+LycorisーNEXUS JUDGEMENTー   作:ワンホットミニット

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今年最後の投稿となります。

一応念のためお伝えしておくと、リコリコとジャッジアイズは全て本編終了後の設定となっております。
そのため、主要キャラは全て本編より一つずつ年齢が上がっています。
なので、千束は18歳・たきなは17歳・八神は36歳・・・といったような年齢に本作ではしております。
と言っても、読んでいる分にはそこまで関係はありませんが。


タイトル通りですが、今回は君の前前ぜ・・・おっと誰か来たようだ。


それでは、本編をどうぞ。




What's your name?

神室町─────八神探偵事務所

 

「あーーーっ、ひ、ま、だ、なぁ!」

 

ソファにもたれかかりテーブルに足を乗せながら、海藤は愚痴をこぼしながらタバコをふかしていた。

相も変わらず、八神探偵事務所は閑古鳥が鳴いている状況だ。

とはいえ、悪い意味でこれも当たり前になっているのか、八神は特に気にも留めず、所長用の椅子に座りながら同じくタバコを燻らしている。

 

昨今、禁煙によりあちらこちらで吸えない状況が続き、喫煙者の肩身が狭くなっているが、神室町に関してはそんな禁煙・嫌煙の流れはどこ吹く風だ。無論、それは八神探偵事務所も変わらない。と言っても、この事務所で寝泊りもしているため、2人にとってみればある意味家みたいなものなので、関係ないと言えばそこまでなのだが。

 

「海藤さん、さっきからずーっとそればっかじゃん。」

「だってよター坊、もう依頼が最後にあったのも3日前だぜ!それもペット探しだからすーぐ終わっちまったしよぉ!仕事の依頼さえ来てくれればなぁ・・・」

 

ぼやかないぼやかない、と八神はなだめるが、海藤は限界が来たのか立ち上がり、依頼がねぇか探してくる!と外へと飛び出していった。

その様子を上から眺めつつ、八神も吸っていたタバコを灰皿に押し付けた。

 

「・・・俺も出るか。」

 

そう言って事務所のドアを開け、八神も外へ出た。

ちなみに、外に出るにも関わらず、鍵をかけない癖は未だ健在だ。

 

 

 

「・・・とは言ったものの、仕事が落ちてるわけないよなぁ・・・・」

 

と、外に出たところで何かが起きるというわけでもなく、よく晴れた空を恨めしそうに睨めつつ、八神の仕事探しと称した散歩は続いていた。

未だに神室町にはチンピラはそれなりに居るが、それでも最近の神室町の治安は、ここに住んでいる八神の目から見れば、平和そのものだった。

 

「・・・ん?」

 

そんな散歩中、ふとある人物に目が留まった。

 

それは以前、神田・錦糸町方面に仕事へ向かった際に、仕事終わりにたまたま入った喫茶店で声を掛けてくれたあの男の子だった。以前は私服だったが、今日は学生服を着ている。

ただ、今日は平日。そして、制服。ということは、おそらく・・・サボりか?

そう当たりを付け、特にやることもなかったため、気になってみた八神は声を掛けてみようと近付いていく。

 

「あのー、ちょっといいかな?」

「あ、はい。どうし・・・あっ!」

 

その男の子もまた、声を掛けた八神に気付くと同時に、驚きの声が口から零れた。

 

「君、確かあの時喫茶店で声掛けてくれたよね?あのさ、平日だけど学校どうしたの?まさか、サボり満喫中?」

「えーっと・・・はい・・・」

 

少し目を伏せ、バツが悪そうに答えるが、八神は咎めることもなく、あっけらかんとした態度を取る。

 

「大丈夫大丈夫、そんな日誰にでもあるって。俺なんてそもそも高校中退だし。」

「そうなんですか!?あの八神さんが!?」

「驚きすぎだって・・・まぁそんな奴でも、頑張れば弁護士になれるんだよ。」

「そうなんですね・・・」

「ところでどうしてサボってるの?学校が嫌なの?」

 

その八神の質問に対し、少し曇った表情をしながら、その男の子はゆっくりと答え出した。

 

「学校が嫌なわけじゃなくて・・・ただ、ちょっとショッキングな出来事があって、心の整理が出来てなくて授業とかにも全然集中出来なくて・・・で、近場だとバレると思って、結構離れた場所まで行こうと思って電車乗ったら寝ちゃって・・・起きたら新宿だったので慌てて降りたんですけど、まだ時間も早いので戻るわけにもいかず・・・ただ、新宿って全然来たことなくて困ってて・・・」

「なるほど。事情は聞かないでおくけど、誰だって色々あるし、授業受けてても上の空、なんてことあるもんね。わかるよ。」

 

責めるわけでもなく、八神はその悩みを真摯に聞き、あえて深入りはせず、そういうこともある、と学生ならではの悩みを受け止める。

その上で、じゃあさ、と切り出し、その男の子にとある提案をしてみることにした。

 

「せっかくならさ、帰る時間が来るまで、俺が神室町を案内するよ。」

「えっ!?いいんですか!?」

「いいっていいって。どうせひ・・・今日はオフだったし。」

 

暇、と言うと流石に探偵としての看板に傷がつくと思い、咳払いを一つしてオフと言い換え、今日は空いていることを伝えると、その八神の提案に対し、先程までの不安がっていた表情から一転、笑みを浮かべる。

だが、喜んだのもつかの間、ほぼ初対面の自分に対して本当にそんな事をしてくれるなんていいのかと考え、再度困惑し、困り顔で本当にいいんでしょうか?と尋ねた。

 

「いいっていいって。気にしない気にしない。」

 

その困り顔を吹き飛ばすかのように肩を軽く2度ほどトントンと叩き、大丈夫だということを行動を交えて伝えると、先程のように自然な笑顔を浮かべ、はい!と元気よく返事をした。

さっ、行こうか・・・と声を掛けた矢先、八神はある事に気付く。

 

「そういえばさ、まだ名前聞いてなかったよね。名前、なんて言うの?」

 

八神の質問に、彼は自己紹介をする。

 

 

 

「あ、すいません。真田 光輝(さなだ こうき)って言います。」

 

 

 

同じ頃、日本─────DA本部

 

「「せーの!」」

 

千束とたきなはDA内にある警察の取り調べ室のような所で、描いた絵を楠木に見せた。

以前この方法である人物を特定しようとしたのだが、その時は2人の描いた絵が見事に不一致であり、正直この方法はもう使わないと思っていたが、データが貰えなかったという事情もあるため、やむを得ず、楠木はもう一度この方法を取ることにした。

 

そして描かれた絵は、差異はあるものの見事に特徴は一致していた。

 

ヘルメットのような頭部に光り輝く大きな目。差異はあるものの顔についてはお互いほぼ合っている。

体については所々差異はあるものの、腕の赤い手甲と、胸のYを模したシンボルは同じだ。

 

千束はまだしも、たきなは・・・独特の絵心を持つ人物であるため、口には出さないが誰もが不安視していた。顔ならなおさらだ。

にも関わらず、今回の絵は千束の描いた絵と似ており、逆に言えば、巨人の顔はそれほどまでに特徴的であり、描きやすい顔、ということなのかもしれない。

 

「おー!合った合った!ピッタリ賞ー!」

「やりましたね千束!これで私は絵心ありますよね!?」

「お、おう、そ、そーだなー・・・」

 

描いた巨人の絵がピッタリ・・・とまでは言わないが、それでも大まかに見れば合っていることを喜ぶ千束とたきなを横目に、楠木は2人の絵を見ながら、否が応でもやってくる頭痛を抑えようと、片手で頭を押さえながら何度も聞いたことを再び質問してみる。

 

「これがお前達2人を助けた例の巨人・・・何度も聞くが、ふざけているわけじゃないんだな?」

「ふざけてなどいません!私と千束はこの目で見て、そして巨人に助けられたんです!本当なんです!」

「信じてくださいよ〜楠木さ〜ん。」

 

ここに2人が来てから何度も同じ質問をしているが、返ってくる答えは変わらず一緒だった。

 

あれから2日が経ち、千束とたきなはDA本部へと呼び出されていた。

本来ならば翌日すぐに来させようとしたが、まだ2人とも整理が出来ていないというミカからの連絡・・・とは言いつつ、本当のところとしては、お前達のせいで大事な2人が本当に死にかけたんだから、1日は休みを与えろという意味合いが存分に含まれた休暇を粘り強く申請し、かつてある事件で喫茶リコリコに助けられ、DAとしても借りがあるため、それらを考慮し、結果DA側が渋々折れることになり、報告書を提出するということを条件に、2日後という運びとなった。

その代わりとして、ミカが昨日の内にDAに行き、報告書と共に話を済ませていたのだが。

 

理由はもちろん、先日の事件で遭遇したという、怪物と巨人についてだ。

 

録画データが破損しているため、データを渡すことが出来なくなった結果、当事者である千束とたきなが唯一の情報源であり、こうして話を聞いているわけだ。

ちなみに、クルミのことはDAには秘密であるため、ドローンはミズキが操作していた、ということにしている。

 

しかし、前回のサードリコリスの話の時以上にスケールアップし、人間が10メートル大の怪物に変化し、銃もグレネードも全く効かない存在だったという。

そして更に頭を悩ませたのが、同じ大きさの銀色の巨人も突如現れ、ピンチに陥っていた2人を助け、怪物まで撃退したという。

最初この報告を受けたとき、一体何のSF映画を見たのだ、ふざけているのかと問い詰めたが、昨日のミカから話を聞いてみても、当事者ではないが同じことを言っており、何度も確認したが返ってくる答えは同じだった。

 

そして今日、例の当人達に聞いてみても、何度質問をしても結果は同じだった。

嘘をついている可能性ももちろん考え、DA独自で導入しているウソ発見器にもかけたが、結果は2人の言っていることは事実だということを示していた。

 

加えて、巨人から放たれた光を浴びて身体の傷や骨折が治ったという報告も昨日のうちにミカから受けていた。

もちろん、こちらについてもそんな光を浴びただけでケガや骨折などが治るというバカな話があるものかと思っていたが、事前に行った身体検査・メディカルチェックでも、体のどこもケガ一つない、全くもって健康体であるという結果だった。

 

つまり、この2人の言っていることは、ありえないことの連続ではあるが、それでも全てが、事実・・・ということを示していた。

 

「・・・本能では未だ受け止めきれないが、理性で現実だと認めるしかないか・・・」

「司令、大丈夫ですか?」

 

その様子を心配した楠木の秘書が近づくが、大丈夫だと言って払いのけた。

 

「で、結局その巨人も怪物も逃走。おまけに、ビースト、とその怪物は語っていたのだな?」

「はい。ただ、それが自分のことを指しているかまではわかりませんでしたが、ビーストを食べた・・・と。」

「どのみち奴だって化け物だろう。ただ、同類を捕食という行為のみで見れば、生態ピラミッドで例えるのならば、奴は他のものよりも上にいる存在、と言えるだろう。以降、これらの怪物のことを、ビーストと呼称することにする。現時点からのリコリスの最優先事項は、このビーストの発見・抹殺とする。そのための武装についてもすぐに手配する。後日お前達にも手配してやろう。」

「楠木さーん、私命は奪わない主義なんですけどぉ・・・」

「よくもまだぬけぬけと言っていられるな。そもそも、まだそんな怪物を人間だと思っているお前の思考が信じられん・・・考えてもみろ。お前達が遭遇したビーストから見れば、あそこまでしてやられたお前達は巨人の次に殺すべきターゲットになっているだろう。だからこそ、貴様ら自身を守るための武器をこちらから提供してやると言っているんだ。むしろありがたく思え。」

「司令、すみません。私達が遭遇したあのビーストのコードネームは?他のリコリスもビーストと遭遇していたみたいですが・・・」

 

たきなの質問に対し、面倒だと思いつつも、確かにその指摘は一理あった。

現状、ビーストは今回の件含め、3種類確認されている。それら全てを一緒くたにすると、上に報告する時に混乱する可能性も考えられる。

そこで、顎に手を当てて少し考えた後、楠木はそのビーストのコードネームを決定した。

 

「現状、お前達が最初にはっきりとその目でビーストと遭遇、そして交戦した・・・つまり、我々にとってもその名前など含め、データが得られた最初のビーストということだ。ならば以降、そのビーストのことは、"ビースト・ワン"と呼称することにする。」

「ビースト・ワン・・・」

 

安直だなー、と千束は内心で思いつつも、あの時自分達が対峙したビーストに対して好感などあるわけがなく、2人も特に異論はなかったため、その名前を承諾する。

そのビーストのコードネームが決まったことを受けて、千束はもう一つ、どうしても確認したかったことを尋ねる。

 

例の、銀色の巨人に対してDAとリコリスが取る対応についてだ。

 

命を救ってくれた巨人だからこそ、もし仮に攻撃という命令が下されたとしても、私達はあの巨人に絶対攻撃はしない、ということは昨日たきなと話して決めていた。だが、それでもやはりDA、そしてリコリスが巨人とどう向き合うかはお互い気になっていたところだった。

 

「楠木さん、巨人の方は?」

「・・・現状については我々と同じくビーストの殲滅を行っていると判断している。おそらく、これまでビーストを倒していたのは、全てその巨人の仕業だろう。可能であれば捕獲・調査をしたいところではあるが、お前達の言うその能力が本当ならば、現状の我々の装備では難しいだろう。それに、ビーストの方が明らかに人間に危害を加えているため、巨人の対応についてはビースト殲滅以降改めて決めることとする。」

 

巨人の対応については一旦保留となったことに千束もたきなもホッとし、方針が決まってもう話すことがなくなったのか、楠木は取調室の出入り口へと向かおうとする。

が、ちょっと待って楠木さん!と千束は慌てて声を掛け、その足を止めさせた。

 

「あの巨人の名前は付けないの!?」

 

先の怪物をビースト、と呼称すると決めたのなら、あの巨人にもコードネームを付けるのがしかるべき対応と捉え、足を止めさせてでも質問をしたのだろう。

しかし、楠木はその提言に対しこう返す。

 

「名前がその場で出てこなかった者をわざわざ名付ける必要もない。巨人でいいだろう?」

 

もちろんこれに納得出来る千束・・・なわけは当然なく、楠木の言葉にすぐ、私達を助けてくれた恩人なのにかわいそー!ビーストだけ名前があるのに不公平だー不平等だー!と、文句を言い始め、それは一向に止む気配がない。

 

「だったら」

 

その文句を止めるかのように、楠木は振り返り千束に言い放った。

 

「お前が名前を付けろ。お前達を助けてくれた命の恩人なんだろう?こちらは名前などどうでもいいが、情報提供の見返りとして、特別に貴様にコードネームを付ける権利くらいやろう。そのくらいは出来るだろう、錦木千束?」

 

命令であるがある意味、挑発のようにも聞こえる提案。

それに対し、千束はニヤリとしてみせる。

 

「いいよ。みんながみーんな、最高!ってなるような名前、考えてあげる!」

 

「・・・期待せずに待ってやる。」

 

 

 

同じ頃─────神室町

 

「ごちそうさまでした八神さん。まさかラーメンまでご馳走してもらえるなんて。本当にすいません・・・」

「いいっていいって気にしないで。そんなお金もないでしょ?」

 

黄色い暖簾の、神室町から古くからあるラーメン屋から出てきた八神、そして光輝は、観光と称し、八神の庭とも言える神室町を当てもなくぶらぶらと歩いていた。

 

「あ、いえ。実は家の近くにあるお店でバイトしてて・・・なのでまぁ、普通の高校生よりかは、まぁ・・・って感じです。」

「へぇそうなんだ。部活とかは?」

「入ってないです。その代わりに、バイト、って感じですね。」

 

なるほどね、と、光輝の生活について少し知ることが出来、それに対して相槌を打った後、そういえばさ・・・と八神は切り出し、前回出会ったあの喫茶店の女の子の店員から話を聞いていて、本当かどうか確認してみたかったことを尋ねてみる。

 

「この前真田君と会った喫茶店で、店出た後にお店の女の子から君がハチミツ作ってるみたいな話聞いたんだけど、それって本当なの?」

 

まさかの人物が出たことに少し驚いた様子ではあったが、すぐに切り替え、光輝は自分の家の事を語り始めた。

その様子に少し八神も気にはなったが、今は家庭の話の方が聞きたいため、そこは一旦置いておいて、光輝の話に耳を傾ける。

 

「あっ、それなら本当です。ウチ、人が周りに誰も住んでいない千葉の山奥にあって、なので、蜜蜂であっても人に迷惑がかからないってことで作り始めて。他にも色々野菜とか果物も作っていますね。と言っても、野菜はウチで食べる分程度ですが。」

「本当に農家さんなんだね。俺の周りには誰もそういう人いないから、珍しいよ。」

「いやいや、そんなに珍しいことでは・・・あ、後、自分のことは全然気を遣わなくていいので、光輝でいいですよ?」

「あ、そう?じゃあ光輝君ってこれから呼ぶ「八神ィィッ!」

 

光輝が自分の呼び方について提案をしている最中、突然大声で八神を呼び止める声がし、後ろを振り向くと、黄色いラインが入ったジャージを着た、いかにもチンピラという人物がいた。

 

「はぁ・・・またお前かよ葛西。」

 

その悪い意味で、見知った顔を見て八神はまたかよ・・・というリアクションを取り肩を落とすが、当の本人にとっては余計怒りの導火線に火をつけることとなった。

 

「あの、知り合いですか・・・?」

「あぁ。京浜同盟って半グレ集団の四天王・・・とかいうのの一人。何度もコテンパンにしてるんだけどしつこくてね。光輝君もこいつらには気を付けてね。」

 

さも特に気にも留めていない様子に余計怒った葛西はおいと声をかけると、その後ろから鉄パイプや金属バットを持った同じようなチンピラ5,6人がぞろぞろとやって来た。

 

「今日はお前に恨みがある京浜同盟のやつらを連れてきた!これでてめぇも終わりだ八神!」

 

その京浜同盟の集団を見て、これは無事に終われないと確信し、仕方ない・・・と表情を変え、光輝を巻き込まないよう下がってて、と指示し後ろへ下がらせた後、手を大きく広げ構えると、その京浜同盟の集団に向き合う。

 

「お前ら!やっちまうぞ!」

 

それがきっかけとなり戦い、もといケンカの火蓋が切って落とされ、お互いが走り出すが、八神はいきなりスライディングをし、チンピラの何人かの足を取り、空中へと吹き飛ばす。

そこから、武術の一つであるカポエイラの技にあるような、逆立ち状態ながら開脚をし、自身の手と手首だけを使い、体を回転させる独特の技で何人かを巻き込み、次から次へとチンピラを蹴り、吹き飛ばしていく。

その蹴りが体のいいところに入ったのか、吹き飛ばされたチンピラはその場にうずくまり、立ち上がることすら出来なくなっている。

 

「てめぇ!」

 

金属バットを持ったチンピラの一人が立ち上がった八神に殴りかかるが、カウンターのように一瞬で手に持っていたバットを落とさせると、逆にそれを自身が持ち、代わりにバットをそのチンピラの体目掛けて振り抜くと、野球ボールのような勢いで数メートル後ろへと吹き飛ばされる。

 

さらに単純に殴りかかってきたチンピラに対しても、当たるか当たらないかのぎりぎりの部分でかわし、逆にお返しとばかりに次々に殴っていき、気付けばあっという間にその場に倒れ込んだ。

 

「すげえ・・・」

 

その様子を安全なところから見ていた光輝は、八神の圧倒的な身体能力と技術、そして純粋なケンカの強さに驚いていると、いつの間にか残りは先程八神にケンカを売ってきた葛西という人物だけになっていた。

 

八神は余裕の表れか、何かの構えを次々に取り、葛西に向けて一撃を決めてやろうと言わんばかりの構えを取る。

 

「てめぇ・・・ふざけてんじゃねぇぞ!」

 

その余裕の表れとも言える一連の構えが余計怒りの導火線に火をつけ、やられる前にやっちまおうと思い立ち葛西は走り出し、先に八神に殴りかかろうとするが、大振りになったその一瞬のスキを見逃さず、八神は葛西の体に気合を込めたパンチを叩き込んだ。

その強烈な一撃に、葛西は口から軽く血を吐きながら数メートルは吹き飛ばされていった。

 

やって来た全ての京浜同盟の連中を片付け、八神は構えを解き、まるで軽く運動をした後のようにその場で軽くジャンプをし、ふぅっと一息入れる。

その一部始終を見ながら、光輝はその八神の身体能力、いや格闘能力から、あることを考えていた。

 

 

それは、2日前見た、いや正確に言えば見てしまった、アイツと対峙していた─────あの時の喫茶店の店員である2人の女の子。

まさか、八神さんも・・・?

 

 

「大丈夫?けがはない?」

 

八神が近くまで駆け寄っており声を掛けていたが、そのことについて考えを巡らしていたため気付かず、声を掛けられていることに気付いた際、光輝は思わずうわっ!と驚きの声を上げ、それにつられて八神も驚く。

 

「うぉっ!?大丈夫?どうしたの?」

「あ、す、すいません。ちょっと八神さんが凄く強くて驚いてて・・・あの、八神さんはどうしてそんなに強いんですか?ひょっとして、なんか映画とかでよくある、特殊機関の人なんですか・・・?」

 

シンプルに、あんな半グレ、もといチンピラに対して完封、とも言えるほどの圧倒的な実力差を見せつけ、事実八神はケガ一つしていない。その単純な強さに疑問を持って聞いてみたが、いやいやそんなわけないじゃない。と八神は手を横に振りその考えを否定する。

ただ、と付け加え、自身がどうしてこんなに強い、というよりこんな状況やケンカに慣れているのかの理由を語っていく。

 

「昔カンフーを習ってたことがあるんだけど、高校生の頃にある事が原因でこの神室町に来た時に、誰彼構わずケンカふっかけてたヤンチャな時期があってね・・・で、まぁ今も割とこういうのに依頼でよく当たるんだけどね・・・そういった経験からだよ。だから、想像してるようなどっかの特殊機関とか一個も関わってないし、俺はただの探偵だよ。というか、そんなとこに関わってたら、探偵なんてやってないって。てか、弁護士だってなれてないって。」

 

最後の方では苦笑いを浮かべていた八神に対して、恐らく八神が嘘を言っていないというのは、少し関わったこの短時間でわかっていた。なので、先程考えていた予想とは違うということが確定したので、顔には出さないが内心ではホッとし、そうなんですねと光輝は軽く相槌を打つ。

 

このケンカが起きた場に、正当防衛ではあるがそのケンカをしていた当人としてあまり長居をするのは良くないということは経験上よくわかっているため、とりあえずここにずっといると危ないから離れよう、と提案をし、八神と光輝はその場から離れるために背を向け歩き出した。

 

だが、背を向けていたということもあり気付かなかったのだが、葛西はふらふらとだが立ち上がった。

さらにその手には、元々仕込んでいたのかはわからないが、小さなナイフを握っている。

 

「八神ィィッ!ふざけんじゃねぇ!こうなったらそっちのガキを殺してやらぁ!」

 

ナイフを構えながら葛西は八神、ではなく、光輝に向かって走り出していた。

前を歩いていた八神は一瞬だけ判断が遅れ、まずい!と思うも、時すでに遅し。そのままナイフは光輝の体に・・・

 

 

─────刺さらなかった。

 

 

その声に気付いた光輝は、ナイフが来る直前に身をかわすと同時に、ナイフを持っていた葛西の手首に手刀を当てると、その痛みで葛西は思わずナイフを地面に落とした。

更に片腕を両手で掴むと、勢いのままに背負い投げを決める。

 

「ぜああああっ!」

 

追い打ちとばかりに、背負い投げをして倒れ込んでいる葛西の腹部に向け正拳突きを決めると、そのあまりのパワーからか、ゴホッというせき込んだ声と同時に、葛西は気を失った。

 

「・・・えっ?」

 

外見や話し方、雰囲気からは想像も付かないほどの勢いと迫力のある武術に八神は驚き、少し呆然とするが、パトカーのサイレンの音が聞こえてきたため、聞きたいことはあったが自分達の身の安全を守るため、この場から急いで離れることを決め、声を掛けて急ぎ足でその場から2人して退散していく。

 

 

 

「ごめんね。あんな事に巻き込んじゃって。」

 

先程のケンカの場から大分離れ、八神探偵事務所の近くまで来たため、ここならもう大丈夫かと思っていたのだが、先程のケンカですでにかなりの時間が過ぎていたため、いつの間にか光輝の帰るべき時間となっていた。

そのため、光輝の安全確保という観点から、今日はもう帰った方がいいということになり、こうして2人は駅構内に居た。

 

駅構内であれば、新宿という場所故、多くの人が行き交うことや、先程の騒動があった場所からも随分と離れているため、ずっとここにいたのでわかりません。とシラを切れば警察もわからないだろう、と踏んだからだ。

 

「そうですね・・・まぁビックリはしましたけど・・・こちらこそ楽しかったですし、ラーメンもとっても美味しかったです。ありがとうございました。」

「ところでさ、さっきの凄かったね。何かやってたの?」

 

先程見せた護身術。それも八神の目からしてもかなり手練れているようであり、その性格や喋り方、外見とのギャップがありすぎたため、どうしても八神は聞いてみたかった。

それに対し、あー・・・と、光輝はバツが悪そうな顔をしたが、あははと苦笑いし、後頭部を手で掻きながら八神の質問に答える。

 

「実は昔柔道とか空手とかを護身術の一環みたいに学んでいて・・・その時の経験から・・・例えばですけど、山で熊が出たときとかに戦えるように。」

「いやいや熊と普通戦ったら死ぬからね?・・・でも、確かに学んでおいて損はないよ。今日みたいにいざって時にも役立ったし。何なら、今度俺に何かあったら助けてよ?」

 

八神はその光輝の強さを見て思わずジョークを飛ばすが、やめてくださいよと光輝は苦笑いを浮かべる。

そんな話をしていると、もうすぐ乗るための電車がやってくる時間となったため、話を切り上げると、光輝は改めて八神に今日のことを感謝し、深く頭を下げた。

 

「八神さん、今日は本当にありがとうございました。凄く楽しかったです。それと、ごちそうさまでした。」

「いいっていいって。俺も楽しかったし、もしまた近くまで来たらウチ寄ってってよ・・・あ、そうだ。」

 

そう言って八神はレザージャケットの胸ポケットから名刺入れを取り出した後、一枚の名刺を手渡す。

そこには、"八神探偵事務所 所長 八神隆之"、という名前が記載されており、傍らには電話番号も載っていた。

 

「これ、ウチの名刺。何かあったらここに電話掛けてきてよ。連絡あったら千葉の山奥だって行くから。八神探偵事務所は、フットワークが軽いことが取り柄だから。」

「あ、ありがとうございます!」

 

それじゃあと光輝が改札内へと向かおうとした際、そうだ・・・と、八神は以前光輝と会ったその喫茶店の店員である千束から頼まれていたあることを思い出し、改札に入る前に呼び止める。

本来であればもう少し早く伝えよう・言おうと思っていたのだが、先の葛西の一件ですっかり忘れていたからだ。

 

「あのさ、この前光輝君と出会った喫茶店の店員の女の子が、もし探偵さんなら会えるかもしれない、ってことで頼まれてた伝言なんだけど、ハチミツちゃんと持ってきてくださいね、だってさ。」

 

八神の口からまたもや思わぬ人物の名前が出たのか、一瞬だけ表情が困惑した光輝に、八神はん?と違和感を覚えた。

 

 

「・・・はい。それはまた持っていきますね。」

 

 

光輝の顔は笑っている、のだが、気のせいだろうか。

 

どこか─────"ぎこちないような笑みを浮かべているように八神は感じた。"

 

 

そのまま背を向け、光輝は改札内へと入っていき、もう一度八神の方を振り向いた時にはとても自然な笑顔を浮かべており、改めてもう一度頭を下げ、手を振ってから振り返ると、乗るための電車が来る該当路線へと向かって歩いていった。

最後まで丁寧でいい子だったな・・・と、八神は今時あまりいないような、特に男子高校生とは思えないほど丁寧さが溢れ出ていたその言動や行動に少しの感動を覚え、姿が見えなくなるまで見送っていた。

 

だが、先程自分が感じたあの笑顔の違和感の正体については何が原因かわからず、変なこと言ったかな?とも考えていた。

ただ、あくまでもそれは高校生だから色々あるんだろうな・・・まぁあの様子じゃ、持ってってあのどっちかにアタックしたけど、フラれたのかもな・・・という思春期の男の子ならではの問題、ということに落とし込み、特にそこまで気にも留めず、八神は事務所へ帰るために踵を返した。

 

 

そういえば仕事、見つからなかったな・・・ということを思い出したのは、帰りの道中だった。

 

 

 

一方、とある電車内─────

 

「はぁ〜あ。結局思いつかなかったなぁ、名前・・・」

「そんなすぐに出てくるもんじゃないでしょ・・・」

 

DA本部から、最寄り駅へと向かうためのローカル線車内。

4人が2・2で座れるようなボックス席に、千束とたきなは向かい合いながら座っている。

 

あの後、千束はいくつか名前の候補案を出してはみたが、どれもこれもが誰に対しても、もっと言うと自分自身にも刺さっておらず、そのまま時間だけが流れていった。その結果、2人が帰る時間となったため、これは持ち帰りの宿題となった。

 

「大体、本人が言ってないのに私が本当に決めていいの〜、って話じゃん。」

「いや名前がないの可哀想って言ったの千束じゃないですか。完全に自業自得です。」

 

自分が言い出しっぺだということは理解していたものの、今のたきなの指摘はまさにぐぅの音も出ない正論であり、うぐっと思わず声が出た。

それに少し落ち込んだのか、千束は座席の肘置きに肘をつき、手に顎を乗せる。同じようにたきなは顔を横に向け、そのままお互い何も喋らず、沈んでいく夕陽をただ眺め続けている。

 

「・・・たきなはさぁ、あの巨人のこと、どう思った?」

 

あの時、自分達を助けるかのように突如現れた銀色の巨人。誰がどう見たって人類外の存在であり、おそらく宇宙人だと思っている。

そんな存在だが、あの時、ビースト・ワンから自分達を助け、戦ってくれて、火球の直撃からも庇ってくれ、加えて、体のケガまで治してくれた。紛れもなく、自分達の命を救ってくれたのは、彼だった。

彼、という言い方で合っているのか。そもそも男性なのか女性なのか。それ以前に、性別すらあるのかどうかというところだが、あの巨人独特の掛け声からして、彼、と千束は直感で感じていた。

 

これらを踏まえた上で、千束個人としては、彼はいわゆる、正義の味方・・・だと認識している。

目の前に座る相棒も多分同じ考えだと信じたいが、どうだろうか。そう思い尋ねてみたくなった。

 

そうですね・・・と少し悩んだ後、たきなは自身の巨人に対する考えを語り始めていく。

 

「まず、あの人は私達の味方だと思います。」

 

自分と同じく味方だと考えていることに内心ホッとし、その心は?と付け加えてさらに深掘りしようとしていく。

 

「あの時、私達を助けてくれたのはあの人でしたし、火球から身を呈して庇ってくれた瞬間に、この人は本当に私達を守ってくれるんだ、と思いました。」

「ほぅほぅ。」

 

ちゃんと聞いてますか?というたきなからの確認を求める問いに対し、ニマニマ、という表情の擬音があるが、まさに今この顔を表現するならばこれだろう。そんな風に、千束はニマニマしながら、続けて続けてと催促する。

 

「全く・・・それに、あんなに強かったですし、それでいて苦戦しているようにも見えなかった。神様・・・とはちょっと違うと思ってますし、私はあの巨人は宇宙人だと思ってます。ただ、そんな相手に使う言葉じゃないのはわかってますけど・・・多分、ああいうのを、超人・・・って呼ぶんでしょうね。まぁ、千束みたいに弾を避けられる人もそうですが。」

 

そうたきなが最後に少しだけ、皮肉を込めて答えながら千束の方をチラリと見ると、動作だけを見ると、まるで金魚か?と連想してしまうほどに、千束はパクパクと口を動かし続けている。

 

それはまるで、何か欲しいものを見つけたかのように・・・

 

「ど、どうしたんです「今なんて言った!?」

 

たきなも先程までアンニュイな態度を取っていた千束の突然の変化に気になり何かあったのかを聞こうとしたが、その質問は遮られ、代わりに千束はグイッとたきなの前に顔を突き出した。

何て言った、とのことだったので、たきなは今まで話していた自分の発言を思い出してみる。

 

「えっ?えっ?千束みたいな・・・」

「そうじゃないそうじゃない!その1個前!」

「えっ?・・・超人、です「それだーーーー!!」

 

その言葉を待ってましたと言わんばかりに、千束は興奮のあまり大声を出しながら思わず立ち上がった。

その声は電車内に響き渡り、なんだなんだと周りの人が一斉に振り向いたため、たきなは千束を落ち着かせ、席に座るよう催促する。席に座るものの、千束の興奮は収まることはなく、先程からずっと目をキラキラさせている。

 

「それだよそれ!超人だよ超人!たきな天才!」

 

超人、確かに自分もそう言ったことを覚えている。

ただ、巨人と超人だと、漢字が一文字違うだけでは?と疑問に思っており、念の為、それでいいのかどうかを確認をしてみることにした。

 

「・・・名前、超人にするんですか?」

「違うってー!それじゃ巨人と変わんないじゃ~ん。」

 

やっぱり自分の想像通りだったが、だとしたら、超人をどうするのか?

そう思っていると、千束は咳ばらいを一度し、胸に手を当て、とある宣言をする。

 

「よーし、ではたきな君!今からあの巨人の命名式を行う!とくと聞きたまえ!」

「はぁ・・・」

 

全くついていけてない様子のたきなを置いてきぼりにし、えっへんと言わんばかりに、千束は今心の中で決めたある名前を発表することにした。

 

 

超人を英語にしたものであるが、正確に言えば少し異なる訳になる。

何か国語も話せるリコリスだからこそ、そんなことは百も承知だ。

 

けれど、彼を表現するには、スーパー、では足りない。

だからこちらの言葉を選んだのが、それが妙に収まりが良く、それでいて親しみやすそうな名前になった。

 

加えて、よくあるヒーローの名前として、〇〇マン、というのもある。

おまけに、彼はとっても強くて、とっても私達に優しくて、とってもカッコよかった!

 

だからこそ、自分が今思いついたこの名前は、これまでに考えたどの名前よりも、あの巨人に合うはず!

千束は直感でそう確信していた。

 

 

たった今思いついたその名前を、口に出した。

 

 

 

 

 

 

 

「あの巨人の名前・・・ウルトラマン、なんてどう?」

 

 

 

 

 

 

 

 

「ウルトラ、マン・・・ですか?」

 

ウルトラマン、彼女はそう言った。

確かに超人を英語にしたものではあるけれど・・・と思っている中で、千束はこのウルトラマンという名前を思いついた理由を嬉々としながら話し始める。

 

「そう!とんでもなく強かったし、とんでもなく私達にも優しかった!あれこそまさに超人!で、あの時私達を助けてくれた感謝と親しみも込めて、ウルトラマン!ね!どう?」

 

千束が決めた仮称のコードネーム。そのきっかけのボールを投げたのは自分ではあるが、その場のノリと勢いで作った名前ではあったものの、その理由を聞いたことや、ウルトラマン、という単語が時間が経つと共に不思議と馴染んできており・・・確かに、あの巨人にピッタリの名前かもしれない、と納得している自分もいる。

同意と言わんばかりに、優しく微笑みながら、たきなは千束に向き合う。

 

「・・・ふふっ、いいんじゃないですか?ウルトラマン。」

「やったー!たきなのお墨付きももらったー!というわけで今からあの巨人は、ウルトラマン!ウルトラマンウルトラマン~♪」

 

今にも鼻歌でも歌うかのように喜々として足をパタパタさせる千束をやれやれと思いつつも、たきなは微笑みながらその様子を見守っていた。

彼の名前が決まった喜びと、次また会えることへの期待を混ぜたような表情で夕陽を見ながら、千束はひとり言のように呟いた。

 

「次会ったらちゃんとお礼言わせてね、ウルトラマン。」

 

 




タイトルを、ダブルミーニングにしておりました。

というわけで、ウチのオリ主こと、真田 光輝君、4話目にしてついに名前を出しました。

そして、ウルトラマンの名前について、構想を考えた時、この2人がこの世界で最初にウルトラマンという言葉を言ってもらいたいと思っておりましたので、そうしました。
ちなみに、本文中2つほどウルトラマンネタ突っ込んでおります。これはわかりやすいと思います。


そしてしばらく、千束とたきなはお休みです。ついでに、早速真田君もお休みです。
次回からは少し、八神視点で話が動いていきます。


それと、お伝えをしておきますが、次回は少しお休みをし、お正月が明けた頃にでも投稿予定です。お正月は皆さんミズキのように酒に溺れないように気を付けましょう。


私は大晦日から3が日まではビールを1日2Lは空ける予定です。
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