+LycorisーNEXUS JUDGEMENTー 作:ワンホットミニット
待ってた人がどれだけいたかは不明ですが、お久しぶりです。
どの面下げて、ですが、帰ってきました。
この1年半どうして更新をしなかったのか。全てのことは、後書きで書きます。
東京─────神室町
眠らない街、東京。47都道府県のうちの1都であり、日本の首都であるこの東京都の都庁がある街、新宿。そのお膝元にある神室町は、まさに新宿を代表する場所の一つだ。
不夜城とも呼べるこの街では、夜が明けるまでネオンの灯は消えることもなく、かつ、何時であろうと、街から人の声が消えることはまずない。
最も、1か月前に起きたネクサスとザ・ワンとの戦いから1週間程度は街も完全に動きを止めており、あの東京の不夜城とも呼べるこの街そのものが、ゴーストタウンのように静まり返っていたのだが、1か月も経つ頃には賑わいもすっかり戻っており、ホストクラブや飲み屋の客引き、その飲み屋から出てきた大人達のバカ騒ぎをしている声があちらこちらから聞こえてくる。
「ゔゔゔゔゔぅ・・・飲みずぎたぁ・・・」
だからこそ、そうして飲み屋から出てくる人の中には、このように、酒に飲まれ、体調を崩す人間も多くいる。
人間、アルコールを摂取しすぎると、体に色々な不調をきたす。
ある者は気が大きくなって周りに迷惑をかける。またある者は、急激な眠気に襲われて寝てしまう。他にも、記憶を無くし、起きた時には、昨日の自分は何をしたのか?昨日何食べた?どうやって帰ってきた?そんなことすら覚えてない人間も大勢いる。
ただ、中でも一番多いのは・・・
「あぁもう無理・・・」
このように・・・
「おえええええええええええ」
その時、不思議なことが起こった・・・ではなく、アルコールを摂取すると、アルコールは肝臓内でアセトアルデヒドに分解される。ただ、このアセトアルデヒドの値が高くなり過ぎた場合。つまり、アルコールを大量に摂取した場合、肝臓が対処出来なくなり、過剰なアルコールを排除するために吐き出させる。
とどのつまり─────酒を飲みすぎたことが原因による、嘔吐、である。
ただ、吐いて終わり、ならいいのだが、場合によっては・・・
「Zzz・・・」
このように、吐いてそのまま寝る、ということも人によってはある。所謂、寝ゲロ、というやつだ。
そのまま、その酔っぱらいの女性は、夢の中へと旅立っていった・・・
─────その吐いた場所が、とある場所の玄関であることも知らず。
神室町─────八神探偵事務所
「おつかれ海藤さん。」
「あぁ。ったーく、ほんとクソあちぃな・・・」
「あぁ、ホント最悪・・・早いとこ過ぎてほしいよこの夏が。」
八神探偵事務所内で、夜になっても昼間の暑さが一向に抜けないことに対して恨めしそうに呟きながら、八神と海藤は本日の仕事を終え、ビールを飲みながらタバコをふかしていた。
眠らない街、東京。その都庁所在地である新宿のお膝元にある神室町は、まさにその代名詞とも言える街の一つであり、深夜になってもネオンの灯は消えることはなく、加えて街から人の声が消えることはまずない。やはり、神室町はこうでなければな。そう思っている八神だが、それと同時に、この賑わいが故に、この神室町は治安の悪い街、とも言われている。
チンピラにヤクザ、そういった街のごろつきもまた、賑わいに惹かれて集まってくる。自ら自警団を名乗っているわけではないが、何の悪さもない人に絡むそういった連中を相手にし、八神は街の安全を守ってきた。この神室町は自身の庭だからこそ、荒らされることを何よりも嫌う。そういった者に荒らされるなら、尚のこと。だからこそ、これはある意味、八神にとってはライフワークかもしれない。勿論、本人としてはやりたくもない仕事なのだが。
とはいえ、それもそこまで多くはなく、この街で起こる問題と言えばやはり・・・酔っぱらった人間が起こすトラブルだろう。
そんなことを思っていると、コンコンと2回、ドアを誰かがノックした。
たまたま近くにいた海藤がドアを開けると、そこには2人にとって見知った顔がいた。
「ああ冨岡さん!こりゃどうも。」
「あら八神くんだけじゃなくて海藤さんもいたのね。ちょうど良かった。」
「冨岡さんこんばんは。えっとあの・・・家賃については・・・」
ドアの前に立っていたのは、50代~60代程度であろう、エプロンをかけた、冨岡 理恵という女性だった。
一見すると、どこにでもいるような年相応の女性だが、この2人、特に八神からすると、"一生、頭が上がらない人物の一人だ。"
この冨岡は、この八神探偵事務所が入っている第一ビルディング、という建物の大家だ。
その一角を八神は借りているため、"ここの家賃を支払う先でもある。"
ただ、この八神探偵事務所は、便利屋同然の仕事が多く、中々纏まった額の依頼が来る方が少ない。なので、家賃を滞納することも、時々、ではなくしばしば起こってしまうため、待ってもらうことが多い。
そのため、こうして足を運んでまで来たということは、まさかまた催促かと思っていると、ふふっと鼻で笑った。
「違うわよ。ここ最近は何ヶ月分かまとめて払ってもらったでしょ。はいこれ。今日のお夕飯のおすそ分け。」
「うわ、餃子ですか!俺好きなんですよー。それにご飯までありがとうございます!」
「いいわよ作り過ぎただけだし。でもまぁ珍しいわね、今月だけじゃなくて来月までもう払うなんて。何か大きい仕事があったのかしら?」
「えぇまぁ・・・詳細は流石に言えないんですけど・・・」
ただ、ここ最近の八神は、妙に忙しかった。
それもこれも、あの錦糸町にある喫茶店の、クセのある面々と知り合ったこと。そして、忘れてはならない人物がもう一人。
自身にとって弟分的存在であり─────神室町を、日本を、世界を守ってくれたあのヒーローと出会ったから、というのが理由だ。
あの一件以降、街に賑わいは戻ったと言えど、完全な復旧までにはまだまだ至らない。特に、都庁などのある西新宿の方は未だに影響が凄く、都政も今は別の場所で行われている。
そんな中、その機に乗じて、悪さをしようとする輩も数多くいた。架空請求・詐欺等々、これまでも日本で色々な災害があった中で、そういった事件があるのを目の当たりにしてきた。いつもならば、自分からは対応しようとはせず、被害に遭われた人がウチに駆け込んで来たら対応をすればいいと思っていたが、今回は違った。
ー光輝の頑張りを馬鹿にするようなやつが許せない。ー
ー同感です。人として下劣なのも腹が立ちますし。ー
きっかけは、あの喫茶店の、彼が片思いをしている、彼女達の一言。そんな事件が出ていることを知り、傷付いている人の傷口に塩を塗りたくるような卑劣な輩が大勢いることについては、自身も人として許せなかったのもそうだが、何よりも自分は・・・ウルトラマンネクサスの正体を知っている。
守る対象はこの地球に生きる者全て。報酬はない。それでいて、人間としてバレないよう、隠しながらこれまで通りの生活を行う。言葉では言い表せない過酷な日々に加え、それを誰かに話すことで起こるデメリットも、一人だけで考えたとは到底思えないほど、様々な想いを抱えていた。あまりにも重すぎる重圧と責任の中、彼は数カ月間、ただ一人傷付きながら進み続けていた。更に、このことを誰にも打ち明けられず、辞めたいと言っても辞められない。メリットが一つもない中で、たった一人、この地球に生きる全ての者のため、孤独に戦い続けてきた。自分よりも10以上年齢が下の、酒も煙草も出来ない子供が、だ。
その苦しみと頑張りを、自分と海藤と、喫茶リコリコにいる5人は知っている。
故に、彼の頑張りに泥を塗るような連中を、より許せなかった。
なのでこの一ヶ月、彼には一切言ってはいないのだが・・・そういった連中を、喫茶リコリコの2人、正確に言えば店の押し入れの中で広報支援をするもう一人と、後処理を主に行う2人。7人で尽く、懲らしめてきた。
そういった人物を、時に警察に出頭させ、中にはいわゆる警察に相談することが出来ない連中もいたため、手間賃を貰うこともあった。無論、リコリコと折半だが。
加えて、このゴタゴタの中、街の復興のためのボランティアも並行して行いつつ、個人だけではわからないお金や保険などのトラブルにおいての相談を、法律の面から解決することもしていた。
そのため、ここ最近は日々、慌ただしく働いていたこともあり、珍しく、ではあるが、纏まったお金が入ってきた。とはいえ、中にはは汚いお金もあるのだが、ウルトラマンネクサスの支援のため、だと自分に言い聞かせ、納得することにした。
無論、そんなことをこの建物のオーナーに言える訳はないので、その部分をぼやかして言うと、向こうもそこまでこの2人が清廉潔白な、いい仕事をしていないというのをわかっているからか、あっさり納得をした。
納得したのを見て、早速、冨岡が持ってきてくれた餃子を食べようと思い、レンジに入れようとした矢先・・・
「あー、八神くん、海藤さん。食べる前にちょっといいかしら。」
再び、冨岡が声を掛けてきた。それは、先程までのにこやかな様子とは違い、何かに困っているように、渋い表情を浮かべていた。
いきなりそんな顔になったことが気になり、どうしたんですか?と八神は声を掛けると、少し困り顔で、とあることを相談し始めた。
「あのね、これは八神くん達は何も悪くはないし、むしろ被害者側なんだけどね・・・まぁ私もなんだけど。」
「・・・どうしたんですか?俺らが被害者側、って、どういうことですか?」
何かを言いたげだが、その顔はどこか・・・これ以上は言いたくない。そんな雰囲気にも見えたが、とはいえ、今の話には気になるワードしかない。
自分達は悪くないし、被害者側。そして、何故か困っている大家の冨岡。かつ、冨岡も被害者の一人なのだと言う。これらの情報から、探偵のカン、をフル動員させると、一つの考えが浮かび上がってきた。
「・・・何か、この建物で起きたんですか?」
その推理に対して、正解、と言わんばかりに、うんうん、と冨岡は頷いた。その答えを聞こうとする前に、ちょっとついて来て、と言われ、八神だけでなく、海藤もついていく。
いつも通り、階段を降り、玄関が見え、その先にはいつもの光景が・・・
「・・・うーわ・・・」
「・・・マジかよ・・・」
広がって、いなかった。
それと同時に、何故冨岡が口をつぐんでいたのか。その理由は簡単だった。
八神探偵事務所の玄関の前には─────大量の嘔吐物と、それを吐いたであろう酔っ払いが堂々と、地べたで寝ている。
所謂、寝ゲロ。その光景を見て、八神と海藤の顔も思わず引きつる。
それと同時に、冨岡が何を言いたいのか、その答えがすぐにわかった。
「・・・あの、冨岡さん、まさかとは思うんですけど・・・」
「掃除、お願いね。ついでにこの酔っ払いのお嬢さんの対処もお願いね。」
「・・・マジっすか・・・」
予想的中。それも、最悪な意味で。
この建物を借りている大家から、嘔吐物の処理を頼まれてしまった。ただ、この冨岡には絶対頭が上がらないため、断れるわけがない。加えて、2人にとっても迷惑になるでしょ?と言わんばかりの顔をしている。
なので、どうあっても結局はこちらがやらなければならないため、最初からこれをやれ、ということだったのだろう。あの餃子は、たまたま持ってきたのか。はたまたこの処理のための前金なのかは、今となってはわからないが、善意で持ってきてくれたご飯だとしても、裏の意図があるのかと思ってしまいそうになる。
ただ、少なくとも、食べた後にこれは言ってほしかったな・・・こんなの見たら食欲なくなりますって・・・そんなことを八神は思っていると、それじゃ、後はよろしくねとだけ言い残し、冨岡はこれ以上は見たくないと言わんばかりに足早に去っていった。
残されたのは、建物を借りている主と従業員。そして、寝ゲロをした酔っぱらいの女が一人。
「・・・どうする?海藤さん・・・」
「・・・まぁ、迷惑かけたから、迷惑料は払ってもらわなきゃいけねぇな。この女には・・・」
玄関の前で寝ゲロをし、すっかり夢の中へと旅立っている女性の酔っ払いを、2人は恨めしそうに睨んでいた。
「Zzz・・・あぁぁ~~・・・おにころもっとぉ・・・」
そんな2人の様子を全く知らず、その女性は楽しそうな夢を見ているのか、大声で寝言を言っていた。
千葉県─────光輝の家
「あっつ~・・・きっつ・・・」
「おーい光輝ー、大丈夫かー?」
「大丈夫大丈夫!父さんも熱中症には気を付けて!」
時刻は朝の9時。
すっかり陽も登り、それと同時に気温もぐんぐんと上がる中、光輝は芝刈り機を持って芝を刈っていた。その向こうの方では、同じように父親である憐も農作業をしていた。
本日は丸一日、こうして野外で作業をする必要があるが、とはいえぐずぐずしてなどいられない。暑さは時間が経過すると共にグングンと上がってくる。そのため、朝早くから2人も起きて作業をハイペースにこなしており、なんとか頑張って、一分一秒でも早く終わらせ、午後はゆっくり休もうと意気込んでいた。
そんなことを思っていると、光輝のポケットに入れていたスマホが鳴り出したため、軍手を外し、慌ててポケットから取り出した。
「・・・八神さん?」
電話の相手はまさかの人物だった。
正体を明かしてからしばらく経ったある日に、連絡先を改めて交換しようという話が持ち上がったため連絡先は交換したが、とはいえ、そこまで頻繁に連絡を取るというわけではなかった。故に、こうして電話を掛けてきたことに驚き、コールボタンをスライドさせると、スマホを耳に当てた。
「もしもし?」
『あー、もしもし?今、ちょっといい?』
「あっ、大丈夫ですけど、どうしたんですか?何か・・・あったんでしょうか?」
こうして自分に連絡をしてくるなど、よっぽどの緊急事態だろうか。少し緊張感を持って聞くと、電話の向こうの八神は一つため息をついた。それを疑問に思っていた矢先、
『・・・昨日の夜さ、事務所の玄関のところに酔っ払いに寝ゲロされてさ・・・』
「ね、寝ゲロ・・・?」
寝ゲロ、という思ってもみなかった言葉に少しポカンとしてしまうが、とはいえ世間話のためにわざわざ電話をよこしたわけではないだろう。ひょっとしたら、自分に何か関係があることなのかもしれない。だからこそ、より話を聞いてみることにし、質問を重ねてみることにした。
「・・・で、どうされたんですか?」
『あぁ。まぁ、その酔っ払い女性でさ、流石に女をほっとくのもこっちも気分が悪くてね。とりあえずその酔っ払いを事務所の中に入れて、俺らは大家さんからの依頼もあって、その処理をしたの。まぁ到底いいもんじゃなかったけどね・・・・で、まぁその酔っ払いをそのままにしとくわけにもいかないから、叩き起こして事情聴取させたんだけどね。』
「アハハ、そうなんですね・・・」
だが、ここまでの話は、自分が想像していたよりもはるかに、普通の世間話だったため、気になったことを聞いてみることにした。
「で、どうして自分に電話を・・・?」
こんな世間話をするために、わざわざ八神も自分に電話をよこしたりしないだろう、というのは最初から見当がついていた。故に、この電話も自分に何かしら関係があることなのだろうと考えていたため、改めてその理由を聞いてみることにした。
ただ、この質問をしてから少しの間、電話越しの八神は黙り込んだため、どうしたのだろうと思っていると、予想外の言葉が次に八神の口から飛び出した。
『・・・その酔っ払いさ、"楽器持ってたの。ベースだって本人が言ってたんだけどね。"』
「ベース・・・ですか?」
『そう。まぁ事情聴取する前に一旦風呂行かせて綺麗にさせてから色々事情聴取と謝罪費請求させたんだけどね。で、たまたま、その女が楽器背負ってて、何かやってんのか?って聞いてみたら、バンドやってるって答えてね。で、ふと俺の友達にも楽器やってるやつがいるって光輝のこと出したらさ、会わせろ会わせろーってうるさくてさ・・・それに、とっくに終電も過ぎてたってのもあったし、俺等もちょうど直前に酒飲んでたから車も運転出来ないしで、そいつも金ないっつってるから、仕方なく、事務所に泊まらせたんだけどね・・・』
「そう、なんですね・・・」
八神に昨日の夜に起こっていた出来事について同情しつつ、相槌を打つが、そこまで言うと、ある一つの予測がついた。
それは、先程の電話内で言っていた会わせろ会わせろ、というワード。そこから連想されることとして・・・・もしや・・・?そう思っていると、
『・・・頼む。今日、来れない?』
「ええっ!?今日ですか!?」
『もちろん電車賃は出すし、お昼も出すからさ・・・頼めねぇかな?』
八神の口から飛び出してきた依頼。それは今日、急遽、八神探偵事務所に来てくれという、想定外の依頼だった。思ってもみなかった依頼に困惑するが、ただ、電話越しの八神の声色から察するに、本当に困っていることも、手に取るように伝わってきた。
けれど、今日はこうして家の仕事中だ。そのため・・・
「大丈夫です大丈夫です!行きますね!」
家の事情を伝える前に、二つ返事でOKをした。
ただ、家のこともそうだが、光輝にとって、八神の頼みを断ることなど、出来なかった。
それは、ご飯を何度も奢ってくれたことへの感謝、はもちろんのこと、八神がいなければ、喫茶リコリコの面々とも、二度と会うことはなく、関係も生まれなかった。
加えて、これは冗談でもなんでもなく、心の底で思っていることだが、出来つつあった仲を一度自らの手で壊し、二度と会わないと決めていたにも関わらず、わざわざここまであの2人を連れてきてくれ、仲直りする機会を作ってくれたのもまた、他ならない八神のおかげだ。もしあの時、八神と海藤が、千束とたきなを連れてこの町に来てくれていなかったとしたら、ザ・ワンに自分は負け、今頃この世界は滅ぼされていたかもしれない。このことがなければ、勝てなかったのもそうだが、ジュネッスプログレスにもなることは出来なかった。間違いなく、この7人や両親から貰った絆が、自分を強くしてくれたのだ。
なので、光輝にとって八神は、"命の恩人の一人だ。"
大袈裟かもしれないが、心の底からそう思っているからこそ、そんな命の恩人のお願いを断る訳にはいかない。それが、自分に出来ることなら尚のこと。
『いいの?大丈夫?』
「大丈夫です大丈夫です!ちょっと親に相談してみますので、少ししたらまたご連絡しますね!」
『ありがとう、お昼はこっちで用意しとくから。ゆっくりおいで・・・あごめん、ちょっと待ってて。』
ちょっと待って、という言葉の後、保留音が流れ出す。しばらくし、再び八神の声がし、返答をすると、八神の声の向こうから、電話越しということもあるため声は遠いのだが、先程から話に出ていた、おそらくそうであろう、その女性の声も電話越しに聞こえてくる。ただ、何を言っているのかはよくわからないのだが。
『あーごめんうるさくて・・・あのさ、その女が今起きたんだけどさ、ギター持ってきて、っつってんだけどさ・・・』
「ギター・・・ですか?」
『そう。うるせーから気にしなくてもいいけどさ・・・もしよかったら「あ、持ってきます持ってきます!」
頼むが早いか返答が先か。何をしてほしいかの見当がすぐについたため、光輝はギターを持っていくことを承諾した。いいの?と尋ねる八神に対しても、大丈夫です!と慌てて返すその様子に、それ以上はあえて言わず、それじゃ、よろしく。とだけ八神は返した。
「わかりました!それじゃ一旦、失礼します。」
和やかな調子で電話を切ってすぐ、一つ小さくため息をつくと、先程の調子は一瞬で消え、うーん・・・と頭を悩ませた。
頭を悩ませている理由はたった一つ、今目の前に広がる、自分の仕事場。
「・・・父さーん・・・」
まるで蚊の鳴くような声で憐を呼ぶも、先程の電話の様子が気になっていたのか、いつの間にか近くまで来ていた。そして、先程までの電話の内容を伝えると・・・
「マージか。八神さんもそりゃ大変だな。行ってこい行ってこい!」
「えっいいの!?」
あっさりと憐はOKを出した。そのことに驚く光輝を他所目に、憐はニッコリと微笑んだ後、ただし、と付け加えた。
「行くんならまずシャワー浴びてきな。汗臭いまんまで、八神さんとこ行くなよ。」
「わかった!じゃあシャワー借りるね!この埋め合わせはまた明日以降頑張るね!」
「気にすんな気にすんな!遅くなるなら連絡してこいよ!」
わかった!と言いながら、慌てて走りながら家へと向かう息子の後ろ姿を、憐はどこか楽しげに、そして、感慨深そうに見つめる。
「それでいいんだよ。お前はここに来てから今までずーっと頑張ってきたんだから、夏休みはこのくらい遊んでも、バチあたんねぇよ。」
親が子へ向ける、愛情や眼差し、そして思いやりを知ってか知らずか、光輝はいそいそと準備を整えていく─────
神室町─────八神探偵事務所
「すみません八神さん!お待たせしました!」
正午を少し回り、短針が1を指しそうな頃、汗を拭いながらようやく光輝は八神探偵事務所を訪れた。リュックも背負いつつ、肩には先程電話で話して依頼されていた、自身の愛機とも呼べるエレキギターが入ったケースを背負い、八神探偵事務所の門を開いた。
そして扉を開けてすぐ、その電話で話していた、例の女性がソファーにドンと陣取っていたため、すぐ視界に入る。
"ワンピースの上から薄手のスカジャンを羽織り、加えて履物は女性が履くにはありえない、まさかの、下駄。よくよく見ると、右手の甲には、太陽と月を一緒くたにしたデザインの、タトゥーが彫られている。"
そんな奇抜な、和洋折衷のコーディネートをした、ファッション的には少し変わった女性。
更に、見慣れたテーブルの上には、大きなレジ袋が一つと、その周りには、ポップに描かれた鬼の絵と、筆で書かれたようなフォントで、"おにころ"、と書かれた、紙パックの酒が何個か置かれているが、よく見ると、女性の片手には同じおにころ、という酒をまだ持っている。
そして近くの壁には、先程八神が電話で話していた、その女性のベースが入っているであろう、ベースケースが立てかけられている。
「おーう君が八神さんの言ってた子かー!かー若いねー!"ぼっちちゃん"と同じくらいか~!」
「ぼ、ぼっちちゃん・・・?」
陽気に挨拶をするその女性が言った、ぼっちちゃん、という単語。流石にそれは本名ではないだろうとは瞬時に察し、おそらく誰かのことを言っているのだが、それでも聞き馴染みのない言葉に、疑問を浮かべる。
「あぁごめんごめん。まず名前だったねー。」
そう言うと、その女性は立ち上がり手を差し出す。
「私、廣井 きくり。よろしく~。」
「ひ、廣井さんはじめまして。さ、真田 光輝って言います。」
「いいよいいよーきくりでー。よろしくねー光輝君。」
「おい廣井。年上だからってあんま調子乗んなよ?酒飲ませてんのだって、俺等が大目に見てるだけだからな。」
「あぁ。いくら女だからって、あんま調子乗ってんなら、容赦しねぇぞ。」
フレンドリーに挨拶をするきくりと光輝を横目に、窓ぎわに立っていた海藤と、自身の定位置とも言うべき所長用の椅子に八神は座りつつではあるが、2人は同時にきくりに視線を向ける。が、その眼光には、フレンドリーさや微笑ましさといったプラスの感情ははない。
それに押されて、肩をびくっと震わせると、先程の調子はなりを潜め、涙目を浮かべた。
「はぃぃぃ・・・調子に乗りすぎましたぁ・・・」
「(八神さんと海藤さんこっわ・・・)」
いつもとは違う2人の迫力に光輝まで押されているが、とはいえ光輝への対応はいつも通りであり、入って入って、とこれまで通りのテンションで催促をし、事務所の中に光輝を招き入れると、テーブルの上に置いてある大きなレジ袋から、1つの容器を受け渡す。
「はいこれ。冷やしのたぬきそばでいい?」
「あっ、ありがとうございます!あーっと、これのお代は・・・」
「心配すんな。これも、廣井のおごりだ。なっ?」
「・・・はい。」
軽く目配せをする八神と、渋そうな顔をするきくり。おそらくこれは、廣井さんの謝罪費の一環なのかもしれない・・・言葉は出さないが、色々なことを瞬時に察した。
そんなことを考えつつも、とはいえこちらが何か言ったところで、どう転んでも、いい落としどころには着地しないと悟り、だとすれば、この場と空気において、過去の経験から、適切な回答は一つしかないと考え、そのワードを口にした。
「・・・ごちそうさまです。」
ご飯を奢られた時に、必ず言うべきワード。これならば、きっと間違いはないだろう。
そして、八神の顔を見ると、ニッと笑っていたため、そのアンサーで、正解だったはずだろうと、光輝は確信した。
・・・例の廣井という女性のことは置いておいて、だが。
「へーっ、じゃあ廣井さんはFOLTでよくライブやってるんですね!それじゃあめちゃくちゃ人気バンドなんですね!」
「まぁ~Zappツアー出来るほど人気ってわけじゃないけどね~。光輝くんもやっぱFOLT知ってるんだねー。」
「もちろんですよ!FOLTの近くにはASBもありますし、RAINY、ANTISHOCK・・・新宿は小さい箱だけどいいライブハウス多いですからね。」
「・・・そんなにあるんだな・・・全然知らなかったわ・・・」
買ってきた、もといきくりの謝罪費という名のそばをすすりながら、会話をする4人。
話題は主にそんなきくりの話であり、そもそもきくりは音楽をやっているというより、職業がミュージシャン。彼女の言葉で言うと、バンドマンであるという。
つまり、"音楽で飯を食べられている状況"、だということに光輝は驚き、目の前に本物のバンドマン、プロのミュージシャンがいることに少し興奮を隠せないようだった。
そんなきくりは、"SICK HACK"という、音楽のジャンルで言えば、サイケデリック、というカテゴリで括られる音楽を奏でるバンドを組んでいるのだという。
しかし、その人気は確かなもので、"新宿FOLT"という、新宿でも一、二を争うほど有名なライブハウスを、普通にお客さんでいっぱいに埋められるバンドなのだという。
そして、昨日もまさにそのFOLTでライブが終わってから打ち上げをしており、酔っ払ってお店を出たのはいいものの、浴びるようにお酒を飲んだ結果、どうやって出たか・何時に出たかという記憶すらあやふやになってしまうほどの酔いであり、どうやってここまで来たかも覚えてないが、無意識のうちに八神探偵事務所の前まで辿り着き、そして・・・というわけだった。
「ったーく、女のゲロ処理なんてほんとたまったもんじゃねぇよ・・・もう二度とすんじゃねぇぞ。」
「すみませんって海藤さーん。お金も支払いましたしもう許してくださいよー・・・あ、光輝君後でギター見せてー。」
「話すり替えんなよ・・・でも悪いな光輝。仕事もあるってのに。」
「いえいえ、ウチの家族も八神さんと海藤さんに感謝してますので。この程度気にしないでください。」
「んー?何?光輝君どっかで仕事してんのー?」
「こいつ養蜂家なんだよ。で、更にバイト2つもやってんだよ。」
「へーそうなんだー。養蜂家さんって珍しいー!ハチミツ作ってるのー!?」
「は、はい!そうですね・・・」
「あぁ。こいつの家で作ってるやつ、中々美味ぇぞ?後何と言ってもこいつ・・・」
海藤は途中できくりへの返答を止め、何か含みを持たせるかのように一旦間を置いた。
なんだろう?と光輝と廣井は思っていたが、八神は長年の相棒ということもあってか、この後言うことを察し、一人笑いをこらえている。
「2人も彼女がいんだぜ?」
「ぶっふ!ぶえっふえっふ!!」
2人も彼女がいる。そのワードに、一人思わずむせこみ、持っていたそばをテーブルに置くと、慌てて海藤の方を見た。
「ちょちょちょ!?ちょっと海藤さん何言ってるんですか!?」
「はぁ?お前あれで付き合ってねぇわけねぇだろ?」
「えーマジー!?光輝君すけこましだったのかー!!やるねー!めっちゃ苦学生なんだーって思ったら女遊びはバンドマンレベルじゃーん!」
「いやいやいやいや!そうじゃないですって!そもそも付き合ってないですから!大体「あー廣井、これが光輝の彼女。」
光輝がきくりに対して反論を言おうとしていた矢先、八神は自分のスマホをきくりに向けると、そこには、喫茶リコリコ公式SNSにアップされている、千束とたきなの2人の写真が写っていた。
「えーめっちゃ可愛いじゃーん!こんな子2人も彼女にしてるの光輝くーん!うっわー、顔に見合わずやるねー!超プレイボーイじゃーん!やーらしー!」
「いやいやいやいや!!彼女じゃないですから!!だいたい、お、俺はべべ、べべべべべ、別にそんなあの2人のことなんて!!」
「アッハッハー顔真っ赤ー!それに言葉もしどろもどろじゃ~ん!この子達のこと好きなのバレバレだよ~。」
「~~~っ!!あーもう!うるさいうるさいうるさーい!俺もう帰りますよ!!」
自分の身の上や生活のことを説明していたと思ったら、あっという間に話が脱線し、あの2人の話題にへとすり替わる。そんな中で一人慌てる未成年と、それをからかう成人済みの大人3人という構図。
昨日からの一件のわだかまりもどこへやら、というような、慌ただしくも和やかな雰囲気となっている。
そしてしばらくしてからようやくその一悶着も一段落し、お昼が終わってから全員が少し食休みをしている中、
「ねー光輝君。ギター見せてよー。」
やはりどうあっても職業がバンドマンということもあり、ずっとちらちらとそれを見ていたのは八神も海藤もわかっていた。早く見たいのだなと思っていた中で、わかりましたと相槌を打つと、光輝はギターケースから自分のギターを取り出す。
ギターケースから出したのは、白いエレキギター。
黒のピックガードに、ボディの端にはアームがついた金属部品が取り付けられている。ギターに詳しい者が見れば一目でわかるが、ビグスビーと呼ばれるアームユニットである。加えて、表面のボディには一部、その中が見えるように一部だけが開いている。
このギターは正確に言えば、セミアコ、という種類に分類がされる、アコースティックギターとエレキギターの中間に位置するようなモデルのギターである。また、ギターに詳しい人からすると、これらのギターは通称、"箱モノ"、と呼ばれる種類に分類されるギターだ。
そのギターに、それまでの少しにやついた表情は鳴りを潜め、真剣にそのギターを眺めていた。
「へぇ~・・・持ってもいい?」
「あっ、ど、どうぞ。」
そのギターを持つと、それまでのだらしない雰囲気が少し消え、前から、後ろから、回しながらギターを見ていく。
「これ、フルアコ?セミアコ?」
「セミアコです。」
「へーっ。セミアコ・・・でも高校生がセミアコ弾くの珍しいね。それにビグスビーまで付いてんじゃん。弾きづらくない?」
「最初はそうでしたけど・・・慣れたらもう気にならなくなりましたね。」
「これ、値段は?」
「んと・・・アウトレットとかで買ったので、13万とかですね。エントリーモデルなので。」
「たっか!?」
「いやいや八神さん、これぶっちゃけ13万ってめっちゃ安いですよ・・・いいギターだね、これ。」
ありがとうございます。と頭を下げているその横で、楽器に対しては全くの素人である八神と海藤は完全に蚊帳の外で、タバコをふかしながらその様子を眺めている。
「どうしてこれにしようと思ったの?私ベースだからそこまでギターは詳しくないけどさ、高校生がセミアコ・・・ってか、箱モノ弾くなんて結構珍しいと思うんだけど。」
きくりはそう言うが、確かに、その指摘はあながち間違ってはいない。
普通の高校生がギターを始めるなら、大抵は、ソリッドギターと呼ばれる、全てが木材で出来ているギターを持つことがほとんどであり、仮にもし今この場に高校生のギタリストを10人集めたとしたら、2人に1人、いや10人全員が、そのソリッドギターを使っていると言ってもいい。
しかし、このセミアコと呼ばれるギターは、センターブロックに木材が使われており、それ以外の中は空洞という、特殊な作りだ。
先程きくりが話題に出していたフルアコ、というのも、この箱モノギターに入るギターなのだが、それはセミアコと違い、中の全てが空洞という作りになっているため、どちらかといえば、アコースティックギターに近い構造をしている。
無論、これを愛機としている高校生もいるとは思うが、正直な話をすれば、最初からこのギターを選ぶというのは、あまりない。少なくとも、"知り合いの高校生バンド"も、皆使っているのはソリッドギターの、レスポールやストラトキャスターだ。
故に、きくりというベーシストの目からしても、光輝のような高校生。それも、バンドもやっていない子が持つエレキギターがセミアコというのは、とても珍しかった。
それに対して、少し悩んだ後、恥ずかしそうに、はにかみながらこう言った。
「・・・これだ、って思ったんですよね・・・楽器屋で見た時、なんだか隅に置かれてたんですけど、それを一目見た時から、このギターがいいな、って思って。それで・・・」
「いいと思うよ。」
恥ずかしそうにそのギターを買った時の思い出を話していると、きくりは穏やかな笑みを浮かべながら光輝の方を見ていた。
「楽器選ぶ理由なんて、そういうのでいいんだよ。それから好きになって、こだわっていけばいい。もちろん中には難しかったり合わなくて辞めちゃう子もいるけどさ、でも、私わかるよ。光輝君、このギターめっちゃよく弾いてるね。大事に使ってるのがよくわかるよ。」
そう話すきくりは、先程までの酒を飲んでいることによる赤ら顔はそのままだが、雰囲気は明らかに、楽器を相棒とし、それで生計を立てる、一ミュージシャン、と表現すべき雰囲気へと変わり、言葉の端々からもその片鱗が伝わってくることを、光輝だけでなく、八神も海藤も瞬時に察した。
その空気に押され、元々緊張はしていたが、より一層緊張しながら光輝は返事をする。
「あっ、は、はい。ありがとうございます・・・ただ、アコギの方が弾くことの方が多くて・・・」
「へぇ~、アコギも弾くんだね。その歳でアコギか~・・・光輝君本当に面白い子だね。高校生なんてエレキギター至上主義みたいな子が多いのに。それでバンドやってないの本当にもったいないよ~。」
「あー、まぁ家庭の事情もありますので・・・農家なので・・・あんま人とつるんで遊んでばっかだと生活が出来なくなるので・・・」
きくりの提案にそう返すものの、本当のことを言えば、半分事実でもあるが、半分、嘘も含まれている。
その理由は、八神も海藤も既に知っている。故に、顔には出さないが、その事情を察し、黙ってまた新たなタバコを一本取り出し、火をつける一方で、家庭の事情や農家をしているという、その献身的な光輝の話を聞いたきくりは、というと・・・
「うぅっ、家庭を最優先に自分のことを犠牲にするなんて、高校生なのに偉すぎる・・・それに比べて私は・・・日々お酒を飲んで幸せスパイラルに陥って、将来の不安や年金、格差、健康、いつまでバンドをやれるのか・・・目の前やこの先の苦しいことや不安を忘れようとしているだけ・・・うわー!!将来の不安が襲ってくるー!!やけおにころじゃー!!」
「お前また飲むんじゃねぇ!!」
自身にとって耳の痛い話だったのか、それらのことを聞いて、普段なるべく考えないようにしている、様々な不安が襲ってきたということもあり、目の前に置かれていたまだ封が切られていないおにころを手に取ってストローを差し込み一気飲みを始めると、それを見た慌てて海藤が止めに入る。
そんな様子に呆れて頭を抱える八神と、それを見て苦笑いを浮かべるしか出来ない光輝をよそに、とりあえず数口は飲んだのか、きくりは先程の涙目を浮かべていた顔から一転、にかっと笑うと、光輝の方を見た。
「よし、それじゃ光輝君!まだ時間あるよね?」
「・・・は、はい、あります、けど・・・?」
そこまで言うと、きくりは立ち上がり、タンスに掛けていた自身のベースが入ったケースを背負い、ドアの方へと向かい、振り返った。
「今から一緒に、私の謝罪費分、稼ぎに行こー!」
「「「・・・は?」」」
神室町─────神室ストリート
「本っっっっ当に、廣井が申し訳ありませんでした!!」
きくりが起こしたことに対して、深々と頭を下げ謝罪しつつ、包装された菓子折りを八神と海藤に差し出しているのは、そのきくりが所属しているバンド、SICK HACKのメンバーである、ドラムの岩下 志麻。
彼女にとって、これは良くも悪くも日常茶飯事ではあるのだが、とはいえ毎度毎度こんなことをするのは、志麻にとっても心労となっている。
その一方、それを差し出されている八神の方も、この菓子折りを素直に受け取っていいものかどうか迷い、半分は社交辞令、半分は年齢が下の女性にこんなことをさせるわけにはいかないため、断っていた。
「いいからいいから、ほら、頭上げてって。」
「いやですが・・・廣井がまさかよりにもよって、あの八神隆之さんにこんな風にご迷惑をかけているとは思わず・・・」
「大丈夫だってー志麻ー。ほらー、八神さんも海藤さんも許してくれてるし~。」
「お前は黙ってろ。」
「「いや許した覚えはねぇからな。」」
「(怖・・・)」
隣で眺めていた光輝は、その様子にまたも内心ビビりつつ、志麻と共にやって来た金髪の外国人の女性であり、同じくSICK HACKのギターである、清水 イライザと横並びで話していた。
「イヤー!君若いのに凄い人と友達だネ!八神サンもだけド、海藤サン!アレが俗に言う、ジャパニーズゴクドーデスカー!堂島の龍ハ実在したんデスネー!」
「イライザ、高校生にヤクザの知識なんか教えんなって。すみません海藤さんこちらも・・・」
「別に気にしてねぇよ。それに、どうせ事実だし、隠すこともないしな。ただまぁ、堂島の龍なんて、俺も噂程度しか聞いたことねぇけどな。」
「(本当にそんな人いるんだ・・・)」
あれから少しした後、4人は神室町で最も賑わいのある通り、神室ストリートまでやって来ると、事前に連絡を入れていたのか、志麻とイライザも少し遅れてやって来た。そして志麻が、菓子折りと共に、外でも使える小さいアンプを持ってきてくれたため、アンプにギターとベースを繋ぎ、今からライブをする準備を整えていく。
「やっだ~~!これあの人のシグネチャーモデルじゃなーい!このギター使う高校生とかセンスありすぎ~!♡」
「うええぇっ!?」
正直言えば、やりたくない・・・と光輝は一人思っていた中、突然誰かが後ろから話しかけてきた。それに思わず光輝が驚き、後ろを振り返ると、そこには一人の男性がいた。
八神や海藤とも違う、いわゆる怖い人の顔立ち。例えるならば、顔がキレる、とでも言うべきか。目付きも鋭く、顔立ちもキリっとしているのだが、それが余計に怖さを増長させた。
なので、後ろにいたとはいえ、先程話しかけてきた人とは別人かもしれない。そう思い萎縮していると・・・
「あっごめんね~!驚かせちゃったわね!」
「へっ?」
先程聞こえてきた声と同じ、とてもフレンドリーで、物腰の柔らかい声が、その強面の男性の口から出てきた。
「光輝君緊張しなくても大丈夫だよー。銀ちゃんは心が乙女だから~。後私が呼んだー。」
「全く、こっちだって今日もライブあるから忙しいのに・・・あらやだ話の途中でごめんね!私、吉田 銀次郎37歳!好きなジャンルはパンクロックでーす!だからもうこのギター超ドンズバー!♡後きくりが迷惑かけてごめんねー!」
「あっ、は、はじめまして・・・真田 光輝と言います・・・よ、よろしくお願いします・・・」
「ちなみに銀ちゃんは、FOLTの店長でーす!」
「えっマジですか!?FOLTの店長なんですか!?」
「そうなのー!よろしくね~!」
きくりが呼んだという、銀ちゃんこと、吉田 銀次郎は、まさに度々話題に上がり、そしてきくりが昨日ライブをしていたという、FOLTの店長であるという。
ライブハウスの店長というと、もっと怖いイメージを持っていたのだが、この吉田銀次郎というのは怖さが一切なく、むしろライブハウスとは無縁の場所にいるような人だと、口振りだけを聞くとそう感じるが、とはいえきくりが言うのならば間違いないだろうと、光輝も確信し、この人物のまさかの経歴に驚いていると、意外な2人が話に加わった。
「・・・ってあれ、銀ちゃん?」
「おぉ銀ちゃんじゃん。何だよ廣井の知り合いだったのか。」
「ん?・・・あっらー!八神さんに海藤さん!え!何!?ヤッダーこの子の知り合いだったのー!?」
「いやいやそれこっちのセリフだって・・・ってあぁ。そういや前銀ちゃんライブハウスの店長してるって言ってたけど、FOLTの店長だったんだ。」
「そうそう!あの事件があっても音楽は止めちゃいけないからね~!後、家賃も高いから、ちょっと止めたら払えなくなっちゃうから。」
八神と海藤が話に加わってきたのだが、どうやら八神と海藤、そして銀ちゃんこと銀次郎は、どうやらかなりの顔見知りらしく、和気あいあいと話し始めた。それに対し、光輝もきくりもだが、志麻もイライザも同様に、頭に?マークを浮かべている。
だからこそ、光輝が代表して八神に、お知り合いなんですか・・・?と恐る恐る聞いてみた。
「あぁごめんごめん。実はこの近くにあるチャンピオン街って飲み屋街があるんだけど、そこにあるバーで前にたまたま居合わせてさ。で、俺も海藤さんもほぼ同い歳だから意気投合してね。」
「にしても、まさかこんな形で繋がるとはな。」
「ホントホント!で、どうしたの?なんで廣井と一緒にいるの?」
「昨日の夜ウチの前で廣井が寝ゲロしやがった。だから謝罪費このくらい請求しといた。」
「八神さん、もっと支払わせていいわよ♡」
事の顛末を聞いてきくりにもっと請求させろ。と、長年の旧知の仲だからこそ言える指摘をする中、急にズボンのポケットに入れていた八神のスマホのバイブレーションが鳴った。それに気付きスマホを取り出すと、八神の表情が変わった。
「どうしたター坊?」
「キムさんから、京浜同盟の奴らがこの近くで集まってるってきた・・・しかも、かなり大勢らしいし、四天王まで集まってるみたいだ・・・!」
キムさん、というのはこの神室町にある焼肉屋の店主であり、八神としても顔馴染みであるが、と同時に、八神とも因縁のある京浜同盟に、悪い意味で、このお店も以前目をつけられたことがある。その時に八神に助けてもらったことで親しくなり、サービスをするのはもちろん、時にはこうして、京浜同盟が何か動きを見せ、それが八神に危害が及ぶ際に、連絡をすることもある。
だが、これまでは一人ひとりだったのが、今日は京浜同盟の四天王、と呼ばれる人物が全員集合をしているという、これまでにない危機的状況だと察知し、八神も顔色を変え、かつ、それを見ていた海藤だけでなく、光輝やきくりも心配していた。
「マジかよ!?俺も行くか!?」
「いや、海藤さんはここにいて。別の奴らが動くって可能性もあるかもしれないから、見張ってて。」
「八神さん、大丈夫ですか・・・?」
「大丈夫。あいつらなら何度も相手してるし。もう慣れてる。それに、困ったら海藤さんと光輝が助けてくれるから、心配すんな。だからそれまで、ライブやっててくれよ。な?」
八神はそう言うも、どこか不安は隠せないようではあった。だが、自分が行ったところで役に立てることは、正直ないと思ったため、俺も行きます。という言葉をグッと飲み込み、わかりました、と相槌を打つ。
その返事を聞いてから、八神は慌てて走り出し、そのキムという人物が指定した場所に向かって走り出す。
一方、神室町のとある場所では─────
「まあ、こんだけいりゃ、八神さんもぶっ倒せんだろ。俺としちゃ、サシでケンカがしてぇんだけどな。」
「ようやくこれで八神に一泡吹かせてやれるぜぇ!」
「あぁ、八神を倒せば、たらふくご飯が食えるんだ!ごはぁぁぁぁぁん!」
神室町のどこかの建物の入口の前。そこには70人ほどの大人がいるが、端から見ればわかるが、全員ガラが悪い。いわゆる、チンピラ、というやつだ。
それが1人2人ならまだしも、こんなに大勢集まっているというのは、神室町でもまずもって見ない光景だ。
だがしかし、この謎とも思えるほど、チンピラ・半グレを集める力が、京浜同盟に力があるということの証と言えるのかもしれない。
その集団を率いているであろう、以前八神だけでなく、光輝にも殴られた、黒いジャージを着た京浜同盟の葛西に加え、隣にいるのはタンクトップに迷彩柄のパンツを履き、この中にいる誰よりも筋骨隆々な体格をしている、同じく京浜同盟の四天王の一人、本田。
更にその隣には、本田の体型と比較すると、明らかにこちらの方が健康ではなさそうな、いわゆるメタボリックシンドロームの持ち主だということが一目見てわかる、肥満体型をしているのが、同じく京浜同盟の四天王の一人、阪木葉。
そして、その集団の前には、スーツをビシッと着た、強面の、キレる顔をしている男がいる。
「では皆さん、行きますよ。」
京浜同盟四天王の最後の一人であり、実質京浜同盟のトップにおり、リーダーも務めている男、虎牙は全員に呼びかけると、待ってましたと言わんばかりに、おぉぉぉ!と全員が声をあげる。それはまるで、これから合戦を行う、一国の軍のようにも見える。
京浜同盟側から見れば、八神隆之というのは、計画を常に邪魔してくる厄介極まりない存在であり、何かしらの形で一泡吹かせよう、あるいは一矢報いろうとするが、常に返り討ちに遭う現状であるが、とうとうこの現状に業を煮やし、京浜同盟全体が一同に集い、八神隆之に報復をしようと決めた。
そして今まさに、京浜同盟の集団はゆっくり、八神の元に向かって進行をしていく。
「全く、これでは私が引率のようではないですか・・・これは遊びではないんですがね・・・」
この状況を見ていた虎牙がそう呟き、かけていた眼鏡の位置を指で直す際、一瞬目線を違うところに移した瞬間、たまたまその前を歩いていたであろう、見知らぬ誰かと体がぶつかった。
「誰ですか。ちゃんと前を見なさい・・・」
神室町に住んでいるのに京浜同盟とぶつかるなんて、よそ者か、ただの馬鹿か。そう思い、そのぶつかってきた人物に視線を向ける。
すると・・・
「お、お前は!?」
一方─────
八神がその京浜同盟の対応をするために慌てて走って去っていった一方、光輝ときくりは予定通りにライブをするため、セッティングに追われていた。
「八神さん、大丈夫かな・・・」
「大丈夫大丈夫。なんかあったら警察も来るから。光輝君は今から私とライブをがんばろー!」
八神のことは心配ではあるが、こちらはこちらでやることをやろうと、きくりは光輝を励まし、路上ライブの準備を進める。
「は、はい。ただ、やっぱり、いざやるとなると・・・急に緊張が・・・」
「緊張しない緊張しな~い。せっかくなら楽しまないと勿体ないよー。」
「ですけど・・・ただやっぱり自分なんか正直上手くもないですし、プロのミュージシャンの廣井さんにもご迷惑になるんじゃないかと・・・」
「もー!私なんてZappツアーも出来ないから全然大したことないってばー!そんな謙遜しなくていいからさー!」
緊張しつつ、それでいてこちらに対して常に謙遜する態度をする光輝に、きくりは励ましか、それともケツを叩くためにか、あることを話し出した。
「前さ、君と同じくらいの子と一緒に、こうやって江の島で路上ライブしたんだ。」
「そう、なんですか?というか、江の島で・・・?」
「そう。私は酔っぱらって寝過ごしちゃって金沢八景まで行っちゃったっていうのが理由なんだけどね。その子はさ、チケットのノルマがあって、それを売らなきゃいけないっていうことで困ってたから、お姉さん手を貸してあげたんだ。その時はそのライブで無事にノルマ分のチケットは売れたんだけどね。」
「そうなんですね・・・凄いですねその人・・・」
「そうー!ぼっちちゃんちょー面白いんだよ!光輝君にも今度会わせてあげる!」
は、はぁ・・・と相槌を打ちつつ、そんな子がいるんだと思いつつも、きくりはまだ話を続ける。
「でもその子も今の光輝君みたいにめっちゃ緊張しててね。その時に私言ったんだ・・・敵を見誤るなよ、って。だから光輝君も、敵を見誤っちゃ駄目だよ。それにさ・・・」
着ていたスタジアムジャケットを脱ぎ、ワンピース1枚になると、きくりは左に首を向けた。
それは、何かを見ているというわけではなく、もっとその先にある何かを見ているようだった。
「この前さ、ここに怪獣が現れて、ウルトラマンネクサスが来てくれたじゃん。」
「っ!?・・・は、はい。」
きくりから飛び出したまさかの話題に驚きつつも、相槌を打つと、きくりはその当時の自身の状況を話していく。
「あの時私もちょうどライブなくて家にいて、昼まで寝てたんだけど起きたらめっちゃ皆から連絡来ててさ、なんだろうって思って調べたらあの映像が流れててさ・・・で、そのニュース見ていてもたってもいられなくってさ・・・その数日後にFOLTで予定されてたスケジュールが飛んだって時に、フリーライブFOLTでやったんだ。ただ、電気とかライフラインも全然まだダメだったから、全員アコースティックスタイルっていう。カッコ悪いでしょ?意気込んでやろうとしたのに。」
「いやいや、そうやって動こうとしたのが十分凄いですよ・・・自分なんて・・・」
そこまで言うと、突如言葉に詰まった様子に疑問を持ち、きくりはどうしたの?と聞いてみるも、何でもないです。とすぐに光輝は返すが、心の中は穏やかではなく、自分の心の動きがバレないよう、先程通りの態度を崩さないよう、落ち着け落ち着けと、何度も頭の中で言葉を繰り返す。
「すみません。ただ自分もその・・・あんな被害があったのにボランティアとか何も出来てなかったので・・・」
「いーんだよいーんだよ無理しなくても。遠いんだし車の免許もないんだし、ボランティアして帰るーってなったら大変でしょ?だからさ、気持ちを寄せて、忘れないようにする方が大事だよ。支援なんて、自分の生活が苦しくなるまでやる必要はないんだしさ。」
ボランティア等が出来なかったことに対し、悔やむ光輝を慰めるようにきくりはこれまで通り声を掛けるが、でもさ・・・と付け加えると、少し感傷に浸るように、きくりは遠くを見つめる。
「街は動き始めたけどさ、まだまだ新宿って街自体は悲しみに包まれてる感じがしてる・・・だからさ、ファンのためにってのはもちろんずっと変わらないんだけど、今はさ、私のやってる音楽で、この悲しみを少しでも和らげられたら、って思ってるんだ。」
その言葉と目は、これまでの朗らかで明るい雰囲気とは違い、どこか暗い、陰のある印象を受けた。
だが、その言葉には一切嘘はなく、一ミュージシャンとして、本気で、この状況をなんとかしたい。音楽で世界を変える、なんて大それたことを言っているわけではないが、それでも、バンドのホームグラウンドとも呼べるこの場所を、音楽で少しでもよくしたいという想いを、素直に口にした。
その言葉に対して少し驚いているのと、我に返ったのか、きくりは前までのフランクな口調と明るい調子に戻る。
「ごめんごめーん!おねえさんカッコつけすぎちゃったね!さっやろや「ありがとうございます。」
話を遮り、感謝を言った光輝の方を見ると、先程までの緊張している様子が消えており、先程とは別人のように、凛としていた。
「えっ?」
「あの時自分も凄く感情が揺れたんですよ。だからちょっと前、花束置きに行ったんです。でも、それだけだったんです・・・それ以上、自分には何も出来なかったんで。」
「光輝君・・・?」
「ただ、こういう風に悲しみを和らげる方法があるなんて思ってもみなかったんで・・・でも、こういうのも悪くないかもしれないって、"きくりさん"の言葉で思いました。だからこそ・・・」
それだけ言うと、サウンドチェックかのように一度ギターを鳴らす。
「・・・1人でも多く、歩いてる人、こっち来させたいじゃないですか。」
覚悟を決めたかのように、微かに笑う一方、その言葉と目に、きくりは驚いていた。
「(光輝君、目が変わった・・・めちゃくちゃ覚悟決めた目してる。この子、バンドやってないって言ったのに・・・なんでこんな目出来るんだろう・・・でも、なんだろう・・・)」
その雰囲気に、何かをきくりは感じていた。
それは、バンドマンとは違う、何か違う色をした目。暗くもなく、明るくもない。けれど、何かスイッチが入り、覚悟を決めた目と、雰囲気。
「(なんだろう・・・この感じ・・・こんな人、初めて出会った。光輝君・・・何者なんだろう?)」
きくりもそれなりに、色々な人に出会ってきた。ライブハウスでの対バンや、飲み屋で出会った人々。一夜限りの人もいれば、その後も関係が続く人もいる。
加えて、新宿という、東京の首都だからこそ、日本全国どころか、海外からも色々な人が集まっているため、真面目な人から面白い人、近づいてはいけない危ない人まで、人種・性別問わず、この神室町には多種多様の人間がいるため、これまで様々な人々を見てきたつもりではいた。
だが、今目の前にいる、千葉の片田舎からやって来た、知り合いのギタリストと同じ年くらいの少年は、これまでに出会ってこなかった雰囲気を醸し出している。
それが何なのかを言い表せず、もやもやするわけではないが、どこか不思議に思う。だが、それは決して悪い意味ではなく、むしろ、良い意味で。例えるならば、そう。
まるで・・・"温かい、光のような。"
とはいえ、今は目の前のやることに注力しようと思い、気持ちを切り替え、自身のベースに目を向ける。
そこで一つ、あることが気になった。
「そういえば光輝君、そのギターなんて名前なの?」
「えっ?名前?」
「そうだよー。自分の相棒なんだから名前なきゃ愛着も湧かないじゃーん。で、なんて名前なの?ちなみに私のこれはー、ウルトラスーパー酒呑童子EX!」
「名前長!・・・えーっと・・・」
少し悩むと、決めた。これまで使ってきた、ギターの名前を。
「・・・ネクスト。」
「・・・へ?」
「実は小学生の頃、どこのメーカーかもわかんないエレキギターを知り合いから譲ってもらったんですけど・・・バイトしてからちゃんとしたやつ買おうって思って・・・なのでこれが2本目のギターなので、ネ、ネクスト・・・」
そう話す光輝は、これまで同様、緊張しながら話しているため、先程感じていた不思議な雰囲気はすっかりなくなっていた。かつ、このギターの名前の由来を説明するのだが、正直そこまでは求めていなかった。そのため、そこまでしたことに、きくりも思わず笑いがこぼれてくる。
「・・・プッ、あははははは!やっぱ光輝くーん面白いねー!どーお酒飲むー?」
「いやきくりさん俺未成年ですって!」
「おい廣井!未成年に酒勧めんな!」
「きくりー!ソレやったらタイホですヨー!」
「あんたねー!」
酒を勧めるきくりに対し、まるで保護者と言わんばかりに志麻とイライザと銀次郎はツッコミを入れる。それに対しても特に気にせず、更に爆笑しながらさぁ始めよう!と声を掛ける。
「それじゃやりまーす!曲はないでーす!私とこの子のセッション、寄ってらっしゃい見てらっしゃい!」
そうしてチラリと隣を見ると、光輝は少し俯いていたが、一つ深呼吸をすると、一つパワーコードをかき鳴らし、弾き始めた。それに併せて、きくりは三味線のバチのようなものでベースを弾きはじめる。
曲も何もなく、ただのセッションではあるが、弾きながら光輝の緊張も少しずつ取れていっているような印象を、同じく弾きながらではあるが、きくりは受けた。
「(なるほど・・・光輝君のギターはこうか・・・)」
そうして弾きながら、一人きくりは思っていた。
正直なことを言えば─────テクニック、だけで言えば、知り合いのあのバンドのギタリストの方が上だ。
だからこそ、言う。あまりにも、とてつもなくギターが上手いというわけではない。
でも、一つだけ、彼女とは違うものがある。
彼には、大事なものが備わっている─────度胸だ。
全く人前に立つことを物怖じしておらず、堂々としている。
そして、楽器は、楽しいものなんだ・カッコいいものなんだと、見ていて思わせてくれる。
弾き始めた瞬間から、物凄く魅力がある。真っ直ぐ、前を見て演奏をしている。
立ち姿から弾き方まで、ギターを弾いてみたいと思わせる、何かがある。
バンドを、楽器をやってみたい。そう思わせて、相手に伝えさせる魅力がある。
だからか、ミスっても迷いがない。それさえもそうなんだと弾いていく、推進力がある。
「(・・・人前で楽しそうにギターを弾く。それが一番大事で、一番難しいんだよ、光輝君。だから見てよ。)」
そうしてチラリと目線を目の前に向けると、いつの間にか数十人の人だかりが出来ていた。
「(こんなに、君の演奏を楽しんでる人がいるよ。)」
「せーんぱーい、あっついんでどっか寄ってから帰りましょーよー。あっ、あそこなんてどうです!」
「サクラ、帰んぞ。もう用は済んだんだからな。」
「えー!いいじゃないっすかーたまにはー!神室町で甘いもの食べましょーよー!」
「いいわけねぇだろ。大体、この街はあんまいい思い出もねぇだろ。どっかでまた八神に会ったらどうすんだ。」
「いやいやそんな頻繁に会うわけないじゃないっすかー!大体自分達が外で甘いもの食べれるのなんて任務で外出た時しかないんすからー!もっとこう・・・」
一方、同じく神室町。
何かの任務を終えた帰りか、フキとサクラは横並びで歩いていた。とはいえ、気温もまだ高いこともあり、どこかで休憩しようとサクラは提案するが、一方のフキはそれをさらりと流し続けていた。サクラ自体、甘いものに目がないこともあり、様々な誘惑があるこの東京は、自身の趣味趣向には最適な街である。
かつ、寮に戻れば、出てくるお菓子と言えば、昨日も今日もその先も、一貫してかりんとうだ。味は悪くはないのだが、とはいえ、365日それを毎日食べさせられたら、誰だって嫌になる。
そのため、喫茶リコリコに用事があって行く時や、こうした外出時はサクラにとってはチャンスであり、かりんとう以外のスイーツを食べられるチャンスを逃す手はない、のだが、ファーストのフキからすれば、そんなものは必要ない、と言わんばかりの態度を取るため、こうして説得するのがサクラにとっては、仕事以上に苦労することなのだ。
そして今日もまた始まった・・・とフキが思っていると、サクラは話を途中で止め、一点をじっと見ていた。
「どうしたサクラ?」
「センパイ、あれ・・・真田ッチじゃないっすか?」
「は?・・・ほんとだな。」
サクラが指差す先に見えるのは、後姿ではあるが、チラリと見えるその横顔でわかった。最近新たに出来た、知り合いであり、確信しているがその証拠は無い、ウルトラマンネクサスの正体、かもしれない人物。
そんな彼が何故かこの神室町におり、しかも遠くからでもわかるが、ギターを弾いている。
その様子に、ありえないものを見ているかのようだった。
だからこそ・・・
「行ってみます?」
「・・・そうだな。」
自然と、足がそちらへ赴いた。
そうして5分ほどの演奏を終えると、いつの間にか集まっていた数十名の人が集まり、拍手を送っていた。
「良かったよ。」
少し肩で息をしていると、どこかのサラリーマンのような人物が、横に置いたきくりのベースのケースに、千円札を置いていった。
「あ、ありがとうございます!」
「Hey, That was amazing.」
光輝が感謝を伝えていると、立て続けに、たまたま神室町を観光で訪れたであろう外国人観光客の一団が、同じように千円札を置いていった。それも、2枚。
「オーセンキューセンキュー!エンジョーイ!」
「あっ、ぐ、Good Luck! Have a nice trip!」
2人でその観光客に手を振り、見送った後、2人で顔を見合わせる。
「やったじゃーん光輝君!こんなにカンパしてもらえちゃったよー!」
「で、ですね・・・あんな演奏でも、まさかこんなに・・・きくりさんのおかげで・・・」
「いやいや光輝君がカッコよかったからだよー!」
「お待たせ。もう終わっちゃった?」
演奏を聞いていた見知らぬオーディエンスからの投げ銭に2人して喜んでいると、八神が戻って来て声を掛けた。
「八神さん!大丈夫ですか!?」
先程海藤から聞いていた、京浜同盟の大軍団。それ一人八神は立ち向かっていったということで、演奏に集中はしつつも、ずっと心配ではあった。いくら八神さんが強いと言えど・・・そう思っていたが、八神は帰ってきた。それもまるで、忘れ物をして取りに帰ってきた程度の時間や軽いノリで、帰ってきた。
「(・・・あれ?)」
と、光輝は、八神の顔や服を見て、ある一つのことに気が付いた。
”八神の顔や体が殴られた形跡というのが、見る限り一切ない。”
少なくとも、そのようなチンピラの集団、いや大群であれば、いくら強い八神とはいえ、何かしら殴られた跡があってもおかしくはない。けれど、八神の体を見る限り、それは一切なかった。一体どういうことだろうと思い、聞こうとした矢先、八神から答えが出た。
「ん?あぁ大丈夫大丈夫。てか、俺何もしてないんだよ。もう先に全員叩きのめしてくれた人がいてね。」
「えっ!?」
何もしてない、どころか、もう既に京浜同盟を叩きのめしていた人物がいたという。
そのまさかの答えに驚くと、いつの間にか近くに寄ってきていた海藤も八神に質問をした。
「おぉター坊、無事だったか。でもよ、京浜同盟っちゃ、一人ひとりは大したことねぇけどよ、大群となりゃそこそこヤバいだろ。全員叩きのめしたって・・・そりゃどんな奴だよ?」
「いやいや海藤さん、あの人だよあの人。」
海藤もそんな人物がいるのかと気になり八神に質問をしてみたが、逆に八神からは海藤さんも知っている人だよ、というような返答をされた。そのため海藤も、誰のことを言っているのだろうと思考を巡らせると、おそらく八神が言っているであろうその人物が頭の中に出てきたため、あぁ!と合点を打った。
「なんだよあの人かよ!だったら、ター坊もいらねぇなそりゃ。」
「だね。俺も久しぶりに会ったけど、やっぱ凄いね、あの人は。」
その話し振りを聞くと、八神だけでなく、海藤も一目、どころか、全幅の信頼を置いているようであった。確かにその人物ならば、京浜同盟がいくら束でかかってこようと敵わない。八神ですら出番なしとなるほど、その人物を高く評価していた。
故に、光輝だけでなく、そんなことを全く知らないきくりも気になったため、その人物について質問をしてみることにした。
「あの、一体それはどんな人「おい真田、何やってんだこんなとこで?」
質問をしようとした矢先、誰かが光輝を呼んだのでそちらの方を向く。
そこには、見慣れた、赤と紺の制服を着た、最近ちょくちょくあの場所で会う、千束とたきなと同じ、2人のリコリスがいた。
「春川さん!?乙女さん!?なんでいるんですか!?」
「いやそれはこっちのセリフだよ。何やってんだこんなとこで?ていうか、マジで何やってんだ?」
「スッゲー!真田ッチギター弾けたんすねー!カッコよかったっすよージャーン!って!」
どうやらフキとサクラも、先程のライブを見ていたのか、先程まで光輝がしていた様子を真似するサクラに対し、まさかこんな形で知り合いに見られていたとは思わず、光輝は一気に恥ずかしさが襲い、急激に顔が赤くなってくる。
「んー何ー?光輝君のお友達ー?」
「あぁいや廣井。サクラちゃんとフキちゃんは友達とはちょっと違うかなぁ。」
「だからちゃん付けすんなっつってんだろうが八神!」
「まー確かに友達とはちょっと違うっすかねー!真田ッチはなんつーんでしょうね・・・子分?」
「ひどくないっすか乙女さん!?」
「サクラ違ぇだろ!真田とは知り合いだ知り合い!」
突如入ってきた乱入者にまたもや話が二転三転し、一気にその場が盛り上がる中・・・
「オ疲レー!飲み物買ってきましたヨー!ハイ君ノー!」
「えっ!?いいんですか!」
「イイッテイイッテー!グイッとヤッチャッテー!」
「志麻ーイライザー私も頑張ったからビール「あるわけねぇだろてめぇは雨水でも飲んどけ。」
いつの間にか、この場から一度離れ、光輝のために飲み物を買いに行っていた志麻とイライザが戻り、光輝に今まさにそこの自動販売機で買ったであろう、冷たいスポーツドリンクを手渡した。
それに感謝しつつ、きくりの話はさらっと受け流した一方、志麻はふと気になった。
「ん?この2人は?」
「ん。誰だこの人?」
ちょっとこの場を離れていた少しの間に、いつの間にか制服姿の女子高生2人組が混ざり、光輝だけでなく、八神ともそこそこ親しげに話しているようだった。とはいえ、フキとサクラのことは知らないため、誰なのかを志麻は確認しようとすると・・・
「・・・あの、今どっちが喋りましたか?声が似てたもので・・・」
「そう?そうとは思わないけど。」
「そうか?おい真田、疲れてんのか?」
「(おぉ言ったよ光輝・・・)」
「(だよなあ・・・)」
「(真田ッチよく言ったっすね・・・まぁ思ってましたけど。)」
知り合いとこの日初めて会う人の声を聞き間違えることなどありえないが、何故か、フキと志麻の声が妙に似ており、思わず光輝は今どちらが喋っていたのか聞き返した。
だがそれは、光輝だけでなく、八神も海藤も、そして常にフキの隣にいるサクラでも、口には出さないが似ていると思っていた。
その陰で、
「Oh!これが声優ネタってヤツデスネー!」
「せーゆーネタってなにー?」
イライザがわけのわからない単語を言っていたことについては、突っ込まない方がいいだろう。
「でさ、光輝。もうライブって終わっちゃった?」
と、色々話題が盛り上がっている中、八神が話題を変える。
先程は京浜同盟のゴタゴタが急に起きてしまったため見れなかったのだが、八神としても、実は楽しみにしていたこともあるため、先程話していたように、終わるまでライブやっててくれよ。と言ったわけだ。
だが、もう終わってしまったような雰囲気があり、非常に残念に思っていた。
だからこそ・・・
「なぁ光輝、俺のためにもう一回やってくんね?」
「えぇっ!?」
「おーいいじゃん光輝くーん!お姉さんまだやれるよー!」
八神からのまさかのアンコール、いやお願いに困り顔を浮かべる。それは、単純にもう演奏したくない・これ以上目立ちたくない、というのもあるが、もう一つ、こんなところで大音量で鳴らしていたら、それこそ警察の目に留まらないか、という心配もあった。
だからこそ、そのことを心配し、そうならないかということを確認しようとする。
「こら君達!何やってるんだ!」
と、その矢先、まさに光輝が恐れていたように、警察であろう人物から声を掛けられた。
それに対しヒッ、という声が漏れ、光輝はおそらく警察であろう人物の方にゆっくり体を向けようとする。
「・・・って、光輝君?あれ?八神さんに海藤さんまで?」
「それにそっちは、千束ちゃんとたきなちゃんの知り合いじゃないか。皆で何してるんだいこんなところで?」
だが、声を掛けてきた警官は、この神室町に住んでいる八神と海藤ならまだしも、何故か光輝のことだけでなく、名前は存じていないが、フキとサクラのことまでも知っており、名前を呼んだ。それに気付きそちらに慌てて体を向けると、そこには、複数人警官がいたが、その中に、光輝がリコリコでバイト中やボドゲ会の時に、時折顔を合わせている、常連の2人、正確に言えば、1人は巻き込まれているのだが、そんな2人の顔見知りの警官がいた。
「えっ!?阿部さん!?三谷さん!?」
「んー何ー?刑事さんと知り合いなのー?」
見知った、喫茶リコリコの常連である刑事の阿部と、その部下である三谷が、何故か他の警官に混じって居た。
それを見て、思わず八神も駆け寄った。
「あっ、どうも阿部さん三谷さん。」
「あぁ八神さんも海藤さん!どうもどうも。」
「どうしたんですかこんなところで?確か、阿部さんも三谷さんも押上の方の警察官ですよね?なんで神室町の方に?」
「いや、実は今日たまたまこっちに仕事で来てて。それで帰ろうと思ったら、ちょうど神室町の警察官が、京浜同盟とかいう半グレ集団の摘発に大勢が動くことになって・・・」
「(あぁ・・・)」
八神は三谷からのその報告を聞いて、先程の様子を思い出した。確かにそれなら、神室町の警察が大勢動いても致し方が無いというか、そちらに動いて当たり前だろうと思ったが、とはいえ自分は今回ばかりは何もしていないため、我相関せず、という態度を貫く。
「で、神室ストリートの方で結構な音量で鳴らしてる若い子がいるっていうんで、ちょっと応援に来てくださいってなってね。それでまーったく神室町の若いやつはと思って見に来たら・・・まさか光輝君だったとはねぇ。で、どうしたんだいこんなとこで?」
「あのー、実は・・・」
先程までしていたこと、並びに何故こんなところでストリートライブをしているのかという理由について、阿部と三谷に事の顛末を説明すると、なるほど・・・と阿部は頷いた。
「大変だったねぇ。そんな遠いところからわざわざ。」
「いえいえ!それにきくりさんがいましたし・・・それじゃ、そろそろ去りますね。」
「いや、せっかくだ。見せてってくれよ。光輝君のライブ。」
ええっ!?と光輝だけでなく、部下の三谷、並びに周りにいた神室町の警察官も驚いている。
「ですが阿部さん!」
「まぁまぁ。知り合いのよしみってことで。後5分くらいいいだろうよ。なんかあったら、俺と三谷がなんとか言うからよ。」
「ちょっと阿部さん!こっちまで巻き込まないでくださいよ!」
まさかの提案、並びに知り合いがいたということも要因にはあったが、半分警察のお墨付きで、もう少しライブをやれることになった。それに八神が感謝を光輝の代わりに述べる一方、光輝はまさかの事態に呆然としていた。
「よーし警察の方のお墨付きももらったところでそれじゃー光輝君もうちょっとやろー!」
「うっそーん・・・」
その事態を特に重く見ていないのか、きくりは軽いノリで光輝にもう少しライブをやろうということを提案する。再び呆気に取られるも、ちらりと八神がこちらを見たことに気付くと、八神はこくりと小さく首を縦に振った。
そして、先程言われたことを思い出し、八神さんのためならばと、光輝は再び表情を変え、ギターを構え、再びギターをかき鳴らし始めた。
ただ、そのイントロを光輝が鳴らした瞬間、
「(これって・・・)」
「(おぉ・・・)」
「(Wow...)」
「(あらぁ・・・それやるの・・・)」
そのフレーズに、きくりは聞き覚えがあった。更に言えば、きくりだけでなく、志麻とイライザ、そして銀次郎も知っていた。
それは、とあるバンドの曲のイントロであった。
ただ、この高校生程度の年齢で知っている子は珍しい。そして、この場で弾き始めるという度胸。
「(・・・やっぱり光輝君、面白い子だ。)」
そして、きくりもまた、その曲を知っていたため、思い出しつつ、即興ではあるが、ベースを弾き始め、合わせていく。
「なぜか今日は殺人なんて 起こらない気がする だけど裏側には何かがある気もする でも なんか今日は でも きっと今日は」
気が付けば、光輝はいつの間にかマイクも使わず歌い始めており、夏場の炎天下ということもあり汗もかいているのだが、それすら男の化粧のようにも見える。音だけでなく、声も合わさったことで、足を止める人も先程よりも多くなっていた。
「(・・・やるじゃないっすか、真田ッチ。)」
「(・・・千束、たきな。ざまぁみろ。)」
その観衆の中で、自然と体が揺れ、顔も綻びながら、こういったことは普段無縁であるフキとサクラも、そのストリートライブを楽しんでいた。
「いやー君めっちゃよかったデスヨー!学校でもモテモテデショー!」
「うん。とってもいいなって思ったたよ。それでバンドやってないとかもったいないよ。バンドやんないの?」
「いえいえ、ウチ自営業なのでかまけてる暇がなく・・・後絶対モテません農家は虫相手なんで女の子絶対虫ダメなんで。」
「あっ、ソ、ソウナンダネー・・・」
「めっちゃシビアな背景があるんだね君・・・」
神室町と新宿を分ける国道302号線。
その路肩に、SICK HACKの機材車であろうハイエースを停め、SICK HACKの3人、並びに光輝と八神と海藤は、これで反省会、という名のきくりへのお説教のため、どこかへと行こうとするSICK HACK一行と、最後に話をしていた。
ちなみにここに来る前に、銀次郎はFOLTへと急いで戻り、かつ、フキとサクラとも別れており、それぞれ満足そうな表情で帰っていった。
ただ、フキとサクラは何度も言うようにリコリスであり、かつ、スマホもDAより支給されている。そのため、むやみやたらと、一般人と連絡先を交換するわけにはいかないという理由もあるのか、連絡先の交換ということはなかった。
そのため、フキからの提案で、今後もし何か伝えたいことがあれば、リコリコに書き置きをしておいてくれ、こっちもするからよ、ということを提案され、光輝も断る理由がないことや、断ることでフキがDA側に自分のことを伝えるかもしれないということを危惧し、わかりましたとすぐにOKを出した。
とはいえ、これまでDAが何かしてくるということもなかったため、フキも黙ってくれているのだと信じ、この提案についても、そこまで裏がないと信じている。
「センパイやること前時代的っすね~。」
その提案を聞いたサクラが言ったコンマ数秒後、フキのローキックが決まったことは言うまでもない。
「あっ、今度良かったらライブ来てねー!関係者入場させてあげるからー!八神さんと海藤さんも!」
「も、もし八神さんと海藤さんも、お時間合うようならぜひ!」
「あぁ。なら今度行かせてもらうよ。」
「そうだな。銀ちゃんにも、今度差し入れしてやるか。」
きくりの提案に、八神も海藤も乗り、光輝もそれに続いてぜひ!と言ったその矢先─────
-ドクン、ドクン、ドクン-
光輝にしか聞こえない、例の鼓動が突然、耳と体に響いた。
それは、最近聞いてなかった、嫌な鼓動。それにより、一瞬で雰囲気が変わり、かつ、表情も変わる。
それに八神と海藤だけでなく、SICK HACKの3人も光輝の様子を不審に思う。
「どーしたの光輝君?」
「・・・やっべ忘れ物した!」
「え?」
深刻そうな表情から飛び出した、忘れ物をしたという、そのまさかの言葉に、SICK HACKの3人も思わずその場でずっこけそうになるが、なんとか持ちこたえる。
─────無論、嘘なのだが。
「あの八神さんすいません!忘れ物したんで事務所戻っていいですか!」
「あ、あぁわかった!よし行こう!早くしねぇとまた帰る時間遅くなるからな!」
「は、はい!それじゃ皆さんすみません!自分はこれで!またライブ行きます!!」
光輝と八神は八神探偵事務所に戻るため、慌てて走り出した。
その後ろ姿を、残されたSICK HACKの3人と海藤は眺めている。
「アチャー!忘れ物するなんて大変ダネー!」
「あの子、意外とおっちょこちょいなんだね。」
「全くな。ああいうとこ抜けてんだよな~あいつは。」
海藤も既に、あの様子から、何が起きているのかはわかっている。だからこそ、何も違和感がないよう、志麻とイライザとやんわり会話をしていく。
「(忘れ物なんかあったっけ?)」
唯一、先程まで事務所にいたきくりを除き。
「ハァ、ハァ・・・すいません八神さん、急にあんなこと。」
「いいっていいって。それより・・・早く行かねぇとやばいだろ。」
一方、八神探偵事務所内では、全力ダッシュをしてきた2人が、事務所内で息を切らしつつではあるが、会話をしていた。
少し息を整えた後、光輝はリュックから取り出した。
─────この世界を守る存在になる、彼にしか使えない、白い短剣を。
「やっぱり、八神さんがいてよかったです。新宿だと変身出来る場所ないんで・・・」
「気にすんなって。ここでよかったらいくらでも使っていいから。それじゃ、またおいで。」
「はい!それじゃ・・・行ってきます。」
色々な荷物を背負った状態ではあるが、光輝はエボルトラスターを引き抜き、前に翳した瞬間、赤い光が溢れ出す。
その数秒後、光輝の姿はどこにもない。
それを確認した後、八神は事務所の窓を開け、空を眺めた。
「・・・その歌の通りにはならなかったけど、大丈夫か。お前がいるからな。」
空を駆ける赤い光を眺めつつ、八神はポケットに入れていたタバコを一本取り出し、火をつけた。
「なぜか今日は殺人なんて 起こらない気がする だけど裏側には何かがある気もする でも なんか今日は でも きっと今日は」
紫煙をくゆらせながら、先程光輝が歌っていた曲のサビを口ずさみつつ、八神は一仕事終えた後の一服を楽しむ・・・
「ったく廣井。今日は本当に反省会すんぞ!八神さんだけじゃなくてあんな高校生にも迷惑かけんな!」
「えーいいじゃーん!もう済んだことにし「オオォォォ!?きくり!志麻!アレ!!」
一方、ハイエース車内では、志麻が運転をし、イライザが助手席に座り、きくりは後部座席に座っている。
志麻がきくりに、昨日の夜から今日までの自身の行いを反省させるための反省会を今から行うという話をしている中、急に大きな声を出したイライザは、何かを指差した。
それは、空を一直線に駆ける、赤い光。
前までそれは都市伝説だと言われていたが、今やその正体を、世界中の誰もが知っている。
「ネクサスデスヨアレ!本物初めて見ましター!」
「おぉすげぇ・・・本物なんて初めて見た・・・」
「おーすごいねー!本当にネクサスじゃーん!」
夕暮れの空を駆け抜ける、一本の赤い光。
それは、まさにこの新宿を怪獣から守ってくれた、ウルトラマンネクサスであり、度々報道はされていたが、姿は見えないものの、このように実際ネクサスであろう光が空を駆ける様を見るのは初めてなため、3人全員、感嘆の声を漏らしつつ、ネクサスに感激している。
その中でふと、きくりは思っていた。
先程、忘れ物をしたと慌てて八神探偵事務所に戻っていった彼。
柔和な雰囲気を持つのに、あるタイミングで雰囲気が急に変わる子。
そして、今現れた、ウルトラマンネクサス─────
「・・・まっさかねー。」
体からアルコールが少し抜けてきたのか、あるいは、昨夜から今までの疲れが出てきたのかもしれない。だからこそ、一瞬頭をよぎった奇天烈すぎる考えをすぐに捨て、そんなこと、あるわけないか。と納得をした。
「よーし志麻ーイライザー打ち上げしようぜー!」
「するかバカ海に縛って投げ捨てんぞ。」
「きくりが出すならイイデスヨー!」
というわけで、ゲスト回でした。
ゲストとして、【廣井きくりの深酒日記】・・・の主役でもあり、【ぼっち・ざ・ろっく】から、皆大好き廣井きくりおねーさん・・・だけでなく、SICK HACKから志麻とイライザ、そして、更にみんな大好き銀ちゃんまで登場させました。
一人だけだと言ったな、あれは嘘だ。
(書いてるうちにせっかくなら出そうと思って出した結果です。)
実は個人的にもFOLT、の元になった新宿LOFTにライブを見に行ったこともあり、あの場所が歌舞伎町にあることも知っていましたので、上手く組み合わせられないか?と思い至ったのがきっかけです。
その流れで、この人脈オバケの八神さんと銀ちゃんを繋げました。
繋げたら面白いかなと思いましたが、いいアクセントになったかな、と思いたいです。
というより、私昨年、舞台ぼっちを見に行きました。生のSICK HACKは、凄すぎました。
そして、ウチの子のギターのモデルにしたのは、調べていただければと思いますが、【Solid Bond】というブランドの、白いギターです。
リンクを掲載するわけにはいかないためここではこれだけにしますが、それを見れば、銀ちゃんが反応するのもわかると思います。
では、ここから改めて、後書きです。
まず、1年半も大変申し訳ありませんでした。
そもそも、どうしてあげなかったのか、というと、まず、前作を書いた直後、ライターズブロックを患いました。
調べていただければわかりますが、それまで異常なほどに熱量を持って書けていたのですが、前回あげた後、その糸が個人的にもぷつっと途切れてしまい、本当に書けなくなりました。
本当に、自分でもなんであそこまで熱量持って書けていたものが書けなくなったのかと思うほどに、書けなくなりました。
そういったこともあり、筆、いや手が止まってしまった中で、私が本当に、ロックバンドのボーカル、という部分で見た際、5本の指には入るほど好きな、あるバンドマンの訃報があり、精神がボキっとそこでも折れ、かつ、生活の面でも色々あり、精神状態としては、ほぼ最悪な状態になりました。
それらが重なったことで尚のこと書けなくなり、正直、1か月以上書かなかったこともありましたし、大真面目に、ハーメルンすら半年以上見てなかったです。
故に、このバンドの楽曲を使いましたが、物凄く遅く、今更感はありますが、この小説における、このボーカルの方への追悼の意味もあります。
アーティスト名:The Birthday/楽曲名:なぜか今日は
使用楽曲コード:N00032359
それらが相重なり、段々書けなくなっていき、更に、時間が経つごとに不安や罪悪感に襲われ、アップすることが出来なくなり、どのタイミングでアップをしても読んでくれる人にどう伝えればいいのかわからず、怖くなり、余計上げることが出来なくなりました。
更にこの気持ちを増長させるかのように、2024年、この3作品全てに、悲しい話がありました。
ウルトラマンネクサスでは、英雄・青い果実を歌ったバンド、doaの解散
ジャッジメントシリーズでは、源田所長を務められた中尾彬さんの訃報
リコリス・リコイルでは、花の塔を歌われたさユりさんの訃報
本当に、なんの恨みがあるのだろう、というくらい、この3作品に関わった何かしらの方々に、悲しい出来事が起こりました。
それらが重なり、本当にこれはあくまで自分自身の考えなのですが・・・このSSが、デスブログならぬ、デスSSなのかなと思ってしまうようになり、より自己嫌悪に陥るようになりました。
なので、もうぶっちゃけ、これ自体削除しようかなと、数カ月前は本気で思っていました。
ただ、最後まで書くという自分の言葉を裏切るのもなんか違うと思い、1年半も経ったからこそ、逆にもう、誰もこんなSSのこと覚えていないだろう。開き直ってもう一度上げてみようと思い、お正月のどさくさに紛れて、ひっそりと出してみました。
なので、以前までの様な熱で書けていないため、つまんない、と思われてしまったら申し訳ありませんが、リハビリのように少しずつ少しずつ書いていって、ようやくここまで辿り着けました。
本当にすみませんでした。
で、まだ続けるんか、って感じですが、とりあえずもう一本だけ、あげさせてもらいますが、分割方式であげます。
その中のどこかで、一番書きたいシチュエーションを書きます。
で、今のままでは、正直面白いものが書ける自信がないため、大変申し訳ないのですが、それが書き終わったら、とりあえず一旦はそれで〆、とさせていただきます。
楽しみにしてる人には申し訳ないのですが、ご理解ください。
まだ読みたい?
じゃあ、オマケを少しだけ。
千葉県─────光輝の家
「ふぅ・・・」
ふぅと一息つきながら、光輝は自分の家の風呂に浸かりながら、ボーっと天井を眺める。
あの後、ネクサスになってビーストを倒しに行ってからすぐ、家へ真っ直ぐに帰宅をすると、八神へ感謝の連絡を入れ、ご飯を食べ終えると、ぬるめの風呂にゆっくりと浸かり、一日の疲れを取っていた。
家へ真っ直ぐ帰る、と言うが、道中やっていることは誰にも真似出来ない、かつとんでもなくハードなことなんだけどな、と一人ひそかに笑う。
「(・・・そういえば)」
そんな中、ふと、思い出したことがあった。
ーてか、俺何もしてないんだよ。もう先に全員叩きのめしてくれた人がいてね。ー
「(八神さんがあの時言ってた、凄い人がもう全員叩きのめしてたって・・・誰だったんだろう?京浜同盟とかいう半グレを倒せるだけじゃなくて、八神さんと海藤さんがそこまで言う人って・・・どんな人なんだろう・・・?)」
あの時話をしていた、八神が行く前から京浜同盟を対処した人物がいた、ということ。
それが誰なのか気になっていたが、フキやサクラが来たことなどでそのことが頭から抜けてしまったのだが、今になってそのことを思い出していた。
尊敬し、かつ、あんなにも強い八神が、そこまで言う人物。
おまけに、言葉だけを聞くと、半グレを対処したということなので、八神だけでなく海藤、ひいては千束やたきな同様に、腕の立つ人物だということだろう。
その人物のことは気になるものの、とはいえ、今となってはそこまで重要なことではなく、わざわざ電話をしてまで聞く必要もない。そのため、また今度会った時にでも聞いてみようと決めた。
ゆっくりと目を閉じ、あ~~~・・・という、おっさんじみた声を出しながら、またゆっくり体を深く沈めていった。
─────少し時を戻し、神室町
「こっちか・・・!早くしないと京浜同盟の奴らが暴れ出しちま・・・う・・・」
慌てて走ってその連絡があった京浜同盟が集合している場所へ向かい、角を曲がった先の八神の目に飛び込んできたものは
─────何十人も倒れ、積み重なっている京浜同盟の半グレ達。その中には、度々戦っていた京浜同盟の四天王の葛西・本田・阪木葉の姿もある。
「あれは・・・」
そして、その倒れている京浜同盟の前に仁王立ちする
─────"黒帯を締めた、一人の柔道着を着た男がそこにはいた。"
その柔道着の男の足元には、自分もよく知る京浜同盟の虎牙が倒れていた。
「フッ・・・流石ですね・・・」
断末魔、ではないが、もう間もなく、意識が切れるのかもしれない。それほどまでに弱弱しい声で、虎牙はなんとか顔だけを上に向けると、その人物を見た。角度や逆光で顔はハッキリとは見えていないのだが、ただ、自分はその存在を、知っていた。故に、名前も知っている。
その人物は、昔から風の噂、ではないが、常にどこかしら・誰かしらから流れ、その名前と存在だけは、おそらく京浜同盟にいる人間であれば、一度は聞いたことがある話だった。
なんでもその男は
─────"遊びの道に魂を込め、遊びの道を極めた者だという。"
その人物は、疾風のように現れて、嵐のように去っていく。
真面目に遊ばぬ者には、体に覚えさせるぞと言わんばかりに、叩きのめされる。
故に、一部では都市伝説のようになっていたため、名前は知っていたものの、とはいえそんな男がいるのかは半信半疑だった。
だが、その男は今日、確かに存在することを自分も身をもって知った。
そして、その名に違わぬ、確かな実力を持っていた。
間違いなく、極めし者、だった。
その男の名は─────
「・・・せがた三四郎・・・!」
せがた三四郎、という名を呟いた後
まるで時代劇の主役が放つ決め台詞のように、謎の言葉を言うと、バタッと虎牙は気絶をした。
それと共に、八神も近づいていくと、声を掛けた。
「せがたさん!どうしてここに!?」
「おぉ!八神探偵事務所の八神君か!元気そうだな!」
せがたもまた、声を掛けてきた八神に気付き、親しげに会話をすると、せがたもまた笑みを浮かべる。
というのも、実はこの2人は、顔見知りであり、同時に、とある関係がある。
その昔、八神が探偵を始めた直後、ある依頼を受けて追う中で、その犯人が身を潜めた建物に火を放ち、火事になった事件があった。さらに不幸なことに、その建物にはその事件とは何の関係もない一般の人までいた。
ただ、こんな急な火事では自分も全員は助けられない。かつ、すぐには救急車や消防車も来てくれない。
あの時のように、また自分は誰かの命が奪われるのを見なければならないのか・・・それも、あの時同様に火事で・・・否応なしにあの時のことがフラッシュバックし、諦めかけそうになったそんな時・・・
「トリャアーーッ!」
「えっ!?誰!?」
「人命救助!君もバーニングレンジャーになるのだ!」
「だから誰だって!?」
突如ドアを蹴破って現れたのが、このせがた三四郎だった。
燃え盛る建物の中であるにも関わらず、防火服など何も着ず、この今着ている柔道着のまま飛び込み、残っている人を八神と共に全て助け出した。
その結果、消防車や救急車が来る前であっても、奇跡的に死者を誰も出さずに済んだ。
当然、八神とこのせがたも無事に脱出し、更にせがたは、その犯人であろう人物を見つけ、投げ飛ばして気絶させたうえで、外に連れ出した。加えて、いつの間にか縛り上げた後、この者 放火犯人、という書き置きをしたことで、警察もあっという間にその人物を逮捕した。
八神もまた、今は探偵とはいえ、まだあの時の事件の余波も少なからずあったため、放火した現場に自分が居合わせたら、自分が疑われかねない、この場に長居するとトラブルにしかならないと察し、いざこざが起こる前に、こっそりとその場から離れた。
そんな中、先程まで一緒にいたあの柔道着の男がいつの間にかいなくなっていることに気付き、慌てて辺りを探すと、ゆっくりと、それでいて堂々と歩き、立ち去ろうとするせがたがいた。
「ちょっ、待てよ!あんた一体何者なんだよ!」
いきなり燃え盛る建物の中に飛び込み、人命救助を完璧にこなした。加えて、何か只者ではない雰囲気もひしひしと感じていた。
故に、この人物のことはどうあっても気になってしまうため、八神が声を掛け引き止めさせると、せがたはすぐに足を止めた。
「若者よ、真剣に取り組んでいるものはあるか!?」
「は・・・?」
だが突然、いきなり何の脈絡もなく質問をされた。その質問にどう答えればいいのか、何をどう返せばいいのかわからず、曖昧な返事を取った際・・・
「なげかわしい!真面目に遊ばぬ若者め!」
一瞬で間合いを詰められたと同時に、背負い投げで投げ飛ばされた。
無論、コンクリートに打ち付けられたというのはあるのだが、とはいえ八神も、そこそこケンカなどをし、体に傷を負ってきたため、痛みにもそこそこ耐性がある方だと自負しているつもりだが、それでもしばらく立てなくなるほど、せがたの背負い投げは、これまで受けてきたどんな攻撃よりも、強烈な一撃だった。
だからこそ、その強さに惹かれ、そこで八神は咄嗟にこう言った。
「な、なああんた!俺を鍛えてくんねぇか!?」
当時、いや今もかもしれないが、仕事がそこまでなかった八神は、暇を潰す、という意味でも、数日せがたの元で修行をしたことがあった。
だが、今思ってもあの修行はなんだったのだろうか、と八神は思っている。
何処とも知れぬ山の中で、40キロは間違いなくあったであろう重さの、サターン、とせがたは呼んでいる、謎の何かを背負わされ走り回された後、そのサターンというものに付いていたゲーム機のコントローラー、のようなもののボタンを勢いよく殴ることもさせられた。
「まだだ八神君!指が折れるまで!指が折れるまで!!」
・・・実際、指が折れそうになったと、当時のことを振り返って八神は語る。
そのような修行や、何かよくわからない龍の踊り。知り合いだという柔道家との組手。ちなみに何故かわからないが、せがたが組手をしたら、その柔道家は投げ飛ばされ、地面に叩きつけられたと同時に爆発した。が、何故か生きていた。
更に、バッティングセンターで、何故か野球ボールを足で蹴る特訓もさせられれば、あれは夢だったのかもしれないが・・・せがた三四郎が大勢に増え、それと戦わされることもあった。
「皆で戦え!」
「いやそれあんただけだろ!?」
今振り返ってみても、奇想天外な、わけのわからない修行を3~4日した後・・・不思議とだが、八神はこれまでよりも強くなっていた。
だからこそ、八神が今尚強く、銃を持っている相手であってもビビらない。殺しの天才と呼ばれる殺人鬼であっても徒手空拳で叩きのめすことが出来る。ファーストのリコリスであっても、その攻撃を受け流せる技量があるのは、せがたの元で特訓をしたことも、要因の一つにあるのだ。
そのような出来事から、せがたに一目置くのはもちろん、尊敬もしており、こうして時々ではあるが、街中で再会した際は、親しげに話す中になった。
更に時折、依頼人からの依頼を追う中で遭遇することもあり、そこで海藤もせがたと知り合い、海藤もまた、せがたの強さに驚き、一目置くようになった。
「最近はどうだ?真剣に取り組んでいるものはあるか!」
「えぇもちろん。依頼人から受けた仕事も、遊びも、真面目にやってますよ。依頼人のためなら、なんだってやってますよ。」
「そうか!せがたゲームチャート。サスペンス度、満点!」
「(時々何言ってるかわかんないんだけどな・・・)」
ただ、尊敬はしているのだが、何を言っているのかわからないということも多々あるのが、せがた三四郎という男だった。
普段から頻繁に会うわけではないのだが、時折会った際、虚言癖、というわけではないのだが、"大正時代で大神君達に稽古をつけてからさくらさんと遊んでいた"だの"アキラ君達と特訓をしていた"だの"未来世界でスペースチャンネル5に出演していた"だの"現実世界とセカイを行き来して迷える若者達に道を示していた"等々・・・そう語ってはいるのだが、もはやどこまでが本当でどこまでが嘘なのかわからない。しかし、せがたが嘘をついている様子は全くないからこそ、本当にその通りなのだろうと思うのだが、全ては永遠の謎である。が、だからといって八神もその謎を解こう、という気にはならない。
というのも、以前まさにそのことを聞いたことがある。
その時のせがたの回答は、というと・・・
「せがた三四郎は、皆の心の中に!」
そう力強く宣言されたからには、納得せざるを得なかった。何故かわからないが、とてつもない説得力があった。
と、ここまでせがたと話して、八神はふと思い出した。
こうして京浜同盟が倒れてる今、ここに長居するのはあまり良いことではない。加えて、今まさに弟分がライブをしていることを思い出し、神室ストリートへと戻ることにし、せがたに別れの挨拶を言った。
「それじゃせがたさん、ちょっと知り合いが待ってるんでここで。」
「そうか。また会おう!達者でな!」
そう言うと、せがたは背を向け、どこかへとゆっくり、力強く歩き出した。
「素晴らしいゲームをありがとう・・・名越君!」
「・・・名越って誰?」
最後に、よくわからない一言を添えて。
その数日後
錦糸町─────喫茶リコリコ
「おはようございますうええええっ!?」
裏口から店内に入ってきた光輝は、いきなり誰かから腕を掴まれると、そのまま地下にある射撃訓練場にまで強制的に連れてこさせられた。
「ち、千束?どうしたの?それにたきなまで・・・」
腕を掴んできたのは千束。更に射撃訓練場にはたきなも待っていたが、その顔は少し笑っているのだが・・・光輝は察した。
これは、怒っている、と。
「ねぇ~光輝~。この前神室町でストリートライブやったんだってぇ?」
「え?う、うん。やったよ・・・というか、なんで知ってるの?」
「阿部さんと三谷さんから聞きました。随分楽しそうにやってたそうですね。」
「それにー、フキとサクラもいたんだってねー。へー。そうなんだー。」
「私達に内緒で、2人にはやったんですか。そうですか。」
言葉の端々から漂ってくる、威圧的な雰囲気。それに若干恐れおののき、壁の前まで後ずさるが、逆に自ら、逃げ場を無くしてしまった。
そんな彼の目の前にいるのは、凶悪犯罪者を殺して回る処刑人、ではないが、それでも圧倒的な力で犯罪者を鎮圧する、歴代最強のリコリスと、その相棒。
「その日ねぇ、私達ねぇ、とーっても忙しかったんだぁ。とーっても、疲れちゃったんだぁ。」
「リコリコ宛に来たリコリスとしての依頼をこなしてから、お店の仕事も立て続けにやったので、とても疲れました。」
「それなのにー、光輝くんはー、家の仕事をほーったらかしてー、神室町で遊んでたんだー。」
「そのためにシフトも考慮して組んであげたのに、これですか。」
「夏場は忙しいって言ってたのに、裏切られたわ~。」
「ホント、私達を騙して遊びに行くなんて、最低ですね。」
「「私達、とっても疲れたのに。」」
「あ、あの、ふ、ふたりとも、こ、これにはわけが・・・」
この前神室町に行ったのは八神さんからのお願いということを伝えたいが、今の千束とたきなに対しては、情状酌量の余地が見えない。聞く耳は、とてもではないが、持ってもらえない。
防音がしっかりしている部屋に連行させたのも、今なら理由が付く。
こうなると、この先に待っているのは、そう。
「「反省、しよっか(しましょうか)?」」
「ひぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ!お願いだから話聞いてぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!」
防音室の中で、一人の少年の悲鳴が響くが、それは誰にも聞こえることはなかった。
というわけで、オマケであり、もう一人、とんでもないお方のゲスト出演です。
誰が想像していた、姿三四・・・せがた三四郎。
そもそもの話の構想ですが、どシンプルに、なんで八神さんはあんな強いんだ?というところから始まりました。
それはもちろん、ゲームの主役だからそんなの当たり前なのですが、とはいえいくらなんでも強すぎるよな・・・リコリスは制服もカバンも銃器もちゃんと揃えているのに、八神完全普通の服なのになんであんな強いんだろう?というところが始まりです。
いくら極道に近く、かつ、神室町でよくケンカもしているとはいえ、流石に強すぎるよな、というところから、ふと、誰か別で鍛えた人がいるのかもしれない。そう思うようになりました。
そして、せがた三四郎の存在を思い出しました。
これならば、セガのゲームならば最もベストであり、これなら八神も強くなるな、と。
だからこそ、本編を読んでいただければわかりますが、八神と海藤しか知らないというのは、そういうことでした。
後、なぜ京浜同盟がせがたに倒されたのかという説明を一言で説明します。
遊びではない、なんて言ったら、それはせがたにボコられても致し方無いでしょ。
ちなみに、本文中とある特撮ネタを入れたよ。中の人の後輩(ry
なんだけど、実は初期構想ではせがたではなくこちらを出そうと思っていたり・・・?