+LycorisーNEXUS JUDGEMENTー   作:ワンホットミニット

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重ね重ねになりますが、評価いただきありがとうございます。
評価バーの色がつくとは正直思っておりませんでした。
マイペースな更新ですが、どうぞよろしくお願いいたします。

というわけで、やっとこさ、ここまで来ました。
いよいよここから、オリ主メインとなります。
遅い!


ただ、ウチは他とは違うとは思いますが、ご了承ください。

そしてタイトルは、あの偉大なるキング・オブ・ロックンロールの名曲から取りました。
ちなみに私はエルビスサンドが大好きです。わからない人は調べましょう。




Can't Help Falling In Love

千葉県─────田舎にある小さな商店

 

「ごめんねぇ~光輝くん。こんなケガしちゃってあんまり動けなくて。何から何までやってもらっちゃって悪いわねぇ。」

「全然気にしないでよ。捻挫なんて大変だから、座ってゆっくりしててよ。しっかし、バイクで転んで捻挫だけとか・・・マジで本当に大丈夫?骨折とかしてないの?」

「大丈夫大丈夫。骨は一つも折れちゃいないよ。それに、ツバ塗って湿布貼っといたから平気だよ。来週にはあちこち走り回る予定よ。」

「いやいやツバって・・・それに走り回るって、それいつものランニングのことでしょ?ナツばあが鉄人なのはもうわかってるけど、気を付けてよね。本当に痛かったら病院、行ってね。」

 

店内のレジカウンターで椅子に座っている、この店の店主であるナツさんこと、ナツばあと話をしながら俺は商品を棚に並べている。

年齢はよくわからない。いや女性に聞いたらいけないのだが。

ちなみに一回聞こうと思ったら、お尻の肉が取れたんじゃないかと思ってしまう程のパワーでお尻を叩かれたので、それ以降は絶対口にはしないようにしている。

 

ただ、ナツばあは明らかに、その辺りのおばあさんとは違う。体型と体力維持のためのランニングも筋トレもかかさなければ、ド派手な車やバイクにも乗るわ、それでいて大酒飲みでもあるなど、良い言い方をすれば、とてもファンキーな方だ。悪く言えば反し・・・これは怒られるからやめよう。

 

そんな派手派手しい人なのだが、この辺りの誰も彼もから慕われていると同時に、誰もナツばあに頭が上がらない。なんで皆頭が上がらないのか、本人にも他の人にも聞いても常にはぐらかされている。

噂では超大金持ちとか言われていたり、あの有名人や大物政治家とも繋がりがあるとかなんとか、色んな噂を聞いたことはあるのだが、真相はよくわからない。

 

でも、正直そんなことはどうでもいいし、聞こうとも思わない。

 

ここに来た頃から今まで、ずっと俺を可愛がってくれているため、俺にとってナツばあは、この近所で一番頼りになる、大好きなカッコイイおばあちゃんだから、それでいいのだ。

なので、俺にとっては第2の親のような人だ。

 

もちろん、この人は本当のおばあちゃんなわけではない。

ただ俺は、ここに来た頃からこの呼び方をしており、それが今も抜けないだけだ。

 

田舎の小さい店ではあるが、長年に渡りこの土地で営業をしており、俺もまた、ここに来た頃から親に連れられてよく通っており、その流れで高校生になった頃、ウチで働かない?とナツばあから提案されたことがきっかけで、今もこうしてアルバイトをさせてもらっている。なので、バイト先ながら、憩いの場でもある。

 

ちなみに、働いているが正直、この店は大繁盛している・・・というわけではない。

なのでその昔、これでお店大丈夫なの?と聞いたことがあるが、ニコニコしながらそういうことを子供が聞くんじゃないよ!と言いながらお尻を叩かれたので、それ以降は絶対聞かないようにしている。何度も言うが、ナツばあがお尻を叩く時のパワーは異常だ・・・

 

夕方ということで、夏らしく空が少しずつ紫色に変わっていく時間帯だが、店内には誰もおらず、セミの声や様々な虫の声が外から聞こえるだけで、店内自体は静かで穏やかな時間が流れている。

 

が、突如その静寂を破るように電話が鳴り、ナツばあは子機を取った。

どうせいつもの業務連絡、という名の知り合いとの世間話かな・・・そう思い仕事に戻ると、ナツばあはあっという間に電話を耳から離し、保留ボタンを押した。

 

「光輝くーん。電話ー。」

「えっ?俺に?誰から?」

 

この店にいて電話が掛かるということはよくあるが、たいていがこのナツばあ宛だ。

そのため、自分に掛かってくることはまずなく、珍しいな・・・と不思議に思い、俺に掛けてきた人について聞くと、えーっと・・・と、ナツばあはぎこちなく、その相手の名前をこう答えた。

 

 

「千束・・・?って女の子から。喫茶、リコリコ?・・・とかいうお店で、ハチミツって言えばわかるっていうけど、わかるかい?」

 

 

その名前にピンとはこなかったが、店の名前を言われた瞬間にドキリと、心臓が大きく動く。

何故ここを知っており、電話を掛けてきたのかが驚きだったが、とりあえず断らなければ。

 

「し、知らない。間違い電話「噓つかないの。」

 

俺が嘘を言っていると一目見ただけでわかったのか、ナツばあは俺をビシッと叱った。

とはいえ、電話に出たくないのだ。

 

もしこの電話に出たら、身の回りの全てに影響を及ぼす可能性があり、それこそ、俺だけでなく、周りの人の命に関わるかもしれない。

だから、出たくないと口に出したいのだが、事情が事情故、言えない。

そんなことを思っていると・・・

 

「何そんなに迷ってるんだい。ちょっと話すりゃ終わるだろ?」

「で、でもナツばあ・・・」

「それに、女の子悲しませるなんて、あたしゃそういう男が一番嫌いだよ!光輝くんをそんな子に育てた覚えはない!!ほら!いいからさっさと出る!女の子待たせたらいけないよ!」

 

そんなやり取りをしながら、目の前に子機を向けられる。

怒っているナツばあからそこまで言われてしまってはもう、嫌だとは言えない。

 

恐る恐る子機を受け取り、一つ深呼吸をし、保留ボタンを押し、耳元に子機を当てた。

俺の平穏は、終わった・・・そう思いながら。

 

 

 

「・・・もしもし?」

『あ、もしもしー!お久しぶりです!私のこと覚えてますか!?この前喫茶リコリコで会ったんですけど、覚えてますか~?』

 

電話の向こうの相手は、以前あのお店に行った時に声を掛けてきた店員さんだとわかるのに、そう時間はかからなかった。

ただ、受話器越しから聞こえてくるその声に、若干の緊張を覚える。

 

あの日以来、彼女達のことを避けていた。

 

正確に言うと、持っていこうと両親に相談を持ち掛けようとしていた矢先にあんな姿を見てしまい、そんな立場の人間、いやそもそもあの店の従業員全員含め、そういう店だということにとても驚き、そして怖くなった。

 

 

まさか、あの時の店員さんが・・・"リコリスだなんてとても信じられなかった。"

 

 

だからこそ、関わって、この先関係を持ったら、マズイことになる。

そう思い、持っていくのをやめた。話を親にする前に知れたのは幸運だったと言える。

 

そのため、この店のことを忘れようとするため、そこから数日は何もなかったかのように、いつも通りの生活を心掛けようとしてみたものの、その気持ちとは裏腹に、あのお店がそういう店だとはいえ、持っていかないことからくる責任感か、はたまた罪悪感なのかはわからないが、心のもやもやがずっと払拭出来ず、気持ちは全然晴れなかった。

 

この期間の中で唯一良かったことがあるとすれば、集中出来ず学校をサボって電車に乗ったら、連日の様々な出来事による疲労で寝てしまい、うっかり新宿まで行ってしまったけれど、そのおかげであの時たまたまそのお店で遭遇した八神さんと出会えたことぐらいか。あそこのラーメン美味しかったな・・・

 

そうして何日も過ごしている中でようやく、そのお店のことを忘れることが出来ており、思い出そうとしなければ出てこないほどだった。

 

そんな中で、まさかあちらの方から、しかもまさかのバイト先に電話をしてくるとは予想外だった。

正直、ビクビクしているのだが、ここで変に電話を切ると不審がられる。そんなことをしたらそれこそ、相手に自分の正体を言っているようなものだ。

加えて、切ったとしても、目の前でこちらをじっと見ているナツばあから説教されるのも目に見えているので、恐る恐る話を続けていく。

 

「あー、はい。覚えてますよ。えっと・・・」

『ち・さ・と、錦木 千束でーす!今度から覚えてくださいねー!』

 

その声はとても元気であり、この前俺がお店に行った時と同じようなテンションであった。

色々考えていることはあるが、まずはここから聞かなければならない。

 

「で、えーと、錦木さん・・・でいいですか?なんで、俺のバイト先知ってるんですか?」

 

その質問に対してにししと電話越しに笑った。その声だけを聞くと、リコリスとは全く思えず、可愛らしい人だと素直に思えた。

 

 

『八神さんに、調べてもらったんです。』

 

 

 

話を戻し、電話を掛ける少し前。

ミカが提案した方法、それは

 

 

─────"彼も知っている、八神探偵事務所を表向きに使う"、ということだった。

 

 

八神探偵事務所は浮気調査やペット探しなどをメインに行っている。つまり、人探しなど、何かを探すことにかけては日常茶飯事・お手の物、ということだ。

 

なので、表向きには喫茶リコリコから八神探偵事務所に、ハチミツを持ってきてもらうという約束をしてもらったのに、一向に来ないのでこの人物を探してください・・・という依頼を出した体にしておけば、クルミがバイト先を調べ、電話番号も調べたとしても、探偵としての依頼をこなしている中でバイト先も見つけた。そしてこの時間帯ならバイト先にいるのではないかと思い、電話をしてみた・・・という話に持っていけるため、向こうもまた、そうなんだと理解する他ないと考えたのだ。

 

結果は、というと・・・

 

 

 

「えーっと・・・八神さんって・・・あの、八神探偵事務所の八神さんですか?」

『そうですそうです!この前お客さんもいた時にいらしてたあの八神さんです!その時に名刺貰ってて、いつまでも来ないのでこっちも我慢の限界だったので、八神さんに依頼させていただきました!そしたらお客さんと八神さんがすでに知り合いみたいでビックリしちゃいましたよ~!』

「そうなんですね・・・探偵ってか、八神さんやっぱ凄いですね・・・」

 

見ての通り大成功だった。

ちなみに、八神達は声を出さないように裏に籠り、電話が終わるのを待っている。

 

 

 

なんてことだ・・・気を張って生活しているつもりだったのに、よりにもよってあの八神さんにつけられていたとは・・・でも、それに気付けなかったのは、人間だったからか・・・?

頭の中で色々な可能性を考えながらも、内心とても焦っている。

とはいえ、ここで慌てたらまずい。相手の思うツボにならないよう、落ち着け落ち着け・・・と頭の中で復唱し、なんとか冷静を装いながら話を続ける。

 

「それで、ご用件というのは・・・やっぱりあれですよね?」

『そうですよー!いつになったらハチミツ持ってきてくれるんですかー!私もうあれからずーーっと待ってるんですよー!』

 

電話越しに怒っている声が聞こえてくる。確かに、持っていかないことについては申し訳なさを感じていると、だから~、と付け加えて、彼女はこう言った。

 

 

『明日、持ってきてくださいね?』

 

 

「・・・ん?」

 

一瞬何を言っているのか理解出来なかったが、すぐにそれを理解し、はぁぁ!?と思わず大声が出てしまう。

 

「えっえっ!?明日ですか!?」

『そう明日!明日がダメなら明後日でもいいですよー!私はいつでもお待ちしてまーす!』

 

マジか、なんてことだ・・・これでは追い詰められているも同然だ・・・とはいえ、明日も明後日もバイトが入っているため、それを口実に断ろう・・・とした矢先

 

「あらー光輝くん。別に明日休んでいいわよー。こっちの事は気にしなくていいから行ってあげなさい!来たらバイト代出さないから!」

「ちょまっ、えっ!?」

「それに、声からしてめちゃくちゃ可愛い女の子だと思ったよ!ちょっといつそんな可愛い女の子たらしこんだのよ!まーったく水臭いわねー!早く言いなさいよー!」

「ち、違う違う!!」

 

俺のその想いを一蹴するかのように、ナツばあが強制的に休みを出してしまった。

というより、電話なのになんであたかもその会話が聞こえているかのように話しかけてくるのかが謎だったが、それは一旦置いておくことにし、電話のスピーカーを押さえていたその手を下げて、再び電話に出た。

 

『どうしたんですか?なんか叫んでたみたいでしたけど?』

「い、いえ、お気になさらないでください・・・」

 

それだけ言うと、一つ小さくため息をついて、彼女に言った。

 

「わかりました。それじゃ、明日行きますね・・・」

『なんで今ため息ついたんですかー?』

「えっ、いや、つ、ついてないですよ・・・?」

『噓つけー!今ついたでしょ!私はーっきり聞こえましたからね!』

「いえいえいえいえ!ついてないですってば!気のせいです!」

『気のせいなわけあるかー!何ですか!?嫌なんですか!?私に会いたくないんですかー!?持ってこなかったくせに偉そーに!』

「べ、別に嫌なわけでは・・・ただ、持っていかなかったことについては本当にすみません・・・申し訳ないです。」

 

俺の気苦労を完全に見透かしているのか、電話越しでも彼女の詰め寄り具合は激しく、それだけでたじたじになってしまう。やっぱりリコリス、怖い・・・会いたくないし正直行きたくない・・・

そんなことを思っていると、彼女はふふっと笑った。

 

『やっぱりお客さん、いい人そうですね。』

「えっ・・・?」

 

突然それまでの流れを切るかのように、彼女は俺を褒めた。ただ、今の話の流れから、何故自分がいい人だと認定されたのかわからない。

それについて尋ねようとしたが、彼女の素性を思い出すと、これ以上深く話をするのは止めておこうと決め、改めて明日の予定を伝えることにした。

 

「明日なんですが、学校があるので、それが終わってから行きますので、夕方頃になるかもしれませんが、大丈夫ですか?」

『やったー!ありがとうございます!いつでも大丈夫ですからお待ちしてますねー!』

「ちなみに・・・もし明日行けなかったら?」

『その時は八神さん達にお客さんのお家まで連れてってもらって、奪い・・・ゴホンゴホン、もらい行きますねー♪』

 

今奪いって言いましたよね?それ強盗ですよね?それに、楽しそうに言っていますけど、やってること脅迫ですよね?とツッコミたくなったが、ぐっと飲み込んだ。

おそらく、ここまでバレている時点で、どのみち自分に残されたのは行く、という選択肢しかないのだろう。家にまで来られてしまったら、それこそその時点で終わりだ。

 

「それじゃ明日、よろしくお願いします。」

『はーい!待ってるからねー!また明日ー!』

「っ!は、はい・・・それじゃ・・・」

 

最後のそのセリフに店員ではなく、同い年に近い女の子ならではの距離感のない言葉に思わずドキッとしてしまい、色々とドキドキした状態で電話を切った。

 

「・・・疲れた・・・」

 

彼女の正体について、こっちはもうわかっている。

ただ、彼女は自分のあのことを知っているかもしれないし、知らないが故の行動なのかは今はまだわからない。

 

とはいえ、やはりただでさえ100人いたら100人が振り向くような、とんでもないレベルの美少女だ。男故、緊張してしまうし、あまり女の子、というより学校でも友達がいないため、同い年の人と関わってきた経験自体、正直少ない。

だからこそ、電話だけでもこんなにドキドキしてしまうんだろうと、冷静ではない頭で考えていた。もちろん、このドキドキの半分以上はマイナスの感情なのだが。

 

とりあえず、明日急遽あの店に行かなければならなくなったので、家にあるハチミツの在庫を見ないといけないし、父さんにも相談しないと・・・と、色々考えているが・・・

 

「ねぇねぇさっきの女の子誰なの!?いつあんな子と知り合ったの!?やだー顔真っ赤じゃなーい!もー可愛いわねー!」

「ちょっと!?からかわないでって!」

「あー、だから電話に出たくなかったのかー・・・そーんな片思い中の女の子からの電話なんて、あたしに聞かれたくないもんねー。うんうん。」

「いやいやいやいや!?違う違う違う!!これには理由が!」

「そっかー、光輝くんにもついに春が来たかー・・・今日はお赤飯にしようかしら?久しぶりに高いワインも開けちゃおうかしらね。」

「だーかーらー!ナツばあー!違うってば!!」

 

・・・その前にまず、ナツばあの誤解を解くところからだな・・・

 

 

 

翌日、夕方

錦糸町─────喫茶リコリコ

 

「はぁぁぁぁ・・・」

 

大きなため息を一つついてしまうが、無理もない。

 

ついに、この店の前までやって来てしまった。

 

道中少し道に迷ったのだが、正直迷っている最中に、このまま迷わずに着かなければいいな・・・と考えてもいたのだが、無事に着いてしまった。

 

手にはウチで作っているハチミツの瓶を大量に入れたバッグを携えている。それとおまけに、ウチで収穫した野菜ももってけ!と父さんから言われ、中々の大荷物になってしまった。

更に、一分一秒が惜しいのか、父さんが校門まで車で迎えに来て、加えて車内で服まで着替えさせられたのは意外だったが・・・

おかげで、というかそのせいで、電車内で他の乗客から、なんでこんな高校生がこんな量の野菜持ってんだ?というような不審な目で見られており、気恥しさを感じながらここまでたどり着いた。

 

持っていくことについて相談したところ、両親があっさりOKをくれたのは意外だったけれど、そういうことはもっと早く言え!とは怒られた。

ただ、それは準備というわけではなく・・・そんな約束をしてたならもっと早く言え、という意味だった。

それ以上に、こっちのことは気にすんな!ってことであっさりOKしてくれたのが本当に父さんと母さんの優しさだし、その心意気は常に尊敬している所でもある。

けれど、相手が相手故、その心意気は今はやめてほしかった。もちろんそんなこと口には出せないのだが。

 

とはいえ、やはりここまで来たものの、入るまでに悩んでいる俺がいる。

 

あの事件があったからということで悩んでいるのは自分なのだが、この後一体何が起こるのか。それこそ、入った瞬間からお縄につくのか、見当がつかない。

もしそうでなかったとしても、どんな顔をして会えばいいのか、自分でもわからなかった。

 

なので、こうして入り口の前で悩んでいるのだが、一分一秒でも早く入って事を終わらせた方がいいのは嫌でもわかっている。が、入ったら最後。怖くて入りたくない・・・とも思っている。

そんな葛藤から、うーん・・・と、先程からドアの前を行ったり来たりを繰り返している。

 

すると、ガチャッとドアが開き、お店にいたであろうお客さんが出てきた。

 

 

「ありがとうございましたー!・・・あっ!」

 

 

そしてお店から、昨日電話してきた錦木さんが、お客さんをお見送りするために出てきたのと同時に、俺に気が付く。

この前と同じ、赤い着物のような制服が相変わらず似合っていると、その点については素直に思った。

 

「ど、どうも・・・」

「待ってましたー!さぁさぁ入って入って!」

 

すぐに錦木さんは俺の後ろに回り込み背中を押してきたため、店の中に半ば無理やり入店させられる・・・ただ、入って即お縄、というわけではなかったため、まずは一安心した。とはいえ、警戒心を緩めているつもりはないのだが。

 

そしてカウンターに強制的に座らされたので、こちらも怪しまれないよう、向こうからその話をしてこない限りは、ただの高校生のフリをし続けようと決めた。もし何かしてきたなら、こちらも対処すればいい。

そう心の中で決めると、早速持ってきた例のものを袋から取り出した。

 

「ど、どうぞ。大変お待たせいたしました・・・これがウチで作ってるものです・・・あ、後、こちら、父から謝罪の意味も込めて、ウチで作ってる野菜達です・・・み、皆さんでどうぞお食べください・・・遅くなってしまい本当にすみませんでした・・・」

 

緊張しながら話しかけ、手に持っているバッグを差し出す。そしてその中からハチミツが入っている瓶を取り出すと、皆さんじっくり眺めている。まるで、ウチそのものをチェックされているようにも感じられ、こちらまで緊張してくる。

 

「失礼、味見をしてもよろしいかな?」

「ど、どうぞ!」

 

店主であろう方から話しかけられ、もちろんOKを出す。というより、今回は味見させるために持ってきたようなものだ。

それを皮切りに、店員の皆さんもそれぞれスプーンを持ちウチのハチミツをすくい、舐めていく。

 

こちらはもうすでに全員の別の顔も知っているが、その点については一旦置いておくことにした。

何故なら、今は飲食店の人・・・としての顔だ。ここまで来たら、いきなりスプーンからお縄に持ち替えて俺を捕まえようなどまずしないはず。

 

ということはつまり、今目の前にいる方々は、人に食事に提供しているプロ、ということだ。

つまり、飲食店というプロに、生産者がたった今審査されている、とも言える。

 

更に、昨日父さんと母さんがこのお店のことを調べて、食べモグでもかなり高評価を得ているお店であり、SNSでも評価がいいと盛り上がっていた。

おまけに、この店は和菓子を提供するカフェということで、コーヒーだけでなく、和菓子も人気だという。つまり、甘味にはうるさいはずであり、ハチミツなら色々な和菓子にも使えるため、尚のこと厳しい目で見るはずだ。なので、今まさに家で作ったものを審査されているようなものなので、こちらとしても緊張の一瞬が続く。

 

「・・・うっっっっっま!!」

 

その緊張を破るかのように、錦木さんがめちゃくちゃ大きい声で叫ぶと同時に、その声の大きさにビクッ!と体が大きく反応してしまう。

 

「え!?何これなんでこんな美味しいの!?」

 

カウンター越しに顔を近づけてきた錦木さんに、若干の混乱と緊張、そして焦りが出る。というか、顔が近い・・・

 

「え、えーっと・・・これはもう一重に、育てている環境と蜂が頑張ってくれてるとしか言えないので・・・あと、非加熱処理などもしておりますので・・・」

「でも、確かにこれ普通のものより美味しいですね・・・」

「ホント。まさかこんなに美味しいとは思わなかった。」

「・・・うん、悪くないな。」

 

各店員さんの反応も上々で、俺も環境整備や収穫、瓶詰めなども行っているが、やっぱりメインは父さんだから、父さんが作っているものを褒められるのは、相手がそういう人間だとはいえ、素直に嬉しかったりする。

そんな喜びを一人噛みしめていると、店主の方が話しかけてきた。

 

「すまない。確か、真田 光輝君と言ったかね?」

「あ、はい・・・えーと・・・」

 

俺が店主さんの名前がわからず困っていると、瞬時に察してくれたのか店主のミカだと自己紹介をしてくれた。それと同時に、こちらもまた名前を名乗って自己紹介をし、向こうが手を差し出してきたため、握手を交わす。

 

「ミカさんすみません。名前とかそれ以外の情報も、多分八神さんから行ってるってことですよね・・・?」

「そうだね。ただ、私が探偵に頼むということを最終的に承諾してしまったこともあるのだが、色々なことを知ってしまったことについては申し訳ない。それに、君自身にも嫌な思いをさせてしまったことについて、店主として謝罪させてもらいたい。すまなかった。」

 

頭を下げようとしているミカさんにいえいえ大丈夫です!こちらが悪いので!と、頭を下げるのを止めさせる。

さすがにあの顔を知っているとはいえ、目の前にいる大の大人に頭を下げてもらうのは気分のいいものではない。

おまけに、今回で言えば、自分都合とはいえ、持ってこなかったのはこちらだ。その点については相手に謝らせる筋はない。

 

「ただ、それは抜きにして、本当に美味しかった。私も正直驚いたよ。出来れば、なのだけど、ぜひともウチで使わせてほしいのだが、どうだろうか?」

「えっ?・・・えぇっ!?」

 

ミカさんからのあまりにも突飛な提案に思わず驚いてしまう。嘘でしょ・・・?こんな一発で・・・?

ただ、嘘は言っていないように見えるから、本当に心からの言葉なのだろう。

 

「もちろん流石に君ではわからないことも多いだろう。だから、これについては親御さんに一度話を持っていっていただけないだろうか?」

「わ、わかりました。帰ったら親には話しておきますね・・・あ、後、ウチのものを褒めてくださってありがとうございます。」

 

だったらだったら!とその話を遮り、錦木さんがこちらに向かってきた。

 

 

「あのさ、今後も連絡すること増えるかもしれないから、TALK交換しない!?」

 

 

TALKとは、今や日本人でスマホを持っているのならば、入れていない人はまずいないであろうメッセージアプリである。

当然俺も入れているし、普通ならば、こんな美少女のTALKを交換出来るチャンスなんて、男ならばテンション爆上がりになるのは間違いない・・・のだが、俺がこの店のもう一つの顔を知っていることで、全くそうはならない。

なので、今後のことを考えると、教えない方がいいと直感が訴えかけてくる。

 

とはいえ、家もバイト先も、下手したら高校もか。おそらく、俺の生活に関わる箇所は全てバレているのだろう。

なので、ここで断ったところでどのみちどこからでも電話は掛かってくるだろうから、無駄なのもわかっている。

ただ、本当に困っているのもまた確かではある。

 

すると・・・

 

「今ならなんとっ!たきなのTALKまで教えちゃうよ〜!」

「えっ!?」

「ちょっと千束!?」

 

まさかの錦木さんの提案に、青い制服を着たたきなという、あの時錦木さんと一緒にいたもう一人のリコリスまで驚いていた。そりゃ本人の承諾取らずにいきなりそんなこと言ったらそうなるよね普通は。

俺ももちろん驚いたのだが、ただ、口を挟む間もなく、2人の話は続いていく・・・

 

「えーでもさー、たきなだって男の子の知り合いなんて全然いないじゃ~ん?」

「そりゃ、そうですけど・・・」

「だったらさ、この機会にみんなで一緒に友達になっちゃおうよ!その方が絶対楽しいよ!それに多分、男の子だけどこの子なら問題ないし!」

 

・・・なんか俺、男だけどこいつなら特に悪いこともしなさそうだし大丈夫でしょ?くらいにしか思われてない?

だんだんと自分という存在にどんどん自信がなくなっていくのと同時に、いつの間にか警戒心が薄れていることを自分でも感じていた。

 

もちろん、警戒心が完全に抜けたわけではないが、もし俺の正体を知っているのならば、もう入ってきた瞬間から拘束しようとしたはずであり、それこそ、八神さんを通して俺を拘束するチャンスだっていくらでもあったはずだ。

 

それ以前に、昨日帰ってから八神さんもグルなのかと考えたが、おそらくそれはないと踏んでいる。

 

 

何故なら・・・"あのDAが、むやみやたらと一般人に自分達のことを教えるとは思えなかったからだ。"

 

 

ひょっとしたら、八神さんをおとりに使い、八神さんも実はここのことは何も知らないのかもしれない。もし、自分達のことを教えたとしていたら、一緒に来ていたとも思うし、正直、どこかで衝突していたはずだ。

けれど、それはなかった。ということは、ただの一依頼として、八神さんに頼んだのだろうと、昨日、俺はそう結論付けた。

 

ただ、今のところそういった様子もなく、感覚として、彼女達、というかこのお店自体、敵対しようという意思も感じられない。

だから、こっちは警戒しているが、錦木さんが言っている友達になろうという言葉は、何も裏がない本当のことなのかもしれないと思えてきた。

 

・・・えっ友達になるって言った?俺と?リコリスと俺が友達になる?えっやだ断りたい・・・

 

「・・・まぁ、千束が言うなら、いいですよ?」

 

そんなことを考えていると、いつの間にかたきなという子もOKを出していた・・・えっマジで?

正直嫌なのだが、とはいえOKを出したことについて、念のため確認してみたかった。

 

「あのー、お話中すみません。本当にいいんでしょうか・・・?えーっと・・・すみませんお名前は・・・?」

「井ノ上 たきなです。貴方のことは元々八神さんからいい子だよってことは聞いてましたし、今日こうして会ってみてもそんなに悪い人じゃなさそうなので、別にいいですよ。」

 

優しく微笑みながらそう答える井ノ上さんの破壊力がヤバい。この笑顔を見せられて落ちない男なんてこの世にいるのだろうか?いや、いるわけがない。

 

というか、片や白?金?髪美少女・片や黒髪美少女の2人からTALKを交換してもらえるって、男としては最高に嬉しいシチュエーションなのは理解している。

ただ、それ以上に、この後のことを考えると、警戒している自分がいるのもまた確かなのだが・・・

 

「というわけでー、交換しよ!ね?」

 

そんな諸々あれこれ考えている中、錦木さんがスマホを渡すよう迫ってきたので、錦木さんと井ノ上さんの気持ちや、他の店員さんの目もある中で、今更NO!と言い出せる雰囲気では到底なく、ここで下手に断ったら余計怪しまれる。

 

なので、渋々ではあるが・・・この空気に押され、スマホを取り出し交換することになった。

少しするとあっという間に交換が終わり、俺のTALKに2人の連絡先が入っていた。

 

「はいこれで登録完了!これで今日からいつでも連絡出来るねー。」

「そ、そうですね。でも錦木さん、本当にいいんで「千束でいいよ。」

 

本当に交換してよかったのか、それを確認しようとした時、錦木さんはそれを遮った。その意味がよくわからず、もう一度尋ねた。

 

「えっと、どういうことですか?」

「だから、千束でいいよ!どうせほぼ同い年なんだし、そんな気遣わなくてていいじゃ~ん。疲れるし今日から友達なんだし~。だから、私も今日から光輝って呼ぶね!それに、光輝の方が一つ年下だし!あっ、でも年齢なんて気にしなくていいからね!じゃんじゃん千束って呼んでいいよ~?」

 

ニッコリと笑う錦木さんにはぁ・・・と頷くしかなかった。というか、錦木さん、年上なんだ・・・てか、今さらっと今日からもう友達って言いました?など、今言った一つ一つのことにツッコミたいのだが、先程から立て続けに起こる想定外の出来事に、深く考えられる頭はとうになく、流されるままに話を続けるしかなかった。

 

「いえいえ、年上ならなおさら錦木さんの方がいいんじゃないですか・・・?」

「そーいうとこが疲れるって言ってんのー!いい!これからは年上命令で千束って呼ぶこと!ち、さ、と!はい!」

「・・・えっと、じゃあ・・・千束、さん?」

「もー!さんはいらないってー!めんどくさいなー!千束でいいってさっきから言ってんじゃーん!」

「ですけど・・・あの・・・」

「コラー!言うまでおうち返さないよ!!ち!さ!と!はいリピートアフターミー!」

 

なんだこの公開処刑は?

誰も他のお客さんがいないのが不幸中の幸いだが、にしたって他の店員さんの目もある中でこんなことを言うのは正直、滅茶苦茶恥ずかしいが、もう言わなければ本当に終わらないのだろう・・・だから、覚悟を決めた。

 

「・・・ち、千束・・・よ、よろしくお願いします・・・」

「うん!よろしくね光輝!後、これからは敬語禁止だからね!次敬語で話しかけたら怒るからねー!」

 

そしていつの間にか千束さ・・・千束は満面の笑みを浮かべながら、俺の手を握っていた。

これが無自覚なら恐ろしいけど、同時に俺はいわゆる・・・ハニートラップ、だっけか。その可能性も0じゃないとは思うけれども、ただ、今の俺の頭ではそれを考える余裕はない。

 

こんなド美少女が、満面の笑みをこちらに向けているのだ。照れるなという方が無理だ。

思わず顔を俯け、赤くなっているであろう顔を見せないようにするので必死だった。

 

「こら千束、困ってるじゃないですか。」

 

その様子を見兼ねた井ノ上さんが千束さ・・・千束の頭を持っていたおぼんで軽くたたき、あたっという声と共に握っていた手を思わず放してくれた。

それと共に少し冷静に考えられる頭が戻ってきた。助かった・・・

 

「あ、ありがとうございます井ノ上さん。それとすみません、うるさくしちゃってて・・・ご迷惑でしたよね?」

 

いえ別に、と言いながら、井ノ上さんは俺の隣のカウンターの椅子に座った・・・えっ何で?

 

「たきな」

 

えっ?と聞き返すと、井ノ上さんはこちらに向き合った。

 

「私もたきなでいいですよ。千束だけ名前で私だけ苗字で呼ばれるのもなんか嫌ですし。」

 

一難去ってまた一難、とはこういうことか・・・

ただでさえ名前で人を呼ぶことに緊張するのに、まさかこんな立て続けに呼ぶことになるとは・・・それに、こんなドという言葉をいくら付けても足りないくらいの美少女2人に・・・

あのことさえ知っていなければ幸せだったろうに・・・もはや俺の感情はぐっちゃぐちゃだったし、もうこうなったらなるようになれ、だ。

 

「じゃ、じゃあ・・・よろしく、お願いします・・・たきな。」

「はい。これからよろしくお願いしますね、光輝。後、私も敬語いらないですから。」

「あ、は・・・う、うん。それじゃ、よろしくね・・・」

 

シンプルな挨拶をしているが、その裏ではあんなことをしている・・・とは思えないほど、目の前にいて、笑っているこの子達は天使、としか思えなかった。

そして怖いのが、この2人は顔色一つ変わらないのが怖すぎる・・・この子達男慣れしすぎでしょうよ・・・やっぱこれハニートラップなんじゃないの・・・?

 

そして、先程まで考えていた、友達になるの嫌だな・・・という気持ちは、この2人の笑顔を見たら、とうに崩壊していた。無理だってこんなの。

 

「どうぞ。」

 

そんな状況を見兼ねたのか、ミカさんが俺に冷たいお茶を差し出してくれた。

ありがとうございますと言い受け取ったが、気のせいか、若干怒っているように感じた・・・まぁ、傍から見たら大切な従業員をナンパしているようにも見えるだろうし、何よりも非常にやかましい客と思われているかもしれない。

それに気付くと、尚のこと居づらくなってきたため、そのお茶をさっと飲み干し、ごちそうさまでしたと言い、俺は家までまた片道1時間半以上の道を帰らなければならないことや、これ以上ここにいるのはまずいと思い、それじゃこれでと言い残し、慌てて席を立った。

 

「あ、ねぇねぇ光輝!この後って暇?」

 

席を立った瞬間、千束が声をかけてきた。長い道を帰らなければならないため暇ではないのだが、なんだろうと思い、まさかここで聞くのか?と、一瞬にして緊張感が襲ってくる。

どうしたの?と何事もないように答えると、意外な答えが返ってきた。

 

「今日夜からさ、ここでボドゲ会があるんだけど、よかったら参加しない?」

 

ボドゲ会?と、全く聞いたことがない言葉に思わず聞き返してしまった。

その説明もしてくれたのだが、なんでもお店を閉めた後に、ここで頻繁にボードゲームをする会、を結構な頻度で開いているとのことで、常連さんが夜な夜な集まっては楽しんでいる・・・とのことだ。

 

ただ、俺はかなり遠くから来ている。その帰り道のことや、明日はバイトもあればそもそもの学校もある。それに、早朝からの農作業という俺にとってのルーティーンワークもある。それがあるから悪いけど夜は無理だと断るとえー残念。と向こうは残念がったが、さすがにこればかりは仕方がない。

こちらとしてはむしろ、距離という意味で断れる口実が出来たので、今ほど田舎暮らしに感謝していることはない。そこで一安心していると・・・

 

「じゃあ予定言えば来れるよね!?待っててね~次の開催予定はね~・・・」

「あ、あの・・・」

「次はこことここ!どう!来れる!来れる!?来れるよね!!夜がダメなら若い子向けにお昼も時々やってるから!」

 

今後の開催スケジュールまでキラキラとした目で見せてきたが、あまり深く関係を持ちたくはないし、明日のこともどうなるかわからない身だ。

そんなわけで、また連絡するね・・・と、やんわりそこも断り、俺は店内を出た。

 

これでようやく一息付けそうだ・・・そう思っていた矢先

 

「光輝!またね!」

「帰り道、気をつけてくださいね。」

「っ!・・・う、うん。あ、ありがとう・・・またね・・・」

 

わざわざ外まで出て見送りに来てくれた、満面の笑みを浮かべている千束と、穏やかなの笑みを浮かべているたきなの顔にドキドキしながら、足早にその場から去った・・・

 

 

 

家までの帰り道を急がなければならないのだが、たった数十分居ただけなのに、あまりにも疲れてしまい、一息つきたかった。

そんな中、たまたま来る道中に公園があったことを思い出し、そこまで行こうと決めると、幸いにも一度通った道だったため、すぐに見つけることが出来た。

 

そこのベンチに座りながら、道中の自動販売機で買った水を、ゴクゴクと気持ちいい音と共に、一気に体に流し込んでいく。

店を出てからとても喉が渇いていることに気付き、500mlどころか600mlという大容量であったにも関わらず、あっという間に飲み干してしまった。

 

昨日からずっと警戒はしていたつもりだったし、正直怖かった。

しかし、まるで俺を捕えようという意思も感じられず・・・一体何がしたいのかわからない、というのが、正直な感想だった。

加えて、あんなにグイグイ来られてしまっては、途中からは話すのでやっとだった。

 

 

色々考えることはあるのだが、何よりも・・・あの千束とたきなの笑った顔・・・

 

 

 

「・・・あんなもん、反則でしょうが・・・っ!」

 

 

 

その笑顔を思い出して顔を真っ赤にしながら、手に力が思わず入り、水が入っていた空のペットボトルを握りつぶした─────

 

 

 

─────喫茶リコリコ

 

「ねー!だから言ったでしょ!あの子は悪い子じゃないって!光輝いい子だったでしょー!?」

 

その一方、喫茶リコリコ内では、計画通り進んだことに喜びつつ、千束は自分の目に間違いがなかったということを大々的に誇っていた。

 

「まぁな。千束の目に確かに狂いはなかった。とりあえず、今のところ計画が順調に進んでいるということについて、八神探偵事務所にも連絡を入れておこう。」

 

ミカはスマホを取り出し八神探偵事務所の2人に電話を掛けはじめた傍ら、たきなとクルミは先程まで来ていた光輝の様子について話し合っていた。

 

「やっぱり・・・人間ですかね・・・?」

「だろうな。あの態度は人間のものだろ。ウルトラマンがあんな器用に人間のマネ出来るとは思えないな。それに・・・」

 

ククッと、何かを我慢し笑いを堪えるクルミの様子に怪訝な表情を浮かべていると・・・

 

「それにしても、千束もたきなもあれだったじゃな~い?」

「?どうしたんですか?」

 

カウンターの隅で日本酒を飲んでいるミズキが、千束とたきなの2人に声をかけた。

あれ、と言っているが、それが何を指しているのか。そもそも、一体何を言っているのかがわからず、頭に?マークを浮かべた状態でたきなは聞き返すが、ミズキは三本指で日本酒の入ったグラスを持ち、軽くそれを回しながら、ニヤニヤしながら千束とたきなに向けて言った。

 

 

「私にさんざん言っときながら、あーんなに男の子に積極的にいくなんて、ど~こでそんなテクニック学んだのかしら~お2人さ~ん?ダ・イ・タ・ン、だったわよぉ。あー面白かった!いい肴だわー!」

 

 

そう言い、コップに残った日本酒をグイっと一気に流し込んだ。

 

とはいえ、言われた2人は?という表情を浮かべ、ミズキが何を言っているのかわからなかった。

計画通りやっていて、問題という問題も特にはなかったはず。

何か不手際があったのか?そう思い先程までの自分達の行動を思い出してみる。

 

その矢先

 

 

 

─────自分達のやった行動に恥ずかしくなり、2人もまた、光輝同様顔を真っ赤にさせた。

 

 

 

男慣れ、ではなく─────まさかの無自覚だった。

 

 

 

その夜─────光輝の家・自室

 

「・・・参ったな・・・」

 

自室で一人、俺はスマホの画面を見ながら悩んでいた。

スマホの画面に映っているTALKには、先程交換した2人の名前が並んでいる。

 

家に帰って来てから両親に本日あったことを話したところ、ウチの品物を喜んでくれて契約の話までこぎつけたことをとっても喜んでくれていた。

 

ただ、個人的には全然落ち着いていないため、夕ご飯も早々に済ませパパっとシャワーを浴びると部屋に籠り、座椅子に座り込み、ボーッと考え続けていた。

 

「・・・どーいう意図があるんだろうね、ホント。」

 

家に帰り一人冷静になって、改めてあのお店の目的を考える。

 

先程店内に居た時も考えていたが、もし俺の正体を知っているのならば、入ってきた瞬間から拘束しようとしたはずであり、それこそ事前に捕まえることだって出来たはずだ。こんな遠回りをする理由が見当たらない。

 

それに、あの2人はリコリスだ。それなりに能力があるはずだし、DAの命令なら俺を捕まえるのが当たり前だと思うのだが、彼女達はそれをしなかった。

正体が掴めないから今は泳がせているだけなのか、それとも、何か別の目的が・・・?あるいは、本当に、何も知らないのか・・・?

 

そんなことを考えていたら、急にスマホに通話が掛かってきて驚く。

普段からあまり電話が掛かってこないということもあり驚いたのだが、その電話を掛けてきた相手の名前を見て更に驚いた。

 

それは、まさに今考えていたその人。

 

「千束・・・!?」

 

普通の電話ではなく、TALKの通話機能を使って、千束が電話を掛けてきた。

電話を取らないことも一瞬考えたが、それだとまた怪しまれるかもしれない。そう考え、通話ボタンをタップし、耳に当てた。

 

「も、もしも『ちょいちょいちょいちょい、見えない見えない。スマホこっちに向けて。』

 

スマホを向けて、と言われなんのことかわからず、耳から離してスマホを見ると、画面いっぱいに千束の顔が映っており、思わず声を出して驚く。

TALKを普段そんなに使っていないからわからなかったのだが、この電話は普通の電話ではなく、ビデオ通話だった。

 

『あはは!光輝ホント面白いね!ビデオ通話も知らないのー!?』

「そ、そんなに使わないから・・・で、いったいどうしたの?」

『今日言ってたボドゲ会あるじゃん?その様子を伝えようと思ってね!』

 

こちらでーす!と、千束がスマホのカメラの位置を変え、店内全体が見えるようにしてくれると、先程まで居た店内の座敷席に大勢の大人が座っており、その中にはミカさんをはじめとした従業員の方々も座っており、一緒になって参加している。

 

はいみんな笑ってー!と千束が店内にいるボードゲームをされている方々に声をかけると、皆さん手を止め千束の方を向き、それぞれ手を上げたり声を出すなどする。

画面越しだが、何々千束ちゃん彼氏出来たのー!?や、誰だこの男はー!お父さん許しませんよー!など、冗談や茶化しを含め、色々な声が聞こえてくる。そういう冗談はやめてほしい・・・

 

その声に一つ一つ千束は答えながら、今参加している方々を紹介してくれた。

そこにいるのはこのお店の常連さんばかりであり、それぞれ職業も漫画家の方や小説家、加えて現役の警察官など、ただの喫茶店にしてはかなり色々な職業の方がおり、その幅に思わず驚いてしまう。

というか、警察の方までいるのか・・・そっちもそっちで関わりたくないのだけれど・・・

 

同時に、自分のことについても千束が紹介してくれて、画面越しだが挨拶をする。かつ、俺が今日持ってきたハチミツを食べて美味しいと言ってくださり、今度ぜひ会いたい!と言ってくれる人もたくさんいてくれたことは、生産者として素直に嬉しかった。

 

そしてなんと、今日持っていったウチのハチミツやら野菜やらが今日のボドゲ会の景品となっており、現在まさにその争奪戦になっているとのことで、そこについては苦笑いを浮かべるしかなかった・・・

 

『どうどう?楽しそうでしょ!』

「凄いね・・・こんな色々な人がいるなんて。それに、本当に楽しそうだね・・・」

『でしょー!あ、たきなちょっと来てー!』

 

千束の呼びかけによってたきなも千束の隣に来る。と同時に、改めて思う。

リコリスなのは理解しているのだが、なんで俺は今、こんな美少女とビデオ通話してるんだ・・・?

 

『こんばんは。今日はありがとうございました。』

「あ、あぁ、たきな、こんばんは。いやいや、気にしないでよ。そっちこそ夜までお疲れ様。」

『いえ、もう慣れましたから気にしないでもらっていいですよ。それはそうと、せっかくですし、お部屋見せてくれませんか?』

 

その言葉に一瞬ドキリとしたが、エボルトラスターも"ブラストショット"も、起きてる間はクローゼットの俺の服の中に常に隠してあるから、見つかることはまずない。クローゼットの中を開けろ、とは言われないだろうし、言われても適当な理由をつけて断ろう。

 

というわけで、何事もないようにスマホの内臓カメラを動かして部屋の中を見せていく。整理整頓も常に心掛けているから、特に問題ない部屋のはず・・・

 

『光輝、ギターやってるんですか?』

 

部屋に置いてあるアコースティックギターにたきなが気付き、やっているのかどうかを聞いてきた。

俺にとっては当たり前なのだが、これってそんなに珍しいものなのか?と思っていると、それを見た千束も驚きながら話しかけてきた。

 

『えーっ!ギターやってるの!すごー!何か弾けるの?』

「えっ?ま、まぁ弾けるよ。趣味って言える趣味もこういった音楽くらいしかないし・・・」

 

それを聞いた途端、千束は何かを思いついたような顔になる。

なんだろう、ものすごく嫌な予感がする・・・

 

『じゃあさ、今度ボドゲ会来る時にライブしてよ!』

「はいぃ!?」

 

その嫌な予感は当たった。

まさかボドゲ会参加するだけじゃなく、ギターを見せただけでライブやってよなんて言われるとは・・・見せなきゃよかったと後悔するも時すでに遅しだった。

とりあえず、なんとかして断らねば・・・という方向に頭をフル回転させる。

 

「いやいやいやいや無理無理!俺なんて歌もギターも下手だし無理無理!ぜーったい無理!」

『そんなの関係ないよー!ねーみんなも聞きたいよねー!』

 

千束の呼びかけに、店内にいる皆さんがはーいとノリよく手を上げる。いや一部よくわからず手上げてるでしょ絶対。

 

『だからさー、やってよ!ね!いいでしょ!?』

 

またしても逃げ場がない状況に追い詰められる。

なのでもう、この2日で何度目かの覚悟を決めるしかなくなっていた。

 

「・・・下手って絶対に言わない?」

『そんなこと言うわけないじゃん!で、どう?どう?』

「・・・はぁ。わかった。行く時に、やる。」

 

多分、俺が断れないことをこのたった一日でわかったのだろう。彼女の押しの強さに、根負けしてしまい、OKを出してしまった。

画面越しに彼女がやったー!と叫ぶ一方、こちらはため息をつく間もない。

 

話はその後も続いたが、少しした後、お客さんの誰かから千束ちゃんもたきなちゃんもやろーよ!と2人が誘われたため、とうとう電話の終わりがやってきた。

 

「あー、2人とも。俺はもう大丈夫だから、お客さんの方行ってあげてよ。あんまり俺に時間使いすぎると遊ぶ時間なくなっちゃうでしょ。俺も宿題とか色々あるから、ここで切るね。」

『わかった!ありがとー!ごめんねバタバタしてて!それじゃ、おやすみ~!』

『おやすみなさい。』

「楽しんでね。それじゃ、おやすみ。」

 

おやすみという言葉をお互いに言ってから電話を切った。

とてつもなく疲れた・・・のだが、彼女達がリコリスだと知っているのに、この電話が妙に楽しくて、心は満たされていた。

 

そして不思議と・・・変かもしれないが、もう少し話していたかったな、と、名残惜しさすらあった。

 

と同時に、やはり、彼女達は本当に、自分の事を知らないのでは?とも改めて思った。

部屋の中を見せてほしいと言われた時はドキッとしたが、それもただの興味本位からだったのかもしれない。

 

だとしたら、向こうが言ってこない限りは、あの2人の前では、ただの一高校生であろうと決めた。

 

色々目の前のやらなければいけないことや、考えなくてはいけないことはあるが、とりあえずやらなければいけないことが出来た。

 

 

「・・・ギターと歌、練習しないとな・・・」

 

 

 

─────喫茶リコリコ

 

「結局、お部屋にも特に変わった様子はなかったですね。」

「そうだねぇ。まぁ、おかげで光輝のこと少し知れたし、次のボドゲ会でライブしてくれる約束もしてくれたし、良かった、ってことで!」

 

千束とたきなは従業員用の休憩室内で、先程の電話について話していた。

 

実はこれも、元々の作戦の一つとして決めていた事であり、電話をするという体で、部屋の中にそれらしきものがあるかどうかを確認してみようという流れから起こした行動であった。

 

結果としては、先程の通りこれといって変なものもなく、部屋の中だけではウルトラマンに繋がるめぼしい情報は見つけられなかった。

 

収穫が特になかったな、と思っている中で、どうしてもたきなは千束に聞きたかったことがあり、声を掛けた。

 

「千束、もし光輝が本当にウルトラマンだとしたら・・・どうします?助けるのはもちろんですけど・・・私達は、どう接したらいいんですかね?」

 

現在、ウルトラマンの正体として、彼が最有力候補に挙がっている。

実際、今日お店に来た時も、かなり緊張しているようだった。それがこちらの正体を知っているからなのか、はたまた元々の性格からなのかはわからないが、少なくともたきなは前者のように感じた。

だからといって、こちらと敵対するわけでもなければ、そもそもの人柄も良さそうだった。彼のような人間こそ、人畜無害とも言える。

 

けれど、ひょっとしたら、彼は宇宙人かもしれない。当たり前だが、宇宙人とコミュニケーションを取ったことなどあるわけがない。

だからこそ、もし光輝がウルトラマンであり、仮にウルトラマンが擬態した人間だとした場合、どのように接していけばいいのかわからなかった。

 

だが、この考えは今日の彼の反応を見たら、ないとは思っている。他のリコリコの仲間もそう言っていたので、おそらく光輝は宇宙人ではないだろうと信じている。

 

ただ・・・そんな中でも一つ、たきなの中で確信していることがある。

 

 

─────光輝は、誰にも頼ろうとしなかった、前の私と同じだ、と。だからこそ、個人的には、彼に手を差し伸べたい。

 

 

そう考えていると、千束はあっけらかんと答えた。

 

 

「べーつに。光輝はもう友達なんだし、ウルトラマンだったとしても変わんないよ。お礼だけ言って、後は友達のまんま!これでオッケー!」

 

 

ああ、そうだ。千束は、こういう人だった。

どんな人にも、絶対に手を差し伸べる。誰の心をも溶かしてくれる。そしてこの生き方が、多くの人を惹きつけるのだと。

 

そうやって、私も助けられた。私もまた、その生き方に惹かれた一人だ。だから今、ここにいられている。

やっぱり・・・千束にはかなわない。

 

だからこそ・・・次は、私も・・・

 

そう決意を新たに、ふふっと笑う。

 

「・・・やっぱり、千束はヘンですね。」

「おいおい、バカにしてんのか~?」

「えぇ。ウルトラマンと友達になろうなんて・・・ヘンですよ。」

 

こうは言っているものの、互いに顔を見合わせて笑っていた。

考えていることは同じだ、と。

 

そんな中、今度は逆に、千束からたきなに向けて一つ質問を投げかけてみた。

 

「それよりたきな、さっきの電話、どうだった?」

 

いきなり話が変わった質問に対して少し驚くも、そうですね・・・と口元に手を当てて少し考えこむと、小さく微笑む。

 

「・・・楽しかったですよ。」

 

その答えに、千束は何も言わず、ニッと笑顔を向ける。

この笑顔だけで、先程の電話の感想はどうだったのかを、たきなもまた察した。

 

その楽しさの余韻が残る中、2人を呼ぶ声が聞こえたため、行こっか!と千束は声を掛け、千束とたきなはボードゲームを楽しむため、店内の客席へと向かっていく。

 

喫茶リコリコの楽しい夜は、まだまだ続きそうだ。

 

 

 

 

 

─────一方、光輝の部屋

 

「・・・寝れない・・・」

 

明日も朝早くから自分のやるべきことがあるため布団に入っていた。

とても疲れたためすぐに寝れると思いきや、未だに俺は長時間に渡り、寝付けずに布団の中でゴロゴロし続けている。

 

その理由は、簡単だった。

 

今日、連絡先を交換した2人の顔を、今日だけで何度も思い出す。そしてその都度・・・

 

「~~~~~~~っ~~!!」

 

言葉にならない声を上げながら、顔を真っ赤にして、布団を顔に押し付け、ずっとベッドの上で何度も何度も寝返りを打ち続けているからだ・・・

 

 

ただ、これは翌日になって気付いたのだが、いつもであれば、あの記憶を思い出すはずなのに・・・それがこの時は全くなかった。

 

それがなぜかは・・・この時はわからなかった。

 

 




やっと、関係が動き始めました。
が、ウチの子は・・・とにかくこう、あれです。


そして、あのお店の店主さんのモデルは、言わずともがなかもしれません。
個人的にも凄く好きな女優さんなので。

ちなみに、6.5話の時間軸は、この前日、という設定にしております。


そして次回、またもや閑話を挿みます。
閑話については基本何も前書き・後書きは書きませんので、お楽しみいただければ幸いです。

また、これから少しプライベートでバタバタするため更新間隔が空くと思いますが、ご了承ください。
閑話はすでに書き上げていますので、いつも通りあげられればと思います。
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