+LycorisーNEXUS JUDGEMENTー   作:ワンホットミニット

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ついに始まったね!リコリコショートムービー!毎週最高だね!
ついに公開されたね!ウルトラマンオメガ!7月から楽しみだね!
ついに映画化されるね!タローマン!・・・え?なんだこれは!



というわけで、またもやリコリコとウルトラマン界隈が熱い中、新作を投稿させていただきます。


活動報告でも書きましたが、既に数日後の夜、見てくださいというフリは、完遂しました。
なので、まだ読んでいない方は、前回をもう一度読んでみてください。
ちょっとした、もう一つ、サプライズを置いてあります。


ちなみに、これも言っていなかったので補足ですが、前回のタイトルは、ぼざろ同様、あのバンドの楽曲にちなんでます。
どの楽曲を使ったかは自分で探してね。
そしてもう一つだけ付け加えておくと、前回の話にあったライブハウスは、実際に新宿にあるライブハウスを元にしております。
本当であれば、もう一つライブハウスを入れる予定だったのですが、昨年悲しいことに閉店してしまったため、現存するライブハウスでピックアップさせていただきました。


というわけで、この夏休み編、最終回です。

夏休みの最後、ということはつまり・・・

ではどうぞご覧ください。






The Last Day of Summer Vacation①

8月31日

 

それは、多くの学生の悲鳴が聞こえる日でもある・・・そう、夏休みの最後の日だ。

一部の地域ではもっと短いところもあるというが、この辺りでは8月31日が夏休み最後の日というのがほとんどだ。

 

宿題が終わらず悲鳴を上げている学生もいれば、この日は明日からまた学校が始まるということで不安を感じている学生もいる。俺も学校ではぼっちだから、そういう人の気持ちはわからなくはない。

 

ただ、俺は学校に行くこと自体は、全然嫌なわけではない。

リリベルだった頃を思えば、こうして普通の、どこにでもいる、ありきたりな一学生として暮らせているというのは、とても幸せなことだ。

それに、俺はもうリリベルをクビにされてからだいぶ長い時間が経つ。それどころか、もう一般市民・一学生である時間の方が、リリベルだった頃よりも長くなっているため、今やただの高校生である俺と、女子高生の姿をしたエージェントである千束とたきなとは、住む世界で言えば全く違う世界におり、そういった意味では、俺達は共通点はない。

とはいえ、俺だってただの高校生ではあるが、同時に、今や世界の誰もがその名を知っているウルトラマンネクサスその人でもある。

 

だから、平和を守る、という行動については、全くやることは異なっており、お互いに、お互いのやっていることを手伝うことは出来ないため、一緒に何かをするということは出来ない。

だが、それでもお互い、心の底から信頼しており、何かあれば必ず互いに手を貸すということは、言葉にしなくてもわかりきっているからこそ、どんな事情があっても、どんなにわかりあえない事があっても、あの2人と俺は、パートナーで、一緒のお店で働く仲間で、人には言えない秘密をお互い持っている友達。それでいい。

あんな経験をした俺達の友情は、そんなことで簡単に壊れることはない。

というより、薄っぺらだったものが壊れて、そこから真の友情が出来たのだから、これから先、二度と壊れることなんてないと信じている。

 

 

と、そんなややこしいことは一旦置いておこう。

そんな本日、8月31日。

実は俺はこの日が来ないか、何日も前から今か今かと楽しみにしていたのだ。

 

なぜなら、今日は・・・

 

 

 

「あーーーー!1人ってサイコーーーーー!!」

 

 

 

そう。俺は今日、家に1人だった。

 

 

というのも、実は今日、母さんが仕事の関係で出張があり、故郷である長野に行くことになっていた。

そして、ついでに、ではないが、父さんも久しぶりに、おじいちゃんとおばあちゃんに顔を見せようということで、その出張に同行という形で1泊2日で一緒に行っているからだ。もちろん仕事に混ざるわけではないのだけれど。

 

ちなみに、なのだが、真田は母方の苗字だ。

つまり、父さんは婿養子なのだが、正直どうでもいい。

 

俺ももちろんおじいちゃんとおばあちゃんに会いには行きたかったのだが、翌日から学校が始まることや、流石に今年の俺の学校での評判をこれ以上悪くすることは出来ないため、残念ながら一緒について行くことは叶わず、家に1人留守番ということになった。

 

しかし、両親が揃っていなくなるということはほぼなく、何年振り?というほどだった。少なくとも、高校生になってからは初だ。

なので、今日は自由というか、両親がいると中々出来ないことも気にせずにやれるため、今の俺は全てが出来る万能の神にでもなったような気分だ。

・・・いや、ウルトラマンネクサス、もっと言うとウルトラマンの中でも特に神秘的な、伝説の存在であるウルトラマンノアになれる俺が何言ってんだって話だけれども。

 

おまけに、今日はナツばあの店のバイトも休み、どころか珍しく店自体お休みであり、リコリコに至っては定休日。夏休みの最終日にこんな楽しみが待っているなんて最高だ。

とうに課題は全て終わらせているため、何の不安もない。後はビーストさえ現れなければ、この日一日遊べる。

だが、この前廣井さんと会った後のあの一件以降はないため、今日もない・・・と信じたいところではある。

 

故に、今日はそこまでやれることもない。だから、ただでさえいつもの起床時間より1時間も長く寝ていられた。もちろん、その後2時間ほど、出来る限りの外作業を済ませ、今日の俺のやれることは終わった。

シャワーを浴びて汗を流している間に、洗濯も回し、先程洗濯物も干し終えただけでなく、たった今掃除までも済ませた。ハッキリ言って、もう今日のやるべき身の回りの家事は全て終わった。それでもまだ朝の8時を少し回ったところ。我ながら完璧なスケジューリングだ。

いつも通りの部屋着の作務衣も着たので、誰が来ようと問題はない。

人生最後の、夏休み。その最後の日を楽しむための準備は万端だ。

 

ワクワクしながら、昨日のうちに馴染みのパン屋で母さんが買ってくれた大好きなパンを食べようと、既に切られてある食パンをトースターに入れ、タイマーを回そうとした瞬間、スマホが鳴った。

 

画面を見ると、TALKの通話画面が表示されており、発信相手は、パートナーであり、大切な友達である千束の名前と、彼女が使っているTALKのアイコンが表示されている。

 

「どうしたんだろ?」

 

今日はリコリコも定休日のはず。だとしたら緊急で呼ばれることなどないはずだけど・・・まさか、2人に何かあったのか・・・!?そう思い、慌てて通話ボタンをタップする。

 

「もしもし!?」

『おおぅびっくりしたぁ。どしたのそんな大声で?』

「えっ、あ、いや、なんかこう、ピンチで連絡してきたのかなぁ・・・と。」

『私とたきなが揃ってるのにそんなわけなーいじゃーん。光輝はどぉ?元気~?』

 

どうやら何かがあった、というわけではないことが電話越しの声からわかり、ホッと一安心し、胸を撫で下ろす。

 

「うん、元気だけど、どうしたの?こんな朝早くから?」

 

早速、電話をかけてきた要件を聞いてみようと質問を投げかけてみる。

俺は朝型だが、千束は完全に夜型だ。それに、彼女達だって普段のリコリコの仕事やリコリスとしての依頼もあるので、疲れているだろうから、お休みの日は長く寝ていたいものだろう。

少なくとも、こんな朝早くに千束から電話がかかってくるなんて初めてのことだった。

 

『ん〜?光輝何してるかなー、って。』

 

そんなこと?と軽く笑うと、いつも通りだし、これから朝ご飯食べるよ。と答える。ただ、今日実は父さんと母さんいないんだけどね。という話題から、少し世間話をするのだが、とはいえ、わざわざ世間話のためだけにこんなに朝早くから電話してくる?と、内心ずっと疑問だった。

なので、そこから思考を飛ばして、今日はリコリコも定休日なため、ひょっとしたら千束もたきなを連れて朝早くからどこかに遊びに行っているのかもしれない。

ならばつまり・・・自慢をしたいだけかもしれない、と見当をつけ、千束に聞いてみることにした。

 

「そっちは何してるの?もしかして、どっか遊び行ってるの?それなら多分、たきなも一緒でしょ?」

『おっ、さっすがー。そうだよー。』

『おはようございます、光輝。』

「あっ、たきな、おはよう。いたんだね。だったら話しかけてくれても良かったのに。」

『千束がずっと電話してましたからね。想像の通り、千束と遊びに来てますよ。』

 

相槌を打ちつつも、少し疑問だった。

こんな朝早くだと、正直まだどこのお店もやっていない。スーパーですら開いていないところが多いだろう。なので、彼女達のような女の子が行くようなお店も、基本的にはまだ開いていないはずだが、ひょっとしたら、何かお目当てのものを買うための行列にでも並んでいるのかもしれないし、あるいは、どこかの遊園地やテーマパークに遊びに行っていて、その開園前の行列に並んでいるのかもしれない。テーマパークならば有名な、ウチュウキャットランドだろう。なので、2人の行き先を聞いてみることにした。

 

「2人はどこか行ってるの?どっかのテーマパーク?ウチュウキャットランドとか?」

『違いますよ。山ですよ。』

「山?」

 

たきなが行き先を答えてくれたのだが、まさかの、山だった。

夏なので海ならまだわかるが、山という意外な目的地を言ったため、少し驚く。というか、2人って山好きだっけ?私達オススメの山の勧め!なんてこれまでしてこなかったけど・・・2人ともそんな山ガールだったっけ?

ただ、その行き先を聞いてそうか、と納得したこともあり、先程からそうだったが、もしテーマパークにでも行っているのならば、電話の向こうからワイワイガヤガヤと、様々な人の賑やかな声が聞こえてきてもおかしくないはずなのに、それも聞こえてこなかった。その時点でわかるのが普通なのかもしれないが、そんなところに行ったことがないという、経験の無さを身に染みて痛感してしまうが、一旦それは置いておくことにし、改めて、目的地を聞いてみることにした。

 

「山って、どこ行ってるの?東京だから・・・高尾山とか?」

『違うよー!』

 

えっとね~、ともったいぶる千束の後ろで、バン、と、車のドアを閉めるような音が聞こえた。

ともすると、2人は今まで車にいたということか。だとしたら、今の今まで2人でドライブしながら、目的地にまで向かっていたということか。

 

 

『千葉のー、山の中。美味しい朝ご飯があるって聞いてね~。』

「・・・ん?千葉の山の中?美味しい、朝ご飯・・・?」

 

 

彼女達の目的地は、千葉にある山だという。

千葉の山、と言えば色々あるのだけれど、だが、山の中にある朝ご飯で有名なところなんてあっただろうかと思考を巡らせていると、玄関のチャイムが鳴った。

宅急便か近くに住んでいる人が野菜でも持ってきてくれたのかと思い、またかけ直す、とだけ言い残し、一旦通話を切って慌てて玄関まで行く。

 

 

 

─────でも、俺はその時、気付いていなかった。

 

 

 

「はいどうぞー。」

 

この家はドアホンだが、カメラはついていない。それをつけなくてもいいのは田舎が故、なのかもしれないが。

なので、基本そうなのだが、ドアを開けるまで誰が来たのかはわからない。が、とはいえこんなところに来る人は宅急便か近くに住んでいる人しかない。セールスも、まずもってこんな山になんて来ない。

だから、いつも通り、ガチャっとドアを開けた。

 

 

 

─────先程まで繋がっていた通話先から、そのチャイム音と全く同じ音が聞こえていたことを。

 

 

 

 

 

 

 

「おっはよーーー!遊び来たよーーー!!」

「さっ、朝ご飯にしますよ。」

 

 

いつものリコリスの証である学生服・喫茶リコリコの制服とは違う、イマドキの女の子らしい格好の2人に一瞬目が行くが、ただ、服装など今は正直、考える間もなかった。

 

 

 

・・・さっきまで電話をしていたその人が目の前にいるのだから、驚かないわけがない。

 

 

 

「・・・うそでしょ・・・」

 

 

 

俺の1人で高校生活最後の夏休みの最終日を楽しむ計画は・・・パートナーであり、友達の千束とたきなが来たことで、早々に終わりを告げた─────

 

 

 

「ホンっトビックリした・・・」

「いぇーい!サプライズ大成功ー!」

 

リビングのソファーに座りながら、東京に住んでいるはずの千束とたきなと、何故か向かい合っていた。

 

なんで来たのか尋ねようとする前に、はいはい失礼しまーすと2人はズカズカとキッチンまで行き、千束はバッグに入れてきたサイフォンを手際良く組み、リコリコでも使われている特注のコーヒー豆を入れ、ゆっくりコーヒーが上がってくるのを待っている。

俺もまた、驚きつつも、言われるがままに、朝ごはんにしようと思っていた先程のパンを、オーブントースターで焼いている。

 

・・・とりあえず、どこから聞こうか。

 

「えっと・・・なんで、ウチ来たの?」

「んー?だって頼まれたから。」

「頼まれた・・・誰に?」

「憐さんと瑞生さんからですよ。」

「・・・んん!?父さんと母さんから!?」

 

まさかの人物の名前が出てきて尚のこと驚く。確かに、ウチとリコリコは繋がりがあるけれども、にしてもまさか千束とたきなが父さんと母さんとそんな繋がりになっているとは思わなかった。というか、どうやって聞いたんだろうか・・・そして、いつ依頼したんだろうか・・・

そう思っていると、予想外の話が2人の口から飛び出した。

 

「この前、お店に憐さんと瑞生さんが来たんですよ。」

「ええっ!?またリコリコに父さんと母さん行ってたの!?」

「そうだよ!それで、この日光輝が家でお留守番ってことで、もし良かったら来てあげて!って2人から頼まれたの!」

 

 

 

遡ること、数週間前

錦糸町─────喫茶リコリコ

 

カランカラン、とドアが開く音がし、そちらに目を向け、いらっしゃいませーと声を掛ける。

 

「こんにちは。」

 

入られたお客様は、30代半ば~後半位であろう男女。その2人の顔を見て、あっ!と驚きの声が出る。

穏やかで優しそうな雰囲気に、人懐っこい笑顔が特徴的な、それでいて互いに凛々しさもある男女の夫婦。

 

何故私がこの2人が夫婦だということを知っているのか、その答えは至って簡単だ。

 

以前、光輝の情報を調べた中で出てきた顔。そして、光輝がザ・ワンと戦ってくれてから少し経った後にご挨拶に来てくれて、出会ってたった数秒で、とてもいい人だと感じ、一瞬で好きになった・・・光輝のご両親だからだ。

 

「瑞生さーん!憐さーん!こんにちは!」

「こんにちは、千束ちゃん。」

「千束ちゃん、やっほ。」

 

私が2人の名前を呼ぶと、他の皆も一斉にこちらの方を振り向く。

座敷席はいつもの常連作家さん達が締切に追われている地獄絵図と化しているため、仕方がないが瑞生さんと憐さんをカウンター席に座らせる。

 

「お久しぶりですお2人とも!今日はどうされたんですか?」

「有給消化しなくちゃいけなくて、その関係で私が今日休みだったから、だったら午後リコリコに行こうかってなってね。光輝も今日一日あっちのバイトだからちょうどいいかなって。千束ちゃん、本当にいつも良くしてくれてありがとう。あの子、迷惑かけてないかしら?」

「いえいえ!とーっても楽しいですよ!それに、作ってくれるお弁当も美味しいですし!」

「ならよかった。遠いけど、いつでもおうち遊び来ていいから。千束ちゃん達だったら、いつでも歓迎だからね。」

 

そう言って優しく微笑む瑞生さんは、大真面目に大和撫子、と辞書で引いたら、瑞生さんの顔が出てくると言ってもいいくらい、これぞ日本の大人の女性、という印象がある。

でも、光輝曰く、所々おっちょこちょいなところがあるとのことだが、話している限り全くそんな雰囲気は感じられないので、あいつ嘘言ってんじゃねぇかぁ~?とも思っている。

 

そんな中、たきなと先生も駆け寄り、瑞生さんと憐さんに挨拶をしている。

 

「お世話になっております、憐さん、瑞生さん。」

「いえいえ、お気になさらないでください。ウチとしても皆さんが色々手伝ってくださっているのでとても助かってます。」

「ホント、リコリコさんで使ってくれてからウチもありがたいことに忙しくさせてもらってますから、俺達の方が皆さんに感謝したいですよ!」

 

先生と憐さんが真面目に、それでいてどこか親しげに話す中、たきなもまた、瑞生さんと話している。

 

「たきなちゃんもいつもありがとう。あの子、手間のかかる子だけど、これからもよろしくね。何かあれば私にいつでも言ってね。代わりに叱っておくから。」

「ありがとうございます。それでは叱っていただきたいことをこれまでに50個ほどメモしておきましたのでこちらを参考に・・・」

「ちょいちょい、たきな、ステイ。」

 

冗談ですよ。とたきなが返すと、そのジョークに瑞生さんも口元に手を添えて笑っている。

本当に、こんなご両親だから、光輝もリリベルという過去があっても、あんなにいいやつに、真っ当な人間に育ったんだろうなと、噓偽りなく思えるほど、私も人としてとても大好きな2人である。

 

と、話し込んでいたことに気を取られ、いけないいけないと慌てて、お2人もメニューを見ていくつか注文してくれた。おまけに、お店としては売り上げに貢献してくれるような、そこそこな値段となっている。流石は、光輝のご両親だけあるなと思っている中でメニューを厨房に伝えてそちらへ行こうとすると、同じくカウンター席に座っていたカナちゃんから呼ばれると、そちらの方へと向かっていく。

 

「千束さん、あの2人・・・お知り合いですか?皆さんとも仲良さそうですし・・・どなたですか?」

「憐さんと瑞生さん!光輝のお父さんとお母さんだよ!」

「えっ!?光輝さんのご両親なんですか!?」

 

そうだよ〜!と返すと、憐さんと瑞生さんもそれに気付きカナちゃんに優しい笑顔を向けて会釈し、カナちゃんも会釈を返す一方、常連さん達もその言葉に気付いたのか、執筆活動中の手を止め、一斉に憐さんと瑞生さんの方をまじまじと見つめる。

確かにあんなご両親の元で育ったら光輝君あんないい子になるわ・・・という声から、めっちゃおしどり夫婦じゃん・・・など、2人を絶賛する声が止まない。

 

それに気付き、まだ色々運ばれてくるのには時間が掛かるため、席から立って瑞生さんと憐さんは常連の皆にも丁寧に挨拶をすると、その人柄に一瞬で惹かれたのか、あっという間に皆とも楽しく打ち解けていた。流石は光輝のご両親だけある。

と、そんな中、注文していたコーヒーや先生お手製の甘味が到着したので、一旦席に戻り楽しんでいると、そうだ、と憐さんが何かを思い出したかのように声を出し、瑞生さんに話しかけた。

 

「そういえば瑞生、今月末の出張、俺も行けそうだけどどうする?」

「あっ、憐も来てくれる?だったら、先に家に行って色々渡しておいてもらえると助かるんだけど・・・」

「もっちろん!任せといてよ!」

 

出張、という話が気になり、お2人に話を聞くと、なんでも今月末、瑞生さんのお仕事で、長野に出張だという。

そして、その長野がまさに瑞生さんの実家があるということで、お2人は顔を見せに行きがてら行こうと、計画を立てているのだという。

 

ただ、光輝は31日ということで翌日から学校のため行けず、おまけに仕事の関係で遅くなるのが確実だとのことで、泊まりで行かれるとのことだ。

そうなんですね~と私が返していると、ふと、たきなが横からあることを口にした。

 

「そういえばこの日、ウチも定休日ですね。」

 

確かにそうだった。ちょうどこの31日の曜日は、リコリコの定休日・・・そうだ!

 

 

「たきな!だったらさ、光輝の家遊び行こうよ!」

「えぇっ!?」

 

 

そう。休みならば、光輝の家に遊びに行ってもリコリコは何も問題はない!制服じゃない時はリコリスじゃない。なんならDAからの依頼があっても、この日はお休みでーす!ってことにしちゃえば、何の問題もなし!オールクリア、だぜ!

 

「いや何言ってるんですか千束。大体、憐さんと瑞生さんも家にいないのに迷惑になるで「えっ本当に!?いいの!?」

 

すかさずたきながそれに対して反論を言おうとしていたのだが、それを遮るように、憐さんが驚きの声を出してこちらを見てきた。

 

 

「千束ちゃんとたきなちゃん来てくれるの!?凄い助かるんだけど!」

「ごめんね。2人には迷惑かけちゃうし遠いところなんだけど、もしよかったら、その日ウチ来て光輝の面倒見てもらってもいいかな?」

 

 

それは、まさかのお2人からの逆依頼だった。さっき、いつでも歓迎とのことだったが、まさかこんなすぐ、それが来るとは・・・でも、ひとつ言えることがある。

 

 

「はいはいはいはいはーーーい!私とたきなが行っきまーーーす!!光輝のことはおっまかせあれーー!」

 

 

憐さんと瑞生さんの依頼を、断るわけにはいかない!

まあ、本音を言えば、こんな楽しそうなこと、乗らない手はないんだけど!

 

 

 

「・・・なるほど。だから、今日来た・・・と。そのために、車までレンタルして・・・で、千束が運転してきた、と。」

「そう!凄いだろー!」

「わざわざお疲れ様・・・ちなみに、だけど・・・その車のレンタルって?」

「クルミになんとかしてもらいましたので気にしないでください。」

「こっわ・・・」

 

最後の言葉は一旦置いておいて、驚きが隠せないが、確かに少し前に母さん、有給消化で平日に休み取ってたな・・・そう思うと、色々なことが妙に納得した。

数日前、リコリコのバイトから帰ると、元から綺麗だったが、より家が綺麗になっていると思った。

理由を聞いたところ、掃除をしたかったから。の一点張りでそれ以上は言わなかった。

おまけに、食べようと思っていたこのパンも、家族揃っての好物ではあるのだが、いつも買う量からしてみたら多いと思った。

久しぶりに食べたいということだったので買ったということや、おじいちゃんとおばあちゃんのとこにも持ってくから!とのことだったが、片道結構あるけど腐らない・・・?って聞いたが、保冷剤入れるから問題ない!ということで今朝方持っていった。

が、にしてもまだ2斤あるけど・・・?これ1人で食っていいの・・・?と思ってたら、そういうことでしたか・・・2人が来ると、3人前になるから、そりゃ量なきゃいけんですわな・・・と、全てに納得がいったので、他にも色々な話を聞くことにした。

 

「今日は千束とたきなだけ?」

「そうですね。クルミはこんな暑い時期に出るのはパスとのこと。店長は町内会への出席と保健所とのやり取り。ミズキさんはマッチングアプリで知り合った男の人と会う予定です。」

「・・・ミズキさん、上手くいくと思う?俺は上手くいってほしいと思ってるけど・・・」

「光輝には悪いけど、今回も無理だな!だから~、今日は~、お姉さん達が~、ひとりだとな~んにも出来ないダメダメな光輝君の指導係として~」

 

"チーン"

 

「おっ焼けた焼けた行かないと~パンが冷めちゃ~う。」

「おい」

 

トースターのタイマー音が、パンを焼けたことを知らせ、なんか千束がほざ・・・変なことを言っていたその話を綺麗に切ってくれたため、そちらの方へと向かう。

2人にはコーヒーを入れてもらわなければならないため、手伝ってー。と声を掛けつつ、俺は戸棚からお客さん用のマグカップを2つ取り出す。

2人もこちらまで来てコーヒーの準備をしてくれているため、俺はパンの方に注力しようと思い、同じく戸棚からお皿を3枚取り出し、トースターをガラッと開ける。

 

「うーーん!めっちゃいい匂い!美味しそー!」

 

焼けた食パンのいい香りをお供に、ビニール袋からもう一つの長い紙袋を取り出し、中からもう一つの食パンを取り出し、それを切っていく。

 

「これ・・・なんのパンですか?」

 

やはり聞かれるのはわかっていた。形も普通の食パンとさして変わらないのだが、これは中身が違うからだ。

上にはポピーシードがびっしりと乗り、そしてパンの中には、色とりどりの丸いものが入っている。これはなんだと思われても仕方ないだろう。

ただ、俺はむしろ、というより家族全員、こっちのパンの方が好きなのだ。

 

「これね、うぐいす豆とか金時豆とか、甘い豆が練り込まれたお豆の食パン。これめっちゃ美味しいから食べてみて!焼いてなくてもめっちゃ美味しいよ。」

「豆の食パン・・・ですか?珍しい・・・」

「えーそっちも美味しそー!早く食べよー食べよー!」

 

たきなにこのパンの説明をしていると、千束が急かすように声を掛けてきたので、お皿にそれぞれのパンを乗せ、テーブルへと持っていく。

その後ろ姿を見ながらふと、冷静に我に返った。

 

 

・・・なんで俺、この2人と向かい合って食卓囲もうとしてるんだ?

 

いや、友達だから、ってのもそうだし、言いふらしはしないが、我々3人はパートナーであり、チームを組んでいる。だから、時にはこうするのも当たり前なのかもしれない。

とはいえ、そもそも言えば、この2人は、誰がどう見たって、とてつもない、とてつもない、美少女だ。大事なことだから2回言った。

 

だから、事実ではあるが、リコリコでバイトをしている時も、2人目当てで来てる男もいた。けれど・・・

 

 

・・・絶対口には出さないけど、あの2人がナンパなんてされたらたまったもんじゃないから、なるべく俺がいる時は、男の対応は俺が対応した。

だから、俺はあの2人目当ての男からしたら、僻み・やっかみの対象と思われてるかもしれないが、気にしたら負けだ。

とはいえ、本音を言えば・・・俺の命の恩人を、好きな子を、何にも知らないやつに取られてたまるか。という一心なのだが。

大体、あんな銃握ってて、何かあれば犯罪者と相対するエージェント。その彼氏になるなんて、そんじょそこらのやつに務まるわけないだろ。

・・・と、ウルトラマンネクサスになれるやつが心の中でなどと申しており。

 

 

勿論そんなこと言わないし顔にも出さないけれど、そんな美少女な2人が、家に来て、これから一緒に朝ご飯を食べる。多分、他の男が見たら1秒で殺意マックスになるレベルの羨ましい出来事だとは思いつつも、朝から動いていて、おまけにこの驚きでよりお腹が空いてしまったため、今は煩悩よりも、食欲の方を優先しろと、本能がそう言っている。

 

「それじゃあ・・・」

 

3人同時に、声と手を合わせた後、当たり前ながら大事な言葉を口にする。

様々な食べ物を、命を、いただくことへの感謝の言葉を。

 

「「「いただきます。」」」

 

早速まずは、千束が淹れてくれたコーヒーを一口。

サイフォン式ならではの、苦味よりも、コーヒー豆本来の風味や香りが先行してやってくるこのコーヒーは、コーヒーが苦手な人でも飲めると思っている。リコリコで働くまでは、そこまでコーヒーにこだわりはなかったけれど、このコーヒーを飲んでから、俺はこのサイフォン式ので淹れるコーヒーが一番好きになった。

おまけに・・・淹れてくれる人の腕もいいから、尚のこと美味しい。まっ、ミカさん程じゃないけど。

 

「千束、ありがとう。コーヒー、めっちゃ美味しい。」

「ほぉんほおー?はひはほー。」

「ごめん食べてる時に言うもんじゃなかったね・・・」

 

口いっぱいにパンを頬張っている千束を見ると、まるでリスか何かの食事を見ているようだった。

少ししてから、口に含んでいたものを飲み込むと、こちらを向いた。

 

「めっっっっちゃ美味しいんだけどこの豆のパン!!何これどこの!?」

「これ、ウチの近くにあるパン屋のパン。だから、そっちの方で買うのは難しいかなぁ・・・」

「えー!ずーるーいー!光輝ばっかやーだー!」

「それどういう意味よ!?それに、東京の方が美味しいパン屋さんいっぱいあるでしょ!」

 

千束と相も変わらないやり取りを繰り広げている中、たきなもまた、手で口を覆っており、驚きを隠せないようだった。

 

「これ・・・美味しいですね・・・」

「でしょ?こればっかりは、そのままで食べるのが美味しいのよ。」

 

俺が作っているわけでもなんでもないが、とはいえ、地元のものを食べてもらって喜んでもらえるなら、嬉しいに越したことはない。これはまた今度、あそこの店主さんにお土産話が出来るなと思いつつ、俺もまた、お豆の食パンに手を伸ばして口に運ぶと、相変わらずその美味しさに顔が綻んでしまう。そして手を止めず、焼き立ての食パンにも手を伸ばす。

机の真ん中に置いたバターを一つ取ると、それを焼けたパンの上に乗せて、後は・・・ウチのハチミツをこれでもかとかけて、ガブリ。

 

「っ~~~~~~~!」

 

あぁ、これだこれだ!最近全然食べてなかったから本当に美味い!美味すぎる!

やっぱりここのパンは美味い!

 

そしてこの甘くなった口に、千束特製のコーヒーを一口、流し込む。

甘くなった口をさっぱりさせるかのように、まろやかな苦みが口いっぱいに広がり、なんとも言えない幸せに包まれる。

 

「・・・最っ高・・・!」

 

思わず唸るように言ってしまったその一言に、目の前の2人が吹き出し、あっと気付くも、俺まで笑い出してしまう。

 

・・・最初は驚いたけど・・・ここ最近で一番、楽しい朝食になっている。

 

 

 

そうして賑やかな朝食が終わり、ソファーに座っている千束とたきなをキッチン越しに見ながら、洗い物をしていた。

そのくらいはすると言ってくれたが、なんだかんだ言って家に来てくれたお客人だ。流石にやらせるのは気が引けるので、俺が洗っていた。

 

「光輝のお家、いいとこだね~。ホント別荘みたい・・・」

「ですね・・・外観がもう、ログハウスですからね。こんな家に住んでる人なんて、絵本の中の人だけだと思ってました・・・」

 

千束とたきなは窓の外に映る大自然を眺めながら、我が家に思い思いの感想を言っている。とはいえ、その言い分は間違ってはいない。何故なら・・・

 

 

「別荘みたいもなにも、ここ、本当に別荘だったからね。」

「「えっ!?」」

 

 

そう。確かに、"この家は、元々別荘だったのだ。"

 

 

「とはいえ、多少なりとも増改築はしたんだけどね。父さんの友達の・・・確か、尾白さんっていう建築士の人がこの家の設計をやってくれたみたい。」

「えっ?これ瑞生さんと憐さんの別荘だったの!?」

「それとも、お二人のご両親のですか?」

 

あぁ違う違う、と声を掛けると同時に、洗い物も終わった。そのため、対面に設置されている一人用のソファに座ると、俺も父さんから聞いた話なんだけどね・・・と、注釈を入れた上で、俺はこの家のことを話しはじめた。

 

「そもそも父さんって、元々アメリカ生まれなんだよ。」

「えっ!?憐さんってアメリカの人なんですか!?全然そうとは見えなかったですけど・・・」

「そこに住んでた日本人同士で結婚して生まれた人だから、そうとは見えないんだよね。とはいえ、多少だけど血は入ってるみたい。クォーター、だったかな?」

「憐さんってそうだったんだ・・・でも、なんで日本にいるの?」

「昔から日本って国に興味があって、それで今の俺と同じ年齢くらいの時に、日本に観光に来て、その時に、日本が凄く気に入って、それで高校卒業してすぐ就労ビザで日本に来たんだって。で、その時にたまたまなんだけど、遊園地に住み込みで働きだしたみたいなのよ。で、その当時孤児院の施設のボランティア活動とかをやってる中で母さんと知り合ったんだけど、一緒にいたいってなってもビザあるから帰らなきゃならない。だったら・・・ってことで、帰化申請をして、父さんは日本人になったんだよ。」

 

そうなんだ・・・と驚く2人だったが、そこでたきながあることに気付いた。

 

「ただ、この家の話全然出てきてませんけど・・・?憐さんの話と何か関係があるんですか?」

「わかってる。ただ、この家のこと説明しなきゃなんないとなると、その説明が必要だったんだよ。」

「どーいうこと?遊園地とここ何も繋がりないと思うんだけど。」

「父さんが遊園地で働いていて数年が経ったある時に、常連の老夫婦がいたみたいで、父さんのことを凄く気に入ってたんだって。その人が、実は結構なお金持ちでね・・・」

 

そこまで言うと、2人も何を言おうとしたのかハッとし、気付いた。

 

「・・・まさか・・・?」

「そうだよ。この家が、まさにその人が持ってる別荘だったの。」

「じゃあ・・・譲ってもらったってこと?」

「・・・に、なるのかな?俺もそこまで詳しいことはわかんないんだけど、老後の暮らしとしてここの別荘・・・もっと言うと、この山そのものを、買っただったか譲ってもらったみたいなのよ。」

「山買ったの!?その人やっば!?」

「買ったんだか誰かから譲ってもらったんだか、そこは俺もあいまいなんだけど、ここに別荘をその人が建てたってことは聞いたことある。ただ、建てたはいいものの、山だしだんだん足腰も悪くなってって中々行きづらくなってきたんだけど、だからって血縁関係ある人もこんな辺鄙なとこ誰も住まないんだ・・・って話をされた時に、もし良かったら俺住むよ。って言って、父さんが住み始めたんだって。で、この山も譲ってもらったみたい・・・それで働いてた遊園地辞めてここに来たんだよ。それで、まぁこんな土地ってこともあって、周りに住んでる人から農業を教えてもらって、それで山開拓して・・・で、今に至ってるみたい。」

「そうなんだね・・・」

「ちなみに、その譲ってくれた人は俺がこの家来る前に亡くなってるみたいだから、俺はその人のこと全然知らないんだけどね。」

 

あははと苦笑いをする一方、意外な話に終始驚いて呆けたような表情をしていた2人だったが、すぐに千束はニヤリとした。

 

「じゃあ~、今度からここが、私達の別荘になるってことだね!」

「・・・ん?いや待て待て待て。何故そういう理論に?」

「光輝のものは私達のもの、私達ものは私達のものだからね。」

「いやいやなにその理論・・・?まぁでも、たまに来るくらいだったらいいよ。母さんも父さんも喜んでくれるだろうし。それに、母さんのご飯、めっちゃ美味しいから、今度は母さん居る時にでも来てよ。」

 

やった!と喜ぶ千束を横目に、俺は最後にそのように言った理由は別にある。

 

俺もそうだったが・・・リコリスは、いやDAのエージェントは、孤児を集めて作られた組織だ。

 

以前、ミズキさんがどうしてDAを辞めたのかということを聞いたことがある。

その理由は・・・"孤児を集めて作るようなキモイ組織に嫌気が差した"、とのことだった。

 

とっくの昔にそこを辞めた、いやクビにされた俺も今ならわかる。

確かにそのやり方は、ミズキさん同様気に食わないし、今この瞬間にも行われているのかもしれないと考えると、腹立たしく思ったこともある。

けれど・・・それがなかったら、こうして皆にも会えていなかったのも事実だ。なので、その点についてだけは感謝をしている、と言っておく。

 

ただ、俺は血は繋がっていないが、息子として、もう嫌というほど、母さんのご飯を食べ続けてきた。

なので、いらぬお節介だと承知しているが、俺もそうしてもらったからこそ・・・"母親という存在がいないこの2人に、母という人間が作る手料理というものを、一度くらいは味わってほしいと思っているのだ。"

もちろん、一度だけじゃなくて何度食べに来てもらっても構わない。

俺も、この2人に色々なことをしてもらったからこそ、俺に出来る範囲で、あげられるものをあげていきたいのだ。

 

そんなことを思っていると、千束が俺のことを呼んだので、そちらの方を向いた。

 

「家の周り、案内してよ!」

 

あぁそうか。そりゃそうだ。ウチに来たんだ。だったら、この環境についても紹介しなければならないだろう。

いいよとOKを出し、それじゃ行こうかと2人に声を掛ける。

どうせ家だ。格好など何も問題はないため、サンダルを履き外に出る。

 

外に出ると暑さがかなり上がってきていて内心うんざりしつつも、今日2人が乗ってきた車が目の前に飛び込んできた。

オレンジ色の軽トールワゴン車。2人のような女の子にも似合う車だなと思いつつ、この車について千束が説明をしてくれたのだが、以前話をしていた、脱走して石垣島に行く道中、一時的にこれを借りて乗っていたそうで、その時に乗り心地が良かったため、今回もこれを選んだという。そんな選び方・・・と思いつつも、思い出したことがある。

 

「そっか・・・リコリスだから運転技術も習得してて当たり前か・・・」

「光輝はリリベルの時は取らなかったの?」

「年齢が年齢だったから講習が無かったんだよ。流石に俺がいた当時の年齢で運転してたら・・・ね?」

「まぁ、確かにそうですね・・・ただ、私も千束も18なので、一般道を運転したとしても、誰からも特に何も言われませんけどね。」

「あっそっか・・・2人とも18か・・・そうか、俺、一番年下なのか今・・・」

「そうだぞ~?もっと敬えよ~後輩く~ん?」

「いつでも2人のこと尊敬してるって。後こっち駐車していいからね。」

 

駐車位置について軽く説明をすると、2人が気付いた。

それは・・・

 

「これ・・・カブ?」

「あぁそうそう。俺の原付。スーパーカブ。いいでしょ?」

 

白と緑色、2色の塗装が施された、愛しの原付スーパーカブ。

これに乗って最寄り駅まで行くこともあればだらだら走ることもある。最高の相棒だ。

ちなみにこの色は、古臭いと思われるかもしれないが、"あの番組"を見たら、どうしてもこれに乗りたかったのだ。

 

「カブって、なんかありません?かごみたいな。」

「あるのもあるけど、ウチは付けてないよ。あれあるとめちゃダサいから・・・」

「でもあれ付けて乗ってる光輝の姿も目に浮かぶけど。あれ乗ってる光輝・・・ププッ」

「笑うな笑うな。」

「事故とか起こしてないですか?」

「起こすかい!そんな工事用信号の停車中にニュートラル入れちゃってて、いざ青になって行こうとしたら、動かないからアレッと思ってギアいじったっけロー入っちゃってもうウィリーさ、ってなって安全第一の柵に突っ込むウィリー事件なんて起こさないわい!」

「・・・どういう意味ですか?」

「好きな番組でそういう場面があってね・・・」

 

そんな話をしながら、家のすぐそばの坂を少し上がると、まず見えてくるのは・・・

 

「わーっ!なにこれー!?」

「すごい・・・!」

「これが、ウチの庭。俺はフィールドオブヘブンって言ってるけどね。まぁ、某フェスから取ったんだけど。」

 

苦笑いしながら紹介する・・・ウチしか使えない、究極の庭。フィールドオブヘブン。名前の由来は日本四大フェスのあのステージから取った。

 

整地された平らな土地の真ん中には焚火が出来るよう、地元のフリーマーケットで安価で売られていた少し大きめの焚火台をドンと置き、そこで薪を燃せるようにしている。

ちなみにこの炭は後々土地の肥料にも出来るなどあるから、環境にも優しい。

ちなみに倉庫には、自作の焚火ラックも置いてあるので、今は暑いのであまりしないが、ウチは時折、お昼ご飯か夜ごはんを屋外で楽しむこともある。なので、キャンパーからしたら、ウチは垂涎の的だろう。

そして、その周りを囲む木々の間に、2つほど、あれがかかっている。俺の、最高のお昼寝用ベッド。

 

「うっはーーー!ハンモックだーーーー!」

 

ハンモックに気付いた千束が、ダッシュでそちらの方まで走って駆け寄っていく。

木々の間に取り付けた、テントに使われる帆布で作られたハンモック。耐久性も100キロ以上あるため、よっぽどのことがないと壊れない、絶好のお昼寝環境だ。

 

「凄いですねここ・・・これ、光輝や憐さんや瑞生さんが作られたんですか?」

「環境自体は俺が来ていた時にはもう出来てたんだけどね。父さんたっての希望で作ったみたい。ハンモックはこの時期だと寝るには暑いけど、春とか秋だったら、最高に気持ちいいよ。」

「・・・本当に、いい場所ですね・・・」

「なら良かった。また涼しくなったら来てよ。紅葉の木々見ながらハンモックでお昼寝するの、最高だから。」

「それ、メッチャいいですね。またここに来る理由、出来ちゃいましたね。」

 

ぜひ。とまたのお越しをお待ちしていることを伝えると、たーきなーこーきーこっち来てよー!と呼ぶ声が聞こえたので、そちらまで2人して行くと、すでに千束がハンモックに横になっている。

すっかり、ハンモックも、俺の家も、気に入ってくれたようだ。

 

「ぁああ~~~・・・光輝ん家最っ高・・・マジ天国・・・マジ別荘・・・週一で来たいぃぃ・・・」

「この時期に日中の屋外で寝たら日焼け凄いことになるからやめときなー。ほれ次行くで次ー。」

 

そう言って次の場所へと案内しようとするのだが・・・

 

「たきなーおろしてー。」

「いや自分で降りてくださいよ。」

「やーだーたきなに降ろしてもらいたいのー!バランスを崩して地面に落ちそうになる私をお姫様抱っこで受け止めてほしいのー!」

「漫画の読みすぎです!」

 

 

・・・ほっといて先行ってるか。

 

 

そうしてなんだかんだしぶしぶ自力で降りた千束とたきなと再度合流し、3人を更に案内していく。

 

「うわー!すごー!野菜いっぱーい!」

 

まずはウチの家庭菜園。

夏場なのでトウモロコシにししとうにナスにインゲンにパプリカやら色々な夏野菜たち。どれもこれもが立派に今年も育った。後は野生動物から食われなきゃ良いだけだ。

 

「こっちはサツマイモとカボチャ植えてるけど、もう少ししたら収穫できると思うから、もしよかったら休みの日にでも収穫手伝いに来てよ。」

「えっ本当に!?いいの!」

「こんなに色々やってるんですね・・・」

「まぁ~色々やらないとね。生活も大変だから。」

 

そしてさらにここから歩いてすぐには、あれもある。

 

「果物も作ってるんですか!?」

「そうそう。今はあんまないけどね。」

 

個人的に、ハチミツを作る中で必要となって育てている、果物。

 

レモンとりんごとブルーベリー。どれもこれもが美味い。

少しだけ道の駅にも出荷しており、もう少ししたらこれを朝から収穫するのが一日のスタートになってくる。

そして更に、ハチミツ作りに良いとのことを聞き、キウイも数年前より作り始めており、もう少し寒くなったら、美味しいキウイもなってくるはずだ。そのための土壌改良や土への栄養補充も、俺のやるべき仕事の一つだ。

 

「はー!早くこのフルーツもリコリコで食べたいなー!センセーこれでどんな美味しいもの作ってくれるかなー」

「えっこれも流すの・・・?」

「当たり前ですよ。ちなみに、憐さんはもう乗り気ですから。」

 

父さんがいつの間にかOKしていることに頭が痛くなってくるのだが、その頭痛を抑え、そこからさらに上に少し登ると、見えてくる。

リコリコに提供している、アレが。

 

「これが光輝の家の・・・」

「そう、蜜箱。ただ、危ないからこの遠くの方で見てね。リコリスでもハチは相手に出来ないでしょ?それに、アナフィラキシーショックになるかもしれないし。」

 

段々畑になった斜面には、大量の蜜箱がずらっと並んでいる。

あそこで、常にミツバチが頑張り、そして、恩恵に預かっている。いわば、我が家の生命線だ。

ちなみに、なのだが、実は他の店にも卸しているので、正確に言えば、リコリコは、ウチのハチミツを使ってくれている飲食店としては、最初のお店ではない。だけれど、そんなこと言う必要はないので言ってはいないけれど。

 

「本当に農家さんの家だね・・・」

「・・・これ、確かに大変ですね。」

「でしょ?これに高校生やってバイト2つ掛け持ちして、そしてネクサスだよ。過労死してないのが不思議だよ。」

「いや私達だってリコリスだけじゃなくて日本語学校と保育園の手伝いと各所への配達も色んな人の依頼も受けてますー。」

「自分だけが疲れたように言わないでください。」

「ごめんなさい・・・というか、俺達さ・・・この年齢の割にめちゃくちゃオーバーワークしてない?」

 

そんなことを話しながらウチの庭まで降りてくると、プーッと車のクラクションを鳴らす音が聞こえたが、俺はすぐにそれが誰かわかった。

そうやってウチに来たことをクラクションを鳴らして知らせるなんて、あの人しかいないと。

 

とりあえず、ちょっと待っててと声をかけ、俺は家の方まで降りていこうとすると・・・

 

「あっ、ナツさん来た!」

「えっ?」

 

何故か千束が、誰が来たのかを言い当てた。

実際その通りなのだが、とはいえ何故・・・と思っていると、一つの可能性に行き着いた。

 

「・・・まさかさ、連絡したの?ナツばあにも。」

「そうだよー!そりゃ当然私とたきなが行くんだから、ナツさんにも連絡しなくちゃ!」

 

確かに、よくよく考えたら2人はナツばあと連絡を取れる。というより、今思えば、あそこに電話をかけてきたことが、今に繋がる全ての始まりだった。

そして、確かにここに来ることを俺にサプライズにしていたのなら、ナツばあに連絡するのも当たり前といえばそうだろう・・・そして、だから今日休みにしたのか?と、今日休みにした経緯をなんとなく察したところで、ハッと、あることに気付いた。

ナツばあが来るのであれば、だとすれば・・・!

 

「♪~~~」

 

軽く口笛を吹いた後、しゃがんだ。

奴を、待ち構えるために。

 

「どうしたの光輝?」

「しっ、静かに。来るぞ。」

「来るって・・・?」

 

2人に対し、静かにするよう諌める。

 

そう、奴を警戒させてはならない。

 

何故なら、今から来るのは・・・俺の・・・

 

 

 

 

 

「アンアーーーン!」

「プチ丸ーー!よく来たなーーー!!」

「キャーーー!プチ丸ちゃんだーーー!!」

「!カワイイ・・・!」

 

 

・・・弟だからだ!

 

 

小型犬でありながらも、その顔には見合わない少しだけ長い足ながらも、トコトコトコトコ…と、足音が聞こえるくらい、歩く姿が最高に可愛らしい。そして、尻尾をブンブン振りながら駆け寄ってくる姿。もう、一挙手一投足、全てが可愛い。

そんなプチ丸を抱きかかえようとした瞬間、千束が前に出た。

が、一瞬でプチ丸も、知らないやつが目の前に来たということで、急にハッとし、その場で足を止めた。

 

「なんでー!なんでプチ丸ちゃん私の胸に飛び込んできてくれないんだよーーー!」

「いや初対面の人間にすぐなつくわけないやろ。まぁでも、もう少ししたらプチ丸も慣れると思うよ。」

 

そりゃそうだろう、というド正論とプチ丸のことを話していると、ゆっくりとだが、ナツばあがやって来た。

 

「ナツばあいらっしゃい!」

「はじめましてナツさん!」

「はじめまして。いつも光輝がお世話になってます。」

「いやー千束ちゃんたきなちゃん!ようやく会えたねー!私も会えてうれしいよ!」

「ナツばあ、言ってくれてもよかったじゃん!千束とたきなが来るのは内緒にしたとしても、せめて今日ウチ来るくらいさー!」

「なーに言ってんだい!それじゃサプライズにならんでしょーが!」

 

ジーンズに水色のシャツ。それにワインレッド色のハイヒールに黒いベレー帽と、今日も今日とて、相変わらず年齢不相応なファッションをしているナツばあだが、そんなビジュアルであっても2人は関係なく、朗らかに挨拶をする。

その一方で俺は少し文句を言うが、それもあっさりと流されてしまう。

 

「いやー!しっかし千束ちゃんもたきなちゃんも、写真の何倍も美人さんだねぇ2人とも!」

「えー本当ですか!」

「ありがとうございます。お世辞でも嬉しいです。」

「なーに言ってんだいたきなちゃん!あたしはお世辞なんか言わないよ!2人はこれまで出会ったどの子よりもかわいいよ!そんな謙遜なんてする必要ないの!」

「えっ?そ、そうですか・・・」

 

あっという間に打ち解ける3人ではあるが、話をしながらではあるが、チラチラ2人の目線は、そちらに移っている。

ナツばあの足元をちょろちょろ歩き回る、プチ丸の姿に。あー可愛い。

 

「あのー、そろそろプチ丸ちゃんを抱かせてはもらえませんかねえ・・・?」

「あー千束ちゃん、もうちょっと待っててねぇ。もっちろん抱かせてあげるけど、その前にやってもらいたいことがあるんだけど、いいかい?」

 

ナツばあからのお願いに何だろうと思いつつも、断る理由などない。そのため、一旦家へと戻ることにするが、その先頭を歩くのは、我が弟プチ丸だ。

尻尾をフリフリ揺らしつつ、プリプリのおけつを無意識に見せつけるプチ丸の可愛さったらない。本当に可愛い。癒し。天使と辞書で引いたらプチ丸の顔が出るべきだ。うん。

 

そうして家まで再び降りてくると、ナツばあの愛車のクロスカントリーを連想させる、軽自動車。

その後部座席を開けると、3つの発泡スチロールで出来た箱が目に入り、それを見て、すぐに察した。これは、俺の大好物の、あれだと。

それをナツばあの指示で3つ全部持っていこうとしたのだが、千束もたきなも運ぶのを手伝ってくれたため、1回で全てが済み、玄関には3つの発泡スチロールの箱が積み重なった。

 

「いやー、助かったよ千束ちゃんもたきなちゃんも!」

「ナツさんの頼みならおやすい御用ですよ!で、この中って何が入ってるんですか?」

「見てごらん。」

 

ナツばあはニヤニヤしながら、千束に箱を開けて中身を見るよう言い、一つ目の箱の蓋を開けた瞬間、あーーーっ!と、千束は大声を出した。

 

「うわーーー!牡蠣じゃないですかーーー!?」

「すご・・・本物じゃないですか!?」

 

発泡スチロールの箱の中には、ぎっしりと牡蠣が詰まっている。毎年この時期になると送られてくる、いや正確に言えば、持ってきてくれるこの牡蠣。

どういうツテがあるのかわからないが、何故かそちらの方にも顔が広く、毎年この時期になると持ってきてもらえるそうだ。

 

常々思うんだけど、ナツばあ何者なんだろうか・・・?

 

ただ、いつもならば2箱だけなのだが、今年は珍しくもう1箱あり、かつ、これは中身が違いますよと言わんばかりに、水色の箱だ。千束とたきなが来るからもう一つ追加で持ってきてもらったのかなと思っていると、開けてごらん?と言われたため、残り2つの箱の蓋も開けてみることにした。

2つ目は思った通り牡蠣。そして気になっていた水色の箱を開けてみると・・・

 

「うええええっ!?」

「でええええっ!?」

「え、やば・・・!?」

 

3人同時に、驚きの声をあげるが、それも当然だ。

目の前の箱の中には・・・とんでもなくでかいエビが1匹いた。

そのサイズと顔を見たら、誰もがわかる。

 

「これ・・・伊勢海老じゃん!?どうしたのこれ!?」

「知り合いの漁師から送られてきたんだけどね、あたしだって1匹食えば十分ってわけよ。だから、1匹おすそ分けで持ってきたってわけ。」

「・・・あの、これのお代は・・・」

「お金なんて気にしなくていいのよたきなちゃん。あげるあげる。みんなで食べて。」

「ホントですかーーーー!!うっはーーー!ナツさん好きーーー!!」

 

喜ぶ千束と驚きで未だに口をあんぐりと開けているたきなと俺。こんなもん渡されて、驚かないわけがない。おまけに、タダ。なんでこれに千束は普通に喜べるんだ・・・あとやっぱり、ナツばあ何者・・・?

 

「はい光輝君、これ入れといてね。」

 

と、ナツばあがそう言ってきた。そりゃ勿論、冷蔵庫にはすぐに突っ込もうとは思っていた。こんな暑さだ。すぐに入れなければ腐ってしまうのは当然なので、それにOKを出す。

 

「じゃあ千束ちゃんたきなちゃん、その間に一緒にプチ丸の散歩行こうかね。」

「はいいいっ!?」

 

やったー!と喜ぶ2人と対象的に、俺は怒る。そりゃ当然だ。プチ丸の散歩を2人がするなんてと思っていると・・・

 

「そりゃあんた、この家に住んでるんだから光輝君の方がよく知ってるでしょ!それに、プチ丸もトイレ行かせてあげなきゃいけないし、何よりも、千束ちゃんとたきなちゃんはそうそうこっちに来られないんだから!」

 

・・・ぐうの音も出ない正論を言われ、仕方がなく、プチ丸を2人に預け、俺はしぶしぶ、泣く泣く、冷蔵庫へと、もらった牡蠣と伊勢海老を入れることにした。

というより、冷蔵庫でいいのだろうか?牡蠣はまだしも、伊勢海老なんて冷蔵庫に入れたことなんてない。後で調べなければ・・・と思いつつも、それよりももっと丁重に扱うべき存在がいる。いくらパートナーとはいえ、弟的な存在に何かあれば困る。

 

「よーしプチ丸ー!お散歩へレッツゴー!」

「ふふ、プチ丸ちゃんはいい子ですね。」

「お前らー!プチ丸は丁重に扱えよー!」

 

俺の負け惜しみを全く聞いているような素振りもなく、3人は外へと出ていった・・・

 

 

 

「いやー、悪いねぇ。ああは言いつつも、こんな暑い時に散歩に付き合わせちゃって。」

「いいですよいいですよ気にしないでくださいよー!プチ丸ちゃんともお散歩したかったですしー!」

 

散歩を始めた3人は、光輝の家の山の中をプチ丸の散歩、という形で辺りを散策していた。プチ丸もここを歩くことに慣れているのか、リードを着けなくとも、てくてくと軽快に歩いている。

陽は高いものの、身長よりも遥かに高い木々が、いい木陰になっていることや、そこから抜ける風は、気持ちが良く、天然のクーラーのように感じられる。そのため、暑さは感じつつも、東京にいる時とは違う暑さを感じており、これが田舎の夏なのかと、千束とたきなは肌でそれを感じていた。

 

「プチ丸ちゃんのトイレとかはどうするんですか?」

「大丈夫大丈夫。山だからそこらへんにしても何も問題ないから。この子ももう慣れっこだし。」

「そうなんですね・・・放置でいいんですか・・・」

 

東京でよく見かける犬の散歩というと、飼い主は必ず、犬がトイレをした際、エチケット袋ではないが、必ずしたものは持ち帰っており、それが当たり前だと思っていた。だが、確かにここは光輝の家族の所有地であるため、そういったものを持ち帰らなくてもいい。放置でいいということにたきなは少し驚いていると、ところで・・・と、ナツは切り出す。

 

 

「千束ちゃんとたきなちゃんが、例の、リコリスってやつかい?」

 

 

それまでのにこやかでフレンドリーな雰囲気は変わらずではあるが、急にその口から飛び出た、自分達の存在を表する名前。

それに一瞬驚き、目の筋肉が少し動く。

 

「なんのことですかナツさん。あぁ、確かちょっと前にあった延空木のあれですか!」

 

ただ、それが何のことか知らないかと言わんばかりの態度を千束は取り、たきなもまた、何も口にはしないが、知らない存じ上げない、と言わんばかりに、終始無言を貫く。

 

「まぁそうだよねえ。だったら、こう言えばいいかい・・・」

 

だが、ナツはそこで終わりにはせず、まだ何か言いたげなように言うと、先程のにこやかでフレンドリーな雰囲気は、一瞬でなりを潜めた。

 

 

 

「・・・"彼岸花"、って。」

 

 

 

彼岸花、それはリコリスという英単語の日本語訳であり、日本でこの花を言う時には、リコリスではなく、彼岸花、という言葉が基本は使われる。

だが、今ナツの口から出た彼岸花は、花という意味で言ったものではない。

 

 

それは─────"かつて、リコリスがその昔、そう呼ばれていた、部隊名。"

 

 

おそらくその意味を、目の前にいるこの人物はわかっている。だからこそ、千束もたきなも、一瞬で表情を、どこにでもいる女子高生から、リコリスのエージェントにへと雰囲気を変える。

ナツもそれには気付いていたが、特段そんなことを気にもしていないのか、両手を後ろに回すと、ゆっくり前を歩き始めた。

 

「日本人は規範意識が高くて、優しくて温厚。法治国家日本。どこも危険なんてない。社会を乱すものの存在を許してはならないし、存在していた事も許さない。そういった者は、消して消して消して、綺麗にする。危険は元から無かった。平和は、日本人の気質によって成り立っている。そう思わせることが、リコリスの一番の幸せであり、それを作るのが、リコリスの役目・・・だろう?千束ちゃん?たきなちゃん?2人のやってる仕事も、そうだろう?」

 

ナツの口から出た言葉は、"リコリスの存在意義や、リコリスがやること。"

それを目の前の老婆は、スラスラと口にした。その様子に、千束もたきなも警戒し、先程の穏やかな空気は無くなり、張り詰めた緊張感が3人の間に広がる。

 

「・・・ナツさん、あなた一体何者なんですか?まさか昔・・・リコリスだったんですか?」

「なぁに。あたしはただのおせっかい焼きババアだよ。それ以上でもそれ以下でもないよ。」

「いやいや、そんなわけないですよね。ナツさん、流石にそこまで知ってるの、ちょっと怖いんですけど。」

 

千束もたきなもすでに、目の前にいるこのおばあさんは、只者ではないということを肌で感じた。彼女の口から次に何が飛び出るのか身構えるものの、今は武装も何も持っていない。

かつ、ここは光輝の敷地内だ。もし何か起こせば、こちらの方が悪いことをしたと思われてしまう。ましてや、いくらリコリスとはいえ、老婆相手に何かするというのも、後ろめたい気持ちがある。

だからこそ、次にどうすればいいのかという最善の手段を頭の中で考え続ける。

 

 

 

「なーんてね。ごめんねえー千束ちゃんたきなちゃん。クソババアになっちまって。」

「「えっ?」」

「あーあ。やっぱり、クソババア・老害。それだけはならないようにしないとね。やっぱやるもんじゃないわ。イジワルクソババアのキャラなんて。」

 

だが、ナツは再び、先程までのにこやかでフレンドリーな雰囲気に一瞬で戻る。それに一瞬気を取られるが、とはいえ警戒心が完全に消えたわけではない。

が、ナツはにこやかな笑顔を浮かべたまま、千束とたきなの方に近寄っていくと、千束の右手、たきなの左手を持つと、ゆっくり、優しい力で握った。

 

「ごめんね。意地悪なことばっか言っちまって。2人がいい子だってことはとっくにわかってるけど、一応確かめときたくてね。」

「ナツさん・・・?」

「大丈夫。あたしは2人の敵じゃないし、2人がリコリスなんてことも、誰にも言いやしないよ。2人とも、もし何か本当にピンチになったら、あたしに連絡してきな。何とかしてあげるし、ご飯くらい言ってくれれば、いつでも出してあげるし、急に来ても出してあげるから。2人とも、私にとっちゃ、お孫ちゃんみたいなもんよ。こんな可愛い子に手出すクソみたいな男、全員バイクでひき逃げでもしておくわよ。」

「・・・ナツさん、それ犯罪ですよ。」

「だーいじょうぶだいじょうぶ。そんなことになったら、2人の手であたしがひき逃げしたこともみ消しといておくれよ。」

 

ジョークなのだが、今彼女が言った、もみ消し、というのは、リコリスがそういうことを出来る、というのをわかっているからこそ言っている、というのは理解しているのだが、そのワードセンスに、思わず千束もたきなも含み笑いをしてしまう。

それと同時に、ナツの放つオーラ、ではないが、本人からにじみ出ている、優しい温かな雰囲気。それにいつの間にか絆され、先程までの警戒感はどこかにへと消えていた。

 

「それにね・・・」

 

ただ、ナツは再び何か言いたげに言うと、千束とたきなの顔を見て、穏やかな笑みを浮かべる。

 

「千束ちゃんとたきなちゃんみたいな、強くて優しい子がそばに居てくれるから・・・光輝君は、どんなことがあっても立っていられるんだろうね。ありがとうね。あの子の味方になってくれて。支えてあげてくれて、ありがとう。」

 

その言葉は、2人への感謝だが、その向こうに、光輝への感謝があり、終始、含みを持たせた言い方だった。

そのような言い方をするということ。それは、つまり・・・

 

「ナツさん、まさか、光輝のこと・・・?」

「ん?あたしはただ、友達もろくすっぽいやしない、一人寂しい高校生活を送っていたあの子を楽しいことに巻き込んでくれたって意味で言ったんだけど?なんだい?そうじゃないんかい?他に何かあるんかい?」

 

それについて聞こうとしたが、ナツは常にひとりぼっちな光輝を、楽しいことに巻き込んでくれた2人への感謝だということで言ったのだといい、違う意味があったのかと、頭に?マークを浮かべた。

 

 

だが、千束もたきなも、何も言わないが、察した。

 

 

リコリスと自分達のこと呼んだのならば・・・光輝のあのこと、いやもう一つの姿のことも、ナツはわかっている。

だが、先ほど自分たちにしてくれた約束と同じく、光輝とも同様の約束をしたからこそ、あえて、口には出さないのだろう。

それに気付き、ふふっと、2人も思わず笑みを浮かべる。

 

「そうでしたか。失礼しました。」

「ナツさん、私達のこと秘密にしといてくださいね~。もし誰かに言ったらナツさんでもどうなるかわかんないですよ~?」

「もっちろん言うわけないよ。女の子は秘密が多い方が、モテるからね。2人もそのままでいなさいよ?あっ、もう既にモテモテかしら?今まで何百人の男ふってきたの?」

「もーナツさーん!やめてくださいってばー!」

 

話が一段落し、3人の空気も最初の時のような和やかな雰囲気に戻ると、へっへっへっ・・・と、下の方から声が聞こえてきた。

全員が下を見ると、いつの間にか気ままな一人、いや一匹散歩を終えたプチ丸が、お座りをした状態で首を上に向け、3人を見上げていた。

 

「あーそうだった!プチ丸ちゃんごめんねー!よーし千束さんがプチ丸ちゃんを抱っこしちゃろう!」

「あーちょっと待って千束ちゃん。抱っこする前に、ちょっとやってほしいことがあるんだよ。」

 

やってほしいこと?と聞き返すと、ナツは親指と人差し指で、ピストルの形を作った。

 

「それでプチ丸の方狙ってバーン、って言ってみな。面白いもんが見れるわよ~?たきなちゃんもやってみな?」

 

千束だけでなく、たきなもやってみた方がよいとのことで、は、はぁ・・・と、何もわかってはいないのだが、たきなも承諾すると、2人で指でピストルの形を作り、それをプチ丸に向ける。

 

「バーン!」

「バ、バーン・・・」

 

元気よく言う千束と、恥ずかしそうに言うたきな。

それを見たプチ丸は、数秒じっと2人の方を見つめる。

そして・・・

 

「アウッ」

 

という声を出し、横になった後、

 

「クゥン」

 

仰向け状態に、自らなった。

お腹を上に向けた、いわゆる、へそ天、というポーズだ。

しかし、こうして撃ったふりをした後では、降参、あるいは、やられたーと、喋れはしないが、そう言っているようにも見える。

 

 

しかし、それを見たのがいけなかった。

こればかりは、たきなだけでなく、千束でも、かわせなかった。

 

 

「「~~~~~~~~~っっっっっっ!!」」

 

 

 

─────撃ち抜かれたのは、千束とたきなの方だった。

 

 

 

「おっ、やっと帰ってきた。みんなおかえりー。」

 

玄関の前で3人の帰りを待っていると、ようやく3人が帰ってきたため、手を振って出迎える。

3人がこちらに歩いてくる中、たきなの腕の中にプチ丸はすっぽりと収まっており、腕を支えに抱かれていた。

 

「あれ?たきなにもうそんなになついたのプチ丸?」

「はい。さっきまでは千束がプチ丸ちゃんを抱いてたので、今は私の番ということで。」

「なんだよー、たきなが抱かせろ抱かせろって私をせかしてきたからだろ~。」

「なっ!私はそんなこと言ってませんよ!」

「はいはい2人とも。まずはプチ丸に水やんなきゃいけないからちょっとおろしてやってね。」

 

それに従い、たきなはプチ丸を下ろすと、用意しておいた犬用の水飲み容器へとすぐにプチ丸は駆け寄り、ぺろぺろとお水を飲んでいく。かわいい。

そして飲み終えると、俺は例のものを取り出した。お散歩をしてきたプチ丸への、ご褒美を。

 

「ほーれプチ丸~。お散歩頑張ったご褒美やぞ~。」

 

取り出したものは、プチ丸の大好物。市販品、サツマイモ100%・無添加な犬のおやつ。その名もまじうまやわらかさつまいもスティック。

それを見た瞬間、おすわりをし、へっへっへっ・・・と舌を出しながら待つ。かわいい。本当にかわいい。

 

「よーしいい子だ。さっ、おたべ~。」

 

すぐさまこちらに駆け寄ってくると、一目散にガジガジガジ・・・と食べていく。お散歩もしていい運動になったことや、これが一食目ということでお腹も空いていたということもあってか、あっという間に完食をした。

もう一本あげたいけれど、1本でもそこそこなボリュームのため、1日1本までというのは、ナツばあと決めたルールだ。まあ、ポチャポチャになったプチ丸もそれはそれでかわいいだろうけど・・・!

 

「さっプチ丸~、遊ぼうか~。」

 

そうしていよいよプチ丸と遊ぼうと手を伸ばした瞬間、物凄い速さで、千束とたきなが目の前に割り込んできた。

 

「おープチ丸ー、かわいいなぁぁぁデヘヘヘヘへへ」

「いい子ですねプチ丸ちゃんは。ふふっ、よしよし。」

 

・・・あれ?

 

「おーい、千束ー、たきなー、プチ丸と遊ばせて~・・・」

「うりうり~~~、もっとおなか触っちゃうぞ~。」

「おなかもぷにぷにしてて・・・はぁ~・・・プチ丸ちゃんかわいい・・・」

 

 

・・・・・・・

 

 

「おい貴様ら、弟を返せ。」

「はっ?いや私とたきなの弟ですけど?」

「何で光輝に私達の弟を返す必要があるんですか?」

 

 

 

・・・カチン

 

 

 

「なんだと貴様ら!大体貴様らはまだたかだか数十分の付き合いだろうが!そんなやつがプチ丸のことを理解出来るわけないだろーがあぁん!!?」

「はぁー!?私とたきなへのなつきっぷり見ろやー!どっからどう見ても私とたきなをお姉ちゃんだと思ってますぅーー!!」

「少なくとも光輝より私達の方がペットの扱いには慣れてますし光輝みたいなガサツな男がプチ丸ちゃんを扱えるわけないでしょーが!!」

「はぁぁっ!?言ったなこのアホどもがよーーーー!!よーし戦争だ戦争だーー!!」

 

久しぶりの3人の喧嘩は、愛するワンコ、いや弟の所有権について。

当人達からしたら苛烈な、けれども傍から見たら平和な喧嘩を横目に、この犬の本来の飼い主であるナツははぁ、と小さくため息を吐く。

 

 

「これが世界を救ったウルトラマンネクサスと犯罪者から日本を影で守ってるリコリスとは思えないねぇ。」

 

 

その喧嘩を、呆れたように見ながら、いつの間にか抱っこしていたプチ丸の頭をもう片方の手で撫でる。

 

「あんたよかったねえ。あんたは間違いなく、世界一強いボディーガードがついてる犬だよ。」

「アン!」

 

その意図や言葉がわかっているかのように、プチ丸は鳴き声をあげた。

その顔を見て微笑みを返すと、はいはい3人ともそこまでにしときなー!と言い、注目をこちらに向けさせる。

 

「3人とも、盛り上がってるとこ悪いけど、あたしもうこれで帰んなくちゃいけないから、これでね。」

 

予想だにしてなかったワードが口から飛び出し、全員一瞬ポカンとするも、えぇっ!?と3人同時に驚きの声が漏れる。

 

「えっもう帰るの!?せめてお茶ぐらい!」

「よかったら、今からコーヒー淹れますよ!?」

「いいわよいいわよ時間無いから。何しろこれからプチ丸のシャンプー行かなきゃいけないからね。もう予約してあるし、そっからちょっと色々用足しもしなくちゃいけないからね。」

「えー!プチ丸ちゃんのシャンプー!いいないいなー!見たい見たーい!今度私も連れてってくださーーい!」

「もっちろん!それじゃまた、次やるときは千束ちゃんとたきなちゃんに連絡するからね。」

「あっ、ありがとうございます!私までいいんですか?」

「気にしない気にしない。そんな小さい車じゃないし。それじゃ、あたしは行くから・・・の前に、ほれ、最後にプチ丸撫でていいわよ。」

 

抱きかかえているプチ丸を3人の方に向けると、それぞれ思い思いにプチ丸を撫でながら、別れを惜しむ。

 

「うう、プチ丸~、また会おうねええええぇぇぇ・・・」

「いや一生の別れじゃないんだから。でもプチ丸~、またな~。いいにおいになって次は会おうなあああぁぁぁ・・・」

「2人ともどんだけ悲しんでるんですか・・・」

「そんなこと言ったってたきなだってプチ丸と別れたくないだろ~?」

「まぁ、そりゃそうですけど・・・」

「だったら、またおいで。そんなに遠くないんだから。」

「もちろんです!ぜーーったいまたプチ丸ちゃんとナツさんに会いに来ますから!」

「それじゃあ、お言葉に甘えさせてもらいますね。」

 

別れを惜しむかのように全員がプチ丸の頭や背中を撫で続けている中、千束とたきなに対してまた来るように言うと、2人も笑みを浮かべながら同意をする。

その様子を、一歩だけ引いて、光輝も笑みを浮かべながら見ていた。

少ししてから、別れを惜しんだ後、プチ丸を専用のドライブシートへ乗せた後、ナツも車にへと乗り込み、エンジンをかけた。

 

「それじゃ千束ちゃんたきなちゃん、またね。光輝君、ちゃんともてなしてあげなきゃ許さなさいよ!」

「わかってるって!そっちも気を付けてね。」

 

ナツとプチ丸がもうすぐ行く、と思っていた矢先、運転席の窓が開き、ナツが顔を出すと、千束ちゃんたきなちゃん、と、2人に呼びかけた。

 

 

 

「光輝君のこと旦那に貰っていいからねーー!私もそんなに長くないから早いとこ2人の花嫁姿見せておくれよーー!!」

「「なっ・・・!」」

「うっせーバーーーカ!!早いとこプチ丸シャンプー連れてけやじゃあね!!」

 

 

 

あまりにも突拍子にないことを言われ、思わず絶句する千束とたきなと対照的に、慣れが故に脊髄反射的に文句を言う光輝。

そのままオーッホッホッホッホッ!それじゃあね~!と、いつも通り魔女のような高笑いとともに、一つ置き土産を走り去っていた。

 

後に残ったのは・・・

 

 

「・・・」

「・・・あ、あんな言葉気にしなくていいからね!ナツばあの戯言だから!ね!」

「・・・ん、んなことわかってるよ!アハハ、アハハ・・・」

 

 

終始、気まずい空気感となった3人である。

 

 

 

少ししてからようやく落ち着いた後、家にへと入り、リビングへと戻ると、2人に声を掛けた。

先程貰った、海の幸の処理、もとい、どう食べるかについてだ。

一部は冷凍庫へ突っ込んだものの、当然2人に食べさせなければならないから一部はそのまま冷蔵庫に突っ込んである。そして、例の伊勢海老も。

 

「・・・どうやって食べる・・・?牡蠣はまだやりようあるけど、伊勢海老なんて俺も料理したことないんだけど・・・どう食べたい・・・?」

 

食べ方について2人に相談をすると、ふっふっふー、と、千束は何か既にアイデアがあるかのように、ニヤニヤしている。

 

 

「ねーねー光輝!だったらさ、バーベキューしようよ!せっかくの夏だぜ!BBQしよーぜBBQ!」

 

 

・・・バーベキュー・・・?

 

 

「いや千束、バーベキューなんてそう簡単に出来るわけないじゃないですか・・・大体、光輝の家にそんな設備あるかもわからないんですし。」

「なるほど!その手があったか!」

「えっ?」

 

千束の提案に思わず両手を使って、ガッテンをする。それに驚きこちらを向くたきなだが、すかさずこう返す。

 

 

「じゃあ、やろっか!BBQ!」

 

 

外で飯をよく食べる我が家だからこそ、外飯の大定番であるバーベキューもよくするし、当然、それが出来るセットもある。というより、おそらく、だが、普通の家庭の何倍も、ウチはバーベキューをやってると自負している。

それは、この家に来た時から父さんと母さんが率先してよくやってくれたのだが、今思えば、だけれど・・・一日でも早く、俺と家族になろうとするために、わざわざやってくれていたのであり、バーベキューを囲んで家族仲を深めようという、父さんと母さんの思いやりの一つだったのだろう。

 

だが、ちゃんと家族になった今でも、その流れがずっと続いており、今では俺も準備を手伝うどころか、俺が一人で準備をすることだってある。

なので、バーベキューの準備もどうやるのかといったノウハウから実際に食べるところから後片付けまで、全て熟知しているため、余裕綽々、なのだ。

 

そうしてあっさりOKを出すと、たきなだけでなく、その提案をした千束も目を丸くし、ポカンとしていたが、すぐに驚きの顔を浮かべた。

 

「えっ!ホントにいいの!?」

「いいよいいよ。セット一式あるし。それに、どうせ東京に住んでたらリコリコでもどこでも出来ないでしょ?ここなら誰にも迷惑かけないから、やろうよ!」

 

改めてバーベキューをやることにOKを出すと、千束は満面の笑みを浮かべているのだけれど、たきなも嬉しいのか、顔がほころんでいる。

 

「やったー!光輝最高ー!」

「私、バーベキューなんて初めてです・・・!」

「ならウチで良かったね。完全プライベート施設だし慣れてる俺もいるし!」

「おっ?なんだ自慢か~?」

 

自慢だよ、と千束に返すも、一つだけ、不安要素があった。

 

「・・・でも、どうする?この炎天下でやるのはキツくない?」

 

そう、この真夏の炎天下、直射日光がガンガン当たる中でBBQなんて、流石に過酷じゃないかと思っていた。

 

「夕方からやればいいじゃん。」

 

そんな中、千束は夕方からやればいい、と言った。

確かにそこまでになれば少しは暑さは抜けるかもしれないし、日差しも日中よりは来ないが・・・とはいえ、それはそれで、別の懸念がある。

 

「夕方って、俺はいいけど、帰るの大丈夫なの?そんな時間から始めたら帰るの遅くなるし、それからまた東京まで運転なんて疲れない?」

「大丈夫大丈夫。だって今日光輝ん家泊まるし。」

 

 

 

・・・ん?

なんて、言った?

 

 

 

「・・・えっと、ごめん。もう1回言ってもらっていい?どこ・・・泊まるって?」

「光輝の家だよ。」

「頭だけじゃなくて耳も悪くなったんですか?」

「・・・へぇっ!?」

 

ダメ押しと言わんばかりに、改めて、告げられた。

 

 

2人は、今日、俺の、家に、泊まる、と。

 

 

それが、どういうことを意味しているのか・・・

 

「いやいやいやいや!!何言ってんの!?泊まるの!?駄目だよ!?俺明日からまた学校なのよ!?」

「光輝と同じ時間に出るから問題ないし。」

「いやいやいや!大体泊まる道具だってないよ!?」

「一式持ってきたので問題ありません。」

「いやいや!それでも帰った方が!!俺父さんと母さんに許可もらってないし!!」

「いや私達憐さんと瑞生さんに泊まりますって許可貰ってるし。」

「いや許可貰ってるってそれにしたって!?男の家に泊めるなんて!?」

「おっ、何?手出そうっていうの?」

「しません。断じてしません。」

「じゃあ、問題ないですよね?」

「・・・うん、はい。そう、ですね・・・」

 

どれだけ言葉を並び立てて断ろうとしても、こういう時の2人の押しの強さは、異常なのだ。後手なんか絶対出さない。この前痛い目を見たから、もう二度とあんなのゴメンだ。

だからこそ・・・

 

 

 

「わかった・・・いいよ。」

 

 

 

承諾した。

 

 

というわけで、今日、この家に、千束とたきなが、泊まることになった・・・他の男に言ったら、殺される。良かった、友達いなくてよかった。

 

「じゃあ、泊まるけど、明日俺が出る時間に出るでいいよね?朝早いけどよろしくね。」

「オッケーオッケー!あ、そうだ。お弁当もよろしくね!」

「ん!?べ、弁当!?」

「当たり前じゃないですか。私達来てるんですから、お弁当用意してくださいね。」

「はいこれ、全員分。」

 

そう言って千束から手渡された紙袋の中には・・・5つの曲げわっぱ弁当箱。

これを見てしまっては、作らざるを得ない。

 

「うそーん・・・」

 

ボヤくものの、とはいえ、伊勢海老は俺らで終わってしまう可能性は高いが、まだ牡蠣は沢山ある。それならば、ミカさんとミズキさんとクルミさんにもおすそ分けしなければ。

というわけで、明日のお弁当のメニューの1つは決まった。

明日は朝から揚げ物か・・・そう思いつつも、念のため、TALKを開き、父さんへ確認がてらBBQをやるということをメッセージで伝える。

しばらくするとOKの連絡が来ると、すぐに次のメッセージが来たため、目を通すと、"2人が来てるから明日は朝から家のことなんてやんなくていいから、それよりも2人を丁重にもてなすように!"という指令が来た。

それにこちらも了解とだけ送ると、更にまたメッセージが来た。

 

"棚の引き出しの2段目にお金入れてるからそれで千束ちゃんとたきなちゃんに美味いもの食わせてやんな!"

 

TALKに送られてきたメッセージにん?と目を丸くし、その通りにリビングの棚の引き出しの上から2段目を開けると、確かに封筒があった。

そして、中身を見ると、なんと3万円ものお金が入っていた。

 

「ひょえ~・・・父さん・・・」

 

おそらく今日、2人が来ることや、ナツばあからもこれを渡すということを事前に聞いていたのだろう。ともすれば、バーベキューをやるということも想定していたのかもしれない。だからこうして臨時収入を用意していたのかな・・・と思っていると、2人もこちらに近づいてきた。

 

「えっどしたのこれ?」

「・・・父さんから、2人に、だって。これで美味いもの食わせてやれ、だって・・・」

「・・・憐さんにお礼言いに来なきゃいけなくなりましたね・・・」

 

3人して若干恐縮している中、あることに気が付き、あっそうだ、と口に出した。

 

「てことは、お昼少し軽くした方がいいよね?どうする?」

 

確かに夕ご飯にBBQをするのならば、あまり昼から食べてはせっかくのメインディッシュが楽しめないだろう。だからこそ、お昼をどうするか尋ねると、ふっふっふー、と千束は意味ありげに笑っている。えっ何やだ怖い。

 

「たきな、光輝、私にいい考えがある!お腹を、最ッッッ高に空かせる、とっておきの方法が、な!」

「「・・・はあ・・・」」

 

 




というわけで、夏休みの最終日回。
そして最後のメインはやはり、この3人です。

そして見てわかるでしょう。ここからは、ひっっっったすら、こいつらは、イチャイチャイチャイチャイチャイチャイチャイチャイチャイチャ・・・します。

なのでぜひ、ミ〇マスに出てるあの声優のように、(o・∇・o)「イチャイチャしやがって!」と心の中で言いながら読んでください。


そして、わかるでしょう。


この作品の真のヒロインは、そう。犬です。
だからみんな、犬に堕ちます。

〇ンコには勝てなかったよ・・・
(〇を輪と読ませる高等テクニックです。)


ところでひょっとしたら、近くにあるパン屋さんは・・・というのは、想像にお任せします。



そして、ここから少し大事な話です。

この話ですが、3本立てでお送りさせていただきます。
そのうえで、3本目、つまり、本小説の、最終回の投稿日時を決めました。




最終回は、6月25日 午前7時30分に投稿します。




この日時が何を示しているのか、なんてのは言いません。
気になる人は調べてみてください。
この日のこの時間しかありませんでした。
そして今年は、尚のこと、です。

なので、その日まで、今しばらくお付き合いください。
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