ーーー夜、それは安らぎの時間、人々は月の淡い光に癒しを感じ、温かな布団の上で眠りにつく。
ーーー夜、それは恐怖が蔓延る時間、人々は先の見えない暗闇に不安を感じ、未知なる世界に怯えて眠る。
「……」
ピンクのゴスロリを纏った少女が目を瞑り、腕を組んで佇む。
ヒューっと、涼やかな風が木の葉を揺らし、少女のスカートをなびかせる。少女の頬に冷たい風が当たるものの、少女がそれに反応する事は無い。
「……やっぱり、幻想郷じゃ無いみたいね」
暫くしてから少女は目を開け、重々しく言葉を放った。
彼女の名はレミリア・スカーレット、幻想郷と呼ばれる場所で暮らす、紅き城『紅魔館』の主である。
「お姉さま……」
そして彼女の傍らで不安そうな表情をしてレミリアを見ている少女はフランドール・スカーレット。レミリアの妹である。
「大丈夫よ、フラン」
不安そうなフランをレミリアは優しく撫で、安心しなさいと言って笑みを浮かべる。
「帰れる手段はきっとある。それを探す為にも今は頑張りましょう」
「……はい!!」
その笑みを見てフランは元気を取り戻し、帰ってやるぞと意気込んでいた。
(……にしても、本当になんでこんな事に)
フランには大丈夫と言ったものの、レミリアも何故こんな事になったのか皆目見当もついてなかった。
彼女達が幻想郷では無い何処かへ降り立ったのはつい先ほどの事だ。
紅魔館の庭で二人は一緒に散歩をしていた時の事、突然大きな地震が起こったと思えば、空間に亀裂が走ったのだ。その亀裂に誤ってフランが入ってしまい、それを見たレミリアは急いでフランを追って亀裂に入った。そして気がつけば二人は森の中に居た。
(突然の事過ぎて分からないけれど、まずは此処がどこかを調べないとね)
あの亀裂がこっちにもあれば良かったのだが、残念ながら亀裂は二人を出した後、すぐに閉じてしまった。
「フラン、とりあえず日が出る前に日光から守れそうな場所をっ!?」
瞬間、強い殺気が草木の奥から放たれた。
「お姉さま!」
「ええ、分かっているわ」
二人は警戒して殺気が放たれた方向を見た。
「ーーーチッ、人間かと思ったら同族かよ」
「……同族?」(にしても酷い匂いね)
鼻の曲がるような濃厚な死の匂い、とてもじゃないが人が放つような物とは思えない。恐らく妖怪の類いだろうと思ったレミリアだが、『同族』という言葉に引っかかった。
「ここは俺様の縄張りだ。さっさと失せろ」
現れたのは人に似た化け物だった。