助っ人だ。ハチミツも野菜も果物も作れて、それでいて接客業も出来る。いい仕事してますね~。」
たまたまキッチンの方で居合わせたクルミがとある有名なセリフを引用しながら声を掛け、その店員の活躍を労う。
一方、その店員はふぅーっと一息吐きながら、ポケットから取り出したハンカチで額の汗を拭っていた。
「いやぁ・・・クルミさん、なかなか大変ですね、ここは。」
喫茶リコリコの戦場とも言える様に─────黒い作務衣姿の光輝は苦笑いを浮かべていた。
そもそも、なぜ彼がこうして、あまり関わりを持ちたくないと思っているこの店で働いているのか。
その話をするために、2日前に時間を戻す─────
─────2日前
あの時、ザ・ワンと戦っていた2人のリコリスこと、千束とたきなとTALKを交換してから約1週間後の夜、千束から電話が掛かってきた。
例のボドゲ会から電話もなかったため、電話をよこしたということは・・・・いよいよ、その話が来るか・・・そう見込みをつけると、一つ深呼吸をしてから、通話ボタンをタップする。
「もしも『光輝ーーー!!ヘルプアス!!』
もしもしも何もなく、いきなり大声でHelp Usと言われたので、そんな不安も一瞬で吹き飛び、何事!?と思って内容を聞いたところ、こうだった。
なんでも数日後、どうしても外せない仕事があり、それにたきなと2人で行くのだが、それが週末ということもあり、喫茶リコリコの方が大炎上すること間違いなし、という未来が今から既に見えているとのことだった。
実はこの間に、めんどくさいからという千束の発案で、俺とたきなを入れた3人のグループを作ってくれ、メッセージだけではあるが、そこで色々と話をしていた。
話をしていた中で知ったことなのだが、2人は喫茶リコリコだけでなく、幼稚園や日本語学校など、様々な所へお手伝いがてらお仕事へ行っているそうで、正直、リコリスでありながらそこまで仕事をしていることにも驚いていた。
というか、この2人リコリスでしょ?DAはそれを許してるの?と内心疑問に思ったが、それを聞くわけにはいかなかったので、心の中にグッとしまった。
ただ、この日の仕事内容について特に話はなかったのだが、週末ということもあり、幼稚園が動いているとは思えない。加えて、2人がいつ戻ってこれるかわからないとのことなので、時間が正確な日本語学校とも思えない。となると・・・リコリスとしての仕事、か。そう当たりをつけるものの、あまり深入りしてこちらが墓穴を掘るのもいけないと思い聞きはしなかったが。
というわけで、臨時でいいから店にヘルプが欲しい!となったそうだ。
そこで、従業員一同でヘルプの人間に求める条件を挙げてみたところ・・・
・優しい
・愛嬌がある
・不快感を与えない
・対人の仕事も問題なく出来る
・従業員も知っている人物だったら尚良し
・・・と、従業員一同でそこまで挙げていた時に、一同がパッと思い付き、真っ先に白羽の矢が立ったのが─────俺、とのこと。
とはいえ、そんなことを急に言われても、だ。
こちらにもバイトの予定があり、何よりもあまりここに深入りしたくはないのだが・・・そう思っていると
『お願い!・・・ダメ、かな・・・?』
『出来れば光輝にお願いしたいんですが・・・駄目、でしょうか・・・?』
おそらく店内で通話をしていたのか、たきなにも電話が代わった。
ただ、向こうが困っているとはいえ、俺はあの店とあまり関わりは持ちたくない。それは変わらない。
のだが、こんなド美少女2人から申し訳なさそうにお願いされてしまっては・・・個人のポリシーとしても・・・そう、関わりなんてあんまり持ちたくないんだ。だからそう、こういう時はビシッと・・・
「・・・ちょっと待ってね、その日空けるように調整するから。」
関わりを持ちたくはない、という想いは二の次三の次で、喫茶リコリコのピンチにあっさりOKを出してしまっていた─────
そこからまずはバイト先に連絡を入れ、事情を説明し、急遽お休みをいただきますと言ったところ、ナツばあは・・・
「どうせそんな混まないから大丈夫よー!後、見たわよ。」
「見た・・・って?」
「メッチャ可愛いじゃないあの子!それにもう一人の黒髪の子も!というかあのお店めっちゃ美人ばっかじゃない!まぁ光輝くんならあの千束って子かたきなって子かしら。で、どっちなの?どっちが本命なの?それとも両方彼女にしちゃうの!?やっだもう光輝くんちょっと見ない間に大胆になってー!!」
「だーかーらー!違うっつってんじゃん!」
「まーったく強がっちゃってー!そういうところも本当に可愛いわよー光輝くん!結婚式の招待状、今から楽しみにしてるわよー!」
「ナーツーばーあーー!!」
「オーーッホホホホホホホ!最近は毎日お酒が美味しいわーー!」
快く・・・いや一悶着はあったが、あっさりOKしてくれた。
父さんと母さんにもこのことを話したところ、いいじゃん!楽しそうだな!俺も久しぶりにそういう接客業やりてぇなー!と、父さんからも快くOKを出されたため、こうして急遽、喫茶リコリコのヘルプとして朝から馬車馬のように働いているわけだ。
ちなみに作務衣については、完全に私物だ。
数年前、母さんの実家から部屋着にいいぞ!と教えてもらったのが、この作務衣だった。
母さんの実家はいわゆる、ザ・日本の家庭というような家族であり、母さんもまた、大和撫子のように育てられていたこともあってか、家族そのものがこういった和服にも詳しかったことがきっかけだ。
ちなみに両家、つまり父さんと母さんそれぞれのおじいちゃんおばあちゃんからは、血は繋がっていないにも関わらず、本当の孫のようにとても可愛がってもらっている。といっても、両方がそれぞれ遠方に住んでいるため、中々会えないのだが。
そういったことがきっかけで、母さんのおじいちゃんから貰ったので、せっかくだから・・・と着てみたところ、これが意外にも着心地が良かったのだ。
なので、数年ほど前から部屋着としてずっと愛用しており、家には沢山あったのだ。
加えて、喫茶リコリコは和服を基調とした制服であり、かつ、ミカさん以外男性の店員さんはいないため、男物の服はないだろう、とも踏んでいた。
だったらこれならまだ、臨時とはいえ、TPOとしてもいいかな?と思い、と3人のグループルームで念のため聞いたところ、2人とも快くOKしてくれたため、こうして作務衣姿で働いているわけだ。
そして朝からお昼を過ぎる頃までお客さんの波が途切れることはなく、休憩もなく働いていたが、2時を少し回ってからは割と波も穏やかになり、ようやく一息つけそうだった。
といっても、家業故体力はある方なのでまぁそこまで疲れてはいないのだが。
「いやー!光輝君本当に偉い!あの波に泣き言一つ言わずよく耐えた!」
「あ、ありがとうございます・・・いえいえ、ミズキさんやクルミさん、ミカさんがいらっしゃいましたし、店内の設備もしっかりしてましたので、僕なんて全然・・・」
謙遜した態度を取っていると、ミズキさんはそこも気に入ってくださった様子で、そんな謙虚なところもいいわーー!ぜひあのバカ千束とチェンジで!生まれたのが後10年早かったらゾーン入れてたわーー!!とバシバシと肩を叩かれながら言われてしまうが、それに対してさすがにこちらもどう返すのが正解かわからなかったため、アハハ・・・と苦笑いで返すしかなかった。
「お待たせしましたーー!千束とたきなが来ましたよーーーー!!」
そんな中、従業員用のドアではなく、普通のお客様用のドアをバンと開けて千束とたきながヒーローよろしく入って来た。
あの日振りに見た赤と紺のリコリスの制服を見て、心が少しだけキュッと締め付けられるような気持ちになる。
さすがにこの場で俺を捕まえることはないとは言え、それでもこの服を見ると、緊張せざるを得ない。
うるさい!とミズキさんが突っ込んでいると、あっ!と2人はミズキさんの隣に立つ俺を見て反応した。
「ごめんなさい。外せない仕事があったとはいえ、こうして手伝ってもらって。」
「あ、いや、大丈夫だよ。2人こそお疲れ様。全然気にしないでよ。友達助けるのに理由なんていらないからさ。」
「おっ、いいこと言うねー!でも今日は本当に助かったよありがとー!いやー、しかし光輝さんもう様になってますねぇ!これはもう私達2人帰っていいのでは?」
流石にこの時ばかりはおい、と思わず突っ込んでしまった。
取り急ぎ、2人に着替えるようにとミカさんが声を掛けてくれたため、2人は従業員用の更衣室へと向かっていった。
カバンを漁る・・・ということをするとは思えないが、念には念を、ということでブラストショットは置いてきて、部屋の中に隠してきた。
ただ、エボルトラスターだけは欠かすことが出来なかったため、それは作務衣の内側のポケットに入れている。というか、無理を言って急遽母さんに付けてもらった。
理由はもちろんエボルトラスターを入れる為だが、貴重品を入れるとごまかして無理矢理付けてもらい、加えて、用心のために簡易的にボタンも付けたので、落とす心配はないはずだ。
「何か不安でもあるのかい?」
何かに勘付いたのか、ミカさんがコーヒー豆を挽きつつ声を掛けてきた。
顔に出ていたか?と思わず不安になるも、いえいえ大丈夫です!と何事もなかったかのように慌ててこちらも返す。
「しかし、本当に光輝君には今日といいこれまでといい色々と迷惑をかけてばかりだね。改めて、店主として謝罪させてもらいたい。」
「いえいえいえいえ!元々こちらが悪いことをしてしまったのでお気になさらないでください!それに、僕の好きな歌で、友達助けるのに理由なんかいらないよな?っていうような歌詞があって、そういうアティチュードでいますので!全然大丈夫ですので!」
「ほう、そんな曲があるんだね・・・そういえば、この前千束からライブをやってくれると聞いたが、それは本当かい?」
「あー、はい・・・すでにご存知でしたか。も、もちろんご迷惑でしたらやりませんので、遠慮なく言っていただければ・・・」
「いや、むしろこちらとしては歓迎だよ。隠れ家的なお店にしたいとは思っているが・・・だからと言って、楽しそうなことをやらないというのはもったいないからね。」
いつの間にかミカさんから凄い信頼を置かれていてビックリするが、その顔を見てこれは本当にやる流れになってしまったんだな・・・と確信し、完全に逃げられなくなってしまった・・・まさかアコギ見せただけでこんなことになるとは思わなかった・・・正直、今もまだ若干の後悔を感じている。
「というか、やるってことについて、冗談とは思わなかったんですか・・・?」
「光輝君なら、やってくれると思ったよ。実を言うと、私も楽しみなんだよ。こう見えて、私も音楽が好きだからね。」
ミカさんが音楽好き、ということを聞いて、そういえば、と聞いてみたかったあることを思い出した。
それは、店の奥に置かれている、レコードプレーヤー。
実は我が家にもレコードプレーヤーがあり、加えて俺もバイト代で好きなアーティストのレコードを何枚か購入した経験もあり、少なからずレコードの良さをわかっているつもりだ。
初めてここに来た時からそれが少し気にはなっていたが、とはいえアンティークかと思っていた。なのだが、この話を聞く限り、このレコードプレーヤーは、もしや・・・
「ひょっとして、あのレコードプレーヤーって・・・ミカさんのですか?」
「あぁ、店の売上が良くなったタイミングで私の希望で買ったのだが・・・光輝君もレコード、好きなのかい?」
「あっ、じ、実は!あの針を落とす感じとかCDにないマイルドな音の感じが凄く好きで!それに、CDとレコードでジャケット違ったりってこともありますから、アートとしても素晴らしく好きで!」
「ほお!そこまでわかっているんだね!」
まさかのミカさんとのレコード談義で盛り上がっている中、着替え終わり、割と見慣れたこのお店の制服姿になった2人がやって来た。
「おっ?なんかめっちゃ盛り上がってるね~。何の話してたの~?」
「レコードさ。光輝君もレコードが好きみたいでね。」
「えーそうなんだしっぶー!」
渋い、と言われるが、まぁそうだろう。この年齢でレコードを買うなんて、物好きとしか言えない。おまけに、最近の高校生はCDすら滅多に買わない。確かに、渋いと言われても仕方がないと思っていると、ニヤニヤしながら千束が話し掛けてきた。
「で、どうだった?大変だった?」
「ま、まぁ中々ね・・・ホントこれよく5人で回してるね・・・凄いよ。」
「そうですね・・・ただ、初めてでこれだけやってくれたのなら、ぜひ次も頼みたいですね。」
「いやあのー、そもそも養蜂家兼農家に別のバイトもしてるんだけど・・・ここは今日だけのヘルプだから・・・」
いやいやそんな固いこと言わず!と千束が声を掛けてくるが、ちょうどその話を切るかのようにタイミング良くカランカランとドアのベルが鳴った。
いらっしゃいませー!と店内に入ってきたお客様に向けて挨拶をすると・・・
「よっ、光輝君久々。」
そこには少し前に俺が学校をサボった時に神室町のガイドをしてくれ、同時にここと俺を無理やり繋げた・・・と言える、懸け橋的存在の八神さんが、以前ここで会った時に一緒にいた相棒の方と店内に入ってきた。
「八神さん!?なんでここに!?」
まさかのお客さんに驚くと同時に、まるで俺が今日ここにいることをわかっているかのように声を掛けてきたため、二重で驚いていると、ふっふっふーと千束がニヤリとしている。
・・・その顔を見て、何となく察する。
「・・・ひょっとして、八神さん、呼んだの・・・?」
「そうだよー!驚いたでしょ!」
「なんでさ・・・?」
「あのね、この前私達が依頼して八神さんに光輝のこと調べてもらった時に、八神さんも仕事とはいえ、知り合いにそんなことしたのがやっぱり心苦しかったんだって。そのことについて謝りたいって言ってたの思い出して、急遽お店に立ってもらうから、今日いますよ!って声掛けたの!」
なるほど・・・と思いつつ、とりあえず八神さんとその相棒の方がこちらを見ているため、挨拶をしようと思いカウンターに座っている2人の元へ向かう。
「お久しぶりです八神さん。それと・・・こちらの方は一番最初にお会いした時にもいらっしゃいましたよね?」
「あぁ。こっちはウチの頼れるもう一人の探偵、海藤さん。」
八神さんの紹介に海藤だ、と海藤さんが握手を求めてきたのでこちらも手を出し握り返した。
「よう。お前がター坊の言ってたやつだな。へ―こいつがねぇ・・・?」
そう言うとジロジロと俺の体を嘗め回すように見ていく・・・えっまさかそっちの人なの?
「あ、あのー・・・僕の体に何かついてますか?」
「あぁいや、そういうわけじゃねぇよ。ただ、京浜同盟のやつを一発KOしたってター坊から聞いてて、どんなもんか気になってただけさ。」
そうですか、と納得しつつ、おそらくそれが本当のことなのはわかっている。
が、にしてもこんな強面で、体格も相当いい、いわゆる・・・ヤーさんのような人からジロジロと身体を見られるのは、正直気分のいいものではない。
それに終始緊張していると、八神さんから声を掛けられ身体をそちらの方に向けると、先程のフレンドリーな表情とは打って変わり、真剣な表情でこちらを見ていた。
「あのさ、ここの依頼っていうのもあったわけだけど、未成年の君のことを調べてしまって、それで不快な想いをさせてしまったこと、一人の大人として謝罪させてもらいたい。本当に、すまなかった。」
椅子に座りながらだが、頭を下げた八神さんに対していえいえいえいえ!こちらが悪いので!と大慌てで八神さんに頭を上げてもらうようお願いする。
その一部始終を見ていたお客さんも、なんだなんだ?とこちらを訝しげに見ている方や、頭下げてる人って、あの八神隆之!?と驚いている方。なんであの八神隆之が頭下げてんの!?あの子何者なの!?とひそひそ話をしている方もおり、店内が騒然となっている。
ここまでされると、もうこっちの方が悪人にしか思えなくなってきたため、慌てて八神さんに声を掛ける。
「ももももももう大丈夫です八神さん!こちらが全て悪いので!お願いなのでもう頭上げてください!」
思わず大声になってしまうが、それでも流石に人の目もある中でこんな風な謝罪をされてしまってはこちらも居心地が悪いことこの上ない。ようやく八神さんが頭を上げてくれて一安心するが、それでも心臓は未だバクバクだ。
「ありがとう。こっちもずっと気にかかっていてね。電話越しじゃなくて直接謝りたいと思ってたから、今日ここのヘルプで立つって聞いたからちょうど良かったよ。」
「いえいえ・・・元はと言えば自分がここに持ってこなかったのが悪いんですし・・・それに、八神さんにしてみたらお仕事ですから、何も気にしないでください。」
お互いに謝っている中で、互いの抱えていた厄介ごとがスッキリ晴れたのか、ふふっと思わず笑みがこぼれる。どうやらこれで、モヤモヤもわだかまりも解けたようだ。とはいえ、わだかまりがあったわけではないのだが。
それじゃ改めて、注文いい?と声を掛けられたため、こちらも瞬時に店員モードに戻る。
「コーヒーと・・・それと、最中、いい?2つ。」
かしこまりました。と言いキッチンの方に向かって注文内容をリピートする。
我ながら、この数時間であっという間に喫茶リコリコの店員の顔が様になっていた。
「凄いね、ホントに今日からなの?もう完全に様になってるみたいだけど。」
「本当に今日からですし、今日だけかと・・・」
「もーケチー!そんなこと言わずにまたやってよー!八神さんも望んでるよー!」
「いや俺そんなこと言ってないけど・・・?」
「ほら、八神さんもそう言ってるよ。だから今日だけ・・・」
そんな話をしていると、突如座敷席に座っていた方が、こちらに向かってドドドドという足音と共にやってきた。
前に千束がビデオ通話でボドゲ会の様子を見せてくれて、挨拶をした中にも居た、このお店の常連さんだという、漫画家の伊藤さんと、作家の米岡さん。
そのお2人が、マシンガントーク、と辞書で引いたら今この場面が写真として掲載されていそうなくらいに、八神さんと海藤さんに向かってマシンガントークを繰り広げている。
やはりお2人とも作家さんだからかネタに飢えており、そういう意味ではまさに八神さんと海藤さんは探偵だから、絶好の、アイデアのタネなのかもしれない。
おまけに、一時期超有名人だったし、単純な興味として話してみたいという想いもあるのだろう。
話が長くなりそうだなぁと思ったため、そっとその場から席を外し、座敷席のちゃぶ台を拭いたり座布団を直したりなどしていると、ふと、その伊藤さんという方が、そういえば!と、八神さんと海藤さんに声を掛けた。
「お2人は探偵なので知りませんか?"赤い流れ星の噂!"」
赤い流れ星。
全く聞いたことがない噂話に、八神さんと海藤さんだけでなく、リコリコの皆さん、そして俺までも作業をしながらではあるが聞き耳を立ててしまう。
「あーそれ、俺も聞いた事あるよ。」
と、どうやら米岡さんという方も知っているようで、割とその創作・エンタメ界隈では有名な話なのかもしれない。
「えっ何それ!?どんな噂!」
その話に興味を持ったのか、千束がグイっとカウンターから体を乗り出している。危ないと思い声を掛けるも、千束は全く気にしていないようだ。
編集さんから聞いた話なんだけどね・・・と切り出し、伊藤さんはその噂話を説明しだした。
「朝でも夜でもいいんだけど、ある時突然空を赤い光が横切っていくの。その速さが尋常じゃなくて、で、あっという間に消えるから、今じゃ幸運の象徴になってるんだって!」
へーそうなんだ、と皆さんが驚いているそんな中、一人・・・その話を聞いて、じんわりと背中に嫌な汗をかいてくる。
「・・・光輝?どうかしたんですか?」
作業の手が止まった俺を不思議に思ったのか、いつの間にか近寄ってきたたきなが声を掛けてきたが、あぁ大丈夫、ちょっとごめんと言い残し、慌ててお手洗いへと入る。
もちろん・・・トイレなわけではない。
「・・・マジかよ・・・そんなことなってんのか・・・」
顔を二度ほど洗って、ハンカチで顔を覆い、壁に背中をもたれかけながら、俺は頭を悩ませていた。
何故なら・・・"先程の噂を俺は知っている。もっと言うと、それの正体を知っている。"
それは・・・
─────俺だからだ。
ビーストの元へ向かう際、とてつもない速さで飛んでいくため、赤い光の軌跡が残ることがほとんどだ。それは自分でもわかっていた。
だが、まさかそんなものにこんな尾ひれが付き、今や都市伝説のように噂されているなんて思いもしなかった。
ここまで来たら、いつ正体が世間に露呈してもおかしくはないと思っているのだが、DAによる情報統制故か、テレビや新聞、雑誌、SNSなどでもそういった情報は一切出てこず、かつ、この前の地下道の事件もそこまで大きく報道はされなかったため、その点については助かっているところだ。
ああして、千束とたきなをザ・ワンから助けた後もビーストの対処は何回かあったし、まさか一度助けたリコリスを狙ってまた他のビーストが現れるとは思わなかった。おそらく、あの時気付けなかった残党がどこかに残っていたのだろう。
ただ、俺が彼と出会ってからの数か月の間で、急速な勢いでビーストを殲滅させているから、最近は前よりも出現頻度が少なくなっているため、生活の面では助かっているのが正直なところだ。
・・・実際、高校に行っている時にも、それで授業を抜け出すことも何度かあった。それで先生から呼び出しも食らったことも、一度ではない。正直、今の俺の評価はあまりよろしいものではないだろう。ただ、成績は上の方にいるから、それでなんとか首の皮一枚繋がっているような状況だ。これで成績が悪かったら完全に終わってた・・・
とはいえ、流石にこの前のアブソリューティアンのあれは予想外であり、それ故彼が決めた約束を忘れ、人間として怒ったのだが・・・
ただ、ザ・ワンに関しては、あれ以降全く遭遇しておらず、反応もない。
一体何処にいるのか・・・それに・・・アイツが下手に死んだら、マズイ。出来れば、早く対処したいところだ。
この噂話を聞いてから色々なことを考えるも、ここにあまり長居するわけにもいかないため、ハンカチでもう一度顔をよく拭きお手洗いから出て、店内に戻ると同時にまたカランカランとドアのベルが鳴り、お客さんが来たことを知らせた。
「いらっしゃいませ」
そう言った瞬間に、やって来られたお客様はあーーーっ!と大声を出しており、内心、もう少し顔でも洗ってればよかったか・・・というか、普通にトイレしてても良かったかもな・・・と若干後悔してしまった。
その理由は・・・そのお客様の格好を見たからだ。
今来たお客様も・・・リコリスだ・・・
やっぱりここ、リコリスの巣だ・・・ここにこれ以上深入りするとまずいから、ここのヘルプ、絶対今日で終わりにしよ・・・
ビーストの殲滅・掃討の命が全リコリスに下ってから早数週間が経とうとしていた。
あれ以降ビーストも少ないながら現れており、その都度あの千束が名付けた巨人。確かその名は、ウルトラマン・・・も現れているそうだ。
更にこの流れに乗じてか、赤い流れ星という奇妙な噂も流れ出している。
それがウルトラマンに関係する何かなのかどうかはわからないのだが、ここ最近になってその話題は出てきたため、その可能性も大いにあるかもしれない。
その為、向こうの進捗状況を確認してこいという命令もあり、命令ということで仕方がなく、なのだが、フキとサクラは喫茶リコリコのドアを開けた。
・・・ただ、その中には、先生にも久しぶりにお会い出来るのなら・・・という理由もある。もちろん、それをフキは絶対に口にすることはないのだが。
そんな中、いらっしゃいませという言葉が聞こえるか聞こえないかのタイミングで、目に入ってしまった。
先日、命令とはいえ、神室町で対峙したあの男を。
「あーーーっ!八神隆之!」
「てめぇ!なんでここにいやがる!?」
先日いいようになめた態度でやられた八神の顔を見てしまい、一瞬で不機嫌になるのだが、当の本人はおぅ、と全く気にしておらず、軽い調子で手を挙げた。
「ター坊、知り合いか?」
「あぁ、ほらこの前話した・・・確か・・・フキちゃんにサクラちゃんだっけ、どうしたの?」
「どうしたもこうしたもじゃねーよ!そもそもなんでテメーがここにいんだ!?てかちゃん付けしてんじゃねーよおっさん!」
そうして突っかかりに行こうとした矢先、一人の男がそこに割り込んだ。
「お、お客様、お、落ち着いてください・・・あまり騒がれては他のお客様のご迷惑になりますので・・・あの、もし何か言い合うならお外に行っていただければ・・・」
突如横入りしてきた黒の作務衣姿の、自分達と同じくらいの年齢の男が恐る恐る割り込んできたため、こんなやつ、リコリコにいたか・・・?と、フキは疑問に思った。そのため、気持ちを八神からその男に切り替え、お前、誰だ?と質問をしてみた。
「あの、すいません、真田 光輝と言います・・・あの、そこの錦木さんに頼まれてリコリコのヘルプで本日入っておりまして・・・」
「光輝ー、フキに対してそんな敬語で喋んなくていいよーこんな奴だし。あと敬語禁止だって言ったのにまた私の事苗字とさん付けで呼んだー。後で怒るからねー。」
「いやあの、お客様にそんな「あんだとコラ?ハワイ行って頭ん中完全にワイキキビーチにでもなって帰ってきたのかあぁん?」
「はぁ?日本しか見てないやつとは違ってこっちはワールドワイドに視野広げようとしてんだこのボケがよ~?」
「んだとてめぇ!?このバカンスバカがよぉ!!」
「あぁてめぇ言ったな上等だ野郎オブクラッシャー!!」
相変わらずフキを挑発してくる千束と、それをフキが真正面から受け止め、結果喧嘩になるといういつものやり取りに、常連客とリコリコの全員はまた始まった、と呆れており、一方の八神と海藤はもう終わったかな?と思い話を再開する。
「あのぉ・・・えぇっと・・・」
その一方で、その2人の関係を何も知らない光輝のみがその板挟み状態でオロオロしており、あぁどうしようどうしよう・・・となっているその様を見て、サクラはアハハッ!と笑い出した。
「ハハッ!あんた面白いっすねー!こんな緊張してる人初めて見たっすよ!」
「そ、そうですか・・・あ、あの、それで、どう、しましょうか?言い争ってることですし、お二階の席の方が、よろしいでしょうか?」
「いいっすよー!あ、後、抹茶団子セット一つ!」
かしこまりました・・・と言った後、抹茶団子セット一つとキッチンに向けオーダーする。
「サクラ、帰「あ、あの、おお、お客様・・・お、お二階の席にご案内しますので・・・よろしければそちらに・・・」
帰る、と言おうとしたフキに対して、恐る恐る声を掛けると、その様子を見たことと任務のことを思い出し、フン、と千束と八神の方を向いて小馬鹿にするように鼻で笑うと、しぶしぶではあるが二階の席に通された。
二階の一番高い位置に構えられているテーブル席にフキとサクラが座った後、すぐにお水とお手拭き持って参りますね。と声を掛けてキッチンの方に戻ろうとする光輝をおい、とフキは呼び止めた。
「あ、はい、何、でしょうか?」
「・・・さっきはいきなり悪かったな。」
先程までかなり機嫌が悪かった中、呟くように謝られ、それに対して一瞬驚き固まるが、いえいえ、お気になさらないでください。と店員としての最低限のマナーを心掛けた対応をし、では少々お待ちください、と慌てて下へと戻っていき、カウンターの方で水とお手拭きを用意していると、千束が声を掛けてきた。
「凄いね光輝、よくあんな状態のフキなだめて席通したじゃん。」
「なだめたとは思ってないけど、まぁ入られたお客様だから・・・というか、入って早々喧嘩とかしないでよ・・・でもまさか、八神さんとも知り合いだとは思わなかったですけど。」
「あぁ。ちょっと前に色々あってね・・・言っておくけど、何もやましいことはしてないからね。」
そりゃそうだろうあの八神さんがそんなやましいことするわけなかろう。とは内心で思いつつ、心の中で一つ、考えていることがある。
彼女達も、リコリスだ。そして、八神もまた、彼女達と知り合いのようだった。
そこで一つ、光輝の中でハッキリしたことがある。
・・・八神隆之は、リコリスと繋がりがある、ということ。つまり、こことも・・・リコリスとして繋がっているのだ、と。
だとしたら・・・"自分を探すという依頼は、喫茶リコリコの依頼ではなく、リコリス・DAから受けた依頼の可能性が高い。"
そう予測を立てると、一瞬にして八神への警戒心が強まる・・・のだが、完全に警戒心でいっぱいになったかというと、決してそうではなかった。
まず、当然ではあるが、この仕事中に自分を捕えることは絶対にないため、その点については心配していない。
それに、何度も考えているが、もう正体を知っているのであればとっとと捕まえた方が楽だろうし、こんな回りくどいやり方をする方が骨が折れる。
何よりも、八神からもここと同じで、敵意を感じられない。ここまで遠回りをする目的は何だろうか?というのを熟考したいのだが、仕事中ということでその時間は今は無いため、一旦そこまでにし、また手と時間が空いた時に考えてみようと光輝の中で決めた。
彼女達もリコリスだということはわかってはいたが、自然な立ち振る舞いをするために、わざと、そしてそれっぽく千束に尋ねてみることにし、どういう反応が出るかを見てみようと考え、質問をしてみることにした。
「それよりも知り合い・・・なの?さっき2人がここ入ってきた時と同じ制服着てたけど・・・同じ高校?」
うーん、まぁねぇ。と千束はぼかしながら返したため、その反応にまぁそりゃ言えるわけはないか・・・と一人光輝は内心で確信する。
「ほらそれよりも早く持ってってあげて!」
そんなことを考えていると、千束から急かされたため、そうだそうだいけない!と目の前のやるべきことを思い出して、慌てて水の入ったコップとお手拭きをお盆に乗せ、フキとサクラの元へと持っていく。
「すみません、お待たせいたしました。それで、ご注文ですが、こちらのお客様は注文されていましたがお客様は「おい」
店員として取るべき対応を取ろうとしていた中で、再びフキから声を掛けられ、その少し強い口調が故、思わず萎縮してしまうが、何でしょうか?と落ち着いて返した。
「お前、あいつらとどういう関係だ?」
あいつら、というのは言わずもがな、千束達や八神さん達のことだろう。すぐにそれを予測した後、恐る恐るではあるが、光輝はこれまでの経緯を説明をし始める。
「あっ、はい・・・実は、ウチがハチミツを作っている養蜂家でして・・・」
「養蜂家?」
「はい。少し前にここにお客さんとして来た時にそのことをうっかり言ってしまって、ちさ・・・錦木さんをはじめとした皆さんが興味を持ってくださって、ウチで作ってるものを持ってくることになったんですけど、こことは別にバイトをしていたりなどで忙しくて忘れていたんです。そんな時にここが八神さんに依頼して私を探し出したんです。実は、私がここに初めて来た時に八神さんもちょうど同じタイミングで来られてたんです。その時に名刺を渡していたそうなので、それで八神さんに依頼したそうなんです。ただ、その前に八神さんとは私もたまたま会っていて知り合いになってまして・・・その後ここに持ってきた時にウチで作ったものを皆さんが気に入ってくださり、その流れで錦木さんと井ノ上さんと連絡先を交換して、連絡を取り合うようになったという流れです。で、実は今日その2人からのお願いで、臨時のヘルプとしてバイトしているんですが・・・」
詳細をかいつまんで説明すると、所々疑問には思いつつもへぇ。とフキは返し、一方のサクラは養蜂家という珍しい職業をしている光輝に興味津々だった。
「へぇーハチミツ作ってる人なんて初めて会ったっすよー!どんな事やってんすかー!刺されたりとかしないんすか!?」
おいサクラ、とフキが突っ込み話を止めるよう制すが、いえいえその程度でよければ大丈夫ですよ、と優しくて声を掛けると、説明を始めた。
蜜箱周辺の環境維持や、この時期ならではの暑さ対策のための日除けの作成といった地味な作業から収穫までを、かいつまみながらではあるが事細かに語っていくと、それに対しへー!とサクラは常に新鮮なリアクションを取り、フキもまた、あまり知らない世界ということもあってか、薄っすらとではあるが、時間が経つごとに段々と興味を示しているようだった。
「あんた凄いっすねー!で、農業もやってんすね!」
「ええ。でもまぁ、養蜂の方は少し手入れれば後は蜜蜂が頑張るだけなので、こちらはその恩恵に預かっているだけですよ。個人的には農業の方が大変ですね。といってもそんなスーパーとかに出しているほどの大農家というわけではないですし、一部を道の駅に出す程度なんですが。ただ、天候だけで収穫どころか、その年の生活がかかってくるので。台風なんて来る日には眠れないですよ。」
「でも、虫とかも出たりするんすよね?あたしそういうの苦手なんっすよー!」
「えぇまぁ。スズメバチ退治は何度もやってますけどいつだって怖いですね・・・」
苦笑いしながら家庭の事情を話していると、フキがなぁ、と光輝に向かって話しかけた。
「・・・お前、なんでそんな楽しそうなんだ?」
それはフキが自然とそう思ったことだった。
その年代で農業というのは、正直いいイメージには結びつかず、出来れば避けたいもののはずだと、農業に触れたことはないが、パッと思いつくイメージはそうだった。
しかし、目の前にいるこの同い年くらいの男は、それをさも楽しそうに話していた。
普段ならまず興味を持つこともないのだが、リコリスというエージェント故、リコリスと関わることはあっても一般人と関わることは少ない。特に同い年程度の、ましてやこういった裏社会と一切関わりのない高校生と話すなら尚のこと。
だからこそ、これまでの話を聞いてただ、何となく興味本位で気になり、聞いてみたのだ。
それに対し、そうですね・・・と少し悩んだ後、はにかみながら光輝は答えた。
「楽しいとかは実は正直なくて・・・単に、これがライフワークですからかね。」
ライフワーク?と2人が聞き返すと、はい。と返し、光輝は家業への想いを語り始めた。
「実は昔、食事が喉を通らない時期があった時に、父親が家業である農業に連れて行ってくれて、一緒に作業をした後にお昼に食べたおにぎりがその時はするっと喉を通って・・・そのことがきっかけで普通にご飯も食べられるようになって、作業もよく手伝うようになっていったんです。なので、楽しいとかじゃなくて、自然とこれが自分にとっての当たり前、になっていったんです。それに、食べるっていう字は、人が良くなるって書くじゃないですか。でも、何か食べるためには食材は絶対必要ですよね。これも後で知ったことなんですが、材という字には、元とか原料っていう意味があるんです。で、これはあくまで僕が考えてることなんですけど・・・食材ってそう考えたら、人を良くするための元、なんじゃないかと思ってて・・・そうやって我が家で作ったものを食べた人が少しでも良くなればいいなぁと思っているので、今こうして頑張ってやっていて・・・あ、すみません長くなってしまって!申し訳ありませんでした・・・」
今の説明が思わず長くなってしまったことに気付き、途中で話を止め慌てて謝罪をしていると、ふっ、とフキは鼻で笑った。
そして、先程までとは違い、少し柔らかい表情で光輝に向き合った。
「お前、面白いやつだな。あのバカ2人と八神は好きじゃねぇが、お前は気に入った。名前は?」
「えっ?・・・あっ、すみません。先程も名乗りましたが、改めて、真田 光輝って言います。」
「真田か、春川 フキだ。」
「あっ、よろしくお願いします、春川さん。」
2人があいさつを交わす一方、この様子に、サクラは一人驚いていた。
普段リコリスとして真面目に仕事をこなし、時には先程のように感情的になる姿を見ることがほとんどで、誰かと親しく接する様子など、パートナーになってから見たことがなかった。
おまけに、こういった、裏社会と関わりのない人間なら尚更だ。
なので、その親しげに声を掛ける様子に、ありえないものを見ているかのようで、夢でも見ているのかとさえ思った。
「えーっ!?先輩どうしたんすか!?熱でもあるんすか!?もう帰りましょっか!?」
「んだとサクラ!?」
いつもここに来る時とは真逆の立場で、帰ろうかと慌てて提案するサクラにフキが突っかかっており、その様子を見ていた光輝はアハハ・・・と苦笑いをするしかなかった。
そんな中、後ろに誰かが立った気配を感じ振り向くと、出来立てであろうお団子を皿に乗せたミカがじっと立っていた。それに気付き、あっ、と驚きの声を挙げ、店員として仕事もせず話に夢中になってしまったことを一人反省し、ミカに頭を下げた。
「ミ、ミカさんすみません!お話に夢中になってしまって・・・」
「いや、千束達もいるし問題はないさ。私としても、君のことを少し知れたようで良かったよ。」
特にお咎めもなく優しく受け入れてくれたミカに感謝しつつフキ達の方を見ると、ど、どうも先生・・・とフキは少しもじもじしていた。何かしたかな?と、光輝は今までの自分の行動や発言を思い返してみる。
「光輝君、ちょっと私は2人と話があるから先に降りていてくれ。」
ミカから席を外すよう提案され、わかりました。と承諾し階段を降りようと後ろを振り返った矢先・・・
「あ、自分乙女 サクラって言うんでよろしくっすー!」
「あっ、乙女さんも、よろしくお願いします!真田 光輝です!」
サクラからも自己紹介をされ、慌てて自己紹介をして頭を下げると、階段を降りてカウンターの方へと戻っていく。
しかし戻ってみると、先程とは様子が変わり、千束やたきなにミズキにクルミ、それにカウンターに座っている八神までもがおぉ・・・と言わんばかりの驚きと、尊敬の眼差しで光輝を見つめていた。
「光輝君凄いね・・・よくあの子と仲良くなれたじゃん・・・」
「いや・・・私も結構前から見てるけど、あの子があんな風にしてるの初めて見たわよ・・・」
たった数分しか会話をしていないため、どのような人物なのかを完全に知ることまでは難しいが、リコリスとはいえ、彼女とああしてコミュニケーションを取るのは難しいのかと、光輝は疑問に思った。
なので、八神とミズキから褒められたことに若干の困惑を覚え、春川さんと仲良くなるの難しいんですか?と尋ねると、フキの人柄を知っている海藤以外の5人はうんうんと大きく頷いていた。
「いやホント、光輝凄いよ・・・フキに気に入られるって、何そのコミュ力・・・?」
「いやいや、コミュ力なんて全然ないよ。そもそも高校でも友達全くいないし・・・さっきだってただ、俺は春川さんの質問に答えてただけだよ。それに、初めて会った人と数秒で喧嘩するなんてこっちか向こうがよっぽど酷いこと言わない限り出来ないじゃん。でも、そんな人なんてまずいないじゃない?それに、こうして丁寧に接することには慣れてるから、いつも通りそういうのを心掛けてただけだよ。だから、コミュ力とかじゃなくて、これは人としての接し方とか、在り方の問題だと思うよ。」
ごくごく当たり前に、これまでアルバイトをしてきた中で身につけてきた経験や知識、接客対応や、人として生きてきた中での当たり前をさも当然のように話すと、おぉ・・・と千束の口から小さく感嘆の声が漏れた。
やはり彼は、本当に思い描いていたヘルプの人材としてぴったりであり、また、ぜひ次もやってほしいと、千束は心の底から思っていた。
とはいえ、それを一番最初に伝えたかった、いややってほしかった人間がいる・・・そちらの方に顔を向けた。
「・・・だってさ、たきな。」
「何でそこで私に振るんですか!」
アハハ・・・と苦笑いをしている光輝を横目に、その中でふと、千束は考えていた。
・・・何故、光輝は友達がいないのだろう、と。
以前もTALKで通っている高校の話を聞いてみた時も、彼は友達がいないと答えていた。
理由を聞いたところ、入学当初人見知りで声を掛けられないでいたことや、早朝から家業をしているということで、他の人とは生活サイクルが違うということも相まって、慌ただしく日々を送っているうちに気付けばもう周りの関係性が出来上がっており、そこに入り込むことはもう出来なかったため、いわゆる友達のいない、ぼっちになったそうだ。
その理由を聞いた時には笑ってしまったが、ただ、こんなに人当たりも良ければ、あのフキからも気に入られたその人柄であれば、いつでも友達が出来ておかしくはないはずだと、今の一連の行動を見ていて思っていた。
なのに、何故光輝は学校で友達がいないのだろうか・・・それを不思議に思っているそんな中、そういえば・・・と、光輝は切り出し、気になっていたことを目の前にいる千束とたきなに尋ねてみる。
「あのさ、ちなみにだけど・・・2人はさ、春川さんのことは・・・」
「嫌いに決まってんじゃん?」
「嫌いですけど?」
後に光輝はこう語る。質問したことを後悔した質問は人生で初めてだった、と。