1話/プロローグ
護廷十三隊。
尸魂界(ソウルソサエティ)を守る役目と、魂のバランサーの役目を担う【死神】が所属する、十三の隊で構成された組織である。
【死神】の本来の仕事は【整(プラス)】の魂葬と【虚(ホロウ)】の滅却・昇華───だが、ここ二番隊には特殊な任務…【隠密機動】が与えられる。
そんな二番隊に所属する席官である俺の名は、松井礼司秀忠。
秀忠二十席と呼ばれている。
「秀忠二十席。こちらが任務の文と、資料が入った伝令神機になります。」
隠密機動部隊の部下が、隊長より預かった文をこちらへと渡したのち、闇に姿を消す。
俺が今いるここは───尸魂界に魂葬された魂魄の集う場所、【流魂街】の北18地区。さまざまな魂が流れ着く場所で、雑多なため情報を隠しやすい。早速文を読んでみることにした。
『秀忠二十席。現世の空座町に向かい、浦原喜助の調査を行なわれたし。』
…浦原喜助、か。
彼は過去、死神を虚と成そうとする実験を行い、霊力を奪われて現世へと追放された死神だ。本来ならば縁もゆかりもないのではあるが、秀忠は思い当たるところがあった。最近、尸魂界に浦原喜助の手引きで旅禍が入ったという。
黒崎一護、茶渡泰虎、井上織姫、石田雨竜…といった名前だったか。その彼らと四楓院夜一、志波岩鷲、山田花太郎が一緒になって、朽木ルキアの処刑を止めにかかったのだそうだ。
実際は救出できず、この尸魂界から撤退したらしいが…。一昨日のことであった。
「よし、それではいくとするか。」
地獄蝶を用意し、現世へと赴く。穿界門を潜り、断界を駆け抜けた。
「ここか、現世の大霊地。空座町とは。」
秀忠は早速伝令神機を起動して、浦原喜助の情報を確認する。そこに書かれていた浦原喜助の所在は…秀忠の懐疑心を強く煽った。
「浦原、商店?ちょっと露骨すぎやしないかな。」
夕方の浦原商店に、一人…招かれざる客が来店する。死神、松井礼司秀忠であった。
「少し邪魔しますよ。」
だが、死神は驚愕する。なんせ、そこにいたのは"罪人"。過去、尸魂界から追放された者だったからだ。
「握菱鉄裁(つかびしてっさい)!?どうしてここに。いや、浦原さんと一緒に逃げたんでしたっけ。確か。なら一緒にいるのも無理なことはないか。」
「…わ…!し、知らない死神の人…!」
「…少し下がっていなさい…。うるる殿。」
秀忠が浦原商店に赴いて出会ったのは、浦の字を中央に書いた黒いエプロンを着る男性。握菱鉄裁であった。うるると呼ばれた───店員らしき少女が店の奥へと向かう。剣呑な雰囲気を隠しもしない鉄裁に、秀忠は軽く話しかけた。
「お久しぶりですね。元鬼道衆総帥・大鬼道長。握菱鉄裁…いや、鉄裁さん。以前、逃げ切られて以来ですね。」
「私を捕まえにきたのですかな?秀忠殿…。左様ならば、大人しく捕まるわけにはいきませぬが…。」
鉄裁は101年前の元鬼道衆総帥・大鬼道長であり、禁術使いの大罪人。過去は秀忠も鉄裁の追跡に参加し、追い追われるの立場であった。
「今回は別件です。浦原さんの調査をしろって言われましてね。始めは聞き込みって決めてます。」
「…穏便なやり方ですね。」
「色々積もることもありますが、仲良くやりましょうよ。」
「…奥の方に来ていただきたい。」
語られたのは衝撃の真実であった。朽木ルキアの身体に崩玉…端的に言えば周囲の者の願いを叶える力を持つ石が埋め込まれていたこと。その朽木ルキアが処刑されるので、浦原喜助が一護達、【旅禍】を送り出したことだ。
処刑される際の罪としては、死神代行を勝手に生み出してしまったこと…とされているが、鉄裁が言うには、ルキアの中にある崩玉の方に目がつけられたのだと言う。
「結果として、朽木ルキアが巻き込まれた…と。酷いことしますね、浦原さん。」
「崩玉を隠蔽するには必要なことなのです。」
「朽木家の人間を隠れ蓑にするなんて、とんでもないことですよ。」
「機が訪れたのだと思われますぞ。朽木ルキア殿は死神ですが、こちらが作った専用の義骸に入れれば人間に限りなく近くなり、隠れ蓑としては適任なのです。いざという時の死神代行も、あの青年に担っていただきました。」
義骸とは、死神が休息する際に入る人間そっくりの仮初の体のことで、浦原喜助はこれにも細工をし、ルキアが義骸に入り続けば、ルキアが死神から人間へと変化するようにしてあったらしい。
「あー、そうそう。黒崎一護。彼もとんだとばっちりですよ。人間を死神代行として虚と戦わせるなんて、どうかしてる。」
「あくまでも、彼の意思で決めたことです。」
「彼は高校生なんでしょ?人間の尺度で子供ですよ。」
「…話すことは話しました。お引き取りを、秀忠殿。」
鉄裁は秀忠を追い返そうとする。
「まぁ、ありがとうございましたよ。色々情報いただけてありがたいです。でも…人間の子供だけじゃあ双殛の警備をしてる隊長とは戦えませんよ。」
双殛。ルキアの処刑が行われる地である。鉄裁としては、黒崎一護の決心を子供の暴走の様に思われたと感じ…つい、彼が尸魂界に勝つための勝算を口に出してしまった。
「…いま、四楓院殿が双殛の地下で彼に卍解を身につけさせています。興味がおありですか?」
「え、夜一さんも居んの!?…つか、卍解…?俺は席官になって50年経ってるけど、身につけられませんでしたよ。始解から1年も経ってないんでしょ?黒崎一護くんは。」
「…こちらとしては、尸魂界へのツテを繋ぐために…具体的な座標をお伝えすることもやぶさかではありません。」
「…卍解が身につけられるなら、興味ありますね。」
卍解。斬魄刀戦術の奥義。使用できれば、自身の戦闘力を5倍から10倍に高めることができるという…。使えれば、秀忠の将来は安泰だ。
「あーだめっすよ。鉄裁サン。今、あそこへ行くのは難しいっス。秀忠サンの霊圧で一護サン達の場所がわかっちゃうかも知れないでしょ?」
「…店長!」
奥から現れたのは、前十二番隊隊長兼技術開発局初代局長…浦原喜助だった。黒いラインの入った帽子を好み、目元を隠した伊達男。ご近所ではミステリアスな店主と好評なその容姿は、なるほど燻し銀な味がある。
「浦原さん。お久しぶりです。」
「秀忠サンお久しぶりです。毎度のこと、席官らしくなくて助かります。…鉄裁サン。後はアタシが…。」
「委細承知…。」
鉄裁が店の奥の方へと下がっていく。浦原と秀忠は一対一で対面した。浦原喜助は探るような目つきを隠さない。
「隠密機動の成果は、重要な情報を持ち帰ることですから。仲良くしておいて損はないでしょ?そんな怠けてる風に言わないでくださいよ。」
秀忠は臆すことなく、先程の浦原の発言に軽口で返した。浦原は怒気すら感じられるほどの神妙な表情こそしているが、それがただの演技であることを見抜いたからである。それが事実であると示すように、浦原の顔面は花が咲いたような笑顔へと変わる。陽気な遊び人気質が彼の本性だ。
「や〜だな〜。褒め言葉っスよ。…ところで秀忠サン。アナタは確か地獄蝶持ちっすよね?」
「そうじゃないとここには来れませんからね。」
「頼みがあるんス。卍解を教えるンで、一護サン達の助けになってくれないっスか…?」
浦原喜助は頭を下げる。本来、護廷十三隊に所属する死神と、罪人である浦原喜助は、お互いに協力することなどほぼ不可能であった。だが、秀忠は過去…101年前の事件の際に、二番隊の隊長であった四楓院夜一の部下であったため、協力を頼めると考える浦原。
「卍解を教えていただけるんなら、構わないんですが…。先払いでお願いできますか?」
「…わかりました。ただ、1日でお願いしますよ。夜一サンから連絡が来て、ルキアさんの処刑が明日になったんで…。」
内心としては、こんなにあっさり協力関係を結べたことに驚愕した浦原であった。
「あ、明日ァ!?」
秀忠は驚愕する。
「それじゃ、早速始めましょうか…。秀忠サン。こっちっす。ちょいと地下の方に…。」