+LycorisーNEXUS JUDGEMENTー 作:ワンホットミニット
東京、新宿─────
世界一の乗降者数を誇る駅を持ち、都政に関する様々な事業を行う街でもあり、同時に、八神達のホームである神室町もある。そんな東京の首都とも呼べる街、新宿。
仕事に学業、観光客など、今日も変わらず多くの人間が行き来し、どこもかしこも人でごった返している。
人間交差点とも言えるこの、いつもと変わらない、新宿ではありふれた風景・・・
「・・・ん?何だあれ?」
そんな日常の中にふと、おかしな現象が起きた。
─────突如空から、大きな青い光の玉が落ちてきた。
その青い光に新宿の街にいた誰もが注目し、足が止まる。
その青い光の玉が地上にぶつかった瞬間、衝撃によって立ち昇った煙や砕けたコンクリートが宙に浮き上がる。
そして、青い光が収まると・・・
「オオオオオオオオオッ!!」
昨日までの姿に加え、背中に大きな黒い翼まで生やしたザ・ワンの咆哮が、この世界の新宿の街中にも響き渡った─────
ザ・ワンが新宿に降り立つ直前
錦糸町─────喫茶リコリコ
「!!」
昨日、ご飯を食べ終えた後、時間も遅くなったため、今日はここにいた方が良いとミカから提案を受けていた光輝は、併設されていた地下の射撃訓練場で毛布を被って寝ていた。加えて、時間も遅くなったということや、いざ、という可能性を考慮し、他の全員もこの店の様々な所で寝ていた。
そんな中、服に入れていたエボルトラスターの発した鼓動により目覚め、慌てて地下の射撃訓練場から店のカウンターの方へと向かうと、既に、あるいは昨日から寝ていないのか、ミカは店内の戸棚に置かれてある小さなテレビを忌々しそうに眺めていた。
『えー、緊急速報です!巨大な、巨大な怪獣が新宿に現れました!お近くにいる方は速やかに安全な場所へ避難してください!繰り返します!速やかに安全な場所に・・・』
報道中のキャスターも、自身が何を言っているのかわからないという様子だったが、それでもその先に映る光景は、紛れもなくファクトだ。だからこそ、この様に報道するしかなかった。
テレビの向こうに映っていたザ・ワンは、昨日の姿に加え、背中には鳥のような黒い翼が生えている。その翼を使って新宿の空を我が物顔で飛び続けているその姿は、昨日以上に悪魔としか呼べない、おぞましい姿に変化していた。
既にザ・ワンが放った火球を直撃を受けた多くのビルや建物からは炎が上がっており、街中は大パニックとなっている。
また、このテレビの音が聞こえてきたということもあってか、全員が既に起き、同じくテレビの画面に釘付けとなっていた。
「おいおい何だよあれ!?あんな翼昨日まで生えてなかっただろ!?」
「多分、色々な鳥達をザ・ワンは取り込んだんだと思います・・・!それで、飛行能力を持ったんだと・・・っ!」
ザ・ワンが暴れ回る様子に我慢が出来ず、光輝は今すぐにでも向かおうと、慌ててドアの方に体を向ける。
「待ちたまえ。」
だが、ミカからこれまでにないほど真剣に、それでいて威圧感ある口調で呼び止められ、思わず足が止まる。そちらの方を慌てて振り向くと、ミカは濡れたタオルとエスプレッソが入ったカップを目の前に差し出した。
「これが最後の戦いになるのだろう?急いでいるのはわかるが、寝ぼけ眼で勝てる相手ではないはずだ。顔を拭いて、飲んでいきなさい。眠気覚ましには丁度いいはずだ。」
その計らいにどれだけの意味が込められているのかは、顔を見れば一目瞭然だった。
急いでいるのは重々承知しているのだが、そう言われては断わる訳にはいかず、タオルで顔をごしごしと拭いた後、エスプレッソを一気に飲み干した。
「・・・ありがとうございます!」
「・・・君にばかり無理をさせてすまない。だが、どうか・・・頼んだ。ウルトラマンネクサス。」
聞いている光輝もまた、口にはしないが感じ取っていた。
ミカの言葉に、悔しさと申し訳なさが、滲み出ていたことを。
「・・・もちろんです!」
だからこそ、気丈に返すと、それ以上はミカもマイナスの感情を見せることはなく、笑顔を向けた。
「心配なんかしてないさ。昔からよく言われてるだろ、正義は勝つ、ってな。だから、さっさと行って勝ってこい。」
「そうよ、男の子なんだから、バシッと決めてきなさいバシっと!」
続けるかのように、クルミとミズキからも激励の言葉を掛けられると、気合いを入れ直すかのように、2人は光輝の腰を一発、勢い良く叩いた。
「ありがとうございます、クルミさん!ミズキさん!」
「・・・負けんなよ。」
「・・・ちゃんと、帰ってきなさいね。」
最後の言葉に少しだけ唇をキュッと閉めるが、表情はそのままに、頭を深く下げる。その後、八神と海藤も近付いて声を掛ける。
「大丈夫だ。お前なら絶対、あんな奴に負けねぇさ。」
「あぁ。心配すんな、お前には俺達が付いてる・・・神室町も、頼んだ。」
「わかってます・・・必ず、守ってみせます。」
「・・・行ってこい光輝!!」
「・・・はい!」
同じく八神と海籐から激励の言葉を貰った後、2人とそれぞれグータッチを交わす。
そして、最後に千束とたきなの方を振り向くと、2人は足早に駆け寄り、昨日のように、それぞれ片手を両手で握った。
「絶対勝って!負けたら承知しませんから!その時には今度こそ、本当に絶交ですから!」
「約束してね!絶対、絶対帰ってきてね!死んだら本当に許さないから!命、大事にだからね!」
「もちろん!絶対、勝って、帰ってくる!」
「信じてますから・・・!」
「・・・頑張って!」
「・・・ああ!」
お互いに目を見て頷くと、互いにそれ以上言うことはない。
手をゆっくり離すと、全員の前に立つ。
全員が見守る中、エボルトラスターを取り出し、左腰に構えた。
「それじゃ・・・行ってきます!」
”行ってらっしゃい(行ってこい)!!”
全員の行ってらっしゃいの声に、微かに笑みが零れる。
そのまま、エボルトラスターの鞘を抜き、目の前に掲げ、肩へと持ってくる。
「・・・ネクサアアアアアアアアス!!!」
ネクサスの名前を叫びながら、エボルトラスターを天に掲げると、その呼応に応えエボルトラスターから光が溢れ出す。
店内が赤い光に包まれるも、数秒後には光は収まる。
そして、全員が出入り口のドアの上に設置されている窓から空を見上げると・・・
─────赤い光の軌跡が、そこには残っていた。
日本─────DA本部
「オオオオオオオオッ!」
ザ・ワンは我が物顔で新宿の空を飛び回りながら、空中から次々と赤黒い火球を放ち、新宿の街を壊していく。
DA本部の管制室で、楠木は忌々しくその様子を眺めていた。
「新宿の被害、尚も拡大!」
「都市部の機能も、突如現れたビーストによって、各所大混乱です!自衛隊の戦闘機も後数分でこちらに着くそうです!」
「司令!本部からあのビーストについての対処の連絡が!リコリスは何をやっているんだと!」
「この緊急事態に、リリベルもこちらに向かっているとのことです!」
その様子をモニタリングしているオペレーター達からは随時、楠木に向けて報告がなされているが、当の本人は一向に口を開かず、机に肘を立てて両手を組み合わせ、口元を隠していた。
それはまるで・・・何かを待っているかのように。
だからこそ、冷静に、体勢を変えず呟いた。
「あんなものの対処、リコリスどころか、人間の手でどうにかなるものか・・・もはや、ヤツは既に我々の管轄外だ。ならば、待った方がいいだろう・・・」
「待った方がいい・・・?」
待つ、という言葉に秘書が疑問を持ってすぐ、モニターの向こうに映るザ・ワンに対し、突如どこからともなく現れた赤い光の玉がぶつかると、思わぬ衝撃によってザ・ワンは勢いよく地上へと落下していく。
そして、赤い光もまた地上に落ちると、その光の中から、楠木が待っていた存在が現れた。
数週間前から、度々口にしていた、例の存在。ビーストを倒して回っている─────銀色の巨人が。
実際、自分も見るのはこれが初めてだが・・・成る程。確かにあの絵の通りだ。これなら確かに、千束とたきな、それと、助けられた他のリコリスが同じように口にしていたのもわかる。
状況もあるが、これは・・・正義の味方、にしか見えないな。
ここまで衆目にビーストとヤツが明らかになった今、今更隠蔽も不可能だろう。それに、リコリスやDAという存在がバレたわけではない。ならば、我々には正直、何の害もない。むしろ、こちらとしても下手に関わらない方が身のためだろう。こんなものを追っていたら、真島が以前行ったように、また公に我々の存在がバレる可能性もあり得る。
それに、ビーストだけでなくヤツも倒すとなったら、我々の方が社会の敵になる。いや、そもそもこんなものどう倒せというのか。
ならばもう・・・監視対象からも外すしかないだろう。宇宙人の対処まで、DAとリコリスが負えるものか。
そんなことを考えていると、モニター越しにその姿を眺めていたオペレーター達も呆然としていたが、すぐさまハッと我に返ると、その様子をつぶさに報告し出す。
「し、司令!例の巨人が現れました!」
「あれが・・・」
その状況を聞く一方、楠木は聞こえるか聞こえないかの声で、モニターに映っている巨人に向けて言った。
今、ヤツを倒せる唯一の存在。
千束が名付けた、そのコードネームを。
「来たか・・・ウルトラマン。」
錦糸町─────喫茶リコリコ
『な、何が起きたのでしょうか!?突如怪獣の前に、銀色の巨人が現れました!繰り返します!銀色の巨人が現れました!!これは一体、何が起こっているのでしょうか!?』
テレビの中継リポーターが、突如現れたネクサスに対し、全く信じられないといったような、逐次驚きの声を上げながらレポートしていく。
その様子を、リコリコに居る全員も噛り付くように見ている。
「(光輝・・・負けないで!)」
祈りを捧げるかのように、両手を強く握る千束は、不安そうに、けれど、希望を持って、テレビの向こうのザ・ワンと、ネクサスを見ていた─────
新宿─────
この街を破壊し尽くそうとしていた中で、地面へと叩き落とされたザ・ワンは、何度も痛手を負わされ、三度現れた天敵に対し、咆哮を上げる。
「ガオオオオアアアアッ!ウルトラマン、殺ス!!」
ザ・ワンがネクサスにしか聞こえない声で喋りかける。一方、聞こえてるのかどうかわからないが、同じようにネクサスもザ・ワンに向け、断言した。
「ザ・ワン・・・これで、終わりにする!」
ネクサスは左腕を胸の前で曲げると、左腕に装着したアームドネクサスが一瞬光ると、そのまま一気に腕を下ろす。
すると、ネクサスの周囲に波のようなものが巻き起こった後、ネクサスの姿が変わった。
体色は銀を基調としているが、体を走る黒と金のライン。右腕と右脇腹から右足側面にかけて走る赤のライン。同様に、左腕と左脇腹から左足側面には同じ形の紺のラインが、それぞれに入っている。更に肩には銀の鎧のようなものも生え、両腕に装備されているアームドネクサスも形が変わっていた。
そして、胸のエナジーコアの真ん中の上部分には、これまでなかった青いタイマー、"コアゲージ"が新たに現れた。
ウルトラマンネクサスは、銀色の基本形態である"アンファンス"だけでなく、このように、"ジュネッス"という強化形態にもなれる。
なのだが、その姿は適能者によって変わるため、よっぽどの例外がない限り、適能者の誰一人として、同じジュネッスになれる人間というのはいない。
つまり、100人適能者が居れば、100通りのジュネッスが生まれることになる。
もしも、昨日までの光輝がジュネッスの力を使っていたのならば、その姿は異なっていたかもしれない。
しかし、昨日の出来事がきっかけで、これまで自分一人で抱えていたものを共有し、それでも受け入れ、手を差し伸べてくれる、信頼出来る仲間や友人を得た。そうして、光輝自身、仲間達と共に未来に進んでいく決心をした。
人間として一歩、前に進んだ結果、本来なるはずだったジュネッスの姿も、光輝自身が変わったことによって、本来なる姿から変化した。
今の適能者、真田 光輝にしかなれないウルトラマンネクサスの強化形態─────"ジュネッスプログレス"がここに生まれた。
ジュネッスプログレスになったネクサスは、両腕で十字を組み、体全体を使って大きく半回転した後、右腕を天に掲げると、握っていた右拳から青い光が放出される。
途中で止まった光はまるで花火のように広がると、アーチを描きながらドーム状に広がり、周囲に展開していく。
その光のドームがネクサスとザ・ワンを包み込んでいき、光が全て消えた時には・・・
─────ネクサスとザ・ワンは、その場から姿を消していた。
「何だ!?何が起きた!?」
「光輝は!?どこ行った!?」
その様子をテレビ越しに見ていた喫茶リコリコに残っている全員も、突如忽然と消えたネクサスとザ・ワンに驚き、クルミは大慌てで押入れの専用スペースまで行くと、VRゴーグルを装着し、パソコンを操作し始める。新宿だけでなく他の場所のカメラもハッキングし、ネクサスとザ・ワンがどこに行ったかを確認していくも、一向に見つかることはなかった。
「・・・ダメだ、ネクサスもザ・ワンも、完全にいなくなってる。まるで、神隠しみたいにな・・・」
クルミの解析結果に全員が驚き、不安げに、ディスプレイの1つに映し出されていた新宿の画面を見つめた。
「光輝・・・」
一体どうなったのか、ネクサスは、光輝は無事なのか・・・心配しているたきなの肩に千束はポンと手を乗せると、振り向いたたきなに笑顔を向ける。
「大丈夫。あんなのまだ隠してたんだもん。絶対勝つよ・・・だから、信じよ。」
今まで口にしていなかったのに、先程突如見せた新たなウルトラマンネクサスの姿。おそらく、パワーアップしたのだろう。あんなものをまだ隠していたなんて。
ただ、それ以前に・・・絶対に勝って帰ってくると約束してくれた。
だからこそ、今はただ、信じて待つことにした。
たきなもまた、その言葉に頷くと、ネクサスが、光輝がザ・ワンに勝つと信じ、表情を変え、映し出されていた新宿の風景を見つめた。
─────???
先程ネクサスが放った光、"フェーズシフトウェーブ"という光を展開することで創られた戦闘用亜空間、"メタフィールド"。
この空間は、ネクサスの体と同じ体組織で構成されている。
言い換えると、"ウルトラマンネクサス・適能者がその身を削って創った特殊な空間である。"
そのため、形成出来る時間は僅か3分間のみなのだが、ここで戦うことで、現実の街へ一切の被害を出すことなく戦うことが出来、かつ、ビーストの細胞も一切外へ漏れ出すこともないという、数多存在するウルトラマンの中で唯一、ネクサスのみが使える特殊能力であり、"最大の武器"でもある。
そして、もう一つ最大の特徴があるのだが、それは後でネクサス、いや光輝本人の口から語られることとなる。
空には不思議なオーロラがかかり、地面には特殊な赤土色の岩石と小さな池のみという、先程のビルが立ち並ぶ新宿とは打って変わり、荒野と呼べるメタフィールド内にて、ネクサスとザ・ワンの空中戦が行なわれていた。
「シュアッ!」
「オオオオオオオオッ!」
空中で接近しザ・ワンに肉弾戦を仕掛けるが、空中という環境が故、思ったように近接戦闘に持ち込めず、逆にがむしゃらに振り回してきた尻尾に当たり、その場から大きく距離を離される。
それを見逃さず次々とザ・ワンの口から火球が放たれるが、それらをかわしつつ、ネクサスもまたパーティカル・フェザーを次々放っていくが、中々ザ・ワンには当たらず、逆に火球を何発か被弾してしまう。
やはりメタフィールド内とはいえ、デビルスプリンダーのベリアル因子がビースト細胞と共鳴し合い、おまけに世界に残っていたビーストも捕食したことで、単純なパワーも上がっている。
加えて、かつてザ・ワンがネクサス、いやその当時は、"ザ・ネクスト"として戦っていたが、その時に見せた、カラスを取り込んで生やした翼についても、これまでは無かったが、この世界でも同じように翼を生やした。
おそらく、昨日戦ってから今までに、カラスだけでなく、多くの鳥達をその体に取り込んだのだろうと、光輝は予測していた。
元々のパワーも上がった状態で、この並行同位体であるザ・ワンは知らないのだが、かつて戦った時に持った飛行能力も再度得た。そして何よりも、デビルスプリンターの影響で暴走までしている。
─────明らかに、その時のネクサス、いやザ・ネクストと戦ったザ・ワンよりも、強くなっている。
肌感でそう確信するとネクサス、いや光輝は奥歯を強く噛んだ。
けれど、ここで負けたら、この世界は滅ぼされる。それに何よりも、大切な人達に帰ってくると約束をした。絶対に負けるわけにはいかない。
・・・と、余裕があるわけでは決してないのだが、確信していることが一つある。
─────"このメタフィールド内で、自分が負けるはずがない・・・と。"
だからこそ、この状況に対して一つ覚悟を決めると、ネクサスは空中で一気に加速し、ザ・ワンとの距離を詰めていく。
真正面から向かってくるネクサスに向かって、ザ・ワンは口に力を溜め、昨日ネクサスに向けて放った赤黒い熱線を最大威力で口から放つ。
だが、正面で腕を構えたネクサスはバリアもせず、両腕でその熱線を受けると、このジュネッスプログレスになったことで変化したアームドネクサスの新たな形態、"ネオアームドネクサス"に熱線が次々吸収されていく。そしてだんだんと、両腕が青い光に包まれていく。
それに気付いたザ・ワンは撃ち終わったと同時に回避しようとするが、一足早くネクサスがザ・ワンとの距離を詰めた。
「デヤアアアアッ!」
両腕を前に突き出し放った光弾、スピルレイ・ジェネレードをゼロ距離でザ・ワンの体に叩き込むと、その威力にザ・ワンは空中でバランスを崩した。
それを見逃さず、ネクサスは右腕を水平に伸ばすと、ネオアームドネクサスに収納されていたオレンジ色の刃、ダブルエルボーカッターが左右に展開される。
その右腕をエナジーコアの前で曲げると、ネオアームドネクサスとダブルエルボーカッターにエナジーコアから浮かび上がった光が投影され、弓のような形をした光が装着された。ザ・ワンへと右腕を向け、左手を右腕の下に添え、まるで弓の弦を引くかのような動作をしながら、光の弓を引き絞っていく。
「オオオオォォ・・・シュアッ!!」
引き絞られてから発射された光の弓、アローレイ・シュトロームを、立て続けに2発発射する。
これまでのネクサスであれば、このアローレイ・シュトロームは力を込めるが故、1回に1発しか放てなかった。
しかし、あえてその力を半分にすることで連発を可能にさせたため、さしずめ、"ハーフアローレイ・シュトローム"と言えるかもしれない。
先程スピルレイ・ジェネレードの直撃を受け、ダメージだけでなくバランスを崩していたザ・ワンは、高速で自身に向かってくる光の弓をかわすことが出来ず、放たれた2発のハーフアローレイ・シュトロームが、ザ・ワンの両翼を切り落とす。
切断された翼は青い粒子となって消滅すると、空を飛ぶ手段がなくなったザ・ワンは、なすすべなく地上へと落下していく。
ネクサスは右腕をもう一度エナジーコアの前で曲げると、光の弓がエナジーコアに戻ると同時に、ダブルエルボーカッターも再びネオアームドネクサスに収納される。だが、そのまま左腕も曲げ、胸の前で両腕をクロスさせると、片腕は時計回り・もう片方は反時計回りにゆっくり一回転させ、胸の前で両腕を構える。
「テヤアアアアアアッ!!」
両腕を横に大きく広げると、エナジーコアから一直線に放たれた光線、コアインパルスが既に飛行能力も失ったため、空中で身動きを取ることも出来ないザ・ワンに直撃すると、そのまま地上まで叩き付けられ、大爆発を起こす。
立て続けにネクサスの光線を食らい、もはや既に満身創痍の状態だが、ザ・ワンはまだ立ち上がった。
その様子を見て、ネクサスもまた、地上へと降り立つ。
「・・・何故ダ!何故俺ガココマデ!!ソレ二、何故ダ・・・!」
強力な光線を立て続けに受けたことによるダメージで意識が戻ったのか、あるいはデビルスプリンターの力が抜けたのか、以前と同じようにザ・ワンは正常な会話が出来るようになっていた。
だが、ザ・ワンは今まで戦ってきた状況とは打って変わり、この空間に入ってから感じていた、自身の変化を叫んだ。
「"何故、力ガ出ナイ!?"」
喋れない状態ではあったが、それでもザ・ワンは本能的に感じていた。
─────この空間に入ってから今までずっと、力が思うように発揮出来ない、と。
自身の状態にイラつきを隠せず叫んだが、それを気にも留めず、ネクサスは冷静にザ・ワンに言い放つ。
「無駄だザ・ワン。この空間はメタフィールド。ネクサスの力で出来たこの空間は、ウルトラマンの力を増大させ、ビーストの力はここでは弱まる。だから、この空間に入った時点で、お前の負けは決まっていた!」
これこそ、メタフィールドの最大の特徴だった。
このメタフィールドでは、"ネクサス本来の力が発揮され、代わりに、ビーストの能力を低下させる効果がある。"
加えて、"その効果自体も、自分の意志で変えることが出来る。そのため、例え相手がビーストでなくとも、この空間に入りさえすれば、常に自分が有利な状態で戦うことが出来る。"
なので、"この空間に入った時点で、敵はたちまち不利な状態に追い込まれる一方、ネクサスは現実世界の何倍ものポテンシャルを発揮しながら戦うことが出来るため、この空間こそがまさに、ネクサスにとっては最大の武器、と言えるのだ。"
かつてのザ・ワンがネクサス、正確に言うとザ・ネクストと戦っていた時には、ネクサスはある戦いによって力の大部分を失っていたため、ザ・ネクストの姿で戦うしかなかった。故に、メタフィールドを展開することが出来ず、その時は新宿の街中で戦うことになった。
その結果、街に被害が出ただけでなく、ザ・ワンの細胞を完全に消滅させられなかったことで、その世界にスペースビーストが生まれるきっかけにもなった。
しかし、あの時とは違い、今のネクサスは完全に力を取り戻している。
だからこそ、あの時とは違い、メタフィールドが張れる。結果、戦闘を有利に進めることが出来ているだけでなく、どれだけ戦ったとしても、現実世界には一切の被害を出さずに戦うことが出来ている。
ザ・ワンも勿論、ネクサスの能力の一つとしてメタフィールドというのがあるというのは、アブソリューティアンから聞かされていたものの、実際にメタフィールドに入ってみると、自分の力が奪われていくこの空間の特異性に苛立ち、同時に危機感を覚えていた。
加えて、目の前の天敵は、この空間に入った時点でお前の負けだと言い切ったことが、余計ザ・ワンの感情を逆撫でし、その場で大きく吼えた。
しかしネクサスは全く意に介することなく、少しの構えを取った後、地面に右手を向けると、そこから突如発生した竜巻、ネクサスハリケーンをザ・ワンに向けて飛ばすと、既に満身創痍のザ・ワンはそれをかわすことも出来ず、ネクサスハリケーンに飲み込まれたザ・ワンは地面にめり込まれ、身動きが取れなくなる。
「ザ・ワン!俺はもう、昨日までの俺とは違う!!仲間がくれた希望を、光を得た俺に、お前が、ビーストが勝てるはずがない!これで、終わりだ!!」
右腕を目の前に突き出し、同じように左腕も目の前に突き出し、両腕を目の前でクロスさせると、両腕のネオアームドネクサスが一瞬光り輝く。
両腕を少しずつ横に伸ばしていくと、光の弧を描きながら、ネオアームドネクサスを中心に、カラフルな色の雷のようなエネルギーが両腕全体を包み込んでいく。
そして、両腕を水平に伸ばしきった後、握っていた拳をピンと伸ばすと、両腕を半回転させ、両腕全体を使って大きな十字を組む!
「デヤアアアアアアアアアッ!!」
発射された十字の光線、このジュネッスプログレスでしか撃てない金と赤と紺の色が複雑に入り混じった光線、"ウルトラクロスレイ・シュトローム"が発射されると、身動きの取れないザ・ワンに直撃する。
「ウ、ウルトラマンンンンンンン!!オオオオアアアアアッ・・・」
声にもならない断末魔と共に、ザ・ワンは青い光の粒子となり、この世界から完全に消滅した─────
ザ・ワンの最後を見届けたネクサスは、組んでいた腕を下ろすと、メタフィールドを解除する。
少しすると、目の前の風景は先程の荒野とも言えるメタフィールドからは打って変わり、ビルが立ち並ぶ新宿の街に風景が戻る。
全てが終わったことを確信し、立ち去ろうと空を見上げた矢先・・・
「待ってくれ、光の巨人!!」
突如誰かに呼び止められ、その方向を振り向くと、そこには以前ネクサス、そして八神にも助けられたジャーナリストの姫矢が、ネクサスに向けてカメラを構えていた。
「君は・・・勝ったのか!?あの怪獣を、倒したのか!?」
咄嗟に出た自分の言葉がその巨人に伝わっているのかわからない。というより、伝わってなくて当然かもしれないが、ただ、先程から、この状況を見ていたこの街の誰もが、いや世界中の誰もが気になっていたことをどうしても聞きたく、気付けば大声を上げ、ネクサスに向かって話し掛けていた。
少しすると・・・
「・・・シュアッ!」
それに応えるかのように、ネクサスは姫矢に向けサムズアップをした。
そして姫矢も、今度こそ、彼の勇姿を逃さないよう、シャッターを切った。
サムズアップをしたということはつまり・・・この巨人が、あの怪獣を倒した・・・!と捉えていいはずだろう。
その瞬間、姫矢だけでなく、新宿全体がワーッと、大きな歓声に包まれた。
この歓声を聞き、人々が喜ぶ姿を見届けたネクサスは、姫矢にアイコンタクトをするかのように小さく頷いた後、シュアッと声を発し、空に向かって飛び去っていく。
そして、姫矢はその姿が見えなくなるまでシャッターを切り続け、カメラを下ろしてからしばらくすると、感謝とある名前を口にしていた。
その名前は、誰かが言ったわけではない。
無論、知っていたわけでもなければ、聞いたこともない。
ただ、何故だろうか。
自分は、とある名前を無意識の内に口にしていた。
まるで・・・彼の名前を、ずっと昔から知っているかのように。
「ありがとう・・・ウルトラマン。」
錦糸町─────喫茶リコリコ
「やったーーーーー!勝った!勝った!!ネクサスが、光輝が勝った!!やったねたきな!」
「はい!だって私達の・・・ウルトラマンネクサスですから!光輝が、ネクサスが負けるはずないですよ!!」
「よっしゃあー!流石だぜ光輝!!」
リコリコ店内でも、ネクサスとザ・ワン戦いの様子は見れなかったが、数分後にネクサスが光と共に突如新宿の街に再び現れ、そして何かに、おそらく誰かに向けてだと思われるが、サムズアップをした。
ということはつまり、ザ・ワンに勝った、ということだろう。
だからこそ、新宿の人々と同じように、いやそれ以上に勝利の喜びを分かちあっていた。
後は、これで光輝が帰ってくるだけなので、早く全員で勝利の喜びを分かち合おうと、不謹慎かもしれないが、ささやかな祝勝会の準備に入ろうとする。
「・・・おい、ちょっと待て・・・!?」
と、その中で一人、クルミはPCの画面を見ながらあることに気付き、一人慌て始める。
その様子を見たミカは、思わず声を掛けた。
「クルミ、どうした・・・?」
「あいつ、どこまで行く気だ!?このままじゃ光輝、宇宙まで行くぞ!」
ネクサスが空へと飛んで行ったことをモニタリングしていた中で、一向にリコリコへ戻るどころか、このまま行くと宇宙にまで行ってしまうということを叫ぶと、その場に居た全員が驚き、大慌てで詰め寄る。
「なんだと!?あの馬鹿!!何やってんだ!」
「ちょっと!宇宙まで行くなんて聞いてないわよ!?戻ってきなさい!!」
「おい光輝!!何やってんだ!!戻ってこい!!」
「光輝!ねぇ光輝!!戻ってきてください!!行かないで!!お願い!!」
「待ってよ!!行かないでよ!!帰ってきてよ!!やだ!!光輝!!光輝いいいいいいいいいい!!」
この場で叫んでいても届くはずはないのだが、それでも誰もがこの状況に対して叫ばざるを得なかった。
そして、大気圏を通り越し宇宙まで行くと、ハッキングしていた人工衛星のカメラでも捉えることが出来なくなったのか、ついに・・・
「・・・ウルトラマンネクサス、ロスト・・・」
無情にも告げられた、一言。まるで死を告げるかのような言葉に誰もが脱力し、千束とたきなは立つ力もなくなり、座り込んでしまう。
少しすると、千束は俯きながら、肩を震わせ始めた。
「・・・なんで・・・?なんで勝ったのに・・・帰ってきてくれなかったの・・・?・・・嘘つき・・・バカ・・・バカ・・・!」
「千束・・・」
「・・・光輝なんて、大っ嫌い!!」
叫びながら感情を露わにしつつ、今にも泣き出しそうな千束の肩に手を添えると、たきなはゆっくりと抱きしめた。
「・・・私も同じですよ・・・最後の最後に・・・嘘なんていらないんですよ!!お願いだから・・・お願いだから帰ってきてくださいよ!!・・・バカ光輝・・・」
たきなもまた感情を爆発させると、その叫びがよりこの重くなった空気を増長させ、辺りを静寂が包み込んだ。
と、そんな中、その空気を断ち切るかのように、誰かのスマホの通知音が鳴った。
それも、別々の通知音だったので、1人ではなく複数だった。
「・・・おい、誰だよこんな時に・・・」
少しイラつきながら海藤が小声で呟くと、とある2人が反応した。
「・・・すみません、私と千束です。」
千束とたきなのスマホから、その通知音が鳴ったとたきなは自ら申告した。とはいえ、この状況下、そんなものにかまけている余裕もないため、スマホを開くことはなかった。
ただ、その中で八神はふと、気になった。
「(・・・何で、このタイミングで千束とたきなのスマホにだけ同時に通知が・・・?この状況をわかっているかのように、こんなタイミングよく・・・?それに、千束はまだしも、あの真面目なたきなまでマナーモードを解除してるなんて・・・)」
─────そこまで行きつくと、ある一つの仮説を思いつき、ハッとすると、慌てて千束とたきなの方を見た。
「千束!たきな!スマホ見せてくれ!!」
「なんで・・・?」
不審がる2人に対し、いいから!と慌てて声を掛ける。その八神の様子に対し、仕方なく、ではあるが、2人はスマホを取り出し、電源を点けてみる。
「「あっ!」」
と同時に、2人は驚きの声を上げた。
理由は─────入っていたTALKの1つの通知と、その通知のメッセージだった。
その様子が気になり、千束とたきなだけでなく、他の全員もスマホの画面を覗き込んでみる。
「・・・やっぱな。良かったな、2人とも。」
その通知の内容を見て、八神は自分が想像していた通りになったため、笑みを浮かべた。他の全員もまた、先程までとは違い、ホッと胸を撫で下ろし、やれやれといったような表情になった。
その通知にあったメッセージには、たった一文、こう書かれていた。
”ごめんまだやることある”
慌てて連絡したかのように、句読点も何もなく送られてきたメッセージ。
そのメッセージを送ってきた相手は─────今の今まで戦っていた、彼から。
数日動いていなかった3人のグループに送られてきたメッセージを見たため、先程までの悲しい気持ちは一瞬で吹き飛んだ。
だからこそ、少し目に涙を溜めてはいるが、千束とたきなの顔にもまた、笑顔が戻る。
「・・・本当に、心配ばっかりかけて・・・!」
「・・・光輝のバーカ!・・・気をつけてね!」
─────宇宙空間
「・・・スペースビースト・・・使えれば我々の戦力になったが、まぁ、結果はこのようなことになったか。地球の生物を取り込んだものを持ってくるくらいならば、他の生命体や兵器を兵にした方が速いか。幸い、新しく観測出来た世界に、いい兵器がありそうだからな。」
宇宙から地球を眺めていたタルタロスは、その様子はわからなかったが、ザ・ワンはネクサスに倒されたと確信した。だからこそ、改めて、自分達アブソリューティアンにとって、スペースビーストは不要な戦力だと判断した。
故に、もうこの世界に用は無くなったため、踵を返し、両腕を目の前にかざすと、ナラクを出現させ、ザ・キングダムへと帰ろうとする。
「待てよ、アブソリューティアン。」
だが突如、誰かが自身を呼ぶ声が聞こえ、戻ろうとしていたその足を止める。
とはいえ、誰が声を掛けてきたのか、そんなことはタルタロスも既にわかっている。ナラクを閉じると、振り向くことなく、その相手に向かって話し掛けた。
「・・・惑星バベル以来だな、ウルトラマンノア。いや、今はウルトラマンネクサスと呼ぶべきか?」
ようやく振り返ったタルタロスは、ザ・ワンと戦ってすぐ、地球からやって来たネクサスに向き合う。
しかし、特に慌てる様子もなく、淡々と語り掛けていく。
「ほう?今回は人間を取り込んだのか?伝説の超人であるノアともあろうものが、人間という進化に無用な生命体と融合するとは。この星の生命体は宇宙、いやマルチバース全体から見ても稚拙な生命体だろう。にも関わらず、それと一体化したとは。全く、光の国でもどこでも、ウルトラマンというものは、相も変わらず理解不能な事ばかりするものだ。そんなに人間が好きなのか?ウルトラマンとやらは。我々から見れば、滑稽にしか見えんがな。」
先程からタルタロスがネクサスのことをノア、とずっと呼ぶのには訳がある。
それは、ウルトラマンネクサスの正体が、多くの宇宙に伝わる伝説の超人─────”ウルトラマンノア”、だということ。
その事実は、ネクサス、いやノアと一体化してからすぐに光輝も本人から伝えられていたため、そのことは知っている。
だが、このことを周りに伝えてしまうと、ウルトラマンの中でもより神秘的な存在であるノアの力を狙う者が、今以上に多くなる可能性も考えられる。それ以外にも様々な危険性を鑑みて、この事実については適能者である光輝のみの秘密としている。
そして─────"ウルトラマンノアがパワーを抑えた姿。それこそが、ウルトラマンネクサスである。"
それも勿論、光輝は知っている。
ただ、何故ノアがネクサスの姿を取っているのか、それにもちゃんとした理由がある。
ノアの力は人間と同化している際に引き出すことは難しく、適能者がいる状態でノアの力を引き出すには、世界中の人間の心が一つにでもならなければ、発現するのは難しいとのことだった。
だから、その1つ手前、つまり、パワーを抑えた状態であるネクサスの方が、適能者のポテンシャルを最大限に引き出せるということもあって、ノアはネクサスの姿を取っていると光輝は聞かされていた。
とはいえ、ネクサスでも十分強いのは言うまでもないのだが。
加えて、ネクサス最大の特殊能力であるメタフィールドは、ネクサスの姿でしか展開が出来ない。
メタフィールドはビーストの細胞を外に出さないということや、ネクサス本来のポテンシャルを発揮出来るという目的もあるが、同時に、市街地の被害を抑える役割もある。
そのため、ネクサスの姿は手を抜いている、という訳では決してなく、対ビーストであればその細胞の蔓延を防ぐ。そうでなくとも、多くの生命体が存在している・文明が発達している環境で戦う際には、その星の環境に被害を出さないなどの理由から、ネクサスの姿へ変わることも往々にしてあると、ネクサス、いやノアから伝えられていた。
これが、ノアが現在ネクサスの姿を取っている理由である。
勿論、そんな理由を知らないタルタロスは挑発するかのように言葉を並べていくが、当のネクサス、いや光輝はそれらに対して一つも相手をすることはなく、代わってタルタロスに質問をぶつけた。
「お前達は、この地球を侵略する気か?」
それに対し、タルタロスはフッ、と嘲笑う。
「人間、貴様が思うほどこの星に価値などない。”エタニティコア”のような高エネルギー体があれば話は別だが、そんなものも無いこの世界の地球など、はっきり言って価値も無い。我々としてはただ、ビーストの繁殖場にでもすれば良いと思っていただけだ。」
「・・・土地としか、見てなかったってことかよ・・・!」
「そうだ。そもそも、我々は地球という星そのものがどうでもいいからな。どの世界の地球も、勝手に滅べばいいさ。」
「あぁそうかい・・・!」
淡々とした様子で、この地球、そして地球という星に対して語るタルタロスに怒りを覚え、語気に怒りを込めて返すも、すぐにハッとする。
今この場に来た理由は、双方何事もなくこの場を治めるため。つまり、戦闘ではなく、交渉をしにここまで来た。
それも、ただの交渉ではない。言葉一つ間違えるだけで、地球の危機に繋がりかねない。
つまり、今この交渉は・・・地球の平和が掛かっている。
故に今、ネクサス、いや光輝は、地球の代表とも言える。
だからこそ、焦りとイラつきでボロを出すわけにはいかないため、一呼吸入れ、落ち着け、冷静に・・・と、頭の中で復唱しながら、ネクサスは、光輝はタルタロスに向けて話し掛けていく。
「ネクサス、いやノアからアブソリューティアンには関わらないと既に聞いている。だから、適能者である俺もそれに従う。俺もお前達に干渉もしないし、手も出さない。ただ、この前はビーストに異常なものを与えたが故に地球人として俺も許せなかったからお前達の兵士を殴った。それはネクサスじゃなくて、一人の地球人として謝らせてもらう。すまなかった・・・ただ、ここから先は話は別だ。どうせこの地球に価値がないってことなら、ここでこの世界からはお引き取り願いたい。価値もなきゃビーストもいなくなったこの世界に、これ以上執着する必要もないだろ?」
まさか謝罪をされるとは思わなかったのか、タルタロスはほう、と少し関心を寄せ、顎に右手を当てた。
「人間でありながら我々に謝罪をするとは。その心意気は認めよう。まぁ、あのビーストについては、勝手に奴がしただけだ。こちらも既にその兵士は処分した。人間如きが気にする必要などない。それに、我々としてもノアはその力もそうだが、それ以上に我々の考え方に迷いをもたらす非常に厄介な存在だ。こちらとしても下手にちょっかいを出すことでその影響をこれ以上受けるのは避けたいのだ。私はアブソリューティアンの指揮官もしている故、指揮官がその規則を破るわけにはいかんのでな。貴様が傍観の立場を取るというならば、この世界からはここで引くことにしよう。」
それだけ言うとタルタロスは背中を向けると、改めてナラクを再び出現させた。
ということは、交渉は無事に成功したということか。
これでなんとか無事に終わった・・・
────そう、少し気を抜きそうになった瞬間
「だが・・・」
聞こえるか聞こえないかの声量で、タルタロスはボソッと呟いた。
「一個人としては・・・貴様に恨みはあるがな。」
それだけ言うと、タルタロスの周囲に急激にエネルギーが集まっていき、いつの間にか握っていた両手をゆっくりと広げていく。
両者の距離はかなり離れているにも関わらず、ネクサスもビリビリと肌で感じるほどのエネルギーの塊がタルタロスの周囲に生み出されていく。
肌感覚でマズイと気付いた瞬間、ネクサスもまた、腰の前で両腕をクロスさせた後、胸の前で両腕を広げると、青い稲妻状のエネルギーが両腕を駆け巡っていく。
「覚えておくがいいウルトラマンネクサス!そして人間よ!我は究極生命体、アブソリューティアンの戦士!アブソリュートタルタロス!・・・アブソリュート・デストラクション!!」
自身の名前を名乗りながら振り返った瞬間、アブソリュート・デストラクションと技の名前を叫ぶと、巨大な金色の光球がネクサス目掛け放たれる。
「デヤアアアアアアッ!!」
ネクサスもまた、アブソリュート・デストラクションが放たれる直前に、両腕を宙に向けて伸ばし、その両腕でL字を組んだ瞬間、青い光線、オーバーレイ・シュトロームが放たれる。
両者の光線がぶつかった瞬間、巨大なエネルギー同士が衝突したことによる爆発が起き、そのパワーの余波にネクサスが軽くひるみ、一瞬だけ腕で顔を覆う。
腕をどかしてタルタロスの方を改めて向くも、既にタルタロスはその場から姿を消していた。
「・・・アブソリュートタルタロス・・・あんなもんが地球に来なくてよかった・・・」
その場に一人残されたネクサスは、たった数分対峙していただけにも関わらず、目の前の存在から感じた、底知れない恐怖と圧倒的な力。それらのことを改めて思い出し、若干身震いした。
肌感で感じていたが、一発だけだったとはいえ、向こうは一切の手加減などなかった。完全に、本気の一撃だった。
だからこそ、こちらもフルパワーで放った結果、相撃ちとなった。もし僅かでも手を抜いていたら、パワーが足りなかったら・・・そう思うと改めて、アブソリューティアンという存在への恐怖を感じ、以前戦った兵士もそうだが、あんな存在が地球に来なくてよかったと、心の底から安堵した。
とはいえ、先程光線同士の撃ち合いにはなったが、あれだけで去った、本気の戦闘にならなかったということは、言葉通りタルタロスはこの世界から手を引いたのだろう。だから、あれはおそらく、ネクサスに対する恨みが故の、憂さ晴らしだったのかもしれないと、一人見当を付けていた。
ビーストだけでなく、アブソリューティアンもこの世界から去ったことを確認し、肩の力を抜くと同時に、ザ・ワンから連戦ということもあってか、エネルギーが後僅かだと示さんばかりに、コアゲージが点滅を始めた。
本来であれば、コアゲージはメタフィールドの維持時間を知らせるために存在しているものなのだが、こうしてエネルギー残量を知らせる意味でも、エナジーコアに代わってコアゲージが点滅をすることも往々にしてある。
「・・・戻ろうか。皆が待ってる。」
目の前で起こっていた一通りの脅威が全て去ったことを確信すると、約束を果たすべく、ネクサスは赤い光となって地球に戻っていく。
東京─────錦糸町
「・・・疲れた・・・地球、マジで青かった・・・本当に、綺麗だったな。確かに、あれを見たらネクサスが、色々なウルトラマンが好きになるわけだ・・・」
地球は青かった、とかの宇宙飛行士は言っていた。しかしまさか、自分がそんなことを言える存在になろうとは。おまけに、ロケットにも乗らず、宇宙服も着ない。世界でただ一人しか出来ない、唯一無二の方法で・・・
確かにその言葉通り、本当に地球は青かった。
色々なゴタゴタはあり、中から見ると決して綺麗とは言えないかもしれない。ただ、それでも宇宙から見ると、地球はなんて綺麗な星なんだろうと、この地球に戻ってくるまでの間、ずっと感じていたことだった。
そして先程まで、ザ・ワンと戦い、さらにアブソリューティアンの戦士、アブソリュートタルタロスとも対話をしに宇宙へ行く。最後には半分決闘になったのだが・・・
たった一時間足らずの間に起こった出来事とは思えないほど、今のところ、いやおそらくこの先もないと確実に言えるくらいには、生きてきた中で一番濃い時間だった。というより、まだ一時間しか経っていないことの方が驚きであり、気持ち的には既に何日も過ぎたように感じている。
ただ、自分の感想は一旦置いておこう。
今はそれ以上に、やらなければならないことがある。
─────皆の元に帰るという、最も大事な約束を果たすために。
疲れた顔を見せないよう、頬をパンと両手で叩き、気持ちを引き締め、あそこまでの道のりを歩き出す。
やはりああしてザ・ワンとネクサスが戦ったからというのもあるが、東京という場所なのに人とすれ違うことも全くなければ、街の雑踏とも言える音すら聞こえてこない。ここは本当に東京なんだろうか・・・?そんなことを考えながら歩いていると、見えてきた。
もはや、第2の家とも呼べる、大切な人達が待つ喫茶店が。
一つ深呼吸をして、まだCLOSEDと立札がかけられたそのドアを、ゆっくりと開けた。
「・・・た、ただいま戻りました・・・」
恐る恐るドアを開けると─────店内には誰もおらず、静寂が包み込んでいた。
「・・・あれ?皆さん・・・?戻りましたよー・・・」
いつも騒がしかったり、話をしに来ることが多く、そこまで注目していなかったが、静かな今だからこそ、改めてこの店内の広さを感じられる。だが、今はそれどころではなかった。声を掛けてみても、何も反応が返ってくることはない。
「・・・皆さん!?千束!?たきな!?クルミさん!?ミズキさん!?ミカさん!?八神さん!?海藤さん!?」
慌てて店内に入り大慌てで呼びかけてみるものの、やはり一切の反応はない。皆に何かあったのかと、慌ててドアを閉め、店内の奥へ向かおうとする。
「おかえり!!」「おかえりなさい!!」
「えっ!?おわっ!?」
最悪のことを考えていたら、後ろから大声でおかえりと言いながら千束と、更にその後ろからたきなの2人が抱きついてきたため、思わずバランスを崩し店内の床にそのまま倒れ込んだ。
「いっつ~・・・ちょっと2人とも!?」
「・・・バカバカバカバカ!!いい加減こっちに心配かけんなこのバカ!!」
「本当にどうしようもないバカですね!あんな怒ってもまだ直んないんですか!?」
「ごめんって、ちょっと急遽だったから・・・あっ。」
2人に声を掛けている途中だが、大事なことを思い出した。
それは、帰ってきたら、絶対に言わなければならない言葉。
だからこそ、顔を上に乗っている2人に向け、笑顔を見せた。
「ごめん、言い忘れてた・・・千束、たきな・・・ただいま!!」
「・・・おかえり、光輝!絶対勝って帰ってきてくれるって・・・信じてたよ!!」
「・・・おかえりなさい!最高にカッコよかったですよ!ウルトラマンネクサス!!」
無事を確認し、笑いながらも、今にも泣き出しそうな2人の顔を見ると、笑顔を浮かべつつも、それ以上に感じていることがある。
「・・・あの、ごめん、ちょっと、重い・・・」
「あぁん!?おい女の子に重いとはなんだとこのバカヤロー!」
「デリカシーって言葉知ってますか?」
「おーいたきなさんや。それはどの口が言っとるんだー?」
「いや他のリコリスが大勢いる前で私を抱えてぐるぐる回した千束が何言ってるんですか?」
「はぁ!?お前だって公衆の面前で私の乳揉もうとしたじゃろがーい!!」
「誰がそんなことするんですか!?人前で揉むわけないじゃないですか!!」
「あのぉ・・・」
人の上で喧嘩を始めている2人に声を掛けたいのだが、エスカレートしている2人は聞く耳持たずになっている。その様子に少し困っているのだが、同時に笑みが零れる。
「(・・・帰って、これたんだな・・・)」
ここ最近になって当たり前になったこのやり取りを聞いて、改めて無事に帰ってこれたと、心の底から安堵した。そう思っていると、店の奥の方から全員出てきた。ひょっとしたら、サプライズをしようと隠れていたのかもしれない。そう思うと、やっぱりここの皆は本当に優しくて、いい人しかいないな・・・と、顔を少しだけ下に向けて、一人光輝は改めて喜びを噛み締めていた。
「お疲れさん。よく頑張った!」
「あぁ。どうやって倒したかはわかんねぇけど、カッコよかったぜ!お疲れ!それと、おかえり!光輝!!」
うつ伏せの状態ながら、八神と海藤が手を伸ばしてきたので、ハイタッチをそれぞれと交わす。
「お疲れ!流石だったわよ!これはもう、乾杯しなくちゃね。」
「ありがとうございますミズキさん・・・まぁ、未成年なのでお茶とかジュースとかで・・・」
「つれないわねぇ。早く大人になりなさいな。そしたらお姉さんが、お酒の味、教えてあ・げ・る。」
「やめとけ光輝、真っ昼間から飲んだくれる行き遅れの仲間入りなんてしたくないだろ?」
「おい誰が行き遅れだクソガキー!」
「やれやれ・・・全く、後でどういうことやったかちゃんと説明してもらうからな。まぁ何にせよ、お疲れさん、光輝。いや、ウルトラマンネクサス。」
「クルミさん、ありがとうございます・・・ところで、早いとここの2人をどかしていただけると・・・」
「まぁそれは諦めてくれ光輝君。心配をかけたんだ。そのくらいは許してやりなさい。」
ミカさん・・・と光輝が苦笑いを浮かべていると、ミカは優しい笑顔を浮かべる。
「ただ、立派だった。あのザ・ワンを倒したんだ。あえて、人類を代表してこう言わせてもらうとしよう・・・この世界を守ってくれてありがとう、ウルトラマンネクサス。そして・・・おかえり、光輝君。無事に帰ってきてくれて、嬉しいよ。」
ネクサスへの感謝、そして、改めて多くの大切な人達からおかえりと言葉を貰う。
今までであれば誰にもされることがなかった、かけられるわけがなかったこの言葉に一人感動していると、コンコンと入り口のドアを叩く音がした。まだCLOSEの立札を立てかけているはずでは?と誰もが思うが、ひょっとしたらこの騒ぎで避難してきた常連さんやお客さんかもしれない。だからこそ慌てて千束もたきなも起き上がると、そのドアを少し開け、ノックの主を確認してみた。
「どうもー!」
「・・・よう。」
ドアの向こうには、いつも通り不機嫌そうなフキと、相変わらずのテンションのサクラがいた。
「なーんだフキかー。」
「あぁ!?んだ「フキ、サクラ、どうした?」
「あっ・・・ど、どうも、先生。いや、あの、新宿にあんなのが出たので、司令からの命令で、何かここなら情報がないかということで・・・」
フキに対し千束はまたかというリアクションをし、ひと悶着始まりそうになったタイミングでミカが声を掛けたことで、完全にそちらに意識が向かい、ドギマギしながら、今回来店した目的を話そうとする中で、見えてしまった。
殺人事件の被害者のように、床にうつ伏せで倒れ込む、3日前にこの店で知り合って気に入った、彼の姿を。
「真田!?おいどうした!?」
「真田ッチどうしたんすかー!?死んでんすか死んでんすか!?」
目的を話すのも忘れ、慌てて店内へと入り2人が駆け寄ると、それに光輝も気付くと、弱々しく挨拶をする。
「あっ、どうも・・・あと、真田ッチって・・・」
「いやだって真田ッチって顔してますから。てか、どうしたんすか?」
「あぁ、何があったんだ!?大丈夫か!?おい千束!真田に何した!」
「いや私何もしてないってー!」
「じゃあお前か八神!?てかなんでまたおめぇもいやがる!?」
「いや俺に八つ当たりされても・・・後俺も何もしてないから。」
「はぁ!?じゃあ何があった真田!?」
ここに話を聞きに来てみたら、まさかの人物まで居るとは思わず、おまけにその内の一人は床に倒れている。このわけのわからない状況を把握するために色々な人物に話を聞いてみるも、答えが出てくることはない。だからこそ、当の本人に聞いてみると・・・
「・・・あの、千束とたきなが後ろから急に抱きついてきたので・・・実は」
何て、言った?千束と、たきなが、急に、抱きついて、きた・・・
その言葉を少し理解出来なかったが、時間を掛けてその言葉を頭の中で反芻し、ようやく理解すると・・・フキの肩が少しずつ震え出し始め、怒りや驚きが入り混じった表情になる。
「はああぁぁ!?おい真田どういうことだ!?お前・・・まさか!?いやいや!こんな女やめとけ!!絶対やめとけ!!」
「うっっわー!!真田ッチ引くわーー!女の趣味悪いっすよー!?こんな激ヤバ女共やめといた方がいいですってー!!」
こんな状態になっているまさかの理由に、フキだけでなく思わずサクラまで慌てて突っ込む。
その言葉を聞いて、千束とたきなもカチンときた。
「おうおうなんだとコラあぁん?テメェらやんのかボケー!?」
「誰が激ヤバ女なんですか?」
「お前らのことだよ!!」
「いやだって、人質いんのに撃った女が激ヤ「あーあー聞こえませーーん!!」
その対立の原因となっている当人は無視され、いつの間にか2VS2のリコリス同士のバトルに発展しそうな勢いとなっている。
ただ、そんな中、未だに光輝は立ち上がることなく、ずっとうつ伏せで倒れ続けている。
流石に何かおかしいと不審に思い、その4人に代わって、八神が声を掛けてみた。
「・・・光輝?どうした?」
あのー・・・と、弱々しく、今の自分の置かれている状況を語った。
「すみません・・・腰、抜けました・・・立てません・・・」
「・・・マジで?」
「・・・なるほど。ここもあれについて情報がない、と。」
あれから少し経ち、時間は無いのだが、フキとサクラはカウンターに座り、ミカから出されたコーヒーを飲んでいた。流石のフキもミカからの誘いを断るわけにもいかず、それを飲みながら情報を聞いていた。
勿論、ミカが言っていることは嘘だ。
信頼しているとはいえ、彼女達はDA内部に居る。下手に言って報告でもされれば、光輝の命が危ない。
だからこそ、心苦しくはあるのだが、こちらも知らぬ存ぜぬ、という態度でフキとサクラに対してもやり過ごすことを決めた。
また、フキとサクラも光輝がビーストのことを知っているとは思っていないため、そこについてもぼかしながら、ビースト、ではなくさっきの怪獣、というように話を合わせ続けていた。
一方、その本件の主役は、腰が抜けて立てなくなっているので、とりあえず全員で座敷席へ持ち上げ、なんとか仰向けの状態にさせるも、終始うーん・・・と唸っていた。
内心、先程までザ・ワンとタルタロスと戦っていたなど自分でも信じられず、もし今フキとサクラに伝えたとしても冗談だと思われるはずだ。そのくらい、今のこの姿はみっともない・・・これがウルトラマンとは・・・と、一人恥ずかしくなっていた。
「あぁ、すまないなフキ、サクラ。欲しい情報がこちらも出せなくて。」
「いえいえ先生!き、気にしないでください!これは、突然来た私も、悪いんですし・・・」
「おやぁ〜フキ~顔が赤いですぞ~?」
「うるせぇこのバカ!あと真田に近寄んな!真田みてぇないいやつにお前のバカが伝染る!」
「あんだとテメェさっきからバカバカ言いすぎだぞコラー!」
相も変わらず千束とフキのいつもの喧嘩が起きている一方、店の外では・・・
「あ、源田先生、大丈夫ですか!?」
『あぁ八神。すげぇことになっちまったな・・・心配すんな。俺達も事務所も無事だ。さっき、星野君とさおりさんが見に行ってみたが、なんとか八神探偵事務所のある建物は無事だそうだ。』
「そうですか。ありがとうございます・・・俺らもちょうどとある事情で留守にしていたんで・・・だったら安心しました。」
八神は喫茶リコリコの店外で海藤と共に、電話回線は混雑していながらも、ようやく源田と電話が繋がったため話をしていた。
そして改めて、先程までザ・ワンの被害を受けていた新宿の状況を聞くことが出来た。
幸いにも、八神探偵事務所や源田法律事務所の建物には被害はなかったそうだが、新宿と神室町を渡る大通りでも崩れた建物があったそうだ。中でも、都庁など高層ビルが多く立ち並ぶ西新宿の方が被害が凄まじいそうで、高層ビルが破壊されたことで多くの怪我人、そして・・・詳細はまだ不明だが、死者もそれなりに出たそうだ。
加えて、この影響で公共交通機関や道路もかなりマヒしており、新宿だけでなくそれ以外の場所でも大混乱になっているそうだ。
そうですか・・・と、八神は自分達の住んでいる場所が大きく被害を受けたことに悲痛な気持ちになりながらも、源田との電話を続けていた。
『ただ、あの巨人があの怪獣をどっかに連れてって、暫く経った後に現れたら倒したみてぇだったから、被害はなんとか最小限に抑えられたってことだ。しかし、すげぇなあの巨人は。あんな怪獣をどっか連れてって、倒しちまうなんてよ。』
「えぇ・・・彼のおかげですね。」
『彼?おいおい、ずいぶん親しげなように言うじゃねぇか。なんか知ってんのか?』
いえいえ、わからないですよ。と八神は返しつつも、ただ・・・と意味ありげなように言った。
「あの巨人は・・・人類の平和が脅かされそうだったんで来たんすよ。多分、遠い星から、俺らのために・・・」
『・・・そうかもな。』
八神が源田とそんな話をしている一方、喫茶リコリコの店内では─────
「おーい大丈夫かー?死んでねぇかー?」
「なんて言うんでしょうね・・・下半身に力が入らない、みたいな・・・?あとばっちぃもの触るみたいに木の棒で突っつくのそろそろやめてもらってもいいですかクルミさん?」
当の、ウルトラマンネクサスとして先程まで戦っていた光輝は、腰が抜けた影響で未だに横になっていた。
対して、どこから持ってきたのか、クルミはツンツンと木の棒で光輝を突っついていた。まるで汚物を扱うかのようなその対応に、まさかこいつがウルトラマンネクサスだとは誰も思わないだろうと高を括っていた。自身でも、さっきまで本当にあんな戦いをしていたのかと疑いたくなるほどではある。
そんな中、フキとサクラは欲しい情報が無かったことや、DAへの報告もあるため店を後にしようと、席から立ち上がる。
それを見て、光輝も首だけ動かし、こんな状態で挨拶をすることに申し訳なさを感じ、渋い顔をする。
「春川さん、乙女さんすみません。こんなみっともないとこ見せてしまって・・・」
「いや面白かったんでいいっすよー!アホすぎて写真撮ったんで疲れた時に見返して笑っときますからー!」
先程フキが話をしている間、一方のサクラは言葉では知っていたものの、本当に腰が抜けた人を見たことがなかったため、面白がってその光輝の様子を何枚も撮っていた。とはいえ、今は腕しか動かすことが出来なかったため、顔を手で隠した状態で写真を撮られていた。
ちなみにそうして撮影していたサクラの隣で、ひょっこりやって来た千束も爆笑しながら声を掛けて撮影しており、恥ずかしさやら怒りやらで光輝は尚更に疲れていた。
「乙女さん、出来れば他の人に見せないでいただければ・・・」
「見せるわけないっすよー!信じて貰えないでしょうし!」
「だよねー!いやー、しっかしこのクルミが突っついてるこの写真・・・ぶぁっはっはっハッハッ!あーお腹痛い!お店に飾って皆に見てもらおーっと!」
「やめろバカ!プライバシーの侵害だぞ!肖像権!」
千束とサクラが光輝を少し小馬鹿にしている一方、その様子を見て、はぁ・・・とフキはため息をついた。
「サクラ、ちょっと先出てろ。真田にそういう時の直し方伝えっからよ。」
「えーフキなにそれ私にも教えてよー!」
「えっそんなのあるんすか!?センパーイ私にも教えてくださいよ!」
「うるせぇこれは秘伝なんだよ秘伝!教えらんねぇんだ先出てろ!後健康なやつに教えたって意味ねぇだろ!」
その剣幕に対して2人は渋々承諾し、ちぇーと文句を言いながら、サクラは先に店の外に出た。
それを見て、フキは靴を脱いで座敷席まで上がると、光輝の耳元まで顔を近付けた。
「あ、あの、春川さん?」
「うるせぇ、こいつらには聞かれたくねぇんだよ。いいから黙ってよく聞け。あのな・・・・・・。」
耳元でフキが何かを言っているのはわかるが、あまりにも小声だったので、話をされている光輝以外は、誰もその内容を聞くことが出来ない。
「・・・えっ?」
一方、その話を聞いていた光輝は何かに気付いたのか、慌てて上半身だけを起こす。その様子に全員が驚く一方、それを見たフキはフッ、と鼻で笑うと、振り返って靴を履き、ドアの方に向かって歩き出した。
「じゃあな真田。またな。早く腰直せよ。」
後ろ姿を見せたまま、軽く手を振りながらフキは出て行った。
ただ、店外に出るとまたもや八神と言い合いになっているようで、ドアの向こうからその声が聞こえくる。
その一方、光輝は鳩が豆鉄砲を食らったような顔をしており、ずっとドアの方を見ていた。
「・・・どしたの光輝?」
呆然とドアの方を見ている光輝の様子を不思議に思い、千束が声を掛けると、あぁごめん!と慌てて返す。
「いや、春川さんすげー方法知っててさ!ほらこの通り!・・・あっごめん、まだ立てなかった。」
フキから伝授された方法で立てるかと思い、両腕を支えに立とうとしたがやはりまだ立てなかった。もーしっかりしてよー!と、いつの間にか靴を抜いて座敷席まで上がっていた千束からつっこまれると同時に、軽く頭をはたかれる。
「痛った!俺腰抜けてんだよ!」
「立てない光輝が悪いんだよー。」
その拍子抜けしたやり取りに、店内はやれやれ、というような空気感に包まれる。
ただ、店内にいた喫茶リコリコの全員、口には出さないが察していた。
フキが最後に・・・光輝に何を言っていたのかを。
「(・・・ありがとね、フキ。光輝のこと・・・黙ってくれて。)」
先程出ていったドアの方を見ながら、腐れ縁とも言える友達に、千束は心の中で感謝をしていた。
「やっぱ、まだ街はバタバタしてるっすね。電車もですけど、これじゃタクシーも無理でしょうね。今日、自分達帰れるんすかね・・・?」
「まぁ、なんとかなんだろ・・・」
「・・・あっ、そういや先輩、真田ッチの腰抜けたた写真、いります?面白いっすよ?」
「・・・あー、まぁ、落ち着いたら貰うわ。」
リコリコから出たフキとサクラは、話し合いながらどこかで落ち着いて報告出来る場所を探そうと歩いていた。
幸い、この方面はライフラインも問題ないようなので、リコリコに入る前と比べると少しずつ人も街に多くなっているような気がしていた。と言っても、普段から比べれば全然少ないのだが。
「いやー、にしてもスゴかったっすねーウルトラマン!やっぱアレ、宇宙人とかっすかね?」
「・・・ん、あぁ、そうだろうな。ありゃ宇宙人だろうな。」
そんな中、話を変え、先程のネクサスについてサクラがフキに向かって話し掛けるが、一方のフキは先程から終始そうだったのだが、まるで心ここにあらず、といった具合に、反応が妙に薄かった。そのフキの様子にサクラも少し気にはなったが、時折こうして冷静に、それでいて少し心ここにあらず、といった返しをすることもよくあることや、何かしらのフキの地雷を踏み抜くことで蹴られるのも嫌なため、そこまで深入りすることはなかった。
「(・・・やっぱ、そうなんだな・・・)」
ただ、一方のフキが心ここにあらずの理由は、別にあった。
その理由は─────たった一人、彼のこと。
ああして店を出る直前、フキは光輝に耳打ちでこう言っていた。
それは・・・
ーあのな・・・"ありがとよ真田。いや、ウルトラマン。カッコよかったぜ。"ー
あの場に千束とたきなが居ることはわかる。リコリスの制服姿も、仕事前だから着ていたというだけかもしれないが、八神隆之とその相棒までもが居るのはおかしい。情報共有にしても、この新宿にあんな巨大なビーストとウルトラマンが現れたタイミングで居たのは、偶然にしては出来すぎている。
ビーストの殲滅・殺害はリコリスに命じられた現在の最重要任務であり、そのことはあそこもすでに承知済みであり、八神もまた、少なからずビーストの情報を知り、かつ、現状はDAと協力関係にある。加えて、司令からあそこに向かえという指示があった。それはあの時自分も聞いていたため、繋がりがあるのはわかっている。
ただ、今までのこの話にないものが、ひとつある。
─────ウルトラマンについて、だ。
そんな中、今ここに話が上がってこない、どこにも属していない人物が、1人いる。
─────真田だ。
そもそも、今日は平日だ。普通の学生がどういった生活をしているかはわからないが、おそらく、まだ夏休みではないはずだ。そんな中で、なんでただの高校生である真田が今日居るのか・・・そもそもの前提がおかしかったが、先生の前でそんなことを聞くわけにはいかなかった。
おまけに、千束とたきなという、リコリスとして力のある2人がそんなスキンシップをするなどありえない。千束はまだしも、あのたきなまで・・・千束の影響を受けてよりバカになったのは承知しているが、とはいえ、正直あり得ないと思っている。だが、あの状況で真田が噓をついているとは思えない。
そんな中、千束やたきな、先生達と八神達。その全員に共通しているのは、ビーストの情報を持っている関係者、だということ。
これらを踏まえた時に、あの真田が、新宿に巨大なビーストとウルトラマンが現れたタイミングで偶然店内に居合わせた・・・とは到底思えなかった。
だからこそ、ひょっとしたら・・・と思い、何か反応が出るかを探るため、物は試しに、あんなことを言ってみたのだ。
ただ、あの反応を見て確信した。
─────真田が、ウルトラマンの正体で間違いないはずだ。
まさか、人間がウルトラマンになっているとは思わなかった。それも、あの真田が・・・内心、未だに驚いている。
おそらく、先生達も知らないというのも、真田がウルトラマンだからというのを知っているが故についた嘘だろう。おそらく、真田を守るために。
と言っても、先生にそんなことを問い質すわけにもいかず、かつ、彼からの答えを待っているとまた千束から何か小言を言われる可能性が高いため、答えを確認する前にこうして足早に出てきたのだが。
ただ、間違いなく、真田がウルトラマンのはずだ。
「センパーイ、どうしたんすか?さっきからずっと黙ったまんまですけど?」
と、一人黙り込んで考えていたのを疑問に思ったサクラが声を掛けてきたため、それに気付き我に返ると、あぁ悪い。と軽い調子で返す。
「どうしたんすか?考えごとっすか?」
「・・・いや・・・なんでもない。ほら、さっさと行くぞ!」
ただ、自分はそう確信しているが、本当に真田がウルトラマンなのかどうかについては、現状だと証拠が何一つない。
正直なところを言えば、自分達が先生の敵になるのも、出来れば避けたいし、それは自分としても望んでなどいない。
加えて、癪に障るが千束とたきなは手強く、敵にしたら厄介なことこの上ない。おまけに、腹が立つことにあの八神隆之と、その相棒までいる。腕っ節もさることながら、何よりも弁護士だ。下手に何か起こすことで、以前の真島のようにリコリスやDAをまた社会に認知させるわけにはいかない。
だから、今のあそこは前以上に厄介なため、敵に回すのは得策ではない。
とはいえ、自分からそのことについて尋ねるのは絶対に嫌であり、プライドが許さない。それに、どうせはぐらかされるのも目に見えている。
なので、この秘密はいつか何かのタイミングで打ち明けることにして、今は自分だけの秘密にしておこう。
ウルトラマンは人間が変身してました、などというバカな報告、証拠もない中で司令に報告出来るわけがない。
だから、現在自分が出来ることは、先生から聞いたことをありのまま、司令に報告するしかない。
さて、どう言って納得させようか・・・サクラに相談するわけにもいかないため、頭の中でアイデアを考えなければ。
・・・とは言いつつも・・・ただ、それ以上に、何よりも・・・
「・・・真田がウルトラマンなら、頼もしいか。」
「センパイ何か言いました?」
「言ってねぇ!」
「なんでぇぇっ!?」
・・・真田のことを、気に入っている自分もいる。
一方、フキ達が去ってから少しした後
─────喫茶リコリコ
いつも通りオープンした喫茶リコリコだったものの、平日ということや、流石に本日のザ・ワンの件で外出を躊躇う人や公共交通機関も麻痺しているということもあってか、店内はとても静かだった。
「やーっぱ、ザ・ワンの騒動があったからか、ぜんぜん人来ないねぇ・・・」
「そうですねぇ・・・」
千束とたきなは喫茶リコリコの制服に着替え、カウンター越しにゆっくりと窓の外の空を眺めている。世間は慌ただしいが、ここはようやく、穏やかな時間が流れようとしていた。
「多分、明日の新聞の一面はぜーーーんぶ、ネクサスとビーストのことで持ち切りだろうねぇ。」
「そうでしょうね。というか、今もテレビはずっとそれで持ち切りですよ・・・DAはどうするんでしょうね?」
「さすがに無理でしょあんなん。どう改竄出来るんですかーって話。そこんとこどうなんすかー、ウルトラマンネクサスさん?」
カウンター越しに、コーヒーを飲んでいた光輝に話し掛けると、ウッと声を出し、目を逸らした。
「・・・関わりたくないけど、当事者だから正直、居心地は悪いっす・・・いつかわかることとは思っていたけど、ああして新宿で戦うことになると思わなかったし、今や俺の方が犯罪者になった気分だよ・・・」
忌々しそうに話しながら、グイッと残っていたコーヒーを飲み干した。
既に八神と海藤はひとまずここでの一件は落ち着いたと考え、先程のザ・ワンの騒動で八神探偵事務所が大丈夫なことはわかっていたものの、自分達の目で神室町、そして新宿は大丈夫かということを確認するために、先に店から出て行っていた。
とはいえ、各地大混乱であり、おまけに道も渋滞しているのはわかっていた。なので、少し収まるまでここで待ってもいいんじゃないか?と提案されたが
ー悪いけど、俺達のホームはあそこなのよ。おまけに、人々が困っている今こそ、小さなことでもフットワーク軽く動ける八神探偵事務所が、街に必要な時だろ?ー
そう真っ直ぐな目で言われては、それ以上は誰も、何も言えなかった。
そのため、現在リコリコ内には店員の5人を除けば、光輝だけだった。
また、先程ようやく立ち上がれるようになったため、光輝もこうしてカウンター席に座っていた。ちなみに、このコーヒーはザ・ワンを倒したサービス、という名目で提供されている。
「しっかし、宇宙まで行ったと思ったら、まさかTALKにメッセージ送ってくるとは思わなかったよー!びっくりしたー!ねぇあれどうやったの?」
「・・・まぁ、ウルトラマンの力を使って、ちょちょい、と。」
「ちょちょい」
ちょちょいと簡単に言っているものの、そのちょちょいをどうやったかについて聞いてみたかったが、多分聞いたら色々ややこしいことになると、これまでの話でわかっていた。なので、あえてそこは触れないでおこうと心に決め、グッと飲み込んだ。
「・・・しっかし、パワーアップ形態になったと思ったら、メタフィールドとかいう人間からは観測出来ない戦闘用亜空間作ります。そこじゃ周囲に被害が出ません。それでいて相手にデバフかけてこっちはバフがかかります・・・とか、そんなもん作れるネクサス、やっぱバケモノだな・・・」
「・・・あんた完全犯罪出来るわよ?しちゃえば?」
「ミズキさん、ウルトラマンはそんなことしませんって。」
ミズキにツッコミながら、先程までザ・ワンとどこでどう戦っていたか、発生させた空間であるメタフィールドのことについてなど、全員から先程までネクサスとして行っていた一連の出来事の説明を求められ、先程ようやくその説明を終えたばかりだった。
その能力を聞いて、改めて全員が、ウルトラマンネクサスという存在の強さを感じていた。
「でもその後に、ザ・ワンだけじゃなくて、その、アブソリュート、タルタロス・・・でしたか?昨日話してたアブソリューティアンに会って対話して、もう一つの脅威からも地球を守った・・・ってことに私は驚いてますけどね・・・」
「・・・俺だって現実味ないよ。ただ、タルタロスは侵略以前に、この地球・・・というか、地球そのものに興味が無さそうだった・・・でも、本当にアイツはヤバかった・・・もし戦っていたら、負けてた。間違いなく。」
当然ながら、ネクサスとして行っていた一連の出来事だったので、タルタロスについても説明をしたのだが、そう話す光輝の表情は、若干の恐怖を浮かべていた。
アブソリューティアンの戦士、アブソリュートタルタロス。ザ・ワンをこの世界に連れてきた元凶である存在は、これだけ強いネクサスでさえ勝てないと断言している。その様な存在が別の世界には存在しているということに、理解を示したいのだが、それと同時に示したくない、というのが全員の本音ではあった。と言いつつ、理解が追い付いていないというのもあるのだが。
そんな中、先程から一人、厨房の奥でミカはずっと何か作業をしていた。その作業が終わったのか、千束とたきなを呼ぶ声がしたので、2人は慌ててそちらの方へ向かう。
「センセ何これ!?」
厨房の奥から千束が何かに対して驚く声が聞こえ、何だ?と残っている3人が不思議に思っていると、こちらにやって来た3人の手にはグラスがあり、各自に1つずつ手渡した。
中を見ると、何かの飲料がグラスに入っており、その中には氷と、そして細かく刻まれたレモンが浮かんでいる。加えて、グラスの表面には気泡も付いている。
なのでこれは、おそらく炭酸飲料だろう。
「・・・これは?」
「ハチミツ漬けのレモンをソーダに混ぜたものだよ。勿論、ハチミツは君の家のものさ。あくまで試作だがね。」
提供されたのは、まさかの炭酸飲料。それも、光輝の家のハチミツを使っており、試作とも最後に付け加えたということは、いわばこれは、喫茶リコリコの新メニューになるかもしれない商品だった。
ただ、このような和風カフェには少し不似合いかもしれない・・・のだが、今の暑くなってきた陽気を考えれば、これはひょっとしたら売れるのでは・・・?と、誰もが素直にそう思っていた。
そんな中、ミカはこのメニューを作った理由を口にした。
「君の家のものをメニューに使わなければ勿体ない。それに、コーヒー一杯だけが祝杯、というのも寂しいだろう?」
その気遣いに感謝と、照れ笑いを浮かべる。そんな中、全員からの提案で、せっかくならと、今回の主役に乾杯の音頭を取ってもらうことにした。
「えーっと・・・まず、皆さん、本当に本当に、ありがとうございました!皆さんがいなかったら、絶対ザ・ワンに勝てませんでした。だから・・・」
言葉に少し詰まるが、出来る限りの、精一杯の笑顔を作って、全員に向ける。
「・・・これからも、どうかよろしくお願いします!乾杯!」
乾杯の音頭に合わせ、全員がカツン、とグラスを重ねた─────
その日の夜
日本─────どこかの道中
「はぁ・・・ったーく、なーんであたしが送り迎えしなきゃいけないのよ!せっかく祝杯あげようとしたのにおっさんから送るんだから飲むなーとか!」
「まっ、お前は何にもしてないからな。そのくらい働け働けー。」
「あんたも似たようなもんでしょ!少しは働け!」
「ボクは渋滞情報見つつミズキに最適なルートの共有。それと止まりそうな信号を赤から青に変えてんだよ。最短距離と最短時間で目的地に到着させようとしてんだからありがたく思え。」
喫茶リコリコの専用車である赤い車の運転席でボヤくミズキと、助手席でその話し相手を務めるクルミは、とある場所までの道中にあった。
夕方以降ということで、ザ・ワンの一件はまだありつつも、少しずつ車の流れもスムーズになり始めていた。
特に、今この車は、"新宿方面とは真逆の、千葉方面に向かっている。"
加えて、一部ハッキングもあるが、クルミの的確なサポートのおかげで、他の車よりも遥かにスムーズに進んでいた。
「まっ、地球の平和を守った功労者には、こんくらいはしてやんなきゃな・・・結局、ずっと守られてばっかだったな・・・」
「・・・よく頑張ったわよ、本当に。こんな酒も飲めないどころか、高校生の子供が。日本どころか、地球の命運を背負って戦ってたんだもの・・・立派よ立派。」
「お前もちょっとはこの勇敢さ見習った方がいいかもな。」
「黙れデコ出し小娘!」
ミズキとクルミの、この2人ならではのいつも通りとも言えるやり取り。故に、小競り合いのような喧嘩が起こることもしばしば。今回もいつも通り・・・になりそうな中、クルミは口元に人差し指を当て、しーっというジェスチャーをすると、それに気付きミズキも一瞬で黙り、バックミラーに視線をやると、小さく笑みを浮かべた。
「・・・そりゃまぁ、寝るか。ホント、年相応のアホっぽい寝顔してるわね。これがあの地球を守ったウルトラマンネクサスとは・・・ね。」
「・・・けどま、これが、こいつにとっちゃ一番の報酬かもな。」
そう言ってチラリと、後部座席の方を覗くクルミの目線の先には・・・
─────真ん中に光輝、両隣に千束とたきなが座っているが、それぞれ光輝の肩に頭を乗せて、3人仲良く眠っていた。
「本当にこいつら、いいチームだよ。」
「いちゃつき周囲にひけらかす傍迷惑なガキ共だけどな。」
千葉県─────とある山に入る手前
「それじゃ、ここで大丈夫なので。」
とある山に入る入口とも呼べる一本道。その手前で光輝は、ここまで乗せてきてくれた車から降りて、全員に感謝を述べていた。
「本当にいいの?家まで送ってくけど?」
「いえ、夜だとひょっとしたら野生動物とか出るかもしれないですし・・・それに、一人で少しだけ歩きたくって。」
「・・・そう。んじゃ、私達はこれで帰るわよ。お疲れ様。」
「あぁ、今日はゆっくり休めよ、光輝。」
「こちらこそ、こんなところまで送ってきてくれてありがとうございました!」
運転席の窓を開けて声を掛けてきたミズキとクルミに感謝を伝えると、千束とたきなも後部座席の方の窓を開け、顔を出した。
「光輝、またね!」
「帰り道、気をつけてくださいね。」
「大丈夫だって。もう何百回と歩いてきた道だよ・・・ありがと。それじゃ、またお店で!」
あの時とは違い、2人のことも、このお店のことも全て信頼し、今では心の底から大切な存在になった。
だからこそ、屈託のない笑顔で返すと、4人も笑顔を浮かべると、窓を閉め、車は喫茶リコリコへと帰っていった。
「さて、行くか・・・」
車が見えなくなるまで見送った後、カバンを改めて肩にかけ直すと、登り坂となっている山道を歩き出していく。
その道中、夏の夜空を見上げながら、一人、色々なことを考え続けていた。
本当に、色々あった。この数日間で、ガラリと世界が変わった。
大きな喧嘩もして、当人だけじゃなくて、多くの周りの人をも傷付けた。そのことが本当に苦しく、辛かった。
それでも、いやそれこそ、戦うには必要なことだと、自分の心を偽ってでも思おうとしていた。
けれど、それを絶対に許さない友達が出来て、その優しさに触れて、頭でっかちになっていた自分が完璧に崩された。
だから、打ち明けられた。
自分が、
そんな隠し続けていた自分の秘密も、弱さも、噓をついていたところも、臆病なところも全て受け入れてくれて、それでも自分を大切に思ってくれる、心の底から寄りかかれる大切な仲間達がたくさん出来た。
だから、ザ・ワンにも勝てて、アブソリュートタルタロスとも対峙出来た。その結果、地球を守れた。独りだったら、絶対に成し得なかった。
正直、自分は臆病だ。今だってそうだ。
けれど、今は仲間が傍にいてくれる。
それがあったからこそ、ウルトラマンとして強くなれたと、間違いなく言える。
だから、皆がいるから、俺は、これからも・・・生きていこう。
そう思って歩いていると、いつの間にか着いていた。
俺の、帰るべき場所に。
玄関までたどり着くと、一つ大きく深呼吸をする。
そして、玄関のドアを開けると、家族に聞こえるよう、大きな声で言った。
約束の、あの言葉を。
「・・・ただいま!!」
何も言うことはないですが、少しだけ。
おそらく、ネクサスのSSを書いてきた多くの方々が付けてきたタイトルだと思います。ネットの海に消えたものも数多くあるでしょう。
だからこそ、このタイトルが二番煎じ、いや百番煎じだということも承知しています。
ただ、今回はもう、書こうと思った瞬間から、これだけは真っ先にタイトルを決めていましたし、この話を書く時には、もうこのタイトル以外、他の選択肢が無かったです。
自身のネクサス愛を全て注いで書いた、ザ・ワン完結編であり、ウルトラマンネクサスSSでした。
というわけで、短い間でしたが、これまでご拝読いただきありがとうございました。
本作はこれにておしまいです。
どうもありがとうございました。
嘘ごめん。もう少しだけ、続くんじゃ。
お前まだ書くのかよ!?と思われたらごめんなさい。
だらだらと書くつもりはないですが、もう少しだけ書きます。
とはいえ、言います。
構想上、後3本で完全におしまいです。
御期待下さい。と偉そうには言えませんが、ゆっくりお待ちいただければと思います。
それではまた次回。