+LycorisーNEXUS JUDGEMENTー 作:ワンホットミニット
神室町─────九州一番星
「八神さん、最近よく来てくれるね。それに、その子、確か前にも一緒に来てたよね?」
「ええ。ちょっと前に知り合って、で、この前こいつが凄いことしたんで、そのご褒美で。」
「凄いことって・・・何かの大会で優勝したとかかい?」
「あー、まぁ、そんなとこ、だな。」
神室町の一角で長年に渡り営業してきており、地元民からは特に愛されるラーメン屋、九州一番星。
ただ、この店の店主も以前、あることに悩んでいたのだが、それを八神に助けてもらった。正確に言えば、とあるアドバイスを八神がし、その通りにあるメニューを作ってみたところ、所謂、"映え"、を気にするような年代の若い子も次々訪れるようになり、地元民だけでなくそれを目当てに来る若い子も多くなったため、今や昔以上に盛況となっていた。
その店主から見て、八神と海藤はここに住んでいるため顔馴染みなのだが、その2人だけでなく、一回りは若いであろう、店主としては見慣れない人物がカウンターに横並びで座っていた。その3人が一緒に入ってきたため、連れなのだとすぐに店主もわかったが、ただ、その人物は以前も八神と共に来ていたことを覚えていたため、そう話し掛ける中、ところでよ・・・と切り出すと、店主は先程から、ずっと気になっていたことを口にした。
「・・・その子、よく食うねぇ・・・」
昨今、若い子は食べないと言われている。事実、ここでも若い子が来ても、そんなに量を食べる子というのは、昔に比べて減っていると感じていた。
故に、店主から見ても、その子の今時の若者とは思えないその食べっぷりに、物珍しさと懐かしさを覚えていた。
その目線の先には・・・
「・・・ん?あ、自分・・・ですか?」
大量のチャーシューが乗った、八神が提案したという鬼盛りチャーシューメンというラーメン。その脇にはチャーハン。更にそれだけでなく、茶碗に盛られた大盛りのライスをかき込んでいた光輝が、きょとんとした顔をしながら、店主の方を見ていた。
今日ここに来ることを事前に八神達にも伝えていたのだが、ザ・ワンから神室町を守ってくれた礼、ではないが、それでも、大切な人達が大勢いるこの街を守ってくれたのは、紛れもなくネクサス、いや光輝だった。だからこそ、そのお礼に何かしてあげたいと前々から思っていた。
そう思っていた中で、こちらに来ると以前話があり、だったらそのタイミングで何か一つ、何でもやってあげようと決めた。
そこで何がしたいか聞いたところ・・・・"以前も訪れたこの九州一番星に、もう一度行きたいとのことだった。"
その答えを聞いた際には意外だったが、同時に笑いがこみ上げてきた。無論、八神もあっさりOKを出し、加えて、ご褒美ということで、今日はご馳走するから、遠慮なくなんでも食べていいと伝えた。
そして、その言葉通り、遠慮なく注文したのだが、はっきり言って、ラーメンだけでも相当な量にもかかわらず、その脇にはチャーハンと大盛りのご飯まである。パッと見で、フードファイターの食事か?と思ってしまうほどの量に、言った側の八神と海藤も驚き、同時に少し引いていた。
「・・・お前、こんなに食うやつだったんだな・・・」
「・・・俺、チャーハンおかずに白米食うやつ初めて見たわ・・・」
「いやいやいやいや、スイッチ入れた時くらいしかこんなガッツリ食わないですけど・・・やっぱり、多い、ですか?」
「いや、最近の若い子は食べない子多いからさ。俺から見たら、気持ちいい食いっぷりだよ!君みたいな学生さんはいっぱい食えばいいんだよ!」
その言葉に安堵し、ありがとうございます!と礼を言うと、盛られているチャーシューの一つを口に入れると、またもやご飯をかきこみはじめた。
昨日行われたボドゲ会兼ライブの翌日、光輝はここ、新宿に来ていた。
勿論、ここに来た理由は、ただラーメンを食べに来ただけ、なわけがない。
─────人として、ウルトラマンとして、どうしてもやらなければならないことがあった。それを行うためには、この場所に来なければならなかったからだ。
ご飯を食べ終えると、神室町から離れ、新宿駅にある花屋へと向かい、大きい花束を一つ編んでもらう。それを両手で抱えながら、目的地まで3人横並びで歩いていく。そして、目的地周辺まで到着すると、足を止め、花束を持った状態だが、光輝は2人の方を振り向いた。
「いいのか光輝?俺らもついていかなくて。」
「ありがとうございます海藤さん。ただ・・・これだけは、一人で行きたくて。俺の、ケジメとして。」
「・・・そうか。まぁ、帰りにリコリコにも寄るんだろ?」
「はい。向こうにも無理言って一人にしてもらったんで・・・それに、荷物も置いてありますし。」
「ったーく、あんな可愛い子心配させるとか、ホントおめぇ面食いだな。彼女心配させていいのか?」
「いやいや海藤さん!?彼女じゃないですって!!」
「大体、お前があの2人のこと好きなのバレバレなんだよ。で、いつ告るんだ?」
「だっ、だから!!違いますってば!?それとこれとは話が別じゃないですか!?」
「はいはい、もうわかった、わかったって。後、声大きくなってるよ。周り、こっちに注目してるよ。」
大慌てであの2人が好きなことをごまかすが、声が大きくなっていることを八神が指摘すると、あっ、と声が漏れ、慌てて口を閉じた。周りを見れば確かに、不審そうな目でこちらを見ている。それに気恥ずかしさを覚え、思わず顔が赤くなってしまっていると、はははっと八神は笑った後、優しい表情で光輝の方を見た。それは、海藤も同じだった。
「緊張、取れたか?」
「・・・はい。お2人とも、ありがとうございます。」
「あんま、思い込みすぎんなよ。」
「体調悪くなったら連絡してきなよ。すぐ迎え行くから。それじゃ、気をつけて行ってきな。ここ真っ直ぐ行ってあの十字路右に曲がれば、見えてくるから。」
「ありがとうございます。それじゃ・・・行ってきます。ここまでありがとうございました。」
一つお礼をし、頭を下げると、光輝は八神と海藤と別れ、一人、目的地までの道を歩いていく。
ずっとしなければならないと思っていたが、逃げていた。でも、やはり、しなければならない。
これは、俺のケジメだ。
新宿─────議事堂前
先日起きたザ・ワンの被害で亡くなってしまった人々への臨時の献花台として設けられたこの場には、犠牲者を弔うため、多くの花や飲み物、千羽鶴などが置かれていた。
その中に、先程編んでもらった花束を置くと、膝をつき、光輝は手を合わせた。
ここに来るまでに色々な言葉を考えたが、どれもこれもが不適当だと感じていた。
だからこそ、ただ無心で、祈りを捧げていた。
おそらく、この方々から、自分は恨まれている。そんなことはとうにわかりきっている。
だからこそ、これ以上誰も不幸にしないために、これから先も、人々を守るために戦い続けることを心の中で誓い続ける。それが、この人達への罪滅ぼしであると信じて。
かなり長い間だったが、整理がついたのか、祈るのを終えて立ち上がったと同時に、たまたま強いビル風が吹き、被っていたキャップが飛ばされた。
それに気付き、そのキャップが流れた方向へ慌てて走り出す。
一方、たまたま歩いていた中で、その光輝のキャップが足元に転がってきたことに気付いた人物がいた。
その人物も自然と、足元まで転がってきたキャップを手に取り、慌てて走ってきた、おそらくこのキャップの持ち主であろう人物へ、笑顔を向けて手渡した。
「どうぞ。君の?」
「は、はい。ありがとうござい・・・」
キャップを拾ってくれたその人物へ感謝の言葉を言おうとするが、急いでいたため少し息を切らしていた。呼吸を整えてその人物の顔を見た瞬間
─────全ての言おうとしていた言葉がなくなり、その人物の顔をじっと、光輝は見ていた。
その理由は、簡単だった。
─────光輝が、知っている人物だったからだ。
ただ、そのことについて、目の前にいるこの人物がわかっているかはわからない。
けれど、つい、口から零れた。
「・・・和倉・・・教官・・・?」
その人物の、名前を。
一方、和倉、と呼ばれた目の前にいる40代程度の、紺のジャケットを着た男性は、目の前にいる高校生程度の少年が何故自分の名前を知っているのか。そのことに驚いたが、その名で呼ぶということは、それは、"ある場所"に居たことを意味することでもあった。
その高校生程度の少年の顔をじっと見ると、先程までの柔和な表情は鳴りを潜め、少し驚いたような表情を浮かべる。
「お前・・・シン、なのか・・・?」
─────かつての、教え子と教官は、予想だにしなかった、再会を果たした。
神室町─────八神探偵事務所
「八神さんすみません。こんな急遽事務所をお借りしたいなんて・・・」
「いや、気にしないでいいよ。ただ・・・さっき一緒に来た人が・・・」
「はい・・・和倉教官。俺が・・・"リリベルだった時の、指導教官です"。」
あれから少しし、光輝は八神探偵事務所に居た。
理由は勿論、和倉と話をしたかったからだが、それは向こうも同じだった。
とはいえ、ただの喫茶店などでは内容的にも落ち着いて話をするのは難しい。そのため、こうして知り合いであり、自身が知る中で、誰の邪魔も入らず、最もゆっくり話せる場所である、八神探偵事務所に急遽連絡をし、こうして場所を借りているのが事の経緯だ。
和倉を事務所のソファーで待たせている一方、光輝と八神と海藤は、事務所のある建物の入り口で話し合っていた。
「とりあえず、俺と海藤さんは話が終わるまで街をぶらついてるから。終わったら連絡して。」
内容的にも、自分達はその場にいない方がいいとすぐに察し、そう伝える一方、ありがとうございます。と光輝は感謝の言葉と共に頭を下げると、八神と海藤はそれぞれ、心配するなと言わんばかりに、光輝の肩にポンと手を乗せた。
そうして事務所から出ていった2人を見送った後、改めて光輝は事務所のある階段を登っていき、八神探偵事務所へと戻った。
「お待たせしました。遅くなってしまいすみませんでした。」
「いや、気にするな・・・ところでシン、お前、どうして八神隆之と知り合いなんだ?」
「実は、少し前にとある依頼で八神さんが俺を探したことがあって・・・実はその前にそれとは別に一度お会いしていたんですが、そこから関係が始まって、今もこうしてお付き合いをさせてもらっています。」
所々気になる点はあったが、今はそこに対して深く追及している場合ではないため、それ以上はあえて聞かず、そうか、とだけ呟き、机に置かれている、先程ここに来る道中で買ったコンビニのアイスコーヒーを一口、口に含んだ。それに合わせるかのように、光輝もまた、買ってもらった同じコーヒーを口に含むと、改めて和倉と向き合った。
「・・・改めまして、お久しぶりです、和倉教官。まさか、こんなところでお会い出来るなんて思ってもみなかったです。」
「それはこちらの台詞だ・・・まさか、今もお前が生きているなんて思ってもみなかったぞ・・・」
先程からずっと、教官、と光輝が呼ぶ、この和倉という男性。
かつて、光輝がリリベルに在籍していた時、当然ながら、柔術や銃の撃ち方などは教わらないと誰も出来なかったため、所属している全員、戦闘面でのあらゆる指導を受けていた。
"その時、戦闘面での指導教官を務めていたのが、他ならない、この和倉だった。"
故に、彼の元で教わってきたため、戦闘に関しては、彼から1から10までの全てを教わってきたと言っても過言ではない。
そのため、光輝にとってはリリベル時代、最も身近に触れ合っていた、大人だった。
そんな和倉教官と、こんな場所で会うなんて・・・そう光輝が思っていると、和倉は何かを確認するかのように、光輝に質問を投げかけた。
「・・・今は、どうしてるんだ?」
「・・・引き取ってくれた両親と、千葉の方で養蜂とか、農業やってます。それと、普通の学生生活を・・・」
「養蜂・・・?」
「はい。その人がやってて・・・それと、名前も変えて・・・今は、真田 光輝って名前になってます。」
今の光輝の生活環境を知れたこと、そして、名前が変わったことに対し、受け止めるかのようにそうか・・・と小さく呟き、飲み込むかのようにまた一口コーヒーを飲むと、代わって今度は、光輝から聞きたかったことを聞いてみた。
「あの、和倉教官は・・・今もあそこで「辞めたよ。」
話をしている最中、断ち切るかのように一言返ってきた。その意味が分からず、えっ?と、思わず聞き返すと、手を机に組み、それまでとは違い、少し柔和な表情をしながら、和倉は光輝の顔を見ていた。
「俺もシンと同じだ。とっくにDAを辞めて、今では普通のおじさんをやってるよ。」
その顔は、優しい笑顔を浮かべているが、同時に、何かを諦めたかのようにも、光輝の目からは見えていた。
「・・・どうして、ですか・・・?和倉教官は、能力もそうでしたけど、人望も厚かったように思いますけど・・・辞める理由なんて一つも・・・」
和倉のことは光輝もよく知っていた。厳しく、けれども、褒める時はしっかり褒め、それでいて、悩んでいる人がいれば、自分から話し掛けに行ってくれる。そんな人柄だからこそ、和倉は多くの人から好かれていた。ようではなく、明らかにそうだった。
しかし、和倉の口からDAを辞めたという答えに驚き、声を震わせながら質問をすると、コーヒーが入ったカップを持ちながら、簡単さ、と和倉は呟いた。
「"お前がきっかけだよ、シン。"」
「俺・・・?どういう、ことですか・・・?」
和倉が辞めた理由は、自分だという。その言葉の意味が光輝としても全くもって理解出来ず、困惑の表情を浮かべていた。
一方の和倉は、少し、昔話をしようか、と呟き、また一口コーヒーを飲むと、カップを机に置き、手を机に組みながら話し始めた。
「お前は・・・俺が見てきた中では、勉強の面では優秀な方だったが、こと戦闘面では出来が悪かった。だからこそ、俺は都度お前に言っていたよな?」
「・・・情報部とか、いわゆる裏方の、サポートをする方に行け・・・ですよね。今でもよく覚えてますし、和倉教官からめちゃくちゃ怒られたこともよく覚えてます。」
「そうだったな・・・柔術はまだしも、お前は銃を撃つことが下手で、暗殺には向かないと心の底から思っていたよ。」
昔を懐かしむように笑いながら話す和倉に対し、一方の光輝はその時のことを思い出し、アハハ・・・と苦笑いを浮かべるしかなかった。
「ただ、決してお前は出来ないからと、諦めようとはせず、出来るようになろうと、一生懸命努力していた。そこについては俺は評価していた。だからこそ・・・お前を気に掛ける時間も、他のリリベルのメンバーに比べて長かった。」
「そうでしたね・・・マンツーマンでお話したことも、一度や二度じゃなかったですもんね。」
「あぁ。だから、お前が初めてミッションに出る、ということを嬉々として話しに来た時、俺は・・・心の中では、正直悩んでいた。」
「悩んでいた・・・?」
そうだ、とだけ言うと、先程までとは違い、真剣な目に切り替わり、光輝の顔を見た。
「お前はミッションに出れることを喜んでいたのかもしれないが、これから行うことは人殺しだ。そんなことを子供が嬉々として話しに来る。一方、大の大人が、子供に人殺しをさせるための訓練をしている。そんなこと、本当に良いのだろうか。正直、俺はどうあればいいか、この仕事を選んでから、常に悩んでいた。だから教え子の中には、生きて帰ってこなかった者も少なからずいた。俺はそれでも、これは仕事なんだ、平和や治安の維持のためには必要なことなんだと、見て見ぬふりをして、やり過ごしてきた。ただ・・・そんな時に、お前が、その時参加したミッションから帰ってきた時・・・他の者は体を怪我をして帰ってくる者ばかりだったが、心が壊れて戻ってきた人間を見たのは、お前が最初で最後だった・・・辛い思い出を蒸し返すようで悪いな・・・」
「・・・」
「その前までのお前を知っていたから、人間として全てが壊れてしまったお前を見た時、俺は・・・"それまで見て見ぬふりをしてやり過ごしてきた自分を恥じたんだ。"」
「恥じた・・・?」
手を組んでいた両手の握る力が強くなりながら、和倉は目線を下げ、怒りや悔しさを堪えるかのように、あるいは、懺悔のように、当時自分が感じたことを話し始める。
「・・・自分よりもはるかに年齢が下の子供にこんな思いをさせて、そして、大人はそれに対して何の責任も取らない。死んだ者の供養もしなければ、こうして使い物にならない者は不要と判断され、処分される。生きてきた証が何一つないまま、組織の決め事だけで、子供の命が簡単に消えていく。その時、俺はいったい、何をしているんだとハッとさせられた。だから・・・"あの時、本来だったら、お前は処分されていたはずだったが、俺はお前をなんとしてでも生かしたかった・・・"」
最後まで言われたその時、光輝もその言葉にハッとする。慌てて和倉の方を向くと、唇を震わせながら質問をしてみた。
「・・・まさか、俺が処分されずに、孤児院に入れたのって・・・」
「・・・あぁ。"俺が上に提言した。"」
明かされた、真実。
あの時、処分されずに孤児院に入れたその理由は
─────自分が教わっていた和倉教官が、上に掛け合ってくれたから。そうでなかったら、自分は、処分・・・殺されていたのだと。
自分が想像していた以上の真実があることに驚き、絶句するも、和倉は光輝の様子が戻るのを待たずに、話を再開する。
「そんなことをして何の意味になると多くの者から言われたが、俺は断固として譲らなかった。だから、変革を起こそうと"虎杖"にも言いにいったが、奴も、組織も、そう変わらない。昨日までと変わらないことをやれと、その一点張りだった。俺は絶望し、お前が孤児院へと送られてからすぐ、俺もまた、DAを辞めた。もう二度と、DAには関わらないと決めた。色々言われたが、いくら日本の治安を守るためとはいえ、子供を使うような組織に、正義なんてない・・・そう、確信したからな。今も、それは変わらない。」
「・・・まさか、そんな事実があったなんて・・・」
「あぁ。本当だったら俺が引き取りたかったんだが、俺がいるだけでお前はあの時のことを思い出してしまうかもしれない。だったら、会わない方がお前のためになる・・・そう思ったからな。すまないな。」
そこまで語る和倉の目は、まるで親かというような、優しい目をしている。
ただ、一方の光輝は、自分の知らなかった真実に驚きながらも、自分の命を助けてくれた、"命の恩人"である和倉に対し、慌てて反応をする。
「そんな!謝らないでください!和倉教官のおかげで、俺はこうして今も生きてられてるんです!むしろ、俺を・・・そこまでして、生かしてくれて、ありがとうございました。俺を・・・助けてくれて。」
椅子に座りながら、深く頭を下げた光輝に対し、和倉は何も言うことはなかった。
暫くしてから頭を上げた後、和倉はDAを辞めたと話していた。ならば今、何をしているのかについても興味本位で聞いてみたくなり、失礼を承知で質問をしてみることにした。
「あの、すみません。では・・・今、和倉教官は何をされてるんですか?」
「・・・色々、やっているんだ。子供達にスポーツを教えていたり、猟師なんかも、な。」
「スポーツ・・・ですか?それと、漁師って・・・えっと、海とか・・・」
「違う違う、害獣駆除とかそっちの方だ。」
「あ、す、すみません!勘違いして・・・」
気にすることはない、と笑顔を見せながら返すと、それまでとは違い、明るく、希望が満ちた目で、今自身が行っていることについて話し始めていく。
「DAを辞めてからすぐ、オリンピックや世界大会を目指す子供達を支援する団体に、不思議な縁で入ることになってな。そこでは、家庭問題や金銭面などでやりたくても出来ないような子に対してサポートをし、その子がスポーツに取り組める環境を作って、未来のスターアスリートを育てる手伝いをしてるんだ。」
「そんなことをしてるんですね・・・!」
「あぁ。実際、それで大会で優勝した子も入れば、世界大会に行った子もいるんだ。それに・・・」
そこまで言うと、指で銃の形を作った。
「スポーツの中には、ライフル射撃、クレー射撃っていうのもあってな。それなら俺も教えられてな。実際、教え子の中には全国大会で好成績を収めた者もいるんだ。」
「そうなんですね!確かに、和倉教官の教え方は、お上手ですからね・・・」
「だから最初の頃は、経験もないのにどうしてそんなに銃を撃つのが上手いのかを、周りにどうごまかそうか考えるのに必死だったよ。」
昔のことを懐かしんで苦笑いを浮かべる和倉に対し、光輝もまたつられて笑みを浮かべた。
「それとな、その仕事をやっている中でたまたま知り合った人の中に、猟師の人がいてな。中々そういう人材がいないからということで、俺の射撃の腕を見込んで、猟師にならないかと相談されたんだ。俺も、DAを辞めてからは人助けになることだったら何でもやろうというスタンスだったから、それも受けてな。だから、自治体や町から依頼を受けて害獣を退治することも並行してやっているから、毎日忙しくしてるよ。本当に、銃の扱い方が少し変わるだけで、こんなにも人を興奮させたり、人から感謝されたりするんだからな。DAにいたら、見えなかった世界だよ。人生、何があるかわからんな。」
今やっていることを誇るかのように、軽く笑う和倉は、残っていたコーヒーを一気に流し込むと、真剣な表情に変わり、光輝をじっと見た。
しかし、その表情には怒りなどはなく、むしろ感謝しているかのようでもあった。
「俺は、今この道を選んでよかったと、心の底から言える。あのままいたら、俺は人間として完全に終わっていた。それに気付かせてくれたのはお前だ、シン。いや・・・真田 光輝。」
それまでとは違い、今の名前で自分のことを呼んでくれた。そのことに少し驚くも、それ以上に嬉しい気持ちが湧き上がってくるのを感じていた。
だからこそ、光輝もまた、真剣に、それでいて、少し笑みを浮かべながら、和倉と向き合う。
「いえ・・・感謝するのはこちらの方です。和倉教官が生かしてくれた命のおかげで、父さんと母さんに出会えて、生まれ変われて、新しい名前も貰えて・・・それで、普通の学生生活を送れてます。あの時、俺を助けてくれてありがとうございました・・・"和倉さん"。」
だからこそ、こちらも呼び方を変えた。
もう、お互いにDAにはいない。ならばもう、教官ではない。とはいえ、教官と教え子、という立場に変わりはないのだが、それでもやはり、今大人を呼ぶ時には必ずこう呼ぶからこそ、教官、ではなく、さん付けで呼んでみることにした。
「・・・気にすることなんてないさ。それに、良く言うだろう。出来の悪い教え子ほど、可愛いとな。」
それに和倉も納得したのか、ジョークを交えて返すと、2人して笑い合った。
と、そこまで言うと、和倉もまた、ふと気になった。
「そういえばシ・・・いや、光輝。お前はなんでここまで来たんだ?千葉に住んでいる者がここまで来るなんて・・・まさか、先のあの事件で、誰か知り合いを亡くしたのか?」
「あー、いえ、そういうわけではなく・・・ただ、俺もあのニュース見て凄く悲しかったので、ちょうど八神さんも住んでいましたから色々心配だったんですけど、こちらも学生ということもあって中々お会い出来なかったんですが、今日たまたまお互いの予定が合ったので、それで、会いに来がてら、あそこまで足を運んだ・・・って感じですね。」
「そうか・・・わざわざここまで来るなんて、よっぽど八神隆之と仲が良いんだな・・・」
いくら教官だからとはいえ、自分がネクサスだと言うわけにはいかない。そのため、適当な噓をついてごまかし納得させた。
「で、これから帰るのか?」
「いえ、実はこの後バイト先に用事が・・・」
「バイト先?何かバイトしているのか?もし良かったら、今度遊びにでも行ってやるぞ。なんてお店だ?」
あー・・・と、そこまで言うと、非常にバツが悪そうな顔を浮かべる。そして、苦々しい顔で和倉に向き合う。
「・・・喫茶、リコリコというところでして・・・」
「喫茶、リコリコ・・・?」
その店の名前を聞いて一瞬頭に?マークを浮かべたが、和倉はすぐに驚きの表情を見せた。
「喫茶リコリコって、あの、錦木 千束がいるところか!?」
「ご存知なんですか!?というか、千束も知ってるんですか!?」
「あ、あぁ。"確か、10年ほど前に錦木 千束を殺すためにリリベルを何度も向かわせたことがあってだな・・・"」
そこまで言った瞬間、思わずバン!と机を両手で叩き、思わず椅子から立ち上がった。
「は、はぁ!?千束を殺すう!?ちょっとそれどういうことですか!?」
「おい落ち着け光輝!最後まで話を聞け!」
慌てて注意をすると、それにハッとし、光輝もまた、失礼しました!とすぐに頭を下げ、椅子に座る。とはいえ、驚きと興奮、そして怒りは収まっていないため、和倉に詰め寄った。
「で、どういうことなんですか?なんでリリベルは、千束を殺そうとしたんですか・・・?それを、指示したんですか・・・?」
「落ち着け・・・というか、どうしてそこまで錦木 千束に「友達だからです。」
何故そこまで錦木千束の肩を持つのか、そこまでこだわるのかについて聞こうとした中で、友達だと、光輝ははっきり言い切った。
その言葉を不思議に思い、光輝の顔を見ると、それまでとは別人のように、明らかに顔つきが変わっていた。
「千束は俺の友達で、大切な人なんです。俺にとっては恩人なんです。だから、リリベルが殺そうとしたなんて・・・許せないんです。それをした元仲間も、知らなかった自分も。」
「シン・・・」
彼にとって、錦木千束は友達であり、恩人だという。何故、彼女がそこまでの存在になったのか・・・一体、何があったのか。
そして、彼の今見せるその表情は、リリベルに居た時もそうだが、もっと言えば、教え子の中にも、そんな顔をする人間は、一度も見たことがなかった。
この表情を何と例えるべきか・・・敢えて例えるならば、そう。
その顔はまるで─────"戦士のようだった。"
しかしすぐ、あっ!と声を出すと、光輝は一瞬で先程までの人当たりの良さそうな表情に戻った。
「す、すみません!こんな失礼なことを言ってしまって・・・!」
「い、いや、気にするな。ただ、実は俺もはっきりとはその指令や内容を知っているわけじゃないんだ。俺は指導する側だったこともあってか、任務のことは知らされないことが多かったんだ。ただ、教え子からその時、とあるリコリスを殺す指令を受け、その子の家や、彼女が働いているという喫茶店に行き、処分しようと試みたものの、殆どが、返り討ちにされた・・・そのターゲットが、錦木 千束、という名前のリコリスだということは聞いていた。」
「そうなんですね・・・じゃあ、教か・・・和倉さんも、内容までは知らないということなんですね。」
「あぁ、すまないな。その時に、その喫茶店が、リコリコという名前を教え子から聞いた。それから暫くして、ある日突然、そのリコリスを処分するという話はパタリとなくなった。"おそらく、誰かが処分するのをやめてくれと、依頼したんだろうな。"」
「(・・・まさか、ミカさんや、ミズキさんが依頼したのか・・・?)」
その話を聞いて、千束の処分をやめてくれと、ミカやミズキが言ったのではないかと光輝は考えるも、指導教官であった和倉も詳細については知らないということであり、かつ、自分からこんな話をミカやミズキに聞くのは、あまりいい話ではないだろう。そのため、考えるのを一度そこまでにし、自分の胸の内に留めると、改めて和倉と向き合った。
「・・・わかりました。ありがとうございます。こちらこそ、詰め寄ってしまいすみませんでした。」
「いや、気にするな。ただ、その話を聞くと・・・向こうがリコリスだということを、知っているんだな。」
「・・・はい。向こうも、俺がリリベルだということを、知ってます。」
まさか、そこまでお互いに知っているなんて。自分がリリベルだったという過去も、向こうに伝えたということか。
しかし、何故そこまで伝えたのか・・・そして、何故そこと知り合い、どういう経緯があって、お互いの素性を全て知ることになったのか、和倉の中で腑に落ちなかった。だからこそ、怪訝そうな表情で、光輝に質問をしてみた。
「・・・聞かせてくれ。どうしてお前は、その喫茶リコリコと知り合うことになって、そして・・・リリベルだという過去も、向こうがリコリスだということも、知ったんだ?」
その質問に対し、それまでとは違い、すぐに次の言葉は出ず、沈黙の時間が流れる。
少しした後、複雑な表情を浮かべながら、苦々しく口にした。
「・・・すみません。それだけは、和倉教官であっても言えません。申し訳ないです・・・」
その表情は、これまで見たことがないほど、複雑な、色々な感情が渦巻いている表情をしていた。
「(・・・シン、いや光輝・・・お前、なんでそんな顔が出来るんだ・・・?それは・・・)」
ただ、その表情に、一人、和倉は考えていた。
それは、その顔をする人間の、共通点。
「(その顔は・・・"死線を潜り抜けてきた奴がする顔だぞ・・・")」
彼の浮かべる表情は、リリベルに居た過去があったとはいえ、あの僅かな経験では、到底出来る表情ではない。無論、今やただの高校生になったなら、尚更出来るわけがない。
─────その顔は明らかに、多くの死線を潜り抜けてきた、歴戦の兵士のような顔だった。
それは、リリベルという暗殺部隊の指導教官をしていたことや、それ以前の様々な経歴がある和倉だからからこそ感じた、いわば第六感のようなものだった。
故に、気になってしまう。
─────今の光輝は、人殺しをしているのか。いや、そもそも・・・"彼は、何を抱えているのか。"
ただ、そんな表情を浮かべている光輝には、これ以上は詰め寄ることは出来ないと判断したため、仕方なくではあるが、深入りするようなことはせず、受け止めることにした。
「・・・そうか、わかった。ただ、一つ聞かせてくれ・・・お前は悪人を、人殺しをしているわけでは、ないんだな?」
「はい。それだけは約束します・・・それと、千束達も、人殺しはしていません。」
彼は人殺しをしていない。それに、あの錦木千束もだという。リコリスでありながら、人を殺さないとは。
そこまで考えていると、ある一つの考えに行きついた。
「(・・・まさか、だからあの時錦木 千束を処分するという指示が?DAのような秘匿性の高い組織の機密をバラすことがないように、こちらまで繋がることがないように・・・?)」
あの当時、錦木 千束というリコリスを処分するために、リリベルが動いていたことは覚えている。
とはいえ、ただの一介のリコリスにそこまでする理由がわからなかった。
だが、今目の前の光輝は、その錦木 千束は、人を殺さないのだと言った。それがいつ始まったものなのかはわからないが、そんな中、思い出したことがあった。
あの当時、リリベル全員、錦木 千束を暗殺しようとしたものの、全員、ものの見事に返り討ちにされた。だが、不思議なことに、"全員生きて帰ってきた。加えて、打撲などはしていたものの、誰も血を流して返ってくることもなかった。"知る限りでは、一人もいなかった。
つまり、あの当時から、人を殺さない、いわば不殺を貫いてきたということなのだろう。
それに、自分もよく覚えている。あの"旧電波塔事件"は。
あの事件を解決した英雄とも言えるのは、他ならない、その錦木 千束だった。
あの事件以降、DA内でリコリスとリリベルの立場が逆転したことはよく覚えており、リリベル内でも立場を少しでも逆転しようという意思の元、ただでさえ厳しい訓練を課していたつもりだったが、より厳しくしろとの指示があり、加えて、一層過酷な任務に自身の教え子が投じられることになった。
であるならば、そんな秘匿性の高いDAという組織の一構成員で、おまけに不殺を貫くリコリス。そして、DAから離れて暮らしている・・・そんな人物は、組織からしてみれば、目の上のたんこぶだ。だからこそ、あの当時、そのような指令が下されたのか・・・?そう考えるも、今の自分はもうとっくにDAを離れた身。答え合わせをすることも出来ないため、自分の考えは胸の内にしまうことにした。
そんな中、急に黙った和倉を不審がった光輝から声を掛けられたことに気付き、あぁ悪い、と軽く返した。
「・・・そうか。ただ、何にせよ、お前が人殺しをしていなくて良かったよ。それを聞けただけでも、安心したよ。」
「流石にあんな経験したら・・・はい。」
苦笑いを浮かべる光輝につられ和倉も優しく微笑み返す一方、先程からずっと、気になっていたことがあった。
それは・・・
「・・・なぁ光輝。」
「な、何ですか、和倉さん・・・?」
これまでとは違い、少し和倉はニヤニヤしていた。そんな表情を見たこともなかったため少し不安がっていると、和倉はとあることを聞いてみた。
「さっきから気になっていたんだが・・・そこまで言うってことは・・・"お前、好きなのか?錦木 千束のこと?"」
「~~~~~っっっ!!ち、ちがいますーーー!!あんなアホ好きじゃありませえーーーーん!!」
小学生が好きな子を言い当てられた時にするようなリアクションだな・・・わかりやすい奴だ。
内心、和倉はそう思っていた。
「・・・それじゃあ、またどこかで会おうな、光輝。害獣駆除の依頼があったら連絡してきてくれ。いつでも、行ってやるからな。」
「はい!とはいえ、和倉さんの手を借りるなんて、申し訳なさすぎるので、それは何とか自分の手で頑張ります・・・」
「ハハッ、そうか。まぁ、とはいえ、何かあったらさっき渡した名刺に連絡してきてくれ。それじゃ、またな。」
またな、という言葉に、少し心が嬉しくなる感覚を覚えていた。
教官と生徒、という立場から、知り合いの大人と高校生、という立場に変わり、接し方もこの少しの間で変わった。
またここから、新しい何かが始まっていくのかもしれない。そんな期待に少し胸を弾ませ、はい!と元気よく返事をすると、満足そうに和倉も微笑むと、背を向け、八神探偵事務所を去っていった。
和倉との話し合いも無事に終わったため、八神に終わったことを連絡しようとスマホを取り出す。
「・・・お疲れ様。」
と同時に、その八神が後ろから話し掛けてきた。その隣には海藤もおり、それに驚くも、すぐに満足そうな顔を浮かべた。
「こちらこそ、場所を貸してくれてありがとうございました・・・とても、いい話が出来ました。」
「・・・そっか。」
その満足そうな表情に、八神も海藤もいい話を聞けたのだと察し、優しく笑みを返した。
「まぁ、今は聞かないどくよ。また今度、ゆっくり聞かせてもらうよ。」
「えっ、どうしてですか?」
「おい光輝、お前、そろそろ行かねぇんとヤベェんじゃねぇのか?」
「えっ?」
海藤からそう言われスマホで時間を見てみると、時刻は5時を回っていた。その時間を見て、一人慌て出す。
今から行ったとして、これで着付けを教わるだなんだしていたら、帰る時間も遅くなってしまう。明日は日曜日だとはいえ、やることはたくさんある。故に、大至急行かなければと、事務所にカバンを取りに戻る。時間としては1分も経たないうちにすぐにまた入り口まで戻ってくると、改めて八神と海藤と向き合う。
「それじゃ、これからリコリコ行くので、これで失礼します!八神さん、海藤さん、ありがとうございました!」
「あぁ。変なチンピラみてぇな奴には気をつけろよ。」
「またおいでね。俺達も、光輝が働いてる時に遊び行くからさ。」
「ありがとうございます!それじゃ!」
そう言い残し、光輝は駅へと走っていく。
その後ろ姿を眺め、暫くしてから見えなくなった後、八神は海藤の方を向いた。
「相変わらず面白い奴だね、光輝。」
「ホント、あんなただの一端の高校生が背負いすぎなんだっちゅーの・・・ただ、あんな奴がよ、俺達の神室町を守ってくれたんだ。すげぇよ、本当にな。」
「だね・・・だからこそ、あいつは何があっても助けてやろうね。」
「・・・そりゃ、恋愛方面でも、か?」
「フッ、どうだろうね。まっ、必要だったら、その手伝いもしよっか。」
「だな。見ててホントじれってーんだよあいつらは。」
あんな普通の高校生にしか見えない彼が、色々なものを抱えている。自分の命に替えても、自分がどれだけ傷付こうとも、多くの人々の命を助けてきた。
そして、自分達の愛する街を、いやこの世界を守ってくれた。彼には、返そうと思っても返しきれないほどの恩が出来た。
世界中の誰もが敵でも、俺達は、光輝の味方でいる。そう決めた。
それは、彼に迫る身の危険からもそうだが・・・あの、"友達以上・恋人未満な3人の関係を進める"、という意味でも。ただ、それをするのかは現時点では未定なのだが。
「そんじゃ海藤さん、戻ろっか。俺達の、日常ってやつに。」
「あぁ。まーだしばらくは、忙しくなりそうだしな。」
ペット探しから浮気調査。ストーカー対応から詐欺のトラブル。果ては宇宙人探しまで。どんな依頼であろうとも、全打席フルスイングがモットー。
そんな所長と、もう一人の探偵が在籍する、八神探偵事務所の慌ただしくも、賑やかな日々は、これからも続いていく─────
錦糸町─────
「だーちくしょう!なんで昨日も走って今日も走ってんだよ俺はー!」
喫茶リコリコの最寄り駅に到着すると、光輝は大急ぎでリコリコへと向かっていた。
これからリコリコで行うことを考えると、一分一秒が惜しく、少しでも早く着こうと歩を早めていた。
そうして、喫茶リコリコまで後もうすぐ、というところの、公園の入り口の前に・・・
「おいおい、私達を待たせるなんていい度胸してんなおぉん~?」
「全く、どこほっつき歩いてたんですか?言わなかったら撃ちますよ。」
先程からずっと話題に上がっており、光輝にとっては一番歳が近く、そして、一番の理解者だと思っている、昨日チームになり、パートナーとなった、千束と、たきながいた。
2人がまさかここにいるとは思わず、加えて、格好もリコリコの制服ではなく、リコリスの証とも言える、赤と紺の学生服に身を包んでいる。それに対して少し驚き、すぐに駆け寄る。
「2人とも、どうしてここにいるの?それに・・・その制服って、リコリコは?」
「やってるよ。でも、ちょうど夕暮れ時だしお客さんも大分はけたタイミングで、八神さんからもうすぐそっちに光輝が行くよって連絡があって、センセやミズキ達が、行ってきていいって言ってくれたから、こうして待ってたんだよ。」
「だから、リコリコの制服だとサボってるって見られるかもしれないですから、こうして着替えてきたんですよ。」
「そうだったんだ・・・暑いのに外で待っててもらってごめんね。」
「ホントだよ!後で何かおごってね!」
「・・・で、何してたんですか?」
「・・・ちょっと長くなるけど、いい?」
リコリコへは急いで行かなければならないのだが、歩きながらではとても出来る話ではない。故に、その公園に入り、付近に誰もいないことを確認すると、先程まで起きていたことを、千束とたきなに全て話した。
全てを話し終える頃には、千束とたきなもまた、神妙な面持ちとなっていた。
「・・・そうだったんだね。その時の教官が・・・」
「その教官がいなかったら、光輝は・・・」
「そう、だね・・・まさか、こんな真実があるなんて思ってもみなかったし、今になって知ることになるなんて思わなかったよ・・・」
千束もたきなもまた、光輝が生きていた、いや生かされた背景に、そんな事実があったことに驚き、次の言葉が出なくなっていた。
けれど、少しすると、千束は小さく微笑んだ。
「・・・でもさ、それがあったから、光輝は今も生きてるし、私達とも出会えた。光輝はツイてるんだよ!」
「・・・そうだね。本当に和倉さんには、もう一生頭上がらないよ・・・」
「・・・多分、光輝が光輝だったから、その人も好きになったんでしょうね。」
「周りからそこまで言われても光輝を生かしたかったって・・・光輝、相当変だったんだろうね。」
「それ、どういう意味?」
「いい意味で、ですよ。光輝が、リリベルには・・・人殺しには、向かなかったからじゃないんですか?」
「うん、そうだよ。けど、その代わりに、光輝は、ヒーローにはめっちゃ向いてたんだよ!だから、光輝はネクサスになれたんだよ!」
「・・・そうだったら、いいな。」
「そうですよ。自分のことなんてお構いなしで、人々を使命感だけで守ってる光輝は、ヒーローですよ。まっ、それで私達は困らされてるんですけど。」
「ごめん・・・でも、ありがとう。本当に、俺は色々な人に生かされてるな・・・」
そこまで言うと、空を見上げた。
自分だけでは知ることがなかった、いやおそらく知る由もなかった真実を知らされ、光輝自身未だに驚いてはいるのだが、同時に、心の中はとてもスッキリとしていた。
自分は、本当に様々な人によって、生かされている。
廃人になってでも、俺を生かすために多くの人を説得してくれた、和倉教官。いや和倉さん。
そんな廃人同然の俺を迎えてくれ、この名前をくれて、本当の息子として育ててくれた両親。
そんな俺を支えてくれたナツばあを始めとした、街の大人の人。
俺のことを全て知ったにも関わらず、手を差し伸べてくれ、支えてくれた、千束、たきな、八神さん、海藤さん、ミズキさん、クルミさん、ミカさん。
そうした大切な人達が周りに居てくれるからこそ、今も生きていけている。
それだけじゃない。
ウルトラマンネクサスとしてどうやって戦っていけばいいかをずっと悩んでいた中で、俺を導き、アドバイスをくれた、ウルトラマン。
あの人が導いてくれたからこそ、俺はウルトラマンとしてどうしていくべきかを理解することが出来た。
だからウルトラマンは、俺の一番の憧れの人になった。
そんな周囲の人達や、光の国からやって来たウルトラマン。そして、何よりも・・・ネクサスに出会えたこと。
そんな色々な運命や偶然が重なり合った結果、こうして、千束とたきなとも、友達になれた。
きっと、これから先、まだ色々な問題は出てくる。これから先、どうなるかわからない。
けれど、何があっても、こんな素晴らしい人達が周りにはいる。どんな壁だって、絶対乗り越えられる。不可能だって、可能にしていけると、一人心の中で確信していた。
「それじゃ、行こっか!」
たった数か月で、居場所がたくさん出来て、こんなに頼りになる、なんでも話せる友達と、人生の先輩方が出来た。
もう、独りじゃない。これから先、何があっても大丈夫だ。
そう思い、改めて喫茶リコリコへと向かおうと、公園を後にしようとする。
その、矢先─────
-ドクン、ドクン、ドクン-
例の、鼓動が聞こえてきた。
一瞬で表情が変わった光輝の様子を見て、千束もたきなも何が起きたのか、すぐに悟った。
「本当にビースト、しぶといですね。まだ生きてるんですか・・・」
「ホントホント。着付けも教えらんないじゃーん。」
「それはこっちのセリフ。参ったね本当に・・・」
全員軽口を叩いている中、一度光輝は目線を下げると、すぐにその目と表情は、"戦士の表情"へと切り替わる。
「すぐ終わらせてくるから。」
その顔に、千束とたきなもこれ以上、何か言えることはない。
優しく微笑みながら、光輝を見つめる。
「荷物、持ってってあげますね。」
「いいの?」
「いいからいいから。早く行ってあげて。」
「・・・ごめん、頼んだ。」
「周り、今人いないですから。」
「だから、変身してもバレないよ。」
「ありがとね。本当に2人は頼りになるよ・・・それじゃ、行ってきます。」
それだけ言い残すと、背負っていたカバンを2人に預ける。
彼女達の前に立ち、先程話しながらカバンから取り出していたエボルトラスターの鞘を引き抜き、天に掲げる。
光輝が赤い光に包まれたその数秒後、目の前には悠然と立つ、50m級の銀色の巨人が現れる。
「・・・カッコいいなぁ。」
「・・・そうですね。」
あの日、ザ・ワンと戦っている中でピンチを迎え、正直死を覚悟した。
私はどうなっても構わないから、せめて、千束だけでも助けたかった。
けど、助からないと、諦めかけたその時、突然現れ、私達を助けてくれた、銀色の巨人。
その姿を一目見て、どう見ても地球の生物ではないと一瞬で察した。
表情も動かないため、何を考えているのかわからないけれど、その顔を見た途端、とても安心出来た。
そして、その顔は何故か・・・微笑んでいるように見えた。
だからこそ、この巨人は・・・一目見た瞬間から、私達の味方だと、素直に思えた。
ああして、ザ・ワンから私達を助けてくれて、戦って、守ってくれたあの時から、あなたは、私達のヒーローになった。
約2ヶ月、その間に私達は色々なことを経験した。人生で、一番刺激的だったかもしれない。
その中で、喧嘩もしたし、心配もいっぱいしたけど、それ以上に、いっぱい笑った。
だから、今ではパートナーになって、こんなにも頼りになる存在になってくれた。
ただ、知れば知るほど、不安定で、心が弱くて、完璧な存在じゃなかったけど、だから私達は、君と友達になれた。君と、パートナーになれた。
けど、そうであっても、君は、最初から今までずっと、とっても強くて、とっても私達に優しくて、とってもカッコいい。
もうすっかり私達だけじゃなくて、この世界中の皆のヒーローになったけど・・・でもね、私とたきなにとっては、世界一頼りになる、心強い味方で、最高の、友達。
─────彼に聞こえるように、大声で、その名前を呼んだ。私達の命の恩人で、世界一大好きな、私達のヒーロー。
「「いってらっしゃい!ウルトラマンネクサス!!」」
2人の呼び掛けに気付くと、そちらの方をゆっくり振り向く。
笑顔で見守る千束とたきなに対し、ゆっくり頷くと、2人もまた、頷き返す。
その目にはもう、不安などない。
彼を見つめるその目には、希望しかない。
そして─────彼女達のヒーロー、ウルトラマンネクサスは、ゆっくりと空を見上げる。
「・・・シュワッ!」
真田 光輝の、ウルトラマンネクサスとしての戦いは、まだ、続いていく・・・
というわけで、ここまでお読みいただきありがとうございました。
改めて、本小説、これにて、完結です。
最後くらい、したことない人でも一言お疲れ様でしたとかいただけたらコメント返しするからしてもいいのよ?|д゚)チラッチラッ
つまらなかったとかマイナスなこと書かれた瞬間にこの小説は爆破する仕組みになってネットの海に消える仕様となっているから気をつけてね!お兄さん本気だぞ!
また、どうしても聞きたいことや今作のオリジナルジュネッスなど、聞きたいことがあればその際質問してもらえれば、どこかで裏話集のようなものを一本あげますので、お答え出来る範囲でお答え出来ればと思います。
最後の最後に出した、あのキャラの解説もしなきゃならないので、ね。
とはいえ改めて、ここまで読んでいただき、本当に本当に、ありがとうございました。
また、お会いする時まで、しばらく。
to be continued...?