第11話
仮隊長制度とは、山本元柳斎が特例で発行した制度であり、実態としては現行の隊長職と同じ権限が仮隊長に与えられ、仮というのはほぼ名前だけの制度となっている。
秀忠は3番隊隊舎へと挨拶回りを行っていた。
時刻は日が登り切った頃。ちょうど正午である。
「失礼します。仮隊長に任命された秀忠です。皆様の仕事の助けになれるよう、頑張りたいと思います。吉良副隊長、こちらが正式な任命書となります。」
「…了解致しました。これからよろしくお願いします。秀忠隊長。」
3番隊副隊長の吉良イズルが秀忠を隊長と認める。
秀忠は安堵した。
聞くところによれば、吉良イズルは3番隊の元隊長であった市丸ギンに対して大きな尊敬の念を抱いていたらしい。
すんなりと隊長として認めてもらえてありがたいと感じる秀忠だった。
「しかし…秀忠隊長、斬魄刀はどちらへ?なぜ身につけておられないのですか?」
「ああ。…来い、白染。」
「…え?」
吉良は目を見開いた。
虚の気配を薄く漂わせる白い髪の少女が、何の前触れもなく視界の中に出現した。
思わず刀を触る吉良。
「大丈夫ですよ。彼女は私の斬魄刀です。現在はあまり力が練れてなくて、屈服出来てないんですが…。」
「なっ…どういうことなんですか?」
「実は…。」
秀忠は吉良に自身の斬魄刀と卍解のことを話した。
吉良としては信じ難い話であったが、先日友人であり、卍解も使える阿散井恋次が酒の席で語った経験談や、自身の斬魄刀の性格の奔放さと比較して納得した。
「斬魄刀は気性が基本荒いですからね…納得しました。」
「なっ、私の気性が悪いっていうのかい!?」
「まぁまぁ白染…。吉良副隊長、話を聞いてくださってありがとうございました。できる限りすぐに卍解を身につけ、常務に支障がないように励みたいと思います。」
(…物腰柔らかな人だなー。)
吉良は他の隊長のことを思い出していた。
ここまで波風立てそうにない性格の隊長は、以前の演技をしていた状態の藍染惣右介ぐらいのものだろう。
その3日後、尸魂界に黒腔が開く。
突然のことであったが、隊長格全員に連絡が行き渡り、隊長達が黒腔の前に集合する。
秀忠もそのうちの一人であった。
「…藍染、惣右介…!!」
「な、なぜ単騎でここに…?」
隊長、副隊長が勢揃いする中、藍染は余裕そうだった。
なぜ今このタイミングで、その姿を現したのか───。
「隊長副隊長諸君、集まっていただきありがとう。」
「…今ここに来ても良いのか?わしの卍解でまた退路を燃やしてやっても構わんのだぞ?」
「ここにいる私は、鏡花水月でそう見せているにすぎない幻覚だ。言っただろう?鏡花水月の能力は、五感の支配だと…。今日、君たちにはメッセージを伝えにきた。」
「……。」
山本元柳斎は黙り込む。
五感を支配する鏡花水月の能力ならば、確かにできることである。
藍染自身の霊圧も感じ取れない。
「メッセージ…!?」
「ああ。私は今から、君たちの正当性を問おう。」
「ふざけるな!お前達の方こそ…正当性なんかないだろうに!!」
10番隊隊長、日番谷冬獅郎は藍染の物言いに紛糾する。
彼は朽木ルキア処刑の際に、藍染が怪しいと踏んでその影を追っていたのだが、親友である雛森桃が藍染に利用された挙句斬魄刀で刺されてしまい、それ以来強烈な憎しみを藍染へと向けるようになった。
「私から言わせれば、霊王という犠牲の上に成り立っている世界などは必要ない。」
「霊王様が…犠牲に…!?」
七番隊隊長、狛村左陣はその表情に驚愕を滲ませる。
山本元柳斎は眉を顰め、その歯を強く食いしばった。
「…藍染惣右介。貴様は一体、何者じゃ。」
「新たに天に立つものだ。わかるだろう。私は霊王に頼り切ったこの世界を終わらせる。」
「それがどのようなことを意味するか…わかっておるのか…!!」
「滅却し、分ける力を持つ滅却師の力、喰い、混ざる力を持つ虚の力…。世界の形は今のままであるべきだが、私は霊王を解放することを考えている。」
「…そのための、崩玉か。」
「然り、だ。死神と虚の垣根を越えれば、それこそ世界を分けるほどの力を手に入れることができるだろうと私は考えた。」
藍染と元柳斎が話している内容の全容を理解できる死神はいなかった。
困惑が広がる。
「…霊王に成り代わろうというその不遜、ここで誅してやれんのが残念でならん。」
「霊王の屍の上に成り立つ死者の国、尸魂界。腐った土台を私が全て破壊する。それを邪魔するというのなら、こちらとしても万全の準備で迎え討とう…以上だ。」
藍染惣右介の鏡花水月による幻覚が消え、大虚達は虚圏へ戻り、黒腔も閉じる。
隊長達の胸の中には疑問ばかりが残った。
王族特務、0番隊。
尸魂界の中央に構える死神達の集う場所、瀞霊廷の上空に位置する霊王宮にて。
「……なるほどのう。あれが霊王、お主が待つ者か。」
カーテンで閉められ、体を隠された霊王の前で0番隊の構成員の一人…"まなこ和尚"、兵主部一兵衛があぐらをかく。
彼は尸魂界全てのものに名前をつけたという偉業を成し、0番隊となった者である。
「わしは何も言わんし、何か干渉することもない。約束しよう。奴が死神の枠を越え、神にならんと足掻くとしても、何もせず見守ろうとも。」
静寂。
霊王宮に霊王自身の声が響くことはない。
「お主が望んだ世界が、お主を迎えるのか…この目でしっかりと確かめさせてもらおうぞ。」
時は流れ…銀城と月島の引き渡しの時刻となる。
選出された人員は、10番隊から日番谷冬獅郎、松本乱菊。
3番隊から松井礼司秀忠、吉良イズル。
11番隊から斑目一角、綾瀬川弓親。
6番隊から阿散井恋次と、七人の猛者達が涅マユリから説明を受けていた。
「いいかネ?お前達の身体には発信機や解析機が多量につけられている。七人の大人数にした以上、簡単に死ぬんじゃないヨ?出来るだけデータをとってくるんダネ。」
「え、えーと。俺たち、尖兵ってことですか…?」
「浦原喜助を解析してみた結果、奴が手を出している学問は600以上にも及んでいることがわかった。そのデータですら古い文献故に、お前達には今浦原喜助が愛用しているような罠を調べて欲しいのだヨ。」
涅マユリが言うことは単純なことで、昔の書籍が信頼できないので対策ができなかったと言うことだった。
秀忠の顔はサッと青ざめる。
「当然、浦原喜助の過去のデータからやりそうな罠に対する対策は行ったがネ。それでも足りない…そう私は考えている。」
「わかった涅。俺たちに任せてくれ。どうしようもないんだな?」
「呼び捨てはやめてくれヨ。日番谷隊長…。今の状況で君たちを失うわけにはいかない。データの解析は全力で行わせてもらうヨ。」
隊長同士が認識をすり合わせる影で、副隊長や隊士達は涅マユリの変貌に対して恐れ慄いていた。
「なんか、涅隊長…やけに協力的じゃねぇか…?」
「そうねぇ、イズル。あんた何か心当たりある?」
「乱菊さん。僕は3番隊ですよ…?…隊長が五人も減った現在の尸魂界の戦力を冷静に判断しているのだろうとしか。」
「涅隊長は研究第一だし、ここまでになると総隊長殿に真面目にやれとか言われたんじゃないかな。」
「俺は弓親の意見に賭けるぜ。あの涅隊長が何のことも無しにここまでやるとは思えねぇ。」
「聞こえてるヨ、お前達。」
そうこうしているうちに、穿界門が開く。
ついでに、と、涅マユリはつけ足した。
「最近は破面発生の話もよく聞く。襲われても捕縛できるように気をつけたまえヨ。生きたまま連れ帰ってきてくれた方が、データを取れるからネ。」
現世に到着した一行は、目の前の景色に驚きを隠せないでいた。
空座町の至る所で…大きな霊圧のぶつかり合いが起きている…!
「…な、なんで…あんなに破面が…!」
「最上級大虚ほどの霊圧が…6体も…!?」
第1十刃(プリメーラ)コヨーテ・スターク。
第4十刃(クアトロ)ウルキオラ・シファー。
第6十刃(セスタ)グリムジョー・ジャガージャック。
第7十刃(セプティマ)ゾマリ・ルルー。
第8十刃(オクターバ)ザエルアポロ・グランツ。
第10十刃(ディエス)ヤミー・リヤルゴ。
彼ら破壊の化身達を何とか押し留めようと、死神と完現術者達が手を合わせて戦っていた…!
「なんや、随分と遅いねんな。浦原さんがよこした"増援"。」
「!───お前達は…仮面の軍勢!?何故此処に…今の状況は何だ!」
「話は後にしましょか。10番隊隊長さん。今は力を合わせて───虚退治や。」
日番谷冬獅郎の問いかけに飄々と返す謎の男、平子真子。
虚の仮面を被り、秀忠達へ、にたりと笑顔を向ける。
「頑張んないと、ぎょーさん人が死ぬでぇ。」