+LycorisーNEXUS JUDGEMENTー   作:ワンホットミニット

3 / 27
まず、お気に入りに入れてくださった皆様、感想をくださった方、ありがとうございます。
非常にマイペースに進めておりますが、今後とも楽しんでいただければ幸いです。

というわけで、第3話となります。
書いてて量がありすぎて半分に分けてもいいかと思いましたが、そろそろあいつを出さなければならないと思ったため、1本でお送りさせていただきます。

というわけで、お待たせしました。ついに、彼の出番です。



で、ここからは前回、なぜ今回は来週の日曜日に絶対投稿すると言ったのか、についての解説です。


現在、毎週日曜日朝の10時から、ウルトラマン公式YouTubeチャンネルにて、【ウルトラギャラクシーファイト 運命の衝突】が無料公開されています。

そして、まさに投稿している今日、第5話が公開されたのですが・・・まさに、あいつが出ているのです。そして、圧倒的な強さを見せつけます。ネタバレですが次回もっと大暴れします。はっきり言って合体ウルトラマンを抜きに見た場合、今作最強キャラの一人です。
この作品における扱いについて賛否両論ありますが、理由を言うと長くなるため割愛しますが、個人的にはありだと思っております。

ただの宣伝と言えばそこまでですが、見ておけばよりこの小説も楽しめるのではないかと思っております。


また、一部オリジナルな設定もありますが、今のあいつなら出来るだろう、という、筆者の彼にかける愛情故と思っていただければ幸いです。

後書きは書かないので、後は本編をお楽しみいただければと思います。


ここから余談(モ〇さ〇のナレーションのあの音声で脳内再生ください。)
どうでもいい話だけど、コミケのリコリコのあれ、尊すぎて、言葉を失いました。





遭遇 -エンカウント-

カランカラン

 

「・・・なんだぁ?」

 

様々な機械や設備が立ち並ぶ、どこかの施設。

その施設の作業員は、突如聞こえた何かが落ちたような音に反応し、そちらの方を向いた。

 

本日、ここには自分ともう一人しか作業員はいない。おまけに、"何故かわからないが、地下は本日行けないことになっているはず"・・・だとしたら何でそっちの方から音が聞こえた?

そう思い懐中電灯の電気を点け、そちらの方に向けると、一つの工具が地面に落ちてあった。

 

「?誰だこんなとこに工具落としたやつは・・・?」

 

工具を手に持ち、持ち場へ戻ろうと後ろを振り向いた。

 

しかし、その作業員は全く気付いていなかった。

 

 

─────"その真上に、それを落とした張本人である、何かがいるということを。"

 

 

その何かは、その作業員が工具を手に取り後ろを振り向いた瞬間、バッと飛び降り、その作業員に向かって飛び掛かった。

 

 

「!?うわああああああああああっ!!」

 

 

 

東京─────とある地下道

 

首都圏の水害を軽減することを目的とした治水施設。

普通であれば一般人がそこを通ることはまず出来ない。観光ツアーなどであれば入ることは出来るかもしれないが、職員や関係者でもなければ全く入ることが出来ない場所だ。

 

「はー。全く、なーんでDA直属の依頼がよりにもよってこんな地下での依頼なんだーーー!って感じ!おまけに、最近の一連の事件の調査も兼ねてーとか、私たちは鉄砲玉かー!おのれDAー楠木ー!」

「同感です。まさか久しぶりの直接の依頼が、こんなところになるなんて・・・ですね。」

 

そんな特殊な場所ではあるが、何気ない会話をしながら千束とたきなは歩いていく。まるでこれが、ごく当たり前のことのように。

千束は喫茶リコリコにいた時とは違い、赤い学生服を着ており、一方のたきなは紺の学生服を着ている。

 

もちろん、彼女達はここの職員でもなんでもない。当然、観光ツアーなどで入ったわけでもない。

はっきり言って、こんなところに入ることはまずもって不可能であり、着てくる格好としても不適当だと誰が見ても思うが、彼女達にとってこれは”仕事着”であり、今回はここが”仕事場”なのである。

 

 

彼女達は喫茶リコリコの店員であると同時に、もう一つの顔を持っている。

 

 

それは─────リコリスとしての顔、である。

 

 

リコリスとは、DA【Direct Attack】と呼ばれる、日本の治安維持を目的として結成された組織の実行部隊のエージェントであり、女子高生程度の年齢の女子のみで構成されている。

 

テロリストや犯罪者等、日本の平和を脅かす者を秘密裏に処理することが目的であり、それだけ聞けば映画でよくある、平和を守る秘密組織として捉えられるのかもしれない。

だが、この組織自体かなりグレー、というより黒い部分がかなり多くあり、それが原因で以前、とある大きな事件が発生しかけた。だが、それも全て、アトラクションのPRの一環ということにされたのだが。

といった具合に、実はかなりな隠蔽体質の組織でもある。

 

そんなリコリスにこの2人も所属しているのだが、とある理由がきっかけで半ばDAを左遷。言い換えれば、半ばクビになっているような状況になっており、現在は喫茶リコリコにいながら、DAが受けないような依頼ごとの対応をメインにしつつ、それ以外の日常のお困りごとの解決も行うという、町の御用聞きなんかも行っている。

そして時には、こうしてDAから来る依頼を対応することも稀にだがある。

 

なので、喫茶リコリコ自体もただの一喫茶店ながら、その実DAの支部の一つであり、ミカ・ミズキもまたDAの関係者であり、同時に千束とたきなの協力者なのだ。

 

今回もまた、いざという時の逃走用の足、ではないが、万が一も兼ね、地上の地下道入口近くの駐車場にて、ミズキが車に乗り最悪の事態に備えて待機している。

もっとも、そんなことがあるのは、これまでの経験上ほぼないのだが。

 

なお、クルミのみDAの者ではないが、ある方法で彼女達をサポートしている、協力者の一人だ。

 

『おーい千束ーたきなー聞こえてるかー?相手に気づかれないようにお前達の後ろにドローン追尾させてるからなー。それに、ずっとモニタリングしてるし、何かあった時の脱出経路も常にマッピングしてあるから安心しとけー。』

 

耳に装着している通信機から声が聞こえ、後ろを振り向くと、黄色いドローンが機械音と共に、ゆっくりと自分達を追跡している。

 

声の主は、喫茶リコリコ内の、いわゆるスタッフが使う休憩室の押し入れにいる。

複数のモニターを駆使し、大量のデータを同時で確認しつつ、顔にはいわゆるVRゴーグルを装着している。

 

2人のモニタリングを常に行いながら、彼女達の耳に付けている通信機宛に連絡を取っているのは、あのクルミだ。

 

 

実はクルミには、千束やたきなのリコリスとしての顔、と同じように、もう一つ別の顔がある。

 

それは、"ウォールナット"という名の、その界隈では最も有名なハッカーとして知られている人物だ。

 

この能力のおかげで彼女達はこれまでにも多くの場面で助けられることとなり、事実、以前あった事件でもアトラクションのPRの一環、ということにさせた張本人もまた、このクルミ、いやウォールナットなのである。

なので、見た目は子供なのだが、その能力や趣味など含め、わからない点の方が多いのだが、それでも喫茶リコリコにとって欠かすことの出来ない、信頼出来る大切な仲間であり従業員だ。

 

話を戻し、では何故今回、こんな特殊な場所を歩いているのか・・・それは

 

 

 

─────これまで数多くの事件をこなしてきた彼女達でも、今回はいつもの依頼とは異なる・・・と直感で感じたからだ。

 

 

 

時間を戻し、2日前の夜─────

 

喫茶リコリコの営業が終了するかしないかというタイミングで電話が鳴り響き、ミカがその電話を取った。

相手は彼だけでなく、クルミ以外の誰もがよく知っている、DAの司令官である楠木という人物からであった。

 

「久しぶりだな楠木。最近どうしてた?」

『貴様らがハワイで仕事している間、こちらは暇してたさ。』

 

わかりやすい皮肉だ、とミカは内心思っている中、千束はいるか?と尋ねられ、そちらに変わるよう強要されたため、楠木からだと言い、ミカは千束に電話を替わる。

 

「もしもーし。千束はいませーん。また後でかけなおしてくださーい。」

 

と、こちらもまた、いたずら半分本気半分で電話を替わるが、もはやその冗談にも慣れているのか一切怒ることもなく、楠木は鼻で笑った。

 

『相変わらず口の減らない生意気なクソガキだ。お前達2人に頼みたい仕事がある。引き受けてくれるな?』

「えーいやでーす。定期健診永久パスさせてくれるなら考えまーす。」

 

仕事の依頼に対しても千束は冗談を返すが、そんな千束の冗談を一切無視し、楠木は話を進めていく。

 

『2日後東京の地下治水施設でテロリストが何か起こすかもしれないとのことだ。そこに向かい調査・対処をしろ。』

「・・・なーんで私達なんですか?そっちにはフキ達もいるでしょ?」

 

フキというのは、彼女の元同僚であり、リコリスの中でもファーストと呼ばれる、エース的な扱いをされている存在だ。

 

実を言えば千束もファーストであるが、実力だけで言えば千束の方がフキより上であり、その実力から、DA内部では"最強のリコリス"と呼ばれているほどだ。

 

なのだが、そんな力の差がありながらも互いが互いを意識しているため、わかりやすく言えばライバル、もっと言えば犬猿の仲のような立場でもあるのだが・・・ただ、その様子を見ている人からすれば、ケンカするほど仲がいい・・・というようにも見えなくはないという、所謂、腐れ縁的な関係だ。

 

そんな仲間や、他にもリコリスが多くいるDA本部が行えばいい、と千束は提案するが・・・

 

 

『1か月ほど前からだ。』

 

 

電話越しだが突如、それまでとは話し方の雰囲気が変わり、楠木はこれまでにDAで観測していた、ある奇妙な事件を語り始めた。

 

『1か月ほど前から、小さいが同様の案件が何件か発生していた。サードを向かわせたが、現場に到着する頃には何も無く、犯罪者やテロリストの死体すらなかった。居たとしても気絶しているということがほとんどだった。むしろ、その代わりに残っていたのは、血痕と、唾液・粘液のようなもの。そして時には、"まるで空から何かが降ってきたかのような、地面の異常な陥没"までもがあったという。』

 

サードというのは、リコリスのランクである。

上からファースト・セカンド・サードとなっており、制服の色もそれぞれ赤・紺・ベージュとなっており、基本的に小さい事件に関してはサードが仕事を請け負うことが多い。

 

しかし、今楠木が話しているのは、以前の事件であった、サードが連続で殺されたという事件でもなんでもなく、話の内容だけを聞くと、まるで自分がよく好んで見ているようなアクション・SF映画の話と思えるような、全くもって現実とは思えない、意味不明としか捉えられない話であり、話を聞きながら千束もずっと頭に疑問符が浮かんでいた。

 

「・・・あのー楠木さん、疲れてるんですか?疲れてるなら電話切りますよ?」

 

千束も楠木のことはわかっている。冗談が一切通じない人物であることはすでに理解しているが、それでもやはりどう考えても、疲れていよいよおかしくなった?と思わざるを得ないような話だ。

 

『黙って話を聞け。そして1週間前だ、事件は起きた。』

 

しかし一切口調やトーンを緩めることなく、楠木は話を続けていく。

 

『ある事件にサードを2人向かわせた際、両者共にある時を境に連絡が取れなくなり、他のリコリスを向かわせたところ、そのサードは共に気絶し、かつ衰弱しきっていた。目を覚まし何が起きたかを聞くと、うわ言のようにこればかり言っていた・・・』

 

それが本当のことながらも、自分自身もにわかには信じられないというように、呆れたように一つため息を吐くと、こう呟いた。

 

 

『・・・怪物と光を見た、とな。』

 

「・・・Really? Monster and Light?」

 

 

もはや理解が追い付かない、あまりにも突飛な話に、多くの依頼を解決・こなしてきた千束も、こればかりはもう、英語でジョークでも言って、気を紛らわすしかなかった。

 

 

 

「・・・とはいったものの、本当にあるのかねぇ~たきなさんや~。」

 

そして話は戻り現在。

 

その話を聞いた千束は、その異常としか思えない話を、一映画好き故に見てみたい、という興味本位が半分。楠木がそんな奇天烈な事件をあんな真面目なトーンで言うということは、それ相応な異常事態であり、緊急を要するという案件だと第六感で感じ取ったことが半分、という具合でその仕事を承諾し、こうして現在仕事先である地下道を歩いている、というわけである。

 

また、もし本当にその怪物に遭遇した際、今後の対策を練るためにもその場の状況を記録しておけ、という命令もあり、こうしてドローンを飛ばしているというわけだ。

もちろん、何時でもこうした仕事に関しては安全確保のためや、一分一秒でも早い依頼解決のためにドローンは飛ばしているのだが。

 

「正直、私は今でも冗談だと思っていますし、そのリコリスの気が狂ったとしか思えません。ただ、もし本当だとしたら、放っておくわけにはいかないですね。」

「だよねぇ。ただ、あんな話を楠木さんすると思わなかったから、私笑いこらえるの必死「うわあああああああああっ!来るな!来るなあああああっ!!」

 

突如、地下道内に響き渡った男性と思われる絶叫が響くと、遠くの方から何か銃声が聞こえてきた。

すぐに千束とたきなはお互いの顔を見合わせ、声のした方向へと走り出していく。

 

しばらく走ると、腰が抜けたのか、一人の男性が地べたに座り込んでいたため、その男性に近寄り無事かどうかを確認するために声を掛ける。

 

「大丈夫ですか!?」

「あ、あぁ・・・君たちは?」

「そんなことは後です。何があったんですか?」

 

たきなが状況把握に努めようとすると、男性は落ち着かない様子ながらも、たった今目の前で起こっていた状況について、声を震わせながらたどたどしく話し出した。

 

「わ、私はここの作業員で、点検しようと見に来たら、誰かが話している声がしたんだ・・・こんな場所だから人がいるのはおかしいと思って近づこうとしたら、突然叫び声が聞こえたと思っていたら、銃声がしてきたんだ。で、その後にまた叫び声が聞こえて、しばらくしたら声は止まって・・・で、気付かれないよう恐る恐る近づいたら、い、いたんだよ!」

「いたって、何がいたんですか!?」

 

震える声で、男性は叫んだ。

今目の前で起きていた、惨劇の犯人を。

 

 

「か、怪物だよ!!怪物がいたんだよ!」

 

 

「怪物・・・!?じゃあ、司令が言っていた事って・・・」

「本当だったんだ・・・で、おじさん。その怪物はどこいったの?」

 

2人は楠木が電話越しに話していたこれまでの話が、フィクションでもなんでもない現実であり、目の前にいる男性はその様子を見ていたという。

現実離れしたこの状況に驚きつつも、男性にその怪物がどこに行ったかを尋ねると、震える指で千束とたきなの今いる場所の、更に向こうの方を指差した。

 

「あ、あっちの方だ・・・見つからないようにしてて、行ったのを見たら、腰が抜けてしまって・・・」

「わかりました、ありがとうございます!あなたはここで休んでいてください!」

「うん、ちょっと待っててね!すぐに迎えに来るから!」

 

今目の前で起きている事件の早期解決とそれが終わり次第男性を迎えに来ることを約束し、千束とたきなはその正体を突き止めるためにも、男性が指差した方向に向かって走り出していく。

 

 

そして、2人が走り始めてすぐ、その男は・・・ニヤリと、口元を歪め、気付かれないようにゆっくりと立ち上がり、右手を上げた。

 

 

─────瞬間、銃声が2発鳴り響き、男の右手と体に弾丸が撃ちこまれ、体からは赤い煙、いや赤い華が立ち上る。

 

 

「やっぱり、貴方がそうでしたか・・・」

 

撃った後の煙がまだ銃口から立ち上っている中、千束とたきなは銃を構えながらジリジリと、男との距離を詰めていく。

千束が撃つ弾丸は、自身のポリシーもあり、ゴム弾という非殺傷の弾丸だ。

一方のたきなは自分の身を守れないというポリシーが故、実弾であるものの、実弾もさることながら、ゴム弾でも大の大人が痛がって倒れ込むレベルの弾丸だ。

 

にも関わらず、痛がる様子もなければ・・・"体から血が流れることもなく、まるで何事もなかったかのようにその場に男は立っていた。"

 

その男の様子に、2人も直感で感じていた。

 

 

目の前で起こっているのは、夢などではない、完全な現実である。

 

その上で、今、自分達は─────"人間ではない、何かと向き合っていることを。"

 

 

「どうして、俺のことがわかったんだ?」

「そもそもここは封鎖されていましたので職員が入れるわけがありません。それに何よりも、臭いでわかりましたよ・・・血の臭いがあなたからしましたし、それ以外の匂いも。」

「ほんと、いつからお風呂入ってないの・・・?てか、弾当たったのになんでピンピンしてるんですか?・・・ねぇ、あなた、何なんですか?」

 

銃を構えている状況にも関わらず、男はヘラヘラと笑い続けており、その様子に不気味なものを感じている。

 

銃弾を防ぐ方法として、防弾チョッキなどを体に纏うことはある。

しかし、目の前にいる男はいわゆる職員が着るような作業服を着ており、中にそういったもの着ている様子は一切ない。というより、そんなものを着ていたら、自分達だってそれなりの死線をくぐり抜けてきたため、着てるかどうかは一目見ればわかる。

 

だからこそ、そんな様々な死線を潜り抜けてきた2人でも、今は油断が一切出来ない状況だと瞬時に察し、すでに銃口は急所と、相手の動きを止めるために関節へと向いている。

 

「そうだなぁ、俺ハ・・・」

 

ヘラヘラとした態度を取り続けている目の前の男が答えようとした瞬間

 

 

─────何かが、千束とたきなの体を掴んだ。

 

 

一瞬のことで何が起きたか理解出来ず、気付いた時には千束とたきなは突然の衝撃と共に、何かに拘束されていた。

 

その何かが、"目の前の男の手"であると気付くのにはそう時間はかからなかったが、明らかに自分達と距離は数メートル離れていた。

 

ただ、それ以前に、人間の手が人間の体を掴むことなんて出来るわけがない。それも、2人まとめてなどありえない。

にもかかわらず、この男は自分達2人を片手で掴んでいる。

 

視線を下に落とすと、男の右腕は、人間とは明らかに異なる、異形の巨大な腕となっており、ゾンビ映画でこういうのがあったと千束は一瞬考えたが、すぐにそんな考えは吹き飛び、この異常な状況を把握しようと努めるが、その男は考える時間さえも与えない。

まるでおもちゃを扱うかのように、2人をゆっくりと持ち上げていく。

 

「ぐうっ・・・何、これ・・・!?」

 

全てが理解不能の状況に、千束もたきなも混乱していたが、キッと男に目線を向ける。

その視線に男は悪びれる様子も一切なく、先程までここで起きていたことを楽しげに語り始めた。

 

「さっきの質問に答エテあげようか。ここニは確カに作業員とテロリストはここにいたさ。」

「やっぱり・・・」

「作業員の一人ハ俺が殺シタ。後の一人ハそれを餌ニここマデおびき寄セタ。テロリストはその作業員ヲ殺そうとしたサ。ただそこニビーストモ現れた。」

「ビースト・・・?」

 

今目の前の男が語った殺人の内容。そして、”ビースト”という言葉に2人は疑問を浮かべつつも、そんな事を深く考える間もなく、異形の手を持つ男は話を続ける。

 

「あいつらはビーストのイイ餌になったぜ。そしてソンナ人間を食ったビーストはまタ・・・」

 

そこまで話し終えると、男はベロっと舌なめずりをした後、邪悪な笑みを浮かべた。

 

「・・・格別ダッタゾ!」

 

そう言った後、まるで子供がおもちゃを扱うかのように、石で出来た地下道の壁に向けて2人を勢いよく投げつけた。

 

彼女達の着ている制服には防刃・簡易防弾・対赤外線等、現在の技術の粋を集めた第一級の戦闘服となっている。

なのだが、この衝撃は予想外のダメージであり、コンクリートで出来た壁へと背中からぶつかった2人は地面へと落ち、その衝撃に体に若干の痛みを覚える。

 

「うぅっ・・・」

「痛ったぁ・・・」

『おいどうしたんだ2人とも!大丈夫か!?何があったんだ!?』

 

ドローン越しに2人を見ていたクルミは通信機越しに声を掛けるが、突如、ドローンの映像が乱れ出す。

何だ!?と思っていた矢先、ドローンのカメラ越しに、その男の顔がアップで映し出されていた。

 

「何ダ・・・こノうるサイラジコンは?これガコノ時代のオモちャか・・・」

 

それだけ言うと、何の予兆もないまま、バキッ、という音と共に、ドローンのカメラの映像は途切れた。

 

『!?・・・千束!たきな!何があったんだ!ドローンは!?』

 

珍しくクルミが焦ったように通信機越しに連絡を取ったところ、2人は今、目の前で起きた衝撃的な出来事をありのままに語り出した。

 

「・・・ドローンね、壊された。そいつが握ってぶっ壊した・・・」

『ハァ!?ふざけてんのか!?』

「クルミ、千束の言ってることは、全部本当です・・・」

 

どういうことだと聞こうかと思ったが、このままでは埒が明かないと思い、現在装着しているVRゴーグル越しに、その地下道に備え付けられていた監視カメラ映像を慌ててハッキングし、その様子を確かめる。

 

そしてすぐに、自分のドローンの様子に気付き、思わず息を飲んだ。

 

男の左手には、先程までドローン・・・だったものがボロボロに崩れており、回線も突然の圧力がかかったということもあってか、パチパチと各所がスパークしているのも見て取れる。

 

一方の男は、火花が手に当たれば普通の人間ならば熱がって手を放すものだが、一切のリアクションを取ることなく、すでにガラクタとなった、ドローンだったものを邪魔だと判断し、ポイとごみを捨てるかのようにそのガラクタを捨てた。

 

人間とは思えないほどに肥大化・変化した腕で空中にあるドローンを一瞬で掴み、握っただけで壊すという、わずかの間に見せたその芸当。

これまで2人もそれなりに色々な人物を見てきたが、当たり前だがこんな人間は1人も出会ってこなかった。それこそ、目の前の男は、まるで映画の世界から出てきたかのようだ。

 

だからこそ、2人だけでなく、その監視カメラの映像を見ているクルミやミカ、そして通信機越しにその話を聞いていたミズキも、彼女達2人の目の前にいる男・・・いや、”怪物”に若干の恐怖を覚えていた。

 

『待ってろ!今そっちに新しいドローンを向かわせる!』

 

無線機越しにクルミが新しいドローンを送るための指示を入れたのを聞きつつ、2人は再び立ち上がり、男に銃口を向けた。

 

「化け物ならもう容赦しなくていいですね・・・ここであなたを殺します!」

 

気持ちを切り替え、キッと視線を男に向けて改めて銃口を向ける2人に、男は怖い怖いと笑いながらへらへらしているが、すぐに表情を変え、呻き声を上げ始めると、背中から角のようなものが生え始めた。

更なる異常な様子に、2人は一瞬恐怖を覚え、思わず息を呑んだ。

 

 

「コノ世界デモ、俺ノ邪魔ヲスルヤツハ、皆殺シダ!」

 

 

その言葉を最後に、男の体は青い光に包まれる。

そこから段々と肉体が変化し、光が収まる頃には、もはや人間の面影はどこにもなかった。

 

そこにいるのは、10メートルはあろうかという背丈に、全身はまるでトカゲのようなフォルムをした・・・言い逃れが出来ない、正真正銘の怪物がそこには居た。

 

背中には先程生えていた角が天に向かって大きく2本生えており、手の爪は鉤爪のように鋭く生えている。加えて、トカゲのように何メートルもある長い尻尾。怪物というより、見ようによっては怪獣に見えるかもしれないが、そんな悠長な考えをする余裕はもはやない。

 

「うっそでしょ・・・!?」

「本当に・・・怪物・・・!?」

 

その様に唖然とし、若干震えるが、すぐに顔を引き締め、2人は怪物に向けて、再び銃口を向けた。

 

『おいバカ!何やってるんだ逃げろ!こんなヤバいやつ、相手にするもんじゃない!』

『そうだ!逃げろ!コイツは明らかに異常事態だ!俺達もすぐそちらへ向かう!だからいったん逃げろ!』

 

通信機越しにクルミとミカが怒鳴りながら忠告してくるが、冷静に千束は今置かれている状況、そしてこの後起こり得るであろう出来事を話し始める。

 

「そんなことわかってるよ。けどさ、逃げたところでこいつが追ってきて地上で暴れ出したら、もっと大惨事になる。だったら、ここで食い止めたほうが絶対いいよ。」

『だが!』

「大丈夫です。私もいますから。急いでDAに連絡を入れてください!その間、私と千束でこの怪物を対処します!」

 

すでに覚悟を決めた2人は怪物の方をキッと向いた。

それに対し、クルミとミカも何か覚悟を決めた顔付きに変わる。

 

『・・・わかった!こっちでも出来る限りサポートする!だから、死ぬなよ!』

『ミズキ、何かあった時のサポートは任せた!こっちもすぐに向かう!』

『了解!千束、たきな、やばくなったらすぐに逃げるのよ!いいわね!』

 

通信機越しの変わらないいつもの仲間の声に少しホッとし、わかったわかったってと千束は軽く返した後、通信を一旦切る。

そして、改めて怪物に銃口を突きつけ、相棒に声を掛けた。

 

だが、どんな時も忘れていない─────命、大事に、という自分達のモットーだけは。

あの年末の事件から、2人の想いは変わることはない。何があっても。

 

 

「・・・行くよ、たきな!」

「千束こそ、死なないでくださいね!私が守りますから!」

 

 

 

同じ頃─────???

 

-ドクン、ドクン、ドクン-

 

突如、机に置かれていた白い剣は発光し、点滅を始めた。

それに合わせるかのように、ベッドで眠っていた彼も目覚めた。

 

その鼓動に気付き、慌てて寝巻きから私服へと手早く着替え、白い剣と、同じく机に置いていた白と銀の銃をたった今着替えたワークシャツの裏ポケットにしまう。

クローゼットの中に入れていたスニーカーも取り出すと、窓を開けて窓際に座りながらスニーカーを履き、外へ出る準備を整えた。

 

「・・・また、寝不足だ・・・」

 

一つ小言を言うと、屋根を伝い、気合いを入れて地面へと飛んだ。

地面にぶつかる瞬間、体を転がして受け身を取り、衝撃を緩和させる。

 

どこも体にケガがないことを確認した後、彼も走り出した─────

 

 

 

しばらく時間は経ったが、千束とたきなは怪物との戦闘を続けていた。

地下道に建てられているコンクリート造りの円柱の陰に隠れながら、2人は銃弾を次々怪物に撃ち込んでいくが、怪物が倒れる気配は一向にない。

 

「ハハハ!無駄ダ無駄ダ!既ニビーストモ喰ッタ俺ニハ、銃ナド効カナイ!」

 

腕や足を振り回すと、目の前や近くに聳え立っていた円柱が、コンクリートでありながらもまるで発泡スチロールのように簡単に崩れていく。

 

『10時の方向!瓦礫が落ちて来るぞ!あと、2時の方向からアイツが突っ込んでくる!よけろ!』

 

新しくそこに送ったドローンの映像を元に、耳から聞こえてくるクルミの指示を受け、怪物の進行方向に自身がぶつからないようにしつつ、それと同時に次々と落ちてくる円柱だったものの瓦礫が当たらないようにかわしていく。

 

先程見ていた監視カメラはその怪物の移動と攻撃に巻き込まれて壊されたため、とうに使い物にならなくなっている。

なので、このドローンだけが現在の状況を知れる唯一のツールとなっているため、壊されないようにクルミも慎重に動かしている。

 

そのどさくさに紛れ、2人はまだ壊れていない円柱の影に隠れ、怪物を倒すための作戦会議を始める。

 

「たきなどうしよう!全然アイツに効いてる雰囲気ないんだけど!?てかもう何あの怪物!私達モンスターを退治する仕事に転職した覚えないよ!ハッ!これはもう、映画の見過ぎで、私まだ寝てるのか・・・?そうだこれは夢だそうしよう。」

「落ち着いてください千束!全部現実です!というか、いつものお得意のあれはどうしたんですか!」

 

お得意のあれ、というのは、千束の持つ、人並外れた動体視力である。

 

相手の視線と、この次に何かを行う際の人の筋肉や目線の動きを瞬時に読み取り、次に行われる行動はこれだと予知し、対応をする。

この動体視力を用いることで、マシンガンが撃たれている中でも何も起こっていないかのように悠々と歩き、接近することが出来るという、おそらく世界でただ一人、千束しか持っていない特殊能力だ。

 

しかし、この怪物との戦いにおいては、あまり機能していないようにたきなの目からは見えていた。

 

「・・・確かに目線とかはわかるよ。でも、そもそも銃じゃなくて、アイツの攻撃方法はあんな何メートルもある腕に足に尻尾だよ。一発かわしても、また次の一発が来るかもしれないし、あんなの当たったら即死だよ・・・正直、かわすのでやっと、って感じだもん。てかそもそも、人間を相手してるわけじゃないんだし・・・」

 

冷静に相手を見たうえで、自身の常識の範囲外の敵に対する見解を述べる。

どうにかしてこの場を切り抜けないといけない。しかし、この怪物を地上に出す訳にもいかない・・・この事態を解決するため、何かを決意したかのようにわかりました。とだけ言い、たきなは千束に対しあることを提案する。

 

「いいですか、ありったけのグレネードを使いますよ!その隙を稼いでください!」

 

それは事前に、DAよりもたらされていた装備の一つであった。

普段のテロリストや犯罪者の対処においては、フラッシュグレネードを使用することが圧倒的に多いため、グレネードを使用することは通常の依頼であればあまりない。

 

なのだが、その怪物と遭遇したリコリスの意識が落ち着き、冷静になった後で事情聴取をしたところ・・・"ウミウシのような紫色の怪物と、虫のような怪物がいた"、ということだった。

その情報についても、事前に楠木の電話から聞かされていた。

 

なので、もしもそういった怪物と遭遇し、かつ、銃が効かないような敵であった場合の最悪の事態を想定し、それぞれに1発ずつ、DAより予め提供されていた。

加えて、念の為に、ということで、喫茶リコリコの地下の倉庫にあるグレネードも1発ずつ持ってきてはいた。それら全てを使用することをたきなは決めたのだ。

 

しかし、千束もそこまでバカではない。こんな狭い空間で、かつ、円柱も沢山崩れかかっており、そんな何発も一気に爆破すれば、下手すれば余計に崩れ、自分達も危険になるリスクの方が高い。自分達だって死にたくはないが、それこそ、本気なのか聞いてみたくなり、慌てて問い詰める。

 

「うそっ!?本気!?こんな狭い中でそんなにたくさん!?崩れちゃわない!?」

「本気も本気です!死にたくないじゃないですか!?いいですか・・・」

 

その圧に押された後、たきなは今自分の頭の中で考えていた作戦を説明する。それに対してわかった、と千束も納得し、頷き合うと、千束とたきなはそれぞれ別の方向に走り出していく。

それに気付いた怪物は、まるでその様すらも楽しんでいるかのように2人に声を掛け、追っていく。

 

「逃ゲロ逃ゲロ!殺シテヤルガ逃ゲロ!」

「いちいち・・・うるさい、よっ!」

 

怪物が力任せに腕や尻尾を振り、その動きを見てギリギリのところで千束はかわし続けつつ、崩れた瓦礫を利用し、見立てではあるが、最も骨と骨の結合が薄そうな肘の部分を狙って千束は次々と銃を撃つが、少しは当たっているような素振りを見せるものの、やはり一向に怪物が倒れる、ないしは痛がるような素振りは一切ない。

 

「本当に、何なのもう・・・弾切れちゃうよ・・・」

「ハハハ!無駄ダト言ッテイルダ・・・」

 

その言葉を言い終える前に、銃声が聞こえたかと思うと同時に、左目に突如とした痛みを覚え、変化した両手で怪物は左目を抑える。

 

「・・・いくら怪物でも、目は弱点みたいですね!」

「ナイスだぜ相棒!」

「オノレエェッ!!」

 

的確に目だけを狙ったたきな、そしてその陽動としてちょこまかと動き回っていた千束の2人を怪物はまだ見える右目で探すが、すでに見える範囲に2人はどこにもおらず、その代わりに、カランカラン。と足元に音が響く。

 

それに気付き怪物が下を向いた瞬間、カッと閃光が走ると同時に大きな爆発が起き、怪物の近くで崩れかかっていた円柱もその爆発で崩れると、怪物は爆発と共に瓦礫の下敷きとなった。

 

 

「ハァ、ハァ・・・やったねたきな・・・」

「えぇ・・・千束のおかげです。」

 

円柱の陰、グレネードの爆発に巻き込まれない部分まで逃げてきた2人は、軽くハイタッチを交わす。

 

グレネードの爆発だけではあの怪物を倒すには足りない。ならば、今ある円柱の崩れ具合を瞬時に見て計算し、グレネードが起爆すると同時に、その円柱が崩れて怪物を瓦礫の下敷きにさせる。

そのために千束がその場所まで誘導し、そちらに目が向いていて足が止まっている瞬間に、正確無比の銃の腕前を持つたきなが目を狙う。そして、怪物を動けなくさせた瞬間に後はグレネードを崩れかけている円柱の近くで、何発もドカン・・・という、先程円柱の陰で立てた作戦は見事に成功した。

 

さすがにあんな大量のグレネードの直撃にコンクリートで出来た円柱の崩れた瓦礫の下敷きになれば、怪物とはいえただじゃすまないだろう・・・と予測していた。

 

だが・・・

 

 

『ダメだ!まずい2人とも逃げろ!!』

 

通信機から聞こえてきたクルミの絶叫に反応し動こうとした瞬間、ブゥンと、突如風を切り裂くような音と共に、怪物の尻尾が次々と円柱をなぎ倒していく。

2人のいた円柱も例外ではなく、崩れ落ちてくる円柱の瓦礫をかわすため別々の方向によける。

 

だが、尻尾は突如軌道を変え、まるで別の生き物かのように2人をいっぺんに巻き付けると、尻尾の主である怪物は、尻尾と共に2人を顔の前に持ってくる。

グレネードの直撃を受け、体のあちこちは焼けているようだったが、身体自体はどこも骨などが折れているような様子はない。

むしろ、先程のグレネード、そして目を撃ったことで、怪物の怒りの導火線に完全に火を付けた。

 

「ヨクモヤッテクレタナ小娘ドモ・・・!モウ遊ビハ終ワリダ!ココデ、殺シテヤル!!」

 

そのまま怪物は、ギリギリギリ・・・と尻尾を巻く力を強めていく。

 

「「ああああああああっ!!」」

 

そのあまりの痛みに、千束もたきなも思わず声を上げ、戦闘服である制服を着ているにも関わらず、全身に激しい痛みが襲ってくる。

 

 

今彼女達は─────これまでに経験したことがないほどの、命の危険にさらされていた。

 

 

 

同じ頃─────

 

「!?」

 

どこかの山の中、白い剣を握り、彼は瞑っていた目を見開き、たった今千束とたきなが置かれている状況を把握し、一人驚いていた。

 

あの日、たまたま訪れた喫茶店の店員が、実はそんな顔を持っているなんてまるで信じられなかったが、今まさに、そんな彼女達の命に危機が迫っている。

 

だとしたら、やるべきことは一つだ。

相手は誰だろうが関係ない。

 

 

人々を、ビーストから守ること。

これが、今の自分のやるべきことだからだ。

命を賭してでも・・・

 

 

「・・・うおおおおおおおっ!!!」

 

 

握りしめていた白い剣の鞘を抜き、叫びながらそれを天に掲げると、赤い光が剣から溢れ出し、彼はその光に包まれる。

その数秒後には、猛烈なスピードで赤い光となって空を駆けていく。

 

それはまるで、流星のように─────

 

 

 

「千束!!たきな!!ヤバいぞミカ!このままじゃ2人が、2人が死ぬ!!」

 

地下道へ向かう最中の車内で、これまでにない大ピンチに陥っている2人に慌て、クルミは運転中のミカに声を荒らげ話し掛ける。

ミカもまた、この状況に慌てており、同じく声を荒らげながら通信機越しにミズキを呼ぶ。

 

「わかってる!!ミズキ!行けるか!?」

 

 

 

「わかった!今から行く!!」

 

その連絡を貰ったミズキは地上からその地下道へ行くための通路に目を向けた。

 

あの百戦錬磨の2人がこんなことになる相手なんて想像もしていなかった・・・加えて、自分が行っても死ぬ確率の方が高い。そんなことは百も承知だった。

だが、なんだかんだ言いつつも、心の奥底では家族とも言える大切な2人を見殺しになんて出来るわけがない。

 

念のためにと、持ってきていた銃を装備し、一つ深呼吸をし、覚悟を決め、地下道へ向かおうとする。

 

 

 

─────その時だった。

 

 

 

「・・・え?」

 

彼女の目に、突如あり得ないものが飛び込んできた。

それは、今起きていることと同じくらい、夢か?と疑いたくなるほど、この世のものとは思えない、異常なものだった。

 

「赤い、光・・・?」

 

その言葉通り、突如空から巨大な赤い光が垂直に落下してきた・・・かと思っていると、その赤い光はそのまま地上に落下した。

だが、付近はまるで何事もなかったかのように、どこも壊れているところはなく、かつ、それで騒ぎになっているような雰囲気は一つもない。

まるでそれは、自分にしか見えていなかったかのように。

 

「何、今の・・・?って、そんな場合じゃない!千束!たきな!」

 

一体今自分は何を見たのか・・・そのあまりに現実離れした光景に一瞬呆けてしまうが、すぐに気持ちを切り替えた。

先程の光はミズキとしても気になるところではあるが、今はそれよりも大事なことがあると、銃を構え、地下道へ向け走り出した。

 

 

 

「ハハハ、イイゾ!ソノママ恐怖ヲ出セ!ソシテ死ネ!」

 

一方、地下道内では未だ、危険な状態が続いていた。

 

怪物は一向に力を緩めようという気配はなく、じわじわとなぶり殺しのようにし、まるで苦しみながら死んでいくその様を楽しんでいるかのように、じっくりと2人の命が消えていく様を眺めている。

 

「あ、あ・・・ち、ちさ、と・・・」

「た、たきな・・・」

 

何とかお互い痛みに耐えながら声を掛け合うが、それすらもやっとで、その痛みにだんだんと2人の意識は遠退いていく。

 

「(・・・みんな・・・ごめん、ね・・・でも、やだ、死にたく、ない・・・)」

 

薄れゆく意識の中、千束がこれまで出会った人々の顔が走馬灯のように浮かんでくる。それと同時に、まだ死にたくないという生きることへの渇望が頭に浮かんでくるものの、この尻尾から抜け出せることは無理だと・・・諦めかけた、その時だった。

 

 

 

─────赤い光が突如として辺り一面に広がった。

 

 

 

「何ダコノ光ハ!?・・・マサカ!?」

 

突然の出来事に怪物が驚き、それにより意識が逸れ、締め上げていた尻尾の力が衰えたことで、2人は尻尾の拘束から離れることが出来たが、それと同時にそのまま地面へと落下していく。

 

だが、突如どこからか飛んできた青白い光のムチのようなものが2人を包みこむと、地面へ激突することなく、どこかへとあっという間に連れていかれた。

 

「何ダ!?」

 

怪物が目の前で突然起きたその様子に驚いていた刹那

 

 

 

「デヤアアアアアッ!」

 

 

 

突如として眼前に現れた何者かのパンチを顔面に受け、怪物は何メートルも後ろへ大きく吹き飛ばされた。

 

 

 

「うわっ!?」

 

先程まで焦りが故に、パソコンを忙しなく動かしていたクルミが、突如驚きの声と共に装着していたVRゴーグルを勢いよく、まるで投げ捨てるかのように外した。

その様子をバックミラー越しに見ていたミカは運転中だったが、車のブレーキを思いきり踏み、急遽路肩に車を停めた。

 

「どうしたクルミ!?何があった!?」

「わ、わかんない!なんか突然目の前がメチャクチャ光って、その眩しさで思わず・・・!」

 

VRゴーグルに映し出されていた目の前の画面が光ったということで、いわゆるコンピューターの何かしらのバグかと思ったが、あのクルミが仕事でそんなヘマをするはずがない、というのはミカもわかっている。

だからこそ、一体何を言っているのか見当がつかず、その状況を確かめるためにも、失礼と一言声を掛け、クルミのVRゴーグルを拾い上げると、それを自分の目に装着した。

 

「・・・何だ、これは・・・!?」

 

先程のように、眩しさで外すということがないため、おそらく普通に見れているということだろう。

だが、先程までの切迫した状況と異なり、呆然と、何かに驚いているようだった。

 

ミカの経歴をクルミもわかっており、彼が様々な戦場を駆け抜けた過去を持っていることも知っている。だが、今までに見せたことも、見たこともないその様を不思議に思ったため、ミカ貸せ!と半ば強引にVRゴーグルを外したクルミは、もう一度自身の目に装着し、先程まで見ていた地下道を見てみる。

 

「・・・は?・・・これ、夢・・・だろ・・・?」

 

VRゴーグルに映し出されている光景を見て、クルミもまた、ミカと同じく、映し出されている何かを見て呆然としている。

 

だが、2人が同様のリアクションを取って驚くのも無理はない。

 

 

画面に映っていたのは、先程までの怪物・・・ではなく

 

 

 

 

 

─────怪物と同じくらいの大きさの、人型の存在がそこにはいた。

 

 

 

 

 

「ん・・・あれ?私・・・」

 

今の今まで死を覚悟していた自分が、気が付いたら地面に倒れ込んでいた。

一体何が起きたのかわからず状況の理解に苦しんだのだが、倒れているたきなが隣にいることに気付くと、急いで肩を揺らし声を掛け、彼女の無事を確かめようとする。

 

「たきな!たきな!たきな起きて!たきな!!」

「ん・・・?千束・・・?」

「たきな!」

 

たきなもまた、生きているということがわかると、その喜びが抑えきれず、千束は思わずたきなを抱きしめた。

 

「ちょ、ちょっと千束!・・・!そうだあの怪物!怪物はどうなっ・・・た・・・」

 

たきなもまた、今置かれている現状をすぐに思い出し、先程まで怪物がいたところを見ると、そこにはすでに怪物の姿はなかった。

 

その代わりに、またもやありえないもの・・・いや、"者"がそこにはいた。

 

 

そこにいたのは・・・怪物と同じ大きさの、人型の存在だった。

 

 

背を向けていて全身は見れないのだが、その姿を見て、2人は思わず呟いた。

 

 

 

 

 

「銀色の・・・」

「巨人・・・?」

 

 

 

 

 

2人の声が聞こえたのか、銀色の巨人と呼ばれた巨人は2人の方に体を向けた。

 

怪物と同じく、10メートルはあろうかという背丈。

まるで兜の錣ように、襟足の部分が広がった特徴的な頭部。光り輝く大きな目に顔の真ん中に一本入ったトサカのようなもの。

顔の横半分には巨大な耳のようなものもあり、口には唇と顎・・・のようなものもあるが、それらは全てピッタリとくっついており、とても動くとは思えない形状をしている。

それらを踏まえた上で、一切の感情を読み取ることが出来ないが、不気味とは思えず、むしろ何故か見惚れてしまうような不思議な顔立ち。

 

銀を主体とした体の色と、所々に入った黒と灰色のライン。

腕にはモノトーンの体色だからこそより一層カラフルに感じられる、金色の刃が付いた、赤を基調とした手甲のようなものを装着している。

 

そして、一際特徴的で目を引く、アルファベットのYのような形をした、赤いシンボルが胸に燦然と輝く。

 

一目見て、この地球の生物ではない、というのは瞬時に理解した。

それこそ、映画でよくあるエイリアン・宇宙人とこの巨人を言ってもいいのかもしれない。いや、間違いなくそうだろう。だが、こんなものはどんな映画でも見たことがなく、自分の知っている宇宙人とは違う・・・と千束は内心思っていた。

 

ただ、自分達を助けたのはこの巨人であるということは千束もたきなも瞬時に理解し、そして、直感で感じていた。

 

 

この巨人は・・・私達の味方だと。

 

 

2人が巨人に見惚れている中、咆哮と共に先程の怪物が瓦礫を吹き飛ばしながら起き上がる。

それに気付き、巨人は怪物の方を振り向き、独特なファイティングポーズを構え、怪物と相対する。

 

「オ前・・・ソウカオ前!アイツカ!?マサカコンナトコロマデ・・・」

 

怪物がその巨人を見て何かに気付くが、怪物が全てを言い終える前に巨人は両腕を突き出してクロスさせると、一瞬にして何メートルもある距離を詰め、怪物の右頬に強烈なパンチを決める。

突然殴りかかってきた巨人に、怪物もまた防戦一方というわけにはいかないのか、右腕を振り上げ手に生えている爪で巨人を切り裂こうとする。

だが、巨人は右手でその怪物の腕を抑えつけると、空いている左腕の手甲のようなものに付いている金色の刃が突如光り出した。

 

「ヘアアアッ!」

 

巨人の声であろう掛け声と共に手甲の刃で怪物の体を切り裂くと、その威力の凄まじさからか、生物の体を刃物で切ったとしても発生することなどまずありえない、火花が怪物の体から噴き出し、怪物はよろけながら後ろへと2,3歩下がった。

巨人はそのまま攻撃の手を緩めることなく、立て続けにパンチとキックを浴びせていく。巨人の素早い攻撃のテンポに、怪物は反撃する間もなく、ひたすら防戦一方となる。

 

「貴様ァァァッ!」

 

何とか状況を打破しようと、怪物は怒りに任せ尻尾を振るが巨人は宙返りでそれをかわし、逆に地面に降り立った瞬間、胸の部分で両手を重ねた後に右手を怪物に向けると、手から三日月型の刃のような光弾が放たれた。

尻尾を振り回していたということもあってかすぐに防御態勢を取れなかった怪物に直撃すると、その威力で先程以上に火花が身体から噴き出す。

その隙を逃さず、巨人は立て続けにもう一度同じ光弾を今度は左足に向けて放つと、火花と共に怪物はバランスを崩し、そのまま後ろへと倒れ込んだ。

 

「す、凄い・・・!」

「あの巨人・・・めちゃくちゃ強い・・・カッコいい・・・!」

 

先程まで自分達が苦戦どころか、立ち回るだけで精一杯だった怪物に対し、巨人はいともたやすくダメージを与え、それでいて終始優勢の状況である。それ以前に、巨人は今まで、怪物の攻撃をまともに受けてさえもいなかった。

 

今巨人と怪物が目の前で繰り広げているのは、映画でよくあるような、大怪獣同士のバトルとも言えるような光景とも言え、体の痛みもあるが、2人はただその様子を見守るだけしか出来なかった。

加えて、千束は目の前に現れ、怪物と戦っている巨人のヒーロー性を見てか、カッコいいと思わず口にする。

 

倒れた怪物に対し、巨人は近寄って殴る、といったことはせず、その場で両手を左腰に沿えた。

例えるならば、武士が剣を抜く際の抜刀のようなポーズを取ると、突如その両手の空間に稲妻のようなものが生まれ出し、両手を駆け巡っていく。

 

「何をする気・・・?」

 

今目の前で起こる全ての事が予測不可能の連続ばかりで混乱するたきなは、その巨人の新たな行動に、より一層怪訝な顔をする。

 

「シュアッ!!」

 

巨人の特徴的な掛け声とともに両手を十字に組むと、縦に向いている右手からオレンジ色の光線のようなものが発射され、一直線に怪物へと向かっていく。

なんとか立ち上がろうとした怪物の体に直撃すると、撃たれた部分が爆発を起こし、再度怪物は後ろに倒れた。

 

「やった!」

 

怪物が倒れたことに2人は小さくガッツポーズを取り、巨人は十字に組んでいた腕を下ろした。

 

しかし、怪物は先程の光線の直撃を受けながらも再び立ち上がったため、再び巨人はファイティングポーズを取る。

だが、おそらく体内で未だにその光線のダメージが続いているのか、体のあちこちが光っており、立ち上がったとはいえ怪物はかなり満身創痍なようである。

 

「貴様ァ・・・マサカココデモ!許サナイ許サナイ許サナイ・・・」

 

すでに巨人に歯向かう力はないが、怪物は恨めしそうに許さないと口にし続け、その怪物の様子を巨人も注視していたが、怪物は突如叫び出した。

 

「貴様、殺シテヤルウウウウウウウァァアアアアッ!!」

 

その叫びはある種の超音波となり、そのあまりのけたましさに千束とたきなだけでなく、巨人も思わず耳を手で押さえる。

 

さらにその咆哮中、怪物の口に青い炎が徐々に口の中に溜まっていき、口いっぱいに広がった青い炎は、叫びの終了と共に、火球として吐き出された。

だが、火球は巨人の方を狙って撃ったわけではなかった。

 

「!」

 

巨人は一瞬で、その火球の方向がわかり、視線をその火球の目標の方に目を向けた。

 

火球は自身ではなく・・・千束とたきなに向けて発射されていた。

 

千束とたきなもそれに気付き、体を動かしてかわそうとするが、先程尻尾で巻かれていた時のダメージや痛みが、時間と共に押し寄せてきて、思うように体が動かせずにおり、その火球の直撃を察し、身をかがめ、目を閉じる。

 

しかし、直前に何かにぶつかったようで、熱さは肌で感じるが、一向に炎は自分達に被らなかった。

ゆっくりと目を開けると、目の前には、片膝をついた状態で両腕を広げた巨人が、2人を庇うように目の前にいた。

 

「・・・私達を、守ってくれたんですか・・・?」

 

千束もたきなもその巨人の姿にすぐに理解した。

あの火球は、巨人が代わりに受けてくれたのだ・・・と。

 

巨人は頷くこともなくすぐに後ろを振り向くが、すでにあの怪物はいなくなっていた。

 

怪物がいなくなったことを確認した巨人は立ち上がり、先程まで怪物がいた所まで行き、少しだけ辺りを見回す。

少しすると、何かを見つけたのか、地面に向かって拳を打ちつけると、その拳を起点とし衝撃波が辺りに巻き起こり、その衝撃から思わず千束とたきなも腕で顔を覆う。

 

「な、何!?八つ当たり!?」

「・・・!まさか・・・?」

 

その行動の意味がさっぱり理解出来ず、思わず千束は倒せなかったことに対する苛立ちなのかと思ったが、たきなは今取った行動の前に、怪物がいた辺りまでわざわざ行ったこと。そして、辺りを見回して何かを探していたこと。その2つからある1つの仮説が思いついた。

 

「何たきな?なんかわかったの・・・?」

「ひょっとして・・・あの怪物の痕跡を、消すために・・・?」

 

あの怪物と戦っていたところまでわざわざ行ってから拳を地面に打ちつけたということは、ひょっとしたら怪物の証拠や痕跡を一つも残さないためなのかもしれない。たきなはそう考えた。でも、どうしてそんなことを・・・?と、その理由をたきなだけでなく千束も考えている中、立ち上がった巨人は周りを浮遊していたクルミのドローンを突如片手でパッと掴むと、それを握り潰した。

壊れたことを確信したのか、手を開くとドローン、だったガラクタは床にバラバラとこぼれ落ちていく。

 

「「!?」」

 

先程まで味方だと思っていた巨人の突然の行動に驚き、2人は巨人は味方ではなく、敵で、最後に自分達を消すための証拠隠滅としてドローンを・・・?と、最悪の事態を想定する。

今までの考えを改め、腕を動かせる範囲で銃を巨人に向けて構え、再度警戒態勢を取った。

 

巨人は再び2人の方を向くと、銃口をこちらに向けている様子を見て、右の手の平を彼女達に向けてかざした。そのポーズはまるで・・・

 

「・・・待て・・・って、こと?」

 

千束がそのポーズを見て思わず言った言葉に特に反応することはなかったが、それでも言葉が通じたのか、手を下ろして巨人はゆっくりと2人の前まで歩み寄っていく。

その様子に、先程まで怪物と戦い、そして火球から自分達を守ってくれた巨人を信じることにし、2人も銃を下ろし、目の前までやって来て、自分達を見下ろしている巨人と向き合った。

 

「・・・あなたは・・・私達の、味方・・・なんですか?」

 

思わず反射的に尋ねてしまったたきなの質問に、巨人は首を動かして肯定や否定といった、わかりやすい反応を一切示さない。

 

ただ、その代わり、とでも言わんばかりに、右手を胸の前に持っていくと、その右手が突如光り出す。

その右手を伸ばして2人に向けると、手の平から光が溢れ出していき、巨人の手から放たれた光が2人を包み込んだ。

 

「何・・・これ・・・?」

「温かい・・・」

 

突然巨人の体から放たれた光を受けていることに戸惑いつつも、その光は優しく、そして温かい光だと率直に感じていた。

少しした後、巨人はその光の放出を終えると、その光を浴びた千束とたきな、2人の体にある異変が起こっていた。

 

「傷が・・・なくなってる・・・?」

 

先程まで怪物と戦った中で受けた体の傷はどこにもなくなっており、かつ、今まで感じていた体の痛みもなくなり、気が付けばスッと立てるまでに体が回復していた。

 

「もしかして・・・治してくれたの・・・?」

 

千束の問いに対し、巨人は初めて、ゆっくりと首を縦に振る。

初めてコミュニケーションが取れたことに口には出さないが喜びを感じ、やはりこの巨人は、私達の味方だと確信が出来たため、2人も思わず笑顔を浮かべ、巨人を見つめていた。

その顔を見て、もう大丈夫なことを確信したのか、突如巨人は赤い光に包まれると、まるで蜃気楼のようにその場から姿を消した。

 

「あっ・・・」

「消えた・・・?」

 

その様子を見ていた2人は少し経った後、体の力が抜けたようにその場に座り込んだ。

 

「ねぇたきな・・・今の全部、夢だったのかな・・・?」

「私もそうだと思いたいですよ・・・ただ、この状況を見て、ぜーんぶ現実なんだって認識させられてます。」

 

2人の目の前には、すでにほぼ大半が崩れ落ちた円柱とその瓦礫。巨人と怪物が戦った結果あちこちが陥没・ヒビが入った地面が、今起こったことは全て現実だと否が応でも認識させていた。

 

一体、自分達は何と戦っていたのか。リコリスでありながら、あの怪物に全く歯が立たなかったこと。あの巨人は、何者なのか・・・など、色々な考えが頭を行ったり来たりしており、とてもすぐには考えはまとまらなさそうだった。

 

すると

 

「千束ーー!たきなーー!」

 

地下道の奥から2人を呼ぶ声が聞こえ、振り向くと合流したミズキとクルミが走ってきた。その奥には、杖をつきながらも懸命に、少しでも早く2人の元へ向かおうとするミカの姿も見える。

 

「千束!たきな!」

 

2人を見つけたミズキは急いで駆け寄り、2人を抱きしめた。

 

「よかった、よかった。2人とも無事でよかった・・・!」

 

2人が無事だった安堵感からか、ミズキは言葉を掛けながらも、溢れてくる涙を抑えることが出来ず、涙を流しながら2人の無事を喜んだ。

 

「大丈夫か!ケガはないか!?」

 

普段は冷静沈着なクルミも、この時ばかりは思わず感情的になり、2人に声を掛けた。

未だに理解は出来ていないが、今の自分達の状態を伝える。

 

「えーっと・・・傷どころか、ぶっちゃけ骨何本か折れてたんだけど・・・」

「治り・・・ました。というより、あの巨人が治してくれました・・・」

 

何を言っているのかわからない2人がは?というリアクションを取る中、遅れてやってきたミカは無事を喜びつつ、冷静に辺りを見回している。

 

「2人とも、無事でよかった・・・様子はクルミも見ていたが、改めて聞きたい。千束、たきな・・・この場で何が起こっていた?」

「実は・・・」

 

千束とたきなは先程まであった出来事を話し始めていく。

 

例の怪物が、人間から変化した存在だということ。

それと戦っている中で、怪物に殺されかけたこと。

 

そして・・・突然現れた銀色の巨人が怪物と戦い、自分達を助け、守ってくれ、最後にケガを治してから去っていったこと。

 

全てを話し終える頃には、3人は頭を抱えていた。

 

「・・・実際に見ていたわけではないためなんとも言えんが・・・何もかも信じられんな・・・」

「ここで怪物と巨人が戦って、巨人が怪物を撃退した後に2人のケガまで治したなんて、どんなSF映画よ・・・その巨人、一体何者なのよ・・・」

「全てがわからん・・・おまけに、ボクのドローンもこんなボロボロにしてくれちゃって。怪物はともかく、なんで巨人までやったかが理解不能だよ。」

 

そう言ったクルミの手には、飛ばしていたドローンの残骸があり、すでに本来の機能や役割を果たすことは出来なかった。

 

「おかげで、内部のSDカードを抜き取ることも出来ないだろうし、修復は不可能だろうね。」

 

恨めしそうにドローンだったものの残骸を眺めながら呟く。確かにこれがあればデータとして有効活用出来ただろうが、すでにこうなってはただのゴミだ。

 

「怪物はともかく、巨人は私達の味方・・・で、いいんでしょうか?」

「・・・情報がないから何とも判断出来んな。怪物と戦い、千束とたきなを助けて、ケガまで治した。だが、ドローンは壊した。その行動の意味についてはわからないが、とにかく、今はここから離れよう。楠木には俺から連絡を入れておく。」

 

ミカの号令により、各自出口へと向かって歩き出す。

そうして歩き始めた矢先、千束は先程まで戦いがあった場所を振り向き、それに気付いたたきなは声を掛けた。

 

「千束、どうしたんですか?」

「いや・・・あの巨人にさ、伝え忘れちゃったんだよね。」

「伝え忘れた?何を?」

 

言葉が通じているかどうかも分からない中で千束が漏らした後悔が何かを尋ねたところ、千束はこう答えた。

 

 

「私達を助けてくれて、ありがとう・・・って。」

 

 

さっ帰ろ!と再び出口の方へと体を向け、千束はすっかり良くなった体で走り出すと、待ってください!と、たきなも走ってその後を追いかける。

 

 

しかし、この時誰もが気付いていなかったことがあった。

 

 

 

 

 

─────その戦闘があった場所の、幸いにも崩れなかった円柱の影から、その一部始終を覗いている人物がいたことを。

 

「・・・いいお店だと思ったのに・・・行けなく、なったな。」

 

全員がその場から去っていったことを確認すると、彼は踵を返して、彼女達とは反対側の道を歩き始めた・・・

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。